説明

立ち上り抑制椅子

【課題】 利用者Hである高齢者や痴呆症の方が簡易便器を備えた椅子を使用して排泄する場合や食事用のテーブル備えた椅子使用して食事をする場合において、椅子からの立ち上がりを抑制して転倒を防止する立ち上り抑制椅子を提供する。
【解決手段】 立ち上り抑制椅子1は、椅子部2の一対の前脚22の間にズリ落ち防止部材4を設けるとともに、一対の肘掛部25の左右に渡ってテーブル部5載置し、このテーブル部5の垂下に凹部61を形成した立ち上り抑制部材6を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は椅子又は車椅子に関し、より詳しくはシート部材又は、簡易トイレを備えた立ち上り抑制椅子。
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば高齢者や痴呆症の方(以下、利用者と言う)が排泄時に使用する椅子のとして、椅子の着座部の所定位置に着座部材として座りパットを有し、この座りパットの下方側に簡易便器を備えたものがある。この排泄時に使用する椅子型簡易便器は、パイプ脚体からなり、後部脚体に固着された左右一対の前部脚体とからなっている。また、開閉式便座は、蝶番にて回動自在に取着され、肘掛けを兼ねる取手は、左右の短取手に長取手を着脱可能となし、開閉式便座の上に載置する座りパットは、ほぼ中央部に消臭用細孔を穿設した平板状パット受の上に消臭材を収納するパット部材が接着テープなどにより着脱可能に固定された構造である。(特許文献1参照)
【0003】
また、上記利用者が食事をする時に食卓まで移動せずに食事をすることを目的とした椅子が提案されている。一般に、このような椅子は、床に載置される脚部と肘掛部と背もたれ部と利用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部の着座部の所定位置にクッション材からなるシート部材が設けられている。さらに肘掛部の左右に渡って載置されるとともにネジなどの固定手段によって着脱可能に取付けられる食事用のテーブルを備えた椅子がある。
【0004】
【特許文献1】 特開2000−271040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下、従来の椅子型簡易便器とテーブルを備えた椅子の問題点を図17及び図18に基づいて説明する。
図17は、従来の椅子型簡易便器に係る使用状態を示す側面図であり、図18は、従来のテーブルを備えた椅子に係る使用状態を示す側面図である。
以上に述べた従来の椅子は、図17に示すように利用者Hが簡易便器110を備えた椅子100を使用して排泄する場合、予期せぬ行動、例えば椅子100から突然、立ち上がったりすることがある。この際、汚物が散乱して、床や椅子及び衣類が汚れることがある。その都度、付添い人が汚物の片づけや床や椅子の消臭作業及び汚れた衣類の洗濯をしなくてはならず、こうした作業は、付添い人にとって肉体的、精神的及び経済的に大きな負担となっている。また、上記椅子100から立ち上がる際、利用者H自身が転倒して骨折や怪我をしたり、時には頭部を殴打して死に至る場合もあるなどの問題点があった。
【0006】
同様に図18に示すように利用者Hがシート部材120と食事用のテーブル130を備えた椅子200を使用して食事をする場合、食事中に突然、椅子200から立ち上がり椅子200をテーブル130ごと持ち上げることがある。この際、テーブル130上の図示しない食器や食物が床に散乱することがある。その都度、付添い人が散乱物の片づけや再度食事の準備をしなくてはならず、付添い人にとって上記同様の負担となっている。また、時にはお吸い物などで利用者Hや付添い人が火傷を負ったり、落下した食器の破損で怪我をすることなどの問題点もあった。また、上記同様の転倒事故は、車椅子の利用者でも発生している。上記問題点の対策として利用者Hを椅子100、200にベルトなどによって身体を拘束することもあった。近年、このような拘束が人権上、社会問題となってる。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑み、利用者Hが簡易便器110を備えた椅子100を使用して排泄する場合や食事用のテーブル130を備えた椅子200を使用して食事をする場合において椅子100、200からの立ち上がりを抑制して、上記問題点を解消した椅子及び車椅子を廉価に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の椅子は、
脚部と肘掛部と背もたれ部と利用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、この椅子部の前記着座部の所定位置に設けられて、利用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた椅子において、前記肘掛部の左右に渡って載置され、固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の使用に際して、利用者が椅子から立ち上がろうとしてもテーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0010】
また、上記の目的を達成するために、請求項2に記載の立ち上り抑制椅子は、
