説明

立体基板上に透明樹脂構造体を形成させる方法

【課題】立体基板上に透明樹脂構造体を形成する場合に、寸法精度よく透明樹脂構造体を形成することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】立体基板上に、紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型透明性樹脂組成物を載置した後、フォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより、該樹脂組成物を硬化させる工程と、未露光部分を除去することにより硬化された樹脂構造体を形成させる工程とを備えることを特徴とする立体基板上に透明性樹脂構造体を形成する方法を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い形状精度で、光導波路、マイクロレンズ,マイクロプリズム,マイクロ流体デバイス等の微細な透明樹脂構造体を立体基板上に形成させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体基板上に、光学部品や光学素子等の微細な透明樹脂構造体を高い形状精度で形成するための方法として、ナノインプリント法が知られている。
【0003】
ナノインプリント法は、基板上に樹脂を載置し、基板上で該樹脂を流動又は軟化状態にして所定の形状を有する精密型を押し当てて形状を付与(インプリント)する方法であり、樹脂の硬化方法により、熱ナノインプリント法と、光ナノインプリント法とに大きく分けられる。
【0004】
熱ナノインプリント法は、液状の熱硬化性樹脂や、常温では固体であるが加熱により軟化する熱可塑性樹脂を用いる。熱硬化性樹脂を用いる場合は、基材上に塗布された液状の熱硬化性樹脂に金型を押圧接触させた状態で加熱硬化させることにより形状を付与(インプリント)し、また、熱可塑性樹脂を用いる場合には、基材上に載置された、加熱により軟化又は溶融された状態の樹脂に金型を押圧接触させた後、常温まで冷却することにより、形状が付与される。
【0005】
一方、光ナノインプリント法は、基材上に塗布された紫外線等の光で硬化される液状の光硬化性樹脂に、石英等の高UV透過性ガラスからなる透明型を押圧接触させた後、光を照射することにより光硬化性樹脂を硬化させて形状を付与する。
【0006】
光ナノインプリント法では、通常、光硬化が常温で進むために、成形サイクルが短く生産性が良いという長所を持っている。しかしながら、離型時に液状の未硬化樹脂が型に付着し、この未硬化樹脂が硬化した樹脂成形体に再付着して、形状不良により品質歩留まりが低下するという問題があった。また、型が石英等を加工して作製されるため、型コストが高くなるという問題があった。
【0007】
このような問題点を解決する方法として、熱ナノインプリント法と光ナノプリント法を組み合わせた、例えば、特許文献1に記載されたような方法が知られている。具体的には、厚膜の永久成形体用レジスト材料(例えば、MicroChem社製の商品名NANO SU−8等)を用いることにより、このレジスト材料の、常温では固形であり、加熱することにより低粘度化し、UV照射することにより硬化する特性を利用している。具体的には、基材上に塗布されて形成された低粘度状態の上記レジスト材料に、熱ナノインプリント法により型形状を転写した後、レジスト材料を冷却して再固形化させて離型し、その後、必要部分だけをフォトマスクを介したUV露光によって選択硬化させ、現像によって硬化部のみを残して構造体を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−200577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたような方法を用いて立体基板上に構造体を形成する場合、次のような問題があった。
【0009】
特許文献1に記載されたような方法を用いて構造体を形成する場合、基材上の凹部にレジスト材料を充填し、フォトマスクを介したUV露光によって所定の領域のみを選択硬化させる場合、本来硬化させたくない部分であるフォトマスクされた領域に硬化される部分が発生することがあった。特にレジスト材料が充填される凹部の壁面が傾斜面であったり、結晶異方性エッチングの手法を用いて形成された傾斜面を有するようなシリコン基材を用いたりする場合、このような問題が特に発生しやすかった。そして、このような現象により、樹脂構造体が精度よく得られず、形成される樹脂構造体にバリ等が生じることもあった。特には、形成する樹脂構造体の厚みが厚い場合や、基板に平滑性の高い斜面が多数形成されている場合には、このような現象が頻繁に生じるために、樹脂構造体の形状精度を著しく低下させる原因になっていた。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決すること、すなわち、立体基板上に透明樹脂構造体を形成する場合に、寸法精度よく透明樹脂構造体を形成することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、基材上の凹部に紫外線硬化性材料を充填し、フォトマスクを介したUV露光によって所定の領域のみを選択硬化させる場合に、フォトマスクされた領域に意図しない硬化される部分が発生する理由を検討した。そして、以下のように考えた。
