説明

立方晶窒化ホウ素の合成方法および立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法

【課題】低圧条件でhBNからcBNを合成する低圧合成方法及びcBN原料粉末を用いたcBN焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属触媒として、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上からなる合金粉末あるいは混合粉末を用いて、低圧(4GPa以上)かつ1200〜1900℃でhBNからcBNを合成し、また、cBNを原料粉末とし、金属触媒として用いた上記合金粉末あるいは混合粉末を焼結助剤として原料粉末に含有させて焼結し、cBN焼結体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素(以下、hBNで示す)から立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)を合成するcBNの合成方法であって、かつ、合成したcBNを原料粉末とするcBN焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、hBNからcBNを合成する合成方法としては、アルカリあるいはアルカリ土類元素を含むホウチッ化物(代表的な例はLiBN)を触媒として用いる方法が一般的なものとして知られているが、Co,Ni,Feなどの遷移金属とAlの合金、混合物も有効な触媒であることも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、NiAl、CoAl、FeNiAl、FeNiCoAlなどの各合金が、圧力およそ6〜8.5GPa、温度800〜1600℃の条件で触媒作用を有することが報告されている。
【0004】
特許文献2には、Fe46−Ni32−Cr21−Al1wt%、Ni39.2−Mn58.8−Al2wt%、Ni49−Cr49−Al2wt%、Fe8−Ni43−Cr47−Al2wt%などの混合物が、圧力5〜5.5GPa、温度約1400〜1500℃の範囲で、原料hBNをcBNに転換する触媒として効果があることが報告されている。
【0005】
非特許文献1には、あらかじめアーク溶解炉で合金化したFe90−Al10wt%の組成の合金が、約6GPa以上でcBN合成触媒として有効であると報告されている。
【0006】
また、触媒を用いてhBNからcBNを合成した後、これを焼結することによって、cBN焼結体を製造し得ることも知られている。
例えば、特許文献3には、Co−Al混合物、Ni87−Al13wt%混合物、WC−Co−Al、NiAl合金、Co67−W16.5−Al16.5wt%などを原料hBNと共存させ、圧力5.4GPa以上、温度範囲は約1500〜1550℃で合成することによってcBNを生成させると、合成されたcBNは構成粒子が強固に結合した焼結体となることが報告されている。
【特許文献1】米国特許3768972号明細書
【特許文献2】米国特許3918931号明細書
【特許文献3】米国特許3918219号明細書
【非特許文献1】「窯業協会誌」Vol.78,No.1(1970年)7−14頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
cBNは、ダイヤモンドに匹敵する硬度を持つほか、熱的、化学的にも安定であることから、cBN焼結体は、例えば、高速度鋼、ダイス鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削工具用硬質材料等として幅広い分野で利用されている。
ところで、hBNからcBNを合成する際には、前記従来技術にも示したように、通常超高圧(5GPa以上)高温条件での合成が行われるが、cBN材料の大型化、生産性の向上等を目的として、特に、合成装置の大型化を図ったような場合には、(5GPa以上の)超高圧が必要であるか否かによって、操業の難易度、装置構成に大きな違いがあり、また、例えば、金型装置の中心部材である大型超硬合金の寿命も操業圧力が超高圧(5GPa以上)であるか否かによって格段の違いが生じる。
したがって、合成装置を大型化し、生産性の向上を図ったような場合にも、より緩和された低圧条件下で簡易にcBNを合成することができるcBNの合成方法が望まれている。