前脚及び後脚からなる脚部と左右の肘掛部と逃げ部を有する背もたれ部と利用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、この椅子部の前記着座部の所定位置に着脱自在に設けられて、利用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた椅子において、前記前脚の左右に渡ってズリ落ち防止手段が調整可能に設けられるとともに、前記肘掛部の左右に渡って載置され、固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を回動手段により回動可能に設けるとともに固定手段にて固定可能に設けたことを特徴とするものである。
【0011】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の使用に際して、利用者が椅子から立ち上がろうとしても前脚の左右に渡って設けられたズリ落ち防止手段が利用者の椅子からのズリ落ちを防止できる。さらに、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者のズリ落ちと立ち上りによる転倒とを防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、請求項3に記載の立ち上り抑制椅子は、
前記肘掛部の左右に渡って載置され、固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部と前記テーブル部の垂下に前記抑制手段とを固定又は、一体に形成したことを特徴とするものである。
【0013】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子は、テーブル部の垂下に抑制手段を固定又は、一体に形成したので本発明の係る椅子を廉価に製作可能となって、上記した問題点を解消することができる。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、請求項4に記載の立ち上り抑制椅子は、
前記抑制手段は、前記利用者が前記着座部に腰を掛けた状態において前記利用者の太腿部に位置し、この太腿部を覆うように、少なくとも1つ以上の凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の使用に際して、利用者を椅子に拘束することなく、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0016】
また、上記の目的を達成するために、請求項5に記載の立ち上り抑制椅子は、前記着座部材が簡易便器であることを特徴とするものである。
【0017】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の排泄使用に際して、利用者を椅子に拘束することなく、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0018】
また、上記の目的を達成するために、請求項6に記載の立ち上り抑制椅子は、
前記着座部材がシート部材であることを特徴とするものである。
【0019】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の食事使用に際して、利用者を椅子に拘束することなく、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0020】
また、上記の目的を達成するために、請求項7に記載の立ち上り抑制椅子は、前記テーブル部の前記固定手段がネジによる固定であることを特徴とするものである。
【0021】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の使用に際して、利用者が椅子から立ち上がろうとしてもテーブル部と椅子部がネジによって着脱が自在にできる。また、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0022】
また、上記の目的を達成するために、請求項8に記載の立ち上り抑制椅子は、
前記テーブル部の前記固定手段が一端に開口部と収納部とを一体に形成した弾性部材による固定であることを特徴とするものである。
【0023】
かかる構成によってなされた本発明の係る椅子の使用に際して、利用者が椅子から立ち上がろうとしてもテーブル部と椅子部との固定手段が一体に形成した弾性部材のみであるため着脱が容易にできるので着脱時間が短縮できる。また、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【0024】
また、上記の目的を達成するために、請求項9に記載の立ち上り抑制椅子は、前記椅子部が前輪及び後輪からなる車輪部と前記肘掛部と前記背もたれ部と利用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、この椅子部の前記着座部の所定位置に設けられて、利用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた車椅子であって、前記肘掛部の左右に渡って載置され固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を設けたことを特徴とするものである。
