説明

窒化物半導体素子

【課題】本発明は、窒化物半導体素子に関する。
【解決手段】本発明の一実施形態は、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層が交互に積層されて成る活性層とを含み、上記複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の交互積層構造は、第1量子井戸層と、上記第1量子井戸層より高い量子準位を有する第2量子井戸層と、キャリアがトンネリングされることができる厚さのトンネリング量子障壁層と、上記トンネリング量子障壁層より厚い量子障壁層である結晶品質改善層とを有する単位積層構造と、上記第1及び第2量子井戸層より厚い厚膜量子井戸層とを具備することを特徴とする窒化物半導体素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子に関する。さらに詳細には最適化された量子障壁層及び量子井戸層構造を有する活性層により、特に、高電流作動時に発光効率が向上された窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、窒化物半導体はフルカラーディスプレイ、イメージスキャナ、各種信号システム及び光通信機器に光源として提供される緑色または青色発光ダイオード(light emitting diode:LED)またはレーザーダイオード(laser diode:LD)に広く使用されている。このような窒化物半導体素子は、電子と正孔の再結合原理を利用する青色及び緑色を含む多様な光が放出する活性層を有する発光素子として提供されることができる。
【0003】
このような窒化物発光素子(LED)が開発された後に、多くの技術的発展を成し、その活用範囲が拡大され一般照明及び電装用光源として多くの研究がされている。特に、従来の窒化物発光素子は主に低電流/低出力のモバイル製品に適用される部品として使用されたが、最近は次第にその活用範囲が高電流/高出力分野に拡大している。これにより高電流で高効率を有するLED構造の開発が急を要する実情である。
【0004】
図1は、一般的な窒化物半導体素子を表す断面図である。
【0005】
図1を参照すると、窒化物半導体素子10はサファイア基板11上に順次に形成されたn型窒化物半導体層12、多重量子井戸構造を有する活性層15、p型窒化物半導体層17及び透明電極層18を有する。上記n型窒化物半導体層12の一部領域は、エッチングされてn側電極19aの形成のための領域として提供され、上記透明電極層18上にはp側電極19bが形成される。ここで、上記活性層15は複数の量子井戸層15aと量子障壁層15bが交互に積層された多重量子井戸構造から成る。
【0006】
このような窒化物半導体素子の発光効率は、普通活性層内での電子と正孔の再結合確率、すなわち内部量子効率により決定される。このような内部量子効率の改善方案は主に活性層自体の構造を改善して発光に関わる有効キャリア(effective carrier)の数を増加させる方向で研究されている。すなわち、活性層において有効キャリアの数を増大させるために、活性層の外部にオーバーフローされるキャリアの数を減少させる必要がある。
【0007】
また、活性層内の特定局部領域へのキャリア注入が制限され全体の活性層における有効発光領域が減少することがあり、このような有効発光領域の減少は発光効率の低下と直結するため、全体の活性層の領域において再結合が保障されることができる方案が求められる。これを図2を参照してより具体的に説明する。
【0008】
図2a及び図2bは、夫々従来の技術による窒化物半導体素子の一例で、量子井戸層と量子障壁層を夫々30Å、150Åの厚さで7個のペアで形成した活性層に対するキャリアの波動関数と有効活性領域の分布を表すシミュレーションの結果である。
【0009】
先ず、図2aに図示された波動関数(点線:電子、実線:正孔)によると、相対的に正孔は電子に比べて移動度が低いため、ペア(pair)数が増加するに従って正孔の存在確率は急激に減少するようになる。電子と正孔は夫々n型及びp型窒化物半導体層から遠くなるほどその分布が減少するが、正孔が相対的にさらに急速に減少するため、図2bに表われたように、有効な再結合確率はp型窒化物半導体層と近い領域(II)に位置した量子井戸層において高い傾向を示す。
【0010】
このような活性層の有効活性領域が低下する問題は、特に高電流を要求する照明装置等に使用される場合により深刻になるため(efficiency droop)、当技術分野では高電流作動時の発光効率を向上させることができる多重量子井戸構造が必要であるという実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような問題点を解決するためのもので、本発明の一目的は、最適化された多重量子井戸構造を有する活性層により、高電流の駆動時に発光効率が大きく向上された窒化物半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態は、