【0012】
すなわち、基材上に形成された、壁面が傾斜面であるような凹部に紫外線硬化性材料を充填し、フォトマスクを介したUV露光によって所定の領域のみを選択硬化させる場合、図1(a)に示すように、照射光1が傾斜面2において反射して、さらに、反射された紫外光が樹脂層3と空気層との界面において反射することにより、破線矢印に示すようなフォトマスク4でマスキングされた領域にまで紫外光が届くことがあった。この場合、図1(b)に示すように、フォトマスク4によりマスキングされた部分においても硬化が生じ、意図しない硬化部分5が生じる。特に、光導波路中に、45°ミラーを形成するための結晶異方性エッチングの手法を用いて形成されるような傾斜面は、通常、{111}面、{100}面、{110}面等の低指数結晶面から形成されているために、特に、平滑性が高く、光反射性が高いものになるために、このような問題が生じやすかった。これは、傾斜面がミラーとして作用するためにより照射光をより反射させやすいためであると考えられる。このような検討に基づき、本発明者らは以下の手段により、上記課題を解決するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の立体基板上に透明樹脂構造体を形成する方法は、立体基板上に、紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型透明性樹脂組成物を載置した後、フォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより、該樹脂組成物を硬化させる工程と、未露光部分を除去することにより硬化された樹脂構造体を形成させる工程とを備えることを特徴とする。このような構成によれば、紫外線硬化型透明性樹脂組成物にフォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光する際に、紫外線吸収剤が反射する紫外光を吸収することにより、フォトマスクした領域に紫外光が届いて硬化されることによる形状精度の低下を抑制することができる。
【0014】
また、前記紫外線吸収剤としては、光増感剤であることが、形成される透明性樹脂構造体の透明性を低下させない点から好ましい。
【0015】
また、前記樹脂組成物が、透明性樹脂成分としてナフタレン型エポキシ樹脂を含有する場合には、ナフタレン型エポキシ樹脂自身が紫外線吸収効果を発揮することにより、さらに、形状精度の低下を抑制することができる点から好ましい。
【0016】
また、前記立体基板上のフォトマスクを介して選択露光される領域に、斜面を有する場合には、より高い形状精度の低下を抑制する効果を発揮しうる点から好ましい。
【0017】
また、立体基板上に、常温で固体であり、加熱により溶融又は軟化する紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物を載置した後、加熱することにより該樹脂組成物を溶融又は軟化させた状態で所望の転写形状を有する型を押圧接触させる工程と、前記押圧接触させたまま前記樹脂組成物が再固形化する温度にまで冷却する工程と、再固形化された前記樹脂組成物から前記型を離型することにより一次成形体を形成する工程と、前記一次成形体にフォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより、前記一次成形体を紫外線硬化させる工程と、未露光部分を除去することにより樹脂構造体を形成させる工程とを備え、
前記樹脂組成物が、紫外線吸収剤を含有することがさらに好ましい。このような方法によれば、より複雑な形状の樹脂構造体を精度よく形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、立体基板上に載置された紫外線硬化型透明性樹脂組成物に、フォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより硬化させる際に、基板表面等で反射する光が紫外線吸収剤により吸収されるために、フォトマスクした領域に光が届いて硬化されることによる形状精度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例として、図2(a)〜(c)に示すような、光導波路を備える光回路基板10の製造を詳細に説明する。
