説明

空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法

【課題】ユニフォミティを悪化させることなくサイド補強層を挿入可能とする空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】カーカス層4の端部をビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返して巻き上げるとともに、ビードフィラー6とサイド補強層8との一体構造材を成形ドラム10上のカーカス層4に貼り合せ、成形ドラム10上でサイド補強層8にビードフィラー6と係合する局部的な屈曲部Pを設けてグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを金型内で膨張させて加硫する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、サイド補強層をユニフォミティを悪化させることなく挿入可能とする空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気入りラジアルタイヤの操縦安定性などの向上を目的に、ビード部からサイドウォール部にかけて補強層を設けることが行われている(例えば、特許文献1)。補強層は剛性を高める一方で、タイヤ縦方向のばね定数に大きく影響するので、そのタイヤの径方向の高さが性能に影響するため高さにばらつきがないように配置することが求められる。
【0003】
一般に、空気入りラジアルタイヤの製造工程において、この補強層は成形ドラムに巻き付けられたカーカス層の両端部域、即ちビード部に相当する箇所に巻きつけられた後、サイドウォール部材が巻きつけられ、次いでカーカス層の中央部をインフレーションにより、ドーナツ状に膨張させて中間グリーンタイヤを形成し、この中間グリーンタイヤの外周にベルト層、トレッド部材を巻きつけてグリーンタイヤが完成する。その後、グリーンタイヤは金型にセットされ、内側からブラダーにより膨張させた状態で加熱加硫されてタイヤが完成する。
【0004】
補強層には、上記グリーンタイヤを成形する際の膨張時および加硫成形における膨張時に、タイヤ径方向に大きな引張力が加わるため、タイヤ径方向にずれる現象が起こり易い。このずれにより、補強層の高さにずれが発生し、ユニフォミティを悪化させる要因となっている。
【特許文献1】特開2002−347414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ユニフォミティを悪化させることなくサイド補強層を挿入可能とする空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法は、ビード部からサイドウォール部にかけてビードフィラーと重複するように補強層を挿入した空気入りラジアルタイヤの製造方法において、前記補強層に前記ビードフィラーに係合する局部的な屈曲部を設けたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを金型内で膨張させて加硫することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の空気入りラジアルタイヤは、上記の製造方法によって製造された空気入りラジアルタイヤとしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法によれば、ビード部からサイドウォール部にかけてビードフィラーと重複するように補強層を挿入した空気入りラジアルタイヤの製造方法において、補強層にビードフィラーに係合する局部的な屈曲部を設けたグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを金型内で膨張させて加硫するので、補強層に大きな力かかる成形時および加硫時の膨張の際においても屈曲部がビードフィラーに係合することによって、補強層のタイヤ径方向のずれを防止することができる。これにより、所定の位置に補強層を配置することができ、ユニフォミティを悪化させずにサイド補強層を挿入した空気入りラジアルタイヤを製造することが可能となる。
【0009】
上記方法で製造された空気入りラジアルタイヤは、ずれることなく所定の位置にサイド補強層が配置されているので、操縦安定性等とユニフォミティの良好なタイヤとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の空気入りラジアルタイヤおよびその製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。なお、同一部材については、加硫前と加硫後とにおいて同一の符号を用いる。
【0011】
図7に本発明の製造方法によって製造されたタイヤの一例を子午線方向半断面図で示す。このタイヤはトレッド部1のカーカス層4の外周にベルト層7が設けられ、サイドウォール部2からビード部3に渡って、サイド補強層8が配置されている。このサイド補強層8は、スチールコードfによって構成されていて、ビードコア5と同心に渦巻状に巻回していて、サイドウォール部2では、カーカス層4とサイドウォール部2のゴム層に挟まれ、ビード部3では巻き上げられたカーカス層4とビードフィラー6との間に挟まれている。このサイド補強層8は、タイヤ全周に渡ってタイヤ径方向にずれがなく配置されている。
【0012】
このタイヤの製造方法を図1に基づいて説明する。まず、図1(a)に示すように成形ドラム10にシート状のカーカス層4が巻き付けられて、その両端部にビードフィラー6を外周に取付けて一体化したリング状のビードコア5が嵌め込まれる。このビードフィラー6の外側面には、渦巻状に巻回されたサイド補強層8が貼り付けられている。