n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、上記n型及びp型窒化物半導体層の間に形成され、複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層が交互に積層されて成る活性層とを含み、上記複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の交互積層構造は、第1量子井戸層と、上記p型窒化物半導体層方向に上記第1量子井戸層に隣接して形成され、上記第1量子井戸層より高い量子準位を有する第2量子井戸層と、上記第1及び第2量子井戸層の間に形成され、キャリアがトンネリングされることができる厚さのトンネリング量子障壁層と、上記p型窒化物半導体層方向に上記第2量子井戸層に隣接して形成され、上記トンネリング量子障壁層より厚い量子障壁層である結晶品質改善層とを有する単位積層構造と、上記第1及び第2量子井戸層と隣接して形成され、上記第1及び第2量子井戸層より厚い厚膜量子井戸層とを具備することを特徴とする窒化物半導体素子を提供する。
【0013】
本発明の一実施例において、上記活性層内で、上記単位積層構造は2回以上反復して積層されることができる。この場合、上記単位積層構造の反復回数は2〜30回であることができる。また、上記厚膜量子井戸層は、上記単位積層構造の間に配置されて上記単位積層構造に含まれた結晶品質改善層と界面を形成することができる。
【0014】
本発明の一実施例において、上記複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の交互積層構造のうち一部は超格子構造を成すことができる。この場合、上記超格子構造は上記活性層内において上記単位積層構造に比べて上記n型窒化物半導体層により隣接して形成されることができる。
【0015】
また、上記超格子構造に含まれた複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の厚さは20〜60Åであることができる。
【0016】
また、上記超格子構造は量子井戸層及び量子障壁層を夫々5〜15個ずつ具備することができる。
【0017】
また、上記活性層は上記単位積層構造を1〜5個具備することができる。
【0018】
また、上記厚膜量子井戸層は上記超格子構造と上記単位積層構造の間に形成されることができる。この場合、上記厚膜量子井戸層は、上記活性層内において上記n型窒化物半導体層より上記p型窒化物半導体層に近く形成されることができる。
【0019】
また、上記厚膜量子井戸層及びこれと隣接した上記単位積層構造に含まれた第1量子井戸層の間に形成された量子障壁層の厚さは20〜60Åであることができる。
【0020】
本発明の一実施例において、上記第2量子井戸層は上記第1量子井戸層より厚さが薄いことができる。
【0021】
本発明の一実施例において、上記第1量子井戸層の厚さは20〜60Åであることができる。
【0022】
本発明の一実施例において、上記第2量子井戸層の厚さは10〜50Åであることができる。
【0023】
本発明の一実施例において、上記トンネリング量子障壁層の厚さは10〜80Åであることができる。
【0024】
本発明の一実施例において、上記結晶品質改善層の厚さは30〜200Åであることができる。
【0025】
本発明の一実施例において、上記厚膜量子井戸層の厚さは50〜100Åであることができる。
【0026】
本発明の一実施例において、上記第2量子井戸層の上記量子準位はドーピングによる量子準位であることができる。
【0027】
本発明の一実施例において、上記単位積層構造は、上記n型窒化物半導体層の方向に上記第1量子井戸層に隣接して形成され、上記第1量子井戸層より高い量子準位を有する第3量子井戸層と、上記第1及び第3量子井戸層の間に形成され、キャリアがトンネリングされることができる厚さを有する第2トンネリング量子障壁層とをさらに有することができる。この場合、上記第3量子井戸層の厚さは10〜50Åであることができる。また、上記第2トンネリング量子障壁層の厚さは10〜80Åであることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、最適化された多重量子井戸構造を有する活性層により高電流作動時に発光効率が大きく向上された窒化物半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一般的な窒化物半導体素子を表す断面図である。
【図2a】従来技術による窒化物半導体素子の一例で、量子井戸層と量子障壁層を夫々30Å、150Åの厚さで7個のペアで形成した活性層に対するキャリア波動関数と有効活性領域の分布を表すシミュレーション結果である。
