説明

空気液化分離方法及び装置

【課題】装置価格の上昇を抑えて製品収率を改善できる内部昇圧プロセスの空気液化分離方法及び装置を提供する。
【解決手段】昇圧して精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気、第2中圧原料空気及び第3中圧原料空気に3分流し、第1中圧原料空気を主熱交換器で冷却して中圧塔に導入する工程と、第2中圧原料空気を昇圧して高圧原料空気とし、主熱交換器で冷却した後に減圧して中圧塔に導入する工程と、第3中圧原料空気を昇圧した後に主熱交換器で中間温度に冷却してから膨張タービンで中圧液化酸素の沸点より高い温度に膨張させて低圧原料空気とし、主熱交換器で冷却してから低圧塔に導入する工程と、低圧塔から抜き出した液化酸素を液化酸素ポンプで昇圧して中圧液化酸素とし、主熱交換器で気化させて中圧製品酸素ガスとする工程と、低圧塔から抜き出したガスをアルゴン塔で蒸留して製品アルゴンとする工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気液化分離方法及び装置に関し、詳しくは、圧縮、精製、冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原料空気を中圧塔及び低圧塔を有する複精留塔で深冷液化分離した酸素を中圧の製品酸素ガスとして採取するプロセスとして、前記低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して液化酸素ポンプで昇圧して所定圧力の中圧液化酸素とした後、主熱交換器で気化させて中圧製品酸素ガスとするプロセス、いわゆる内部昇圧プロセスが広く知られている。
【0003】
このような内部昇圧プロセスにおいても、製品収率を改善するため、従来から、低圧塔内に第2凝縮器を設けたり(例えば、特許文献1参照。)、蒸留塔として高圧塔、中間圧塔、低圧塔の3塔を使用したり(例えば、特許文献2参照。)、その他の各種の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2865274号公報
【特許文献2】特開2000−346547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の内部昇圧プロセスにおける製品収率改善策は、いずれもプロセスが複雑になり、装置価格が上昇するという問題があった。また、製品収率の改善も十分ではなく、更なる改善が求められている。
【0006】
そこで本発明は、装置価格の上昇を抑えながら製品収率の改善を図ることができる内部昇圧プロセスを採用した空気液化分離方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の空気液化分離方法の第1の構成は、原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離方法において、前記原料空気を前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧して前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気、第2中圧原料空気及び第3中圧原料空気に3分流する工程と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする工程と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記第3中圧原料空気を更に昇圧した後に前記主熱交換器で中間温度に冷却してから膨張タービンで前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする工程と、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する工程と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して液化酸素ポンプで昇圧して前記中圧液化酸素とする工程と、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする工程と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを前記アルゴン塔で蒸留して前記製品アルゴンとする工程とを含むことを特徴としている。
【0008】
本発明の空気液化分離方法の第2の構成は、原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離方法において、前記原料空気を前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧して前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気と第2中圧原料空気とに2分流する工程と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記主熱交換器で冷却される前記第1中圧原料空気の一部を中間温度で第3中圧原料空気として分流する工程と、前記第3中圧原料空気を膨張タービンで前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする工程と、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する工程と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする工程と