説明

窒素化合物含有酸性液の処理装置および処理方法

【課題】原子力発電所や火力発電所の復水脱塩装置の再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸廃液等の窒素化合物含有酸性液を効率的かつ経済的に処理する。
【解決手段】アニオン交換膜21によって原水室22とアルカリ溶液室23とに隔てられた中和透析装置2の原水室22に窒素化合物含有酸性液を通水すると共に、アルカリ溶液室23にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和および脱塩した後、中和脱塩処理液中の窒素化合物を電気脱イオン装置4で濃縮する。アニオン交換膜21およびアルカリ溶液を用いた中和透析処理で、窒素化合物含有酸性液の中和と脱塩を行うことができ、得られた中和脱塩処理液から窒素化合物を効率的に分離濃縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素化合物を有する酸性液から、効率的に窒素化合物を分離して濃縮する処理装置と方法に関する。詳しくは原子力発電所や火力発電所の復水脱塩装置の再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸廃液等の窒素化合物含有酸性液から、モノエタノールアミン等の窒素化合物を効率的に分離濃縮する処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電や火力発電の復水工程では、モノエタノールアミン(MEA)などのアミン類が蒸気生成ラインの防食剤として用いられている。通常、これらのアミン類は、ライン中に設けられた復水脱塩装置(以下「コンデミ」と称す場合がある。)のカチオン交換樹脂に捕捉され、復水脱塩装置の再生の際に再生廃液に含まれて排出される。排出されたアミン類は、COD源や富栄養化源となって河川や湖沼を汚染するため、これを処理する必要がある。
【0003】
従来、モノエタノールアミンの処理方法として、電気分解(例えば、特許文献1)、生物処理、活性炭吸着、又は湿式酸化(触媒分解、熱分解)による方法が提案されているが、いずれも、反応速度が遅い、処理エネルギーコストが過大である、などの問題がある。
【0004】
特許文献2,3では、貴金属担持触媒を用いてアミン化合物を接触酸化処理しているが、アミン濃度が高い場合は触媒の劣化速度も速くなり、触媒の交換頻度が増す上に、酸化剤の添加コストも莫大となり、非経済的である。また、加温下で反応させるため、加熱エネルギーコストも問題となる。
【0005】
特許文献4では、アルカノールアミン含有酸性廃液を中和せずにそのまま減圧蒸留濃縮しているが、濃縮により腐食性が増すため、高価な防食処理を施した濃縮装置が必要となる。一般に、液中のCl濃度が5%を超えると、多くの材料は、耐腐食性を維持し得ず、例えばフェライト系ステンレス25CrはCl濃度5%以下では使用できるが、5%を超えると使用することができない(装置材料耐食表:化学工業社出版)。
【0006】
特許文献5では、陰イオン交換膜を用いた電気透析処理でClを除去した後、湿式触媒処理でモノエタノールアミン以外の含有物質を分解処理し、その後にモノエタノールアミンを回収しているが、電気透析のコストも触媒処理のコストも莫大となるため非経済的である。特に、コンデミ再生廃液中には、イオン交換樹脂の再生に用いられた多量の塩酸が共存することにより、次のような問題がある。即ち、Hイオンとその他カチオン成分(モノエタノールアミン、アンモニア、ヒドラジンなど)ではモル電気伝導率の関係から、当量として同等であっても、電気透析で移動する移動量はHイオンが圧倒的に多い(例えば、25℃の水溶液中の無限希釈におけるモル伝導率λは、H:349.8S・cm/mol、NH:73.5S・cm/mol)。従って、このコンデミ再生廃液の処理においては、単に電気透析を用いても、Hイオンの移動ばかりに電力が消費され、エネルギーコストが過大になり、極めて非効率的である。
【0007】
また、特許文献6では、廃酸から酸を除去回収するために、イオン交換膜を用いた電気透析が用いられているが、膜面積が過大になる上に、原理的に廃酸よりも高濃度な酸を得ることができず、また、水の浸透により透析廃液量のほうが原液より増大する、透析廃液の中にも廃酸が混入する、などといった制約や欠点がある。
【0008】
特許文献7では、有機アミン含有再生廃液の処理に当たり、この廃液を加熱して水分を蒸発させ、得られた濃縮液から有機アミンを気化させているが、この廃液からの水分の蒸発に多大な熱エネルギーが必要となる上に、濃縮によりClイオン濃度が非常に高くなるために、装置への腐食の影響が懸念される。また、アルカリを添加して中和した後加熱蒸発させる場合には、NaOH等のアルカリの添加で塩類濃度が高くなり、塩の析出のためにメンテナンス頻度が高くなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−239371号公報
【特許文献2】特許第3739452号公報
【特許文献3】特許第3568298号公報
【特許文献4】特許第3083504号公報
【特許文献5】特開2005−66544号公報
【特許文献6】特開2007−7655号公報
【特許文献7】特開平9−314128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、従来、コンデミの再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸廃液等の窒素化合物含有酸性液を効率的かつ経済的に処理することができる技術は提供されておらず、その開発が望まれている。
即ち、窒素化合物含有酸性液を直接電気透析に供しても、極めて非効率であり、電気透析の前処理として、窒素化合物含有酸性液を中和すると共にClイオンだけを効果的に除去できる手法が望まれる。また、中和に当たり、液量や総イオン量を増加させることがなく、Clイオンの除去手段としても、濃縮による腐食性の増大の問題があることから、腐食性を増大させることのない技術が望まれる。
【0011】
