説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】タイヤ内面に空気透過防止層として、熱可塑性樹脂、もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させた熱可塑性エラストマー組成物を含む層を配置し軽量化を図った場合、このような空気透過防止層が表面に配置されたタイヤを屋外に放置しても、空気透過防止層に日光が当たって劣化し、空気透過防止機能が低下することのない、空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層をタイヤの内面に配置する工程と、前記タイヤを加硫する工程と、老化防止剤を含む劣化抑制層を前記加硫したタイヤの空気透過防止層の表面に形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ内面に空気透過防止層として、熱可塑性樹脂、もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させた熱可塑性エラストマー組成物を含む層を配置し、軽量化することが提案されている(例えば特開平8−216610号公報、特開平8−259741号公報)。しかし、このような空気透過防止層が表面に配置されたタイヤを屋外に放置した場合、空気透過防止層に日光が当たって劣化してしまい、空気透過防止機能が低下するという問題が生じる。
一般に、樹脂製品の耐候性を向上させる場合、老化防止剤を配合する手段を用いる。しかし、熱可塑性樹脂と老化防止剤との相溶性が悪く、耐候性を確保するのに十分な量の老化防止剤が配合できないことがある。また、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させた熱可塑性エラストマー組成物を製造する際に、老化防止剤がエラストマー成分の架橋を促進させてしまい、所望の組成物が得られない問題などもある。
【0003】
そこで、特開2003−127146号公報では、タイヤ加硫前に空気透過防止層に老化防止剤を塗布して耐候性を向上させる手段が提案されている。しかし、加硫前に老化防止剤を塗布した場合、加硫時の耐熱や物理的損傷を考慮して材料を選定しなければならず、選択することができる材料が限定されてしまう。更に、加硫中に老化防止剤がブラダー側へ移行することによる劣化抑制効果の低下や、移行した老化防止剤によるブラダーの物性変化などが生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−216610号公報
【特許文献2】特開平8−259741号公報
【特許文献3】特開2003−127146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐候性に優れた空気入りの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、
熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層をタイヤの内面に配置する工程と、
前記タイヤを加硫した後、老化防止剤を含む劣化抑制層を前記空気透過防止層の表面に形成する工程と、を含む。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記老化防止剤が、ヒドロキノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ヒンダードフェノール系老化防止剤、ヒンダードアミン系老化防止剤、チオジプロピオン酸系老化防止剤、メルカプトベンズイミダゾール系老化防止剤、及びリン酸エステル系老化防止剤の群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記老化防止剤の配合量が、前記劣化抑制層中の固形分に対して0.5〜50質量%であることができる。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記劣化抑制層を形成する工程は、前記空気透過防止層の表面に対して、老化防止剤を含有する組成物を水ないし有機溶媒の溶液もしくは分散液として塗布し、乾燥させる工程を含むことができる。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記劣化抑制層を形成する工程は、前記空気透過防止層の表面に対して、老化防止剤を含有する油脂類を塗布し、被膜を形成する工程を含むことができる。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
上記空気入りタイヤの製造方法において、前記空気透過防止層は更にエラストマーを含み、前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
【発明の効果】
【0007】
上記空気入りタイヤの製造方法によれば、熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層をタイヤの内面に配置する工程と、タイヤを加硫した後、老化防止剤を含む劣化抑制層を空気透過防止層の表面に形成する工程とを含むことにより、耐候性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法について具体的に説明する。

