説明

穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法、並びに穴あけ工具の製造方法および穴あけ工具

【課題】切りくず処理性および加工穴の加工精度に優れ、切れ刃を再研磨する度にニックを研削加工する必要のない、工具寿命に優れた穴あけ工具を提供することを目的とする。
【解決手段】
切れ刃部15がダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体等の超高圧焼結体から形成された、穴あけ工具200に取り付けられるチップ100の製造方法において、この穴あけ工具200に取り付ける前におけるチップ100の切れ刃部15の一部を、ワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、切れ刃部15からすくい面11方向に向かって切り欠いて、チップ100の厚さD方向に貫通しつつすくい面11方向にこの厚さDよりも長く伸びるスリット10を形成する工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法、並びに穴あけ工具の製造方法および穴あけ工具に関し、特に、深穴加工等に好適に用いられるドリルに接合されて使用されるチップの製造方法、並びにドリルの製造方法およびドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
穴あけ工具の刃部材料としては、超硬合金、サーメット、セラミックス等が一般的であるが、近年、より硬い材料をより早く加工したいというニーズから、極めて硬度の高いダイヤモンド焼結体や立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体が使用されるようになってきた。特に、アルミニウム合金や銅合金の加工においては、超硬工具では刃先に加工材料が溶着しやすく高精度の仕上げ面を得ることができないため、それらの加工材料と溶着しにくいダイヤモンド焼結体が適用されている。また、焼入鋼や鋳鉄等の仕上げ加工においては、ダイヤモンド焼結体より鉄と反応しにくく硬度が高い立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体が適用されている。
一方、アルミニウム合金、鋳鉄等を材料とする自動車のオートマティックトランスミッション部品であるコントロールバルブボディのスプール穴やエンジンなどの製造工程においては、異物の混入を回避する必要性および切りくず処理向上の観点から、穴あけ加工の際に生じる切りくずの細分化が強く要求されている。
この点、従来より、切りくずを分断するための手段としてドリル先端部の切れ刃の一部を切り欠いてニックを設けたニック付ドリルが知られている。このニック付ドリルは、通常、ニックが切れ刃から逃げ面に沿って設けられているため(図7参照)、ドリル先端部の切れ刃を再研磨する場合には再度ニックを研削加工しなければならず作業が煩雑であった。そこで、この問題を解決するために、ニックが切れ刃から溝面に沿って連続的に設けられているニック付ドリルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭61−120410号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ダイヤモンド焼結体や立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体を刃部材料とする場合には、その硬度が非常に高いことから、ニックの研削加工には長時間を要し、また、通常の研削加工では微細な形状のニックを所定位置に正確に加工することは困難であるという問題があった。さらに、かかる場合ダイヤモンドホイール等の高価な砥石を使用しなければならないにもかかわらず、研削比が極端に低いので、被削材より砥石が削れられる状態になってしまう恐れもあり、砥石寿命が短くなってしまうという問題もあった。
また、上記特許文献1の発明では、刃部を含むボデーからシャンクまでの工具全体が同一材料からなるソリッドドリルであることから、ダイヤモンド焼結体や立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体により切れ刃を形成すると、材料費が非常に高いことから製造コストが高くなってしまうという問題があった。また、ニック溝が、切れ刃から切屑排出溝の溝面に沿って、切屑排出溝と平行に連続して延びるように設けられることから、ニック溝を加工するのに長時間を要し製造効率が極めて悪いという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、切りくず処理性および加工穴の加工精度に優れ、短時間かつ低コストで製造することができ、切れ刃を再研磨する度にニックを研削加工する必要のない、工具寿命に優れた穴あけ工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