【0025】
かかる構成によってなされた本発明の係る車椅子の使用に際して、利用者が立ち上がろうとしても、テーブル部の垂下に設けた抑制手段によって利用者の大腿部の動きが抑制され、立ち上ることができなくなる。従って、車椅子利用者の立ち上りによる転倒を防止でき、上記した問題点を解消することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、前記テーブル部の垂下に抑制手段を設けたことにより、利用者の立ち上りを抑制でるので、立ち上がりがなくなる。従って、この際、汚物が散乱して、床や椅子及び衣類を汚すことがなくなり、付添い人の汚物の片づけや床や椅子の消臭作業及び汚れた衣類の洗濯などの作業を軽減できるので付添い人にとって肉体的、精神的及び経済的な負担を軽減できる効果が得られる。
【0027】
また、前記立ち上り抑制椅子によれば、利用者が椅子を使用して起こる転倒事故を未然に防止できるため骨折や怪我をすることなくなる。また、頭部を殴打することもなく死亡事故もなくすことができる効果も得られる。
【0028】
また、前記抑制手段は、利用者が着座部に腰を掛けた状態において、利用者の太腿部に位置し、この太腿部を覆うように、少なくとも1つ以上の凹部が形成したことにより、直接的な身体拘束をなくすことができるので、利用者と付添い人の双方にとって、人権上好ましく、さらに精神的な負担を軽減できるなどの効果も得られる。
【0029】
また、上記した上記した本発明に係る立ち上り抑制椅子よる全ての効果は、介護保険及び介護に係る負担を軽減でき、より、本質的な介護活動を促進しうる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の第1の実施の形態を図1乃至図12に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る立ち上り抑制椅子の斜視図であり、
図2は、同立ち上り抑制椅子の分解斜視図であり、
図3は、同立ち上り抑制椅子のテーブル部を裏側から見た斜視図であり、
図4(a)は、同立ち上り抑制椅子の使用状態を示す正面図であり、
図4(b)は、同立ち上り抑制椅子の使用状態を示す側面図であり、
図5は、図4(a)のA−A線に沿う断面図であり、
図6は、図4(b)のB−B線に沿う断面図であり、
図7は、図4(a)のY矢視部の拡大図であり、
図8は、図4(a)のZ矢視部の拡大図であり、
図9(a)は、同テーブル部を椅子部に取付ける前の状態を示す部分断面図であり、
図9(b)は、同テーブル部を椅子部に載置した状態を示す部分断面図であり、
図9(c)は、同テーブル部を椅子部に固定した状態を示す部分断面図であり、
図10(a)は、同テーブル部の裏面に同立ち上り抑制部材を固定したテーブル部の斜視図であり、
図10(b)は、同テーブル部の裏面に同立ち上り抑制部材を固定したテーブル部を裏側から見た斜視図であり、
図11(a)は、同テーブル部の裏面に立ち上り抑制部材を一体に成形にしたテーブル部の斜視図であり、
図11(b)は、同テーブル部の裏面に立ち上り抑制部材を一体に成形にしたテーブル部を裏側から見た斜視図であり、
図12は、同着座部材がシート部材である立ち上り抑制椅子の一部分解した斜視図である。
【0031】
図1において、立ち上り抑制椅子1は、椅子部2に着座部材3とズリ落ち防止部材4とを設けるとともにテーブル部5を載置し、このテーブル部5の垂下に抑制手段である立ち上り抑制部材6を備えて概ね構成されている、
【0032】
より詳細に説明するならば、図2及び図4(a)、(b)において、立ち上り抑制椅子1の椅子部2は、金属または樹脂からなるパイプを連結してなる椅子本体部20が構成されている。この椅子本体部20には、それぞれ一対の前脚22及び一対の後脚23からなる一対の脚部21が設けられている。脚部21の下端部には床面と接地する弾力部材からなる接地部材24がそれぞれ取付けられている。
【0033】
また、図2に示すように椅子本体部20には一対の前脚22の間にズリ落ち防止部材4が上下方向に調整可能に設けてある。このズリ落ち防止部材4は、複数のパイプで構成された本体部40と、この本体部40の上方に凸部41が凸設されている。また、図8に示すように本体部40の両端には前脚22の外方を上下に習動する一対のホルダ42が設けられている。また、一対のホルダ42には調整ネジ43がそれぞれ螺設されていて適宜な位置でズリ落ち防止部材4を固定できる。
【0034】
また、図2に示すように椅子部2には一対の肘掛部25が設けられている。さらに、椅子本体部20には逃げ部26Aを有する背もたれ部26と利用者H(図4参照)が腰を掛ける着座部27とが形成されている。着座部27には着座部材3である簡易便器30を装着するための着座部材3を装着するための装着口27Aが形成されている。
【0035】
また、簡易便器30は、汚物を収納するための容器31と便座部32からなり、この便座部32には開口32Aが穿設されている。また、便座部32には蓋体33がヒンジ34により開閉自在に取付けられている。装着口27Aの開口部の大きさは、容器31が収まるサイズに設定されている。尚、本発明に於いて、簡易便器30は、通常の市販品を使用している。