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して液化酸素ポンプで昇圧して前記中圧液化酸素とする工程と、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする工程と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを前記アルゴン塔で蒸留して前記製品アルゴンとする工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の空気液化分離装置の第1の構成は、原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離装置において、前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧されて前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気、第2中圧原料空気及び第3中圧原料空気に3分流する経路と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする第2中圧原料空気圧縮機と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に減圧弁で前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記第3中圧原料空気を更に昇圧した後に前記主熱交換器で中間温度に冷却してから前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする膨張タービンと、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する経路と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して昇圧することにより前記中圧液化酸素とする液化酸素ポンプと、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする経路と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを蒸留して前記製品アルゴンとする前記アルゴン塔とを備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明の空気液化分離装置の第2の構成は、原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離装置において、前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧されて前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気と第2中圧原料空気とに2分流する経路と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記主熱交換器で冷却される前記第1中圧原料空気の一部を中間温度で第3中圧原料空気として分流する経路と、前記第3中圧原料空気を前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする膨張タービンと、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する経路と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする第2中圧原料空気圧縮機と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に減圧弁で前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して昇圧することにより前記中圧液化酸素とする液化酸素ポンプと、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする経路と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを蒸留して前記製品アルゴンとする前記アルゴン塔とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の空気液化分離方法及び装置の第1の構成によれば、酸素収率及びアルゴン収率を高めることができる。また、本発明の空気液化分離方法及び装置の第2の構成によれば、第1の構成に比べてアルゴン収率は劣るものの消費電力を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の空気液化分離装置の第1形態例を示す系統図である。
【図2】内部昇圧プロセスを採用した従来の空気液化分離装置の一例を示す系統図である。
【図3】膨張タービン入口温度と膨張タービンの入口出口におけるエンタルピ差との関係を示す図である。
【図4】膨張タービン入口温度と製品アルゴン収率との関係を示す図である。
【図5】膨張タービンの断熱効率と膨張タービンの入口出口温度との関係を示す図である。
【図6】本発明の空気液化分離装置の第2形態例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、図1に示す第1形態例に示す空気液化分離装置は、主要構成要素として、原料空気圧縮機11,精製器12,主熱交換器13,中圧塔14,低圧塔15,主凝縮器16,第1アルゴン塔(粗アルゴン塔)17,第2アルゴン塔(脱酸塔、高純アルゴン塔)18,アルゴン凝縮器19,過冷器20、液化酸素ポンプ21、第2中圧原料空気圧縮機22、減圧弁23、第3中圧原料空気圧縮機24及び膨張タービン25を備えており、原料空気から製品アルゴン、中圧製品酸素ガス、中圧製品窒素ガス、低圧製品窒素ガスを採取するための内部昇圧プロセスを採用した構成となっている。