請求項1に記載の発明は、略平板状をなし、この上面に設けられたすくい面と、このすくい面と交差する側面に設けられた逃げ面と、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に設けられた切れ刃部とを有し、この切れ刃部がダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体等の超高圧焼結体から形成された、穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法であって、この穴あけ工具に取り付ける前におけるチップの切れ刃部の一部を、ワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、切れ刃部からすくい面方向に向かって切り欠いて、チップの厚さ方向に貫通しつつすくい面方向に伸びるスリットを形成する工程を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、硬度の極めて高い被削材も加工することができ複雑、微細な形状の加工も容易に行うことができる放電加工によって切れ刃部にスリットを形成することから、従来の研削加工ではできないような複雑、微細な形状のスリットを形成することが可能であり、切れ刃部が超高圧焼結体から形成されたものであっても、スリットの幅、長さ、位置などを自由に設定することができ、切りくず分断のためのスリットを短時間で能率よく形成することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法により製造された穴あけ工具に取り付けられるチップを、穴あけ工具本体の先端部に形成されたチップ取付座に載置し、スリットが工具先端側から後端側に向かって伸びるように配置する工程と、チップ取付座に前記穴あけ工具に取り付けられるチップを接合する工程と、この接合された穴あけ工具に取り付けられるチップの前記切れ刃部を研磨して切れ刃を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、チップ取付座に接合する前におけるチップの切れ刃部にあらかじめスリットを形成することから、切りくず分断のためのスリットを所望の位置および形状に、正確かつ容易に形成することができる。そして、チップ取付座に接合する前におけるチップの切れ刃部に、あらかじめワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工によりスリットを形成することから、製造工程が簡略化され製造効率の向上および製造コストの縮減を図ることができる。また、このスリットを工具先端側から後端側に向かってすくい面に沿って伸びるように配置してチップを接合することから、切削を行った後に切れ刃を再研磨する場合であっても改めてスリットを加工形成する必要がないので、この製造方法によればスリットを所望の位置および形状に安定させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の穴あけ工具の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、切れ刃部の一部を切れ刃部からすくい面方向に向かって切り欠いて、チップの厚さ方向に貫通するとともにすくい面方向に伸びるスリットが形成されていることから、スリット箇所における切れ刃がスリットの深さ即ちチップの厚さの分だけ後退する。この切れ刃の逃げ角方向から見た後退量が切取り厚さよりも大きいと、そのスリット箇所は切削に関与しないことから、切りくずが分断されることになる。ここで、この穴あけ工具には、通常2枚のチップが互いの切れ刃部が工具回転軸の対称位置となるように取り付けられる。そして、これらの切れ刃部の夫々に1以上形成された各スリットは、チップ取付状態において回転軸に対して非対称になるように互いに半径方向にずらして配置されるとともに、それらの回転軌跡がそれぞれ異なるように構成される。よって、このスリット箇所での削り残し部分は、半回転後に反対側にある切れ刃によって1枚刃で切削されることになる。
【0011】
このような切りくずの分断により、穴あけ深さが増しても切りくずを容易に排出することができ、幅が狭い切りくずは容易に弾性変形するので、切りくずによる引っかき傷やむしれ跡が残りにくく、穴内面の粗さやうねり等の仕上げ面の品位に優れる。また、穴あけ深さが増しても切りくず詰まりを起こすことがないので切削抵抗やトルクが増大、変動することがないため、穴出口側に発生するバリの抑制を図ることができるとともに、切れ刃の摩耗や欠損が少なく、工具寿命に優れる。さらに、被削材の加工部分が狭い場合であっても、切りくずの微細化により被削材への切りくず残留を防止することができるので、穴あけ加工後にエアー等で切りくずを洗浄する必要が生じて作業が煩雑になるという問題もない。
【0012】
また、このスリットは工具先端側から後端側に向かってすくい面に沿って伸びるように形成されることから、切削を行った後に切れ刃を再研磨する場合であっても、改めてスリットを加工形成することなく新品時と同様の性能を得ることができるので、作業効率に優れる。そして、切れ刃を再研磨する度にスリットを再成形する必要がないため、スリットの位置および形状を常に安定させることができる。
【0013】
