説明

空気入りタイヤ

【課題】耐久性および生産性に優れ、軽量化を実現した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ビード部と、サイドウォール部と、トレッド部とを有し、これらを補強するカーカスと、少なくとも1層のベルト層を備えた空気入りタイヤである。ベルト層を構成するスチールコード10は、無撚りの2本のコアフィラメント11を有し、コアの周囲に6本のシースフィラメント12が撚り合わされてなる。コアフィラメント径をdc、シースフィラメント径をds、シースフィラメント12の撚りピッチをp(mm)としたとき、D=[L−6ds{1+(L/p)1/2]/6(ここで、L=(π+2)dc+πds)により表わされる平均的なシースフィラメント12の間隔Dが25〜80μmであり、ベルト層のタイヤ半径方向外側に、タイヤ周方向に平行に配列された非金属コードを有するキャップ層、および/または、ベルト層の両端領域にレイヤー層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、従来よりも耐久性を向上させつつ、生産性に優れ、軽量化を実現した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境性能の重要性が増してきており、スチールコードを補強部材として用いるゴム物品やタイヤにおいては軽量化のニーズが高まっている。タイヤの軽量化のためには、スチールコードからなるベルトの厚さを薄くすることが有効であり、そのためにはスチールコード断面を扁平形状とし、スチールコードの径(短径)を小さくすることが効果的である。
【0003】
通常、(1×N)構造のスチールコードをプレスローラー等の治具を用いて扁平形状とした場合、スチールコードへの引張入力時に初期伸びが発生するため補強部材としての効果が低下してしまう。そこで、スチールコードの引張剛性を損ねることなく、扁平形状となるコード構造として、例えば、特許文献1〜4が提案されている。特許文献1に記載のスチールコードは、2+6構造であってシースフィラメント間に間隙を設けることにより、フィラメント間にゴムを浸透させる技術が提案されている。また、特許文献2に記載のスチールコードは、コアフィラメント径とシースフィラメント径を規定することで、上記課題の解消を試みている。さらに、特許文献3に記載のスチールコードは、コアフィラメント径とシースフィラメント径の比を規定することで、スチールコードへのゴムの浸透性を向上させる技術が開示されている。さらにまた、特許文献4には、スチールフィラメント6〜10本の単撚り構造または層撚り構造とすることで、ゴム浸透性を確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−158066号公報
【特許文献2】特開2005−120491号公報
【特許文献3】特開2007−63724号公報
【特許文献4】特開2007−90937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4はゴム浸透性、すなわち、耐久性の観点からは検討されてはいるものの、スチールコードの生産性については十分に検討されたものとは言えず、シースフィラメント間に必要以上の間隙が空いた場合、シースフィラメントがコアフィラメントの周辺に均等に分散しないため、生産性が劣る問題が生じていた。すなわち、スチールコード全体が曲げられたときに各フィラメントへの張力が不均一となりやすいため、一部のフィラメントが突っ張って飛び出す現象が生じていた。また、スチールコード引張時にフィラメントに均等に張力が分散されないため、強力が低下するという問題も有していた。
【0006】
また、ライトトラック用タイヤは、乗用車用のタイヤと比較して高内圧、高荷重で使用されることが多く、そのため、非金属コードからなるベルト補強層を有する構造も数多く提案されているが、今日にあっては、ベルト部の耐久性のさらなる向上が求められている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来よりも耐久性を向上させつつ、生産性に優れ、軽量化を実現した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部と、両ビード部のタイヤ半径方向外側に連なる一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部間にわたり連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在して、これら各部を補強する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した少なくとも1層のベルト層からなるベルトとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層を構成するスチールコードが、2本のコアフィラメントを撚り合わせることなく並列して配置したコアと、該コアの周囲に撚り合わされた6本のシースフィラメントからなるスチールコードであって、前記コアフィラメントの径をdc、前記シースフィラメントの径をds、シースフィラメントの撚りピッチをp(mm)としたとき、下記式(I)、
D=[L−6ds{1+(L/p)1/2]/6 (I)
(ここで、L=(π+2)dc+πds)により表わされる平均的なシースフィラメント間隔Dが、25〜80μmであり、かつ、
