説明

立体画像表示システム

【課題】円偏光を利用する立体画像表示システムにおける、画像の着色を抑止する。
【解決手段】立体画像表示システムは、画像表示装置および視認者が装着するための偏光眼鏡を備る。画像表示装置は、視認側表面に第1の偏光板を備え、第1の偏光板よりもさらに視認側に第1の1/4波長板を備えることで、視認側に円偏光を出射する。偏光眼鏡は、右目用視認部および左目用視認部を備え、右目用視認部と左目用視認部のそれぞれは、第2の偏光板、および第2の偏光板よりも画像表示装置側に1/4波長板を備えている。画像表示装置の視認側表面に備えられる第1の1/4波長板、および偏光眼鏡の画像表示装置側に備えられる第2の1/4波長板の少なくともいずれか一方は、波長550nmにおけるレターデーションRe550と波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550が、1.01以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置および視認者が装着するための偏光眼鏡を備える立体画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像を表示させる方法に関して数多くの研究がなされ実用化されている。立体画像表示の基本原理は、視認者の左右の眼に異なる画像(右目用画像と左目用画像)を視認させ、両眼の視差によって立体感を想起させるというものである。立体表示の方式は、視認者に特殊な立体視用眼鏡を装着させる眼鏡方式と、立体視用眼鏡を必要としない裸眼方式とに大別される。眼鏡方式においては、1ピクセルあるいは1走査線毎に偏光方向が直交する右目用画像形成領域と左目用画像形成領域とを交互に有する表示装置を用いる空間分割方式と、1フレームごとに右目用画像と左目用画像を交互に現出させる時分割方式とがある。
【0003】
空間分割方式において、立体視用眼鏡は、右目用視認部と左目用視認部とでそれぞれ直交する偏光を吸収するように構成されている。右目用視認部は右目用画像のみを透過して左目用画像を遮蔽し、左目用視認部は左目用画像のみを透過して右目用画像を遮蔽するため、左右の眼に異なる画像が視認される。このような空間分割方式において、表示装置から直線偏光が出射される場合は、右目用映像および左目用映像の偏光方向と視認者が装着する偏光眼鏡の偏光板の透過軸方向とを正確に一致させる必要がある。視認者の位置や顔の角度、あるいは偏光眼鏡の装着状態が異なると、各々の目に右目用映像と左目用映像とが混在して視認され、立体像が不鮮明となる(いわゆる「クロストーク」)。このような偏光方向のズレに起因するクロストークを低減する観点から、画像表示装置の表面に1/4波長板を設けて、円偏光を現出させる方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
時分割方式において、立体視用眼鏡は、右目用視認部と左目用視認部とにそれぞれシャッタを備えており、これらのシャッタが画像表示装置のフレームと同期して交互に開閉する。すなわち、画像表示システムは、画像表示装置が右目用画像を表示している間は右目のみが画像を視認可能であり、画像表示装置が左目用画像を表示している間は左目のみが画像を視認可能となるように構成されている。このような時分割方式においても、1/4波長板を用いて円偏光を現出させることで、クロストークを低減することが提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−227998号公報
【特許文献2】特開2010−243705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような円偏光を利用する立体画像表示によれば、クロストークの低減が可能である。一方で、円偏光を利用する方式では、表示装置から円偏光を現出させるために表示装置の表面に設けられる1/4波長板の軸方向と立体視用眼鏡に用いられる1/4波長板の軸方向とが、直交状態からズレた場合に、カラーシフトが生じ、画像が着色して見えるという問題がある。かかる観点に鑑み、本発明は、円偏光を利用する立体画像表示システムにおける、画像の着色の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み本発明者らが検討の結果、表示装置の表面に設けられる1/4波長板、あるいは偏光眼鏡に設けられる1/4波長板のレターデーションの波長分散性を制御することによって、着色が低減できることを見出し、本発明にいたった。