本発明は、コンデミの再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸廃液等の窒素化合物含有酸性液を効率的かつ経済的に処理する装置と方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アニオン交換膜およびアルカリ溶液を用いた中和透析処理で、窒素化合物含有酸性液の中和と脱塩を行うことができ、得られた中和脱塩処理液から窒素化合物を効率的に分離濃縮することが可能となることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
本発明(請求項1)の窒素化合物含有酸性液の処理装置は、窒素化合物を含有する酸性液の処理装置であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和および脱塩する中和脱塩装置と、該中和脱塩装置で中和および脱塩された中和脱塩処理液中の窒素化合物を濃縮する濃縮装置とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項2の窒素化合物含有酸性液の処理装置は、請求項1において、前記濃縮装置が、蒸留濃縮装置、電気脱イオン装置および電気透析装置のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
請求項3の窒素化合物含有酸性液の処理装置は、請求項2において、前記濃縮装置が電気脱イオン装置又は電気透析装置であり、該電気脱イオン装置又は電気透析装置の陽極室に通水される陽極水が酸化性の物質又は陽極酸化されて酸化性となる物質を含まないことを特徴とする。
【0017】
請求項4の窒素化合物含有酸性液の処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記中和脱塩処理液のpHが5〜9であることを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項5)の窒素化合物含有酸性液の処理方法は、窒素化合物を含有する酸性液の処理方法であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性廃液を中和および脱塩する中和脱塩工程と、該中和脱塩工程で中和および脱塩された中和脱塩処理液中の窒素化合物を濃縮する濃縮工程とを有することを特徴とする。
【0019】
請求項6の窒素化合物含有酸性液の処理方法は、請求項5において、前記濃縮工程が、蒸留濃縮装置、電気脱イオン装置および電気透析装置のいずれかによる濃縮工程であることを特徴とする。
【0020】
請求項7の窒素化合物含有酸性液の処理方法は、請求項6において、前記濃縮工程が電気脱イオン装置又は電気透析装置による濃縮工程であり、該電気脱イオン装置又は電気透析装置の陽極室に、酸化性の物質又は陽極酸化されて酸化性となる物質を含まない陽極水を通水することを特徴とする。
【0021】
請求項8の窒素化合物含有酸性液の処理方法は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記中和脱塩処理液のpHが5〜9であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、窒素化合物含有酸性液を、まず、アニオン交換膜を介するアルカリ溶液による中和透析処理で中和および脱塩処理することにより、後段の濃縮処理に有利な液に調整することができる(請求項1,5)。
即ち、前述の如く、窒素化合物含有酸性液を直接電気透析処理して、窒素化合物(MEA、NHなどのカチオン成分)を除去しようとしても、カチオン側で移動させる対象イオンが主にHイオンとなり、極めて非効率であるが、アニオン交換膜を用いた中和透析により、電気透析処理又は電気脱イオン処理の阻害因子となるHイオンが窒素化合物よりも十分少なくなる程度にまで中和することにより、後段の電気脱イオン装置又は電気透析装置で効率的に窒素化合物を除去することができるようになる。しかも、この中和透析により、Hイオンのみならず、Clイオンも脱塩除去されることにより、総イオン溶解量が少ない溶液とすることができ、後段の濃縮処理が容易となる。
【0023】
窒素化合物含有酸性液に直接アルカリを添加して中和すると、Naなどのアルカリ金属イオンが増加し、後工程の電気脱イオン装置又は電気透析装置において、カチオン成分移動量に占めるNa比率が上がり、窒素化合物の移動効率が低下するが、本発明によるアニオン交換膜を用いる中和透析処理は、窒素化合物含有酸性液に直接アルカリを添加して中和する方法とは異なり、中和処理液の総イオン量を上げることがない。
【0024】
また、中和脱塩処理液中の窒素化合物を蒸留濃縮する場合であっても、予め、中和、脱塩処理されているため、濃縮時に高酸性、高塩類濃度となることによる装置腐食の問題も解消される。
【0025】
本発明において、中和脱塩処理液中の窒素化合物の濃縮は、蒸留濃縮装置、電気脱イオン装置又は電気透析装置で行うことが好ましく、特に、電気脱イオン装置又は電気透析装置を用いることが好ましく、とりわけ電気脱イオン装置によることが濃縮効率の面で好ましい(請求項2,6)。
【0026】
中和脱塩処理液中の窒素化合物の濃縮を電気脱イオン装置又は電気透析装置で行う場合、この電気脱イオン装置又は電気透析装置の陽極室には、酸化性の物質又は陽極酸化されて酸化性となる物質を含まない水又は水溶液を陽極水として通水することが好ましい(請求項3,7)。即ち、電気脱イオン装置又は電気透析装置では、除去対象イオンとしては、カチオン成分だけではなく、アニオン成分の移動もあるため、濃縮室にClが入り込む。Clが陽極と接触すると陽極酸化反応を受けて、酸化力のある次亜塩素酸になり、イオン交換樹脂やイオン交換膜を劣化させる。Cl濃度が低い場合はその影響は少ないが、中和、脱塩処理後の中和脱塩処理液でもCl濃度は10〜20g/Lと高いため、例えば、濃縮室から流出した濃縮液と陽極室から流出した陽極水とを混合して陽極室に循環させると、濃縮室に濃縮されたClが陽極室で陽極酸化反応を受けて次亜塩素酸となり、イオン交換樹脂やイオン交換膜の劣化を促進して、装置の寿命を低下させる原因となる。同様に陰極水と濃縮液は混合して循環するためClが入っていることから、陽極水に混合して循環させると陰極水と濃縮液中のClが次亜塩素酸となる。
【0027】
従って、陽極室は隣接する脱塩室又は濃縮室とカチオン交換膜(バイポーラ膜であってもよい)により分離した上で、陽極水を循環する場合、濃縮液や他の室の流出液と混合することなく、陽極室のみで陽極水を循環して、陽極室に、酸化性の物質やClイオンのように陽極酸化されて酸化性となる物質が流入しないようにすることが好ましい。
