説明

空気入りタイヤ、及びタイヤの更生方法

【課題】導電性ゴム材の使用量を低く抑えながら導電性を確保する。
【解決手段】トレッドゴムは、帯状のトレッドゴム部材がタイヤ周方向に一周巻きされるトレッドゴム本体と、その周方向両端面間を接着するトレッド接着層とからなる。前記トレッドゴム本体は、トレッド接地面の一部をなしかつ該トレッドゴム本体を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびる接地ゴム部を有する。サイドウォール部に、半径方向外端部がトレッド接着層と接しかつ半径方向内端部がクリンチゴムと接するサイドゴム層が配される。接地ゴム部とトレッド接着層とサイドゴム層とクリンチゴムとが導電性ゴム材からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ゴム材の使用量を低く抑えながらタイヤの導電性を確保しうる空気入りタイヤ、及びタイヤの更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の低燃費性を高め、かつ排気ガスの低減化を促進するために、カーボンに代えてシリカをトレッドゴムの補強剤として用いたタイヤが提案されている。このものは、低温側でのヒステリシスロスが高く維持されるため、優れたウエットグリップ性能を発揮する一方、高温側でのヒステリシスロスが低いため、転がり抵抗が減じるなど低転がり抵抗性能とウエットグリップ性能とを両立させるという利点がある。しかしその反面、シリカは電気絶縁性が高いため、タイヤの電気抵抗の増加を招き、静電気が車両に蓄積されることによりラジオノイズ等の電波障害を引き起こすなど、多くの電気的誤動作の原因となる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、図9(A)に略示するように、トレッドゴムaを、高シリカ配合とした絶縁性ゴム材からなるキャップゴム層bと、その半径方向内側に配されかつ高カーボン配合とした導電性ゴム材からなるベースゴム層cとの2層構造とするとともに、このべ―スゴム層cに、前記キャップゴム層bを貫通してのびトレッド接地面で露出する貫通端子部c1を形成する構造(所謂ベースペン構造)が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このようなベースペン構造のトレッドゴムaは、ゴムの押出成形によって形成されるが、前記貫通端子部c1の巾が狭い場合、貫通端子部c1が内部で途切れて導通しなくなる可能性が生じる。しかしそのとき、内部の途切れjを容易に判別することが難しく、最終的にはタイヤ全数の導通検査が必要となる。従って、内部の途切れ防止のために、貫通端子部c1の巾を充分確保する必要があり、カーボンの使用量削減に不利を招く。
【0005】
他方、下記の特許文献2には、図9(B)に略示するように、トレッドリング形成工程において、帯状のトレッドゴム部材eをタイヤ周方向に一周巻きしてその周方向両端面間を貼り合わす際、カーボン溶液を塗布して端面間にカーボン層fを形成することが提案されている。しかしこのものは、カーボン層fがタイヤ1回転に対して1度だけ、しかも瞬間的にしか接地しないため、放電性能が不充分である。又カーボン層fが一箇所しか形成されないため、偏摩耗などにより接地不良が発生した場合、放電性能が発揮されなくなるという問題も生じる。
【0006】
なお上記提案のタイヤは何れも、他のタイヤゴム部材、例えばトレッド補強コード層のトッピングゴム、カーカスのトッピングゴム、サイドウォールゴム、クリンチゴムなどを導電性ゴム材で形成し、前記べ―スゴム層c或いはカーボン層fからリムへの導電路を形成している。しかし、近年、低燃費性を促進するために、前記トッピングゴム、サイドウォールゴムなども高シリカ配合とした絶縁性ゴム材で形成することが望まれており、係る場合には、新たな導電路の確保も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−175403号公報
【特許文献2】特開2002−225154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、導電性ゴム材の使用量を低く抑えながらタイヤの導電性を安定して確保でき、優れた放電性能を信頼性高く発揮しうる空気入りタイヤ、及びタイヤの更生方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、該カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるトレッド補強コード層と、前記トレッド補強コード層の半径方向外側に配されるトレッドゴムと、前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴムと、前記ビード部に配されかつリムとの接触面を有するリムずれ防止用のクリンチゴムとを具える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムは、帯状のトレッドゴム部材がタイヤ周方向に一周巻きされるトレッドゴム本体と、このトレッドゴム本体の周方向両端面間を接着するトレッド接着層とからなり、
