説明

空気中汚染物質の除去装置

【課題】空気中汚染物質としては、臭気物質、微生物粒子、アレルゲン粒子等があり、これらの汚染物質の処理は、室内環境を健康快適にする上で、極めて重要な課題である。従来の対策技術では、未だ数々の問題点がある。
【解決手段】本発明では、空気入口と空気出口を設けた断熱性の器体内に、吸着剤を充填した吸着部を設けると共に、吸着部よりも入口側に耐熱性の除塵部を設け、吸着部と除塵部を加熱可能なヒータを設けると共に、加熱生成物の排気口を設け、空気入口と空気出口を空調系統の空気ダクトに接続する構成とした空気中汚染物質除去装置を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等における循環型換気システム等に使用する空気中汚染物質除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中汚染物質としては、(a)臭気物質、(b)細菌、真菌(カビ)等の微生物粒子、(c)花粉、ダニ等のアレルゲン粒子等があり、これらの汚染物質の処理は、室内環境を健康快適にする上で、極めて重要な課題である。このような課題に対して、各種の対策技術が検討され、一部実用化されているが、後述するように、未だ数々の問題点がある。
【0003】
例えば従来技術として、特許文献1に記載のものは、空調機のフィルタの下流側の熱交換器を湿式とすることにより、フィルタで除去できない臭気物質、微生物粒子等を熱交換器の濡れ面にて除去しようとするものである。
【0004】
また特許文献2に記載のものは、空調機における凝縮器の下流側に、凝縮器からの水飛びを防止するためのマット状フィルタを設け、このマット状フィルタは、抗菌剤を塗布又は染み込ませることにより、雑菌の繁殖を防止しようとするものである。
【0005】
また特許文献3に記載のものは、空調器具の給排気口用の脱臭フィルタに関するもので、この脱臭フィルタは、活性炭等の物理的吸着型脱臭剤や抗菌剤、光触媒等を不織布に染み込ませて構成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−302735号公報
【特許文献2】特開平9−184641号公報
【特許文献3】特開2006−280906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
次に従来技術の概要と、その問題点を、上述した空気中汚染物質毎に説明する。
【0008】
(a)臭気物質
空調機や空気清浄機からの臭気発生要因が徐々に明らかになっているが、その問題は空調機や空気清浄機に搭載されたフィルタから臭気物質が発生することにある。即ち、フィルタの臭気発生要因は、(1)フィルタ部における臭気物質除去性能がそもそも小さく、また、その持続性が極めて短いこと、(2)MVOC(Mold Volatile organic compounds ;以下MVOC)が発生すること、(3)除去対象空気中に含まれる汚染物質の蓄積と再放散が生ずること、(4)抗菌フィルタにおいては抗菌剤の揮発・劣化および湿度上昇に伴う抗菌性能の低下が生ずることにある。
【0009】
従来の空調機や空気清浄機において、臭気物質は活性炭等のガス除去フィルタで除去される。ただし、臭気物質等のガス状汚染物質の除去性能は、活性炭使用量に比例するが、最近の研究報告でその除去性能の持続性が極めて短い実態が判明した。例えば、通常環境で家庭用空気清浄機を連続運転させたところ、運転2ヶ月後のHCHO除去性能は半減する実態が明らかになっている。(非特許文献1参照)
【0010】
ところで空気調和設備ではフィルタ内に捕捉された微生物粒子の増殖が生じ、その活動に伴ってある種のVOC(Volatile organic compounds)が生成される。これはMVOCと呼ばれ、室内空気を汚染する。そのためその有効な対策が求められていた。例えば上述した特許文献2、特許文献3にも記載されているとおり、在来、MVOC生成抑制のためにフィルタに抗菌剤を含浸させる技術が行われている。
【0011】
ただし、抗菌剤利用の当該技術には、臭気汚染のみならず以下の問題がある。即ち、(1)機器運転に伴い使用抗菌剤がガス状汚染物質として室内に拡散し、室内汚染問題が生ずること、(2)空気中湿度の上昇に伴い菌の繁殖抑制(抗菌)効果が低下すること、(3)使用時間の増大に伴い抗菌性能が低下すること、(4)抗菌性能の低下に伴いフィルタの臭気発生量が増大することなどの問題がある。いずれにしても、空調機器や空気清浄機が発生する臭気物質放散問題は、解決が急務の課題である。
【0012】
【非特許文献1】野崎淳夫他、「家庭用空気清浄機の汚染物質除去性能の持続性に関する研究(その1)」、日本建築学会大会学術講演論文集、社団法人日本建築学会、2008年9月、D-II、p.825-826