【0036】
また、装着口27Aの上方より容器31の底部を嵌め込むように装着すると、容器31より外形寸法が大きい便座部32が鍔の役目を果たして、便座部32の裏面32Bが着座部27に載置される。従って、この容器31は、着座部27の装着口27Aから着脱が自在にできるようになっている。
【0037】
また、背もたれ部26に形成された逃げ部26Aは、簡易便器30を使用する際に図4(b)に示すように蓋体33を開放しても椅子本体部20には干渉しないサイズを有している。また、蓋体33は、使用時に利用者Hが便座部32に腰を掛けても背もたれ部26より、外方に位置するため利用者Hと接触することがなく清潔に使用できる。
【0038】
また、図2及び図6に示すように椅子本体部20には一対の肘掛部25に渡ってテーブル部5が載置されている。このテーブル部5は、平面視略U字形状をなすテーブル本体部50の上面に凹部50Aが凹設されている。この凹部50Aの外周が土手状に形成されているので食事中にお吸い物などを溢しても、床にこぼれず汚すことを防げる。
【0039】
また、図3及び図6に示すようにテーブル本体部50の裏面50Bの前後にはネジ孔51aと内壁51bの端部に後述するテーブル部5の装着をスムーズに行うためのガイド斜面51cとが形成されたガイド片51が垂設されている。このガイド片51の内壁51b間に椅子本体部20の肘掛部25の下部を固定ネジ52で挟み込んでテーブル本体部50を椅子本体部20に固定する固定手段を構成している。
【0040】
また、図3及び図7に示すようにテーブル部5の垂下である裏面50Bには抑制手段をなす立ち上り抑制部材6が設けてある。この立ち上り抑制部材6の抑制部材本体60よりには利用者Hの大腿部L(図5参照)を覆うように凹部61が形成されている。この抑制部材本体60は、ヒンジ7を介して裏面50Bに回動可能に取付けられている。
【0041】
また、図2及び図3に示すように立ち上り抑制部材6の少なくとも一端には回動手段が設けてある。この回動手段は、テーブル部5の装着時に利用者Hの大腿部L(図5参照)にぶつからないように立ち上り抑制部材6を折りたたむためのものである。この回動手段である半円状のガイドプレート8にはガイド孔8aが円弧状に穿設されている。そして、この円弧が抑制部材本体60の回動範囲を決定している。さらに、ガイドプレート8の外方から抑制部材本体60を任意の位置に固定するための固定ネジ9がネジ穴60aに取付けられている。このネジ穴60aは、抑制部材本体60の回動範囲においてガイド孔8aとは位置が合致するようになっている。本実施例では抑制部材本体60の回動範囲を約90度に設定してあるが限定する必要はない。
【0042】
また、図5に示すように立ち上り抑制部材6は、使用状態において利用者Hが着座姿勢から立ち上ろうとした場合、着座位置の大腿部Lから立ち上り位置の大腿部L1に移動する。しかし、利用者Hが完全に立ち上る場合、膝Nを中心に大腿部Lをイ方向へ回転するように伸ばす必要がある。しかし、大腿部Lは、大腿部L1まで移動するも凹部61の端部61aで動きが抑制されて、これ以上伸ばすことができない。従って、利用者Hは、立ち上り抑制部材6の抑制を解除するまで着座姿勢を保つことになる。
【0043】
また、図4(a)及び図5に示すように利用者Hの大腿部Lと立ち上り抑制部材6の凹部61は、隙間Sを有する大きさに設定されている。さらに、凹部61の端部61aが丸みを帯びた形状を有しているので、利用者Hは、着座時及び立ち上り時に隙間Sと相まって大腿部Lに苦痛を伴うことがなく、安心して立ち上り抑制椅子1を使用することができる。
【0044】
また、図4(a)、(b)に示すように椅子本体部20に設けたズリ落ち防止部材4の高さを一対のホルダ42で調整し、凸部41と立ち上り抑制部材6の凸部62とが突き当たった所で調整ネジ43を固定すると大腿部Lを囲うようになる。これによって、ふくらはぎ部Mが後方に移動することができなくなり、利用者Hの椅子からのズリ落ちを防止できる。このことは、立ち上り抑制椅子1の試作の段階で実験によって証明されている。即ち、利用者Hがふくらはぎ部Mを後方にずらすことによって、利用者Hの腰が前方に移動し、利用者Hの体が小さい場合には立ち上り抑制部材6の下方に沈み込むようにズリ落ちていくことが分かった。そこで、このズリ落ち防止部材4を設けたことによってズリ落ちが殆ど皆無になった。
【0045】
また、図2及び図3に示すように立ち上り抑制部材6の少なくとも一端には回動手段が設けてある。また、図5に示すようにこの回動手段は、テーブル部5の装着時に利用者Hの大腿部Lにぶつからないように立ち上り抑制部材6を折りたたむためのものである。この回動手段である半円状のガイドプレート8にはガイド孔8aが円弧状に穿設されていて、この円弧が抑制部材本体60の回動範囲を決定している。さらに、ガイドプレート8の外方から抑制部材本体60を任意の位置に固定するための固定ネジ9が上記したネジ穴60aに取付けられている。このネジ穴60aは、抑制部材本体60の回動範囲においてガイド孔8aとは位置が合致するようになっている。本実施例では抑制部材本体60の回動範囲を90度に設定してあるが限定する必要はない。
【0046】
以上の構成において、立ち上り抑制椅子1の使用方法を説明する。
