説明

空隙充填材料とその作成方法

【課題】トンネル等の地下構造物の背面空隙充填及び廃棄に伴う内部充填に際し、必要にして十分な性能を有し(長期圧送が可能な材料分離抵抗と必要最低限の強度発現)、施工性に富む(1液型混合により作成、ベントナイト膨潤時間不要)、空隙充填材料とその作成方法を提供する。
【解決手段】珪酸ソーダ(以下、水ガラス)を、通常の使用方法である、2液ないし1.5液型混合プラントへの多量投入により凝結促進剤として用いるのではなく、1液型プラントにごく少量(全充填材に対する体積比2%以下)を投入することで材料分離低減剤として用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、新設・既設含むトンネル等の地下構造物(以下、「トンネル等」と略称)における、構造物背面と地盤との間の空隙の充填、あるいはトンネル等自体の廃棄(鉱山廃鉱等)に伴う内部充填に用いる、セメント系の空隙充填材料(以下、「充填材」と略称)とその作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル等においては、その施工時の構造物壁体コンクリートの打設時に、コンクリートが掘削地盤と密着するまで隅々まで行き渡らず、構造物背面と地盤との間に空隙が生じてしまう場合が多い。その現象は、コンクリートの人力打設を行っていた時代に施工された既設構造物において特に顕著である。
地盤からの土圧(外圧)を、加えて構造物の種類によってはその内側からの水圧等(内圧)を、設計どおりに構造物に載荷させて、構造物の安定性を保つためには、上記の空隙を充填して構造物と地盤とを一体化させることが望ましい。そのため、従来から、トンネル等の背面空隙への充填(グラウチング)が実施されてきた。
また、大谷石採石鉱山跡の陥没事故に代表されるように、トンネル等の残置に伴う事故も多発しており、トンネル等自体の廃棄に伴う内部充填もその重要性を増しつつある。
【0003】
充填材として、最も基本的な材料は、セメント+水によるセメントミルク(ペースト)、あるいはセメント+砂+水によるセメントモルタルである。
しかし、トンネル等は地中深くにある構造物であるため、施工性に制約があることが多い。すなわち、材料練り混ぜのプラントをトンネル内の充填箇所から遠く離れた外部地表に設置し、そこから配管によって充填材を長距離圧送によって施工することを強いられることも多く、その制約は既設のトンネル等においてより厳しい。
そのような条件下において、セメントモルタルは粘性が強くて長距離の圧送は困難である。また、セメントペーストはモルタルに比べれば適するものの、材料分離(ブリージング)が大きいため、圧送中に分離沈降したセメント分が配管を閉塞してしまう事故を発生させる。
【0004】
上記のセメントペーストの材料分離の問題を解消すべく多用されてきたのがベントナイトである。すなわち、水とベントナイトとを混合させて、ベントナイトを十分に膨潤させて水と吸着させた後にセメントを混合することで、材料分離が低減される。
この現象は、上記の膨潤の時間を多くとることでより効果的である。貯留タンクにより数時間や一晩程度貯留しておけるような施工空間・時間の余裕がある場合には、ベントナイトの膨潤による増容量効果(最大5〜10倍程度)も絶大であり、効果と経済性に優れた充填材を得ることができる。
【0005】
しかし、実際の施工現場においては、上記のような余裕がとれない状況が大半であり、作業性向上のため、ベントナイト混練後の数分後ないしほぼ直後にセメントを投入せざるを得ない場合も多い。
その場合、膨潤による材料分離低減効果も十分に発揮されないばかりか、増容量効果も生じない。そうなると、ベントナイト単体はセメントに比べて高価な材料であるため、効果も経済性も低下せざるを得ない。
【0006】
一方で、石炭火力発電所から発生するフライアッシュは、その処分に各発電所及び電力会社が苦慮しているところである。循環型社会形成が求められているのが現状であるため、その方面からの積極的な再利用が求められている。
このフライアッシュを前項まで述べてきたセメント系の充填材に混入させることで、以下のような効果が期待される。
(イ)副産物であるため材料自体が安価であり、充填材への混入量が増えるにつれ、充填材全体の材料単価が下がり、経済的となる。
