説明

突出した導電層を有する成形体

極細導電繊維の含有量を少なくして透明性を向上させても良好な導電性を発揮でき、極細導電繊維の含有量を増やしても透明性を低下させない導電性成形体を提供する。樹脂やガラス等よりなる基材1の少なくとも片面に、極細導電繊維を含んだ透明な導電層2を形成した導電性成形体Pであって、導電層2が、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触しているか、或は、それぞれの繊維が分離した状態で若しくは繊維の束が分離した状態で分散して互いに接触している導電性成形体Pとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に分散した極細導電繊維から形成された導電層を備えた導電性成形体に関し、特に、導電繊維がカーボンナノチューブである導電性成形体に関する。また、本発明は当該導電性成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気を逃がして塵埃の付着を防止する制電性樹脂板が、装置の筐体と同様に、クリーンルームのパーテーションやクリーンルームで使用する覗き窓として使用されている。
【0003】
このような1例は、特許文献1で述べられている。この発明の樹脂材料は、絡み合った繊維を含み、成形体の製造時に延伸されて、良好な制電性を有している。
【0004】
アンチモンがドープされたITO(酸化インジウム錫)やATO(アンチモン−酸化錫)が表面に形成された基材フィルムは、表面抵抗率が10〜10Ω/□である透明導電性フィルムとして良く知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−62952号公報
【特許文献2】特開2003−151358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の制電性透明樹脂板(特許文献1)において、炭素繊維は曲がって、お互いに絡み合った状態で制電層中に埋め込まれている。そのため、炭素繊維は良好に分散されていない。制電層に含まれる炭素繊維の含有量は、10〜10Ω/□の十分な表面抵抗率とするためには増加させられるであろう。上記の制電性透明樹脂板は、制電層の炭素繊維の含有量を更に多くし、表面抵抗率を10Ω/□以下に低下させると、電磁波シールド機能も発揮できるようになる。しかしながら、炭素繊維の含有量を多くすると制電層の透明性が悪くなる。そのため、良好な透明性と電磁波シールド機能とを兼備した実用可能な制電性透明樹脂板を得ることは困難であった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の透明導電性フィルムは、スパッタリングなどのバッチ製法で形成される。そのために、これは生産性が悪く、コストが高いものであった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものである。即ち、本発明は、炭素繊維などの極細導電繊維の量を少なくしても良好な導電性を持った導電層を有する成形体を提供することである。また、本発明は、炭素繊維の極細導電繊維の量を従来と同じにして、優れた導電性が付与された導電層を有する成形体を提供することである。また、本発明は、低コストで製造できる透明な導電層を有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに具体的に明確に述べているように、本発明は基材の表面に導電層を備えた成形体を提供する。
本発明の実施形態の1つは、基材と該基材の表面に形成された導電層とからなる導電性成形体であって、該導電層はその内部で細かい導電繊維は分散されて、少なくとも繊維のある部分が基材に固定され、少なくとも前記繊維のある部分が導電層の最表面から突出して、前記繊維がお互いに電気的に接触して配列しているものである。好ましくは、繊維が最表面から突出した部分で、或は基材に固定された部分でお互いに電気的に接触していることである。
【0009】
基材は基材本体と表面層とからなり、この基材に固定される繊維の部分は表面層に固定されているか、或は基材に固定された繊維の部分が繊維の端部或は繊維の中間部である。好ましくは、繊維は他の繊維から分離していることであり、多数の繊維が束を形成していれば、該繊維の束が他から分離していることである。好ましい繊維は炭素繊維であるが、これに限定されるものではない。そして、炭素繊維はカーボンナノチューブであることが好ましい。導電層の厚さは5〜500nmであることが好ましい。表面層は硬化性樹脂で形成されていることが好ましく、またそのような表面層は熱可塑性樹脂から形成されていることも好ましい。導電層は、表面抵抗率が約10〜約1011Ω/□であることが好ましく、550nmの光線透過率が50%以上で、表面抵抗率が10〜1011Ω/□であることが好ましい。