利用者Hが立ち上り抑制椅子1を椅子型簡易便器として使用する場合は、図2に示すように椅子部2の椅子本体部20に設けられた装着口27Aに簡易便器30を装着した後に蓋体33を開いて使用する。
【0047】
そして、図4(b)に示すように利用者Hが便座部32に着座した後に、図3に示す抑制部材本体60を二点鎖線で示した位置Cまで折りたたんだ状態で固定ネジ9を締め付けて立ち上り抑制部材6を固定しておく。この際、図9(a)に示すようにガイド片51のネジ孔51aと固定ネジ52は、途中まで締め付けておくと、後作業で固定ネジ52を探す手間が省けるので固定作業が容易になる。
【0048】
次に、図9を用いて上記した状態からテーブル部5を椅子部2に取付ける方法を説明する。まず、図9(a)に示すようにテーブル部5を椅子部2の肘掛部25の上方に位置した後に、テーブル本体部50に立設されたガイド片51の内壁51b間に肘掛部25を挟み込むように下降させていく。この時、ガイド片51の内壁51bにガイド斜面51cを形成するとスムーズに装着できる。
【0049】
また、図9(b)に示すように、テーブル本体部50に立設されたガイド片51の内壁51b間に肘掛部25を挟み込むように下降させていくと、裏面50Bが肘掛部25に突き当たって、椅子部2の肘掛部25上に載置される。その後に固定ネジ52で肘掛部25をテーブル本体部50で挟むように締め付けていく。
【0050】
そして、図9(c)に示すように、テーブル部5のガイド片51に固定ネジ52のストッパー座52aが突き当たるまで締め付けると、椅子部2とテーブル部5が固定される。
【0051】
また、図4(b)に示すように、テーブル部5は、椅子本体部20の前脚22と後脚23との内側に固定ネジ52が位置するため前後方向で規制される。又、上下方向の移動は、上記したように肘掛部25で規制されているため椅子本体部20からテーブル部5が外れることがない。
【0052】
また、上記したようにテーブル部5は、垂下に立設された立ち上り抑制部材6が回動手段で回動可能に構成されているが、本構成に限定することなく、図10(a)、(b)に示すように上記と同構成のテーブル部5の裏面50Bにガイド片51を設けるととともに凹部61を形成した立ち上り抑制部材6の抑制部材本体60を固定して取付けてもよい。この場合、立ち上り抑制部材6を回動するための回動手段が不要となり、立ち上り抑制部材6を備えた立ち上り抑制椅子1が廉価に製作できる。
【0053】
また、図11(a)、(b)に示すようにテーブル部5の本体部50の裏面50Bに立ち上り抑制部材6の抑制部材本体60に凹部61とガイド片51とを形成し、ウレタン樹脂などの弾性部材によって、一体に成形してもよい。この場合、上記と同様に立ち上り抑制部材6を回動するための回動手段が不要となるため廉価に製作できるばかりか、抑制部材本体60の凹部61が上記した実施の形態に比べ長くできる。従って、大腿部Lを全体に渡って覆うことができ利用者Hの椅子からの立ち上がりを今まで以上に抑制可能となった。また、特に回動手段を設けなくとも立ち上りを抑制する効果において差異はない。
【0054】
また、図12示すように上記した立ち上り抑制椅子1を食事用のテーブルを備えた椅子として使用する場合には着座部材3である簡易便器30(図2参照)を取り外して、シート部材10を装着口27A(図2参照)に装着することにより、食事用の椅子に簡単に替えることができる。
【発明の異なる実施の形態】
【0055】
次に、本発明の異なる実施の形態を説明する。
尚、上記した第1の実施の形態と同一構成部分には同一符号を付して詳細な説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
以下、本発明に係る異なる実施の形態を図13乃至図16に基づいて説明する。
図13は、本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を外した状態を示す斜視図であり、
図14は、同立ち上り抑制椅子のテーブル部を裏側から見た斜視図であり、
図15は、同固定手段の図4(b)のB−B線に相当する断面図であり、
図16(a)は、同テーブル部を椅子部に取付ける前の状態を示す部分断面図であり、
図16(b)は、同テーブル部を椅子部に載置した状態を示す部分断面図であり、
図16(c)は、同テーブル部を椅子部に固定した状態を示す部分断面図である。
【0056】
図13において、立ち上り抑制椅子1は、椅子部2と着座部材3である簡易便器30と椅子部2にズリ落ち防止部材4を設けるとともにテーブル部5が椅子本体部20の左右の肘掛部25に渡って載置される。このテーブル部5の垂下に抑制手段である立ち上り抑制部材6を備えて構成されている点は上記した第1の実施の形態と同様である。
【0057】
図14に示すように、テーブル部5にはテーブル本体部50の裏面50Bに立ち上り抑制部材6が設けられている。この立ち上り抑制部材6両端には回動手段であるガイドプレート8が取付けられている点は上記した第1の実施の形態と同様である。また、テーブル本体部50の裏面50Bには固定手段であるホルダ10が複数のネジ11によって取付けられている。
【0058】
上記したホルダ10は、プラスチックなどの弾性部材からなり、図15及び図16(a)に示すように、断面略T字形状を有し、一端に開口部であるスリ割り10aとこのスリ割り10aに連なる上部に円形に穿孔された装着部10bとが一体に形成されている。また、スリ割り10aの下部内端にはガイド斜面10cが形成されている。その他の構成は、上記した第1の実施の形態と同様である。