(出願日現在の概算価格:セメント20円/kg、ベントナイト30円/kg、フライアッシュ10円/kg)
(ロ)セメントに比べて単位重量が小さく、セメントをフライアッシュで置換することで、充填材料中の単位水量を減少させることができるため材料分離が低減されるほか、充填材全体の単位重量が減る。
(ハ)(ロ)項の材料分離の抑制により、より一層の長距離圧送が可能となる。
(ニ)(ロ)項の単位水量の減少により、乾燥収縮が減少するとともに、水密性・耐久性が向上する。
(ホ)(ロ)項の充填材単位重量の減少により、充填時および充填後の構造物への荷重が減る。
(ヘ)長期強度が増進する。
【0007】
充填材へのフライアッシュ混入の研究事例は多数あり、そのうち、関連する先行技術文献の代表的なものを以下に挙げる(特許電子図書館による検索)。
(イ)特許第3607383号「スラリー添加材」
(ロ)特許第3566359号「裏込め充填材料」
(ハ)特許第3450420号「裏込め充填材料」
(ニ)特許第3099166号「水硬性組成物」
(ホ)特開2003−119062「注入材用硬化材及び注入材」
(ヘ)特開2003−2723「セメント系組成物」
(ト)特開平11−92760「裏込め充填材料」
(チ)特開平9−77546「空隙充填材料」
【0008】
「0007」に挙げた先行技術事例は、本発明に比して、以下のような難点がある。
(イ)流動性及び材料分離抵抗の低下
フライアッシュの混入量を本発明より多量に混入している事例が大半であり、その点では本発明を凌駕している。しかし、その分、単位水量が下がりすぎており、充填時の圧送性を左右する流動性に支障が出ていると言わざるを得ない。
その流動性の指標として、各事例ではモルタルに用いるテーブルフロー試験(広がりの幅で測定)を用いており、確かに各事例ともにモルタルに比べればフロー値は大きい。しかし、セメントミルク系充填材のフロー値の評価は漏斗(P漏斗ないしJ漏斗)からの流下時間による指標を用いるべきであり、その指標に乗らない程度の流動性は「高い流動性を持つ」とは言い難い。加えて、ブリージング率についても、5%以上、事例によっては10%に達する配合までも適合と判定としている。
この程度の流動性そして材料分離抵抗では、発明者・出願人が業務として携わっている、「0003」に述べたようなトンネル等の奥の1、2km先までの圧送には到底耐え得ない。
各機関のトンネル背面空隙充填に係わる規定を次項の表1に示す。
(ロ)強度過大
各事例ともに、フライアッシュ多量混入により充填材の初期強度が低下するところを、水ガラスによる2液混合ないし1.5液混合を行うことにより強度を高めている。しかし、副作用として、前項のとおり単位水量が少なく粉体分の濃度が高いため、水ガラスによる凝固作用が飛躍的に進み過ぎ、材令28日強度、事例によっては材令7日や1日の時点で2N/mm2(≒20kgf/cm2)を超えている。
圧力水路トンネルような内圧のかかる構造物を除けば、力学的にはトンネル等の背面空隙への充填材には必要以上の強度は要求されない。地盤からの主働土圧を構造物壁体に均等に伝播・分散させることが充填材の主要目的であって、むしろ、強度が大きすぎると、均等には分散されなくなる恐れがある。自重や地盤からの主働土圧によって破壊されない程度の強度として、表1のとおり、各機関では1N/mm2(≒10kgf/cm2)程度、または、それに現場施工のばらつきの余裕を見込んで1.5N/mm2と設定している。
また、トンネル等自体の内部空隙充填についても、周辺地盤との応力の配分という意味で、上記と同様、強度が大きすぎる塊を地盤中に構築してしまうのは却って悪影響を引き起こしかねない。
以上より、各先行事例の充填材の強度発現は過大であることが示唆される。
(ハ)2液混合の不安
前項の2液や1.5液混合(=2ショット、1.5ショット充填)とは、セメント等の粉体の懸濁混合液であるA液と、水ガラス溶液のB液とを、別々のミキサーで混ぜて、地盤中(2液混合の場合)ないし地盤直前のY字管(1.5液混合の場合)で両液を混ぜ合わせる手法である。ゲルタイムを瞬結とするような薬液充填において多用されている。