本発明の他の実施形態と利点は、次に述べる明細書に一部記載されているし、一部はこの明細書から明らかにされるし、或は発明の実施から導き出される。
(本発明の詳細)
ここに具体的に示し、明白に述べているように、本発明は光学的に透明な導電層を有する導電性成形体と、その成形体の製造方法を提供する。
本発明の1つの実施形態は、良好に分散された極細導電繊維よりなる導電層を有する成形体を提供する。この発明の特徴は、繊維がお互いに接触した状態で、繊維のある部分は基材に固定し、他の部分は基材から突出していることである。「突出している」とは、例えば極細導電繊維が基材の表面から露出するような、繊維の突出が不完全である場合にも使用される。また、「導電性」とは、表面抵抗率が10〜1011Ω/□である広い範囲を意味するように使用される。
【0010】
本発明の導電性成形体において、基材から突出する繊維の部分と同様に、基材に固定されている極細導電繊維の部分も、お互いに接触している。また、基材は基材本体と表面層とから形成されていても良い。この場合は、極細導電繊維の一部分は表面層に固定される。極細導電繊維或は繊維の束はお互いに接触し、且つそれぞれの繊維が他の繊維から分離するように、或は多数の繊維が束となっている場合は他の束から分離するようにして、分散していることが好ましい。極細導電繊維が炭素繊維、特にカーボンナノチューブであることが好ましい。また、導電層の厚さが5〜500nmであること、表面層が硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなることも好ましい。また、成形体が透明で表面抵抗率が10〜1011Ω/□であることも好ましい。また導電層の550nmの波長の光線透過率が約50%以上で、導電層の表面抵抗率が10〜1011Ω/□であることも好ましい。
曲がってお互いが複雑に絡み合っている炭素繊維が、従来の制電性樹脂板のように熱可塑性樹脂で作製された制電層に含まれている場合は、炭素繊維の分散性が悪く、繊維相互の接触頻度が少ない。加えて、炭素繊維が電気絶縁性の熱可塑性樹脂に含まれると、熱可塑性樹脂で電気の流れが妨げられ、表面抵抗率が増加する。そのため、炭素繊維がお互いに絡み合うだけの導電層のそれに比べると表面抵抗率が遥かに大きくなる。
【0011】
本発明の導電性成形体は、極細導電繊維の一部分が基材に固定され、繊維の他の部分が基材から突出する繊維によって導電層が形成され、該繊維はお互いに接触している。導電層の極細導電繊維が基材から突出した部分は、極細導電繊維以外の電気の流れを妨げる物質が何もない。従って、本発明の導電性成形体は優れた導電性を発揮する。極細導電繊維の量を従来と同じにすると優れた導電性を発揮する。また、極細導電繊維の量を少なくしても良好な導電性を発揮できる。極細導電繊維が接触し、且つそれぞれの繊維が他の繊維から分離しているか、或は、複数本集まって束になっている場合はその繊維の束が他の束から分離して分散していると、お互いに接触する繊維の頻度が高くなるため、導電性が一層向上する。また、含有される極細導電繊維の量を少なくすると透明性が向上し、また基材の透明性も向上する。
【0012】
本発明の導電性成形体は、極細導電繊維が分散した導電層を有し、極細導電繊維の一部分が基材に固定されているものである。それゆえに、基材からの繊維の分離が生じないために導電層の剥離がなく、長期間使用しても導電性の低下を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の導電性成形体は、連続して効率良く生産でき、生産性を向上させる。即ち、生産コストは、真空蒸着やスパッタリングなどのバッチ式の方法によりITO膜やATO膜を形成したものに比べると安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳述する。しかし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明の一実施形態の導電性成形体の断面図である。図2は同導電性成形体の拡大部分断面図である。図3は導電層の極細導電繊維の分散状態を示す平面図である。
【0016】
この導電性成形体10は、基材1の表面に、分散した極細導電繊維からなる透明な層2を形成したものである。この導電層2は基材1の上下両表面に形成することができる。
【0017】
基材1は、熱可塑性樹脂、熱や紫外線や電子線や放射線などで硬化する硬化性樹脂、ガラス、セラミックス、無機材などからなる。透明な熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、ガラスからなる基材1は、透明な導電性成形体10を得るために好ましく使用される。透明な熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ニトロセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリジメチルシクロヘキサンテレフタレート、芳香族ポリエステル等のエステル系樹脂、ABS樹脂、これらの樹脂の共重合体樹脂、これらの樹脂の混合樹脂が挙げられる。透明な硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0018】