1.空気入りタイヤの製造方法
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、
熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層をタイヤの内面に配置する工程と、
前記タイヤを加硫した後、老化防止剤を含む劣化抑制層を前記空気透過防止層の表面に形成する工程と、を含む。
【0009】
本発明者らが研究を行った結果、空気透過防止層の光劣化を抑制するには、老化防止剤を含む劣化抑制層を空気透過防止層の表面に配置することが有効であると発見した。すなわち、空気透過防止層に直接老化防止剤を配合せずとも、その表面に老化防止剤を含む劣化抑制層を配置することで、劣化抑制層から空気透過防止層に老化防止剤が移行するため、タイヤの光劣化の抑制および耐候性の向上を図ることができる。
【0010】
1.1.劣化防止層の形成
空気透過防止層はタイヤ表面へ配置され、劣化抑制層は更に空気透過防止層の表面に配置されるため、外観向上の観点から、劣化抑制層に配合される汚染防止剤は非汚染性(非着色性)のものが好ましい。そのような老化防止剤としては、ヒドロキノン系老化防止剤(例えば2,5−ジ−(第三アミル)ヒドロキノン、2,5−ジ−第三−ブチルヒドロキノン)、フェノ−ル系老化防止剤(例えば2,6−ジ−第三−ブチル−4−メチルフェノ−ル(BHT)、スチレン化フェノ−ル(SP)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−第三−ブチルフェノ−ル)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−第三−ブチルフェノ−ル)、4,4’−チオビス−(6−第三−ブチル−3−メチルフェノ−ル))、ヒンダ−ドフェノ−ル系老化防止剤(例えば4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−第三−ブチルフェノ−ル)、テトラキス−〔メチレン−3−(3‘,5’−ジ−第三−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕メタン、ペンタエリスリト−ル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕(Irganox1010))、ヒンダ−ドアミン系老化防止剤(例えばビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト(Tinuvin770)、こはく酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重合物(Tinuvin622LD))、チオジプロピオン酸系老化防止剤(例えばジラウリル チオジプロピオネ−ト、ジステアリル チオジプロピオネ−ト、)、メルカプトベンズイミダゾ−ル系老化防止剤(例えば2−メルカプトベンズイミダゾ−ル、2−メルカプトメチルベンズイミダゾ−ル)、リン酸エステル系老化防止剤(例えばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト(TNP)、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト)などをあげることができ、2種類以上を併用してもよい。ただし、外観が重要な要素でない場合は、アミン系老化防止剤(例えばN−(1,3−ジメチルブチル)−N'−フェニル−p−フェニレンジアミン(6C)、N−イソプロピル−N'−フェニル−p−フェニレンジアミン(3C))、キノリン系老化防止剤(例えば2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物(RD)、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(AW))などの汚染性(着色性)老化防止剤を使用しても良い。
【0011】
老化防止剤の配合量は、劣化抑制層中の固形分に対する割合が0.5重量%以上、50重量%以下、好ましくは1重量%以上40重量%以下、更に好ましくは5重量%以上、30重量%以下である。0.5重量%以下の配合量では、所望の耐候性を確保できない恐れがあり、逆に50重量%以上の配合量では、老化防止剤成分が多すぎて、劣化抑制層が脆くなり、剥がれ落ちてしまう懸念がある。
【0012】
劣化抑制層はタイヤ加硫後に空気透過防止層の更に表面に配置するのが好ましい。タイヤ加硫前に劣化抑制層を空気透過防止層の表面に配置すると、加硫時の耐熱や物理的損傷を考慮して材料を選定しなければならず、選択できる材料が限定されてしまう。更に加硫中に老化防止剤がブラダー側へ移行することによる劣化抑制効果の低下や、移行した老化防止剤によるブラダーの物性変化なども生じる恐れがある。
【0013】
タイヤ加硫後に配置する場合は、例えば前記老化防止剤、被膜形成剤(例えば天然ゴムラテックス、SBRラテックス、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ニカワ)、無機粉体(例えばタルク、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、アルミナ)、界面活性剤(例えば陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤)および水もしくは溶剤からなる組成物を塗布した後に乾燥させて劣化抑制層を生成したり、老化防止剤が配合された樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂)もしくはゴム(例えばジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含硫黄ゴム、フッ素系ゴム、熱可塑性エラストマー)を水ないし有機溶剤で溶解した溶液として塗布した後に乾燥させて劣化抑制層を生成したり、老化防止剤が配合された油脂類(例えばパラフィンワックス、ワセリン、蝋、蜜蝋)を塗布することで劣化抑制層を生成したりすることが出来る。塗布方法としては特に制限はなく、公知の様々な方法の中から、任意の方法を状況に応じて、適宜選択することができる。そのような方法としては例えば、はけ塗り、エアスプレー塗り、ローラ塗り、流し塗り、浸し塗り(ディッピング)などの方法が挙げられる。また、1回の塗布で仕上げてもよく、必要に応じ複数回塗り重ねてもよい。