【0013】
(b)微生物粒子
重症急性呼吸器症候群(SARS)とインフルエンザなどを引き起こす空中微生物粒子の室内侵入と侵入後の処理に空気清浄機や空調機に期待が寄せられている。ところが、空調機や空気清浄機のフィルタに捕捉されたこれらの微生物粒子は、時としてフィルタ内が同物質の増殖に適した環境になるため、粒子数がフィルタの保持容量を超えて、再放散して室内に放出される。この再放散現象は、是非とも解決しなければならない課題である。
【0014】
(c)花粉・ダニ等のアレルゲン粒子
アレルゲン粒子には花粉、ダニ、カビ等があり、これらがアレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎等の様々なアレルギー疾患を引き起こす。花粉症の原因物質はスギ花粉ばかりではなく、カモガヤ、ブタクサ、ヒノキ等数多い。これらは、ほぼ1年を通して飛散しており、通年性のアレルギー性鼻炎を引き起こしている。また、ダニ、カビ等のハウスダストも同様に通年性アレルギー疾患の原因物質である。
【0015】
したがって、空調機や空気清浄機では、これらのアレルゲン粒子を機器内で増殖させることなく、連続的に除去しなければならない。
ところが、微生物粒子と同様に、空調機や空気清浄機のフィルタに捕捉された一部のアレルゲン粒子は、時としてフィルタ内が同物質の増殖に適した環境になるため、再放散して室内に放出される。この再放散現象は、是非とも解決しなければならない課題である。また、機器搭載の従来のフィルタでは、連続的な当該物質の除去は困難な状況にあり、フィルタの除去容量を超えて、同物質を室内に再放散させる欠点を持っている。
【0016】
本発明は、以上に述べた課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、本発明では、請求項1において、空気入口と空気出口を設けた断熱性の器体内に、吸着剤を充填した吸着部を設けると共に、吸着部を加熱可能なヒーターを設け、更に加熱生成物の排気口を設け、空気入口と空気出口を空調系統の空気ダクトに接続する構成とした空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0018】
また請求項2では、請求項1において、吸着部の入口側を除塵部として構成し、器体に加熱生成物の排気口を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0019】
また請求項3では、空気入口と空気出口を設けた断熱性の器体内に、吸着剤を充填した吸着部を設けると共に、吸着部よりも入口側に耐熱性の除塵部を設け、吸着部と除塵部を加熱可能なヒータを設けると共に、加熱生成物の排気口を設け、空気入口と空気出口を空調系統の空気ダクトに接続する構成とした空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0020】
また請求項4では、請求項1〜3において、吸着部は、耐熱性の籠内にペレット状吸着材を充填した構成とし、器体の下側に、籠内の吸着材を出入可能な点検口を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0021】
また請求項5では、請求項3において、除塵部は、耐熱性のネットフィルタにより構成し、器体の下側にネットフィルタの点検口を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0022】
また請求項6では、請求項1〜5において、吸着部を加熱可能なヒーターを、吸着部に設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0023】
また請求項7では、請求項1〜6において、吸着部を加熱可能なヒーターを、器体の内面に設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0024】
また請求項8では、請求項3又は5において、除塵部を加熱可能なヒーターを、除塵部に設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0025】
また請求項9では、請求項1〜8において、空気入口と空気出口は、夫々耐熱性伸縮ダクトを介して空調系統の空気ダクトに接続する構成とした空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0026】
また請求項10では、請求項1〜9において、器体よりも上流側の空調系統に除塵フィルタを設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0027】