前記ベルト層のタイヤ半径方向外側に、該ベルト層の全幅以上にわたり配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるキャップ層、および/または、該ベルト層の両端領域に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるレイヤー層が配置されてなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記dcおよび前記dsは下記式(II)〜(IV)、
dc<ds (II)
0.20≦dc≦0.32 (III)
0.27≦ds≦0.43 (IV)
で表わされる関係を満足することが好ましく、また、前記ベルト層の厚みが1.30mm〜1.65mmであることが好ましく、さらに、前記シースフィラメントの撚りピッチは18mm以下であることが好ましく、さらにまた、タイヤから切出したゴム被覆された前記スチールコードの引張弾性率は190GPa以上であることが好ましく、また、前記スチールコードの短径は0.85mm〜1.05mmであることが好ましく、さらに、前記傾斜ベルト層中の隣接するスチールコード同士の間隔は0.50mm〜1.40mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも耐久性を向上させつつ、生産性に優れ、軽量化を実現した空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の空気入りタイヤの好適な実施の形態を示す片側断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤに係るスチールコードの構造の説明図である。
【図3】Dが25μm未満の場合のスチールコードの断面図である。
【図4】Dが80μmより大きい場合のスチールコードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの好適な実施の形態を示す片側断面図である。図1に示すタイヤは、一対のビード部1と、両ビード部のタイヤ半径方向外側に連なる一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、上記一対のビード部1間にトロイド状に延在してこれら各部1,2,3を補強する少なくとも1枚(図示する例では2枚)のカーカスプライからなるカーカス4と、カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1枚(図示例では2枚)のベルト層5a,5bからなるベルト5とを有し、図示例では、ベルト層5a、5bのタイヤ半径方向外側に、ベルト層5a、5bの全幅以上にわたり配置されるキャップ層6、および、ベルトの両端領域に配置されるレイヤー層7と、を備える。
【0014】
図示例のカーカス4は、2枚の折り返しカーカスプライから構成され、折り返しカーカスプライは、ビード部1内にそれぞれ埋設した一対のビードコア8間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア8の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、カーカス4のプライ数および構造は、これに限られるものではない。また、ベルト5は、好適にはスチールコードが互いにタイヤ赤道面を挟んで交差するように積層した交錯ベルトである。
【0015】
本発明においては、ベルト層を構成するスチールコードは、2本のコアフィラメントを撚り合わせることなく並列して配置したコアと、コアの周囲に撚り合わされた6本のシースフィラメントからなるスチールコードであって、コアフィラメントの径をdc、シースフィラメントの径をds、シースフィラメントの撚りピッチをp(mm)としたとき、下記式(I)、
D=[L−6ds{1+(L/p)1/2]/6 (I)
(ここで、L=(π+2)dc+πds)により表わされる平均的なシースフィラメント間隔Dが、25〜80μmである。かかる構造を有する偏平なスチールコードをベルトの補強材として用いることで、耐久性と生産性を低下させることなく、タイヤの軽量化を図ることができる。以下、上記スチールコードについて説明する。
【0016】
図2は、本発明の空気入りタイヤに係るスチールコードの構造の説明図である。図示するように、2本のコアフィラメント11を撚り合わせることなく並列して配置したコアと、コアの周囲に撚り合わされた6本のシースフィラメント12とからなる。このような扁平のスチールコードを用いることにより、ベルト層の厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができる。コアフィラメント11を2本とするのは、3本以上では実質的に捩りなく並行に配置することが困難であるからである。また、シースフィラメント12を6本とすることで、耐久性確保のうえで必要となるスチールコード10中心部までのゴム浸透性を効率良く確保することができる。シースフィラメントが5本以下では、ゴム浸透性は良好であるが、シースフィラメントの分散性が悪化し強度不足となる。一方、シースフィラメントが7本以上では、ゴム浸透に充分な間隙を確保できなくなり、耐久性が低下してしまう。
【0017】
