説明

空間充填曲線を用いる車両用アンテナ装置

【課題】アンテナエレメントが占める領域を小型化することが可能な車両用アンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナエレメントの少なくとも一部が空間充填曲線からなる車両用アンテナ装置は、初期形状が2本の平行線とその間を一連に接続する1本の斜線とからなる空間充填曲線を有するアンテナエレメントを具備する。具体的には、アンテナエレメントは、初期形状の始点が一方の平行線の一端であり、終点が他方の平行線の他端である空間充填曲線、より具体的には、初期形状がN形状又は反転N形状の空間充填曲線を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用アンテナ装置に関し、特に、アンテナエレメントの少なくとも一部が空間充填曲線からなる車両用アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンテナエレメントに空間充填曲線を用いた車両用の小型アンテナ装置が知られている。空間充填曲線とは、平面領域を分割する部分区間の全てを一度で通過するような1本の曲線である。例えば、特許文献1には、空間充填曲線としてヒルベルト曲線やペアノ曲線を用いたアンテナ装置が開示されている。また、特許文献2にも同様に、ヒルベルト曲線やペアノ曲線を用いたアンテナ装置が開示されている。このような空間充填曲線を用いることで、アンテナエレメントの配線間の結合等の影響を抑えつつアンテナエレメントの領域を小型化することが可能となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−521146号公報
【特許文献2】特表2008−523671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、受信感度特性は悪化させずに、より小型化が可能なアンテナエレメントのパターンの開発が望まれている。より高密度にアンテナエレメントを配置できれば、それだけアンテナエレメントが占める領域を小型化することが可能となり、アンテナ装置のデザインの自由度や設置自由度が増すためである。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、アンテナエレメントが占める領域をより小型化することが可能な空間充填曲線を用いる車両用アンテナ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による車両用アンテナ装置は、初期形状が2本の平行線とその間を一連に接続する1本の斜線とからなる空間充填曲線を有するアンテナエレメントを具備するものである。
【0007】
また、アンテナエレメントは、初期形状の始点が一方の平行線の一端であり、終点が他方の平行線の他端である空間充填曲線を有するものであっても良い。
【0008】
また、アンテナエレメントは、初期形状がN形状又は反転N形状の空間充填曲線を有するものであっても良い。
【0009】
さらに、アンテナエレメントは、空間充填曲線に斜線の連結線を有するものであっても良い。
【0010】
また、アンテナエレメントは、空間充填曲線の伸張係数によりターゲット周波数が可変されても良い。
【0011】
さらに、アンテナエレメントは、空間充填曲線の線幅によりターゲット周波数が可変されても良い。
【0012】
また、アンテナエレメントは、第5オーダで2ステージの空間充填曲線を有するものであっても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空間充填曲線を用いる車両用アンテナ装置には、アンテナエレメントが占める領域を小型化することが可能であるという利点がある。また、同じ領域であれば、アンテナエレメントをより長く構成することが可能となるという利点もある。
【0014】
また、アンテナエレメントの空間充填曲線の伸張係数を変えることで、オーダ数を上げ下げせずに所望のターゲット周波数となるように調整することも可能であるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に用いられる空間充填曲線の生成過程を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明に用いられる空間充填曲線の第4オーダの状態を表す図である。
【図3】図3は、本発明の車両用アンテナ装置のアンテナエレメントを説明するための概略平面図である。
【図4】図4は、本発明の車両用アンテナ装置のアンテナエレメントの空間充填曲線の伸張係数を可変した例を説明するための概略平面図である。
【図5】図5は、本発明の車両用アンテナ装置のシミュレーションによる周波数対ゲイン特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。まず、本発明の車両用アンテナ装置に適用される空間充填曲線について説明する。空間充填曲線は平面領域を分割する部分区間の全てを一度で通過するような1本の曲線である。所定の領域において、オーダ数が増えると通過すべき部分区間が多くなる。ここで、本明細書中において、オーダ数とは、部分区間の分割回数を意味する。分割回数を増やしていくことで、初期形状を含む曲線が周期的に反復されて空間充填曲線が形成される。また、オーダ数に応じて最終的に分割された部分区間を、ユニットセルという。