【0028】
本発明において、窒素化合物含有酸性液の中和、脱塩処理は、得られる中和脱塩処理液のpHが5〜9程度となるまで行うことが好ましく、このようなpHとなるまで中和、脱塩処理を行うことにより、後工程の窒素化合物の濃縮処理における阻害物質を十分に除去した中和脱塩処理液を得ることができる(請求項4,8)。
【0029】
本発明は、特に原子力発電や火力発電の復水脱塩工程から排出されるコンデミ再生廃液の処理に有効であり、モノエタノールアミン含有希塩酸廃液等のコンデミ再生廃液に含まれる復水の防食剤由来のMEAやNH成分を、廃液中の酸成分や塩成分の濃縮による腐食の問題を引き起こすことなく、効率的に濃縮して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の窒素化合物含有酸性液の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明に係る窒素化合物の濃縮装置として好適な電気脱イオン装置の一例の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明に係る窒素化合物の濃縮装置として好適な電気脱イオン装置の他の例の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図4】比較例1で採用した電気脱イオン装置の構成を示す系統図である。
【図5】実施例1で採用した中和透析装置の構成を示す系統図である。
【図6】比較例2におけるアニオン交換処理の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の窒素化合物含有酸性液の処理装置および処理方法の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
なお、本明細書では、本発明で処理する窒素化合物含有酸性液が、酸として塩酸(HCl)を含み、このような窒素化合物含有酸性液をアルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和、脱塩処理する場合を例示して、本発明を説明するが、本発明で処理対象とする窒素化合物含有酸性液に含まれる酸は、塩酸に限らず、硫酸等の他の酸であってもよい。窒素化合物含有酸性液に含まれる酸が硫酸等の他の酸の場合、以下の説明において、ClイオンはSO2−イオン等の酸のHの対となるアニオンであり、また、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液以外のアルカリ溶液を用いた場合、以下の説明において、NaイオンはKイオン等のアルカリのOHの対となるカチオンである。
【0033】
図1は、本発明の窒素化合物含有酸性液の処理装置の実施の形態を示す系統図であり、この装置は、原水槽1、中和透析装置2、中継槽を兼ねた電気脱イオン装置4の被処理液循環槽3、電気脱イオン装置4、および処理水槽5で主に構成される。
【0034】
[窒素化合物含有酸性液]
本発明の処理対象となる窒素化合物を含有する酸性液としては、特に制限はないが、例えば火力発電所や加圧水型原子力発電所などにおいて、防食剤としてモノエタノールアミン(MEA)やモルホリンなどの有機アミンを添加した復水の脱塩装置(コンデミ)に用いられるカチオン交換樹脂を再生した廃液(以下、「コンデミ再生酸性廃液」と称す場合がある。)を挙げることができる。
【0035】
カチオン交換樹脂の再生には、塩酸や硫酸等の酸が用いられるため、このコンデミ再生酸性廃液には脱着した有機アミン(正確には有機アミンの酸塩)と再生薬品としての塩酸や硫酸などの酸のほか、微量の銅イオン、鉄イオン、また有機アミンの分解物であるアンモニアなどが含まれている。
【0036】
このようなコンデミ再生酸性廃液の有機アミン濃度やその他の水質成分濃度やpHは、その廃液の種類によって異なるが、例えば以下のような水質である。
【0037】
【表1】

【0038】
[中和、脱塩処理]
本発明においては、まず、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた一方の室に窒素化合物含有酸性液(以下「原水」と称す場合がある。)を通水すると共に、他方の室にアルカリ溶液を通水して原水を中和および脱塩する。
【0039】
この原水の中和、脱塩処理に用いる装置としては、アニオン交換膜を用いた中和透析装置(拡散透析装置)2が好適に使用される。
【0040】
図1は、原水の中和、脱塩処理に、中和透析装置(拡散透析装置)2を用いた例を示し、原水槽1内の原水は、ポンプPにより、プレフィルター11で微粒子成分が除去された後、内部がアニオン交換膜21で原水室22とアルカリ溶液室23とに仕切られた中和透析装置2の原水室22に導入される。ここでプレフィルター11は必要に応じて設けられるものである。一方、アルカリ溶液室23には、アルカリ溶液貯槽24から、ポンプPによりアルカリ溶液が導入される。
【0041】
このアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等の溶解性アルカリ化合物の水溶液を用いることができる。
【0042】
一般に、コンデミに用いられる樹脂比率はアニオン交換樹脂よりもカチオン交換樹脂の方が高く、コンデミ再生廃液としてはカチオン交換樹脂の再生酸性廃液よりも、NaOHを含むアニオン交換樹脂の再生廃液(以下「コンデミ再生アルカリ廃液」と称す場合がある。)の方が過剰となっている。
また、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混床樹脂を分離するために、16重量%のNaOH水溶液を用いてアニオン交換樹脂、16重量%NaOH水溶液、カチオン交換樹脂の比重差を利用して分離する技術を用いている現場では、別途、この分離に用いたアルカリ廃液が排出される。
このようにコンデミの再生現場では、アルカリ廃液が過剰に排出されるため、本発明においては、このようなコンデミ再生アルカリ廃液等のアルカリ廃液をアルカリ溶液として用いることもできる。
アルカリ溶液としては、更に他の施設から排出されるアルカリ廃液を用いてもよい。
【0043】
