説明

空気の成分分離方法および装置

【課題】精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、これを精留塔に還流させる方式の空気の成分分離方法において、少ない動力で経済的な処理を行う。
【解決手段】精留塔から取り出された窒素ガスの一部を断熱圧縮して温度及び圧力を上昇させる工程Aと、精留塔から取り出された液体酸素の一部を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させる工程Bと、工程Aを経た窒素と工程Bを経た酸素を熱交換器で熱交換させることで、窒素を冷却する工程Cを有し、工程Cを経た窒素を、液化した状態で精留塔に還流する。精留塔から取り出された流体の断熱圧縮および断熱膨張と流体相互の熱交換を利用して、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を還流用に冷却・液化させるようにしたので、少ない動力で窒素ガスを冷却・液化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深冷分離法を用いて空気を成分分離する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深冷分離法は、混合気体を液化点に近い温度まで深冷し、深冷された混合気体を精留して成分分離する方法であり、この深冷分離法を利用して空気を成分分離する技術として、特許文献1,2に示されるような技術が知られている。しかし、特許文献1,2に示される技術は、上部塔と下部塔からなる2塔式の精留塔を用いるものであり、この方式は、圧力の違いによる沸点差を利用することで、上部塔と下部塔で熱交換し、還流液を作り出すことで蒸留している。そのため2塔の精留塔が必要となり、精留塔の構造が複雑となるだけでなく設備コストが増大するなどの欠点がある。
一方、特許文献3には、1塔式の精留塔を用い、原料空気を所定の圧力に圧縮して精留塔に供給するとともに、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を精留塔に還流させるようにした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−21457号公報
【特許文献2】特開2008−224186号公報
【特許文献3】特開平8−226759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献3に示される技術では、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化するのに、冷媒(循環窒素ガス)を循環させる冷却手段(還流液製造手段)を用い、その冷媒との熱交換により窒素ガスを冷却・液化している。しかし、このような方式では、冷媒(循環窒素ガス)を冷却するために必要な熱源は外部から投入されている。ガスを液化するため必要な熱エネルギー量は顕熱に比べて非常に大きく、極低温の熱源を作り出すためには多大な動力を必要とするため、処理コストが高くなる欠点がある。
【0005】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、深冷分離法による空気の成分分離方法であって、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、これを精留塔に還流させる方式の成分分離方法において、少ない動力で経済的な処理を行うことができる方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような空気の成分分離方法の実施に好適な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の空気の成分分離方法および装置は、精留塔から取り出された流体の断熱圧縮および断熱膨張と流体相互の熱交換を利用して、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を還流用に液化させるための冷却を行い、さらに必要に応じて、これに付随した流体の温度及び圧力制御を行うようにしたものであり、以下を要旨とするものである。
【0007】
[1]圧縮された原料空気を深冷した後、精留塔で精留して成分分離する方法であって、前記精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を前記精留塔に還流させるようにした空気の成分分離方法において、
前記精留塔から取り出された窒素ガスの一部を断熱圧縮して温度及び圧力を上昇させる工程(A)と、