【0020】
図2(a)は、光回路基板10の上面図、図2(b)は光回路基板10のB−B面の断面図、図2(c)は光回路基板10のC−C面の断面図である。
【0021】
図2(a)〜(c)中、20はシリコン基板であり、シリコン基板20には光導波路31が形成される溝32が形成されている。31は光導波路、31aは光導波路31を構成するコア部、31bは光導波路31を構成する下クラッド部、31cは光導波路31を構成する上クラッド部、36はシリコン基板1表面に形成された電極である。また、シリコン基板20に形成された溝には、45°ミラー部33が形成されている。
【0022】
光回路基板10においては、図2(b)中の破線矢印に示すように光導波路31を伝わってきた光が、45°ミラー部33で光軸を90°変換されて、シリコン基板20表面の電極36に実装される図略の光電変換素子に入射するように構成されている。
【0023】
このような光回路基板10の製造工程を図3(a)〜(e)を参照して説明する。
【0024】
はじめに、図3(a)に示すような、溝32が形成されたシリコン基板20を用意する。シリコン基板20に形成された溝32はシリコン基材をエッチングすることにより形成される。溝32の端部には、図示しないが、図1(b)に示したような45°ミラー部33を形成するための斜面が、シリコン結晶のエッチング速度の違いを利用した異方性エッチングにより、形成されている。
【0025】
また、シリコン基板20表面には、予め回路36が形成されている。また45°ミラー部分33が形成される斜面には、図2(b)に示すように、光の反射率を高めるために、通常、金が成膜されている。なお、使用する波長によっては、45°ミラーに金を蒸着しなくてもよい。
【0026】
光回路基板10の製造においては、はじめに、図3(a)に示すように、シリコン基板20に形成された溝32に、予め調製された紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型透明性樹脂組成物のワニスが充填される。なお、ワニスの充填は、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等のコーティング方法による塗布や、ディスペンサやインクジェットによる滴下方法を用いることができる。
【0027】
次に、充填されたワニスを、樹脂組成物中の光重合開始剤が失活しない温度範囲で加熱して溶媒を揮発乾燥させることにより、溝32に紫外線硬化性樹脂組成物からなる未硬化樹脂層41が形成される。
【0028】
そして、未硬化樹脂層41を加熱溶融させた後、図3(b)に示すように、型39を押圧接触させて、コア用溝37のエンボス成形を、例えば、温度90℃、押圧力 約0.74MPa、約5分等の条件で行う。このとき、シリコン基板20の上に溢れた紫外線硬化性樹脂組成物が電極36を覆うようになる。型39の材質は特に限定されないが、Ni電鋳型のような金型や、石英、シリコン等から形成される型等が用いられる。
【0029】
続いて、押圧接触状態を保持したまま、常温程度にまで冷却した後、図3(c)に示すように、紫外線硬化性樹脂組成物が再固形化した状態で離型される。この工程により、未硬化の状態の一次成形体41′が形成される。
【0030】
次に、図3(d)の工程のように、フォトマスク42により一次成形体41´をマスキングして、マスキング開口部分42aに紫外線を照射することにより、マスキング開口部分42aに対応する部分を選択硬化させる。照射された紫外線は、マスキング開口部に垂直に入射するが、一部の紫外線は、斜面32a、32bや、図略の45°ミラー部等のような傾斜面において反射される。
【0031】
ここで、反射された紫外線は、図1(a)に示したように一次成形体からなる樹脂層と空気層との界面においてさらに反射されることにより、フォトマスクによりマスキングされて硬化させたくない部分にまで届くことがある。この場合には、マスキングされた部分が硬化されるために、不要な硬化部分が形成されたり、寸法精度が低下したりするおそれがある。
【0032】
本実施形態の方法によれば、紫外線硬化型透明性樹脂組成物に紫外線吸収剤を含有させているために、反射された光が、マスキングされて本来硬化を意図していない部分にまで届く前に、樹脂組成物中の紫外線吸収剤により吸収される。このことにより、マスキングされた部分は硬化されなくなり、マスクパターンに忠実な硬化を実現することができる。
【0033】
そして、最後に、図3(e)の工程のように、現像することにより未露光部分の紫外線硬化型透明性樹脂組成物を除去する。これにより、例えば、電極36を覆っていたような紫外線硬化型透明性樹脂組成物が除去される。この結果、シリコン基板20上に、樹脂成形体である光導波路の下クラッド部31bが形成される。そして、形成される下クラッド部31bは、マスクパターンに忠実な選択露光により形成されているために、寸法精度が高いものである。
