説明

穿孔装置の制御方法、制御装置およびこれを備えた穿孔装置

【課題】穿孔した孔内部の清掃を容易に行うことができる穿孔装置の制御方法、等を提供する。
【解決手段】コンクリートを主体とする穿孔対象物Cに穿孔を行うドリルビット11を有する電動ドリル2と、ドリルビット11を介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段51と、穿孔部分に供給された冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段52と、を備え、冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置1の制御方法であって、冷却剤吸引手段52の駆動の停止を、電動ドリル2の駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを主体とする穿孔対象物に冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置の制御方法、制御装置およびこれを備えた穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートにアンカー埋設等に用いる孔を穿孔するドリルビット(ダイヤモンドビット)を有する電動ドリルと、冷却液供給アタッチメントを介してドリルビットの先端(穿孔部分)に冷却液を供給する冷却液タンクと、研削粉(粉塵)と共に冷却液を吸引回収する冷却液回収ユニットと、を有する穿孔装置が知られている(特許文献1参照)。
この穿孔装置による穿孔作業は、穿孔部分にあてがったドリルビットを、電動ドリルにより回転させて行われる。この時、ドリルビットの過熱損傷を防止すると共に穿孔効率を向上させるため、冷却液タンクから冷却液が穿孔部分に供給されると共に、供給された冷却液は、冷却液回収ユニットにより吸引回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の穿孔装置では、穿孔を完了して電動ドリルを停止させると同時に冷却液の供給および吸引回収も停止するため、穿孔作業後の孔には、粉塵が混じった冷却液が残ってしまう。このため、ドリルビットを引き抜いた後に、孔内部を、吸引クリーナー等を用いて清掃する必要があった。このため、清掃のための手間と時間が掛かり、その後の工程(例えばアンカー埋設等)に円滑に移行することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、穿孔した孔内部の清掃を容易に行うことができる穿孔装置の制御方法、制御装置およびこれを備えた穿孔装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の穿孔装置の制御方法は、コンクリートを主体とする穿孔対象物に穿孔を行うドリルビットを有する電動ドリルと、ドリルビットを介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段と、穿孔部分に供給された冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段と、を備え、冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置の制御方法であって、冷却剤吸引手段の駆動の停止を、電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の穿孔装置の制御装置は、コンクリートを主体とする穿孔対象物に穿孔を行うドリルビットを有する電動ドリルと、ドリルビットを介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段と、穿孔部分に供給された冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段と、を備え、冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置の制御装置であって、冷却剤吸引手段の駆動の停止を、電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施する停止遅延手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、電動ドリルの駆動の停止後も所定の遅延時間、吸引が継続されるため、穿孔部分(孔内部)に残存する冷却剤や粉塵を、穿孔に引き続いて吸引除去することができる。これにより、ドリルビットを引き抜いた後、孔内部の清掃を別途行う必要がなく、円滑に、その後の工程(アンカー埋設等)に移行することができる。