【0008】
本発明の立体画像表示システムは、画像表示装置および視認者が装着するための偏光眼鏡を備える。画像表示装置は、視認側表面に第1の偏光板を備え、第1の偏光板よりもさらに視認側に第1の1/4波長板を備えるため、視認側に円偏光を出射する。偏光眼鏡は、右目用視認部および左目用視認部を備える。右目用視認部と左目用視認部のそれぞれは、第2の偏光板、および第2の偏光板よりも立体画像表示装置側に1/4波長板を備えている。
【0009】
本発明の立体映像表示システムにおいて、画像表示装置側に配置される前記第1の1/4波長板および偏光眼鏡側に配置される前記第2の1/4波長板の少なくともいずれか一方は、波長550nmにおけるレターデーションRe550と波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550が、1.01以下である。
【0010】
一実施形態において、本発明の立体映像表示システムは、画像表示装置が、一つの画面上で右目用画像と左目用画像とを同時に表示する、空間分割方式によって立体映像を表示するものである。当該形態においては、画像表示装置が複数の第1画像形成領域および複数の第2画像形成領域とを有し、第1画像形成領域から視認側に出射される円偏光と第2画像形成領域から視認側に出射される円偏光とが極性の異なる円偏光である。当該形態においては、前記第1の偏光板または前記第1の1/4波長板のいずれか一方が第1画像形成領域および第2画像形成領域と対応するようにパターン化されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の立体映像表示システムは、表示装置の表面に設けられる第1の1/4波長板、あるいは偏光眼鏡に設けられる第2の1/4波長板の少なくとも一方のレターデーションの波長分散が所定範囲に調整されている。そのため、視認者の位置や顔の角度の変化に伴って2枚の1/4波長板の軸角度が直交からズレた場合における、画像の着色(色変化)が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】空間分割方式の立体画像表示システムの一形態において、偏光状態が変換される様子を説明する概念図である。
【図2】図1の形態における画像表示装置を模式的に表す断面図である。
【図3】他の実施形態による画像表示装置を模式的に表す断面図である。
【図4】実施例および比較例の測定に用いた構成を模式的に表す図である。
【図5】実施例および比較例における色相の結果を示す図である。
【図6】実施例における色相の結果を示す図である。
【図7】実施例における色相の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、円偏光を利用する空間分割方式の立体画像表示システムの一形態において、偏光状態が変換される様子を説明する概念図である。図2は、図1における画像表示装置60の構成を模式的に表す断面図である。画像表示装置60は、画像表示セル30の視認側表面に偏光板20を有し、そのさらに視認側に1/4波長板10を有している。画像表示装置は、複数の第1領域および複数の第2領域を有しており、第1領域および第2領域のいずれか一方が右目用画像表示領域、他方が左目用画像表示領域に相当する。
【0014】
画像表示装置60において、画像表示セル30は複数の第1の表示領域31と複数の第2の表示領域32を有している。画像表示セル30は特に限定されず、例えば、有機ELセル、プラズマ表示セル、ブラウン管等の自発光型の表示セルや、液晶セルのように、光源からの光の透過量を調整する表示セルを用いることができる。また、リアプロジェクションシステムのような投影型表示装置のスクリーンを適用することもできる。
【0015】
中でも、液晶表示装置は、画像表示のために液晶セルの視認側に偏光板を配置することが必須であるため、この視認側偏光板を第1の偏光板とすれば、別途の偏光板を設ける必要がない。そのため、円偏光を利用する立体画像表示システムにおける画像表示装置としては、液晶セルを備える液晶表示装置が適している。なお、液晶表示装置は、視認側の偏光板とは別にもう1枚の偏光板を設けた構成であってもよい。液晶セルとして、透過型液晶セル、あるいは半透過半反射型液晶セルを採用する場合は、液晶セルの視認側と反対側に偏光板および光源(不図示)が配置される。