上記の透明樹脂の中でも、基材1の厚さが3mmのときに75%以上(好ましくは80%以上)の光線透過率と5%以下のヘーズを有する透明な樹脂が特に好ましく使用される。ガラスは光線透過率が95%以上であるので、ガラスも透明な導電性成形体10を得るためにしばしば使用される。
【0019】
基材1が熱可塑性樹脂や硬化性樹脂からなるものである場合は、可塑剤、安定剤、紫外線吸収剤などが、成形性、熱安定性、耐候性等を改良するために添加される。また、基材1に染料や顔料を添加して不透明或は半透明にしたりすることもできる。この場合は不透明又は半透明の導電性成形体10が得られる。導電層2が透明であるため、染料や顔料の色調を保つことができる。
【0020】
基材1の形状は、図1のような板状に限定されるものではない。基材1の厚さは用途に応じて決定すればよいが、基材の厚さは、基材が板状に成形されている場合は、通常は約0.03〜10mm程度である。
【0021】
基材1の表面に形成された導電層2は、図2に示すように、極細導電繊維2aが分散された層である。極細導電繊維2aの一部分は基材1に固定され、繊維の他の部分は基材1から突出し、しかも、これらの極細導電繊維2aが互いに接触している。図3は、図1の導電性成形体の繊維の突出した端部を平面図で示している。しかしながら、全ての極細導電繊維2aが基材1に固定されている必要はないし、或は基材1から突出されている必要もない。即ち、極細導電繊維2aのある部分は、基材1に埋没されている。図2において、極細導電繊維2aの全てが基材1の表面から突出しているが、極細導電繊維を基材1の表面から露出させることによっても達成できる。しかし、繊維が表面から突出していると良好な導電性が得ることができるので好ましい。
【0022】
導電性成形体11の極細導電繊維2aの一部は、図4に示す如く、バインダー層2bで基材1の表面に固定されている。固定される部分は、極細導電繊維2aの端部でも中間部でもよい。
バインダーとしては、透明な熱可塑性樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、弗化ビニリデン)、熱や紫外線や電子線や放射線で硬化する透明な硬化性樹脂(メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケートなどのシリコーン樹脂)が使用される。また、これらのバインダーにはコロイダルシリカのような無機材が添加されてもよい。基材1が透明な熱可塑性樹脂から作製されている場合は、同じ透明な熱可塑性樹脂又は相溶性のある異種の透明な熱可塑性樹脂がバインダーとして好ましく使用され、極細導電繊維2aの固定力を高めることができる。
【0023】
極細導電繊維2aの固定手段は、上記のバインダーの使用に限定されるものではない。例えば、図2に示す如く、繊維2aの一部を基材1に直接埋めこませることもできる。
【0024】
導電層2を形成する極細導電繊維2aは、基材1の表面に均等に分散している。該繊維或は繊維の複数本が束を作っているときは該束が、互いに接触し、しかも他の繊維或は束とは分離している。即ち、極細導電繊維2aは、お互いに接触し、しかもそれぞれの繊維が他の繊維から分離した状態で、或は、それぞれの束が他の束から分離した状態で、分散している。繊維は凝集していないし、お互いに複雑に絡み合ってもいない。繊維は、お互いが単純に交差し、交差した部分で接触し、表面で均等に分散している。このため、極細導電繊維はお互いに接触する頻度が高く、優れた導電性が発揮される。極細導電繊維2aがお互いに接触する部分は、繊維の突出した部分でも、固定された部分でも、これら双方の部分であってもよい。
【0025】
極細導電繊維2aとしては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルの極細炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンの金属ナノチューブやナノワイヤの極細金属繊維、酸化亜鉛の金属酸化物ナノチューブや金属酸化ナノワイヤの極細金属酸化物繊維が使用される。繊維の直径は0.3〜100nm、長さが0.1〜20μm、特に0.1〜10μmであるものが好ましく使用される。
これらの極細導電繊維のなかでも、カーボンナノチューブは直径が0.3〜8μmと極めて細く、アスペクト比も大きい。そのため、光透過を阻害することが極めて少なくて、透明な導電層を得ることができる。さらに、表面抵抗率も小さくすることができる。
【0026】