中和透析装置2では、原水室22に導入された原水中のClイオンがアニオン交換膜21を透過してアルカリ溶液室23に移動することにより脱塩され、一方、アルカリ溶液室23内のOHイオンがアニオン交換膜21を透過して原水室22に移動することにより原水が中和される。原水室22の流出液は原水槽1に返送され、原水は循環処理される。一方、アルカリ溶液室23からの流出液もアルカリ溶液貯槽24に返送されて循環される。
【0044】
このような中和透析装置2による中和、脱塩処理においては、次のような態様を採用することが好ましい。
【0045】
(1) アニオン交換膜21としては、耐酸性、耐アルカリ性に優れた膜を用いる。また、中和透析装置2の接液面も、耐腐食性に優れた材料で構成されていることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂でライニングしたものが好ましい。
【0046】
(2) ClイオンおよびOHイオンの透過移動速度を高めるために、アニオン交換膜面近傍の濃度分極を低減するべく、膜面流速を高めることが好ましく、具体的には、原水室22側およびアルカリ溶液室23側の膜面流速をそれぞれ0.1cm/sec以上、例えば1〜8cm/secとすることが好ましい。膜面流速が低いとClイオンおよびOHイオンの移動速度を速くすることができず、所望の中和脱塩処理液を得るために長時間を要するようになる。ただし、膜面流速を過度に高くすることは、装置構成上現実的ではない。このような膜面流速を得るために、原水ポンプPおよびアルカリ溶液ポンプPとしては、高流速送液が可能なダイヤフラムポンプ等を用いることが好ましい。
【0047】
(3) アルカリ溶液としては、原水の酸濃度よりも高いアルカリ濃度のものを用いることが好ましく、原水の酸濃度に対して、規定(N)値で1倍以上、特に2〜4倍程度のアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いることが好ましい。即ち、例えば、原水のHCl濃度が、1.2Nであれば、アルカリ溶液としては、1.2〜4.8N、特に2N程度のNaOH水溶液を用いることが好ましい。このアルカリ溶液のアルカリ濃度が低いと、効率的な中和を行えない。ただし、アルカリ溶液は、その取り扱い性等の面で、上記濃度以下とすることが好ましい。
従って、特にアルカリ溶液として、前述のコンデミ再生アルカリ廃液等の廃液を用いる場合、必要に応じてNaOH等のアルカリを添加してpH調整を行うことが好ましい。
【0048】
(4) 中和、脱塩処理は、得られる中和脱塩処理液(原水室22からの流出液)のpHが中性、例えば5〜9程度になった時点で終了し、得られた中和脱塩処理液は次の濃縮処理に供することが好ましい。
この中和脱塩処理液のpHが3未満では、中和、脱塩処理が不十分であり、濃縮処理に先立ち、中和、脱塩処理を行うことによる本発明の効果を十分に得ることができない。中和脱塩処理液のpHを過度に上げると、アルカリ溶液室23側からアニオン交換膜21を透過して原水室22側に移行するNaイオン量が増え(以下に記載するように、アニオン交換膜であっても若干量のカチオン成分の透過がある。)、後工程の濃縮処理における総イオン量が増加して非効率である。
【0049】
このpH管理の目的で、中和透析装置2の原水室22の流出配管に通液型pH計を設置して、原水室22の流出液のpHを監視し、このpH値が所定値に達したら、原水室22の流出液の送液を、原水槽1から電気脱イオン装置4の被処理液循環槽3に切り換えるようにしても良い。
【0050】
アニオン交換膜21であってもカチオン成分を透過することは一般的に知られており、上述のような中和、脱塩処理で、アルカリ溶液23側から原水室22へのカチオン成分(例えばNaOHのNaイオン)の移動が、また、原水室22側からアルカリ溶液室23への窒素化合物由来のカチオン成分の移動がある。
従って、原水の中和、脱塩処理に使用されたアルカリ溶液(以下、「アルカリ廃液」と称す場合がある)は、原水から透析したClイオンを含み、原水の中和(原水室へのOHイオンの透析)でpHが低下した弱アルカリ性の液であると共に、原水室22からアニオン交換膜21を透過した若干量の窒素化合物を含むものである。ただし、この窒素化合物濃度は低いことから、このアルカリ廃液は、触媒酸化装置等で窒素化合物を分解した後、酸で中和して放流することができる。
【0051】
なお、中和透析装置2における原水室22の原水流通方向とアルカリ溶液室23のアルカリ溶液の流通方向は、並流であっても向流であってもよいが、酸性液のアルカリ消費量とアルカリ性液の酸消費量に差をつけて、出口水質を中性に近づけるには、図1に示すように向流通水であることが好ましい。
【0052】
また、原水およびアルカリ溶液は一過式で通水することも可能であるが、一般的には、一過式の通水では十分な中和透析を行えないことから、図1に示すような循環通水とすることが好ましい。
バッチ式ではなく、連続処理を行う場合には、原水槽1に原水を導入すると共に、中和透析装置2の原水室22から返送された中和脱塩処理液を原水槽1に受け、この原水槽1から槽内液の一部を取り出して次の濃縮処理に供することが好ましい。
【0053】
図1において、中和透析装置2には、1枚のアニオン交換膜21により原水室22とアルカリ溶液室23とがそれぞれ1室ずつ形成されているが、中和透析装置2の構成はこれに何ら限定されず、例えば、アルカリ溶液室/アニオン交換膜/原水室/アニオン交換膜/アルカリ溶液室/アルカリ交換膜/原水室/アニオン交換膜/アルカリ溶液室というように、複数枚のアニオン交換膜により、複数の原水室とアルカリ溶液室とが交互に形成されたものであってもよい。
【0054】
本発明によれば、このような中和透析装置を用いた中和、脱塩処理により、原水を、前述の如く、pH5〜9、例えばpH6〜8(pH7程度)の中性に中和すると共に、好ましくはClイオン濃度が原水のClイオン濃度の30〜50%にまで低減した中和脱塩処理液を得ることができる。なお、この中和脱塩処理液中の窒素化合物を電気脱イオン装置又は電気透析装置で濃縮する場合、通電のための被処理液のイオン濃度を確保する上で中和脱塩処理液の窒素化合物濃度は1000mg/L以上、特に5000〜20000mg/L程度であることが好ましい。
【0055】
[濃縮処理]
原水の中和脱塩処理液は、次いで、液中の窒素化合物の濃縮処理に供する。
【0056】
この濃縮処理は、蒸留濃縮、或いは電気脱イオン装置又は電気透析装置などを用いて行うことができるが、特に、電気脱イオン装置又は電気透析装置を好適に用いることができ、とりわけ電気脱イオン装置を用いるのが好ましい。