また請求項11では、請求項1〜10において、器体に加湿空気供給部を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0028】
また請求項12では、請求項1〜11において、器体よりも上流側の空調系統に加湿空気供給部を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【0029】
また請求項13では、請求項1〜12において、吸着部の上流側と下流側の差圧検出手段を設けた空気中汚染物質除去装置を提案する。
【発明の効果】
【0030】
まず請求項3の空気中汚染物質除去装置において、臭気物質、微生物粒子、アレルゲン物質などの汚染物質を含む処理対象空気が、空調系統の空気ダクトを経て空気入口から器体内に流入すると、処理対象空気中の微生物粒子とアレルゲン粒子は、金属ネットフィルタまたはカーボンファイバネットフィルタ等の耐熱性のネットフィルタ等により構成される耐熱性の除塵部において捕捉される。一方、処理対象空気中の臭気物質の多くはガス状物質であり、除塵部を通過するが、次いで吸着部に流入して、吸着部に充填された吸着材に吸着される。こうして、吸着部を通過した処理対象空気は、汚染物質が除去されて清浄空気となって空気出口を経て器体から流出し、空調系統の空気ダクトに流入して、空調に供される。
【0031】
ここで、耐熱性の除塵部をヒータにより加熱することにより、除塵部に捕捉された微生物粒子やアレルゲン粒子は焼却消滅され、加熱生成物として、微量の水と二酸化炭素および炭素化合物となる。そして水と二酸化炭素は排気口から外気に排出することができ、また炭素化合物は点検口から排出することができる。
【0032】
一方、吸着部をヒータにより加熱することにより、吸着部に充填されている吸着材に吸着された臭気物質は加熱により吸着材から脱離し、排気口から外気に排出される。
【0033】
このように必要に応じてヒータを動作させて、耐熱性の除塵部の加熱焼成及び吸着材の加熱脱離を行うことにより、空気中汚染物質の除去効果を持続させることができる。
【0034】
ヒータを動作させて加熱焼成及び加熱脱離を行わせる吸着部と除塵部は、断熱性の器体内に設けているので、器体の外側温度を安全な温度に維持することができる。
【0035】
請求項1の空気中汚染物質除去装置では、請求項1のものから、器体内の除塵部を省略したもので、この構成においては、例えば請求項10のように、器体の上流側に接続した空調系統に除塵フィルタを設けて除塵機能を発揮させることができる。
【0036】
一方、請求項2の空気中汚染物質除去装置では、吸着部の入口側を除塵部として除塵機能を発揮させることができる。
【0037】
ここで、器体の空気入口と空気出口は、夫々耐熱性伸縮ダクトを介して空調系統の空気ダクトに接続する構成とすることにより、上述した加熱焼成及び加熱脱離の前後における器体の膨張収縮を吸収することができる。
【0038】
器体又は器体よりも上流側の空調系統に加湿空気供給部を設けて、吸着部の加熱脱離に際して、加湿空気を与えることでより効果的な脱離を行うことができ、この加湿空気は加熱されることで臭気物質を効率よくかつ安全に脱離させることが出来る。
【0039】
上述した除塵部の加熱焼成と吸着部の加熱脱離は、タイマー機能を有する温度制御器により定期的に行うことができる。また吸着部の加熱脱離においては、吸着部の上流側と下流側の差圧検出手段を設け、差圧が設定値に至った際に加熱脱離を行うように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す模式的説明図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す模式的説明図である。
【図3】本発明を空調システムに応用した例を示す系統説明図である。
【図4】吸着材として活性炭を用いた本発明の空気中汚染物質除去装置に対してVOCの除去性能を測定する手順を示す流れ図である。
【図5】図4の手順により測定した結果を示すものである。
【図6】図4の手順により測定した結果を示すものである。
【図7】図4の手順により測定した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に本発明の最良の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
まず、図1は本発明の空気中汚染物質除去装置の第1の実施の形態を示すものである。