【0016】
有機EL表示装置においては、金属電極による外光の鏡面反射を遮蔽するために、有機発光層の視認側に、1/4波長板と偏光板が積層された円偏光板が配置される場合がある。本発明においては、該円偏光板の視認側に本発明の位相差板を配置することによって、立体画像表示システムにおける画像表示装置を構成することもできる。
【0017】
画像表示セル30の視認側には、第1の偏光板20および第1の1/4波長板10が配置される。一般に第1の偏光板および第1の1/4波長板10は、画像表示セル30を構成する視認側基板よりもさらに視認側に配置されるが、基板の内側(例えば、液晶セルにおいては視認側基板よりも液晶層側)に、第1の偏光板を配置することもできる。さらに、第1の1/4波長板も基板の内側に配置してもよい。かかる実施形態によれば、液晶セルの形成時に第1の偏光板や第1の1/4波長板が配置されるため、液晶セルと偏光板や1/4波長板との位置合わせを容易になし得る。また、液晶セルの画素形成領域である液晶層と第1の偏光板や第1の1/4波長板との距離が小さいため、斜め方向から画像表示装置を視認した場合でも、液晶セルの表示領域と偏光板の偏光領域あるいは1/4波長板の位相差領域との対応関係が保持される。そのため、右目用画像と左目用画像の混在(クロストーク)を抑制することができる。
【0018】
第1の偏光板20と第1の1/4波長板10とは、偏光板20の透過軸方向と1/4波長板10の遅相軸方向とのなす角が45°となるように配置されている。そのため、画像表示セル30からの出射光は円偏光として画像表示装置の視認側に出射される。画像表示装置60は、第1の表示領域と第2の表示領域とで極性の異なる円偏光を射出するように構成されている。例えば、図1においては、第1の領域から右円偏光r111、r112が出射され、第2の領域から左円偏光r121、r122が出射されるように構成されている。
【0019】
より具体的には、図1および図2に示す構成では、第1の偏光板20が複数の第1の偏光領域21および複数の第2の偏光領域22にパターン化されており、それぞれが画像表示セル30の第1の表示領域31および第2の表示領域32に対応している。なお、領域が対応するとは、例えば図2における、画像表示セル30の第1の表示領域31aと第1の偏光板20の第1の偏光領域21aのように、画面の法線方向に領域が存在することを意味する。
【0020】
偏光板20において、第1の偏光領域21における透過軸方向211と第2の偏光領域22における透過軸方向221とは直交する。図1においては、1/4波長板の遅相軸方向102が、第1の領域における偏光板の透過軸方向211に対して−45°であり、第2の領域における偏光板の透過軸方向221に対して+45であるため、画像表示装置の第1の表示領域から出射される光r111およびr112と第2の表示領域から出射される光r112およびr122とは、極性の異なる円偏光となる。
【0021】
ここで、本明細書において45°とは、厳密に45°であることに限定されず、直線偏光が略円偏光に変換され得る範囲であれば足り、例えば45±5°、好ましくは45±3°である。また、角度に符号が明示されている場合は、反時計回りが+、時計回りが−であるが、角度に符号が明示されていない場合は、反時計回り(+)、時計回り(−)のいずれでもよい。
【0022】
上記のように、図1および図2に示す形態では、透過軸方向が互いに直交する第1の偏光領域21と第2の偏光領域22とを有する偏光板を第1の偏光板20として用いることで、画像表示装置60から右円偏光と左円偏光とが出射されるように構成されている。本発明の立体画像表示システムおける画像表示装置は、右円偏光と左円偏光とが出射されるように構成されていれば、当該形態に限定されない。例えば、図3に模式的に示すように、第1の位相差領域と第2の位相差領域とを有する位相差板を第1の1/4波長板10として用いる形態でもよい。この場合、第1の1/4波長板10は、例えば、マスクパターン等を用いて液晶性化合物の配向を固定することによって、微小領域(第1の位相差領域および第2の位相差領域)ごとに配向方向を異なる(直交する)ように構成し得る。その他、特開2001−59948号公報等に開示されているように、半波長(λ/2)のレターデーションを有する第1の領域およびレターデーションを有していない第2の領域とにパターニングされた位相差板や、特開2002−14301号公報等に開示されているように、偏光の振動面を90°回転させる旋光素子が配置された第1の領域および該旋光素子が除去された第2の領域からなる位相差板を、第1の偏光板と第1の1/4波長板との間、あるいは第1の1/4波長板よりもさらに視認側に配置された構成等を採用し得る。また、第1の1/4波長板として、遅相軸方向が互いに直交する第1の位相差領域と第2の位相差領域とを有する位相差板を用いる方法により、画像表示装置から右円偏光と左円偏光とが出射されるように構成することも可能である。