【0014】
劣化抑制層を構成する組成物としては、前述の老化防止剤を含んでいれば特に配合に限定はないが、上記の材料の他にも本発明の効果を損なわない範囲で相溶化剤、バインダー、レベリング剤、チクソ剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、可塑剤、充填剤、着色剤、加工助剤、防腐剤、増粘剤、乳化剤、消泡剤などの他の添加剤を適宜配合しても良い。
【0015】
劣化抑制層を空気透過防止層上に配置する場合、劣化抑制層と空気透過防止層の密着もしくは接着性向上のため、予め空気透過防止層の表面を電子線照射処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理などを行っても良いし、更なる密着性向上のためプライマーを塗布しても良い。
【0016】
1.2.空気透過防止層の形成
空気透過防止層の典型的な材料としては、熱可塑性樹脂として、例えば、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体、及びそれらのN−アルコキシアルキル化物)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PE10)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル)、ポリニトリル系樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリメタクリレート系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル)、ポリ酢酸ビニル系樹脂(例えば、ポリ酢酸ビニル(PVA)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA))、ポリビニルアルコール系樹脂(例えばポリビニルアルコール(PVOH)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH))、ポリ塩化ビニル系樹脂(例えばポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体)、セルロース系樹脂(例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えば、ポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体)、イミド系樹脂(例えば、芳香族ポリイミド(PI)などを挙げることができ、2種以上であってもよい。
【0017】
また、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させた熱可塑性エラストマー組成物としては、前記の熱可塑性樹脂とエラストマーをそれぞれ少なくとも1種以上組み合わせたものなどをあげることができる。

そのエラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物(例えば、NR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR);オレフィン系ゴム(例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM);IIR、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体;アクリルゴム(ACM);含ハロゲンゴム(例えば、Br−IIR、CI−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(BIMS);CR;ヒドリンゴム(CHR・CHC);クロロスルホン化ポリエチレン(CSM);塩素化ポリエチレン(CM);マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM));シリコンゴム(例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム);含イオウゴム(例えば、ポリスルフィドゴム);フッ素ゴム(例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができ、それらの任意のブレンドであってもよい。
【0018】
また、空気透過防止層を構成する成分は、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー組成物に加えて、空気透過防止層の必要特性を損なわない範囲で相溶化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、可塑剤、充填剤、着色剤、加工助剤、などの他の添加剤を適宜配合しても良い。
【0019】
空気透過防止層は熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性エラストマー組成物のみからなるフィルムとすることもできるが、通常は、ゴムに対して粘着性を有する接着層との積層体として用いるのが好ましい。このような接着層としては例えばゴム分(例えばNR、SBR、IIR、BR、IR、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、これらのエポキシ変性品およびマレイン酸変性品)に対しゴム配合補強剤(例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ)、接着性樹脂(例えばRF樹脂)、粘着付与剤(例えばテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、ロジンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂)などを配合し、更にこれに加硫剤、加硫促進剤、オイル、老化防止剤、可塑剤、顔料などを適宜配合した組成物、もしくはフェノール樹脂系(ケムロック220)、塩化ゴム系(ケムロック205)、及びイソシアネート系(ケムロック402)の接着剤などを挙げることができる。
【0020】
2.実施例
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものではない。
はじめに、熱可塑性エラストマー組成物および粘接着剤組成物からなる空気透過防止フィルムを作成し、それを使用してグリーンタイヤを作成した後、種々の方法により劣化抑制層を形成し、加硫時におけるブラダーへの影響および耐候性の評価を実施した。
【0021】
2.1.熱可塑性エラストマー組成物の作成
表1に示す配合割合(重量部)で、樹脂、ゴム材料及び動的架橋に必要な架橋系配合剤を2軸混練押出機にて温度230℃で混合し、連続相を成す熱可塑性樹脂中にゴムが微細に分散した状態とし、2軸混練押出機の吐出口よりストランド状に押し出し、該ストランドをカッターでペレット状にして、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを作成した。
【0022】
(表1)
───────────────────────────
配合成分 配合量(重量部)
───────────────────────────
ナイロン11*1 24
ナイロン6.66*2 16
BIMS*3 60
亜鉛華*4 0.3
ステアリン酸*5 1.2
ステアリン酸亜鉛*6 0.6
───────────────────────────