【0059】
以上の構成において、テーブル部5と椅子本体部20の肘掛部25との装着の方法について図16を用いて説明する。
まず、図16(a)に示すようにホルダ10を備えたテーブル部5を椅子部2の肘掛部25の上方に位置した後に下降させ、肘掛部25の上にホルダ10のガイド斜面10cを載置する。
【0060】
次に、図16(b)に示すように、肘掛部25に載置されたホルダ10を備えたテーブル部5を強く押し続けると部材の弾性特性によって、ホルダ10は、装着部10bを中心として肘掛部25を挟み込むようにのスリ割り10aが広げられる。
【0061】
そして、図16(c)に示すように、テーブル部5をさらに下方に押し続けると、ホルダ10は、弾性反力によって元の形状に戻って装着部10bと肘掛部25とが嵌合し、テーブル部5が椅子部2に固定される。
【0062】
また、図13に示す椅子本体部20の脚部21である前脚22と後脚23内にホルダ10が位置するためにテーブル部5は、前後方向で規制されるとともに装着部10bと肘掛部25との嵌合によって上下方向の移動も規制されることになる。そのためテーブル部5が椅子本体部20から外れることがない。また、図示しないが本実施例のホルダ10は、図10及び図11に示したテーブル部5のガイド片51の代わりに取付けても上記と同様に使用できることは言うまでもない。
【0063】
また、上記した実施形態は、いずれも食事用の椅子又は、椅子型簡易便器として説明しているが特に図示しないものの上記したテーブル部の固定手段及び肘掛部と同様の構造を備えていれば椅子に限らず車椅子へも適用されることはさらに言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の斜視図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の分解斜視図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る同立ち上り抑制椅子のテーブル部を裏側から見た斜視図。
【図4】(a)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の使用状態を示す正面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚部と肘掛部と背もたれ部と使用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、該椅子部の前記着座部の所定位置に設けられて、使用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた椅子において、前記肘掛部の左右に渡って載置され固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を設けたことを特徴とする立ち上り抑制椅子。
【請求項2】
前脚及び後脚からなる脚部と左右の肘掛部と逃げ部を有する背もたれ部と使用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、該椅子部の前記着座部の所定位置に着脱自在に設けられて、使用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた椅子において、前記前脚の左右に渡ってすり抜け防止手段が調整可能に設けられるとともに、前記肘掛部の左右に渡って載置され、固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を回動手段により回動可能に設けるとともに固定手段にて固定可能に設けたことを特徴とする立ち上り抑制椅子。
【請求項3】
前記肘掛部の左右に渡って載置され、固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部と前記テーブル部の垂下に前記抑制手段とを固定又は、一体に形成したことを特徴とする請求項1に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項4】
前記抑制手段は、前記使用者が前記着座部に腰を掛けた状態において前記使用者の太腿部に位置し、該太腿部を覆うように、少なくとも1つ以上の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項5】
前記着座部材が簡易便器であることを特徴とする請求項1から請求項4に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項6】
前記着座部材がシート部材であることを特徴とする請求項1から請求項4に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項7】
前記テーブル部の前記固定手段がネジによる固定であることを特徴とする請求項1から請求項6に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項8】