しかし、上記の2液はミキサーを介さない混合となるため、混合後の充填材の品質にムラができる恐れがあり、先行事例内で行われている試験室内での試験結果を、そのまま現場施工に適用できるとは考えにくい。また、薬液充填は一般に仮設に用いられる手法であり、恒久対策となる空隙充填を、仮設対策と同手法で行うことに若干の疑問を呈せざるを得ない。
さらに、2液や1.5液混合の場合、充填設備が煩雑になり、施工性を悪化させる。
(ニ)分級フライアッシュ
先行事例の多くが、フライアッシュとして、JIS規格品ではなく、それをさらに細粒化選別した高品質品である分級フライアッシュを用いている。
しかし、試験室レベルでは容易であっても、実際の施工の時に購入等する際に、そのような高品質の特殊品を常に容易に入手できるとは限らない。
【0009】
【表1】

【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上までの従来技術の課題を整理すると、以下ような性状及び製法を有する、フライアッシュの混入量を増量させた配合の充填材が求められているといえよう。
(イ)性状その1:長距離圧送(圧送距離1〜2km)が可能となる所定の流動性、材料分離抵抗。目安として、P漏斗によるフロー値が11秒以下、ブリージング試験によるブリージング値が5%以下(3%以下が理想)。
(ロ)性状その2:必要最小限の圧縮強度。材令28日で1N/mm2程度。
(ハ)製法その1:2液混合ではなく、1液型とする。すなわち、圧送前の混合プラントにより、水ガラス等の添加剤含む全材料を混合し、均質な充填材を得る。
(ニ)製法その2:ベントナイト膨潤のための施工手間(膨潤時間)をとらず、各材料を連続的に混合することにより作成する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前項に記載した課題を解決するために、本発明者は種々の研究開発の結果、特に水ガラスの使用方法に着目し、通常とは異なる使用方法により異なる効果を生じ、それが当該課題を解決する極めて有用な方法及び材料となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、水ガラスを、通常の使用方法である、2液ないし1.5液型混合プラントへの多量投入により「凝結促進剤」(ゲル化促進)として用いるのではなく、1液型プラントにごく少量(全充填材に対する体積比2%以下)を投入することで「材料分離低減剤」として用い、ベントナイトの膨潤時間をとることなく、かつ流動性を損なうことなく、充填材の材料分離抵抗を高めて長距離圧送特性を向上させる方法(請求項1)を主体とするものである。また、その方法により作成する充填材(請求項2)、さらに、その作成時に、以下の手法および割合により作成する充填材(請求項3)が、所定の性能を有することを見出した。
(イ)ベントナイト、フライアッシュ、セメント(以上A液)、そして水ガラス(B液)を、各材料ともに1分間程度攪拌のインターバルをおく程度での混練水への連続的投入によって混合して、1液型の空隙充填材とする。
(ロ)水ガラス以外の配合は下記のとおりとする。
水/全粉体 = 220〜190%(重量比)、
フライアッシュ:セメント = 3:7〜1:9(重量比)、
ベントナイト=50kg/m3以上
【0013】
本発明の最大の特徴は、水ガラス(B液)の用い方にある。すなわち、通常は水ガラスは凝結促進剤として、逸散防止のためのゲル化促進を目的として使用されており、多めの量を、2液混合として地盤中で投入、もしくは、圧送先の充填箇所直近の再攪拌プラントで投入されるのが一般である。その水ガラスの割合は、薬液充填の場合は体積比10〜50%に及び、先行事例でも5%程度が下限である。この手法の難点は、「0008」(ロ)(ハ)のとおりである。
それに対して本発明では、水ガラスを、通常では考えられないほどの少量(2%以下)を使用することで、通常とは全く異なる効果が生じることを発見したものである。
【0014】
通常より水ガラスの投入割合を減らせば、当然その凝固(ゲル化)の効果は薄れていき、その結果、通常使用の発想においては、また各先行事例中でも、「ゲル化しないので不適合」という範疇に分類されてしまう。
