説明

窒化物半導体レーザ装置の製造方法

【課題】MgドープAlGaNで構成されたp型クラッド層16からなる凸状のリッジ部を有する窒化物半導体レーザ装置の特性を向上させる。
【解決手段】MgドープAlGaNで構成されたp型クラッド層16をドライエッチングしてリッジ部16Aを形成した後、熱リン酸を用いてp型クラッド層16の表面をウェットエッチングすることにより、リッジ部16Aの両側のp型クラッド層16の深さ(膜厚)の制御性を確保しつつ、リッジ部16Aの側面のダメージ層を除去することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体レーザ装置の製造方法に関し、特に、凸状のリッジ部が形成されるp型クラッド層をAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)で構成した窒化物レーザダイオードの製造に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
青色領域〜青紫色領域の波長帯で動作する窒化物レーザダイオードは、GaAs系レーザダイオードに比べて波長が短いことから、直接描画装置の露光用光源などに使用されている。
【0003】
従来、窒化物レーザダイオードでは、基板材料としてGaN(窒化ガリウム)などが用いられ、素子構造としてリッジ導波路型が多用されている(例えば特許文献1)。リッジ導波路型の場合は、例えば有機金属気相成長法を用いてn型GaN基板上にn型クラッド層、多重量子井戸構造を有する活性層、p型クラッド層、p型コンタクト層などの半導体層を成長させた後、p型コンタクト層の上部に堆積した酸化シリコン膜をストライプ状に加工し、これをマスクとしてp型クラッド層をドライエッチングすることにより、凸状のリッジ部を形成する。ここで、n型クラッド層には、例えばSiドープAlGaNが用いられ、p型クラッド層には、例えばMgドープAlGaNが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−021424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した窒化物レーザダイオードは、デバイス性能の向上および信頼性向上の観点から、動作電圧の低減、しきい値電流の低減といった特性の改善が求められている。
【0006】
窒化物レーザダイオードの特性が劣化する原因の一つに、リッジ部の形成工程でp型クラッド層に生じるエッチングダメージ(結晶欠陥)が挙げられる。前述したように、リッジ部を形成する工程では、AlGaNからなるp型クラッド層の上部に堆積した酸化シリコン膜をストライプ状に加工し、これをマスクとしてp型クラッド層を凸状にエッチングする。
【0007】
p型クラッド層を構成するAlGaNは、安定な結晶であることから、上記したリッジ部の加工には、ドライエッチング法が用いられる。このとき、ドライエッチングされたp型クラッド層の表面にはダメージ層が残るが、特にリッジ部の側面に生じたダメージは、窒化物レーザダイオードの特性に悪影響を及ぼす。
【0008】
その対策として、ドライエッチング後にp型クラッド層の表面をウェットエッチングすることによって、リッジ部の側面のダメージ層を除去することが望ましいが、p型クラッド層の表面をウェットエッチングする際には、p型クラッド層の深さ(膜厚)の制御性を確保して電流の広がりを抑制する観点から、縦方向(基板の主面に垂直な方向)のエッチングの進行は、最小限にとどめなければならない。
【0009】
ところが、一般に、薬液を用いたウェットエッチング法では、横方向(基板の主面に水平な方向)のエッチングと縦方向のエッチングが等方的に進行する。そのため、リッジ部の側面のダメージ層をウェットエッチングで除去しようとすると、縦方向のエッチングも同時に進行し、p型クラッド層の深さ(膜厚)の制御性を確保することが困難になる。
【0010】
このように、AlGaNからなるp型クラッド層をドライエッチングしてリッジ部を形成する従来方法では、p型クラッド層の深さ(膜厚)の制御性を確保しつつ、リッジ部の側面のダメージ層を除去することが困難であった。
【0011】
本発明の目的は、AlGaNからなるp型クラッド層をドライエッチングしてリッジ部を形成する窒化物レーザダイオードの製造工程において、p型クラッド層の深さ(膜厚)の制御性を確保しつつ、リッジ部の側面のダメージ層を除去することのできる技術を提供することにある。
【0012】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
本願発明の好ましい一態様である窒化物半導体レーザ装置の製造方法は、(a)基板上に、少なくともn型クラッド層、活性層、およびAlGaNを主体として構成されるp型クラッド層を成長させる工程と、(b)前記p型クラッド層の上部に形成した絶縁膜をマスクにして、前記p型クラッド層をドライエッチングすることにより、前記p型クラッド層の一部に凸状のリッジ部を形成する工程と、(c)前記(b)工程の後、前記p型クラッド層の表面を薬液でウェットエッチングすることにより、前記ドライエッチングで生じた前記リッジ部の側面のダメージ層を除去する工程とを含み、前記薬液として、熱リン酸を用いるものである。
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0016】