なお、作業者は、穿孔作業終了(電動ドリルの駆動の停止)後、冷却剤吸引手段の駆動が停止されるまで、ドリルビットを引き抜かないようにする。
【0009】
また、この場合、停止遅延手段は、更に、冷却剤供給手段の駆動の停止を、電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、穿孔部分(孔内部)の粉塵を冷却剤で洗い流しつつ、粉塵混じり冷却剤の吸引除去を行うことができる。これにより、孔内部を洗浄することができ、孔内部に異物が残ることがなく、十分な清掃を行うことができる。このため、例えば、この孔に対しアンカー埋設を行う場合、適切な引き抜き強度を有するアンカーの埋設が可能となる。また、電動ドリルの駆動を停止しても、ドリルビットの回転は、その惰性で直ちに停止しないため、ドリルビットを穿孔部分に押し付けた状態を維持すると、ドリルビットは僅かに回転し、孔内部が削られる。この場合でも、削られた粉塵を確実に洗浄および吸引除去することができる。
【0011】
また、この場合、電動ドリルの駆動の開始に同期して、冷却剤供給手段の駆動の開始および冷却剤吸引手段の駆動の開始を実施する同期手段を、更に備えたことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、作業者は、電動ドリルのみを操作すればよいため、効率よく穿孔作業を行うことができる。また、穿孔作業に際して、予め冷却剤供給手段および冷却剤吸引手段を駆動しておく必要がないため、穿孔作業にかかる消費電力を削減することができる。
【0013】
この場合、停止遅延手段は、電動ドリルの駆動の停止をトリガーとして作動するリレー制御回路で構成されていることが好ましい。
【0014】
他にも、停止遅延手段は、電動ドリルの駆動の停止をトリガーとして作動するタイマー制御回路で構成されていることが好ましい。
【0015】
これらの構成によれば、冷却剤供給手段および冷却剤吸引手段の停止する時間(遅延時間)を任意に設定することができる。これにより、例えば、穿孔径や穿孔深さ等、穿孔作業の条件によって、遅延時間を柔軟に変更することができる。
【0016】
この場合、遅延時間が、電動ドリルの駆動の停止後3秒から15秒であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、穿孔作業の効率を高く維持しつつ、確実に粉塵混じりの冷却剤の除去を行える。すなわち、穿孔作業の効率と、粉塵混じりの冷却剤の除去とのバランスを取ることができる。もちろん、穿孔作業条件(穿孔深さ等)によっては、遅延時間を増減してもかまわない。
【0018】
また、この場合、遅延時間を経過したことを報知する報知手段を、更に備えたことが好ましい。
【0019】
この構成によれば、作業者は、穿孔した孔内部の清掃(洗浄)が終了したことを知ることができる。これにより、穿孔作業を複数箇所に連続して行う場合に、各孔内部の清掃(洗浄)を適切に行うことができると共に、時間的な損失を生じることなく円滑に次の穿孔作業へと移行することができる。
【0020】
この場合、冷却剤は、水と水溶性有機溶剤との混合液体であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、水溶性有機溶剤(アルコール)は水に比して気化し易いため、孔内部が早く乾燥する。これにより、その後のアンカー埋設等の工程へと迅速に移行することができる。なお、この場合、水溶性有機溶剤は、エタノール、イソプロパノール、アセトンまたはプロピレングリコールのいずれかであることが好ましい。また、水に対する水溶性有機溶剤の混合割合は、5%から59%が好ましい。
【0022】
本発明の穿孔装置は、上記した穿孔装置の制御装置と、電動ドリル、冷却剤供給手段および冷却剤吸引手段と、を備えていることを特徴とする。
【0023】
この場合、電動ドリルは、ドリルビットと、ドリルビットを回転させる動力源を有するドリル本体と、ドリルビットとドリル本体との間に介設され、冷却剤供給手段から供給された冷却剤を、ドリルビットの軸心に形成した冷却剤流路を介して穿孔部分に供給する冷却剤供給アタッチメントと、ドリルビットが挿通する挿通開口と冷却剤吸引手段に連通する吸引排出口とを有し、穿孔時に穿孔対象物に突き当てられる当接部材と、ドリル本体から延設され、当接部材を支持すると共に穿孔をガイドするスライドガイドと、を有していることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、いわゆる湿式で孔を穿孔することができ、穿孔作業終了後に孔内部に残存する粉塵混じりの冷却剤を吸引除去することができる。これにより、孔内部の清掃(洗浄)を簡単且つ迅速に行うことができる。また、穿孔作業時の粉塵の飛散防止や、熱によるドリルビットの損傷を防止することができると共に、低騒音で穿孔作業を効率良く行なうことができる。