前記精留塔から取り出された液体酸素の一部を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させる工程(B)と、
前記工程(A)を経た窒素と前記工程(B)を経た酸素を熱交換器で熱交換させることで、窒素を冷却する工程(C)を有し、
前記工程(C)を経た窒素を、液化した状態で精留塔に還流することを特徴とする空気の成分分離方法。
【0008】
[2]上記[1]の成分分離方法において、工程(C)を経た窒素をさらに冷却する工程(D)を有し、これら工程(C)および工程(D)を経て液化された窒素を精留塔に還流することを特徴とする空気の成分分離方法。
[3]上記[2]の成分分離方法において、工程(D)では、窒素を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させた後、さらに熱交換器で熱交換して冷却することを特徴とする空気の成分分離方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの成分分離方法において、工程(C)を経た酸素を冷却する工程(E)を有し、該工程(E)を経て冷却された酸素を精留塔に送ることを特徴とする空気の成分分離方法。
[5]上記[4]の成分分離方法において、工程(E)では、酸素を断熱圧縮して昇圧した後、熱交換器で熱交換して冷却することを特徴とする空気の成分分離方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの空気の成分分離方法を用い、少なくとも酸素と窒素を製造することを特徴とする気体の製造方法。
【0009】
[7]原料空気の圧縮手段(x)と、該圧縮手段(x)で圧縮された原料空気を、精留塔から取り出された窒素および/または酸素との熱交換で深冷する熱交換器(y)と、該熱交換器(y)で深冷された原料空気を精留して成分分離する精留塔(z)を備え、該精留塔(z)から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を前記精留塔(z)に還流させるようにした空気の成分分離装置において、
前記精留塔(z)から取り出された窒素ガスの一部を断熱圧縮する圧縮手段(a)と、
前記精留塔(z)から取り出された液体酸素の一部を断熱膨張させる膨張手段(b)と、
前記圧縮手段(a)で断熱圧縮された窒素と前記膨張手段(b)で断熱膨張された酸素を熱交換させて窒素を冷却する熱交換器(c)を備え、
前記熱交換器(c)を経た窒素が、液化した状態で精留塔(z)に還流されるようにしたことを特徴とする空気の成分分離装置。
【0010】
[8]上記[7]の成分分離装置において、熱交換器(c)を経た窒素をさらに冷却するための冷却手段(d)を備えることを特徴とする空気の成分分離装置。
[9]上記[8]の成分分離装置において、冷却手段(d)は、少なくとも、窒素を断熱膨張させる膨張手段(d1)と、該膨張手段(d1)で断熱膨張させた窒素を冷却する熱交換器(d2)を備えることを特徴とする空気の成分分離装置。
[10]上記[7]〜[9]のいずれかの成分分離装置において、熱交換器(c)を経た酸素を冷却するための冷却手段(e)を備え、該冷却手段(e)で冷却された酸素が精留塔(z)に送られるようにしたことを特徴とする空気の成分分離装置。
[11]上記[10]の成分分離装置において、冷却手段(e)は、少なくとも、酸素を断熱圧縮する圧縮手段(e1)と、該圧縮手段(e1)で断熱圧縮された酸素を冷却する熱交換器(e2)を備えることを特徴とする空気の成分分離装置。
[12]上記[7]〜[11]のいずれかの成分分離装置を備え、少なくとも酸素と窒素を製造することを特徴とする気体の製造設備。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、精留塔から取り出された流体の断熱圧縮および断熱膨張と流体相互の熱交換を利用して、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を還流用に液化させるための冷却を行うようにしたので、従来技術に較べて格段に少ない動力で窒素ガスを冷却・液化させることができ、空気を成分分離するための処理コストを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明法の実施に供される装置の一実施形態を示す構成図
【図2】本発明法の実施に供される装置のより具体的な実施形態を示す構成図
【図3】図2に示す実施形態において、精留塔から取り出されて系内を流れる流体の温度および圧力などを例示した図面