本発明においては、コアフィラメント11の径をdc、シースフィラメント12の径をds、シースフィラメントの撚りピッチをp(mm)としたとき、下記式(I)、
D=[L−6ds{1+(L/p)1/2]/6 (I)
(ここで、L=(π+2)dc+πds)により表わされる平均的なシースフィラメント間隔Dが、25〜80μmを満足することが重要である。コアフィラメント11の径dcとシースフィラメント12の径dsが、式(I)を満足するように組み合わせることで、シースフィラメント12の間隙へのゴムの浸透を充分確保できるとともに、余分な間隙を空けずにスチールコード曲げ変形時のフィラメントの突っ張りによるスチールコードの生産性の悪化や強力低下を抑制できる。
【0018】
Dが25μmより小さくなると、例えば、図3のようにシースフィラメント12の間隙にゴムが充分に浸透できない構造となり、ベルトがカット傷を受けた場合に水分が浸透して伝播し、いわゆるカットセパレーションが発生してしまう。一方、Dが80μmより大きくなると、例えば、図4のようにシースフィラメント12がコアフィラメント11の周りに均等に分散しないため、生産性が劣るとともに、シースフィラメント12が偏った箇所にゴムが充分に浸透できない。また、フィラメントの突っ張りや強力低下が発生する懸念が高まるおそれがある。好適には、30〜70μm、さらに好適な範囲は50〜60μmであり、Dの値をこの範囲とすることで、ゴム浸透性とシースフィラメント12の分散性が最適なバランスとなる。
【0019】
また、本発明においては、コアフィラメント11の径dcとシースフィラメント12の径dsが下記式(II)〜(IV)、
dc<ds (II)
0.20≦dc≦0.32 (III)
0.27≦ds≦0.43 (IV)
で表される関係を満足することが好ましい。すなわち、コアフィラメント11の径dcとシースフィラメント12の径dsは異なる組み合わせ、特に、コアフィラメント11の径dcをシースフィラメント12の径dsよりも小さくすることがよい。これにより、同径のフィラメントを組み合わせた場合に対し、得られる扁平形状のスチールコードの短径を、より小さくすることができる。また、上記(III)および(IV)を満足することで、スチールコードがより高度な強力を得ることができる。好適には0.23≦dc≦0.27および0.30≦ds≦0.35であり、さらに好適には0.24≦dc≦0.26および0.32≦ds≦0.34であり、コアフィラメント径dcとシースフィラメント径dsをこの範囲とすることにより、ゴム浸透性とスチールコードの強力を維持しながらタイヤ軽量化をバランスよく実現できる。
【0020】
本発明においては、ベルト層5a、5bのタイヤ半径方向外側に、ベルト層5a、5bの全幅以上にわたり配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるキャップ層6、および/または、ベルト層5a、5bの両端領域に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるレイヤー層7が、ベルト補強層として配置されている(図1参照)。周方向のベルト補強層が配置されていることにより、高内圧や高荷重での使用に十分に耐えることができる。
【0021】
非金属コードとしては、例えば、ナイロン、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等の有機繊維からなる撚りコードを、好適に用いることができる。なお、打ち込み本数についてはベルトコードの構成との組み合せを考慮して適宜決めることができる。
【0022】
本発明においては、ベルト層の厚みが1.30mm〜1.65mmであることが好ましい。ベルト層の厚みが1.30mm未満であると十分な耐久性を得ることができない場合があり好ましくない。一方、ベルト層の厚みが1.65mmを超えると、タイヤ軽量可能効果が得られない場合があり好ましくない。タイヤ軽量化の観点から、好適には1.40mm以上、1.55mm以下である。
【0023】
また、本発明においては、シースフィラメント12の撚りピッチは18mm以下であることが好ましい。シースフィラメント12の撚りピッチが18mmより大きくなると、シースフィラメント12の分散性が悪化しやすくなり好ましくない。これに対し、シースフィラメント12の撚りピッチを18mm以下とすれば、より生産性を向上させることができる。上記効果を良好に得るためには、好ましくは16mm以下である。なお、撚りピッチが1mm未満であると、スチールコードの製造が困難であるため好ましくない。
【0024】
さらに、本発明においては、タイヤ加硫成形後、タイヤから切出したゴム被覆されたスチールコードの引張弾性率が190GPa以上であることが好ましい。特に、ライトトラック用のタイヤは、乗用車用のタイヤに比較して高内圧で使用されることが多く、スチールコードの引張弾性率は大きい方が好ましいからである。タイヤから切出したゴム被覆されたスチールコードの引張弾性率を190GPa以上とすることにより、ベルトの面内剛性(タイヤ接地面内の剛性)を向上でき、ベルト耐久性を良好に向上させることができる。また、ベルト剛性が向上するため、非金属コードを用いたベルト補強層にかかる張力負担を低減し、非金属コードを起点とする故障を防止することができる。一方、190GPa未満であると、ベルトの面内剛性が十分に発揮できない場合があり、操縦安定性が悪化するおそれがある。
【0025】