【図2b】従来技術による窒化物半導体素子の一例で、量子井戸層と量子障壁層を夫々30Å、150Åの厚さで7個のペアで形成した活性層に対するキャリア波動関数と有効活性領域の分布を表すシミュレーション結果である。
【図3】本発明の一実施形態による窒化物半導体素子を表す断面図である。
【図4】図3においてAで表示した領域を拡大して表したものである。
【図5】図4に図示された多重量子井戸構造の伝導帯域エネルギーレベルを図示したものである。
【図6】本発明の他の実施形態による窒化物半導体素子において採用された多重量子井戸構造の伝導帯域エネルギーレベルを図示したものである。
【図7】本発明のさらに他の実施形態による窒化物半導体素子において採用された多重量子井戸構造の伝導帯域エネルギーレベルを図示したものである。
【図8】本発明の一実施例と比較例により製造された窒化物半導体素子においてエネルギー変換効率を注入電流に沿って表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0031】
但し、本発明の実施形態は様々な異なる形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は当業界において平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。従って、図面における要素の形状及び大きさ等はより明確な説明のために誇張されることがあり、図面上の同一の符号で表示される要素は同一の要素である。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態による窒化物半導体素子を表す断面図で、図4は図3においてAで表示した領域を拡大して表したものである。
【0033】
先ず、図3を参照すると、窒化物半導体素子30は、基板31、n型窒化物半導体層32、活性層300及びp型窒化物半導体層37を含む。上記n型窒化物半導体層32の露出面上にはn型電極39aが形成されることができる。また、上記p型窒化物半導体層37の上面には透明電極層38とp型電極39bが順番に形成されることができる。この場合、上記透明電極層38は実施形態により除外されることができる。また、本実施形態ではn型及びp型電極39a、39bが同一の方向を向かうように配置された水平型窒化物半導体素子構造を例示したが、本発明はこれに限定されず垂直構造の窒化物半導体素子にも適用されることができるということは当業者であれば容易に理解することができる。
【0034】
上記基板31は、窒化物単結晶成長用基板として提供され、一般的にサファイア基板が使用されることができる。サファイア基板は六角−菱形(Hexa−Rhombo R3c)対称性を有する結晶体としてc軸及びa軸方向の格子定数が夫々13.001Å及び4.758Åで、C(0001)面、A(1120)面、R(1102)面等を有する。この場合、上記C面は比較的窒化物の薄膜の成長が容易であり、高温で安定しているため窒化物成長用基板として主に使用される。勿論、形態によってはSiC、GaN、ZnO、MgAl、MgO、LiAlO及びLiGaO等からなる基板も使用することができ、更に、上記基板31上に成長される窒化物半導体単結晶の結晶品質向上のためのバッファ層、例えば、アンドープGaN層を成長させることもできる。
【0035】
上記n型及びp型窒化物半導体層32、37は、AlInGa(1−x−y)N組成式(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1である)を有するn型不純物及びp型不純物がドーピングされた半導体物質から成ることができ、代表的には、GaN、AlGaN、InGaNがある。また、上記n型不純物としてはSi、Ge、Se、Te等が使用されることができ、上記p型不純物としてはMg、ZnまたはBe等が代表的である。
【0036】
上記n型及びp型窒化物半導体層32、37の間に形成される活性層300は電子と正孔の再結合により所定のエネルギーを有する光を放出し、図3に図示されたように、複数の量子井戸層と複数の量子障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造から成る。特に、本実施形態の場合、上記複数の量子井戸層及び量子障壁層は、夫々2個ずつで総4個の層がひとつの単位積層構造35となり、1回以上反復された構造を有し、上記単位積層構造35は活性層内においてキャリアの移動を円滑にするために提供されるものである。また、上記単位積層構造35と隣接すると電子と正孔の非発光性再結合(Auger Recombination)を減らすために提供される厚膜量子井戸層36が形成される。上記単位積層構造35及び厚膜量子井戸層36をさらに詳細に説明するために図3においてAで表示した領域を図4に拡大して図示した。
【0037】