【図4】本発明の装置と特許文献2に示される装置の圧縮機動力を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る空気の成分分離方法は、圧縮された原料空気を深冷した後、精留塔で精留して成分分離する方法であって、精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を精留塔に還流させる方式の成分分離方法である。なお、以下の説明で示される窒素、酸素、廃窒素の相(気相、液相、気液混合相)は、理想気体を前提として導かれる相であり、理想気体は実在気体とは異なるので、実操業においては説明とは異なる相(例えば、液相ではなく気相または気液混合相、或いは気相ではなく液相または気液混合相)となる場合がある。したがって、本発明は、以下の説明で示される窒素、酸素、廃窒素の相の場合に限定されるものではない。
【0014】
本発明において、使用する精留塔の形式や構造は特に限定されないが、実質的には1塔式の精留塔を用いる場合に有用性がある。
図1は、本発明法の実施に供される装置の一実施形態を示す構成図であり、この実施形態は、特に基本的な構成のみからなるものである。
図1の装置は、原料空気の圧縮手段xと、この圧縮手段xで圧縮された原料空気を、精留塔から取り出された窒素および/または酸素との熱交換で深冷する熱交換器yと、この熱交換器yで深冷された原料空気を精留して成分分離する1塔式の精留塔zを備えており、これらの構成自体は、従来公知の成分分離装置と同様である。前記圧縮手段xは、通常、圧縮機などで構成される。
【0015】
精留塔zでは、深冷された原料空気が主に液体酸素(製品酸素)、窒素ガス(製品窒素)および廃窒素ガスに分離される。このうち窒素ガスと廃窒素ガスは、精留塔zの塔頂部から窒素移送ラインg1と廃窒素移送ラインg3にそれぞれ取り出され、また、液体酸素は精留塔zの塔底部から酸素移送ラインg2に取り出される。精留塔zから取り出された液体酸素と窒素ガスの各一部と廃窒素ガスは、それぞれ熱交換器yに供給され、原料空気を深冷する冷媒として使われた後、それぞれの処理系や貯蔵部などに送られる。一方、窒素移送ラインg1からは移送ラインg10が、また、酸素移送ラインg2からは移送ラインg20がそれぞれ分岐し、これら分岐した移送ラインg10と移送ラインg20を通じて、液体酸素と窒素ガスの各一部が下記する窒素液化・還流モジュールに導かれる。
【0016】
図1の分離装置は、精留塔zから取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を精留塔zに還流させるために、次のような窒素液化・還流モジュールを備えている。すなわち、このモジュールは、前記移送ラインg10に導かれた窒素ガスを断熱圧縮する圧縮手段aと、前記移送ラインg20に導かれた液体酸素を断熱膨張させる膨張手段bと、前記圧縮手段aで断熱圧縮した窒素と前記膨張手段bで断熱膨張させた酸素を熱交換させて窒素を冷却する熱交換器cを備え、この熱交換器cを経た窒素を、液化した状態で精留塔zに還流させる。前記圧縮手段aは、通常、圧縮機などで構成される。また、前記膨張手段bは、本実施形態では減圧弁で構成されているが、膨張タービンなどで構成してもよい。また、前記熱交換器cは対向流式熱交換器などで構成される。
【0017】
本実施形態の窒素液化・還流モジュールは、さらに、熱交換器cを経た窒素をさらに冷却するための冷却手段dを備える。本実施形態の冷却手段dは、少なくとも、窒素を断熱膨張させる膨張手段d1と、この膨張手段d1で断熱膨張された窒素を冷却する熱交換器d2を備える。これらも移送ラインg10に設けられ、熱交換器cと冷却手段dを経て液化された窒素は、この移送ラインg10を通じて精留塔zに還流される。本実施形態では、膨張手段d1は減圧弁で構成されているが、膨張タービンなどで構成してもよい。
【0018】
また、窒素液化・還流モジュールは、さらに、熱交換器cを経た酸素を冷却するための冷却手段eを備え、この冷却手段eで冷却された酸素が精留塔zに送られるようにしてある。本実施形態の冷却手段eは、少なくとも、酸素を断熱圧縮する圧縮手段e1と、この圧縮手段e1で断熱圧縮された酸素を冷却する熱交換器e2を備える。これらも移送ラインg20に設けられ、冷却手段eで冷却された酸素は、この移送ラインg20を通じて精留塔zに送られる。前記圧縮手段e1は、通常、圧縮機などで構成される。
なお、熱交換器d2や熱交換器e2は、精留塔zから取り出された廃窒素ガスや窒素ガスを冷媒とするものが好ましいが、外部からの冷熱源によるもの、例えば冷凍機などで構成してもよい。
【0019】
本実施形態の窒素液化・還流モジュールでは、次のようにして窒素ガスの液化と還流、さらにはこれに付随した流体の温度及び圧力制御が行われる。