【0023】
視認者は、立体視用の偏光眼鏡70を装着して、画像表示装置60からの光(画像)を視認する。偏光眼鏡70は、右目用視認部71と左目用視認部72とを有し、右目用視認部および左目用視認部のそれぞれは、第2の1/4波長板41,42および第2の偏光板51,52を備える。第2の1/4波長板は、第2の偏光板よりも立体画像表示装置側に配置されている。
【0024】
右目用視認部と左目用視認部は、それぞれ極性の異なる円偏光板で構成されている。図1に示す構成では、右目用視認部71において1/4波長板41の遅相軸方向412が、偏光板51の透過軸方向521に対して−45°であり、左目用視認部72において1/4波長板42の遅相軸方向422が、偏光板52の透過軸方向521に対して+45°である。当該構成において、右目用視認部では、画像表示装置の第1の領域からの光は偏光板51を透過して視認者に到達するが、第2の領域からの光は偏光板52に遮蔽されるため視認者に到達しない。一方、左目用視認部では、画像表示装置の第2の領域からの光は偏光板52を透過して視認者に到達するが、第1の領域からの光は偏光板51に遮蔽されるため視認者に到達しない。このような構成において、視認者は、右目では第1の領域からの光のみを視認し、左目では第2の領域からの光のみを視認するため、立体像を想起する。
【0025】
上記のように、図1においては、右目用視認部の第2の偏光板51の透過軸方向511と、左目用視認部の第2の偏光板52の透過軸方向521とが平行であり、右目用視認部の第2の1/4波長板41の遅相軸方向412と、左目用視認部の第2の1/4波長板42の遅相軸方向422とが直交に配置されることで、右目用視認部と左目用視認部とが、極性の異なる円偏光板を構成している。本発明の立体画像表示システムおける偏光眼鏡は、右目用視認部と左目用視認部とが極性の異なる円偏光板となるように構成されていれば、図1に示すような形態に限定されない。例えば、右目用視認部の第2の偏光板の透過軸方向と左目用視認部の第2の偏光板の透過軸方向とが直交しており、右目用視認部の第2の1/4波長板の遅相軸方向と左目用視認部の第2の1/4波長板の遅相軸方向とが平行に配置された構成等を採用することができる。
【0026】
上記のように、円偏光を利用する立体画像表示システムでは、画像表示装置60表面の第1の1/4波長板10により円偏光に変換された光が、偏光眼鏡70の第2の1/4波長板41,42によって直線偏光に再変換されるとの原理を利用している。本発明の立体画像表示システムは、このように画像表示装置の第1の偏光板20と偏光眼鏡の第2の偏光板51、52との間に、2枚の1/4波長板を介して、直線偏光→円偏光→直線偏光との変換を行うものであれば、その他の構成は特に限定されない。例えば、第1の偏光板、第2の偏光板、第1の1/4波長板、第2の1/4波長板のいずれかとして、1フレームごとに切換可能な液晶シャッタ等を用いることで、円偏光を利用した時分割方式の立体画像表示システムを構成することもできる。一例として、第1の偏光板および第1の1/4波長板により右円偏光あるいは左円偏光を出射するように画像表示装置を構成し、偏光眼鏡の第2の1/4波長板として1フレームごとに分子の配向方向が90°回転する液晶シャッタを用いる方法が挙げられる。奇数フレームでは右眼用視認部が右円偏光板、左眼用視認部が左円偏光板となり、偶数フレームでは右眼用視認部が左円偏光板、左眼用視認部が右円偏光板となるように、液晶シャッタの配向方向を制御すれば、一方の眼に画像が視認されている間は他方の眼に画像が視認されないために、立体画像の表示が可能となる。
【0027】
本発明の立体画像表示システムにおいて、画像表示装置表面に備えられた第1の1/4波長板および偏光眼鏡に備えられた第2の1/4波長板のうち少なくともいずれか一方は、波長550nmにおけるレターデーションRe550に対する波長450nmにおけるレターデーションRe450の比Re450/Re550が、1.01以下であることを特徴とする。