【0014】
原料空気は、原料空気圧縮機11で中圧塔14に導入可能な中圧、すなわち、精製器12や主熱交換器13における圧力損失を考慮し、中圧塔14の下部圧力より僅かに高い圧力に昇圧されて中圧原料空気となる。この中圧原料空気は、精製器12で水分や二酸化炭素等の不純物が除去されて精製された後、第1中圧原料空気経路31の第1中圧原料空気と、第2中圧原料空気経路32の第2中圧原料空気と、第3中圧原料空気経路33の第3中圧原料空気とに3分流される。
【0015】
前記第1中圧原料空気は、前記主熱交換器13で中圧塔14や低圧塔15からの戻りガスと熱交換することにより液化点付近まで冷却され、経路34を通って中圧塔14の下部に導入される。また、前記第2中圧原料空気は、熱交換器22aを介して第2中圧原料空気圧縮機22で更に昇圧されて高圧原料空気となる。この高圧原料空気は、前記主熱交換器13で前記戻りガスと熱交換することにより冷却され、経路35の減圧弁23で前記中圧塔14に導入可能な中圧に減圧されて一部が液化した状態で中圧塔14の下部に導入される。
【0016】
前記第3中圧原料空気は、熱交換器24aを介して第3中圧原料空気圧縮機24で更に昇圧された後、前記主熱交換器13の上流側で中間温度に冷却された状態で経路36に抜き出され、膨張タービン25に導入される。この膨張タービン25では、第3中圧原料空気を断熱膨張させて低圧原料空気とする際に、膨張タービン25の出口温度、すなわち低圧原料空気の温度が前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度で、かつ、出口圧力、すなわち低圧原料空気の圧力が、低圧塔15の中段上部の圧力より僅かに高く、低圧塔15に導入可能な圧力になるように設定され、装置の運転に必要な寒冷を発生させている。この低圧原料空気は、経路37を通って再び主熱交換器13の下流側に導入され、前記戻りガスと熱交換することにより冷却されてから経路38を経て低圧塔15の中段上部に導入される。
【0017】
中圧塔14に導入された第1中圧原料空気及び第2中圧原料空気は、中圧塔14での蒸留操作により、塔頂部の窒素富化流体(窒素ガス)と塔底部の酸素富化液化流体(酸素富化液化空気)とに分離される。塔頂部の窒素富化流体の一部は、経路39に抜き出されて主熱交換器13に導入され、前記各原料ガスと熱交換を行って常温付近まで昇温し、中圧製品窒素ガス採取経路40から中圧製品窒素ガスとして採取される。窒素富化流体の残部は、前記主凝縮器16で液化して液化窒素となり、その大部分が中圧塔14の還流液として中圧塔14の頂部に導入され、残部の液化窒素は、経路41を通って過冷器20で冷却され、減圧弁26で前記低圧塔15に導入可能な低圧に減圧された後、低圧塔15の頂部に導入されて低圧塔15の還流液となる。
【0018】
また、中圧塔14の塔底部の酸素富化液化流体は、経路42に抜き出されて過冷器20で冷却された後、一部が減圧弁27で低圧塔15に導入可能な圧力に減圧されて低圧塔15の中段部に下降液として導入される。残部の酸素富化液化流体は、経路43に分流して減圧弁28で低圧塔15に導入可能な圧力に減圧されてからアルゴン凝縮器19に導入され、気化して酸素富化気化流体となり、経路44から低圧塔15の中段部に上昇ガスとして導入される。
【0019】
低圧塔15では、導入された各流体の蒸留操作が行われ、低圧塔15の塔底部に酸素が濃縮されて液化酸素となり、低圧塔15の塔頂部には窒素が濃縮されて高純度窒素ガスとなり、低圧塔15の中段下部の流体中にはアルゴンが濃縮される。高純度窒素ガスは、低圧塔15の塔頂部から経路45に抜き出され、過冷器20及び主熱交換器13で熱交換を行うことにより常温付近まで昇温し、低圧製品窒素ガス採取経路46から低圧製品窒素ガスとして採取される。また、低圧塔15の塔上部からは、経路47に廃ガスが抜き出され、過冷器20及び主熱交換器13での熱交換により昇温した後、前記精製器12の再生ガスとして用いられる。
【0020】
低圧塔15の中段下部からは、アルゴンが濃縮したガス流体が経路48に抜き出されて第1アルゴン塔17の下部に上昇ガスとして導入され、第1アルゴン塔17の頂部にアルゴンが更に濃縮される。第1アルゴン塔17の頂部のガス流体は、経路49を通って第2アルゴン塔18の下部に上昇ガスとして導入され、第2アルゴン塔18での蒸留操作によって第2アルゴン塔18の頂部に高純度のアルゴンガスが分離する。このアルゴンガスは、前記アルゴン凝縮器19で前記酸素富化液化流体と熱交換することにより液化して液化アルゴンとなる。この液化アルゴンの大部分は第2アルゴン塔18の頂部に還流液として導入され、残部の液化アルゴンが、液化アルゴン採取経路50から製品液化アルゴンとして採取される。また、第2アルゴン塔18の底部から経路51に抜き出された液流体は、ポンプ52により第1アルゴン塔17の頂部に送られて還流液となり、第1アルゴン塔17の底部の液流体は、経路53を通って低圧塔15の中段下部に戻されて下降液となる。
【0021】
前記低圧塔15の塔底部の液化酸素は、一部が前記主凝縮器16で前記窒素富化流体と熱交換を行うことにより気化して低圧塔15の上昇ガスとなり、残部が経路54に抜き出されて液化酸素ポンプ21によってあらかじめ設定された圧力に昇圧されて中圧液化酸素となる。この中圧液化酸素は、主熱交換器13に導入されて前記各原料ガスと熱交換を行うことにより気化して中圧酸素ガスになるとともに常温付近まで昇温し、中圧製品酸素ガス採取経路55から中圧製品酸素ガスとして採取される。