しかも前記トレッドゴム本体は、トレッド接地面の一部をなしかつ該トレッドゴム本体を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびる接地ゴム部を有し、
かつ前記サイドウォール部に、半径方向内外にのびかつ半径方向外端部が前記トレッド接着層と接しかつ半径方向内端部が前記クリンチゴムと接するサイドゴム層が設けられるとともに、
前記接地ゴム部とトレッド接着層とサイドゴム層とクリンチゴムとが体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材からなることにより、前記接地ゴム部とトレッド接着層とサイドゴム層とクリンチゴムとにより前記トレッド接地面からリムに至る導電路を形成したことを特徴としている。
【0010】
又請求項2の発明では、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続してのびる周方向主溝を有し、かつ前記接地ゴム部は、周方向主溝の溝壁面に沿う壁面層部と、溝底に沿う底面層部とからなるとともに、前記壁面層部と底面層部とは厚さを1.0mm以下としたことを特徴としている。
【0011】
又請求項3の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤの更生方法であって、前記トレッドゴムを前記トレッド補強コード層の近傍までバフ掛けすることにより、バフ掛け面に前記トレッド接着層を露出させた台タイヤを形成する台タイヤ形成工程と、
前記バフ掛け面にゴム糊を塗布して台タイヤ接着層を形成する接着剤塗布工程と、
加硫かつトレッドパターンを予め設けた帯状のリトレッドゴムを、前記台タイヤ接着層上でタイヤ周方向に一周巻きし、かつその周方向両端面間をゴム糊の塗布によるリトレッド接着層によって接合するリトレッドゴム貼り付け工程と、
前記リトレッドゴム付きの台タイヤを加熱して前記リトレッドゴムと台タイヤとを一体化する加熱工程とを含み、
しかも前記リトレッドゴムは、トレッド接地面の一部をなしかつ該リトレッドゴムを半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびるリトレッド接地ゴム部を有するとともに、
前記リトレッド接地ゴム部とリトレッド接着層と台タイヤ接着層とが、体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材からなることにより、前記リトレッド接地ゴム部とリトレッド接着層と台タイヤ接着層とにより、台タイヤの前記トレッド接着層に導通するリトレッド導電路を形成したことを特徴としている。
【0012】
又請求項4の発明では、前記ゴム糊は、溶媒中に、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを30質量部以上を含有させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、タイヤ周方向に一周巻きされるトレッドゴム部材の周方向両端面間を、トレッド接着層によって接着するとともに、トレッドゴム本体に接地ゴム部を形成し、かつこの接地ゴム部とトレッド接着層とを導電性ゴム材にて形成している。
【0014】
しかも前記接地ゴム部は、トレッド接地面の一部をなし、かつ前記トレッドゴム本体を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびる。従って前記接地ゴム部は、タイヤが転動する際、路面とトレッド接着層との間を、常時安定して導通させることができ、偏摩耗などが発生した場合にも、優れた放電性能を信頼性高く発揮することができる。
【0015】
又前記接地ゴム部は、トレッド接着層と組合せることで、トレッドゴムを半径方向内外に貫通する必要がなくなる。即ち、前述の貫通端子部c1(図9(A)に示す。)を用いた場合における、途切れjに起因する導通不良が発生しないため、タイヤ全数の導通検査が不要となり、生産効率を高めることができる。しかも半径方向内外に貫通させないため、導電性ゴム材のゴム量を低く抑えることができ低燃費性の向上に大きく貢献しうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】(A)はトレッドゴムを示す周方向の断面図、(B)はそのトレッド接着層を示す拡大断面図である。
【図3】接地ゴム部を拡大して示す断面図である。
【図4】(A)は接地ゴム部の形成方法を説明する断面図、(B)はそれに用いるトレッドゴム部材の他の例を示す断面図である。
【図5】導電路を概念的に示す斜視図である。
【図6】(A)は台タイヤ形成工程を示す断面図、(B)は接着剤塗布工程を示す断面図である。
【図7】(A)はリトレッドゴム貼り付け工程を示す断面図、(B)はそのリトレッド接着層を拡大して示す周方向の断面図である。
【図8】空気入りタイヤの他の実施例を示す断面図である。
【図9】(A)、(B)は従来技術を示す説明図である。