【0025】
この場合、制御装置、冷却剤供給手段および冷却剤吸引手段は、共通の装置フレームに搭載されていることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、湿式で行う穿孔作業に必要な複数の装置等を1つにユニット化することができるため、作業現場の足場上等、狭い場所においても、穿孔装置を容易に搬入(または搬出)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る穿孔装置を模式的に示した外観図である。
【図2】制御装置の外観を示した4面図である。
【図3】装置フレームの平面図(a)および側面図(b)である。
【図4】制御装置の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る穿孔装置ついて説明する。この穿孔装置は、穿孔部分に冷却剤の供給および吸引を継続しながら、いわゆる湿式で穿孔対象となるコンクリート、タイル、石材等に穿孔作業を行うものである。
【0029】
図1に示すように、穿孔装置1は、コンクリート等の穿孔対象物Cに湿式で穿孔を行うドリルビット11を備えた電動ドリル2と、穿孔部分に冷却剤を供給すると共に、供給された冷却剤を吸引回収する冷却剤供給回収ユニット3と、を備えている。
冷却剤供給回収ユニット3は、ドリルビット11を介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段51と、穿孔部分に供給された冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段52と、穿孔装置1の駆動制御を行う制御装置53と、各手段51,52および制御装置53を搭載する装置フレーム54と、を備えている。すなわち、冷却剤供給手段51、冷却剤吸引手段52および制御装置53は、装置フレーム54に搭載され、ユニット化されて、冷却剤供給回収ユニット3を構成している。
【0030】
電動ドリル2は、先端に穿孔対象物Cを穿孔研削するための切刃21を装着したドリルビット11と、これを回転させる動力源を有するドリル本体12と、ドリルビット11とドリル本体12との間に介設した冷却剤供給アタッチメント13と、穿孔対象物Cに突き当てられ、電動ドリル2の穿孔をガイドするガイドアタッチメント14と、を備えている。
【0031】
冷却剤供給アタッチメント13には、冷却剤をドリルビット11に供給する冷却剤供給手段51が、供給チューブ61を介して接続されている。また、ガイドアタッチメント14の先端には、ドリルビット11に供給した冷却剤を穿孔対象物Cの研削粉(粉塵)と共に吸引回収する冷却剤吸引手段52が、回収チューブ62を介して接続されている。
【0032】
ドリルビット11は、コア部を残すようにして穿孔対象物Cを断面リング状に研削するダイヤモンドコアビットであって、穿孔対象物Cを穿孔する切刃21(ダイヤモンド切刃)と、先端部(前方端部)に切刃21を保持すると共に基端部(後方端部)で冷却剤供給アタッチメント13(の出力軸33)に着脱自在に装着されるシャンク22と、を有している。ドリルビット11の軸心部分には、穿孔された穿孔対象物Cのコア片を呼び込むと共に、冷却剤の流路となるビット内流路23(冷却剤流路)が形成されている。冷却剤は、ビット内流路23を通って切刃21の先端に導かれ、他方、研削された穿孔対象物Cのコア片は、相対的に切刃21からビット内流路23に導かれる。なお、以降の説明では、穿孔対象物Cに対する穿孔方向を前方と規定し、その反対方向を後方と規定して説明する。
【0033】
ドリル本体12は、常用電源で駆動するモーターおよびモーターの回転を減速して出力する減速機(いずれも図示省略)が収容されたモーターハウジング24と、モーターハウジング24から後方に延びるグリップ部25と、を有している。また、モーターハウジング24の前方には、ガイドアタッチメント14の一対のスライドガイド42(詳細は後述する。)の後方端部が固定されるガイドホルダ26が突出形成されている。さらに、モーターハウジング24には、電動ドリル2を手持ちで支持するための一文字グリップ27が取り付けられている。減速機から延びる主軸(図示省略)は、モーターハウジング24の前方端において、冷却剤供給アタッチメント13に係合している。グリップ部25には、作業者が駆動の開始・停止を制御するトリガースイッチ28が設けられている。
【0034】