【0028】
より具体的には、第1の1/4波長板は、Re450/Re550が1.00以下であることが好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。第2の1/4波長板は、Re450/Re550が1.00以下であることが好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。
【0029】
一般に、1/4波長板等の位相差板のレターデーションは波長によって異なる。このような特性はレターデーションの「波長分散」とも称される。波長分散特性は、位相差板を構成する材料(ポリマー)固有の値であり、長波長ほど小さいレターデーションを有するものが多い。また、一般に、1/4波長板は、視感度の高い波長λ=550nm付近におけるレターデーションが1/4波長となるように設計されており、他の波長λにおけるレターデーション値は1/4波長からずれている。そのため、第1の1/4波長板10から視認側に出射する波長λの光は楕円偏光となる。
【0030】
例えば、図1に示す形態において、第1の1/4波長板10の波長λにおけるレターデーションがλ/4からずれている場合、画像表示パネルの第1の領域31aから第1の偏光板20aの第1の偏光領域21aを透過した後、第1の1/4波長板10aから射出される光r111は、波長λでは楕円偏光となる。図1に示すように、第1の1/4波長板10aの遅相軸方向102と第2の1/4波長板の遅相軸方向412とが直交する場合は、2枚の位相差板のレターデーションが打ち消し合う。そのため、偏光r111が楕円偏光であっても、第2の1/4波長板41から射出する光r411は、第1の偏光板20aを透過した光r211と同様の直線偏光となり、第2の偏光板51をそのまま透過する。
【0031】
一方で、例えば、偏光眼鏡70を装着している視認者が頭を傾けると、第2の1/4波長板41の遅相軸方向412は、第1の波長板10aの遅相軸方向102と直交ではなくなる。そのため、第2の1/4波長板41から射出する光r411は、波長λでは楕円偏光となり、一部が第2の偏光板51に吸収される。この場合、レターデーションが波長のちょうど1/4となる波長λでは、直線偏光→円偏光→直線偏光との偏光状態の変換が維持されるため、第1の偏光板20を透過した光r211がそのままの強度で視認者に到達するが、波長λでは第1の偏光板20を透過した光r211の強度が弱められて視認者に到達する。そのため、視認者に到達する光のスペクトルは、第1の偏光板20を透過した光のスペクトルから異なっており、偏光眼鏡を通して視認される画像が着色したものとなる。
【0032】
上記のように、1/4波長板の軸方向が直交状態からずれた際の画面の着色を抑制する観点からは、第1の1/4波長板および第2の1/4波長板が、可視光の広い帯域において、直線偏光を円偏光に変換し得る波長分散特性を有することが好ましい。
しかし、本発明者らの知見によると、必ずしも第1および第2の1/4波長板の両者が、可視光の広い帯域において、直線偏光を円偏光に変換し得る波長分散特性を有する必要はなく、例えば、一方の1/4波長板のRe450/Re550が0.95以下である場合、他方の1/4波長板のRe450/Re550が0.95を超える場合でも、十分な着色抑制効果が得られる。但し、この場合でも、他方の1/4波長板のRe450/Re550が1.01以下であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましい。
【0033】
第1の1/4波長板および第2の1/4波長板としては、延伸フィルムや液晶性化合物の配向層等、所定方向に分子を配向させたものを用いることができる。高分子フィルムの延伸による分子の配向は、一軸又は二軸等の適宜な方式で延伸処理することにより行うことができる。このような延伸フィルムとしては、位相差制御の点などから、分子が可及的に均一に配向するなどして位相差の均一性に優れる延伸フィルムが好ましく用いうる。
【0034】