【0022】
本形態例に示すプロセスのシミュレーション結果を表1に示す。なお、各流体の流量は、原料空気の流量を100としている。
【表1】

【0023】
このように、製品アルゴン、中圧製品酸素ガス、中圧製品窒素ガス、低圧製品窒素ガスを採取する際に、第3中圧原料空気が膨張タービン25で膨張して降温した低圧原料空気の膨張タービン出口温度を前記中圧液化酸素の沸点よりも高い温度に設定し、装置の運転に必要な寒冷を発生させるとともに、第3中圧原料空気が膨張した後の低圧原料空気を再び主熱交換器13の下流側に導入することにより、中圧液化酸素を気化させるための温流体として低圧原料空気を有効に利用することができる。
【0024】
従来は、例えば図2に示すように、膨張タービン25で膨張した低圧原料空気を、膨張タービン25の出口から経路56を通してそのまま低圧塔15に導入し、装置の運転に必要な寒冷を発生させるためにだけに膨張タービン25を利用しており、中圧液化酸素の気化には利用していなかった。
【0025】
なお、図2に示す空気液化分離装置は、膨張タービン25の出口側の経路が異なるのみで、他の構成は図1の第1形態例に示した空気液化分離装置と同一としているので、図1と図2の同一の主な構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0026】
また、図3に入口圧力と出口圧力とがそれぞれ同じ条件とした場合において、膨張タービン25の入口温度と、膨張タービン25の入口出口におけるエンタルピ差との関係の一例を示している。この図3から明らかなように、膨張タービン25の入口温度が高いほど前記エンタルピ差が大きくなる。例えば、図2に示す従来のプロセスでは、膨張タービン25で膨張した低圧原料空気を低圧塔15に直接導入するので、図5に示すように、出口温度(低圧塔15の温度、約90K)の関係から入口温度が約150Kになり、このときのエンタルピ差は約1570J/gmolとなる。
【0027】
一方、前記第1形態例では、膨張タービン25で膨張した低圧原料空気を再度主熱交換器13に導入し、約90Kに冷却してから低圧塔15に導入すればよいことから、中圧液化酸素の沸点よりも高い温度に設定する以外に出口温度の制約がほとんどなくなり、膨張タービン25の断熱効率などの条件によって入口温度を設定することができる。例えば、膨張タービン25の入口温度を196Kに設定した場合は、図3に示すように、エンタルピ差が約2160J/gmolとなり、図2に示した従来の空気分離装置と比較するとエンタルピ差が約40%向上するので、膨張タービン25の処理量を従来に比べて約40%少なくしても、従来と同程度の寒冷を発生させることができる。これにより、低圧塔15に導入する原料空気量が減少し、中圧塔14に導入する原料空気量、特に第1中圧原料空気の量を増加させることができる。したがって、中圧塔14での蒸留操作により分離される塔頂部の窒素富化流体の量を増加させることができ、経路39に抜き出される中圧製品窒素ガス量が従来のプロセスと同程度の場合には、主凝縮器16に温流体として導入される窒素富化流体の量が増加し、その熱交換量が増加する。その結果、低圧塔15の底部における蒸発ガス量(焚き上げとも言う。)が増加するので、製品収率の改善、特に製品アルゴンの収率改善に大きく寄与することができる。
【0028】
図4は、酸素ガスを1.6MPaで採取するプロセスにおける膨張タービン25の入口温度と製品アルゴンの収率との関係を示すもので、膨張タービン25の入口温度を高くすることによって製品アルゴンの収率を改善できることがわかる。但し、膨張タービン25の入口温度がある温度Tcを超えると、製品アルゴン収率の改善はほとんど期待できなくなる。しかし、入口温度が温度Tcを超える設定とすることにより、膨張タービン25の入口出口におけるエンタルピ差の増大から膨張タービン25の処理量を更に少なくできる。さらに、前記第3中圧原料空気圧縮機24を膨張タービン25の制動ブロワとすることにより、第3中圧原料空気圧縮機24の消費動力を低減するができる。
【0029】
一方、図5に示すように、膨張タービン25の入口温度が高い程、あるいは膨張タービン25の断熱効率ηが低い程、膨張タービン出口温度は高くなる。例えば、膨張タービン25の入口温度をそれぞれ前述の196K、150Kとし、膨張タービンの断熱効率を85%に設定すると、膨張タービン出口温度は、それぞれ約125K、90Kとなる。この膨張タービンを出た約125Kの原料空気を低圧塔15に直接導入すると低圧塔の蒸留効率が低下する。
【0030】
つまり、一例であるが、膨張タービン25からの原料空気が導入される低圧塔15の導入部分を下降する還流液流体温度は約90Kであり、そこに、約125Kの原料空気が直接導入されると、その一部が気化する。このため、原料空気が導入された部分の気液比(=下降還流液流量/上昇ガス流量)が低下し、低圧塔内の蒸留分離効率が低下する。
【0031】
しかし、本形態例に示すように、膨張タービン25を出た原料空気を主熱交換器13に再度導入し、冷却した後に低圧塔15に導入することにより、膨張タービン25の処理流量の低減と製品アルゴン収率の改善を図りつつ、低圧塔15の蒸留分離効率の低下を防ぐことができる。従来のプロセスでは、膨張タービン25の入口温度、すなわち出口温度が比較的低いので、膨張タービンからの原料空気を低圧塔に直接導入しても、プロセス上大きな問題はなかった。
【0032】