冷却剤供給アタッチメント13は、円筒形の外観を有し、モーターハウジング24に固定されるアタッチメントケース31と、アタッチメントケース31に回転自在に支持され、ドリル本体12の主軸が接続される入力軸32と、入力軸32の前方にスライド自在に設けられた出力軸33と、を備えている。
【0035】
アタッチメントケース31の外周面には、供給チューブ61が接続(ねじ接合)される接続孔34が、径方向に貫通形成されている。アタッチメントケース31と入力軸32との間には、前後をシールされ、接続孔34に連通する環状の冷却剤導入室(図示省略)が形成されている。一方、入力軸32の軸心には冷却剤が流入する第1軸流路35が形成され、この第1軸流路35は、出力軸33に形成した複数の第1貫通流路(図示省略)を介して冷却剤導入室に連通している。
【0036】
出力軸33の前方端部には、ドリルビット11(のシャンク22)が接続されており、出力軸33の後方端部は、入力軸32の前方端から第1軸流路35にスライド自在に挿入されている。出力軸33の軸方向、略中央には、出力軸33の外周面と第1軸流路35の内周面との間を液密に封止する弁体(Oリング:図示省略)が係合している。弁体より下流(前方)には、出力軸33の軸心に形成された第2軸流路36に連通する第2貫通流路(図示省略)が形成されている。
ドリルビット11を穿孔対象物Cに押し当て、ドリルビット11を介して出力軸33が進退(スライド)すると、弁体が開閉する。つまり、ドリルビット11が後方にスライドすると開弁し、第1軸流路35の冷却剤が、第2貫通流路および第2軸流路36を介して、ドリルビット11のビット内流路23に流れ込む。逆に、ドリルビット11が前方にスライドすると閉弁し、ビット内流路23への冷却剤の供給が停止する。すなわち、接続孔34から流入した冷却剤は、上流(後方)から順に、冷却剤導入室、第1貫通流路、第1軸流路35、第2貫通流路、第2軸流路36を介してドリルビット11のビット内流路23へと導かれる。
【0037】
ガイドアタッチメント14は、穿孔対象物Cに突き当てられる当接部材41と、上記したガイドホルダ26および当接部材41間に渡した一対のスライドガイド42(図1では、手前側の1本のみを表示している。)と、を有している。
【0038】
当接部材41は、中心部にドリルビット11の先端部が臨む貫通開口43が形成され、当接部材41の片側には、一対のスライドガイド42が固定されている。当接部材41の前方端部には、ゴム等の弾性材からなる吸着パッド44が設けられており、穿孔対象物Cと当接部材41との密着性を高めている。当接部材41には、切刃21に供給された冷却剤を吸引排出するために、貫通開口43に連通する排出流路46が貫通形成された吸引排出口45が斜め後方に向かって突設されている。この吸引排出口45には、冷却剤を冷却剤吸引手段52に導く回収チューブ62が接続されている。
【0039】
一対のスライドガイド42は、いずれも入れ子式のガイドで構成されている。そして、一対のスライドガイド42には、それぞれコイルスプリング47が巻回するように設けられている。また、図示は省略するが、いずれか一方のスライドガイド42の基端部(後方端部)には、穿孔深さを規制するスライドストッパ機構が設けられている。
【0040】
この電動ドリル2を用いた穿孔作業では、穿孔に伴ってドリルビット11を徐々に前進させて行くと、一対のスライドガイド42はコイルスプリング47に抗して収縮して行く。その際、当接部材41は、コイルスプリング47に付勢され、穿孔対象物Cに、常に突き当てられた状態を維持する。穿孔作業が完了し、穿孔穴Hからドリルビット11を引き抜く場合には、作業者は前方への力を抜くことで、コイルスプリング47のばね力が作用し、一対のスライドガイド42に案内されつつドリルビット11を穿孔穴Hから真っ直ぐに引き抜かれる。
【0041】
図1に示すように、冷却剤供給手段51は、冷却剤を貯留するための供給タンク63と、冷却剤を供給タンク63から電動ドリル2へと送り出す圧送装置64と、を備えている。圧送装置64は、供給タンク63の上側に重なるようにして配設されている。
【0042】
供給タンク63には、供給タンク63内に冷却剤を補給するための補給口65が設けられている。圧送装置64は、常用電源で駆動する、いわゆるエアーコンプレッサーであり、供給タンク63内を加圧する。そして、供給タンク63に貯留した冷却剤は、圧送装置64の側面に設けられた供給ポート66から、供給チューブ61を介して冷却剤供給アタッチメント13へと圧送される。これにより、ドリルビット11の切刃21に冷却剤が供給される。
【0043】