基材上に分子の配向膜を形成する方法としては、基材フィルム上で重合性液晶等を配向させる方法が挙げられる。基材としての透明フィルムは配向規制力が付与されたものを用いることが好ましい。透明フィルムに配向規制力を付与する方法としては、例えば、基材表面にラビング処理を施す方法や、ポリイミド等の配向膜を基材上に形成し、該配向膜表面にラビング処理を施す方法、基材上に光異性化、光二量化、あるいは光分解等の光反応を起こす化合物の膜を形成し、光を照射して方向性を付与した光配向膜を形成する方法等が挙げられる。また、上記のような分子の配向方向が固定されたものに代えて、液晶シャッタのように画像表示装置の駆動に同期して分子の配向方向が変化するものを用いることもできる。
【0035】
1/4波長板の波長分散Re450/Re550を前述の範囲として、立体画像の着色を低減するためには、1/4波長板を構成する材料を適宜に選択することが好ましい。例えば、Re450/Re550を1.0〜1.01とするためには、1/4波長板の材料として、環状ポリオレフィンやポリビニルアルコール等が好適に用いられる。また、特開2006−248966号公報や特開2006−91509号公報に開示されているような液晶化合物を用いてもよい。Re450/Re550を1未満とするためには、1/4波長板の材料として、特開2000−137116号公報等に開示されている所定の置換度を有するセルロース誘導体、WO00/26705号国際公開パンフレット等に開示されている共重合ポリカーボネート、特開2006−171235号公報、特開2006−89696号公報等に開示されている変性ポリビニルアセタール等を用いることができる。また、特開2010−084032号公報に開示されているような液晶化合物を用いてもよい。
【0036】
画像の着色を抑止する観点からは、画像表示装置における第1の1/4波長板10の波長分散Re450/Re550と、偏光眼鏡における第2の1/4波長板の波長分散Re450/Re550との差が小さいことが好ましい。波長分散の差を小さくする方法としては、例えば、第1の1/4波長板と第2の1/4波長板とを同一の材料により形成すればよい。
【0037】
第1の1/4波長板および第1の1/4波長板のそれぞれは、1枚のフィルムからなるものであってもよく、2枚以上のフィルムを積層したものであってもよい。例えば、特開平10−68816号公報に開示されているように1/4波長板と1/2波長とを光軸を交差させて積層する方法や、特開平5−27118号公報等に開示されているように波長分散特性の異なる2枚の位相差板を光軸が直交するように積層する方法等により、波長分散が調整された積層位相差板を用いることもできる。
【0038】
第1の位相差板としては、前述のごとく遅相軸方向が互いに直交する第1の位相差領域と第2の位相差領域とを有する位相差板を用いることもできる。このような位相差板は、例えば、マスクパターン等を用いて液晶性化合物の配向を固定することによって、微小領域(第1の位相差領域および第2の位相差領域)ごとに配向方向を異なる(直交する)ように構成し得る。
【0039】
1/4波長板のレターデーションは、厳密に波長の1/4倍である必要はなく、直線偏光を略円偏光に変換する範囲であればよい。なお、「略円偏光」とは、完全な円偏光のみならず、完全な円偏光に近い、すなわち楕円率が1に近い楕円偏光をも含み得る。第1の1/4波長板および第2の1/4波長板は、いずれも波長λ=550nmにおけるレターデーションRe(550)が、137.5±30nmであることが好ましく、137.5±20nmであることがより好ましく、137.5±10nmであることがより好ましい。
【0040】
第1の偏光板および第2の偏光板は、任意の偏光状態を有する光を直線偏光に変換するものであれば特に限定されず、各種のものを使用できる。このような偏光板としては、例えば、偏光子の一方または両方の主面に必要に応じて透明保護フィルムを積層したものが用いられる。偏光子としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、米国特許5,523,863号等に開示されている二色性物質と液晶性化合物とを含む液晶性組成物を一定方向に配向させたゲスト・ホストタイプのO型偏光板、米国特許6,049,428号等に開示されているリオトロピック液晶を一定方向に配向させたE型偏光板等も用いることができる。
【0041】