【0013】
このサイド補強層8には、図2に示すように、ビードフィラー6に係合する凸状の局部的な屈曲部Pが設けられている。この屈曲部Pの形状は、図2(a)に示す断面三角形状でも、図2(b)に示す断面台形形状でもよく、これらの形状以外でもビードフィラー6に係合する形状であれば、特に限定されない。
【0014】
屈曲部Pは図3に示すように、ビードフィラー6とサイド補強層8とを貼り合せた一体構造材を成形して、成形ドラム10に装着する前に、予めこの一体構造材のサイド補強層8に屈曲部形成装置9で型付けして形成される。
【0015】
別の方法としては、図4に示すように、成形ドラム10に装着する前に、予め屈曲部形成装置9で屈曲部Pを形成したサイド補強層8と、この屈曲部Pに係合する係合部Qを形成したビードフィラー6とを貼り合せるようにしてもよい。
【0016】
次に、図1(b)に示すようにカーカス層4の端部をビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返して巻き上げるとともに、ビードフィラー6とサイド補強層8との一体構造材を成形ドラム10上のカーカス層4に貼り合せる。
【0017】
尚、この際に図5に示すように、成形ドラム10上でビードフィラー6とサイド補強層8との一体構造材をカーカス層4に貼り合せてから屈曲部Pを形成することもできる。
【0018】
次に、図1(c)に示すようにサイドウォール部2が成形ドラム10上で巻き付けられて、中間グリーンタイヤ12が完成する。
【0019】
その後、図1(d)に示すようにタイヤの内空部を圧力Aでインフレーションして膨張させた状態で、タイヤ外周側にベルト層7およびトレッド部1を貼り付ける。
【0020】
インフレーションした状態で、タイヤ外側から押圧して貼り付けた部材どうしをよく圧着させてグリーンタイヤ11が完成し、このグリーンタイヤ11を金型内で膨張させて加硫して図7に示した空気入りラジアルタイヤが製造される。
【0021】
インフレーションや加硫工程では、サイド補強層8に様々な力がかかり、特にタイヤ径方向にずれを生じさせる大きな力が作用する。上記の製造方法によれば、ずれの少ないビードフィラー6に屈曲部Pが係合することによって、サイド補強層8のタイヤ径方向のずれを防ぐことができる。これによって、ユニフォミティを悪化させずにサイド補強層8を挿入したタイヤを製造することが可能となり、操縦安定性等とユニフォミティの優れた空気入りラジアルタイヤが製造できる。
【0022】
サイド補強層8を構成するコードとしてはスチールコードfの他に有機繊維コードを用いる。有機繊維コードの素材としては、例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニン・ベンツ・オキサゾール)繊維などを挙げることができる。
【0023】
図2(a)に示すように屈曲部Pの高さ位置は、屈曲部中心Mのビードフィラー6の下端部からの距離a1をビードフィラー6の高さa2に対して50%以下とするのが好ましい。屈曲部Pの高さ位置をこの範囲にすると、係合するビードフィラー6の厚みがあり、剛性が高いので、より効果的にずれを抑制することができる。
【0024】
屈曲部Pの変形量C、即ち、屈曲部Pのビードフィラー6に対する係合深さは、0.5〜2.0mmとするのが好ましい。0.5mm未満であるとずれ防止効果が小さくなり、2.0mmを超えると耐久性に影響が生じる場合がある。特に、サイド補強層8をスチールコードfで構成する場合は、この範囲にすることが好ましい。
【0025】
図6に示すように、成形時に側面方向において各屈曲部Pの長さnの合計Nが各屈曲部Pの中心を通る円の円周Lに対して15〜100%とするのが好ましい。15%未満であるとずれ防止の効果が小さく、100%を超えると耐久性に影響が生じる場合がある。屈曲部Pの側面視の形状については、特に限定がなく、連続でも不連続でもよいが、均等に配置されているのが好ましい。
【0026】
なお、本発明の製造方法は、図7の実施形態で示した構造のタイヤに限定されず、例えば、図8(a)に示すようにサイド補強層8をタイヤ内側のカーカス層4に沿わせた構造や図8(b)に示すように巻き上げたカーカス層4のタイヤ外側に沿わせる構造のタイヤにも適用できる。
【0027】
図8(b)に示す構造の場合は、図9に示すようにカーカス層4の端部をビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返して巻き上げるとともに、ビードフィラー6とサイド補強層8との一体構造材を成形ドラム10上のカーカス層4に貼り合せた後に、巻き上げたカーカス層4の上からサイド補強層8を貼り付けて、このサイド補強層8に成形ドラム10上で屈曲部Pを設けるようにする。
【0028】
ビード部3からサイドウォール部2にかけて、ビードフィラー6と重複するようにサイド補強層8を挿入した空気入りラジアルタイヤであれば、その他のサイド補強層8の配置を変えた構造、カーカス層4、サイド補強層8を複数層とした構造等についても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0029】
タイヤサイズを205/55R16 89Vとし、ビードコア5の外周に貼り付けたビードフィラー6にスチールコードfで構成されるサイド補強層8を貼り付けた後に、これを成形ドラム10上のカーカス層4に貼り付けてグリーンタイヤ11を成形、加硫したことを共通の条件として、サイド補強層8の屈曲部Pの仕様(形成方法、高さ位置A、周方向での範囲B、変形量C)を表1に示すように変えたタイヤを8種類(実施例1〜8)、従来のタイヤを1種類(従来例)の合計9種類製作した。サイド補強層8は、図1に示すように配置した。従来のタイヤはサイド補強層8に屈曲部Pを設けないことのみが実施例と相違している。