図4に図示されたように、本実施形態において採用された多重量子井戸構造は、2個の量子井戸層35a、35cと2個の量子障壁層35b、35dで構成された4層の単位積層構造35が反復された構造とこれらの間に形成された厚膜量子井戸層36を具備する。以下、上記単位積層構造35に含まれた量子井戸層及び量子障壁層35a、35b、35c、35dの機能を考慮して、夫々を第1量子井戸層35a、トンネリング量子障壁層35b、第2量子井戸層35c及び結晶品質改善層35dと称することにする。上記第1量子井戸層35aは、n型窒化物半導体層32に隣接する層で上記n型窒化物半導体層32から電子が最も優先的に注入され、単位積層構造35において主となる発光層として機能する。上記トンネリング量子障壁層35bは、上記第1量子井戸層35aまたは第2量子井戸層35cからのキャリアがトンネリングされることができる厚さd2を有し、これにより、キャリアが隣接した量子井戸層に円滑に移動されることができるようにする。
【0038】
上記第2量子井戸層35cは、上記第1量子井戸層35aに比べて高い量子準位を有する。このために、本実施形態では、上記第1量子井戸層35aより上記第2量子井戸層35cが薄い厚さのd3を有するようにした。後述するように、上記第2量子井戸層35cは高い量子準位によりキャリアが隣接した量子井戸層に容易に移動されるように階段の役割を主に行い、発光機能は第1量子井戸層35aに比べてわずかであることを特徴とする。
【0039】
上記結晶品質改善層35dは、それ以前に積層される上記第1量子井戸層、トンネリング量子障壁層及び第2量子井戸層35a、35b、35cの厚さが数十Å単位でその結晶品質が低下することができるという問題を解決するために提供される量子障壁層である。すなわち、本実施形態による多重量子井戸構造では、上記第1量子井戸層、トンネリング量子障壁層及び第2量子井戸層35a、35b、35cの構造的特性により活性層内においてキャリアの移動が増進されることができ、これにより、隣接した量子障壁層である上記結晶品質改善層35dを相対的に厚く成長させることができる。従って、上記結晶品質改善層35dは上記トンネリング量子障壁層35bよりその厚さd4が厚く採用される。但し、上記結晶品質改善層35dの適切な厚さに関する限定事項は、本発明において必須のものではなく、活性層300の厚さ及び後述する青方偏移(blue shift)現象等を考慮して、適切にその厚さを調節することができる。
【0040】
上記厚膜量子井戸層36は、上記単位積層構造35と隣接して形成され、上記単位積層構造35に含まれた第1及び第2量子井戸層35a、35cより厚さd5が厚い。上述したように上記第1及び第2量子井戸層35a、35cは厚さが相対的に薄くその中でキャリアの密度は相対的に高くなり、これによって、非発光性再結合が増加することができる。本実施形態では、このような非発光性再結合による発光効率の低下を防ぐために、上記厚膜量子井戸層36の厚さd5を相対的に厚くしてキャリアの密度を低めることによって非発光性再結合を抑制することができる。
【0041】
以下、図5を参照して上記単位積層構造35及び厚膜量子井戸層36の機能をより詳細に説明する。図5は図4に図示された多重量子井戸構造の伝導帯域のエネルギーレベルを図示したものである。説明の便宜をはかるために、キャリアとして電子の移動の様子のみを図示した。先ず、第1量子井戸層35aに注入された電子e−のうちの一部は、正孔との発光性再結合により所定の波長の光を放出する。大量の電子が注入されると、上記第1量子井戸層35aのエネルギー準位E0、E1は全て電子で満たされ、残りの電子は隣接したトンネリング量子障壁層35bをトンネリングして第2量子井戸層35cに注入される。この場合、後述するように、上記第2量子井戸層35cは第1量子井戸層35aに比べて高い量子準位を有し、これにより、第1量子井戸層35aの高次量子準位から第2量子井戸層35cの0次量子準位E'0へより容易に電子がトンネリングされることができる。このようなトンネリング機能を行うために上記トンネリング量子障壁層35bの厚さd2は約10〜80Åの値を有する。また、上記第1量子井戸層35aは量子効果により高い内部量子効率を有するために厚さd1が約20〜60Åの値を有する。
【0042】
トンネリングにより第2量子井戸層35cに注入された電子は上記第1量子井戸層35aに比べて高い量子準位を有する。これは上述したように、隣接した他の量子井戸層、具体的には上記厚膜量子井戸層36や他の第1量子井戸層へ電子が容易に移動することができるように、階段のような役割をするものと理解されることができる。このような高い量子準位を得るために上記第2量子井戸層35cは第1量子井戸層35aより厚さが薄いことが好ましい。具体的に、上記第2量子井戸層35cの厚さd3は、約10〜50Å程度の値を有する。このように、上記第2量子井戸層35cの高い量子準位により隣接した量子井戸層への注入効率は向上されることができ、これにより、活性層の全体的な有効発光領域が拡大される。一方、第2量子井戸層35cの高い量子準位は、厚さを相対的に薄くすることによってのみ達成することができるというものではなく、適切な物質のドーピングやインジウムまたはアルミニウムの含量を調節する方法等を通しても得ることができる。