【0034】
そして、図示しないが、下クラッド部31b上に形成されるコア用溝37にコア用樹脂(光硬化性樹脂)を充填、及び硬化させてコア31aを形成し、最後にコア31aの上に上クラッド樹脂(光硬化性樹脂)を塗布及び硬化させて上クラッド部31cを形成することにより、図2(a)〜(c)に示したような光導波路31が形成された光回路基板10が得られる。
【0035】
次に、上記工程において用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物について詳しく説明する。
【0036】
本発明で用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物には、樹脂形成成分として、紫外線照射により硬化されることにより、透明性の樹脂を形成する紫外線硬化型化合物が含有される。このような紫外線硬化型化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物;フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物;ナフタレン骨格型エポキシ化合物;ビフェニル型エポキシ化合物等のエポキシ樹脂やベンゼン環を有するオキセタン樹脂等が挙げられる。これらの中では、透明性に優れている点から脂環式エポキシ化合物が好ましく用いられる。また、ナフタレン骨格型エポキシ化合物やビフェニル型エポキシ化合物のような2つ以上の芳香環を有するエポキシ化合物は、得られる樹脂自身が高い紫外線吸収作用を示す点からより好ましい。これらは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
また、本発明で用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物としては、固体エポキシ化合物と液状エポキシ化合物とを所定の比率で含有し、且つ、加熱により軟化又は溶融する、常温で固体の紫外線硬化型透明性樹脂組成物であることが特に好ましい。このような、紫外線硬化型透明性樹脂組成物は、固体エポキシ化合物と液状エポキシ化合物を所定の割合で溶媒に溶解し、さらに光重合開始剤を配合することにより得られるワニスを乾燥して溶媒を除去することにより得られる。
【0038】
エポキシ化合物は、タイプや分子量(繰り返し単位)等により、常温で液状のものと固体のものが存在する。常温で液状、または常温で固体のエポキシ化合物を溶媒中で、所定の配合比で配合し、さらに、光重合開始剤を配合することにより得られるワニスを乾燥して溶媒を除去することにより得られる樹脂組成物においては、前記2種のエポキシ化合物の配合比を調整しながら分子レベルで混合することにより、溶融又は軟化する温度を比較的自由に制御することができる。
【0039】
このような常温で固体又は液状のエポキシ化合物は、常温で固体又は液状である限り、その種類は特に限定されない。また、各エポキシ化合物のエポキシ基数としては、一分子中に2個以上であれば特に限定されない。
【0040】
これらの中では、固体の脂環式エポキシ化合物と液状の脂環式エポキシ化合物との組み合わせが好ましく用いられる。
【0041】
また、特に、光導波路のような光学用途に用いる場合には、屈折率が互いに異なる透明性の固形エポキシ化合物と透明性の液状エポキシ化合物とを配合してなる樹脂組成物を用いることが好ましい。この場合の組み合わせとしては、例えば、芳香環を有するために高い屈折率を有するビスフェノール型エポキシ化合物と、低い屈折率を有する脂環式エポキシ化合物との組み合わせは、配合比を適宜調整することにより、所望の屈折率の透明樹脂成形体が得られる点から好ましい。例えば、光導波路のクラッドとして用いる場合には、屈折率の低い脂環式エポキシ化合物の割合を高めることにより、低屈折率のクラッドが得られる。
【0042】
液状エポキシ樹脂と固体エポキシ樹脂の配合割合は、目的や組み合わせるエポキシ化合物の種類に応じて適宜調整されるが、例えば、固体エポキシ化合物/液状エポキシ化合物として、95/5〜40/60(質量比)、さらには、80/20〜50/50であることが好ましい。
【0043】
また、本発明で用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物には、樹脂成分として、フェノキシ樹脂をさらに配合することが好ましい。フェノキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物とエピクロルヒドリンとから合成される、エポキシ基を持つポリヒドロキシポリエーテルであり、分子中の水酸基により架橋可能な熱可塑性樹脂である。紫外線硬化型透明性樹脂組成物に、フェノキシ樹脂を配合することにより、脆性が低減して離型時等におけるクラッキングや欠けの発生を抑制することができる。これにより、露光及び現像時のパターン欠けを防止することができる。また、表面タック性が低減することにより、離型性がさらに向上するために、基材との密着性も向上させることができる。