【0057】
電気脱イオン装置又は電気透析装置は、陽極および陰極と、陽極と陰極との間に、イオン透過性の隔膜により区画された希釈室および濃縮室とを備え、陽極/陰極間に直流電圧を印加することにより、希釈室に導入された中和脱塩処理液中の有機アミンおよびNH等の窒素化合物由来のイオンと、Na、Clなどの酸、アルカリ由来のイオンをイオン透過性の隔膜を透過させて濃縮室内に分離回収する。
【0058】
図1は、窒素化合物の濃縮に電気脱イオン装置4を用いた例を示し、中和透析装置2の原水室22から流出した中和脱塩処理液は、電気脱イオン装置4の被処理液循環槽3を経て、ポンプPにより、プレフィルター12にて微粒子成分が除去された後、電気脱イオン装置4に導入される。ここでプレフィルター12は必要に応じて設けられるものである。
【0059】
図2,3は、本発明において、窒素化合物の濃縮装置として好適に用いられる電気脱イオン装置の一例の概略構成を示す模式的な断面図であり、図2,3において、同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0060】
図1の電気脱イオン装置4は、電極(陽極41、陰極42)の間に複数のアニオン交換膜(A膜)43およびカチオン交換膜(C膜)44を交互に配列して濃縮室45と希釈室46とを交互に形成したものである。
【0061】
この希釈室46には、カチオン交換体であるカチオン交換樹脂のみ、或いは、アニオン交換体であるアニオン交換樹脂とカチオン交換体であるカチオン交換樹脂が混合もしくは複層状に充填されている。なお、イオン交換体としては、イオン交換樹脂に限らず、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等を用いてもよい。希釈室46に充填されるアニオン交換体とカチオン交換体の比率(体積比)は、アニオン交換体:カチオン交換体=95〜0:5〜100とすることが好ましい。このように、カチオン交換体のみか、或いは、カチオン交換体とアニオン交換体との併用とする理由は、希釈室46内には、カチオン交換体が流路となるセル中に存在していれば、除去効率の向上を図ることができるとの理由による。
【0062】
また、濃縮室45と、陽極室47および陰極室48にも、必要に応じてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合して充填されている。イオン交換樹脂などのイオン交換体のほか、活性炭又は金属等の電気伝導体が濃縮室45、陽極室47および陰極室48に充填されていてもよい。電気伝導体としては、これら濃縮室、陽極室および陰極室における電気抵抗値を安定化させるため、被処理液又は希釈水の電気抵抗を低下させることができ、セルの通水圧力を高めないものであれば良く、特に制限はない。ただし、電極に直接触れることで酸化還元を受けやすい材料は不向きである。
【0063】
陽極室47には、アニオン交換樹脂を充填せず、充填する場合、カチオン交換樹脂のみとする。これは、アニオン交換樹脂が酸化劣化を受けやすいためである。
【0064】
電気脱イオン装置4の被処理液である中和脱塩処理液は、希釈室46に導入され、濃縮室45、陽極室47および陰極室48には純水が導入される。被処理液が希釈室46内を流通する間に、液中の有機アミン、NHイオン、Naイオン等のカチオン成分がカチオン交換膜(C膜)44を透過して濃縮室45内に移行し、カチオン成分が濃縮室45内に濃縮される。同様に、Clイオン等のアニオン成分がアニオン交換膜(A膜)43を透過して濃縮室45に移行し、濃縮室45内に濃縮される。
【0065】
濃縮室45から排出された濃縮液の一部は、濃縮率を高めるために、濃縮液循環槽49を経てポンプPにより濃縮室45の入口側に循環され、残部は産廃受槽(産業廃棄物受槽)13に貯留される。従って、濃縮室45には系外へ排出される濃縮液に相当する分の純水が補給水として導入される。
【0066】
濃縮室45から排出される濃縮液のうち、濃縮室45の入口側に循環される循環液量は、目的とする濃縮度や処理効率に応じて適宜決定されるが、通常、濃縮室45から排出される全濃縮液の1〜20%程度とすることが好ましい。
【0067】
希釈室46から排出される希釈水は、被処理液である中和脱塩処理液中のカチオン成分およびアニオン成分が分離除去されたものであり、処理水槽5を経てポンプPにより排出され、必要に応じて触媒分解等の排水処理に供される。また、この希釈水は、電気脱イオン装置(又は電気透析装置)の電極水および/又は濃縮室に導入する純水として用いることもできる。更に、中和透析装置2に用いるアルカリ溶液調製のための純水として用いることもできる。
【0068】
陽極室47および陰極室48から排出される電極室排水は、陽極水と陰極水を混和した後、必要に応じて適切な処理を行い、放流排出したり、電極室給水に再利用したりすることができるが、以下の理由により、陽極室47へのClイオンの侵入を避けるべく、電極水を循環使用する場合は、陽極水と陰極水とを混合せずに、陽極水のみを循環させることが好ましい。この陽極水は純水であってもよく、アルカリ溶液、例えば、0.1〜1N程度のNaOH等のアルカリ水溶液であってもよい。
【0069】
電気脱イオン装置又は電気透析装置においては、除去対象イオンとして、カチオンだけでなくアニオン成分も移動させるため、濃縮室にClイオンが入り込む。そのClイオンが陽極と接触すると陽極酸化反応を受けて、酸化力のある次亜塩素酸になり、イオン交換樹脂やイオン交換膜を劣化される。中和脱塩処理液中のCl濃度が低い場合はその影響は少ないが、本発明において中和、脱塩処理を行った中和脱塩処理液であっても、通常Cl濃度は10〜20g/Lと未だ高濃度である。このため、陽極室47とこれに隣接する濃縮室45又は希釈室46はカチオン交換膜(パイポーラ膜であってもよい。)で分離して、酸化性の物質や陽極酸化により酸化性となる物質の陽極室47への侵入を防止することが好ましいことから、陽極水についても、このような物質を含まないことが好ましく、このため、陽極室47には、このような物質を含まない、純水又はアルカリ溶液を供給し、陽極水を循環使用する場合には、陽極室のみで循環させることが好ましい。
【0070】
なお、図2は本発明における濃縮装置として好適な電気脱イオン装置の一例を示すものであって、本発明で用いる電気脱イオン装置は、何ら図示のものに限定されるものではない。