上記のカーボンナノチューブには、多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブがある。多層カーボンナノチューブは、中心軸の周りで閉じた直径が異なる多数の円筒状のカーボン壁からなるチューブを同心的に備えている。カーボン壁は六角網目構造に形成されている。ある多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が渦巻き状になって多層となっている。好ましい多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が2〜30層重なったものであり、より好ましくはカーボン壁が2〜15層重なったものである。上記の多層カーボンナノチューブは優れた光線透過率を持つ導電層2を形成することができる。通常、多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの1本ずつがお互いに分離して分散している。しかし、ある場合には、2〜3層カーボンナノチューブは、束を形成して上記のように分散している。
【0027】
単層カーボンナノチューブは、中心軸の周りに円筒状に閉じた単層のカーボン壁を備えている。このカーボン壁は六角網目構造に形成されている。この単層カーボンナノチューブは、1本ずつで分散することは困難である。2本以上のチューブが束を形成し、その束がお互いに絡み合っている。しかしながら、該束は凝集することなく、或はお互いが複雑に絡み合ってもいない。束は、お互いが単純に交差し、その交点で接触し、表面にて均一に分散している。好ましい単層カーボンナノチューブの束は、10〜50本集まったものである。しかし、本発明は、単層カーボンナノチューブがお互いに分離して1本づつ分散しているのを除外していない。
【0028】
極細導電繊維2aは、基材1の表面に前述したように分散している。繊維の一部分は、基材1の表面に固定され、繊維の他の部分は基材1の表面から突出している。導電層2がこのように形成されていると、極細導電繊維2aの接触頻度が高い。加えて、極細導電繊維2aは、極細導電繊維が基材1から突出した部分において、極細導電繊維以外に電気の導通を妨げる物質がないために、優れた導電性を持つ。そのため、極細導電繊維2aの目付け量を加減することによって、10〜1011Ω/□の広範囲の表面抵抗率を有する導電層2が得られる。
【0029】
例えば、極細導電繊維2aがカーボンナノチューブなどの極細炭素繊維であると、繊維の目付け量を1.0〜450mg/mの範囲内で調整すると、10〜1011Ω/□の表面抵抗率の導電層2を形成できる。上記の目付け量を持つ導電層2は、少なくとも50%の光線透過率を有している。目付け量は、以下に述べる方法で得られる。まず、導電層2を電子顕微鏡で観察し、その平面面積に占める極細導電繊維の面積割合を測定する。次に、導電層の厚みを観察し測定する。続いて、繊維の面積と電子顕微鏡で観察した厚みと極細導電繊維の比重(極細導電繊維がカーボンナノチューブである場合は、グラファイトの文献値2.1〜2.3の平均値2.2を採用)を掛ける。また、光線透過率は分光光度計による550nmの波長の光の透過率の値である。
【0030】
極細炭素繊維を透明な熱可塑性樹脂中に上記の目付け量となるように含有させた従来の導電層は、繊維の接触頻度が低く、熱可塑性樹脂が電気の流れを妨げる働きをする。そのため、従来の導電層は、極細炭素繊維を既述のように分散した本発明の導電層2と比べると、表面抵抗率が高くなる。
【0031】
極細導電繊維2aが分散して形成された導電層2は、その表面抵抗率が10〜1011Ω/□となる。それは優れた導電性と制電性を有するため、極細導電繊維2aの目付け量を少なくして導電層2の透明性を向上させても、従来の導電層のそれと同等もしくはそれ以上の導電性ないし制電性を発揮する。繊維2aの一部分が基材1に固定されているので、各繊維2aが基材1から離脱することによる導電層2の剥離が生ずることがなく、長期間使用しても導電性が低下することがない。
【0032】
以上のような導電性成形体は、次の方法で製造することができる。
第一の方法は、極細導電繊維を固定するための前記バインダーを揮発性溶剤に溶解する。極細導電繊維2aをこの溶液に均一に分散させて、塗液を調製し、そして基材1に塗布する。導電層2は、基材1上の塗液を乾燥することで得られて、導電性成形体10が製造される。塗液は表面に塗布されて乾燥されるので、塗液の体積が減少する。そのため、バインダーの量が極細導電繊維より少量であると、極細導電繊維が突出した状態でバインダーが固化するため、好ましい導電層2が形成される。
【0033】