符号1は器体であり、この器体1は外周に設けた断熱材2により断熱性としており、空気入口3と空気出口4を設けている。符号5は吸着部を示すもので、吸着部5には、活性炭やゼオライト、炭素系セラミック等の加熱により再生可能な適宜の吸着材6を充填している。この実施の形態では、吸着部5は、耐熱性金属等で構成した籠内にペレット状の吸着材6を充填して構成している。吸着材6としての活性炭、ゼオライト等は、相当数の加熱脱離に耐え得るが、その補充や点検等のために器体1に点検口7を設けている。また器体1の上側には、排気口8を設けている。更に器体1には、吸着部5を加熱する加熱手段としてヒータ9(9a,9b)を設けている。即ち、この実施の形態では、吸着部5を加熱するためのヒータとして、吸着部5内に設けた、例えば線状のヒータ9aと、器体1の内面に設けた面状のヒータ9bとから構成している。この他、ヒータ9は、吸着部5を効果的に加熱可能であれば、吸着部5内のみに設けても良いし、吸着部の外側に近接して設けても良いし、適宜に設けることができる。符号10はヒータ9a,9bを制御する温度制御器であり、この温度制御器10には、ヒーター9a,9bのON時点やON時間等を設定するタイマー機能を構成している。尚、温度制御器10はタイマー機能に代えて、操作者が手動でON−OFF操作をする構成とすることもできる。
【0042】
以上の構成において、器体1の空気入口3と空気出口4は、夫々耐熱性伸縮ダクト11を介して空調系統の空気ダクト12に接続する構成としている。そしてこの実施の形態においては、器体1よりも上流側の空調系統に加湿空気供給部13と除塵フィルタ14を設けると共に、吸着部5の上流側と下流側の差圧検出手段15を設けている。尚、これらは必須ではなく、必要に応じて設けるものである。
【0043】
次に図2は本発明の空気中汚染物質除去装置の第2の実施の形態を示すもので、この第2の実施の形態は、第1の実施の形態の装置の器体1内に除塵部を設けたものである。従って第1の実施の形態と同様な構成要素には、同一の符号を付して重複する説明は省略する。
即ち、この第2の実施の形態では、器体1内の吸着部5よりも入口側に耐熱性の除塵部16を設けると共に、この除塵部16を加熱可能なヒータ17を設け、そして器体1には、吸着部5と同様に、加熱生成物の排気口18と点検口19を設けた構成である。
【0044】
ここで、耐熱性の除塵部16は、例えば金属製やカーボンファイバー製のネットフィルタにより構成することができる。そして、このネットフィルタに近接して、それを加熱するためのヒータとして、例えば複数の線状のヒータを並設した構成とすることができる。
【0045】
以上の図2の構成の空気中汚染物質除去装置において、臭気物質、微生物粒子、アレルゲン物質などの汚染物質を含む処理対象空気は、器体1の上流側において、除塵フィルタ14により塵埃が除去された後、空調系統の空気ダクト12を経て空気入口3から器体1内に流入する。流入した処理対象空気中の微生物粒子とアレルゲン粒子は、上述したように金属ネットフィルタまたはカーボンファイバネットフィルタ等の耐熱性のネットフィルタ等により構成される耐熱性の除塵部17において捕捉される。一方、処理対象空気中の臭気物質の多くはガス状物質であるから、除塵部を通過するが、次いで吸着部5に流入し、吸着部5に充填された吸着材6に吸着される。
【0046】
こうして、吸着部5を通過した処理対象空気は、上述したような汚染物質が除去されて清浄空気となって、空気出口4を経て器体1から流出し、空調系統の空気ダクト12に流入して、空調に供される。
【0047】
除塵部16に捕捉されて溜まった微生物粒子やアレルゲン粒子は、ヒータ17をONとして除塵部16を加熱することで、焼却消滅することができる。即ち、溜まった微生物粒子やアレルゲン粒子は、加熱生成物として、微量の水と二酸化炭素および炭素化合物となるので、水と二酸化炭素は排気口18から外気に排出することができ、また炭素化合物は点検口19から排出することができる。
【0048】
一方、吸着部5をヒータ9a,9bにより加熱することにより、吸着部5に充填されている吸着材6に吸着された臭気物質は加熱により吸着材6から脱離し、排気口8から外気に排出される。
【0049】
吸着材6に吸着されたアンモニア、VOC等の臭気物質の多くは、200〜350℃程度の昇温と通気により、脱離することができる。例えば、試作装置を用いて脱離性を実験により検証したところ、VOCは通気量:1.5(m3/h)、加熱温度:約250〜350℃、加熱時間:3hでほぼ100%除去できた。そして加熱時には、器体1内において加熱された空気は臭気物質と共に排気口8から効果的に排出できた。
【0050】
このように、この実施の形態の空気中汚染物質除去装置では、必要に応じてヒータ17又はヒータ9a,9bを動作させて、耐熱性の除塵部16の加熱焼成及び吸着材6の加熱脱離を行うことにより、空気中汚染物質の除去効果を持続させことができる。
【0051】