AlGaNからなるp型クラッド層をドライエッチングしてリッジ部を形成した後のダメージ除去工程で、p型クラッド層の深さ(膜厚)の制御性を確保しつつ、リッジ部の側面のダメージ層を除去することが可能となるので、窒化物半導体レーザ装置の動作電圧の低減、しきい値電流の低減といった特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態1である窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図2】図1に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図3】図2に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図4】図3に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図5】図3に続く窒化物レーザダイオードの製造方法の別例を示す断面図である。
【図6】図4に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図7】図6に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図8】図7に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【図9】図8に続く窒化物レーザダイオードの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0019】
以下、図面を参照しながら、ストライプ方向が[1−100]、リッジ側面面方位が(11−20)(いわゆるA面)、端面である壁開面の面方位が(1−100)(いわゆるm面)となる凸状のリッジ部を有する窒化物レーザダイオードの製造方法を工程順に説明する。
【0020】
まず、図1に示すように、表面面方位が(0001)、いわゆるC面のn型GaN基板10を用意し、その主面上に例えばSiドープGaNからなるn型バッファ層11、SiドープAlGaNからなるn型クラッド層12、SiドープGaNからなるn型ガイド層13、井戸層とバリア層とを交互に積層したアンドープInGaN(窒化インジウムガリウム)からなる活性層14、MgドープAlGaNからなる電子ブロック層15を順次成長させ、続いて電子ブロック層15の上部に、Al:Ga:Nの組成比が電子ブロック層15とは異なるMgドープAlGaNからなるp型クラッド層16を成長させ、p型クラッド層16の上部にMgドープGaNからなるp型コンタクト層17を成長させる。上記したn型GaN基板10上の各半導体層は、一般的な有機金属気相成長法を用いて成長させる。また、p型クラッド層16の膜厚は、例えば400nm程度とする。
【0021】
次に、図2に示すように、例えばCVD法を用いてp型コンタクト層17の上部に酸化シリコン膜18を堆積した後、図3に示すように、酸化シリコン膜18の上部に形成したフォトレジスト膜19をマスクにしたドライエッチングで酸化シリコン膜18をパターニングする。パターニングされた酸化シリコン膜18は、p型コンタクト層17およびp型クラッド層16をエッチングするためのマスクとなるもので、図3の紙面に垂直な方向に延在するストライプ状のパターンを有している。
【0022】
次に、フォトレジスト膜19を除去した後、図4に示すように、パターニングされた酸化シリコン膜18をマスクにしてp型コンタクト層17およびp型クラッド層16をドライエッチングする。p型コンタクト層17を構成するMgドープGaNおよびp型クラッド層16を構成するMgドープAlGaNをドライエッチングするには、例えば塩素系のガスを使用する。このとき、p型クラッド層16のドライエッチングを途中で停止することにより、断面形状が略凸状のリッジ部16Aを形成する。
【0023】
ここでは、例えばp型クラッド層16を350nm程度までドライエッチングしたところでエッチングを停止し、リッジ部16Aの両側に膜厚50nm程度のp型クラッド層16を残す。窒化物レーザダイオードの場合は、リッジ部16Aの両側に残るp型クラッド層16の膜厚(図4に示す膜厚d)の大小が電流の広がりを決めるので、上記ドライエッチング工程での膜厚dの制御は重要である。
【0024】
また、p型コンタクト層17およびp型クラッド層16をドライエッチングする上記の工程では、ドライエッチングのマスクとなる酸化シリコン膜18も僅かにエッチングされるので、エッチングの進行に伴ってその断面積が次第に小さくなる。そのため、p型クラッド層16のドライエッチングが終了すると、リッジ部16Aの断面形状が台形となり、その側面にテーパが形成される。
【0025】
また、p型クラッド層16をドライエッチングする上記の工程では、酸化シリコン膜18に対するp型クラッド層(AlGaN)16のエッチング選択比が高くなるようなドライエッチング装置を使用することが望ましい。このような装置を使用した場合は、図5に示すように、酸化シリコン膜18の断面形状に依存することなく、リッジ部16Aの断面形状を制御することができる。
【0026】
次に、上記のドライエッチングでリッジ部16Aおよびp型コンタクト層17の側面に生じたダメージ層を除去するために、150℃程度の熱リン酸を用いてp型クラッド層16の表面およびp型コンタクト層17の表面(側面)をウェットエッチングする。このとき、リッジ部16Aの両側に残っているp型クラッド層16の表面がエッチングされてその膜厚が薄くなると、電流の広がりを抑制することが困難となる。
【0027】