さらに、切れ刃部が超高圧焼結体から形成されることから、耐摩耗性が高く、極めて優れた工具寿命を得ることができる。特に、切れ刃部がアルミニウム合金や銅合金と溶着しにくいダイヤモンド焼結体から形成される場合には、これらを被削材とする穴あけ加工において高精度の仕上げ面を得ることができる点で有用である。また、切れ刃部が鉄と反応しにくい立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体から形成される場合には、焼入鋼や鋳鉄等の仕上げ加工において高精度の仕上げ面を得ることができる点で有用である。また、チップを切れ刃として工具本体に接合した穴あけ工具であることから、ソリッドドリルに比べ製造コストが低く、切れ刃が超高圧焼結体からなる穴あけ工具を安価に提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法によれば、切れ刃部が超高圧焼結体から形成されたものであっても、切れ刃部に従来の研削加工ではできないような複雑、微細な形状の切りくず分断のためのスリットを短時間で能率よく形成することができるという効果を奏する。
【0015】
請求項2の穴あけ工具の製造方法によれば、切りくず分断のためのスリットを所望の位置および形状に、正確かつ容易に形成することができ、製造効率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【0016】
請求項3の穴あけ工具によれば、切りくず処理性および加工穴の加工精度に優れ、短時間かつ低コストで製造することができ、切れ刃を再研磨する度に切りくずを分断するためのスリットを再度研削加工する必要のない、工具寿命に優れた穴あけ工具を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法および穴あけ工具の製造方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法により製造されたチップの一実施例に係るチップを示す斜視図である。そして、図2は、本発明の穴あけ工具の製造方法により製造された穴あけ工具の一実施例に係る図1のチップが接合されたドリルを示す正面図であり、図3はその左側面図、図5はその刃先部分の拡大図である。また、図4(a)は、図2に示すドリルのチップ取付前におけるチップ取付座の斜視図であり、図4(b)はそのチップ取付後におけるチップ取付座の斜視図である。さらに、図6は、本実施例に係るドリルの切りくず分断機構を説明する模式図である。
【0018】
本実施形態に係る穴あけ工具に取り付けられるチップおよび穴あけ工具の製造方法においては、先ず、ダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体等の超高圧焼結体から形成された円盤状のブランクスを作製する。
そして、この円盤状のブランクスからワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、略平板状に切り出し、その上面に設けられたすくい面11と、そのすくい面11と交差する側面に設けられた逃げ面12との交差稜線部に、切れ刃部15を有するチップを得る。
こうして得られたチップの切れ刃部15の一部を、ワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、その切れ刃部15からすくい面11を構成する上面方向に切り欠いて、チップの厚さD方向に貫通しつつすくい面11方向に伸びる、クシ歯のような切りくず分断のためのスリット10を1または2以上形成することにより(図1参照)、ドリルに取り付けられるチップ100を製造する。
【0019】
次に、ドリル本体の先端部における側部に設けられたドリル回転軸に対して対称になるように互いに配置された一対のチップ取付座20,20に(図3参照)、上述のようにして製造された2つのチップ100,100を、これらチップのすくい面11,11をドリル回転方向側に向け、逃げ面12,12をドリル先端側に向けるようにして載置し(図4参照)、これらのスリット10,10を工具先端側から後端側に向かってすくい面11に沿って伸びるように配置して(図5参照)、ろう付け等により一体的に接合する。
そして、この接合されたチップ100,100の各切れ刃部15,15を研磨して一対の切れ刃15,15を形成することによりドリル200を製造する(図2参照)。
【0020】
このようにドリル本体200のチップ取付座20に接合する前のチップ100の切れ刃部15に、ワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、あらかじめスリット10を加工形成することから、従来の研削加工ではできないような複雑、微細な形状のスリットを形成することが可能であり、切れ刃部が超高圧焼結体から形成されたものであっても、スリット10の幅W、長さL及び位置などを自由に設定することができる。したがって、切りくず分断のためのスリット10を所望の位置および形状に正確かつ容易に能率よく形成することができることから、研削加工により切りくず分断のためのニックを設けた従来のニック付ドリルに比べ、製造工程が簡略化され製造効率の向上および製造コストの縮減を図ることができ、切りくず処理性および加工穴の加工精度に優れたドリルを短時間かつ低コストで提供することが可能となる。
【0021】