一般的に、膨張タービン25に導入する原料空気をより高い温度で導入した場合、得られる寒冷が多いことは、公知技術である。しかし、本形態例に示すように、このような膨張タービンの性質を、製品として少なくとも酸素及びアルゴンを採取し、しかも、製品酸素の少なくとも一部を内部昇圧した後に採取する空気分離装置に採用することで、膨張タービンの性質を最大限に利用できる。特に、液化酸素を内部昇圧して中圧酸素を採取するプロセスでは、主熱交換器13内で、液化酸素を蒸発させるための潜熱及び顕熱を供給する必要があり、その熱の一部として、膨張タービン25からの比較的温度の高い原料空気を有効に利用できる。
【0033】
図6は、本発明の空気液化分離装置の第2形態例を示す系統図である。なお、前記第1形態例に示した空気液化分離装置の構成要素と同一の主要な構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0034】
原料空気は、前記同様に、原料空気圧縮機11で中圧塔14に導入可能な圧力に昇圧されて中圧原料空気となり、精製器12で精製された後、経路61の第1中圧原料空気と、経路62の第2中圧原料空気とに2分流される。この第2中圧原料空気は、熱交換器22aを介して直列に配置された2台の第2中圧原料空気圧縮機22L、22Hで順次昇圧されて高圧原料空気となり、主熱交換器13で冷却された後、経路35の減圧弁23で減圧されて中圧塔14の下部に導入される。なお、第2中圧原料空気圧縮機は、1台の圧縮機で構成してもよい。
【0035】
前記第1中圧原料空気の大部分は、前記主熱交換器13で冷却されて経路34から中圧塔14の下部に導入される。第1中圧原料空気の一部は、主熱交換器13の中間温度で経路63に分流されて第3中圧原料空気となり、膨張タービン25に導入される。前記第1形態例と同様に、膨張タービン25は、出口温度が前記中圧液化酸素の沸点よりも高い温度で、出口圧力が低圧塔15に導入可能な圧力になる条件に設定され、装置の運転に必要な寒冷を発生させている。膨張タービン25で膨張した低圧原料空気は、経路37から再び主熱交換器13の下流側に導入されることによって、中圧液化酸素を気化させるための温流体として利用されるとともに冷却され、経路38を通って低圧塔15の中段上部に導入される。
【0036】
経路34、経路35、経路38から中圧塔14及び低圧塔15それぞれ導入された原料空気は、前記第1形態例と同様に深冷液化分離されることにより、中圧製品窒素ガス採取経路40から中圧製品窒素ガスが、低圧製品窒素ガス採取経路46から低圧製品窒素ガスが、液化アルゴン採取経路50から製品アルゴンが、中圧製品酸素ガス採取経路55から中圧製品酸素ガスが、それぞれ採取される。
【0037】
なお、第2形態例は、第1形態例と比較して膨張タービン25の入口圧力を低く設定しているため、同程度の寒冷を発生させるためには処理量を増加する必要があり、その分中圧塔14に導入する原料空気量が減少するので、製品収率、特に製品アルゴンの収率は第1形態例と比較すると若干低下する。また、第2形態例では、膨張タービンブロワを第2中圧原料空気圧縮機の最終圧縮段(第2中圧原料空気圧縮機22H)として用いるプロセスである。したがって、第2中圧原料空気を所定の圧力まで昇圧する動力は、第1形態例よりも少なくなり、プロセス全体の動力消費量は第1形態例よりも少なくなる。
【0038】
表2に、前記第1形態例(図1)、第2形態例(図6)及び従来例(図2)の酸素収率、アルゴン収率及び消費動力を、第1形態例における消費動力を100として比較した結果を示す。
【表2】

【符号の説明】
【0039】
11…原料空気圧縮機、12…精製器、13…主熱交換器、14…中圧塔、15…低圧塔、16…主凝縮器、17…第1アルゴン塔、18…第2アルゴン塔、19…アルゴン凝縮器、20…過冷器、21…液化酸素ポンプ、22,22L,22H…第2中圧原料空気圧縮機、22a…熱交換器、23…減圧弁、24…第3中圧原料空気圧縮機、24a…熱交換器、25…膨張タービン、26…減圧弁、27…減圧弁、28…減圧弁、31…第1中圧原料空気経路、32…第2中圧原料空気経路、33…第3中圧原料空気経路、40…中圧製品窒素ガス採取経路、46…低圧製品窒素ガス採取経路、50…液化アルゴン採取経路、52…ポンプ、55…中圧製品酸素ガス採取経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離方法において、前記原料空気を前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧して前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気、第2中圧原料空気及び第3中圧原料空気に3分流する工程と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする工程と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記第3中圧原料空気を更に昇圧した後に前記主熱交換器で中間温度に冷却してから膨張タービンで前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする工程と、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する工程と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して液化酸素ポンプで昇圧して前記中圧液化酸素とする工程と、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする工程と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを前記アルゴン塔で蒸留して前記製品アルゴンとする工程とを含むことを特徴とする空気液化分離方法。