さらにまた、本発明においては、上記スチールコードの短径が0.85mm〜1.05mmであることが好ましい。スチールコードの短径を1.05mm以下とすることで、効果的にベルトを薄くすることが可能となる。短径を1.00mm以下とすると軽量化効果が大きくなり、より好ましい。しかしながら、短径が0.85mm未満となるとスチール量が大幅に減少するため、ベルトとして必要な強度を確保できない場合がある。
【0026】
また、本発明においては、隣接するスチールコード同士の間隔は0.50mm〜1.40mmであることが好ましい。スチールコード間隔が0.50mm未満であるとスチールコードの端部から発生した亀裂が進展することによるベルト層の剥離、いわゆる、ベルトエッジセパレーションが著しく悪化するおそれがある。好ましくは0.70mm以上、1.20mm以下である。一方、スチールコード間隔が1.40mmより大きいと、スチールコードの打込み数が少なすぎるため、タイヤとして十分な強度を得ることができない場合がある。
【0027】
本発明に用いるスチールフィラメントの素材としては、特に制限は無く、従来用いられているものであれば何れでも用いることができるが、炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。フィラメントの素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで本発明の効果を良好に得ることができる。一方、炭素成分が1.5質量%を超えると、延性が低くなり耐疲労性が劣るので好ましくない。
【0028】
本発明のスチールコードはコード表面にめっき処理が施されていることが好ましい。コード表面のメッキの組成としては、特に限定されるものはないが、好適には銅と亜鉛からなるブラスメッキであり、より好適には、銅の含有率を60質量%以上である。これによりスチールフィラメントとゴムとの接着性を向上させることができる。
【0029】
本発明に用いるコーティングゴムの素材は、特に制限はされず、公知のゴムを用いることができるが、ムーニー粘度が50以上110以下のものが好適である。ムーニー粘度が50未満であるとタイヤ性能が低下し、110より大きいとシースフィラメント間にゴムが局所的に充分浸透しない箇所が発生してしまう。なお、ここでムーニー粘度とは、JIS―K6300に準拠して測定を行ない得られた値である。
【0030】
本発明の空気入りタイヤは、上述のように、軽量で、かつ、耐久性に優れるため、ライトトラック用タイヤおよびトラック・バス用タイヤとして特に好適である。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、または窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜13、比較例1〜8および従来例1、2>
下記表1〜4に示すスチールコードおよび非金属コードを、それぞれベルト層およびベルト補強層に適用して、タイヤサイズ205/65R16のタイヤを作製した。ベルトは3層のベルト層からなり、表1〜4に示すスチールコードを全ベルト層の補強材として適用した。ベルト層の角度はタイヤ径方向内側からそれぞれ、+50°、+20°および−20°とした。なお、スチールコードは長径方向がベルト幅方向に沿うように配置した。また、ベルト補強層の補強コードには1400dtexで2本撚りのナイロンを用い、50mmあたりの打込み数が48本となるようコードがタイヤ周方向に対し平行になるように配置した。得られた供試タイヤにつき、下記の手順に従い、ゴム浸透性、高速耐久試験、径成長およびベルト重量を評価した。また、スチールコードの生産性およびコード引張弾性率についても併せて評価した。なお、タイヤから切り出したゴム被覆されたスチールコードの引張弾性率は下記の手順で算出した。
【0032】
<コード引張弾性率>
実施例、比較例および従来例の各タイヤのスチールコードをタイヤから解剖して取り出した後、つかみ部分のスチールコード表面についている余分なゴムを除去し、コード引張試験機により引張試験を実施した。その際、引張歪みはビデオ式伸び計により測定した。その測定における標点間距離は100mmであり、引張試験速度は10mm/分である。得られた応力−歪み曲線において、引張歪みが0.1%における応力と0.5%の応力の二点間の傾きを計算し、コード引張弾性率を算出した。結果を表1〜4に併記する。なお、応力の計算におけるコードの断面積は、π×(dc×2+ds×6)/4にて算出した。
【0033】
<ゴム浸透性>
実施例、比較例および従来例の各タイヤのスチールコードをタイヤから解剖して取り出した後、NaOH−10%水溶液に片端を浸して、24時間放置後、「ゴムの剥離長さ」を測定した。スチールコードの内部までゴムが浸透していれば、ゴムは剥離しない。従来例のスチールコードよりもゴム剥離長さが同等以下となっているものを○、劣っているものを×とした。結果を表1〜4に併記する。
【0034】
<高速耐久性>
得られたタイヤを6Jのリムに組み込んだ後に、内圧を600kPaまで充填して荷重を8.9kN負荷し、30分毎に速度を8km/hずつ上昇させる高速耐久ドラム試験を実施した。評価は、ベルト部を起点としてタイヤが故障するまでの時間を計測し、従来例のタイヤと比較して、同等以上となっているものを○、劣っているものを×とした。結果を表1〜4に併記する。
【0035】
<径成長>