【0071】
例えば、濃縮室や希釈室の数や配置についても特に制限はなく、より多くの濃縮室および希釈室を設けても良く、また、図3に示す如く、濃縮室45および希釈室46を1室ずつ設けた電気脱イオン装置4Aであっても良い。この電気脱イオン装置4Aであっても、図2の電気脱イオン装置4と同様に、希釈室46に導入された中和脱塩処理液中の有機アミン、NHイオン、Naイオン等のカチオン成分がカチオン交換膜(C膜)44を透過して濃縮室45内に移行し、カチオン成分が濃縮室45内に濃縮される。同様に、Clイオン等のアニオン成分がアニオン交換膜(A膜)43を透過して濃縮室45に移行し、濃縮室45内に濃縮される。
【0072】
また、窒素化合物の濃縮装置としては、電気脱イオン装置ではなく、希釈室等にイオン交換体が充填されていないこと以外は電気脱イオン装置と同様の構成とされた電気透析装置を用いることもできる。
【0073】
電気透析装置および電気脱イオン装置では、イオン移動による同様の機構で濃縮が行われるが、以下の理由により、特に中和脱塩処理液中の除去対象イオン濃度が低い場合には、電気脱イオン装置を用いるほうが効率的である。
【0074】
即ち、被処理液と希釈水では電気伝導率が異なるため、電気透析装置を用いた場合は希釈室内に電流密度分布が起こり、抵抗の高い出口側で電流が流れにくくなる。その電流密度分布の緩和に、イオン交換樹脂等のイオン交換体の充填が有効である。また、被処理液中の除去対象イオン濃度が低い場合、電気透析ではイオン交換膜面のみが除去対象イオンの吸着サイトとなり、十分な除去効率が得られない。これに対して、電気脱イオン装置であれば、膜面だけではなく希釈室内に充填されているイオン交換樹脂等のイオン交換体も除去対象イオンの吸着サイトとなり、広範囲な領域で除去対象イオンを吸着することができるため、高効率な除去(希釈、濃縮)が可能となる。
【0075】
更に、窒素化合物の濃縮装置としては、蒸留濃縮装置を用いることもできる。この場合には、中和脱塩処理液を塩が析出しない程度に濃縮することが好ましい。
【0076】
なお、中和脱塩処理液中の窒素化合物を電気脱イオン装置又は電気透析装置で濃縮する場合、電気脱イオン装置又は電気透析装置の希釈室へ流入させる中和脱塩処理液の窒素化合物濃度が低くなると、電気脱イオン装置又は電気透析装置の効率が低下するため、中和脱塩処理液の窒素化合物濃度が1000mg/L以下になった場合は、処理を中断して中和脱塩処理液を触媒分解処理装置に供給して窒素化合物を分解するようにすることもできる。
【0077】
中和脱塩処理液中の窒素化合物が濃縮された窒素化合物濃縮液(電気脱イオン装置又は電気透析装置の濃縮室から排出される濃縮液)は、熱分解又は液中燃焼処理等により処理することができるが、それに先立ち、必要に応じて、この濃縮液を更に濃縮して、窒素化合物の濃度を高めても良い。この場合の濃縮手段としては特に制限はないが、蒸留濃縮装置、特に減圧蒸留濃縮装置を用いるのが濃縮効率の面で有利である。
【0078】
この濃縮液の濃縮の程度は、特に制限はないが、熱分解又は液中燃焼処理に供される濃縮液中の窒素化合物濃度が25重量%以上、例えば40〜95重量%程度となるように濃縮することが好ましい。なお、窒素化合物がモノエタノールアミンである場合、濃度が70重量%を超えると引火点を有する化合物となるため、その取り扱いの点から上限を70重量%とすることが好ましい。
【0079】
なお、中和脱塩処理液の蒸留濃縮又は濃縮液の更なる蒸留濃縮で得られる凝縮水は、電気脱イオン装置又は電気透析装置の電極室および/又は濃縮室に導入する純水として用いることができる。
【0080】
一方、中和脱塩処理液を電気脱イオン装置又は電気透析装置で濃縮した場合に得られる希釈水(電気脱イオン装置又は電気透析装置の希釈室から排出される希釈水)は、中和脱塩処理液中の窒素化合物、その他のイオン成分が分離除去されたものであるが、必要に応じて、この希釈水を更に触媒分解等で処理した後、中和、放流することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例、比較例および実験例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0082】
なお、以下において、原水としては、下記表2に示す水質のコンデミ再生酸性模擬廃液を用いた。
【0083】
【表2】

【0084】
また、以下において、中和透析装置による中和、脱塩処理は、原水およびアルカリ溶液の全量を循環通水することによって行われているが、本発明における中和、脱塩処理は何ら全量循環通水処理に限定されるものではなく、原水、アルカリ溶液の一部のみを循環通水するものであってもよく、また、全量を一過式で通水するものであってもよい。
また、電気脱イオン装置による濃縮処理においても、希釈水および濃縮液の全量を循環通水しているが、その一部のみを循環通水するものであってもよく、全量を一過性で通水するものであってもよい。電極水についても同様である。
【0085】
説明の便宜上まず比較例を挙げる。
【0086】
[比較例1]
コンデミ再生酸性模擬廃液を中和、脱塩処理することなく、直接電気脱イオン装置で処理する実験を行った。
【0087】
電気脱イオン装置としては、図3に示す構成のものを用いた。この電気脱イオン装置(Siemens社製MX)は、隔膜としてアニオン交換膜43とカチオン交換膜44を交互に備え、隔膜面積は各々0.75dmで、希釈室46、濃縮室45、陽極室47および陰極室48の容積は各々60mLである。
【0088】
アニオン交換膜43としては(株)アストム製アニオン交換膜「ネオセプタAHA」を、カチオン交換膜44としては(株)アストム製カチオン交換膜「ネオセプタCMB」を用いた。
また、希釈室46および濃縮室45には、それぞれ、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を等体積で混合したものを充填した。陽極室47および陰極室48にはカチオン交換樹脂のみを充填した。
カチオン交換樹脂としては三菱化学(株)製カチオン交換樹脂「SK1B」を用い、アニオン交換樹脂としては三菱化学(株)製アニオン交換樹脂「SA10A」を用いた。
【0089】