しかし、凝固しないのではなく、その効果が僅かであるために見出されなくなっているだけであることは自明である。そして、僅かな凝固とはいえ、当然それに伴って充填材全体の粘性が僅かながら高まっている筈であり、それにより、むしろ場合によっては不必要な凝固が発生することなく、材料分離のみが抑えられるのではないだろうか?と発想したのが本発明の出発である。つまり、水ガラスの「凝結促進剤」としてではなく「材料分離低減剤」としての利用を見出した。
【0015】
凝固しないことによって、不必要な強度上昇や流動性低下が抑えられるのみならず、1液型の混合プラントでも作成が可能になり、「0010」(イ)(ロ)(ハ)の課題が解消される。加えて、従来はベントナイトがその大部分を担ってきた材料分離低減の効果を肩代わりすることで、膨潤時間を長くとる必要がなくなり、「0010」(イ)(ニ)の課題も消去可能となる。
【0016】
また、ベントナイトは天然産のバラツキのある材料であるため、膨潤時間をとらない場合、そのバラツキが如実に出てしまい安定した効果を発揮しきれない。それに加えて、施工時の練り混ぜ方法や周辺環境や練り混ぜ水の温度といった施工時のバラツキの影響をまともに受けて、材料分離低減の効果に大きなバラツキが生じる恐れがあり、その状況は「0029」の実施例に述べるとおりである。これらの不確定な要素を、工場製品のため品質は一定しており、かつ温度の影響が少ない水ガラスにより消去できうるものと言える。
【0017】
1液型のプラントで圧送前に水ガラスを投入するとなれば、通常とは逆に、圧送中には凝固しないことが必須であり、後述する各種試験により、本発明で提示する水ガラスの比率を見出した。
その上で、本発明ではセメントとフライアッシュの比率を変えた試験検討を行い、フライアッシュを極力多く用いることができる最適比率を提示するものである。
【0018】
セメントとしては、本実施例に用いている普通ポルトランドセメントのほか、各種セメントの適用が可能と思われる。特に、早期強度を高めたい場合には早強ポルトランドセメントの採用も有効であろう。
また、フライアッシュは、本実施例ではJIS規格品を用いているが、各種先行技術文献において提示されている高品質化した分級フライアッシュを使用できるならば、より好適な結果を期待できる。
さらに、遅延剤や減水剤等の添加剤の使用も、用途によっては可能である。
【0019】
なお、材料分離低減剤としては、あるいは、ほぼ同様の機能を発揮する増粘剤としては、本発明を待つまでもなく、多数の製品が開発され発売されている。ただし、それらの製品は全て有機系の材料であり、まだ使用されはじめて間もない状態であり、長期的な安全性が完全に担保されているとは保証しかねるところである。かつて安全と言われていた有機材料が後に健康被害を引き起こした事例は多数存在することから、将来的には、かつて薬液注入において発生した有機材料による健康被害と同様の事故の可能性もゼロとは言いかねる。
よって、薬液注入における現在の規制の中で、ほぼ唯一使用が認められている安全性の極めて高い無機材料の水ガラスを、材料分離低減剤としても使用できるならば、その社会的効果は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の充填材の作成・施工手順は、以下のとおりである。
(イ)ミキサー内の混練水にベントナイトを投入して、1分間の攪拌を行う。
(ロ)次に、フライアッシュを連続的に投入し1分間の攪拌を行う。その後、セメントを投入して1分間攪拌する。
(ハ)引き続いて、水ガラス水溶液を2分割して投入し、それぞれに1分間の攪拌を行い、充填材が完成する。
(ニ)上記充填材を、圧送管により充填箇所まで圧送して、トンネル等の背面空隙、ないし廃棄トンネル等自体の内部に充填する。
【0021】
前項(イ)(ロ)において、ベントナイトを最初に、そしてセメントを最後に投入するのは、膨潤時間を設けられないまでも、セメント投入までの間にベントナイトをある程度は膨潤させるための措置であり、これを逆にすると、ベントナイトの膨潤が妨げられるとされている。
なお、ミキサーに余裕がある場合、セメントを粉体ではなく一度水に溶いて液状にしておいてから、ベントナイト+フライアッシュの液に投入する方が、セメント自体の硬化作用にとっては望ましい。
【0022】