ヒータ17又はヒータ9a,9bを動作させて加熱焼成及び加熱脱離を行わせる吸着部5と除塵部16は、断熱材2で覆った断熱性の器体1内に設けているので、器体1の外側温度を安全な温度に維持することができる。上記試作装置においてヒータ9a,9bの動作時の器体1の表面温度を測定すると38℃以下であり、火傷や火災等の危険性がなく、安全性が確認された。
【0052】
この実施の形態においては、器体1よりも上流側の空調系統に加湿空気供給部13を設けており、上述した吸着部5の加熱脱離に際して、加湿空気を与えることができ、この加湿空気により、臭気物質を効率よく、かつ安全に脱離させることができる。この実施の形態では、加湿空気供給部13は器体1よりも上流側の空調系統に設けているが、器体1内に直接的に供給可能な構成とすることもできる。
【0053】
また、この実施の形態では、除塵部16の加熱焼成と吸着部5の加熱脱離を、タイマー機能を有する温度制御器10により定期的に行うようにすることができる。また吸着部5の加熱脱離においては、吸着部5の上流側と下流側の差圧検出手段15を設け、差圧が設定値に至った際に加熱脱離を行うように構成することもできる。上述したとおり、温度制御器10は、上述したとおり、タイマー機能に代えて、操作者が手動でON−OFF操作をするように構成することもできる。
【0054】
図1に示す第1の実施の形態では、第2の実施の形態の構成から、器体1内の除塵部16を省略したものであるから、その動作は自明であるので説明は省略する。
【0055】
しかしながら第1の実施の形態においては、吸着部5の入口側を除塵部16として構成することもできる。即ち、吸着部5を構成する籠の少なくとも入口側を、上記ネットフィルタ17と同様な金属ネットやカーボンファイバネットにより構成することにより、吸着部5の入口側を除塵部16として構成することもできる。
【0056】
更に、この実施の形態においては、器体1の空気入口3と空気出口4は、夫々耐熱性伸縮ダクト11を介して空調系統の空気ダクト12に接続する構成としているので、上述した加熱焼成及び加熱脱離の前後における器体1の膨張収縮を吸収することができる。
【0057】
次に図3は本発明に係る空気中汚染物質除去装置を循環型換気システムに応用した実施の形態を示すものである。
符号20は給気ファンであり、この給気ファン20から室内に至る給気経路21、屋外から給気ファン20に至る外気取入経路22及び室内から給気ファン20に至る循環経路23を構成している。一方、符号24は排気ファンであり、室内から排気ファン24を経て屋外に至る排気経路25を構成している。符号25a,25b,25cは、浴室、洗面所、便所等の各所からの排気経路を示すものである。
【0058】
そして循環経路23に本発明に係る空気中汚染物質除去装置を構成する器体1を配置しており、また浴室からの排気経路25aから分岐して加湿空気供給経路26を構成し、この加湿空気供給経路26を上記加湿空気供給部13に接続している。符号27a,27bは経路開閉手段のダンパーである。
【0059】
尚、図3において、記号OAは外気(Outside
Air)、SAは給気(Supply Air)、RAは循環空気(Return Air)、EAは排気(Exhaust Air)を示すものである。
【0060】
以上の構成において循環経路23の経路開閉手段27bを開とすると共に、加湿空気供給経路26の経路開閉手段27aを閉とした状態において、上述した動作により、本発明の空気中汚染物質除去装置を用いて空気中汚染物質の除去を行うことができる。また循環経路23の経路開閉手段27bを閉として、除塵部(図示省略)の加熱焼成と吸着部5の加熱脱離を行うことができる。また吸着部5の加熱脱離においては、加湿空気供給経路26の経路開閉手段27aを開として、浴室の排気を加湿空気供給経路26から加湿空気供給部13を経て器体1内に供給することにより、上述したように臭気物質を効率よく、かつ安全に脱離させることができる。
【0061】
次に図4は、吸着材として活性炭を用いた本発明の空気中汚染物質除去装置に対してVOCの除去性能を測定する手順を示すもので、また図5〜図7はその測定結果を示すものである。
図4に示すように、この測定では、まず、活性炭の初期能力を求める濃度減衰法除去試験を行う。一般に、吸着材としての活性炭にはホルムアルデヒドの除去能力の向上を図って添着剤が付加されており、この濃度減衰法除去試験では、添着剤がある状態での活性炭による各種VOCの除去能力を測定するものである。
次いで吸着部をヒータにより加熱して活性炭の添着剤を脱離する。
次いで活性炭の添着剤を脱離した後に、再び濃度減衰法除去試験を行って、添着剤が内状態での活性炭による各種VOCの除去能力を測定する。