図4は、用いた電気脱イオン装置の通水系統図であり、図1,3に示す電気脱イオン装置と同一部材には同一符号を付してある。図4に示すように、ポンプPで濃縮液循環槽49内の濃縮液を濃縮室45に導入した後、濃縮液循環槽49に循環通水した。また、被処理液循環槽3内にコンデミ再生酸性模擬廃液を入れ、この廃液をポンプPで電気脱イオン装置の希釈室46に導入し、希釈室46からの希釈水は、被処理液循環槽3に返送して循環通水した。陽極室47の陽極水、陰極室48の陰極水も同様に、それぞれポンプP,Pにより、陽極水循環槽51と陽極室47、陰極水循環槽52と陰極室48を循環通水した。ただし、濃縮液と陰極水とは混合して循環通水してもよい。
【0090】
被処理液循環槽3内にはコンデミ再生酸性模擬廃液を3L入れ、500mL/hrの流量で希釈室46に通水し、一方、濃縮液循環槽49に濃縮液として超純水を、被処理液量3Lの1/5の0.6Lに入れ、100mL/hrの流量で濃縮室45に循環通水した。被処理液ポンプPの出口側には、孔径10μmのプレフィルター(保安フィルター)12を設け、被処理液中の微粒子成分を除去して、これが希釈室46に流入するのを防止した。
【0091】
陽極室47、陰極室48には超純水をそれぞれ75mL/hrの流量で循環通水した。
【0092】
濃縮液、電極水として用いた超純水は、栗田工業(株)小型連続再生式純水装置(クリテノン(登録商標)SH型)で製造した比抵抗値15MΩ・cm以上の超純水である。
この電気脱イオン装置には、直流電源装置(菊水電子工業(株)コンパクト可変スイッチング電源PAK35−10A)で2.5Aの定電流設定(電流密度3.3A/dm)で通電して処理を行った。
【0093】
この条件で、各々の室に循環通水を継続して行い、被処理液循環槽3内の希釈水のMEA濃度を経時的に測定し、MEA濃度(mg/L)と被処理液量3Lを掛け合わせたMEA量(mg)の処理前からの減少量を、カチオン交換膜面積と通水時間で割った量(g/hr/dm)を、MEA移動量として評価した。
【0094】
また、移動したMEA量(g/hr)に実験で用いたカチオン交換膜面積0.75dmを除した後、MEA分子量の61.08(g/mol)で除して、MEAモル移動量(mol/hr/dm)を求め、用いた電流量2.5A(C/sec)を、ファラデー定数96485(C/mol)で除した0.0932(mol/hr)で割ることにより、MEA移動の電流効率を算出した。
結果を表3に示した。
【0095】
[実施例1]
コンデミ再生酸性模擬廃液を、接液面がポリテトラフルオロエチレンでコーティングされた中和透析装置((株)アストム製)に通して中和、脱塩処理した後に、電気脱イオン装置で処理したこと以外は、比較例1と同様にして処理を行った。
この中和透析装置の系統図を図5に示す。図5において、図1に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0096】
この中和透析装置では、原水槽1内の被処理液をポンプPで原水室22に導入した後、原水槽1に循環通水する一方で、アルカリ溶液貯槽24内のアルカリ溶液をアルカリ溶液室23に循環通水するように構成されている。
【0097】
中和透析は、以下のように実施した。
アニオン交換膜21としては、耐酸、耐アルカリ性に優れた(株)アストム製アニオン交換膜「ネオセプタAHA」を用いた。
コンデミ再生酸性模擬廃液5Lを原水槽1に入れて原水室22に循環通水し、一方、アルカリ溶液としては、2NのNaOH水溶液(NaOH濃度7.3重量%、コンデミ再生酸性模擬廃液のHClモル濃度1.2Nに対して約1.7倍)を被処理液と等量の5L準備し、中和透析装置2のアルカリ溶液室23に導入し、アルカリ溶液貯槽24を経て循環通水した。
【0098】
原水循環ポンプPおよびアルカリ溶液循環ポンプPとしては、ダイヤフラムポンプを用い、原水室22およびアルカリ溶液室23の膜面流速がいずれも1cm/secとなるように通水した。
【0099】
原水ポンプPの出口側には、孔径10μmのプレフィルター(保安フィルター)11を設けて原水中の微粒子成分を除去した。
【0100】
この処理中に、原水槽1内の液pHを測定し、pHが7.8まで低下したときに、循環通水を停止し、原水槽1内の液5Lを電気脱イオン装置の被処理液として、比較例1と同様に処理し(ただし、濃縮液量は、被処理液量の1/5の1Lとした。)、同様にMEA移動速度とMEA移動の電流効率を求め、結果を表3に示した。
【0101】
また、原水であるコンデミ再生酸性模擬廃液の水質および中和脱塩処理液の水質と、中和、脱塩処理後のアルカリ溶液(アルカリ廃液)の水質を表4に示した。
なお、表4には、後掲の比較例2におけるアニオン交換処理水の水質を併記した。
【0102】
また、電気脱イオン装置における処理を17時間継続した後の電気脱イオン装置の被処理液循環槽内の希釈水のMEA濃度と、濃縮液循環槽内の濃縮液のMEA濃度、この値から求めた濃度倍率と産廃削減効果を調べ、結果を表5に示した。
【0103】
なお、中和透析装置のアルカリ溶液側には、コンデミ再生酸性模擬廃液から若干の窒素化合物の移行があるため、アルカリ廃液はコバルト触媒湿式酸化装置(栗田工業製)で分解後、中和して放流した。
【0104】
[実施例2]
実施例1において、電気脱イオン装置における通電量を4Aとし、電流密度を5.3A/dmとしたこと以外は同様にして処理を行い、同様にMEA移動速度とMEA移動の電流効率を求め、結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
【表4】

【0107】
【表5】

【0108】
表3より次のことが分かる。
比較例1では、pHが0.1以下でH濃度が大過剰のコンデミ再生酸性模擬廃液をそのまま電気脱イオン装置で処理したため、MEA移動の電流効率が非常に悪い結果となった。
これに対して、実施例1,2では中和透析でClを脱塩すると共に中和しているため、MEA移動速度が上がり、電流効率も著しく高い。
【0109】
また、表4より明らかなように、中和透析処理後は、Cl濃度が処理前の40%に削減することができており、中和しながら脱塩が可能であることが分かる。
【0110】
更に、表5に示されるように、中和透析後の中和脱塩処理液のMEA濃度12500mg/Lに対して、電気脱イオン装置の希釈水のMEA濃度は800mg/Lまで低減され、濃縮液のMEA濃度は72000mg/Lとなった。これは濃縮倍率で5.8倍となり、このような処理をせずにコンデミ再生酸性模擬廃液を産業廃棄物として排出した場合に比べ、産廃削減効果としては83%の削減率を得ることとなり、これを熱分解又は液中燃焼処理する場合の処理コストを大幅に低減することができる。