【図10】タイヤの電気抵抗の測定方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
図1において、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、該カーカス6の半径方向外側かつ前記トレッド部2の内部に配されるトレッド補強コード層9と、前記トレッド補強コード層9の半径方向外側に配されるトレッドゴム10と、前記カーカス6のタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴム11と、前記ビード部4に配されかつリムRとの接触面12Sを有するリムずれ防止用のクリンチゴム12とを具える。特に本例では、空気入りタイヤ1が、摩耗寿命となったトレッドゴムを貼り替え、更生タイヤとして再使用される更生用の重荷重用タイヤである場合が示される。
【0018】
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して70〜90°の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るプライ本体部6aの両側に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に具える。又前記プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5から半径方向外側に向かって先細状に立ち上がるビードエーペックスゴム8が設けられ、ビード部4からサイドウォール部3にかけて補強し、横剛性を高めている。
【0019】
又前記トレッド補強コード層9は、例えばベルトコードを傾斜配列させた所謂ベルト層7であって、本例では、カーカス側から半径方向外側に向かって順次重なる第1〜第4のベルトプライ7A〜7Dによって形成される。前記第1のベルトプライ7Aのベルトコードのタイヤ周方向に対する角度は、例えば35〜70°、第2〜4のベルトプライ7B〜7Dのベルトコードのタイヤ周方向に対する角度は、例えば15〜35°であって、前記第2のベルトプライ7Bのベルトコードの傾斜の向きを、第3、4のベルトプライ7C、7Dのベルトコードの傾斜の向きと逆向きとしている。これによってベルトコードを交差させ、ベルト剛性を高めて、トレッド部2を強固に補強している。
【0020】
なお乗用車用タイヤの場合には、ベルト層7を少なくとも1枚、通常2枚のベルトプライによって形成される。又トレッド補強コード層9を、前記ベルト層7と、その半径方向外側に配されかつバンドコードをタイヤ周方向に螺旋巻きしたバンドプライからなるバンド層とで構成することもできる。又一部の自動二輪車用タイヤのように、バンド層のみによりトレッド補強コード層9を構成しうるなど、トレッド補強コード層9は、タイヤのカテゴリに応じて適宜構成することができる。
【0021】
又前記カーカス6がショルダー側で円弧に湾曲することにより、前記ベルト層7は、そのタイヤ軸方向外端部がタイヤ軸方向外方に向かって前記カーカス6から除々に離間している。そしてこの離間部分には、前記カーカス6の湾曲形状を保持するとともに、ベルト端での応力集中を緩和する目的で、クッションゴム19が配される。
【0022】
又前記トレッドゴム10は、前記トレッド補強コード層9の半径方向外側に配され、かつ走行時に路面と接地するトレッド接地面2Sを外表面に有する。このトレッドゴム10は、図2(A)、(B)に周方向断面を略示するように、生タイヤ形成時に帯状のトレッドゴム部材20aがタイヤ周方向に一周巻きされるトレッドゴム本体20と、このトレッドゴム本体20の周方向両端面20S、20S間を接着するゴム糊21aからなるトレッド接着層21とから形成される。
【0023】
又前記トレッドゴム本体20は、図1、3に示すように、トレッド接地面2Sの一部をなしかつ該トレッドゴム本体20を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびる接地ゴム部22を有する。この接地ゴム部22は、その半径方向最内部のトレッド接地面2Sからの深さH1は、摩耗限界深さH0以上であることが好ましく、これにより摩耗末期まで放電性能を発揮することができる。前記摩耗限界深さH0とは、タイヤの交換時期を示す所謂ウエアインジケーター23の深さであって、このウエアインジケーター23は、四輪車用タイヤの場合、トレッド部2に形成されるトレッド溝のうち、最も深いトレッド溝の溝底に、該溝底から約1.6mmの隆起高さで形成される。本例ではトレッド部2に、タイヤ周方向に連続してのびる少なくとも1本(本例では4本の)の周方向主溝24が設けられ、この周方向主溝24が前記最も深いトレッド溝を構成している。
【0024】
前記接地ゴム部22は、低燃費性の観点からそのゴムボリュームは小なほど好ましい。従って、本例の接地ゴム部22は、図3の如く、前記周方向主溝24の溝壁面24aに沿う壁面層部22aと、溝底24bに沿う底面層部22bとから形成される。しかも前記壁面層部22aと、底面層部22bとの厚さt1を、それぞれ1.0mm以下とすることで、接地ゴム部22のゴムボリュームを最小限に抑えることができる。なお各周方向主溝24に、接地ゴム部22を形成する必要はなく、本例の如く1本の周方向主溝24のみに接地ゴム部22を形成することができる。