次いで吸着部に高濃度のトルエンガスを供給して吸着材を汚染し、この状態において、再び濃度減衰法除去試験を行って、トルエン汚染後の活性炭による各種VOCの除去能力を測定する。
次いで吸着部をヒータにより加熱して活性炭を除去性能の回復を図り、その後に再び濃度減衰法除去試験を行って、加熱による回復後の活性炭による各種VOCの除去能力を測定する。
【0062】
図5は各種のVOCに対しての活性炭の除去能力の変化を示すもので、左欄のデータは初期性能に対しての添着剤脱離後の性能の変化を示すものである。また中央欄のデータは、左欄の性能に対してのトルエン汚染後の性能の変化を示すものである。更に右欄は左欄の性能に対しての加熱による活性炭の回復後の性能の変化を示すものである。
【0063】
更に図6は初期から図5の3局面の性能の変化を、VOCとしてホルムアルデヒドに着目して示すものである。同様に、図7は初期から図5の3局面の性能の変化を、VOCとしてトルエンに着目して示すものである。
【0064】
以上の図5〜図7の測定結果から次のことが分かる。
1.吸着部を加熱し、ホルムアルデヒドの除去を意図した添着剤を脱離させることにより、ホルムアルデヒド除去能力(相当換気量)は初期性能の49.9%に劣化した。一方、他のVOCでは吸着性能に大きな性能の劣化はなく、各物質毎の除去率の平均では、95.8%であり、数%の低下に留まっている。また物質によっては、アセトン(110%)、メチルエチルケトン(112%)、ブタノール(133%)、ベンゼン(128%)、o−キシレン(120%)等、添着剤の除去により、除去率が増大する物質も確認された。このことから、ホルムアルデヒドの除去を意図した添着剤を意図的に除去することにより、ある種のVOCの除去率を向上させることが分かる。
2.添着剤を脱離させた吸着部の活性炭に高濃度トルエンガスを通して破過させたところ、物質毎の除去能力の変化が明らかになった。トルエンでの除去性能の低下は著しく、添着剤脱離後の除去性能の13.5%までに劣化した。即ち低下率は86.5%である。一方、ホルムアルデヒドについては汚染前の74.5%であり、低下率は25.5%に留まった。また他のVOCでは殆ど影響を受けないものが多い。従ってこの除去装置において、ホルムアルデヒド除去性能は、VOC単体ガスによる汚染に対して影響を受けにくいことが分かった。
3.トルエンガスで汚染された吸着部の活性炭に対しての加熱脱離条件は下記の条件であり、トルエンの除去能力は添着剤脱離後の性能と比較して13.5%から95.4%となり、大きな回復性を示した。一方、ホルムアルデヒドは、上述したとおり、VOC単体ガスによる汚染に対して影響を受けにく、添着剤脱離後と比較して77.9%まで回復した。また、その他のVOCでは、略100%の回復性を示し、100%を越えるものもある。
加熱脱離条件
・通気量:1.5[m3/h]、加熱温度:350[°C]、加熱時間:5[h]
・供給空気の温度:28.6から36[°C]
・相対湿度:50±1[%]
【0065】
本発明に係る空気中汚染物質除去装置は、以上の通りであり、フィルタの臭気発生要因を化学的に除外するという画期的な特徴がある。
【0066】
(1)臭気物質
a.従来技術は空調機や空気清浄機などに搭載する臭気物質除去装置の除去性能の持続性が極めて短い欠点を持っていた。この問題に対し、本発明の装置では、活性炭等の吸着材を定期的に加熱脱離するものであり、これにより吸着性能が定期的に初期性能まで回復し、その臭気物質除去性能を永続的なものとした。
b.臭気物質を除去する吸着部に付随して除塵部を設け、この除塵部は、金属フィルタ、カーボンフィルタ、ヒータ等で構成される新規な加熱焼成型フィルタとして構成されているので、捕集微生物粒子の定期的焼成除去を行うことができれる。これにより、臭気物質を生成するMVOCが発生しない。
c.空気中に含まれる臭気物質のフィルタ内蓄積と再放散問題を根本的に防止できる。
【0067】
(2)微生物粒子、アレルゲン粒子
空調機や空気清浄機などに搭載される従来の除塵装置では、ある種の微生物粒子やアレルゲン粒子が、機器内で増殖するケースがあり、当該問題の解決が急務の課題であった。これに対して本発明の装置では上述したとおり、加熱焼成型フィルタとして動作する除塵部を設けているため、これに捕集された微生物粒子は、定期的に焼成除去されるため、粉塵除去装置からの当該物質の増殖と発生が起こらず、連続的に微生物、アレルゲン粒子を除去でき、かつ再放散問題が根本的に解決できる。
【0068】
(3)抗菌剤を含むフィルタが持つ課題
抗菌剤を含浸・コートした粉塵除去フィルタが有するような、抗菌剤の揮発に伴う室内汚染問題が回避でき、室内での制菌剤汚染問題が解決する。また、抗菌剤の揮発・劣化および湿度上昇に伴うフィルタ内微生物汚染が根本的に解決できる。
【0069】