ここで、切りくず分断のために設けられるスリット10の形状とその位置は、加工穴の表面粗さや真円度、穴出口に発生するバリの抑制などに対しても敏感に影響してくるものと考えられる。この点、本実施形態に係る製造方法よれば、チップ取付座20に接合する前のチップ100の切れ刃部15に、あらかじめワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工によりスリット10を形成するので、スリット10を所望する位置および形状に正確に加工形成することが可能であり、安定した性能を有するドリルを量産することができる。
【0022】
以下、本発明の穴あけ工具の一実施例に係るドリルについて、図面に基づいて説明する。
本実施例に係るドリル200は、図2および図3に示されるように、略棒状をなし、先端部に一対のチップ取付座20,20を有し、外周面に先端から後端側に向けて伸びる切屑排出溝21を有するボデー22と、このボデー22の後端に一体的に形成されるシャンク23とから構成されている。
そして、ドリル本体200の先端部における側部においてドリル回転軸に対して対称になるように互いに配置された一対のチップ取付座20,20に、切れ刃15,15として2枚のチップ100,100を一体的に接合した上で、ドリル本体200を回転させつつ軸方向に前進させて使用される。
【0023】
一方、チップ100は、図1に示されるように、略平板状をなし、その上面にすくい面11と、このすくい面11に交差するチップ側面に逃げ面12と、この逃げ面12に交差するチップ側面にマージン13とから構成されている。この逃げ面12には角度ρの逃げ面加工が施されている。また、このすくい面11をドリル回転方向側に向け、この逃げ面12をドリル先端側に向けるとともに、このマージン13をドリル外周側に向けるようにしてドリル本体200に一体的に固着されて、これらすくい面11と逃げ面12との交差稜線部に切れ刃15が形成され、これら逃げ面12とマージン13との交差稜線部に外周コーナー16が形成されるとともに、これらマージン13とすくい面11との交差稜線部にリーディングエッジ17が形成されている。
そして、2枚のチップ100,100がドリル本体200のチップ取付座20,20に接合され(図4参照)、切れ刃部15,15がドリル回転軸の対称位置となるように設置されて使用される。
つまり、このドリル200は2枚の切れ刃15,15により穴あけを行うことになる。
【0024】
このチップ全体100または少なくともその切れ刃部15は、硬度の極めて高いダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体等の超高圧焼結体から形成される。
したがって、切れ刃15の耐摩耗性が高く、極めて優れた工具寿命を得ることができる。これら超高圧焼結体のうち、特に、ダイヤモンド焼結体は、アルミニウム合金や銅合金と溶着しにくいため、アルミニウム合金や銅合金の加工において仕上げ面粗さ等の加工穴の加工精度に優れる点で有用であり、立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体は、鉄と反応しにくいため焼入鋼や鋳鉄等の仕上げ加工において高精度の仕上げ面が得られる点で有用である。また、チップ100を切れ刃としてドリル本体の先端部に接合した付刃ドリル200であることから、工具全体を超高圧焼結体から形成する必要がないので、ソリッドドリルに比べ製造コストを低く押さえることができる。
【0025】
また、このチップ100の切れ刃部15には、その一部を切り欠いてなる、ドリルの軸方向の切取り厚さhよりも深く、すくい面11方向に長く伸びるクシ歯のようなスリット10が形成される。このようなスリット10を形成した場合、スリット箇所10におけるすくい面11と逃げ面12との交差稜線部(切れ刃)15は、チップの厚さ、すなわち、スリットの深さDの分だけ後退する。その切れ刃15の逃げ角ρ方向から見た後退量eが切取り厚さhよりも大きいと、そのスリット箇所10は切削に関与しないことから、切りくずが分断される。そして、これらのスリット10がチップ取付状態において回転軸に対して非対称になるように互いに半径方向にずらして配置され、それらの回転軌跡がそれぞれ異なるように構成されていることから、このスリット箇所10での削り残し部分は、半回転後にお互いの反対側にある切れ刃15によって1枚刃で切削される。つまり、これらのスリット部10を除く切れ刃15の1刃あたりの送り量は半回転当たりの送り量f/2となるのに対し、スリット部10の1刃あたりの送り量は一回転当たりの送り量fとなる。また、スリット部以外の切れ刃15における切取り厚さhに対し、スリット部10の切取り厚さはその2倍の2hとなる。
【0026】
このように本実施例に係るドリル200によれば切れ刃15にスリット10が形成されていることから切りくずの分断がおこり、この切りくずの分断により切削に伴い発生する切りくずが細かくなるので、穴あけ深さが増しても切りくずが滑らかに流出されて、切りくずが穴内面に当たって流出が妨げられることもなく、切りくずの厚さが増加したり、形状が変化したりすることがない。そのため、軸方向の切込み深さや回転当たりの送り量等を増大しても切りくず詰まりを起こすことがないので加工精度の良い加工穴を得ることができ、加工能率の向上を図ることができる。また、この細分化された切りくずは撓みやすくなるので、切りくずによる引っかき傷やむしれ跡が残りにくく、穴内面の粗さやうねり等の仕上げ面の品位に優れる。そして、穴が深くなっても、切りくず詰まりを起こすことも穴内面に拘束されることもないため、切削抵抗やトルクが増大、変動することがない。よって、穴出口側に発生するバリの抑制を図ることができるとともに、切れ刃の磨耗や欠損、ドリルの折損等を防止することができ、工具寿命に優れる。また、被削材への切りくずの残留を防止することができることから、穴あけ加工後にエアー等で洗浄して切りくずを除去する作業を省略または短縮することができるので作業効率が向上する。