一方、cBN焼結体についても、より緻密で高硬度のcBN焼結体を製造する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、hBNからcBNを合成するに当たって、従来よりも低圧力条件(最低合成圧力が4GPa)で合成する方法について鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
【0009】
hBNからcBNを合成するに当たって、従来は、Co,Ni,Feなどの遷移金属とAlとの合金、混合物からなる金属触媒を用いていたが、その反応メカニズムは、まず、超高圧高温条件下で金属触媒が溶融して液相状態になり、該液相中にhBNの成分B(ホウ素)とN(窒素)が溶解し、その後cBNの核発生・成長が生じ、cBNの合成が進行すると考えられることから、B及びNの上記液相への溶解度が小さいような場合には、cBNが生成するに必要な条件が満足されず、また、仮に、上記液相中に十分なBとNが溶解したとしても、cBNの熱力学的平衡条件付近(例えば、従来の合成圧力よりも低い4〜5GPaという圧力条件)でcBNの核発生・成長を行わせcBNを合成するためには、cBNの核発生・成長を促進・助長する条件が必要となると考えられる。
したがって、金属触媒が液相状態でB溶解能力及びN溶解能力に優れ、同時に、cBNの核生成・成長を促進・助長する作用を有する場合には、従来よりも低圧力条件下でhBNからcBNを合成することができるといえる。
【0010】
ところで、従来用いられてきた金属触媒について、上記の観点から触媒成分の作用を見ると、Co,Ni,Feなどの遷移金属は、それらが溶融して液相状態になっているときに数%程度のBを溶解する能力があり、ホウ素溶解成分の作用を有するが、その一方、Nを溶解する能力はきわめて小さいために、特に、低圧条件下で合成を行おうとした場合には、結果として、cBNへの転換反応が極めて不満足なものとなる。
そこで、本発明者等は、N溶解能力に優れ、同時に、低圧条件下でもcBNの核生成・成長を促進・助長する作用を有する金属触媒について研究を進めたところ、金属触媒の成分としてMoを含有させると、液相状態において、MoがNを溶解する能力が大であり、また、同じく金属触媒の成分としてAl及びMgのいずれか1種又は両者を含有させると、cBNの核発生・成長が促進・助長され、4〜5GPaという従来の合成圧力よりも低い圧力条件においてもcBNが合成されることを見出した。
つまり、hBNからcBNを合成する際の金属触媒として、Nを溶解する作用を有するMo成分と、cBN核発生・成長を促進・助長する作用を有するAl、Mg成分と、残部はBを溶解する作用を有するFe,Co,Ni成分からなる合金粉末あるいは混合粉末を用いることによって、合成最低圧力を4GPaにまで低下させることができ、その結果、従来よりも低圧力範囲でcBNを合成できることを見出したのである。
【0011】
さらに、本発明者らは、cBNを原料粉末とし、上記金属触媒を焼結助剤として用い、原料粉末と焼結助剤との混合粉に対して焼結を行ったところ、cBN粒子間で強固な直接結合を有する緻密かつ高硬度のcBN焼結体が得られることをも見出した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 金属触媒の存在下、超高圧高温条件で六方晶窒化ホウ素(hBN)から立方晶窒化ホウ素(cBN)を合成する立方晶窒化ホウ素(cBN)の合成方法において、上記金属触媒は、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上の成分組成からなる合金粉末あるいは混合粉末であって、さらに、上記合成を、4GPa以上、1200〜1900℃で行うことを特徴とする立方晶窒化ホウ素(cBN)の合成方法。
(2) 立方晶窒化ホウ素(cBN)を原料粉末とし、該原料粉末に焼結助剤を添加して焼結することからなる立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体の製造方法において、焼結助剤として、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上の成分組成からなる合金粉末あるいは混合粉末を、原料粉末に5〜10体積%添加して焼結することを特徴とする立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体の製造方法。」を特徴とするものである。
【0013】