【請求項2】
原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離方法において、前記原料空気を前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧して前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気と第2中圧原料空気とに2分流する工程と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記主熱交換器で冷却される前記第1中圧原料空気の一部を中間温度で第3中圧原料空気として分流する工程と、前記第3中圧原料空気を膨張タービンで前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする工程と、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する工程と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする工程と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する工程と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して液化酸素ポンプで昇圧して前記中圧液化酸素とする工程と、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする工程と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを前記アルゴン塔で蒸留して前記製品アルゴンとする工程とを含むことを特徴とする空気液化分離方法。
【請求項3】
原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離装置において、前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧されて前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気、第2中圧原料空気及び第3中圧原料空気に3分流する経路と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする第2中圧原料空気圧縮機と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に減圧弁で前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記第3中圧原料空気を更に昇圧した後に前記主熱交換器で中間温度に冷却してから前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする膨張タービンと、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する経路と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して昇圧することにより前記中圧液化酸素とする液化酸素ポンプと、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする経路と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを蒸留して前記製品アルゴンとする前記アルゴン塔とを備えていることを特徴とする空気液化分離装置。
【請求項4】
原料空気圧縮機で圧縮し、精製器で精製し、主熱交換器で冷却した原料空気を中圧塔、低圧塔及びアルゴン塔で深冷液化分離することによって少なくとも製品アルゴンと中圧製品酸素ガスとを採取する空気液化分離装置において、前記原料空気圧縮機で前記中圧塔に導入可能な中圧に昇圧されて前記精製器で精製した中圧原料空気を第1中圧原料空気と第2中圧原料空気とに2分流する経路と、前記第1中圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記主熱交換器で冷却される前記第1中圧原料空気の一部を中間温度で第3中圧原料空気として分流する経路と、前記第3中圧原料空気を前記中圧製品酸素ガスの気化前の中圧液化酸素の沸点よりも高い温度でかつ前記低圧塔に導入可能な低圧に膨張させて低圧原料空気とする膨張タービンと、前記低圧原料空気を前記主熱交換器で冷却して前記低圧塔の中段上部に導入する経路と、前記第2中圧原料空気を更に昇圧して高圧原料空気とする第2中圧原料空気圧縮機と、前記高圧原料空気を前記主熱交換器で冷却した後に減圧弁で前記中圧塔に導入可能な中圧に減圧して前記中圧塔の下部に導入する経路と、前記中圧塔及び低圧塔での蒸留操作によって低圧塔の底部に濃縮した液化酸素を抜き出して昇圧することにより前記中圧液化酸素とする液化酸素ポンプと、前記中圧液化酸素を前記主熱交換器で気化させて前記中圧製品酸素ガスとする経路と、前記低圧塔の中段下部から抜き出したガスを蒸留して前記製品アルゴンとする前記アルゴン塔とを備えていることを特徴とする空気液化分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−83058(P2012−83058A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231090(P2010−231090)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】