【0043】
上記結晶品質改善層35dは、その厚さが薄いもの、例えば、上記第1量子井戸層、トンネリング量子障壁層及び第2量子井戸層35a、35b、35cの厚さと似た水準を有するものが隣接した量子井戸層への電子注入に有利であることができるが、本実施形態の場合は結晶品質改善により焦点を合わせるようにした。すなわち、その機能を行うために相対的に厚さが薄く形成された上記第1量子井戸層、トンネリング量子障壁層及び第2量子井戸層35a、35b、35cの結晶品質は優れたものにならず、このような薄い層が続けて反復積層される場合にはキャリア注入効率が向上されるにも関わらず結晶品質の低下により全体的な発光効率向上の効果は大きくなることができない。従って、上記の結晶品質改善層35dは以前に積層された上記層35a、35b、35cに比べて厚いことが好ましい。但し、厚すぎる場合、注入される電流が増加するに従って放出される光の波長の青方偏移(blue shift)現象が深化することがあるため、これを勘案すると、上記結晶品質改善層35dの厚さd4は約30〜200Å程度の値を有することが好ましい。
【0044】
これと共に、本実施形態において採用された多重量子井戸構造は、上記第1量子井戸層、トンネリング量子障壁層、第2量子井戸層及び結晶品質改善層35a、35b、35c、35dをひとつの単位積層構造35としてこのような単位積層構造35が複数回反復されたことを特徴とする。これにより、量子井戸層の間のキャリアの移動性と半導体結晶の品質が全て改善されることができ、特に、高電流作動時に優れた発光効率の向上効果を得ることができる。この場合、上記単位積層構造35は上記活性層300内に1個だけ含まれることができ、複数回反復されることもできる。単位積層構造35の最適反復回数は素子が駆動される電流密度により異なり、一般的には電流密度が高いほど最適な反復回数は増加する。複数回反復される場合は、反復回数が30回以下、すなわち、夫々量子井戸層と量子障壁層が60個以下であることが好ましい。但し、図7に図示された実施形態において説明するように、活性層内において単位積層構造と超格子構造が互いに共存する場合には、単位積層構造の反復回数はこれより減っても差し支えない。
【0045】
一方、上述したように、非発光性再結合を抑制して発光効率の向上に寄与する上記厚膜量子井戸層36は、キャリアの密度を低めるためにその厚さが十分に保障される必要があり、具体的に、その厚さd5は、約50〜100Å程度の値を有することが好ましい。
【0046】
図6は、本発明の他の実施形態による窒化物半導体素子において採用された多重量子井戸構造の伝導帯域のエネルギーレベルを図示したものである。本実施形態の場合、多重量子井戸構造を構成する単位積層構造は以前の実施形態に比べて2個の層が追加されたことに該当する。すなわち、図6に図示されたように、本実施形態の多重量子井戸構造を成す単位積層構造45は、図5に図示された単位構造と同じものとみなすことができる第1量子井戸層45c、第1トンネリング量子障壁層45d、第2量子井戸層45e及び結晶品質改善層45fを含み、さらに、第3量子井戸層45aと第2トンネリング量子障壁層45bをさらに含む。また、上記単位積層構造45と隣接すると厚膜量子井戸層46が形成される。
【0047】
本実施形態は電子の移動の問題以外に正孔の移動まで考慮したもので正孔の移動経路上に量子準位が高い第3量子井戸層45aをさらに配置し、正孔が隣接した量子井戸層に容易に注入されるようにし、第2トンネリング量子障壁層45bは第1トンネリング量子障壁層45dと同一の目的で採用されたものである。すなわち、注入効率の向上の対象となるキャリアが互いに異なるだけで、上記第3量子井戸層45aと第2トンネリング量子障壁層45bは夫々第2量子井戸層45eと第1トンネリング量子障壁層45dに夫々対応するものと理解されることができる。従って、図6の場合も全体的なキャリアの流れは図5の場合と類似し、但し、第3量子井戸層45aに注入された電子e−はトンネリングにより第1量子井戸層45cに注入される。従って、図5の場合と同様に本実施形態でも主となる発光層は第1量子井戸層45cとなる。第1量子井戸層45c以後のキャリアの移動及び各層の機能と関連する説明は以前の実施形態に対する説明で概ね可能であるため省略する。
【0048】