【0044】
前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、40000〜70000程度のものが好ましく用いられる。このようなフェノキシ樹脂の具体例としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製の商品名エピコート1256(ビスフェノールA型でMw約5万)、東都化成(株)製の商品名フェノートYP−50(ビスフェノールA型でMw約7万)等が挙げられる。
【0045】
フェノキシ樹脂の配合割合としては、紫外線硬化型透明性樹脂組成物中、1〜30質量%程度であることが、溶融時の流動性を充分に維持しながら、充分な配合効果を発揮する点から好ましい。前記配合割合が多すぎる場合には、流動性が低下するために、成形が困難になったり、気泡を巻き込むことによりボイドが生成しやすくなる。また、紫外線硬化させた後、架橋密度をさらに向上させるために加熱(アフターキュア)する場合があるが、熱可塑性のために硬化物が変形しやすくなる傾向がある。
【0046】
本実施形態で用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有する。紫外線吸収剤としては、波長365nm付近の紫外光に対して強い吸収を有するような共役二重結合を有する化合物や、芳香環を有するような公知の種々の紫外線吸収剤や紫外線吸収性の各種増感剤が特に限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アセトフェノン系紫外線吸収剤、アセナフテン系紫外線吸収剤、2−アセナフトン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、フェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ペリレン系紫外線吸収剤、アントラセン系紫外線吸収剤、アクリジンオレンジ等のアクリジン系紫外線吸収剤、フェノチアジン系紫外線吸収剤、2,4−ジエチルチオキサントン等や、サリチル酸系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中では、増感剤系紫外線吸収剤が、形成される透明性樹脂構造体の透明性を低下させない点から好ましい。
【0047】
紫外線硬化型透明性樹脂組成物中の紫外線吸収剤の配合量としては、樹脂組成物中に含有される樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部、さらには0.5〜2質量部であることが好ましい。
【0048】
また、紫外線硬化型透明性樹脂組成物には、通常、光重合開始剤が配合される。このような光重合開始剤の具体例としては、例えば、陰イオンとしてPF、AsF、SbF、SbCl2−、BF、SnCl、FeCl、BiCl2−等をもつアリールジアゾニウム塩、また、陰イオンとしてPF、AsF、SbF、SbF、SbCl2−、BF、ClO、CFSO、FSO、FPO、B(C等をもつジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、さらに、陰イオンとしてPF、AsF、SbF等を持つジアルキルフェナシルスルホニウム塩、ジアルキル−4−ヒドロキシルフェニルスルフォニウム塩、また、α−ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルや、N−ヒドロキシイミドスルホネート、α−スルホニロキシケトンやβ−スルホニロキシケトン等のスルホン酸エステル、さらに鉄のアレン化合物、シラノール−アルミニウム錯体、o−ニトロベンジル−トリフェニルエーテル等が挙げられる。また、市販のものとして、アデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−150(アデカ製)等も好ましく用いられる。
【0049】
また、紫外線硬化型透明性樹脂組成物には、上記以外の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、カップリング剤、流動改質剤、滑剤、着色剤等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0050】