【0025】
このような接地ゴム部22は、図4(A)に概念的に示すように、トレッドゴム部材20aを押出し成形する際、周方向主溝24の形成位置に、接地ゴム部22形成用の薄いゴム層22Gを形成し、加硫成型時、加硫金型30の溝形成凸部30Rがトレッドゴム部材20a内に押し入ることにより、前記接地ゴム部22を形成することができる。又前記薄いゴム層22Gは、トレッドゴム部材20aの押出し成形によって形成する必要はなく、図4(B)に示すように、トレッドゴム部材20aを押出し成形した後、その表面上に薄いゴムシートを貼り付けることで前記ゴム層22Gを形成することもできる。
【0026】
次に、前記サイドウォールゴム11は、前記図1に示す如く、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配され、本例ではサイドウォール部3の外表面を形成する。本例のサイドウォールゴム11は、その半径方向外端部が前記トレッドゴム10のタイヤ軸方向外側面10Esを覆う所謂SOT(サイドウォール・オーバー・トレッド)構造をなす。又前記クリンチゴム12は、ビード部4の外側面をなしビードヒール部分4hからリムフランジの上端を半径方向外方に超えた高さ位置まで立ち上がるクリンチ基部12Aと、ビード底面をなしかつ前記クリンチ基部12Aからビードトウ部分4tまでのびるクリンチ底部12Bとを含んで構成される。
【0027】
又前記サイドウォール部3には、半径方向内外にのびかつ半径方向外端部が前記トレッド接着層21と接しかつ半径方向内端部が前記クリンチゴム12と接するサイドゴム層13が設けられる。本例のサイドゴム層13は、前記サイドウォールゴム11の内表面に隣接してのび、そのタイヤ半径方向外端部13Eaが、前記トレッドゴム10のタイヤ軸方向外側面10Esに重置することにより前記トレッド接着層21と接触しうる。又サイドゴム層13のタイヤ半径方向内端部13Ebが、前記クリンチゴム12の内表面に重置することにより該クリンチゴム12と接触しうる。
【0028】
そして本実施形態のタイヤ1では、前記接地ゴム部22と、トレッド接着層21と、サイドゴム層13と、クリンチゴム12とを、体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材によって形成している。なお他のゴム部材は、体積固有抵抗が1×10Ωcm以上の絶縁性ゴム材によって形成している。これにより、図5に概念的に示すように、前記接地ゴム部22と、トレッド接着層21と、サイドゴム層13、とクリンチゴム12とにより、前記トレッド接地面2Sからリムに至る導電路14を形成することができる。なお図5には、便宜上、サイドゴム層13およびクリンチゴム12をタイヤ軸方向一方側のみ記載し、他方側のサイドゴム層13およびクリンチゴム12を省略して描いている。しかし要求により、サイドゴム層13を一方側のみに形成し、かつサイドゴム層13を形成しない側のクリンチゴム12を、絶縁性ゴム材によって形成することもできる。なお前記トレッド接着層21及びサイドゴム層13の厚さt2、t3は、特に規制されないが、前記厚さt1と同様、低燃費性の観点から1.0mm以下が好ましく、又導電性の観点から0.2mm以上が好ましい。
【0029】
ここで、導電性ゴム材として、本例では、ゴム補強剤としてカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上、好ましくは40質量部以上含有することにより電気抵抗を減じた高カーボン配合ゴムを使用している。なおカーボンブラックの含有量の上限は、各ゴム部材に要求されるゴム物性に応じて適宜設定される。前記ゴム成分としては、例えば天然ゴム(NR)、ブタジエンの重合体であるブタジエンゴム(BR)、いわゆる乳化重合のスチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)、イソプレンの重合体である合成ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であるニトリルゴム(NBR)、クロロプレンの重合体であるクロロプレンゴム(CR)などのジエン系ゴムを挙げることができ、これらを単独で、又は2種以上をブレンドして使用する。前記導電性ゴム材には、各ゴム部材に要求されるゴム物性に応じて、例えば加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤などの一般的なゴム用添加剤が適宜配合される。
【0030】
又前記絶縁性ゴム材として、低転がり抵抗性能を高めるためにゴム補強剤としてシリカを、ゴム成分100質量部に対して20質量部以上、好ましくは30質量部以上含有した高シリカ配合ゴムを使用している。このシリカの含有量の上限も、各ゴム部材に要求されるゴム物性に応じて適宜設定される。なお要求により、シリカに加えてカーボンブラックをゴム補強剤として補助的に配合することも可能であるが、その配合量は、前記シリカの配合量よりも小であり、好ましくはシリカの配合量の40%以下、さらには30%以下とする。又前記ゴム成分としては、前述のジエン系ゴムが使用しうる。この絶縁性ゴム材にも、各ゴム部材に要求されるゴム物性に応じて、例えば加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤などの一般的なゴム用添加剤が適宜配合される。