第1の1/4波長板として、遅相軸方向が互いに直交する第1の位相差領域と第2の位相差領域とを有する位相差板を用いる場合、第1の偏光板は特にパターン化されている必要は無い。一方、第1の1/4波長板がパターン化されたものでない場合には、第1の偏光板として、透過軸方向が互いに直交する第1の偏光領域および複数の第2の偏光領域にパターン化されたものが用いられる。このような偏光板は、例えば米国特許第5327285号明細書、特開2001−59948号公報、特開2001−59949号公報等に開示されたものを用いることができる。また、前述のように、第1の偏光板と第1の1/4波長板との間に、パターン化された1/2波長板や旋光素子を配置して、一方の領域における偏光面を90°回転させる方法も採用できる。
【0042】
偏光子の一方または両方の主面に積層される透明保護フィルムとしては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好適に用いられる。また、偏光子の一方の面に配置される透明保護フィルムとして1/4波長板を用いることにより、偏光子保護フィルムとしての機能と、直線偏光から円偏光への変換あるいは円偏光から直線偏光への変換を行うための1/4波長板としての機能とを兼用させてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。図4は、実施例および比較例の測定に用いた構成を表す模式図である。
【0044】
液晶セル33の視認側表面に偏光板23を備える市販の液晶テレビの表面に、1/4波長板(第1の1/4波長板)13を、テレビの視認側偏光板(第1の偏光板)23の透過軸方向231と、λ/4板13の遅相軸方向132とのなす角が、λ/4板側から見て+45°となるように貼り合わせて、画像表示装置63を作製した。
【0045】
ガラス板83に偏光板(第2の偏光板)53を貼り合わせ、この偏光板53の表面に、λ/4板(第2の1/4波長板)43を、偏光板53の透過軸方向531とλ/4板43の遅相軸方向432とのなす角がλ/4板側から見て+45°となるように貼り合わせて、擬似偏光眼鏡73を作製した。なお、第2の偏光板としては、ヨウ素を吸着させて一軸延伸されたポリビニルアルコールフィルム偏光子の両面に、レターデーションが略ゼロである保護フィルムが貼り合わせられた偏光板を用いた。
【0046】
この擬似偏光眼鏡73と画像表示装置63とを、図4に示すように、λ/4板同士が対向し、かつ第1の偏光板23の透過軸方向231と第2の偏光板53の透過軸方向531とが平行となるように配置した。この時、第1の1/4波長板13の遅相軸方向132と第2の1/4波長板43の遅相軸方向432とは直交していた。この状態で、画像表示装置(液晶テレビ)に白画像を表示させ、擬似偏光眼鏡を介して視認される光を検出器93にて検出しながら、擬似偏光眼鏡を360°回転させて、輝度および色相の変化を確認した。次に、画像表示装置に黒画像を表示させた状態で、擬似偏光眼鏡を360°回転させて、輝度および色相の変化を確認した。
以下の実施例及び比較例では、下記の3種類の1/4波長板を使用した。
(1/4波長板WRF)
波長550nmにおけるレターデーションに対する波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550=0.89、波長550nmにおけるレターデーションRe550=142nmである延伸位相差フィルム(帝人化成製 商品名「ピュアエースWR」)を用いた。
(1/4波長板ZD)
波長550nmにおけるレターデーションに対する波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550=1.00、波長550nmにおけるレターデーションRe550=139nmである延伸位相差フィルム(オプテス製 商品名「ゼオノアフィルム」)を用いた。
(1/4波長板PC)
波長550nmにおけるレターデーションに対する波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550=1.07、波長550nmにおけるレターデーションRe550=137nmである延伸位相差フィルム(カネカ製 商品名「エルメックフィルム」)を用いた。
【0047】
[実施例1−1〜1−2、比較例1−1]
画像表示装置側の第1の1/4波長板としては、全て1/4波長板PCを用いた。
実施例1−1では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板WRFを用い、実施例1−2では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板ZDを用い、比較例1−1では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板PCを用いた。各実施例および比較例における白表示時および黒表示時の色相を図5に示す。