*1:アルケマ社製 BESN O TL

*2:宇部興産製 5033B

*3:エクソンモービル化学製 Exxpro MDX89-4

*4:正同化学製 亜鉛華3号

*5:日本油脂製 ビーズステアリン酸

*6:正同化学製 ステアリン酸亜鉛
【0023】
2.2.粘接着剤組成物の作成
熱可塑性エラストマー組成物をタイヤ内面に貼り付けるため、表2に示す配合割合(重量部)で、2軸混練押出機を使用し、熱架橋性ポリマーとタッキファイヤーを100℃にて十分混練せしめ、吐出口よりストランド状に押し出し、得られたストランドを水冷後、カッターでペレット状となし、粘接着剤組成物のペレットを作成した。
【0024】
(表2)

───────────────────────────
配合成分 配合量(重量部)
───────────────────────────
エポキシ変性SBS*1 50
SBS*2 50
タッキファイヤー*3 100
亜鉛華*4 3
ステアリン酸*5 1
パーオキサイド*6 1
───────────────────────────

*1:ダイセル化学製 エポフレンドAT501

*2:旭化成製 タフプレン315

*3:荒川化学製 ペンセルAD

*4:正同化学製 亜鉛華3号

*5:日本油脂製 ビーズステアリン酸

*6:カヤクアクゾ製 パーカドックス14
【0025】
2.3.インフレーション成形
熱可塑性エラストマー組成物のペレット及び粘接着剤組成物のペレットを使用し、一般的な2層インフレーション成形装置を使用し、温度230℃で積層フィルムのインフレーション成形を行ない、熱可塑性エラストマー組成物及び粘接着剤組成物の積層フィルムを得た。熱可塑性エラストマー組成物の厚さは200μmであり、粘接着剤組成物成の厚さは50μmであった。
【0026】
2.4.タイヤの作成
積層フィルムを熱可塑性エラストマー組成物がドラム側、粘接着剤組成物がタイヤ部材側になるようにタイヤ成型ドラムに巻き付け、その上にタイヤ部材を積層し、定法によりグリーンタイヤを成型した後、加硫し(条件:180℃×10分)、タイヤサイズ165SR13のタイヤを作製した。
【0027】
2.5.劣化抑制層の作成
熱可塑性エラストマー組成物を空気透過防止層として配置し、定法によりタイヤを作成した標準例1、劣化抑制層を加硫前に配置した従来例1、劣化抑制層を加硫後に配置した実施例1、実施例2、および老化防止剤を含まない層を配置した比較例1、比較例2のそれぞれについて、劣化抑制層の作成方法を以下に示す。
【0028】
2.5.1.標準例1、従来例1
まず、評価の基準となる一般的なタイヤ用離型剤の組成物1を使用する標準例1、および老化防止剤を含む組成物2を使用して加硫前に劣化抑制層を配置する従来例1の作成方法を示す。
【0029】
【表3】

*1:シリコーンエマルジョン:東レ・ダウ・コーニングシリコーン製 SH490
*2:マイカ微粉末:三信鉱工製 FSマルアイ
*3:タルク微粉末:富士タルク工業製 SP50A
*4:界面活性剤:花王製 ラウリル硫酸ナトリウム エマール10パウダー
*5:老化防止剤1:住友化学製 スミライザーBHT
*6:老化防止剤2:大内新興化学製 ノクラックMB
【0030】
2.5.2.標準例1
表3の標準例1の配合に従いシリコーンエマルジョン、水、界面活性剤を攪拌して分散液とした後、これにマイカ微粉末、タルク微粉末を徐々に加えて撹拌し、離型剤である組成物1を得た。この組成物1を前記タイヤ作成過程において、加硫前のグリーンタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥後加硫を行ない、標準例1のタイヤを得た。
【0031】
2.5.3.従来例1
表3の従来例1の配合に従いシリコーンエマルジョン、水、界面活性剤を攪拌して分散液とした後、これにマイカ微粉末、タルク微粉末を徐々に加えて、更にこの溶液を、配合する老化防止剤の融点以上である60℃に加熱し、そこへ粉末状にした老化防止剤を徐々に加えて撹拌し、離型性を有し劣化抑制層の成分である組成物2を得た。この組成物2を前記タイヤ作成過程において、加硫前のグリーンタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥後加硫を行ない、劣化抑制層を形成して従来例1のタイヤを得た。