【0017】
以下、より具体的に本発明に用いられる空間充填曲線について、図1を用いて説明する。図1は、本発明に用いられる空間充填曲線の生成過程を説明するための図であり、図1(a)は第1オーダにおける曲線を、図1(b)は第2オーダにおける曲線を、図1(c)は第3オーダにおける曲線をそれぞれ表している。図1(a)に示されるように、本発明に用いられる空間充填曲線は、第1オーダ、即ち、所定の領域を4つの部分区間に分割した状態である初期形状1が、2本の平行線とその間を一連に接続する1本の斜線とからなるものである。より具体的には、初期形状1がN形状の曲線からなっている。なお、図示例では初期形状はN形状であるが、本発明はこれに限定されず、例えば反転N形状であっても良い。本発明に用いられる空間充填曲線の初期形状の特徴は、始点と終点の位置が反転しており、斜線を有するものである。
【0018】
そして、図1(b)に示されるように、第2オーダにおける曲線は、N形状及び反転N形状が組み合わされたものとなっている。そして、これらの初期形状が連結線21−23により接続されて1本の曲線となっている。さらにオーダ数を上げると、図1(c)に示されるように、ユニットセルの数が増え、さらに長い空間充填曲線が形成されていく。なお、このような空間充填曲線の生成手法は、基本的にはヒルベルト曲線等の生成手法と類似している。
【0019】
このようにして第4オーダまで繰り返した空間充填曲線が、図2に示されている。図2は、本発明に用いられる空間充填曲線の第4オーダの状態を表す図である。本発明に用いられる空間充填曲線は、図示の通り、初期形状に1本の斜線を含み、さらに、連結線にも斜線が含まれているものである。ここで、縦線又は横線の長さを1とすると、斜線の長さは√2となる。よって、本発明に用いられる空間充填曲線は、縦線及び横線のみの組み合わせからなる空間充填曲線に比べて、斜線を含む分、より長い曲線となる。したがって、全長が同じ長さの曲線とした場合には、空間充填曲線が占める領域を小さくすることが可能である。
【0020】
本発明の車両用アンテナ装置は、このような空間充填曲線を用いてアンテナエレメントを構成している。図3は、本発明の車両用アンテナ装置のアンテナエレメントを説明するための概略平面図である。なお、図面上、参考までにユニットセルを破線で示した。本発明の車両用アンテナ装置では、基板10上にアンテナエレメント20が形成されている。基板10は、例えばガラスエポキシ基板やフッ素樹脂基板等のプリント基板からなるものである。また、基板10は、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム等からなるフレキシブル基板からなるものであっても良い。アンテナエレメント20は、例えば基板10上に塗布された銅等の導電性薄膜をエッチング等によりパターンニングすることで、本発明で用いられる空間充填曲線となるように形成される。
【0021】
ここで、図示例のアンテナエレメントは、第5オーダで2ステージの空間充填曲線を用いた例である。なお、本明細書中において、ステージとは、空間充填曲線の1つのパターンを意味し、複数のステージとは、1つパターンの空間充填曲線を複数繋いだものを意味する。即ち、第5オーダで2ステージの空間充填曲線とは、第5オーダの空間充填曲線のパターンを2つ並べて、これらを繋いだものを意味する。なお、図示例では第5オーダで2ステージの空間充填曲線を有するアンテナエレメントを具備する車両用アンテナ装置を示したが、本発明はこれに限定されず、所望のターゲット周波数(f)に応じて、オーダ数やステージ数を選択することが可能である。例えば、図2に示される第4オーダで1ステージの空間充填曲線を有するアンテナエレメントを具備する車両用アンテナ装置であってもよい。また、図3のような第5オーダのものを3ステージに構成したものであっても良い。
【0022】
本発明の車両用アンテナ装置によれば、初期形状及び連結線に含まれる斜線の分だけ、全長が同じ長さの曲線とした場合には、アンテナエレメントが占める領域を小さくすることができるため、基板を小型化することが可能となる。また、アンテナエレメントが占める領域が同じ大きさであれば、アンテナエレメントをより長く構成することが可能となる。
【0023】
次に、本発明の車両用アンテナ装置の他の例について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の車両用アンテナ装置のアンテナエレメントの空間充填曲線の伸張係数を可変した例を説明するための概略平面図である。図中、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。なお、図示例のアンテナエレメントは、伸張係数を1.7、即ち、縦横比を1.7:1としたものである。本発明の車両用アンテナ装置は、アンテナエレメントの空間充填曲線の伸張係数を変えることで、ターゲット周波数を可変することが可能となる。これは、空間充填曲線の伸張係数を変えることでエレメント長が変わるためである。即ち、図示例のように縦の長さを1.7倍にすると、その分エレメント長も長くなるため、結果としてターゲット周波数が低くなる。このように、オーダ数を上げ下げせずに、伸張係数により所望のターゲット周波数となるように調整することも可能である。