【0048】
[実施例2−1〜2−3]
画像表示装置側の第1の1/4波長板としては、全て1/4波長板ZDを用いた。
実施例2−1では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板WRFを用い、実施例2−2では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板ZDを用い、比較例2−3では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板PCを用いた。各実施例における白表示時および黒表示時の色相を図6に示す。
【0049】
[実施例3−1〜3−3]
画像表示装置側の第1の1/4波長板としては、全て1/4波長板WRFを用いた。
実施例3−1では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板WRFを用い、実施例3−2では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板ZDを用い、比較例3−3では、偏光眼鏡側の第2の1/4波長板として、1/4波長板PCを用いた。各実施例における白表示時および黒表示時の色相を図7に示す。
【0050】
図5〜図7に示す結果より、Re450/Re550が1.01以下である1/4波長板を、第1又は第2の1/4波長板の少なくとも一方に用いることで、偏光眼鏡を回転させた場合における色相の変化を抑制できることがわかる。ここで、実施例3−3のように、両者共にRe450/Re550が0.9以下の1/4波長板を用いなくとも、これを第1の1/4波長板のみに使用する場合(実施例3−2)や、第2の1/4波長板の1/4波長板のみに使用する場合(実施例2−3)でも、良好な色相変化の抑制効果が得られた。また、第1及び第2の1/4波長板の両者にRe450/Re550が1.0付近の1/4波長板を使用する場合(実施例2−2)にも、良好な色相変化の抑制効果が得られた。
【符号の説明】
【0051】
10 1/4波長板
102 遅相軸方向
20 偏光板
211 透過軸方向
221 透過軸方向
30 画像表示セル(液晶セル)
41 1/4波長板
412 遅相軸方向
42 1/4波長板
422 遅相軸方向
51 偏光板
511 透過軸方向
52 偏光板
521 透過軸方向
60 画像表示装置
70 偏光眼鏡
71 右目用視認部
72 左目用視認部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置および視認者が装着するための偏光眼鏡を備える立体画像表示システムであって、
前記画像表示装置は、視認側表面に第1の偏光板を備え、第1の偏光板よりもさらに視認側に第1の1/4波長板を備えており、視認側に円偏光を出射するものであり、
前記偏光眼鏡は、右目用視認部および左目用視認部を備え、右目用視認部と左目用視認部のそれぞれは、第2の偏光板、および第2の偏光板よりも立体画像表示装置側に1/4波長板を備えており、
前記第1の1/4波長板および前記第2の1/4波長板の少なくともいずれか一方は、波長550nmにおけるレターデーションRe550と波長450nmにおけるレターデーションの比Re450/Re550が、1.01以下である、立体画像表示システム。
【請求項2】
前記画像表示装置は、一つの画面上で右目用画像と左目用画像とを同時に表示するものであり、複数の第1画像形成領域と複数の第2画像形成領域とを有し、
前記第1の偏光板または前記第1の1/4波長板のいずれか一方が第1画像形成領域および第2画像形成領域と対応するようにパターン化されており、
第1画像形成領域から視認側に出射される円偏光と第2画像形成領域から視認側に出射される円偏光とが極性の異なる円偏光である、請求項1に記載の立体画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15672(P2013−15672A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148322(P2011−148322)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】