セメントに引き続いて投入する水ガラスは、原液でも可であろうが、投入時の瞬間的なゲル化発生を抑えるためにも、後述する実施例のように水溶液とした方が良い。さらに、前項(ハ)のとおり、その水溶液のうちの1/2づつを投入してそれぞれ1分攪拌、とした方がより望ましい。
また、水ガラスの全充填材に対する体積比としては、本発明に提示する2%以下が適用可であるが、実施例に示すとおり1%が最適である。
【0023】
水ガラス水溶液を2分割して投入したとしても、ベントナイトから数えて5材料であり、各1分間の攪拌を行うとすれば、充填材完成までの所用時間は5分間となる。
一般的な充填施工現場においては、1漕分のミキサーの充填材が7、8分間、余裕をみて約5分間で消費される。よって、充填材が5分間で完成するということは、通常の混合プラントで多用されている2漕のミキサーを用いることで、途切れることなく連続的充填ができることを意味しており、極めて実用的といえよう。
【実施例】
【0024】
以下、実験例に基づき本発明を更に説明する。実験に使用した材料を表2,各実験の試験方法(準拠基準)を表3に示す。
また、充填材としての評価基準値は、「0009」表1及び「0010」に提示したとおり、フローは11秒以下、ブリージングは3%以下、強度は材令28日で1N/mm2程度、とする。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
当初は本発明の水ガラス使用方法は案出されていない状態で、表5に示すNo.1〜16に水ガラスを投入しない配合を設定し、まずはフローとブリージング試験を行った。しかし、全配合ともブリージング率が5〜10%程度の値の、評価基準を超過する値が得られた。
ベントナイトを入れないセメントミルクが、本実施例と同程度の水セメント比200%程度の場合、ブリージング率が50%程度にまで達してしまうことを考えると、ベントナイトの効果は確かに生じている。とはいえ、「0005」のとおり、連続的投入のためにベントナイトの膨潤効果が完全ではないことが伺える。
【0028】
上記への対応策として、いくつかの配合について、施工時に許容できる範囲として、ベントナイトの攪拌時間を2分間に延ばす、あるいは、その攪拌後に3分間の放置時間をとる、などを試行してみた。しかし、その程度の工夫では有意な改善は生じなかった。
また、数配合において、ベントナイトを25kg/m3増量して試行した。その結果、確かにブリージング率はそれぞれ2%程度低下したものの、評価基準値には届かなかった。また、フロー値がやや悪化傾向となった。ベントナイト自体が高価な材料であることからも、これ以上のベントナイト増量は好ましくないと判断された。
【0029】
なお、上記の試験は、表3に示す恒温調整はした上で、真夏に実施したものである。それに対して、冬に全く同じ割合で試験を実施してみたところ、ブリージング率が5%を下回る結果が得られてしまった。すなわち、「0016」に述べたように、膨潤時間をとらない場合、ベントナイトの効果に大きなバラツキが生じる恐れがあることを示している。
【0030】
以上までの従来材料のみによる試験結果を受けて再検討し、本発明の、ブリージング向上のために水ガラスを用いてみることを発案したものである。
表4に示すとおり、No.9配合の充填材に、濃度を変えた水ガラス水溶液の混入を試行した(No.9+WG0.1〜5。No.9+WG1については表5、6参照)。その結果、水ガラスが全充填材に対する体積比5%の濃度では数秒でゲル化してしまい、本発明で提示する2%以下の濃度において、ゲル化することなくブリージング低減の効果のみが得られることを見出した。
【0031】
【表4】

【0032】
ただし、0.5%以下ではブリージング低減の効果が薄く、かつ2%では効果が若干大きすぎる。よって、より低濃度でゲル化の危険性がより少なく、必要にして十分な効果を得るためには、1%濃度の水ガラスが本実施例に最適であると判断した。
これを踏まえ、No.1〜16全てについて1%濃度の水ガラスを混入させる配合を設定し、試験を行った。配合を表5に、試験結果を表6および図1に示す。
【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