前記テーブル部の前記固定手段が一端に開口部と収納部とを一体に形成した弾性部材による固定であることを特徴とする請求項1から請求項6に記載の立ち上り抑制椅子。
【請求項9】
前記椅子部が前輪及び後輪からなる車輪部と前記肘掛部と前記背もたれ部と使用者が腰を掛ける着座部とを有する椅子部と、該椅子部の前記着座部の所定位置に設けられて、使用者が腰を掛けて使用する着座部材とを備えた車椅子であって、前記肘掛部の左右に渡って載置され固定手段にて着脱可能に固定されるテーブル部とを備え、前記テーブル部の垂下に抑制手段を設けたことを特徴とする請求項2から請求項8に記載の立ち上り抑制椅子。

【図4】(b)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の使用状態を示す側面図。
【図5】図4(a)のA−A線に沿う断面図。
【図6】図4(b)のB−B線に沿う断面図。
【図7】図4(a)のY矢視部の拡大図。
【図8】図4(a)のZ矢視部の拡大図。
【図9】(a)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に取付ける前の状態を示す部分断面図。
【図9】(b)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に載置した状態を示す部分断面図。
【図9】(c)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に固定した状態を示す部分断面図。
【図10】(a)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部の裏面に同立ち上り抑制部材を固定したテーブル部の斜視図。
【図10】(b)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部の裏面に同立ち上り抑制部材を固定したテーブル部を裏側から見た斜視図。
【図11】(a)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部の裏面に立ち上り抑制部材を一体に成形にしたテーブル部の斜視図。
【図11】(b)本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部の裏面に立ち上り抑制部材を一体に成形にしたテーブル部を裏側から見た斜視図。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の着座部材がシート部材である立ち上り抑制椅子の一部分解した斜視図。
【図13】本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を外した状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の立ち上り抑制椅子のテーブル部を裏側から見た斜視図。
【図15】本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子の固定手段の図4(b)のB−B線に対応する断面図。
【図16】(a)本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に取付ける前の状態を示す部分断面図。
【図16】(b)本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に載置した状態を示す部分断面図。
【図16】(c)本発明の異なる実施の形態に係る立ち上り抑制椅子のテーブル部を椅子部に固定した状態を示す部分断面図。
【図17】従来の椅子型簡易便器に係る使用状態を示す側面図。
【図18】従来のテーブルを備えた椅子に係る使用状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0065】
1 立ち上り抑制椅子
2 椅子部
3 着座部材
4 ズリ落ち防止部材
5 テーブル部
6 立ち上り抑制部材
7 ヒンジ
8 ガイドプレート
8a ガイド孔
9 固定ネジ
10 ホルダ
10a スリ割り
10b 装着部
10c ガイド斜面
20 椅子本体部
21 脚部
22 前脚
23 後脚
24 接地部材
25 肘掛部
26 背もたれ部
26A 逃げ部
27 着座部
27A 着座部材装着孔
30 簡易便器
31 容器
32 便座部
32A 排泄開口
32B 裏面
33 蓋体
34 ヒンジ
40 本体部
41 凸部
42 一対のホルダ
43 調整ネジ
50 テーブル本体部
50A 凹部
50B 裏面
51 ガイド片
51a ネジ孔
51b 内壁
51c ガイド斜面
52 固定ネジ
60 抑制部材本体
60a ネジ穴
61 凹部
H 利用者
L、L1 大腿部
N 膝
S 隙間
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−43374(P2006−43374A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249351(P2004−249351)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(504328141)パワーメディカル株式会社 (1)
【出願人】(504328130)社会福祉法人白十字会 (1)
【Fターム(参考)】