【0027】
このスリット10の数は、特に限定されるものではなく、求められる切りくずの幅によって複数のスリット10が適宜設けられる。
例えば、切れ刃部15に1つのスリット10が形成されたチップを2つ装着した2枚刃ドリル200を用いて穴あけを行うと、2枚の切れ刃15,15の各々のスリット箇所10,10において切りくずが縦に2分割されることとなるが(図6(a)参照)、2つのスリットが形成されたチップを装着した場合には切りくずが3分割されることになるため、2分割の場合よりも幅の狭い切りくずを得ることができる。つまり、スリット数を増加することにより切りくずの微細化を図ることが可能となる。
【0028】
また、スリット幅Wは、スリット部以外の切れ刃15およびスリット部10の切れ刃がなるべく均等に配分されるような範囲内において、求められる切りくずの幅によって適宜設計される。
この場合において、スリット数を増加することによる切りくずの微細化の点を考慮すると、スリット幅Wは小さくすることが好ましい。チップ幅Wが一定のときは、スリットの幅Wが狭ければ狭いほどスリット数を増加することができるからである。
【0029】
例えば、チップ幅Aを5mm、スリットの間隔Iを1.0mmとした場合、スリット幅Wが1.0mmのときは、2枚のチップ100,100の夫々の切れ刃15,15に1つずつしかスリットを構成することができず、得られる切りくずは4つに分割されたものとなる(図6(c)参照)。これに対し、スリット幅Wが0.3mmのときは、一方のチップ100の切れ刃15には1つのスリット10、もう一方のチップ100の切れ刃15には2つスリット10,10を構成することができるので、得られる切りくずは5分割されたものとなる(図6(b)参照)。よって、スリット幅Wを1.0mmとするより0.3mmに設定した方が切りくずが微細化されるので、切りくず処理性が向上するといえる。
【0030】
このように切りくずの微細化を目的としてドリル全体として設けられるスリット10の数を可能な限り多く設定する場合においては、一対のチップ取付座20,20に接合される2つのチップ100,100のうち、一方のチップ100の切れ刃15に形成されたスリット10と、このスリット箇所10の削り残し部分を半回転後に切削するこのチップ100と反対側に配置された、他方のチップ100の切れ刃15に形成されたスリット10との間隔Iを一定としたときの、スリットの幅Wと切りくずの幅の最大値Bとの関係式は、下記の式により表すことができる。
【数1】

【0031】
実際には、ドリルの先端角の角度αによって発生する切りくずの幅は異なるので、最大切りくず幅Cは、理論的には下記の式によって求められることになる(図6(d)参照)。
【数2】

【0032】
すなわち、先端角αが140°の2枚刃ドリル200に接合された、チップ幅Aが5mmの各チップ100,100の切れ刃15,15に、チップ取付状態において互いの反対側に配置されるスリット10とスリット10の間隔Iが1.0mmとなるようにスリットが構成されている場合において、スリット幅Wを1.0mmとしたときは、切りくずの幅の最大値Bは3.0mmとなり、θが20°となることから、最大切りくず幅Cは3.19mmとなる。これに対し、同条件の下、スリット幅Wを0.3mmとしたときは、最大切りくず幅Cは2.45mmとなる。したがって、スリット幅Wを1.0mmとするより0.3mmとする方が、得られる切りくずの幅Cが狭くなり、切りくず処理性が向上するといえる。
【0033】
このようなドリルが好適に用いられる代表的な例としては、自動車のオートマティックトランスミッション部品であるコントロールバルブボディのスプール穴やエンジンなどの製造工程における穴あけ加工等が挙げられる。このコントロールバルブボディには油圧回路を構成する作動油の流路溝があり、その幅が約3mm程度と狭いことから、それよりも幅の狭い切りくずが求められている。そこで、上記条件の下、スリット幅Wを0.3mmに設計すれば、最大切りくず幅Cが2.45mmと小さくなることから、油圧回路への切りくず残存の恐れがなく、切りくず処理性が向上すると考える。これに対し、スリット幅Wを1.0mmとしたときには、最大切りくず幅Cは3.19mmとなり、切りくず詰まりを起こす恐れがあるので好ましくない。
【0034】
以上より、特に、工具径が8mm以上18mm以下である小径のドリルに接合されるような小いさなチップである場合には、このスリットの幅Wの下限は0.2mmが好ましく、上限は0.8mmが好ましい。スリットの幅Wが0.8mmより大きいと、チップの幅Aが小さい場合にはスリット数を増やすことができず、スリット数の増加によって切りくずの微細化を図る場合に問題が生じるからである。また、このスリットの幅Wが0.2mmより小さいと却って切りくずの分断による効果を十分に得られない可能性があるからである。