精留塔zから取り出された窒素ガスの一部を移送ラインg10に導き、圧縮手段aによって断熱圧縮することで温度及び圧力を上昇させる(工程A)。この場合の窒素ガスの温度及び圧力上昇の一例を挙げると、工程Aを経る前(精留塔zから取り出された状態)では−187℃,150kPaGであったものが、工程Aを経ることで−173℃,328kPaGとなる。一方、精留塔zから取り出された液体酸素の一部を移送ラインg20に導き、膨張手段bによって断熱膨張させて温度及び圧力を低下させる(工程B)。この場合の酸素の温度及び圧力低下の一例を挙げると、工程Bを経る前(精留塔zから取り出された状態)では−172℃,175kPaGであったものが、工程Bを経ることで−182℃,10kPaGとなる。通常、液体酸素は工程Bを経ることで、一部または全部が気相となる。
【0020】
以上のように温度及び圧力が上昇した窒素と、温度及び圧力が低下した酸素を熱交換器cで熱交換させて窒素を冷却し(工程C)、この工程Cを経た窒素を、液化した状態で精留塔zに還流する。窒素が工程Cを経ただけで液化する場合には、そのまま精留塔zに還流すればよい。但し、一般には、工程Cを経ただけでは液化しないので、さらに、冷却手段dで冷却し(工程D)、これら工程Cおよび工程Dを経て液化された窒素を精留塔zに還流する。
【0021】
工程Dでは、膨張手段d1で窒素を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させた後、さらに熱交換器d2で熱交換して冷却する。この場合の窒素の温度及び圧力低下の一例を挙げると、工程Dを経る前では−181℃,328kPaGであったものが、工程Dを経ることで−187℃,150kPaGとなり、この温度及び圧力で精留塔zに還流される。
熱交換器d2の冷媒は任意であるが、例えば、精留塔zから取り出された廃窒素ガス(例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaG)を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させ(例えば、−195℃,10kPaG)、この廃窒素ガスを冷媒として用いれば、少ない動力で冷却を行うことができる。なお、冷媒としては、窒素ガスや酸素を用いてもよい。
【0022】
また、本実施形態の窒素液化・還流モジュールでは、工程Cを経た酸素を冷却手段eによって冷却し(工程E)、この冷却された酸素を精留塔zに送る。
工程Eでは、圧縮手段e1により酸素を断熱圧縮して昇圧した後、熱交換器e2で熱交換して冷却する。この場合の酸素の温度及び圧力の推移の一例を挙げると、工程Eを経る前では−173℃,10kPaGであったものが、工程Eを経ることで−172℃,175kPaGとなり、この温度及び圧力で精留塔zに送られる。
熱交換器e2の冷媒は任意であるが、例えば、精留塔zから取り出された窒素ガス(例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaG)を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させ(例えば、−195℃,10kPaG)、この窒素ガスを冷媒として用いれば、少ない動力で冷却を行うことができる。なお、冷媒としては、廃窒素ガスや酸素を用いてもよい。
【0023】
以上のように本発明では、精留塔zから取り出された流体の断熱圧縮および断熱膨張と流体相互の熱交換を利用し、精留塔zから取り出された窒素ガスの一部を還流用に液化させるための冷却を行い、さらに必要に応じて、これに付随した流体の温度及び圧力制御を行うようにしたものであり、流体の断熱圧縮には動力を使用するが、特許文献3に示されるような循環冷媒との熱交換により窒素ガスの冷却・液化を行う方式に較べてエネルギー効率が極めて高く、同方式に較べて格段に少ない動力で窒素ガスの冷却・液化を行うことができる。
【0024】
図2および図3は、本発明法の実施に供される装置のより具体的な実施形態を示すもので、図2は全体構成図、図3は精留塔から取り出されて系内を流れる流体の温度および圧力などを例示した図面である。なお、図中の(g)、(l)、(l,g)の各表示は、その地点を移送中の流体の相を示したものであり、(g)は気相、(l)は液相、(l,g)は気液混合相であることを示す。
図において、1は原料空気の圧縮機(=圧縮手段x)、3は原料空気深冷用の熱交換器(=熱交換器y)、4は1塔式の精留塔(=精留塔z)であり、圧縮機1と熱交換器3との間には水冷冷却器2が設けられている。
【0025】