第二の方法は、極細導電繊維を固定するための前記バインダーを揮発性溶剤に溶解する。極細導電繊維2aは該溶液に均一に分散されて、塗液が調製され、そして該塗液を基材1に塗布する。必要に応じて、塗液が乾燥した後に加熱してバインダーを軟化させて、わずかに延伸される。導電層2が形成されて、導電性成形体10が製造される。乾燥により縮んだ極細導電繊維は、加熱によってバインダーが軟化した時に、自発的なスプリングバック力によりバインダーから突出する。好ましい導電層2がこの方法で形成できる。バインダーの延伸は、極細導電繊維の突出を助ける。
【0034】
第三の方法は、極細導電繊維2aを揮発性溶剤に均一に分散させ、塗液を調製する。そして、塗液をポリエチレンテレフタレートよりなる剥離フィルムに塗布、乾燥して、導電層2を形成する。そして、接着層を導電層2の上に形成して、3層構造の転写フィルムを作製する。この転写フィルムを基材1の表面に圧着し、接着層と導電層2とを転写する。このようにして導電性成形体を製造する。この方法において、バインダーは溶液に含まれていない。そのため、導電性成形体10の表面には極細導電繊維2aの層のみが形成される。また、少量のバインダーを溶液に含ませることも可能である。
【0035】
第四の方法は、極細導電繊維2aを揮発性溶剤に均一に分散させ、塗液を調製する。そして、塗液を基材に塗布し、乾燥して、導電層2を形成する。そして、バインダー含有溶液を導電層2に塗布し、導電性成形体10を製造する。この方法では、バインダー含有溶液は導電層2を通り抜け、基材1に達するため、導電層2はバインダーで覆われることなく、好ましい導電層2が形成できる。
【0036】
上記のこれらの方法において、樹脂フィルムからなる基材1は連続的に繰り出され、塗液が基材1の表面にロールコーターで連続的に塗布される。上記の方法は、非常に効率がよい。それらは、従来のバッチ式の方法と比べると、生産性が改良され、生産コストを低下させることが可能となる。
【0037】
第五の方法は、基材1を押出し成形、プレス成形、キャスト成形などで形成される際に、極細導電炭素繊維2aを軟らかい基材1の上に散布し、繊維2aの一部をロールで繊維に圧を加えて埋没させる。このようにして、導電性成形体を製造する。この方法では、繊維2aの一部のみが圧で埋没されるが他の一部は埋没せずに残っているので、好ましい導電層2が得られる。
【0038】
第六の方法は、射出成形の金型に極細導電炭素繊維2aを散布した後、樹脂を射出成形する。射出成形で形成された基材1の表面に固定された導電性成形体を製造する。この方法では、繊維2aの全てが基材1に埋没されることはなく、いくらかは表面に残るために、好ましい導電層2が得られる。
【0039】
これらの上記した方法は、極細導電炭素繊維2aを軟らかい基材の上に或は射出成形金型の内部に散布するだけであり、非常に簡単である。これらの方法は広く知られた方法と大きく変わることがなく、連続生産する方法として容易に採用できる。
【0040】
図5は本発明の実施形態に係る導電性成形体の部分断面図である。
【0041】
この導電性成形体12は、基材1が基材本体1aとその基材本体の表面に積層された表面層1bとからなる。この表面層1bの表面に、極細導電繊維2aを分散した導電層2が形成されている。そして、導電層2の極細導電繊維2aの一部分(該繊維の端部又は中間部のいずれか)が表面層1bにバインダー層2bで固定され、他の部分が表面層1bから突出して、これらの極細導電繊維2aが互いに接触している。表面層1bと導電層2は、基材本体1aの両面に形成することができる。
【0042】
基材本体1aは、前述した基材1と同じ材料からなる。表面層1bは、基材本体1aと同種の樹脂又は相溶性のある異種の樹脂からなる。この表面層1bは、基材本体1aの耐候性を向上させるために紫外線吸収剤を含有した耐候性表面層、光拡散体を形成するために光拡散剤を含有させた光拡散表面層、或は成形体の殺傷性を向上させるためにシリカを含有させた耐殺傷性表面層とすることができる。即ち、表面層1bは、基材本体1aの機能を向上させるために形成される。この表面層1bの適当な厚さは、20〜300μmである。極細導電繊維2aを直接表面層1bに固定させて、バインダー層2bを省略することもできる。
【0043】
このような導電性成形体12は、次の方法によって効率良く製造できる。即ち、バインダーを揮発性溶剤に溶解する。極細導電繊維2aを該溶液に均一に分散させ、塗液を調製する。該塗液を、基材本体1aの樹脂と同種の熱可塑性樹脂フィルム又は相溶性のある異種の熱可塑性樹脂フィルムからなる表面層1bの表面に塗布し、そして、塗液を乾燥し、導電層2を有する導電性フィルムを作製する。この導電性フィルムを、基材本体1aの表面に重ねて熱プレスやロールプレスで圧着することにより、導電性成形体12を製造する。熱圧着をした際に、極細導電繊維は自発的なスプリングバック力によりバインダーから突出する。好ましい導電層2が該方法により得ることができる。
【0044】