この点、本実施例に係るドリル200においては、チップ取付座20に接合する前のチップ100の切れ刃部15に、あらかじめワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工によりスリット10を形成することになるので、このようなスリット幅Wが0.2mm以上0.8mm以下の狭いスリットであっても、容易に能率よく加工形成することができる。
【0035】
また、スリットの長さLは、スリット箇所10を境にチップ100が折れない程度であれば、特に限定されないが、再研磨を想定した長さの範囲内において適宜設計される。
このように切りくず分断のためのスリット10が、所定の長さLで切れ刃15からすくい面11に沿って伸びるように構成されることから、ドリル200の切れ刃15を再研磨した場合に、スリット10を再成形しなくても新品時と同様の性能を得ることができる。つまり、切れ刃15を再研磨する度にスリット10を再加工する必要がないため、研磨の前後においてスリット10の位置、形状等がずれることがなく、再研磨前と同様の加工穴の表面粗さ、真円度等を得ることができる。よって、再研磨毎にニックを加工する必要がある、図7に示されるような、切りくず分断のためのニック30が切れ刃から逃げ面32に沿って設けられている従来のニック付ドリル300に比べ、作業効率に優れる。
【0036】
なお、本実施例として、主として深穴加工に用いられるストレート溝21を有するドリル200を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ツイストドリル、ガンドリル、ガンリーマ、コアドリル等多種の穴あけ工具に適用することができる。
【0037】
また、ドリル200に取り付けられるチップの切れ刃部15には、耐チッピング性の向上を図る観点から刃先強化処理として、すくい面視した幅が切取り厚さhよりも大きくなるようなホーニングを施してもよい(図4(b)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法により製造されたチップの一実施例に係るチップを示す斜視図である。
【図2】本発明の穴あけ工具の製造方法により製造された穴あけ工具の一実施例に係る図1のチップが接合されたドリルを示す正面図である。
【図3】図2に示すドリルの左側面図である。
【図4】図2に示すドリルのチップ取付座を示す図であり、(a)はチップ取付前におけるチップ取付座の斜視図、(b)はチップ取付後におけるチップ取付座の斜視図である。
【図5】図2に示すドリルの刃先部分を示す拡大図である。
【図6】本実施例に係るドリルの切りくず分断機構を説明する模式図である。
【図7】従来のニック付ドリルの先端面を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10 スリット
11 すくい面
12 逃げ面
15 切れ刃(切れ刃部)
20 チップ取付座
100 チップ
200 ドリル
A チップ幅
D スリットの深さ(チップの厚さ)
L スリットの長さ
W スリット幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状をなし、この上面に設けられたすくい面と、このすくい面と交差する側面に設けられた逃げ面と、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に設けられた切れ刃部とを有し、この切れ刃部がダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体等の超高圧焼結体から形成された、穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法であって、
この穴あけ工具に取り付ける前におけるチップの切れ刃部の一部を、ワイヤカット、レーザー加工、電子ビーム加工等の放電加工により、前記切れ刃部から前記すくい面方向に向かって切り欠いて、前記チップの厚さ方向に貫通しつつ前記すくい面方向に伸びるスリットを形成する工程を備える
ことを特徴とする穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の穴あけ工具に取り付けられるチップの製造方法により製造された穴あけ工具に取り付けられるチップを、穴あけ工具本体の先端部に形成されたチップ取付座に載置し、前記スリットが工具先端側から後端側に向かって伸びるように配置する工程と、
前記チップ取付座に前記穴あけ工具に取り付けられるチップを接合する工程と、
この接合された穴あけ工具に取り付けられるチップの前記切れ刃部を研磨して切れ刃を形成する工程を備える
ことを特徴とする穴あけ工具の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の穴あけ工具の製造方法により製造された
ことを特徴とする穴あけ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−62369(P2008−62369A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245579(P2006−245579)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】