【0030】
これらのタイヤについて、ユニフォミティおよび耐久性を下記の方法により評価した。結果は表1に示すとおりであり、表中の数値は大きい程、性能が良いことを示している。
【0031】
[ユニフォミティ]
ユニフォミティ試験機を用いて、「自動車用タイヤのユニフォミティ試験方法」JASO C607に規定された条件にてラジアルフォースバリエーション(RFV)値を測定して、従来例を100とした指数で示した。
【0032】
[耐久性]
JIS D4230に規定の耐久性試験方法に準拠して実施し、タイヤに故障が発生するまで走行させ、従来例の走行距離を100とした指数で示した。
【0033】
ここで、表中の形成方法のビードフィラー6と貼付け後とは、図3に示すように、ビードフィラー6とサイド補強層8とを貼り合せた一体構造材を成形して、成形ドラム10に装着する前に、予めこの一体構造材のサイド補強層8に屈曲部形成装置9で型付けして屈曲部Pを形成したことを意味する。ビードフィラー6と貼付け前とは、図4に示すように、成形ドラム10に装着する前に、予め屈曲部形成装置9で屈曲部Pを形成したサイド補強層8と、この屈曲部Pに係合する係合部Qを形成したビードフィラー6とを貼り合せたことを意味する。
【0034】
高さ位置Aとは既述したように、屈曲部中心Mのビードフィラー6の下端部からの距離a1とビードフィラー6の高さa2との比A=a1/a2を百分率で示したものである。周方向での範囲Bとは、既述した各屈曲部Pの長さnの合計Nと各屈曲部Pの中心を通る円の円周Lとの比B=N/Lを百分率で示したものである。変形量Cとは、既述したとおり屈曲部Pのビードフィラー6に対する係合深さを意味する。
【0035】
【表1】

【0036】
この結果から本発明の製造方法によって製造された空気入りラジアルタイヤは、サイド補強層8にビードフィラー6と係合する屈曲部Pを設けたことにより、従来例のタイヤに比べて、サイド補強層8のタイヤ径方向のずれがなく、ユニフォミティを向上させることができ、耐久性については同等の性能を有していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の製造方法で使用する屈曲部を設けたサイド補強層とビードフィラーとの貼り合せ状態を示す断面図である。
【図3】本発明の製造方法でのサイド補強層に屈曲部を形成する工程の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の製造方法でのサイド補強層に屈曲部を形成する工程の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の製造方法でのサイド補強層に屈曲部を形成する工程のさらに他の例を示す説明図である。
【図6】本発明の製造方法で使用するビードコアと一体化したビードフィラーと、サイド補強層との貼り付け状態において屈曲部の範囲を示す側面図である。
【図7】本発明の製造方法で製造された空気入りラジアルタイヤの一例を示す子午線方向半断面図である。
【図8】本発明の製造方法で製造された空気入りラジアルタイヤの他の例の要部を示す子午線方向断面図である。
【図9】図8(b)に示す構造のタイヤを製造する際のサイド補強層に屈曲部を形成する工程の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 サイド補強層
9 屈曲部形成装置
10 成形ドラム
11 グリーンタイヤ
12 中間グリーンタイヤ
P 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部からサイドウォール部にかけてビードフィラーと重複するように補強層を挿入した空気入りラジアルタイヤの製造方法において、前記補強層に前記ビードフィラーに係合する局部的な屈曲部を設けたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを金型内で膨張させて加硫する空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ビードフィラーに前記補強層を貼り合わせて一体構造体を予め形成し、該一体構造体を成形ドラム上のカーカス層に貼り合わせてから、前記補強層に前記局部的な屈曲部を形成して、前記グリーンタイヤを成形する請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記ビードフィラーに前記補強層を貼り合わせると共に、該補強層に前記局部的な屈曲部を与えた一体構造体を予め形成し、該一体構造体を成形ドラム上のカーカス層に貼り合わせて前記グリーンタイヤを成形する請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記補強層がスチールコードで構成されるとともに、前記屈曲部の前記ビードフィラーとの係合深さが0.5〜2.0mmである請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの製造方法によって製造された空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−116792(P2006−116792A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306432(P2004−306432)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】