図7は、本発明のさらに他の実施形態による窒化物半導体素子で採用された多重量子井戸構造の伝導帯域エネルギーレベルを図示したものである。本実施形態の場合、活性層は単位積層構造と共に超格子構造(Super−Lattice)を具備する。すなわち、図7に図示されたように、n型窒化物半導体層(n−GaNと表記)に隣接して複数の量子井戸層57a及び量子障壁層57bが交互に積層された超格子構造(SL)が形成される。上記超格子構造(SL)は量子井戸層57a及び量子障壁層57bの交互積層構造が5〜15回程度反復され、上記量子井戸層57a及び量子障壁層57b夫々の厚さは約20〜60Å程度である。これにより、活性層全体の構造において、厚膜量子井戸層56aはn型窒化物半導体層(n−GaN)に比べてp型半導体(p−GaNと表記)側により隣接して配置されることができる。
【0049】
上記の単位積層構造55は、p型窒化物半導体層(p−GaN)に隣接して形成され、第1量子井戸層55a、トンネリング量子障壁層55b、第2量子井戸層55c及び結晶品質改善層55dを具備する。ここで上記単位積層構造55は以前の実施形態において説明したものと同一の構造に該当し、図7で1個のみを図示したが、1〜5回程度反復されることができる。上記超格子構造(SL)と上記単位積層構造55の間には厚膜量子井戸層56aが形成される。この場合、上記厚膜量子井戸層56aと上記単位積層構造55に含まれた第1量子井戸層55aの間に形成された量子障壁層56bは、上記第1量子井戸層55aと類似した厚さ、すなわち、20〜60Åの厚さを有する。本実施形態のように、単位積層構造55と共に超格子構造(SL)を採用し、その間に厚膜量子井戸層56aを配置(特に、p型窒化物半導体層に隣接するように配置)することによってキャリアの移動をより円滑にし、非発光性再結合を低めることができる。
【0050】
図8は、本発明の一実施例と比較例により製造された窒化物半導体素子においてエネルギー変換の効率を注入電流に沿って表したものである。エネルギー変換効率はエネルギーの入力(Pin)と出力(Po)の比率で定義され、発光効率を表す尺度として使用されることができる。図8において実施例(三角形で表記)の場合、活性層の多重量子井戸構造が図7に図示された構造を有し、超格子構造は量子井戸層と量子障壁層を夫々30Åとして9回積層した。すなわち、{30Å/30Å}×9構造に該当する。また、単位積層構造は、{30Å/30Å/20Å/50Å}×2構造で、上記超格子構造及び単位電極構造に形成された厚膜量子井戸層と量子障壁層は50Å/30Å構造とした。図8において比較例(丸で表記)の場合、実施例の単位積層構造に該当する{30Å/30Å/20Å/50Å}構造を7回積層した。
【0051】
図8を参照すると、高電流になるほど比較例に比べて実施例の場合がエネルギー変換効率が高く、これは高電流の注入による発光効率の低下が緩和されることを表す。この場合、比較例で提示した構造も従来の30Å/180Å構造または単純超格子構造に比べて高電流で発光効率の低下(efficiency droop)が緩和されることができるが、上記実施例ではこれよりさらに発光効率の低下の緩和の効果を見せている。このように、本発明で提示した実施例による活性層は4層の単位積層構造と共に非発光性再結合を抑制する厚膜量子井戸層を使用することによって高電流下で相対的に高い発光効率を提供することができる。
【0052】
本発明は上述した実施形態及び添付された図面により限定されるものではなく、添付された請求範囲により限定する。従って、請求範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内において、当技術分野の通常の知識を有する者によって多様な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これはまた本発明の範囲に属すると言える。
【符号の説明】
【0053】
31 基板
32 n型窒化物半導体層
300 活性層
35 単位積層構造
36 厚膜量子井戸層
37 p型窒化物半導体層
38 透明電極層
39a、39b n型及びp型電極
35a 第1量子井戸層
35b トンネリング量子障壁層
35c 第2量子井戸層
35d 結晶品質改善層
45a 第3量子井戸層
45b 第2トンネリング量子障壁層
SL 超格子構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型及びp型窒化物半導体層の間に形成され、複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層が交互に積層されて成る活性層と
を含み、
前記複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の交互積層構造は、
第1量子井戸層と、前記p型窒化物半導体層方向に前記第1量子井戸層に隣接して形成され、前記第1量子井戸層より高い量子準位を有する第2量子井戸層と、前記第1及び第2量子井戸層の間に形成され、キャリアがトンネリングされることができる厚さのトンネリング量子障壁層と、前記p型窒化物半導体層方向に前記第2量子井戸層に隣接して形成され、前記トンネリング量子障壁層より厚い量子障壁層である結晶品質改善層とを有する単位積層構造と、