なお、本実施形態では、冷却剤として、水と水溶性有機溶剤との混合液体を用いている。水溶性有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、アセトンまたはプロピレングリコールのいずれかであることが好ましい。また、水に対する水溶性有機溶剤の混合割合は、5%から59%が好ましい。水溶性有機溶剤(アルコール)は、水に比して気化し易いため、穿孔穴Hの内部が早く乾燥する。このため、穿孔作業後の工程(例えば、アンカー埋設等)へと迅速に移行することができる。
【0044】
図1に示すように、冷却剤吸引手段52は、切刃21に供給された冷却剤等を吸引する吸引ポンプ67と、吸引ポンプ67により吸引された冷却剤等を貯留する回収タンク68と、を備えている。吸引ポンプ67は、回収タンク68の上側に重なるようにして配設されている。
【0045】
吸引ポンプ67は、常用電源で駆動する、いわゆる真空吸引装置であり、吸引排出口45と回収タンク68の側面に設けられた回収ポート69との間に接続された回収チューブ62を介して、穿孔作業時に穿孔対象物Cの研削粉(粉塵)と混合した冷却剤を吸引する。吸引された粉塵混じりの冷却剤は、回収タンク68に流れ込む。なお、粉塵混じりの冷却剤から粉塵を、フィルター等を用いて除去し、再び冷却剤として穿孔作業に用いることが好ましい。また、回収タンク68に溜まった粉塵混じりの冷却剤(または粉塵を除去した冷却剤)を、回収タンク68の外部へと廃棄(回収)するための廃棄用バルブ(図示省略)を、回収タンク68の下側に配設してもよい。これにより、簡単に回収タンク68内を空にすることができ、回収タンク68を軽い状態に維持しやすいため、冷却剤供給回収ユニット3の持ち運びに係る作業者の負担を軽減することができる。
【0046】
穿孔作業では、ドリルビット11の切刃21を穿孔対象物Cの要穿孔箇所にあてがい、ドリル本体12によりドリルビット11を回転させる。この際、冷却剤は、切刃21を穿孔対象物Cに突き当てる動作に連動して、冷却剤供給アタッチメント13からドリルビット11を通って切刃21に供給される。また、切刃21に供給された冷却剤は、穿孔対象物Cの粉塵と混合した状態で、ガイドアタッチメント14の先端部から回収チューブ62を介して冷却剤吸引手段52により吸引回収される。
【0047】
図1、図2および図4に示すように、制御装置53は、冷却剤供給手段51の駆動停止および冷却剤吸引手段52の駆動停止を電動ドリル2の駆動停止から所定の時間(遅延時間)遅らせる停止遅延手段72と、所定の遅延時間が経過したことを作業者に報知するための報知手段73と、を備えた電気回路71を、略直方体の筐体74内に収容して構成されている。
【0048】
停止遅延手段72は、2つのリレー制御回路RY(第1リレーRY1および第2リレーRY2)と、コンデンサーCOと、を備えており(図4参照)、電動ドリル2の駆動の停止をトリガーとして、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52、それぞれの駆動停止を制御する(詳細は後述する。)。
【0049】
報知手段73は、ドリル本体12の前方(穿孔作業中の作業者の視界に入りやすい位置(図1参照))に配設されたLED73bを点灯(または消灯)させるためのLED点灯回路73aを備えている。報知手段73は、LED73bが点灯(点滅でもよい。)することで、冷却剤供給手段51と冷却剤吸引手段52とが、それぞれ駆動中であることを作業者に報知する。他方、報知手段73は、LED73bが消灯することで、両手段51,52の駆動が停止していること(所定の遅延時間が経過して両手段51,52の駆動が停止したことも含む。)を作業者に報知する。なお、本実施形態では、LED点灯回路73aから延びた配線コード(図示省略)を、電動ドリル2の電源コードに沿わせて配線し、LED73bに接続することで、LED73bに対する電力の供給が行われている。この配線コードは、電動ドリル2の電源コードに内蔵するようにしてもよい。また、LED73bの配設位置は、上記の位置に限られたものではなく、例えば制御装置53の筐体74や装置フレーム54等に配設してもよい。
【0050】
筐体74の背面には、装置外の常用電源のソケットに接続され、電気回路71に電力を供給するための主電源プラグ付コード75と、上記したLED73bへの配線コードと、が延びている。また、筐体74の前面は、庇様に形成されており、その庇部分の下側には、電動ドリル2、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52の電源プラグPLが、それぞれ接続されるソケット76(コンセント)が3つ設けられている。これらのソケット76には、電動ドリル2、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52がそれぞれ接続される。そして、電動ドリル2および両手段51,52は、電気的に連動し、主電源プラグ付コード75から取り込んだ電力が供給されるようになっている。さらに、筐体74の一方の側面には、制御装置53のオン・オフを切り替えるメインスイッチ77が設けられている。