本発明について、以下に詳細に説明する。
【0014】
金属触媒の成分・組成:
金属触媒は、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上からなる合金粉末あるいは混合粉末として形成される。
Mo成分は、原材料であるhBNのNを溶融状態(液相)の金属触媒に溶解する作用を有するが、Mo成分の含有割合が15wt%未満では、Nの溶解量が少ないためcBNが十分生成されず、一方、Mo成分の含有割合が50wt%以上になると、金属触媒の溶融温度が高くなりすぎるために4〜5GPaという低圧力条件ではNの溶解度が低下しcBNが十分生成されないため、Nを溶解する作用を有するMo成分の含有割合は15wt%以上50wt%未満、好ましくは、20〜40wt%、と定めた。
Al成分、Mg成分は、いずれも、cBNの核発生・成長を促進・助長する作用を有し、金属触媒に少量添加含有させることで、cBN合成時の必要圧力を大きく低下させ、4〜5GPaの低圧条件でのcBNの合成を可能とするが、Al成分、Mg成分あるいは両者の合計含有割合が1.5wt%未満では、cBNの核発生・成長の促進・助長作用が少ないためcBNの形成が不十分となり、一方、Al成分が多すぎると窒化アルミニウムが生成してcBN生成の阻害要因となることがあり、また、Mg成分が多すぎるとホウ窒化マグネシウムが生成する可能性があり、焼結体を形成する上で望ましくないので、Al成分及びMg成分のいずれか1種又は2種の含有割合(但し、Al成分とMg成分の合計含有割合)を、1.5〜8wt%と定めた。
Fe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上の成分は、Fe,Co及びNi夫々単独でも、また、これらを2種以上組み合わせた場合でも、原材料であるhBNのBを、溶融状態(液相)の金属触媒に溶解する作用を有する。
なお、本発明の金属触媒は、所定の組成となるように各成分を混合した後、予めアーク溶解法、アトマイズ法等で合金化した合金粉末の形態で使用できるほか、各成分の粉末を所定の組成(配合)となるように配合しこれを混合した混合粉末の形態で使用することができる。
【0015】
合成条件(圧力、温度):
hBNからcBNへの合成は、例えば、図1に示す合成装置内に、合成用原材料であるhBNと上記金属触媒の粉末を共存させた状態で配置し、圧力4GPa以上、温度1200〜1900℃で合成することによって行うことができる。
この発明では、上記金属触媒を用いることにより、cBNの最低合成圧力を4GPaにまで低減することができ、従来の合成法に比し、はるかに低圧力範囲(好ましくは、4.4GPa以上)でcBNの合成を行うことができる(勿論、従来法における合成圧力、例えば、5〜8.5GPaという高圧で合成を行うことも可能であるが)ため、設備の大型化が不要になり、装置構成部材の耐用寿命も延びる等のメリットがある。
合成温度が1200℃未満では、金属触媒の溶解が生じないためcBNの合成反応が進行せず、一方、1900℃を超えると、hBN⇔cBNの圧力・温度平衡状態により4〜5GPa圧力領域においては1900℃以上はhBNの安定領域のため、合成したcBNがhBNに逆変換する恐れがあることから、反応合成温度を1200〜1900℃(好ましくは、1300〜1750℃)と定めた。
【0016】
cBN焼結体:
従来、例えば、特許文献3に記載されたように、WC−Co−Al、NiAl、Co67−W16.5−Al16.5wt%などを焼結助剤とし、cBN粒子が強固に結合した焼結体を作製するためには、圧力5.4GPa以上、温度1500℃以上で行わなければならなかったが、本発明によれば、cBNを原料粉末とし、cBNの合成に用いた前記特定の成分組成の合金粉末あるいは混合粉末からなる金属触媒を焼結助剤として用い、焼結助剤の配合割合が5〜10体積%となるように原料粉末に配合し、例えば、図2に示す焼結装置内にこの混合粉末を配置し、例えば、4.0〜6.0GPaで加圧しながら、1200〜2000℃の温度範囲で焼結すると、cBN粒子間に強固な直接結合を有する緻密かつ高硬度のcBN焼結体を得ることができる。つまり、cBN合成時に用いる上記金属触媒は、cBN焼結体を製造する際の焼結助剤としての機能も備えるといえる。