【0111】
[比較例2]
コンデミ再生酸性模擬廃液をアニオン交換処理してClの脱塩処理を行う実験を行った。
処理フローを図6に示す。
【0112】
アニオン交換樹脂5Lを充填したカラムに、コンデミ再生酸性模擬廃液を5L通水し、流出液をアニオン交換処理水として回収した(工程a)。その後、エアー押し出した後(工程b)、2NのNaOH水溶液を1L通水してアニオン交換樹脂を再生した後(工程c)、エアー押し出しし(工程d)、更に純水通水(洗浄)(工程e)を行った。工程b〜eの流出液は押出水として回収した。
【0113】
上記の工程a〜eを一度終えた後、再度、工程a〜eを行い、アニオン交換処理水、押出水を採取し、アニオン交換処理水は蒸留濃縮に供し、押出水は触媒酸化処理に供した。
【0114】
この処理におけるコンデミ再生酸性模擬廃液の水質と、アニオン交換処理水の水質と、工程bの流出液の水質を表6に示した。
【0115】
【表6】

【0116】
表6より、次のことが分かる。
アニオン交換処理では、中和透析に特有なNaのリークがなく、Cl濃度も54000mg/Lから16400mg/Lに低減することはできたが、アニオン交換樹脂中の表面細孔にMEA、NHが水溶液ごと吸着してしまうため、樹脂中に残された液をエアー押し出しした際に、これらの窒素化合物が検出された。つまり、工程bの最初の押出水のMEA濃度だけでも7600mg/Lとなってしまい、さらには、MEAはアニオン交換樹脂に残留するため、2NのNaOH再生液にも1500mg/L、純水洗浄時にも500mg/LのMEAが検出されており、後段の触媒酸化処理が高負荷となり経済的に合わないことが分かる。
【0117】
[実験例1]
実施例1において、20日間電気脱イオン装置における処理を継続し、20日後の電圧と陽極室の圧力損失を調べ、初期値に対する増加の程度を求めて結果を表7に示した。
【0118】
[実験例2]
実験例1において、陽極室に、Clイオンを含む濃縮液を混合して循環させたこと以外は同様にして処理を行い、同様に20日後の電圧と陽極室の圧力損失を調べ、初期値に対する増加の程度を求めて結果を表7に示した。
この実験例2では、陽極室で次亜塩素酸が発生するためイオン交換樹脂(特にアニオン交換樹脂)が劣化し、粒径が細かくなったイオン交換樹脂が濃縮液循環槽に流入してくる様子が見られた。
【0119】
【表7】

【0120】
表7の結果から次のことが分かる。
実験例2では、イオン交換樹脂表面が酸化劣化を受けて一部分解した樹脂が空隙を埋めることで陽極室の圧力損失が上がった上に、おそらくは、樹脂からのイオン交換基の脱落などによって電圧が上昇した。
一方、実験例1では、陽極室での酸化性物質の生成を防止した条件となっているため、実験例2のような劣化挙動は見られなかった。
【符号の説明】
【0121】
1 原水槽
2 中和透析装置
3 被処理液循環槽
4,4A 電気脱イオン装置
5 処理水槽
13 産廃受槽
21 アニオン交換膜
22 原水室
23 アルカリ溶液室
24 アルカリ溶液貯槽
41 陽極
42 陰極
43 アニオン交換膜(A膜)
44 カチオン交換膜(C膜)
45 濃縮室
46 希釈室
47 陽極室
48 陰極室
49 濃縮液循環槽
51 陽極水循環槽
52 陰極水循環槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素化合物を含有する酸性液の処理装置であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和および脱塩する中和脱塩装置と、
該中和脱塩装置で中和および脱塩された中和脱塩処理液中の窒素化合物を濃縮する濃縮装置と
を有することを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記濃縮装置が、蒸留濃縮装置、電気脱イオン装置および電気透析装置のいずれかであることを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理装置。
【請求項3】
請求項2において、前記濃縮装置が電気脱イオン装置又は電気透析装置であり、該電気脱イオン装置又は電気透析装置の陽極室に通水される陽極水が酸化性の物質又は陽極酸化されて酸化性となる物質を含まないことを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記中和脱塩処理液のpHが5〜9であることを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理装置。
【請求項5】
窒素化合物を含有する酸性液の処理方法であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和および脱塩する中和脱塩工程と、
該中和脱塩工程で中和および脱塩された中和脱塩処理液中の窒素化合物を濃縮する濃縮工程と
を有することを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、前記濃縮工程が、蒸留濃縮装置、電気脱イオン装置および電気透析装置のいずれかによる濃縮工程であることを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理方法。
【請求項7】
請求項6において、前記濃縮工程が電気脱イオン装置又は電気透析装置による濃縮工程であり、該電気脱イオン装置又は電気透析装置の陽極室に、酸化性の物質又は陽極酸化されて酸化性となる物質を含まない陽極水を通水することを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記中和脱塩処理液のpHが5〜9であることを特徴とする窒素化合物含有酸性液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−131210(P2011−131210A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262511(P2010−262511)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】