【0032】
2.5.4.実施例1、実施例2、比較例1、比較例2
次に、加硫後に劣化抑制層を配置する例として、老化防止剤のほかにSBRラテックスを含む組成物3を使用する実施例1、老化防止剤のほかにエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョンを含む組成物4を使用する実施例2を示す。また、比較のため劣化抑制効果のない層を形成した例として、老化防止剤を含まずSBRラテックスを含む組成物5を使用する比較例1、老化防止剤を含まずエチレン酢酸ビニルエマルジョンを含む組成物6を使用する比較例2を示す。
【0033】
【表4】

*1:日本ゼオン製 Nipol LX110 (固形分40.5%)
*2:昭和高分子製 エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン EVA P-3N
(不揮発分50%)
*3:マイカ微粉末:三信鉱工製 FSマルアイ
*4:富士タルク工業製 SP50A
*5:花王製 ラウリル硫酸ナトリウム エマール10パウダー
*6:老化防止剤:住友化学製 スミライザーBHT
*7:老化防止剤2:大内新興化学製 ノクラックMB
【0034】
2.5.5.実施例1
表4の実施例1の配合に従い、水及び界面活性剤を攪拌して溶解し、これにSBRラテックスを徐々に攪拌しながら加え、これにマイカ微粉末及びタルク微粉末を徐々に加え、更にこの溶液を、配合する老化防止剤の融点以上である60℃に加熱し、そこへ粉末状にした老化防止剤を徐々に加えて撹拌し、組成物3を得た。前記タイヤ作成過程において、実施例1を適用するタイヤを加硫する際はシリコーンパウダー(信越化学製:X-52-1621)をブラダーに散布して離型性を確保し、空気透過防止層表面には何も配置しない状態でタイヤを加硫した。その後、組成物3をタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥して劣化抑制層を形成し、実施例1のタイヤを得た。
【0035】
2.5.6.実施例2
表4の実施例2の配合に従い、水及び界面活性剤を攪拌して溶解し、これにエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョンを徐々に攪拌しながら加え、これにマイカ微粉末及びタルク微粉末を徐々に加え、更にこの溶液を、配合する老化防止剤の融点以上である60℃に加熱し、そこへ粉末状にした老化防止剤を徐々に加えて撹拌し、組成物4を得た。前記タイヤ作成過程において、実施例2を適用するタイヤを加硫する際はシリコーンパウダー(信越化学製:X-52-1621)をブラダーに散布して離型性を確保し、空気透過防止層表面には何も配置しない状態でタイヤを加硫した。その後、組成物4をタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥して劣化抑制層を形成し、実施例2のタイヤを得た。
【0036】
2.5.7.比較例1
表4の配合に従い、水及び界面活性剤を攪拌して溶解し、これにSBRラテックスを徐々に攪拌しながら加え、これにマイカ微粉末及びタルク微粉末を徐々に加えて撹拌し、組成物5を得た。前記タイヤ作成過程において、比較例1を適用するタイヤを加硫する際はシリコーンパウダー(信越化学製:X-52-1621)をブラダーに散布して離型性を確保し、空気透過防止層表面には何も配置しない状態でタイヤを加硫した。その後、組成物5をタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥して、劣化抑制効果のない層を形成し、比較例1のタイヤを得た。
【0037】
2.5.8.比較例2
表4の配合に従い、水及び界面活性剤を攪拌して溶解し、これにエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョンを徐々に攪拌しながら加え、これにマイカ微粉末及びタルク微粉末を徐々に加えて撹拌し、組成物6を得た。前記タイヤ作成過程において、比較例2を適用するタイヤを加硫する際はシリコーンパウダー(信越化学製:X-52-1621)をブラダーに散布して離型性を確保し、空気透過防止層表面には何も配置しない状態でタイヤを加硫した。その後、組成物6をタイヤ内面の空気透過防止層表面にスプレーガンにて塗布し、乾燥して、劣化抑制効果のない層を形成し、比較例2のタイヤを得た。
【0038】
2.6.加硫時のブラダーへの影響評価
標準例1および従来例1、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のタイヤを加硫した場合の、老化防止剤移行によるブラダーの物性変化についての評価を行った。前記の各タイヤをそれぞれ未使用のブラダーを使用して20本加硫を行った後、ブラダーを取り外してブラダー表面の硬度をJIS K 6253に従いA型硬度計を使用して測定した。その結果、標準例1と比較し硬度が2以上変化しているものを不可(×)、標準例1との硬度の差が2以内であるものを良(○)とし、測定結果及び評価を表5に示した。その結果、加硫前に劣化抑制層を配置した従来例1はブラダーの硬度の低下が見られ、老化防止剤の移行により物性が変動していることが判明した。
【0039】
2.7.タイヤの耐候性評価
標準例1および従来例1、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のタイヤを地面に横置きにして3ヶ月屋外に放置した後、以下の耐久試験により耐候性の評価を行った。
【0040】
2.7.1.タイヤ耐久試験による耐候性評価
3ヶ月放置後の標準例1、従来例1、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のタイヤ(165SR13 スチールラジアルタイヤ(リム 13×41/2 −J))を用い、空気圧140kPaで荷重5.5kNを与え実路上を10000km走行した。走行後に、タイヤをリムから外し、タイヤ内面の空気透過防止層を目視観測し、空気透過防止層に亀裂、目視できるしわ、空気透過防止層の剥離・浮き上がりがあるものを不良(×)、10mm以下の軽度な剥離・浮き上がりがあるものを可(△)、剥離・浮き上がりのないものを良(○)と判定した。
結果を表5に示す。耐久試験の結果、通常のタイヤである標準例1並びに劣化抑制効果のない比較例1及び比較例2は、空気透過防止層に亀裂及びクラックが観察され、耐候試験による劣化が確認された。老化防止剤を配合した劣化抑制層を加硫前に配置した従来例1では軽度な劣化が観察されたが、劣化抑制層を加硫後に配置した実施例1及び実施例2では欠陥は観察されず、十分な耐候性が確認できた。
従来例1で軽度な劣化が観察された理由は、加硫中に老化防止剤がブラダー側へ移行し、劣化抑制層中の老化防止剤濃度が低下したためであると推察される。
【0041】
【表5】