【0024】
なお、通常は、車両用アンテナ装置のサイズが予め決められており、これに合わせて用いられる基板の大きさも決定されるため、この基板のサイズに載る範囲で、所望の特性となるような空間充填曲線を有するアンテナエレメントを設計すれば良い。
【0025】
図5を用いて、本発明の車両用アンテナ装置と従来のヒルベルト曲線を用いたアンテナ装置との比較を行う。図5は、本発明の車両用アンテナ装置のシミュレーションによる周波数対ゲイン特性のグラフである。比較例として、従来のヒルベルト曲線を用いたアンテナ装置のゲイン特性も示している。なお、測定条件は以下の通りである。
【表1】

【0026】
図5から分かる通り、本発明の車両用アンテナ装置は、従来のアンテナ装置の比較例と比べて、非常にゲインが高い。なお、図5の比較例1及び比較例2の従来のヒルベルト曲線を用いたアンテナ装置のゲイン特性から分かる通り、伸張係数を可変すると、ターゲット周波数が変わるのは、本発明の車両用アンテナ装置でも同様である。
【0027】
さらに、本発明の車両用アンテナ装置では、アンテナエレメントの空間充填曲線の線幅を可変することにより、ゲインを調整することも可能である。本発明の車両用アンテナ装置は、空間充填曲線の配線の線幅を太くするとゲインが高くなり、細くするとゲインが低くなる特性を有している。したがって、空間充填曲線の線幅を可変することで所望のゲインが得られるように調整することも可能となる。
【0028】
なお、本発明の車両用アンテナ装置は、空間充填曲線の配線の線幅を太くするとターゲット周波数が上がり、線幅を細くするとターゲット周波数は下がる特性も有している。例えば、表1に示した条件において、本発明の車両用アンテナ装置のアンテナエレメントの空間充填曲線の線幅を0.65mmから0.42mmに変えると、ターゲット周波数は約104MHzから約92MHz付近に変化する。
【0029】
以上説明したように、本発明の空間充填曲線を用いる車両用アンテナ装置は、アンテナエレメントが占める領域を小型化することが可能である。さらに、アンテナエレメントの長さ(オーダ数やステージ数)だけでなく、伸張係数や配線幅を変えることでも、ターゲット周波数やゲインの調整が可能となる。
【0030】
なお、本発明の車両用アンテナ装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 初期形状
10 基板
21−23 連結線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナエレメントの少なくとも一部が空間充填曲線からなる車両用アンテナ装置であって、該車両用アンテナ装置は、
初期形状が2本の平行線とその間を一連に接続する1本の斜線とからなる空間充填曲線を有するアンテナエレメントを具備することを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、初期形状の始点が一方の平行線の一端であり、終点が他方の平行線の他端である空間充填曲線を有することを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、初期形状がN形状又は反転N形状の空間充填曲線を有することを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、空間充填曲線に斜線の連結線を有することを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、空間充填曲線の伸張係数によりターゲット周波数が可変されることを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、空間充填曲線の線幅によりターゲット周波数が可変されることを特徴とする車両用アンテナ装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の車両用アンテナ装置において、前記アンテナエレメントは、第5オーダで2ステージの空間充填曲線を有することを特徴とする車両用アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−263329(P2010−263329A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111504(P2009−111504)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000165848)原田工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】