【0031】
次に、前記空気入りタイヤ1の更生方法について説明する。この更生方法は、
(1)空気入りタイヤ1の前記トレッドゴム10を、前記トレッド補強コード層9の近傍までバフ掛けすることにより、バフ掛け面31に、前記トレッド接着層21を露出させた台タイヤ32を形成する台タイヤ形成工程(図6(A)に示す。)と、
(2)前記バフ掛け面31にゴム糊33aを塗布して台タイヤ接着層33を形成する接着剤塗布工程(図6(B)に示す。)と、
(3)加硫かつトレッドパターンを予め設けた帯状のリトレッドゴム34を、前記台タイヤ接着層33上でタイヤ周方向に一周巻きし、かつその周方向両端面34Es、34Es間をゴム糊35aの塗布によるリトレッド接着層35によって接合するリトレッドゴム貼り付け工程(図7(A)、(B)に示す。)と、
(4)前記リトレッドゴム付きの台タイヤ32を加熱し、前記リトレッドゴム34と台タイヤ32とを一体化する加熱工程(図示しない。)とを含む。
【0032】
なお前記リトレッドゴム34は、トレッド接地面2Sの一部をなしかつ該リトレッドゴム34を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびるリトレッド接地ゴム部36を有する。本例のリトレッド接地ゴム部36は、前記接地ゴム部22と同様、周方向主溝24の溝壁面24aに沿う壁面層部36aと、溝底24bに沿う底面層部36bとから形成している。
【0033】
そして、前記リトレッド接地ゴム部36と、リトレッド接着層35と、台タイヤ接着層33とは、前記加熱処理後の体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材から形成されている。これにより、前記リトレッド接地ゴム部36と、リトレッド接着層35と、台タイヤ接着層33とにより、台タイヤ32の前記トレッド接着層21に導通するリトレッド導電路を形成することができる。即ち、更生タイヤ1Nにも、更生前のタイヤと同様に放電性能を付与することができる。
【0034】
なお前記ゴム糊32a、34aとしては、溶媒中に、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを30質量部以上を含有させたものが好適に採用しうる。
【0035】
又図8に、空気入りタイヤ1が乗用車用タイヤであり、又サイドウォールゴム11の半径方向外端部が、前記トレッドゴム10のタイヤ半径方向内面10Eiに覆われる所謂TOS(トレッド・オーバー・サイドウォール)構造をなす場合が例示される。係る構造の場合には、前記サイドゴム層13は、前記サイドウォールゴム11の外表面に隣接してのび、そのタイヤ半径方向外端部13Eaが、前記トレッドゴム10のタイヤ半径方向内面10Eiに重置することにより前記トレッド接着層21と接触しうる。又サイドゴム層13のタイヤ半径方向内端部13Ebが、前記クリンチゴム12の外表面に重置することにより該クリンチゴム12と接触しうる。
【0036】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0037】
図1に示す基本構造を有する重荷重用タイヤ(10.00R20)を、表1の仕様に基づき試作するとともに、トレッド接着層以外の位置で接地させたときのタイヤの電気抵抗を測定した。
【0038】
なお、接地ゴム部、トレッド接着層、サイドゴム層、及びクリンチゴム以外のゴム部材には、全て高シリカ配合とした体積固有抵抗が1×10Ωcm以上の絶縁性ゴム材を使用している。又接地ゴム部、トレッド接着層、サイドゴム層、及びクリンチゴムには、高カーボン配合とした導電性ゴム材を使用した。実施例に用いた導電性ゴム材の体積固有抵抗は、1×10Ωcmであった。なお絶縁性ゴム材、導電性ゴム材ともにゴム成分として天然ゴム(NR)を使用し、各ゴム部材に要求されるゴム物性に応じて、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤などの一般的なゴム用添加剤を適宜配合している。
【0039】
又図8に示す基本構造を有する乗用車用ラジアルタイヤ(195/65R15)についても、電気抵抗を測定した。
【0040】
(1)タイヤの電気抵抗;
図10に示すように、絶縁板41(電気抵抗値が1012Ω以上)と、該絶縁板41の上に設置された導電性の金属板42(電気抵抗値は10Ω以下)と、タイヤ・リム組立体Tを保持する導電性のタイヤ取付軸43と、電気抵抗測定器44とを具えた測定装置を用い、JATMA規定に準拠してタイヤとリムの組立体の電気抵抗値を測定した。測定条件は、次の通りである。
リム材料:アルミニウム合金製
内圧:200kPa
荷重:5.3kN
試験環境温度(試験室温度):25℃