基材本体1aに積層した表面層1bを有する成形体は、共押出しやプレスやコーティングにて形成される。そして、導電性成形体12は、成形体の表面層1bに塗液を塗布して乾燥したり、成形体の表面層1bの表面に塗液を塗布して乾燥させた後に再加熱したり、成形体の表面層1bに転写させたり、或は、成形体の表面層1bにバインダー溶液を塗布したりして得ることができる。
【0045】
次の実施例は本発明を具体的に示すが、発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
実施例
[実施例1]
塗液を次のようにして調整した。溶剤としてのシクロヘキサノン100質量部に、熱可塑性樹脂として塩化ビニル樹脂の粉末を7質量部と、多層カーボンナノチューブ(Tsinghua-Nafine Nano−Powder Commercialization Engineering Centerの製品、平均外径10nm)を0.5質量部と、分散剤として酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液を0.2質量部とを添加した。
【0047】
この塗液を、タキロン社製のポリカーボネート樹脂板(厚さ3mm、光線透過率90.0%、ヘーズ1.0%)の表面に塗布した。このプレートを、塗液が乾燥硬化後、温度220℃、圧力30kg/cmでプレスして、厚さ190nmの導電層を有する透明導電性ポリカーボネート樹脂板を得た。
【0048】
この樹脂板の導電層を透過電子顕微鏡(日本電子工業社製JEM−2010)で観察してカーボンナノチューブの目付け量を得た。目付け量は14mg/mであった。
【0049】
導電層の表面抵抗率を三菱化学社製ハイレスターで、光線透過率を島津製作所社製分光光度計UV−3100PCで測定したところ、表面抵抗率が7.7×10Ω/□、光線透過率が92.8%であつた。
また、透明導電性ポリカーボネート樹脂板の光線透過率とヘーズとを、直読ヘーズコンピューターHGM−2DPで測定したところ、光線透過率が83.0%、ヘーズが2.0%であった。
【0050】
さらに、この透明導電性ポリカーボネート樹脂板の導電層を透過電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブは非常に良好に分散していた。カーボンナノチューブは多少曲がっているものの、それぞれのカーボンナノチューブはお互いに複雑に絡み合うことなく他のものと分離していた。そのチューブは、お互いに均一に分散し、単純に交差し、接触していた。
【0051】
この透明導電性ポリカーボネート樹脂板導電層を垂直に切断し、その端面を透過電子顕微鏡で観察した。カーボンナノチューブは、図6に示すように、チューブの一部は導電層から突出した状態で分散していた。また、カーボンナノチューブの一部が、導電層の内部に埋没されているのが観察された。
【0052】
[実施例2]
塗液を次の方法により調整した。単層カーボンナノチューブ(文献Chemical Physics Letters,323(2000)P580−585に基づき合成した物、直径1.3〜1.8nm)と分散剤としてポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体を、溶媒としてのイソプロピルアルコール/水混合物(混合比3:1)中に加えた。カーボンナノチューブの含有量は0.003質量%、分散剤の含有量は0.05質量%であった。
【0053】
この塗液を、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(光線透過率94.5%、ヘーズ1.5%)の表面に塗布した。塗液を乾燥後、該フィルムに、メチルイソブチルケトンで600分の1に希釈したウレタンアクリレート溶液を塗布し、そして乾燥した。厚さ47nmの導電層を有する透明導電性ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0054】
このフィルムの導電層を走査電子顕微鏡(日立製作所製S−800)で観察して目付け量を測定した。目付け量は72.7mg/mであった。
導電層の表面抵抗率と光線透過率を、実施例1と同様にして測定した。表面抵抗率は5.4×10Ω/□、光線透過率は90.5%であつた。
【0055】
透明導電性ポリエチレンテレフタレートフィルムの光線透過率とヘーズとを、実施例1と同様にして測定した。光線透過率は85.8%、ヘーズは1.8%であった。
【0056】
さらに、この透明導電性ポリエチレンテレフタレートフィルムの導電層の表面を走査電子顕微鏡で観察した。図7に示すように、カーボンナノチューブは非常に良好に分散していた。多数のカーボンナノチューブは、それぞれのチューブが他のチューブから分離して分散し、しかもチューブはお互いが接触し、単純に交差していた。この透明導電性ポリエチレンテレフタレートフィルムの導電層の断面を走査電子顕微鏡で観察した。導電層から突出したカーボンナノチューブが観察された。
【0057】
[比較例1]