前記第1及び第2量子井戸層と隣接して形成され、前記第1及び第2量子井戸層より厚い厚膜量子井戸層と
を具備することを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記活性層内において、前記単位積層構造は、2回以上反復して積層されたことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記単位積層構造の反復回数は、2〜30回であることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記厚膜量子井戸層は、前記単位積層構造の間に配置されて前記単位積層構造に含まれたトンネリング量子障壁層と界面を形成することを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の交互積層構造のうちの一部は、超格子構造を成すことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記超格子構造は、前記活性層内において前記単位積層構造に比べて前記n型窒化物半導体層により隣接して形成されたことを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記超格子構造に含まれた複数の量子井戸層及び複数の量子障壁層の厚さは、20〜60Åであることを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記超格子構造は、量子井戸層及び量子障壁層を夫々5〜15個ずつ具備することを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記活性層は、前記単位積層構造を1〜5個具備することを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記厚膜量子井戸層は、前記超格子構造と前記単位積層構造の間に形成されたことを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記厚膜量子井戸層は、前記活性層内において前記n型窒化物半導体層より前記p型窒化物半導体層に近く形成されたことを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記厚膜量子井戸層及びこれと隣接した前記単位積層構造に含まれた第1量子井戸層の間に形成された量子障壁層の厚さは、20〜60Åであることを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記第2量子井戸層は、前記第1量子井戸層より厚さが薄いことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項14】
前記第1量子井戸層の厚さは20〜60Åであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項15】
前記第2量子井戸層の厚さは10〜50Åであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項16】
前記トンネリング量子障壁層の厚さは10〜80Åであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項17】
前記結晶品質改善層の厚さは30〜200Åであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項18】
前記厚膜量子井戸層の厚さは50〜100Åであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項19】
前記第2量子井戸層の前記量子準位は、ドーピングによる量子準位であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項20】
前記単位積層構造は、
前記n型窒化物半導体層方向に前記第1量子井戸層に隣接して形成され、前記第1量子井戸層より高い量子準位を有する第3量子井戸層と、
前記第1及び第3量子井戸層の間に形成され、キャリアがトンネリングされることができる厚さを有する第2トンネリング量子障壁層と
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項21】
前記第3量子井戸層の厚さは10〜50Åであることを特徴とする請求項20に記載の窒化物半導体素子。
【請求項22】
前記第2トンネリング量子障壁層の厚さは10〜80Åであることを特徴とする請求項20に記載の窒化物半導体素子。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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