まず、フライアッシュを混入させない配合であるNo.1、4、7、12(以下、呼称から「+WG1」を省略)は、60日以後の強度の伸びが停止している状況が得られた。また、そのうちNo.4、7、12は強度の基準値は達成されているものの、ブリージングがやや大きくなっている。それらを踏まえ、フライアッシュがゼロのこれらの配合は、本出願においては好ましくないものとした。
【0036】
前項に比して、フライアッシュを混入した配合は、全てが良好な長期強度増進の傾向を示した。ただし、セメントの置換率、すなわち、フライアッシュのセメントに対する重量比(F/C)が大きすぎると、初期強度が低すぎて、そこから強度増進しても基準値に達していない。
評価基準値を概ね満たしているNo.8、9、13、14より、F/Cは3:7〜1:9が望ましいと判断される。
【0037】
次に、全粉体に対する水の重量比((W1+W2)/(C+B+F)、すなわち、一般的に言うところの水セメント比については、C/Fがほぼ同一であるNo.5、9、14を比較すると、229%のNo.5が強度の基準値を満たしていない。一方、No.14や16など、水の比率が低下するにつれフローの方がやや悪化していくことが読み取れる。
以上より、水の重量比としては、上限を220%、下限を190%とするのが好ましいものと考える。
【0038】
ベントナイトについては、「0027」「0028」に述べたとおり、そのブリージングへの効果は、限定された状態ながらも依然として無視できない量である。
よって、既述のとおり高価であるため経済性の観点からは減量が望ましいところではあるものの、ベントナイトは自然産の材料であり、産地や鉱脈等の違いによる性状のバラツキがあることを考慮すると、本実施例のとおり最低50kg/m3を確保するのが無難であろう。
【0039】
参考までに、評価基準値に適合するNo.8、9、13、14について、「0006」(イ)に示す概算価格を用いて経済比較を行うと、No.9の配合が最も安価となる。
【発明の効果】
【0040】
以上に説明してきたように、本発明の作成方法による空隙充填材料は、現実の施工状況に適合した製法により作成できるのに加え、長距離圧送性そして強度についての必要にして十分な性能を有する製品であり、極めて実用性が高く、社会的貢献度は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 表6の試験結果のうち、材令と圧縮強度の関係を図化(グラフ化)したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙充填材料の作成において、珪酸ソーダ(以下、水ガラス)を、通常の使用方法である、2液ないし1.5液型混合プラントへの多量投入により凝結促進剤として用いるのではなく、1液型プラントにごく少量(全充填材に対する体積比2%以下)を投入することで材料分離低減剤として用い、ベントナイトの膨潤時間をとることなくかつ流動性を損なうことなく、空隙充填材料の材料分離抵抗を高めて、長距離圧送特性を向上させる方法。
【請求項2】
「請求項1」の方法で作成することにより、「請求項1」に示す性状を有する空隙充填材料。
【請求項3】
「請求項2」において、以下の手法および割合で作成することにより、「請求項1」に示す性状を有する空隙充填材料。
(イ)ベントナイト、フライアッシュ、セメント、そして水ガラスを、各材料ともに1分間程度攪拌のインターバルをおく程度での混練水への連続的投入によって混合して、1液型の空隙充填材料とする。
(ロ)水ガラス以外の配合割合は、下記のとおりとする。
水/全粉体 = 220〜190%(重量比)、
フライアッシュ:セメント = 3:7〜1:9(重量比)、
ベントナイト=50kg/m3以上

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−213589(P2006−213589A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61498(P2005−61498)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000230973)日本工営株式会社 (39)
【Fターム(参考)】