原料空気は、圧縮機1で所定の圧力(例えば、200kPaG)に圧縮され、次いで、水冷冷却器2により適当な温度まで冷却(例えば、10℃程度まで冷却)された後、熱交換器3に供給される。この熱交換器3には、精留塔4から取り出された液体酸素と窒素ガスの各一部と廃窒素ガスが供給され、これらを冷媒として原料空気が所定の温度(例えば、−181℃)に深冷される。
この熱交換器3で深冷された原料空気は精留塔4に供給され、この精留塔4では、深冷された原料空気が主に液体酸素(製品酸素)、窒素ガス(製品窒素)および廃窒素ガスに分離される。精留塔4は、例えば100段程度の精留棚を有し、この精留塔4の中段部に原料空気が供給される。なお、精留塔4の内部は棚でなく、充填物であってもよい。
【0026】
成分分離された窒素ガスと廃窒素ガスは、精留塔4の塔頂部から窒素移送ライン6(窒素排出ライン)と廃窒素移送ライン7(廃窒素排出ライン)にそれぞれ取り出され、また、液体酸素は精留塔4の塔底部から酸素移送ライン5(酸素排出ライン)に取り出される。精留塔4から取り出された液体酸素の一部はそのまま、また窒素ガスの一部と廃窒素ガスは、下記する窒素液化・還流モジュール内で熱交換用の冷媒として使用された後に、原料空気深冷用の熱交換器3に供給されて冷媒として使用され、その後、それぞれの処理系や貯蔵部などに送られる。一方、窒素移送ライン6からは移送ライン60が、また、酸素移送ライン5からは移送ライン50がそれぞれ分岐し、これら分岐した移送ライン60と移送ライン50を通じて、窒素ガスと液体酸素の各一部が下記する窒素液化・還流モジュールに導かれる。
【0027】
図2の分離装置は、精留塔4から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を精留塔4に還流させるために、次のような構成の窒素液化・還流モジュールを備えている。すなわち、このモジュールは、前記移送ライン60に導かれた窒素ガスを断熱圧縮する圧縮機11(=圧縮手段a)と、前記移送ライン50に導かれた液体酸素を断熱膨張させる減圧弁10(=膨張手段b)と、前記圧縮機11で断熱圧縮した窒素と前記減圧弁10で断熱膨張させた酸素を熱交換させて窒素を冷却する熱交換器12(=熱交換器c)を備えている。前記減圧弁10は、膨張タービンなどで構成してもよい。また、前記熱交換器12は対向流式熱交換器で構成される。
【0028】
熱交換器12を経た窒素をさらに冷却するための冷却手段(=冷却手段d)として、移送ライン60には、廃窒素ガス(冷媒)と熱交換して窒素ガスを冷却する熱交換器19と、窒素を断熱膨張させ温度低下させる減圧弁21(=膨張手段d1)と、廃窒素ガス(冷媒)と熱交換して窒素ガスを冷却する熱交換器22(=熱交換器d2)が、上流側から順に設けられている。移送ライン60は、熱交換器12とこれに続く冷却手段を経て液化された窒素を精留塔4に導く。前記減圧弁21は、膨張タービンなどで構成してもよい。
【0029】
また、熱交換器12を経た酸素を冷却するための手段(=冷却手段e)として、移送ライン50には、酸素を断熱圧縮する圧縮機13(圧縮手段e1)と、窒素ガス(冷媒)と熱交換して酸素を冷却する熱交換器15(=熱交換器e2)が、上流側から順に設けられている。移送ライン50は、これら冷却手段を経て冷却された酸素を精留塔4に導く。
前記熱交換器22,19,15も対向流式熱交換器などで構成される。なお、熱交換器22や熱交換器15は、本実施形態のように精留塔4から取り出された廃窒素ガスや窒素ガスを冷媒とするものが好ましいが、外部からの冷熱源によるもの、例えば冷凍機などで構成してもよい。
【0030】
精留塔4から取り出された廃窒素ガス用の前記廃窒素移送ライン7には、廃窒素ガスを断熱膨張させる膨張タービン18と、前記熱交換器22と、前記熱交換器19が、上流側から順に設けられている。前記膨張タービン18は、減圧弁などで構成してもよい。
また、精留塔4から取り出された窒素ガス用の前記窒素移送ライン6には、窒素ガスを断熱膨張させる膨張タービン14と、前記熱交換器15が、上流側から順に設けられている。前記膨張タービン14は、減圧弁などで構成してもよい。
また、精留塔4から取り出された液体酸素用の前記酸素移送ライン5には圧力調整弁8が設けられている。
【0031】
なお、図において、供給ライン9は、製品酸素を熱交換器3を経由して移送するラインであり、酸素移送ライン5の一部を構成する。供給ライン16は、製品窒素を熱交換器3を経由して移送するラインであり、窒素移送ライン6の一部を構成する。供給ライン17は、窒素液化・還流モジュールで冷却された酸素を精留塔4に送るための移送ラインであり、移送ライン50の一部を構成する。供給ライン23は、窒素液化・還流モジュールで液化された窒素を精留塔4に還流するための移送ラインであり、移送ライン60の一部を構成する。供給ライン20は、廃窒素ガスを熱交換器3を経由して移送するラインであり、廃窒素移送ライン7の一部を構成する。