【0051】
図1および図3に示すように、装置フレーム54は、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52を載置するメインプレート部81と、メインプレート部81の四隅から上方に延在するパイプフレーム部82と、制御装置53を固定するためのサブプレート部83と、を備えている。これにより、湿式で行う穿孔作業に必要な複数の装置等を1つにユニット化することができるため、作業現場の足場上等、狭い場所においても、穿孔装置1を容易に搬入(または搬出)することができる。
【0052】
メインプレート部81は、防水パンを兼ねるべく矩形の箱状に形成されており、その上面には、載置した両手段51,52の滑り止め用のゴムシート(図示省略)が貼付されている。また、メインプレート部81の裏面(下面)には、装置フレーム54自体の滑り止め用のゴム足84が(6箇所に)設けられている。
パイプフレーム部82は、アーチ状に折り曲げられたアーチ状パイプ85の一対をメインプレート部81の長手方向両端に固定し、各アーチ状パイプ85の最上部且つメインプレート部81の短辺方向略中央において、一対のアーチ状パイプ85を一本の連結パイプ86により連結して構成されている。そして、この連結パイプ86が、冷却剤供給回収ユニット3を持ち運ぶ際の手持ち部となる。なお、2人の作業者で持ち運ぶ際には、一対のアーチ状パイプ85が手持ち部となる。
サブプレート部83は、一方のアーチ状パイプ85から内側に突き出るように固定された矩形のブラケットであり、サブプレート部83には、制御装置53が載置された状態でネジ留め固定されている。
【0053】
ところで、穿孔作業が完了して電動ドリル2を停止させ、これと略同時に、冷却剤の供給および冷却剤の吸引回収を共に停止してしまうと、穿孔作業後の穿孔穴Hの内部には、粉塵が混じった冷却剤が残ってしまう。このため、作業者は、ドリルビット11を引き抜いた後に、穿孔穴H内部の清掃を別途行わなければならなかった。
そこで、本実施形態に係る制御装置53では、電動ドリル2の駆動停止後、遅延時間の経過を待って、冷却剤供給手段51と冷却剤吸引手段52との駆動停止を制御し、穿孔作業後の穿孔穴H内部の清掃を実施できるようになっている。
【0054】
以下、図4を参照して、具体的な制御装置53(の停止遅延手段72)の作動順序について説明する。作業者が、ドリル本体12のトリガースイッチ28を引く(ON)と、電動ドリル2を駆動するための回路に電流が流れ、電動ドリル2の駆動が開始される。これに伴い、変圧器CTを介して連なるコンデンサーCOに対して電気エネルギー(電荷)の蓄積(チャージ)が開始されると共に、トランジスターTRに電流が流れ、第1リレーRY1が作動(ON)する。また同時に、報知手段73のLED73bが点灯する。
【0055】
第1リレーRY1は、第2リレーRY2の作動スイッチとなっており、第1リレーRY1が作動(ON)すると、これに同期して第2リレーRY2も作動(ON)する。第2リレーRY2が作動すると、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52を駆動するための、それぞれの回路に電流が流れ、両手段51,52の駆動が開始する。つまり、電動ドリル2をONすると、これに同期して、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52がONする(請求項にいう同期手段を指す。)。これにより、作業者は、電動ドリル2のみを操作すればよいため、効率よく穿孔作業を行うことができる。また、作業者は、穿孔作業に際して、予め冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52を駆動しておく必要がないため、穿孔作業に使用する電力を削減することができる。
【0056】
続いて、穿孔作業が終了し、作業者が、ドリル本体12のトリガースイッチ28を戻す(OFF)と、電動ドリル2を駆動するための回路が遮断され、電動ドリル2の駆動が停止される。これに伴い、コンデンサーCOに対する電気エネルギー(電荷)の蓄積も停止される。
【0057】