ところが、熱リン酸を用いてGaNからなるp型コンタクト層17およびAlGaNからなるp型クラッド層16をドライエッチングした場合は、横方向(n型GaN基板10の主面に水平な方向)のエッチングが選択的に進行し、縦方向のエッチングはほとんど進行しない。すなわち、熱リン酸を用いてAlGaNをエッチングする場合は、エッチングが異方的に進行する。
【0028】
図6は、熱リン酸を用いてp型クラッド層16をエッチングした後のn型GaN基板10の断面を示している。熱リン酸を用いてAlGaNからなるp型クラッド層16をエッチングした場合、リッジ部16Aの側面は横方向にエッチングされるので、表面のダメージ層が除去されると共に、ほぼ垂直な断面形状となる。一方、リッジ部16Aの両側に残ったp型クラッド層16は、縦方向のエッチングがほとんど進行しないので、エッチング後の膜厚(d’)は、エッチング前の膜厚(d)とほとんど変わらない(d’≒d)。
【0029】
次に、例えばフッ酸系の薬液を用いたウェットエッチングでリッジ部16A上の酸化シリコン膜18を除去した後、図7に示すように、CVD法を用いてp型コンタクト層17の上部に酸化シリコン膜20を堆積し、続いて図示しないフォトレジスト膜をマスクにしたエッチングでp型コンタクト層17上の酸化シリコン膜20を除去することによって、p型コンタクト層の上面を露出させる。酸化シリコン膜20のエッチングには、例えばフッ酸系の薬液を用いる。
【0030】
次に、図8に示すように、例えば真空蒸着法を用いてn型GaN基板10の表面にAu(金)膜等を被着し、続いてこれらの金属膜をパターニングすることによって、p型コンタクト層に電気的に接続されるp側電極21を形成する。
【0031】
次に、n型GaN基板10の裏面を研削して基板厚を100μm程度まで薄くした後、図9に示すように、n型GaN基板10の裏面にn側電極22を形成する。n側電極22は、例えばn型GaN基板10の裏面側全面にTi(チタン)膜およびAl膜を順次堆積することによって形成する。
【0032】
このように、GaNからなるp型コンタクト層17およびAlGaNからなるp型クラッド層16をドライエッチングしてリッジ部16Aを形成した後、熱リン酸を用いてp型クラッド層16の表面をエッチングすることにより、リッジ部16Aの両側のp型クラッド層16の深さ(膜厚)の制御性を確保しつつ、リッジ部16Aおよびp型コンタクト層17のそれぞれの側面のダメージ層を除去することが可能となる。
【0033】
なお、熱リン酸を用いてp型クラッド層16の表面をエッチングした場合、リッジ部16Aの両側のp型クラッド層16の表面には、エッチング後もダメージ層が残るが、この部分は電流パスには関係ないので、特性への影響はない。
【0034】
これにより、窒化物レーザダイオードの動作電圧の低減およびしきい値電流の低減を図ることができるので、特性の向上した窒化物レーザダイオードを製造することができる。
【0035】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0036】
例えば、前記実施の形態では、基板材料としてn型GaNを使用した例について述べたが、サファイア、SiC(炭化珪素)など、窒化物半導体が成長しうる基板材料であれば、如何なる基板材料を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、凸状のリッジ部が形成されるp型クラッド層をAlGaNで構成した窒化物レーザダイオードの製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 n型GaN基板
11 n型バッファ層
12 n型クラッド層
13 n型ガイド層
14 活性層
15 電子ブロック層
16 p型クラッド層
16A リッジ部
17 p型コンタクト層
18、20 酸化シリコン膜
19 フォトレジスト膜
21 p側電極
22 n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板上に、少なくともn型クラッド層、活性層、およびAlGaNを主体として構成されるp型クラッド層を成長させる工程と、
(b)前記p型クラッド層の上部に形成した絶縁膜をマスクにして、前記p型クラッド層をドライエッチングすることにより、前記p型クラッド層の一部に凸状のリッジ部を形成する工程と、
(c)前記(b)工程の後、前記p型クラッド層の表面を薬液でウェットエッチングすることにより、前記ドライエッチングで生じた前記リッジ部の側面のダメージ層を除去する工程と、
を含み、
前記薬液として、熱リン酸を用いることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項2】
前記(b)工程では、前記凸状のリッジ部の側面にテーパが形成され、
前記(c)工程では、前記凸状のリッジ部の側面が垂直になることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項3】
前記基板として、表面面方位が(0001)のGaN基板を用いることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−186330(P2012−186330A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48726(P2011−48726)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】