【0032】
精留塔4で分離された液体酸素は、精留塔4の塔底部から、例えば、温度及び圧力が−172℃,175kPaGで酸素移送ライン5に取り出され、一部が移送ライン50を通じて窒素液化・還流モジュールに供給される。残りの液体酸素は、原料空気を冷却する冷媒として原料空気深冷用の熱交換器3に供給される。その際、圧力調整弁8で減圧して温度低下させた上で(例えば、温度及び圧力が−182℃,10kPaG)、熱交換器3に供給してもよい。
【0033】
精留塔4で分離された窒素ガスは、精留塔4の塔頂部から、例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaGで窒素移送ライン6に取り出され、一部が移送ライン60を通じて窒素液化・還流モジュールに供給される。残りの窒素ガスは、窒素液化・還流モジュールで熱交換用の冷媒として使用された後、原料空気を冷却する冷媒として原料空気深冷用の熱交換器3に供給される。窒素液化・還流モジュールで熱交換用の冷媒として使用するため、窒素ガスを膨張タービン14で断熱膨張させて温度及び圧力を低下(例えば、−195℃,10kPaG)させた後、熱交換器15で酸素と熱交換させ、例えば、温度及び圧力が−187℃,10kPaGの窒素ガスとして原料空気深冷用の熱交換器3に供給される。
【0034】
精留塔4で分離された廃窒素ガスは、精留塔4の塔頂部から、例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaGで廃窒素移送ライン7に取り出され、窒素液化・還流モジュールで熱交換用の冷媒として使用された後、原料空気を冷却する冷媒として原料空気深冷用の熱交換器3に供給される。窒素液化・還流モジュールで熱交換用の冷媒として使用するため、廃窒素ガスを膨張タービン18で断熱膨張させて温度及び圧力を低下(例えば、−195℃,10kPaG)させた後、熱交換器22,19で窒素と熱交換させた後、例えば、温度及び圧力が−193℃、10kPaGの廃窒素ガスとして原料空気深冷用の熱交換器3に供給される。
【0035】
本実施形態の窒素液化・還流モジュールでは、次のようにして窒素ガスの液化と還流、さらにはこれに付随した流体の温度及び圧力制御が行われる。
移送ライン60に導かれた窒素ガスを、圧縮機11によって断熱圧縮することで温度及び圧力を上昇させる(工程A)。この場合の窒素ガスの温度及び圧力上昇の一例を挙げると、さきに図1の実施形態で述べたように、工程Aを経る前(精留塔4から取り出された状態)では−187℃,150kPaGであったものが、工程Aを経ることで−173℃,328kPaGとなる。
一方、移送ライン50に導かれた液体酸素を、減圧弁10によって断熱膨張させて温度及び圧力を低下させる(工程B)。この場合の酸素の温度及び圧力低下の一例を挙げると、さきに図1の実施形態で述べたように、工程Bを経る前(精留塔4から取り出された状態)では−172℃,175kPaGであったものが、工程Bを経ることで−182℃,10kPaGとなる。通常、液体酸素は工程Bを経ることで、一部または全部が気相となる。
【0036】
以上のように温度及び圧力が上昇した窒素と、温度及び圧力が低下した酸素を熱交換器12で熱交換させて窒素を冷却する(工程C)。この熱交換器12で冷却された窒素は、一部液化する場合があるが、いずれにしても完全には液化しないので、さらに、冷却手段で冷却し(工程D)、これら工程Cおよび工程Dを経て液化された窒素を精留塔4に還流する。工程Dでは、熱交換器12で酸素と熱交換された窒素を、まず、熱交換器19において、冷却する。次いで、この冷却した窒素(例えば、−181℃程度の気液混合体)を減圧弁21で断熱膨張して温度及び圧力を低下させた後、熱交換器22において廃窒素ガスと熱交換して冷却する。この場合の窒素の温度及び圧力低下の一例を挙げると、さきに図1の実施形態で述べたように、工程Dを経る前では−181℃,328kPaGであったものが、工程Dを経ることで−187℃,150kPaGとなる。このような工程を経て窒素が液化し、精留塔4に還流される。
【0037】
この実施形態では、精留塔4から取り出された廃窒素ガス(例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaG)を膨張タービン18で断熱膨張させて温度及び圧力を低下させ(例えば、−195℃,10kPaG)、この廃窒素ガスを熱交換器22の冷媒として用いており、低動力化を達成するための熱交換方法の最適化を図っている。これにより少ない動力で冷却を行うことができる。