各供試タイヤを6Jのリムに組んだ後、内圧を50kPaから600kPaまで充填したときの径成長量をベルトのセンター部にて測定した。従来例のベルトより径成長量を抑制し、タガ効果が同等以上となっているものを○、劣っているものを×とした。結果を表1〜4に併記する。
【0036】
<ベルト重量>
各供試タイヤを解剖して幅方向中心位置における交錯層を、幅方向長さ100mm×周方向長さ500mmの大きさに、かつ厚さ方向についてはベルト層間(第1ベルト層と第2ベルト層のベルト層間、および第2ベルト層と第3ベルト層のベルト層間)の厚さ中心位置のゴムに沿って切り出し、重量を測定した。従来例のベルトよりも実質軽くなっているものを○、それ以外を×とした。結果を表1〜4に併記する。
【0037】
<コード生産性>
実施例、比較例および従来例の各タイヤのスチールコードに曲げ変形を与え、フィラメントの突っ張りが生じないかを目視にて評価した。また、スチールコードをペンチにて切断し、フィラメントの解れ(いわゆるフレア性)が悪化しているかを目視にて評価した。それらの評価において従来例から悪化していないものを○、それ以外を×とした。結果を表1〜4に併記する。
【0038】
【表1】

※タイヤから切出したゴム被覆コードの引張弾性率
【0039】
【表2】

※タイヤから切出したゴム被覆コードの引張弾性率
【0040】
【表3】

※タイヤから切出したゴム被覆コードの引張弾性率
【0041】
【表4】

※タイヤから切出したゴム被覆コードの引張弾性率
【0042】
上記表1〜4より、本発明の空気入りタイヤは、従来よりも耐久性を向上させつつ、生産性に優れ、軽量化を実現した空気入りタイヤを得ることができることが確かめられた。
【符号の説明】
【0043】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5a,5b ベルト層
6 キャップ層
7 レイヤー層
8 ビードコア
10 スチールコード
11 コアフィラメント
12 シースフィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、両ビード部のタイヤ半径方向外側に連なる一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部間にわたり連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在して、これら各部を補強する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した少なくとも1層のベルト層からなるベルトとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層を構成するスチールコードが、2本のコアフィラメントを撚り合わせることなく並列して配置したコアと、該コアの周囲に撚り合わされた6本のシースフィラメントからなるスチールコードであって、前記コアフィラメントの径をdc、前記シースフィラメントの径をds、シースフィラメントの撚りピッチをp(mm)としたとき、下記式(I)、
D=[L−6ds{1+(L/p)1/2]/6 (I)
(ここで、L=(π+2)dc+πds)により表わされる平均的なシースフィラメント間隔Dが、25〜80μmであり、かつ、
前記ベルト層のタイヤ半径方向外側に、該ベルト層の全幅以上にわたり配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるキャップ層、および/または、該ベルト層の両端領域に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された非金属コードのゴム引き層からなるレイヤー層が配置されてなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記dcおよび前記dsが下記式(II)〜(IV)、
dc<ds (II)
0.20≦dc≦0.32 (III)
0.27≦ds≦0.43 (IV)
で表わされる関係を満足する請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層の厚みが1.30mm〜1.65mmである請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記シースフィラメントの撚りピッチが18mm以下である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤから切出したゴム被覆された前記スチールコードの引張弾性率が190GPa以上である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記スチールコードの短径が0.85mm〜1.05mmである請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ベルト層中の隣接するスチールコード同士の間隔は0.50mm〜1.40mmである請求項1〜6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171367(P2012−171367A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31869(P2011−31869)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】