ここで、コンデンサーCOには、電動ドリル2の駆動中(穿孔作業中)に蓄積された電気エネルギーが存在している。この電気エネルギーが第1リレーRY1に供給されることにより、第1リレーRY1は、電動ドリル2の駆動が停止された後も、作動(ON)し続ける。したがって、第2リレーRY2も作動(ON)し続けるため、両手段51,52の駆動が継続される。これにより、穿孔穴Hの内部の粉塵は、供給される冷却剤で洗い流され、冷却剤と共に吸引除去される。つまり、穿孔穴Hの内部は、十分に洗浄され、異物が残ることがない。また、電動ドリル2の駆動を停止しても、ドリルビット11の回転は、その惰性で直ちに停止しないため、ドリルビット11を穿孔部分に押し付けた状態を維持すると、ドリルビット11は僅かに回転し、穿孔穴Hの内部が僅かに削られる。この場合でも、削られた粉塵を確実に洗浄および吸引除去することができる。
【0058】
また、コンデンサーCOに蓄積された電気エネルギーは、報知手段73のLED73bの点灯も継続させる。作業者は、LED73bが点灯している間は穿孔穴Hからドリルビット11を引き抜かないようにする。これにより、上述した穿孔穴H内部の洗浄を確実に行うことができる。
【0059】
その後、コンデンサーCOに蓄積された電気エネルギーが消費(放電)され続けると、第1リレーRY1の作動(ON)状態およびLED73bの点灯状態を継続できなくなり、第1リレーRY1の作動が停止(OFF)すると共に、LED73bが消灯する。これに伴い、第2リレーRY2の作動も停止(OFF)され、冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52を駆動するための、それぞれの回路が途切れ、両手段51,52の駆動が停止される。すなわち、コンデンサーCOに蓄積された電気エネルギーを用いて冷却剤供給手段51および冷却剤吸引手段52を駆動の停止を制御することにより、電動ドリル2の駆動停止から、両手段51,52の駆動停止が、所定の時間(遅延時間)遅れて停止される。これにより、穿孔部分からドリルビット11を引き抜いた後には、穿孔穴Hの内部の清掃(洗浄)が既に終了しているため、別途清掃作業を行う必要がなく、例えば、アンカー埋設等の後工程に円滑に移行することができる。また、この穿孔穴Hに対しアンカー埋設を行う場合、適切な引き抜き強度を有するアンカーの埋設が可能となる。
【0060】
また、作業者は、LED73bの消灯を確認することで、穿孔穴Hの内部の清掃(洗浄)が終了したことを知ることができる。これにより、穿孔作業を複数箇所に連続して行う場合に、各穿孔穴H内部の清掃(洗浄)を適切に且つ効率良く行うことができる。なお、本実施形態では、報知手段73として、LED73bを点灯・消灯するLED点灯回路73aを用いているが、これに代えて、又はこれと併用して、音声や振動を用いて作業者に報知するようにしてもよい。
【0061】
なお、本実施形態では、遅延時間を5秒と設定している。しかし、遅延時間は、これに限られたものではなく、好ましくは3秒から15秒の間である。また、遅延時間は、コンデンサーCOの静電容量の大小により任意に設定することができる。これにより、例えば、穿孔径や穿孔深さ等、穿孔作業の条件によって、遅延時間を柔軟に変更することができる。
また、本実施形態では、冷却剤供給手段51と冷却剤吸引手段52との駆動停止を遅延させているが、冷却剤吸引手段52のみの駆動停止を遅延させるような構成でもよい。すなわち、冷却剤供給手段51は、電動ドリル2の駆動停止と略同時にその駆動を停止し、一方、冷却剤吸引手段52は、遅延時間だけその駆動が継続される。
【0062】
なお、本実施形態では、停止遅延手段72として、リレー制御回路RYを用いているが、これに代えて、制御装置53の電気回路71にマイクロコンピューター(マイコン)を組み込み、このマイコンのタイマー機能を用いたタイマー制御回路を構成するようにしてもよい。これにより、穿孔作業の条件による遅延時間の変更を簡単に変更することができる。
【0063】
以上の構成によれば、いわゆる湿式で穿孔穴Hを形成することができ、穿孔作業終了後に穿孔穴Hの内部に残存する粉塵混じりの冷却剤を吸引除去することができる。これにより、穿孔穴Hの内部の清掃(洗浄)を簡単且つ迅速に行うことができる。また、穿孔作業時の粉塵の飛散防止や、熱によるドリルビット11の損傷を防止することができると共に、低騒音で穿孔作業を効率良く行なうことができる。
【符号の説明】
【0064】