【0038】
また、本実施形態の窒素液化・還流モジュールでは、この熱交換器12で窒素と熱交換した酸素を冷却手段によって冷却し(工程E)、この冷却された酸素を精留塔4に還流する。この工程Eでは、圧縮機13により酸素を断熱圧縮して昇圧(例えば、175kPaG)した後、熱交換器15で廃窒素ガスと熱交換して冷却する。この場合の酸素の温度及び圧力の推移の一例を挙げると、さきに図1の実施形態で述べたように、工程Eを経る前では−173℃,10kPaGであったものが、工程Eを経ることで−172℃,175kPaGとなる。
この実施形態では、精留塔4から取り出された窒素ガス(例えば、温度及び圧力が−187℃,150kPaG)を膨張タービン14で断熱膨張させて温度及び圧力を低下させ(例えば、−195℃,10kPaG)、この窒素ガスを熱交換器15の冷媒として用いており、低動力化を達成するための熱交換方法の最適化を図っている。これにより少ない動力で冷却を行うことができる。
【0039】
以上のように、精留塔4から取り出された窒素ガスの一部を還流用に冷却・液化させる際に、精留塔4から取り出された窒素ガスを圧縮機11で断熱圧縮して温度及び圧力を上昇させるとともに、精留塔4から取り出された液体酸素を減圧弁10で断熱膨張させて温度及び圧力を低下させた上で、熱交換機12において窒素と酸素を熱交換して窒素を冷却することにより、特許文献3に示される窒素ガスの冷却・液化を行う方式に較べて格段に少ない動力で窒素ガスの冷却・液化を行うことができる。
また、特許文献1に示される装置のように、精留塔の内部に蒸発器や凝縮器を設ける必要がないので、精留塔の構造を簡略化することができる。
【0040】
図1に示す本発明の装置と特許文献2に示される装置について、原料空気を成分分離するときに必要なエネルギー消費量を、以下の条件でシミュレーション計算した。実機の深冷式分離装置では、必要動力のうちの殆どを圧縮機動力が占めるため、必要動力は圧縮機動力のみで比較した。図4に、本発明の装置(図4(a))と特許文献2に示される装置(図4(b)の装置)の圧縮機動力を示す。計算の結果、特許文献2に示される装置では約17800kWの動力を必要とするのに対し、図1に示す本発明の装置では約11400kWの動力で済むことが判った。
【0041】
(計算式)
=Hout−Hin …(1)
=Wnet=W …(2)
但し E:必要エネルギー量(kW)
net:正味必要動力(kW)
:圧縮機動力(kW)
in,Hout:圧縮機の入出エンタルピー
(条件)
原料空気温度:25℃
原料空気圧力:0kPaG
原料空気流量:167km/h
原料空気成分:窒素80vol%、酸素20vol%
酸素流量:31km/h(酸素濃度:99.9vol%以上)
窒素流量:30km/h(窒素濃度:99.9vol%以上)
【0042】
なお、本発明の方法及び装置は、酸素および窒素の分離だけでなく、アルゴンガス、二酸化炭素、微量成分であるネオン、クリプトン、水素、キセノンなどの希ガス、炭化水素系ガス(C2n+2,C2n,C2n−2,C2n−4)の成分分離にも適用可能である。
本発明の気体の製造方法は、以上述べたような空気の成分分離方法を用い、少なくとも酸素と窒素を製造するものであり、また、本発明の気体の製造設備は、以上述べたような空気の成分分離装置を備え、少なくとも酸素と窒素を製造するものである。
【符号の説明】
【0043】
x 圧縮手段
y 熱交換器
z 精留塔
a 圧縮手段
b 膨張手段
c 熱交換器
d 冷却手段
d1 膨張手段
d2 熱交換器
e 冷却手段
e1 圧縮手段
e2 熱交換器
g1 窒素移送ライン
g2 酸素移送ライン
g3 廃窒素移送ライン
g10 移送ライン
g20 移送ライン
1 圧縮機
2 水冷冷却器
3 熱交換器
4 精留塔
5 酸素移送ライン
6 窒素移送ライン
7 廃窒素移送ライン
8 圧力調整弁
9 供給ライン
10 減圧弁
11 圧縮機
12 熱交換器
13 圧縮機
14 膨張タービン
15 熱交換器
16,17 供給ライン
18 膨張タービン
19 熱交換器
20 供給ライン
21 減圧弁
22 熱交換器
23 供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮された原料空気を深冷した後、精留塔で精留して成分分離する方法であって、前記精留塔から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を前記精留塔に還流させるようにした空気の成分分離方法において、