湿度:50%
電気抵抗測定器の測定範囲:10 〜1.6×1016Ω
試験電圧(印可電圧):1000V
【0041】
【表1】

【0042】
テストの結果、実施例のタイヤは、トレッド接着層以外の位置で接地させても導電性を確保でき、放電効果を発揮しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0043】
2 トレッド部
2S トレッド接地面
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
9 トレッド補強コード層
10 トレッドゴム
11 サイドウォールゴム
12 クリンチゴム
13 サイドゴム層
14 導電路
20 トレッドゴム本体
20a トレッドゴム部材
21 トレッド接着層
21a ゴム糊
22 接地ゴム部
22a 壁面層部
22b 底面層部
24 周方向主溝
31 バフ掛け面
32 台タイヤ
33 台タイヤ接着層
33a ゴム糊
34 リトレッドゴム
35 リトレッド接着層
35a ゴム糊
36 リトレッド接地ゴム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、該カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるトレッド補強コード層と、前記トレッド補強コード層の半径方向外側に配されるトレッドゴムと、前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴムと、前記ビード部に配されかつリムとの接触面を有するリムずれ防止用のクリンチゴムとを具える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムは、帯状のトレッドゴム部材がタイヤ周方向に一周巻きされるトレッドゴム本体と、このトレッドゴム本体の周方向両端面間を接着するトレッド接着層とからなり、
しかも前記トレッドゴム本体は、トレッド接地面の一部をなしかつ該トレッドゴム本体を半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびる接地ゴム部を有し、
かつ前記サイドウォール部に、半径方向内外にのびかつ半径方向外端部が前記トレッド接着層と接しかつ半径方向内端部が前記クリンチゴムと接するサイドゴム層が設けられるとともに、
前記接地ゴム部とトレッド接着層とサイドゴム層とクリンチゴムとが体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材からなることにより、前記接地ゴム部とトレッド接着層とサイドゴム層とクリンチゴムとにより前記トレッド接地面からリムに至る導電路を形成したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続してのびる周方向主溝を有し、かつ前記接地ゴム部は、周方向主溝の溝壁面に沿う壁面層部と、溝底に沿う底面層部とからなるとともに、前記壁面層部と底面層部とは厚さを1.0mm以下としたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
請求項1に記載の空気入りタイヤの更生方法であって、前記トレッドゴムを前記トレッド補強コード層の近傍までバフ掛けすることにより、バフ掛け面に前記トレッド接着層を露出させた台タイヤを形成する台タイヤ形成工程と、
前記バフ掛け面にゴム糊を塗布して台タイヤ接着層を形成する接着剤塗布工程と、
加硫かつトレッドパターンを予め設けた帯状のリトレッドゴムを、前記台タイヤ接着層上でタイヤ周方向に一周巻きし、かつその周方向両端面間をゴム糊の塗布によるリトレッド接着層によって接合するリトレッドゴム貼り付け工程と、
前記リトレッドゴム付きの台タイヤを加熱して前記リトレッドゴムと台タイヤとを一体化する加熱工程とを含み、
しかも前記リトレッドゴムは、トレッド接地面の一部をなしかつ該リトレッドゴムを半径方向内外に貫通することなくタイヤ周方向に連続してのびるリトレッド接地ゴム部を有するとともに、
前記リトレッド接地ゴム部とリトレッド接着層と台タイヤ接着層とが、体積固有抵抗が1×10Ωcm未満の導電性ゴム材からなることにより、前記リトレッド接地ゴム部とリトレッド接着層と台タイヤ接着層とにより、台タイヤの前記トレッド接着層に導通するリトレッド導電路を形成したことを特徴とする空気入りタイヤの更生方法。
【請求項4】
前記ゴム糊は、溶媒中に、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを30質量部以上を含有させたことを特徴とする請求項3記載のタイヤの更生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−71655(P2013−71655A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213079(P2011−213079)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】