尚、本発明に係る空気中汚染物質除去装置は、吸着部5を加熱するヒーター9a,9bや除塵部16を過熱するヒーター17を、通過空気に対する本来の目的(微生物粒子やアレルゲン粒子の焼却消滅等)の利用以外に昇温の目的(予備暖房等)として利用することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1 器体
2 断熱材
3 空気入口
4 空気出口
5 吸着部
6 吸着材
7 点検口
8 排気口
9(9a,9b) ヒータ
10 温度制御器
11 耐熱性伸縮ダクト
12 空気ダクト
13 加湿空気供給部
14 防塵フィルタ
15 差圧検出手段
16 除塵部
17 ヒータ
18 排気口
19 点検口
20 給気ファン
21 給気経路
22 外気取入経路
23 循環経路
24 排気ファン
25(25a,25b,25c) 排気経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入口と空気出口を設けた断熱性の器体内に、吸着剤を充填した吸着部を設けると共に、吸着部を加熱可能なヒーターを設け、更に加熱生成物の排気口を設け、空気入口と空気出口を空調系統の空気ダクトに接続する構成としたことを特徴とする空気中汚染物質除去装置。
【請求項2】
吸着部の入口側を除塵部として構成し、器体に加熱生成物の排気口を設けたことを特徴とする請求項1に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項3】
空気入口と空気出口を設けた断熱性の器体内に、吸着剤を充填した吸着部を設けると共に、吸着部よりも入口側に耐熱性の除塵部を設け、吸着部と除塵部を加熱可能なヒータを設けると共に、加熱生成物の排気口を設け、空気入口と空気出口を空調系統の空気ダクトに接続する構成としたことを特徴とする空気中汚染物質除去装置。
【請求項4】
吸着部は、耐熱性の籠内にペレット状吸着材を充填した構成とし、器体の下側に、籠内の吸着材を出入可能な点検口を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項5】
除塵部は、耐熱性のネットフィルタにより構成し、器体の下側にネットフィルタの点検口を設けたことを特徴とする請求項3に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項6】
吸着部を加熱可能なヒーターを、吸着部に設けたことを特徴とする請求項1〜5までのいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項7】
吸着部を加熱可能なヒーターを、器体の内面に設けたことを特徴とする請求項1〜6までのいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項8】
除塵部を加熱可能なヒーターを、除塵部に設けたことを特徴とする請求項3又は5に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項9】
空気入口と空気出口は、夫々耐熱性伸縮ダクトを介して空調系統の空気ダクトに接続する構成としたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項10】
器体よりも上流側の空調系統に除塵フィルタを設けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項11】
器体に加湿空気供給部を設けたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項12】
器体よりも上流側の空調系統に加湿空気供給部を設けたことを特徴とする請求項1〜11までのいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。
【請求項13】
吸着部の上流側と下流側の差圧検出手段を設けたことを特徴とする請求項1〜12までのいずれか1項に記載の空気中汚染物質除去装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167073(P2010−167073A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11846(P2009−11846)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(301071022)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(509023171)大成建設ハウジング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】