実施例1で使用した塗液を、実施例1で用いたポリカーボネート樹脂板の表面に塗布した。厚さ300nmの導電層を有する透明導電性ポリカーボネート樹脂板が得られた。この樹脂板の導電層中のカーボンナノチューブの目付け量を実施例1と同様にして測定した。目付け量は22mg/mであった。
【0058】
この透明導電性ポリカーボネート樹脂板の導電層の表面抵抗率と光線透過率を実施例1と同様にして測定した。表面抵抗率は2.4×1011Ω/□、光線透過率は84.5%であつた。透明導電性ポリカーボネート樹脂板の光線透過率とヘーズとを、実施例1と同様にして測定した。光線透過率が76.3%、ヘーズが2.0%であった。
【0059】
さらに、この透明導電性ポリカーボネート樹脂板の導電層の表面を透過電子顕微鏡で観察した。カーボンナノチューブは非常に良好に分散していた。カーボンナノチューブは多少曲がっているものの、それぞれのカーボンナノチューブはお互いに複雑に絡み合うことなく他のチューブから分離していた。チューブはお互いに均一に分散し、単純に交差し、接触していた。
【0060】
この透明導電性ポリカーボネート樹脂板の導電層を垂直に切断し、その端面を透過電子顕微鏡で観察した。図8に示すように、全てのカーボンナノチューブは導電層の内部に埋没されていた。ナノチューブは導電層の表面から突出も露出もしていなかつた。
【0061】
導電層に含まれるカーボンナノチューブの目付け量は、実施例1が14mg/m、比較例1が22mg/mである。実施例1は目付け量が少ないにもかかわらず、実施例1の表面抵抗率は7.7×10Ω/□であり、表面抵抗率が2.4×1011Ω/□である比較例1のそれよりも4桁も低下している。これは、カーボンナノチューブが、熱プレスが導電層になされたときに、導電層内の軟化したバインダーを押し退けてスプリングバック力で表面から突出したために、実施例1ではカーボンナノチューブ相互間に電気絶縁物質が無くなり、低抵抗となった。また、各写真像(図6及び図8)にて、カーボンナノチューブは実施例1では基材から突出し、比較例1では基材内部に埋没されていることが観察されている事実からも理解される。光線透過率はカーボンナノチューブの目付け量が少ない分だけ向上している。ヘーズは、実施例1と比較例1とでは大きな差異はなく、共に優れた透明成形体が得られている。
【0062】
本発明の他の実施形態と用途は、ここに開示された本発明の明細書と実施とを考慮すれば当業者には明らかであろう。ここで引用した全ての引用文献、米国及び外国での全ての特許、全ての特許出願が、引用文献として組み入れられる。明細書及び実施例は単に例示を示し、本発明の真の範囲と意図は特許請求の範囲により示される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る導電性成形体の概略断面図である。
【図2】図1の導電性成形体の拡大部分断面図である。
【図3】導電層を平面から見たときの極細導電繊維の分散状態を示す図1の平面図である。
【図4】極細導電繊維がバインダーで固定されている様子を示す一部拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る導電性成形体の一部拡大部分断面図である。
【図6】本発明の実施例1の導電性成形体の導電層を断面から見た極細導電繊維の突出状態を示す透過電子顕微鏡写真像である。
【図7】本発明の実施例2の導電性成形体の導電層を平面から見た極細導電繊維の分散状態を示す走査電子顕微鏡写真像である。
【図8】比較例1の導電層を断面から見た極細導電繊維の突出していない状態を示す透過電子顕微鏡写真像である。
【符号の説明】
【0064】
1 基材
1a 基材本体
1b 表面層
2 導電層
2a 極細導電繊維
2b バインダー層
10,11,12 導電性成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
基材の表面に形成され、且つ導電層の内部に分散された細い導電繊維を含む導電層と、からなり、
少なくとも前記繊維のある部分が基材に固定され、少なくとも前記繊維の他の部分が導電層の最表面から突出していて、前記繊維が互いに接触して電気的に接触するように配列されている
ことを特徴とする導電性成形体。
【請求項2】
上記繊維が、最表面から突出した部分又は基材に固定された部分でお互いに電気的に接触している
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項3】
上記基材が、基材本体と表面層とからなり、
基材に固定される上記繊維の部分は表面層に固定されている
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項4】
上記基材に固定された上記繊維の部分が、上記繊維の端部又は中間部である
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項5】