カップリング剤は、基材表面と樹脂成形体との密着性を向上するために配合される成分であり、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。このような、カップリング剤の具体例としては、例えば、信越化学工業(株)製の商品名シランカップリング剤KBM−403等が挙げられる。カップリング剤の配合割合としては、紫外線硬化型透明性樹脂組成物全量中に0.1〜5質量%程度であることが好ましい。
【0051】
本実施形態で用いられる紫外線硬化型透明性樹脂組成物は、前記紫外線硬化型化合物と前記紫外線吸収剤と光重合開始剤と、必要に応じて用いられるフェノキシ樹脂等とを溶媒に溶解させてワニスを調製し、乾燥して溶媒を除去することにより得られる。
【0052】
前記ワニスを形成するための溶媒としては、各配合成分を溶解できるものであれば、特に限定なく用いられる。このような溶媒の具体例としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
溶媒の配合割合は特に限定されない。一例としては、樹脂成分100質量部に対して、20〜200質量部程度であることが好ましい。
【0054】
ワニスから溶媒を除去する工程は、基板上にワニスを塗布又は載置した後、ワニス上で行っても、基板上に載置する前に予め行ってもよい。
【0055】
以上説明した、本実施形態の立体基板上に透明樹脂構造体を形成する方法は、上記詳細に説明した光導波路の形成の他、マイクロレンズアレイやマイクロ流体デバイス等の形成に好ましく用いられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
はじめに、本実施例で用いた原材料を以下にまとめて示す。
【0058】
(固体エポキシ樹脂)
・脂環式エポキシ樹脂 EHPE3150(ダイセル化学工業(株))
・ナフタレン型エポキシ樹脂 HP4032(大日本インキ化学工業(株))
(液状エポキシ樹脂)
・脂環式エポキシ樹脂 セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株))
(フェノキシ樹脂)
・YP50EK35(東都化成(株)、メチルエチルケトン(MEK)溶解品)
(紫外線吸収剤)
・増感剤系紫外線吸収剤((株)アデカ製のSP100)
(光重合開始剤)
・スルホニウム塩系光重合開始剤SP170((株)アデカ)
(カップリング剤)
・KBM403(信越化学工業(株))
(実施例1〜4、及び比較例1〜3)
表1に記載された組成になるように、各種成分を配合しワニスを調製した。なお、ワニスの調整は、まず常温で溶媒を秤量した後、固形エポキシ化合物、液状エポキシ化合物、フェノキシ樹脂の順に混合し、密閉容器中で50℃にて加熱溶解、攪拌した後、常温で、紫外線吸収剤、光重合開始剤、及びカップリング剤を混合、攪拌した。
【0059】
次に、表面に溝が形成されたシリコン基板(直径100mm、厚み0.5mm)の溝に、得られた樹脂ワニスをディスペンサにて適量塗布し、続けてクリーンオーブン中120℃×70分の条件でワニス中の溶媒を乾燥させて、ワニスを固形化させることにより、紫外線硬化型透明性樹脂組成物を形成した。なお、シリコン基板に形成された溝の形状は、底面幅0.155mm、上面幅0.205mm、深さ0.06mmの台形断面を有する、長さ10mmの光導波路形成用の溝である。
【0060】
続いて、インプリント装置の下ステージに前記シリコン基板を固定し、上ステージに金型を固定した。なお、金型は、幅0.04mm、高さ0.04mmの断面を有し、長さ9.8mmの凸部を有するものである。そして、上下ステージ温度を90℃にまで上昇させることにより形成された紫外線硬化型透明性樹脂組成物を溶融させた後、シリコン基板と金型との間で、インプリント装置に具備されたカメラ観察系を用いて位置決めし、0.74MPa程度の一定圧で金型を紫外線硬化型透明性樹脂組成物に押圧して約5分間保持した。その後、押圧したまま上下ステージ温度を35℃にまで下げて、型開き(離型)を行った。
【0061】
次に、フォトマスクを使ったUVパターニングにより、溝の内部に存在する樹脂組成物のみを選択的に硬化させた。このときのUV照射エネルギーは1500mJ/cmであった。その後、硬化を促進させて、樹脂と基材との密着性を向上させる目的で、120℃/15分間のベーキングを行った。
【0062】
そして、冷却後、55℃に調整した界面活性剤(パインアルファST−100SX、荒川化学工業(株)製)の溶液中に基材を浸して、超音波洗浄を行うことにより、未硬化部を除去した。この後、得られた基材を純水洗浄し、樹脂の吸湿水を除去するために、150℃/15分間の加熱乾燥を行うことにより光導波路を形成するためのクラッド部が得られた。
【0063】
そして、得られた硬化物についてマスキングした部分に発生した不要な硬化部分の長さを以下の方法により測定した。
[不要な硬化部分の測定方法]
上面より側長機能付き光学顕微鏡で本来の現像端面(マスク端面)から不要硬化部分先端までの距離を測長した。