【0042】
以上説明した通り、本発明によれば、熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層がタイヤの内面に配置されたタイヤを加硫した後、空気透過防止層の表面に劣化抑制層を形成することにより、耐候性の良好な空気入りタイヤを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む空気透過防止層をタイヤの内面に配置する工程と、
前記タイヤを加硫した後、老化防止剤を含む劣化抑制層を前記空気透過防止層の表面に形成する工程と、
を含む、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記老化防止剤が、ヒドロキノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ヒンダードフェノール系老化防止剤、ヒンダードアミン系老化防止剤、チオジプロピオン酸系老化防止剤、メルカプトベンズイミダゾール系老化防止剤、及びリン酸エステル系老化防止剤の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記老化防止剤の配合量が、前記劣化抑制層中の固形分に対して0.5〜50質量%である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記劣化抑制層を形成する工程は、前記空気透過防止層の表面に対して、老化防止剤を含有する組成物を水ないし有機溶媒の溶液もしくは分散液として塗布し、乾燥させる工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記劣化抑制層を形成する工程は、前記空気透過防止層の表面に対して、老化防止剤を含有する油脂類を塗布し、被膜を形成する工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記空気透過防止層は更にエラストマーを含み、
前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【公開番号】特開2010−260258(P2010−260258A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112782(P2009−112782)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】