上記繊維のそれぞれが他の繊維から分離し、または、上記繊維が複数集まって複数本の束になった場合はそれぞれの繊維の束が他の束から分離している
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項6】
上記繊維が炭素繊維である
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項7】
上記炭素繊維がカーボンナノチューブである
ことを特徴とする請求項6の導電性成形体。
【請求項8】
上記導電層の厚さが5〜500nmである
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項9】
上記表面層が硬化性樹脂から形成されている
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項10】
上記表面層が熱可塑性樹脂から形成されている
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項11】
上記導電性成形体が、10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有する
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項12】
上記導電層は、550nmの光線透過率が少なくとも50%以上で、表面抵抗率が10〜10Ω/□である
ことを特徴とする請求項1の導電性成形体。
【請求項13】
基材の表面に導電層を形成する方法であって、
前記導電層が分散された細い繊維からなり、少なくとも前記繊維のある部分が基材に固定され、少なくとも前記繊維の他の部分が導電層の最表面から突出し、前記繊維がお互いに電気的に接触するように配列されている
ことを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項14】
上記繊維が最表面から突出した部分で、或は基材に固定された部分でお互いに電気的に接触している
ことを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
上記基材が基材本体と表面層とからなり、基材に固定される上記繊維の部分は表面層に固定されている
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項16】
上記基材に固定された繊維の部分は、繊維の端部或は繊維の中間部である
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項17】
上記繊維のそれぞれが他の繊維から分離し、または、上記繊維が複数集まって複数本の束になった場合はそれぞれの繊維の束が他の束から分離している
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項18】
上記繊維が炭素繊維である
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項19】
上記炭素繊維がカーボンナノチューブである
ことを特徴とする請求項18の製造方法。
【請求項20】
上記導電層の厚さが5〜500nmである
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項21】
上記表面層が硬化性樹脂から形成されている
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項22】
上記表面層が熱可塑性樹脂から形成されている
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項23】
上記導電性成形体が10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有する
ことを特徴とする請求項13の製造方法。
【請求項24】
上記導電層は550nmの光線透過率が少なくとも50%以上で、表面抵抗率が10〜10Ω/□である
ことを特徴とする ことを特徴とする請求項13の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−519712(P2006−519712A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503091(P2006−503091)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/002319
【国際公開番号】WO2004/069736
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(503351685)エイコス・インコーポレーテッド (11)
【Fターム(参考)】