1:穿孔装置、2:電動ドリル、3:冷却剤供給回収ユニット、11:ドリルビット、12:ドリル本体、13:冷却剤供給アタッチメント、23:ビット内流路、41:当接部材、42:スライドガイド、43:挿通開口、45:吸引排出口、51:冷却剤供給手段、52:冷却剤吸引手段、53:制御装置、54:装置フレーム、72:停止遅延手段、73:報知手段、C:穿孔対象物、RY:リレー制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを主体とする穿孔対象物に穿孔を行うドリルビットを有する電動ドリルと、前記ドリルビットを介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段と、前記穿孔部分に供給された前記冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段と、を備え、前記冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置の制御方法であって、
前記冷却剤吸引手段の駆動の停止を、前記電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施することを特徴とする穿孔装置の制御方法。
【請求項2】
コンクリートを主体とする穿孔対象物に穿孔を行うドリルビットを有する電動ドリルと、前記ドリルビットを介して穿孔部分に冷却剤を供給する冷却剤供給手段と、前記穿孔部分に供給された前記冷却剤を吸引して回収する冷却剤吸引手段と、を備え、前記冷却剤の供給および吸引を継続しながら穿孔を行う穿孔装置の制御装置であって、
前記冷却剤吸引手段の駆動の停止を、前記電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施する停止遅延手段を備えたことを特徴とする穿孔装置の制御装置。
【請求項3】
前記停止遅延手段は、更に、前記冷却剤供給手段の駆動の停止を、前記電動ドリルの駆動の停止から所定の遅延時間遅れて実施することを特徴とする請求項2に記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項4】
前記電動ドリルの駆動の開始に同期して、前記冷却剤供給手段の駆動の開始および前記冷却剤吸引手段の駆動の開始を実施する同期手段を、更に備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項5】
前記停止遅延手段は、前記電動ドリルの駆動の停止をトリガーとして作動するリレー制御回路で構成されていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項6】
前記停止遅延手段は、前記電動ドリルの駆動の停止をトリガーとして作動するタイマー制御回路で構成されていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項7】
前記遅延時間が、前記電動ドリルの駆動の停止後3秒から15秒であることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項8】
前記遅延時間を経過したことを報知する報知手段を、更に備えたことを特徴とする請求項2ないし7のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項9】
前記冷却剤は、水と水溶性有機溶剤との混合液体であることを特徴とする請求項2ないし8のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置。
【請求項10】
請求項2ないし9のいずれかに記載の穿孔装置の制御装置と、
前記電動ドリル、前記冷却剤供給手段および前記冷却剤吸引手段と、を備えていることを特徴とする穿孔装置。
【請求項11】
前記電動ドリルは、
前記ドリルビットと、
前記ドリルビットを回転させる動力源を有するドリル本体と、
前記ドリルビットと前記ドリル本体との間に介設され、前記冷却剤供給手段から供給された前記冷却剤を、前記ドリルビットの軸心に形成した冷却剤流路を介して前記穿孔部分に供給する冷却剤供給アタッチメントと、
前記ドリルビットが挿通する挿通開口と前記冷却剤吸引手段に連通する吸引排出口とを有し、穿孔時に前記穿孔対象物に突き当てられる当接部材と、
前記ドリル本体から延設され、前記当接部材を支持すると共に前記穿孔をガイドするスライドガイドと、を有していることを特徴とする請求項10に記載の穿孔装置。
【請求項12】
前記制御装置、前記冷却剤供給手段および前記冷却剤吸引手段は、共通の装置フレームに搭載されていることを特徴とする請求項10または11に記載の穿孔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−37210(P2011−37210A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188689(P2009−188689)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(503032795)株式会社ホリ・コン (10)
【Fターム(参考)】