【0064】
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
本発明に係る実施例1〜4の紫外線硬化性樹脂組成物から得られた硬化物においては、いずれもマスキングしなかった部分のみが硬化されており、不要な硬化は殆ど見られなかった。これは、紫外線硬化性樹脂組成物中に含有される紫外線吸収剤が、乱反射した紫外線成分を吸収することにより、マスキング部への紫外線の入射が抑制されたためであると考えられる。
【0067】
一方、比較例1〜3の紫外線硬化性樹脂組成物から得られた硬化物においては、マスキングした領域の一部分において、意図せずに硬化された部分が著しく存在した。これは、紫外線が溝の斜面等において乱反射することにより、マスキング部へ紫外線の一部が入射して硬化したと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1(a)及び図1(B)は、従来の方法により基材上に形成された凹部に紫外線硬化性材料を充填して、フォトマスクを介して硬化させるときの様子をしめす模式説明図である。
【図2】本発明の実施形態において製造する光導波路が形成された基材の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は(a)のC−C線断面図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、図2(a)〜(c)で説明した、光導波路が形成された基材の製造工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 照射光
2 傾斜面
3 樹脂層
4,42フォトマスク
5 意図しない硬化部分
10 光回路基板
20 シリコン基板
31 光導波路
31a コア部
31b 下クラッド部
31c 上クラッド部
32 溝
32a、32b 斜面
33 ミラー部
36 電極
37 コア用溝
39 型(金型)
41′ 一次成形体
41 未硬化樹脂層
42a マスキング開口部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体基板上に透明樹脂構造体を形成する方法であって、
立体基板上に、紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型透明性樹脂組成物を載置した後、フォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより、該樹脂組成物を硬化させる工程と、未露光部分を除去することにより硬化された樹脂構造体を形成させる工程とを備えることを特徴とする立体基板上に透明性樹脂構造体を形成する方法。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤が光増感剤である請求項1に記載の立体基板上に透明樹脂構造体を形成させる方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、透明性樹脂成分としてナフタレン型エポキシ樹脂を含有する請求項1または2に記載の立体基板上に透明樹脂構造体を形成させる方法。
【請求項4】
前記立体基板上のフォトマスクを介して選択露光される領域に、斜面を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体基板上に透明樹脂構造体を形成させる方法。
【請求項5】
立体基板上に、常温で固体であり、加熱により溶融又は軟化する紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物を載置した後、加熱することにより該樹脂組成物を溶融又は軟化させた状態で所望の転写形状を有する型を押圧接触させる工程と、前記押圧接触させたまま前記樹脂組成物が再固形化する温度にまで冷却する工程と、再固形化された前記樹脂組成物から前記型を離型することにより一次成形体を形成する工程と、前記一次成形体にフォトマスクを介して紫外光を照射して選択露光することにより、前記一次成形体を紫外線硬化させる工程と、未露光部分を除去することにより樹脂構造体を形成させる工程とを備え、
前記樹脂組成物が、紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体基板上に透明樹脂構造体を形成させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−276623(P2010−276623A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82040(P2008−82040)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】