前記精留塔から取り出された窒素ガスの一部を断熱圧縮して温度及び圧力を上昇させる工程(A)と、
前記精留塔から取り出された液体酸素の一部を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させる工程(B)と、
前記工程(A)を経た窒素と前記工程(B)を経た酸素を熱交換器で熱交換させることで、窒素を冷却する工程(C)を有し、
前記工程(C)を経た窒素を、液化した状態で精留塔に還流することを特徴とする空気の成分分離方法。
【請求項2】
工程(C)を経た窒素をさらに冷却する工程(D)を有し、これら工程(C)および工程(D)を経て液化された窒素を精留塔に還流することを特徴とする請求項1に記載の空気の成分分離方法。
【請求項3】
工程(D)では、窒素を断熱膨張させて温度及び圧力を低下させた後、さらに熱交換器で熱交換して冷却することを特徴とする請求項2に記載の空気の成分分離方法。
【請求項4】
工程(C)を経た酸素を冷却する工程(E)を有し、該工程(E)を経て冷却された酸素を精留塔に送ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気の成分分離方法。
【請求項5】
工程(E)では、酸素を断熱圧縮して昇圧した後、熱交換器で熱交換して冷却することを特徴とする請求項4に記載の空気の成分分離方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の空気の成分分離方法を用い、少なくとも酸素と窒素を製造することを特徴とする気体の製造方法。
【請求項7】
原料空気の圧縮手段(x)と、該圧縮手段(x)で圧縮された原料空気を、精留塔から取り出された窒素および/または酸素との熱交換で深冷する熱交換器(y)と、該熱交換器(y)で深冷された原料空気を精留して成分分離する精留塔(z)を備え、該精留塔(z)から取り出された窒素ガスの一部を液化し、この液体窒素を前記精留塔(z)に還流させるようにした空気の成分分離装置において、
前記精留塔(z)から取り出された窒素ガスの一部を断熱圧縮する圧縮手段(a)と、
前記精留塔(z)から取り出された液体酸素の一部を断熱膨張させる膨張手段(b)と、
前記圧縮手段(a)で断熱圧縮された窒素と前記膨張手段(b)で断熱膨張された酸素を熱交換させて窒素を冷却する熱交換器(c)を備え、
前記熱交換器(c)を経た窒素が、液化した状態で精留塔(z)に還流されるようにしたことを特徴とする空気の成分分離装置。
【請求項8】
熱交換器(c)を経た窒素をさらに冷却するための冷却手段(d)を備えることを特徴とする請求項7に記載の空気の成分分離装置。
【請求項9】
冷却手段(d)は、少なくとも、窒素を断熱膨張させる膨張手段(d1)と、該膨張手段(d1)で断熱膨張させた窒素を冷却する熱交換器(d2)を備えることを特徴とする請求項8に記載の空気の成分分離装置。
【請求項10】
熱交換器(c)を経た酸素を冷却するための冷却手段(e)を備え、該冷却手段(e)で冷却された酸素が精留塔(z)に送られるようにしたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の空気の成分分離装置。
【請求項11】
冷却手段(e)は、少なくとも、酸素を断熱圧縮する圧縮手段(e1)と、該圧縮手段(e1)で断熱圧縮された酸素を冷却する熱交換器(e2)を備えることを特徴とする請求項10に記載の空気の成分分離装置。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の空気の成分分離装置を備え、少なくとも酸素と窒素を製造することを特徴とする気体の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−243143(P2010−243143A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209839(P2009−209839)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)電気通信回線を通じた発表 掲載年月日:平成21年5月7日 掲載ウェブサイトのアドレス:http://aiche.confex.com/aiche/2009/webprogrampreliminary/Paper155345.html (2)刊行物への発表 発行所名:社団法人 日本エネルギー学会 刊行物名:第18回日本エネルギー学会大会 講演要旨集 発行年月日:平成21年7月30日
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】