例えば、図1に示す合成装置により、本発明の合成法で合成(金属触媒としては、Co57.6−Mo38.4−Al4wt%の成分組成のCo−Mo−Al系の金属触媒を使用)したcBN粉末を原料粉末とし、上記金属触媒と同一成分組成のCo−Mo−Al系合金を焼結助剤として用い、焼結助剤の含有割合が、6.9体積%となるように配合し、これを図2に示す焼結装置で、5.0GPa×1900℃の条件で焼結することによってcBN焼結体を製造した。得られたcBN焼結体の走査型電子顕微鏡写真による組織及びこのcBN焼結体について測定したヴィッカース硬さ(Hv)を図3に示す。
図3から、本発明の製造法で製造されたcBN焼結体は、非常に緻密な組織を有し、かつ、極めて高い硬度(Hv:4000)を有することが分かる。
【発明の効果】
【0017】
上記のとおり、本発明は、特定の成分組成の金属触媒を用いてhBNからcBNを合成することにより、最低合成圧力を低下させることができるため従来に比し低圧力範囲(4GPa以上)で合成を行うことができ、cBN合成装置の大型化を必要とせず、設備費の低減を図ることができ、さらに、cBN合成装置構造部材の長寿命化を図ることができる。
また、cBNを原料粉末とし、上記金属触媒と同一成分組成の合金粉末、混合粉末を焼結助剤として用いて焼結を行うと、他の焼結所剤を用いることなしに、cBN粒子間に強固な直接結合を有すると同時に、緻密な組織な組織を有し、かつ、高硬度のcBN焼結体を製造することができ、cBN焼結体製造の低コスト化を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明のcBN合成方法、cBN焼結体の製造方法について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、金属触媒として、Co57.6−Mo38.4−Al4wt%からなる成分組成の合金粉末をあらかじめ作り、約7mm径で3mm厚さの2枚のhBN成形板(4)間に約1.6mm厚さのサンドイッチされた金属触媒(合金粉末)層(3)が形成されるように、外径10mm,内径7mm,高さ7.6mmの食塩(ジルコニア粉末を10wt%含む)成形体(5)の試料容器中に充填した。
これらの試料を、外径12mm,内径10mm,高さ17.6mmのグラファイト管状ヒーター(1)で囲み、内面にはMo箔(2)を配置し、ベルト型超高圧装置(アンビル先端径21mm,シリンダー内径25mm)で加圧し、その後ヒーターに電力を投入して加熱して、一定時間保持後、急速に温度を下げ、その後除圧して試料を取り出し、光学顕微鏡、X線回折などの手法で試料を同定した。
圧力4.4GPa、1300℃で2時間反応させた試料には、約50%のcBN粒子が含まれており、hBN板の中間に配置したCo57.6−Mo38.4−Al4wt%の成分組成の合金粉末は完全に溶解した形跡があり、大部分は原料hBNを配置した層内に吸収されていた。
次いで、合成されたcBNを原料粉末とし、焼結助剤として、上記金属触媒と同一成分組成からなる合金粉末(Co57.6−Mo38.4−Al4wt%)を用い、焼結助剤の含有割合が6.9体積%となるよう配合した混合粉末(2)を、図2に示す容器内に、超硬合金成形体(4)と食塩(ジルコニア粉末を10wt%含む)成形体(5)間にサンドイッチされるように充填し、圧力5.0GPa、1900℃で0.5時間焼結した。得られたcBN焼結体を走査型電子顕微鏡で観察したところ、cBN焼結体は、各cBN粒子間に強固な直接結合を有し、図3に示すように、緻密な焼結組織であって高硬度(Hv:4000)を有していた。
【実施例2】
【0020】
実施例1と同じ試料を用いて、圧力4.5GPa、温度1410℃で90分間反応させた後、試料を回収した。
原料hBNの約70%以上がcBNに変化しており、実施例1と同じく、hBN板の中間に配置したCo57.6−Mo38.4−Al4wt%の成分組成の合金粉末は完全に溶解した形跡があり、大部分は原料hBNを配置した層内に吸収されていた。溶解した金属成分はhBN層を完全に通り抜けて、hBN原料層全体に約0.3mm程度のcBN粒子が詰まり、その間隙にわずかに未反応のhBNが観察された。
【0021】
また、実施例1と同じ試料を用い、圧力を5GPa、温度を1300℃とした同様の実験を行い、X線回折により、cBNが合成されていることを確認した。
X線回折を行って得たX線回折チャートを図4として示すが、cBNピークの存在から、cBNが合成されていることは明らかである。
さらに、実施例1と同じ試料を用いて、種々の圧力、温度でcBN焼結体を製造した。得られたcBN焼結体を走査型電子顕微鏡で観察したところ、cBN焼結体は、各cBN粒子間に強固な直接結合を有し、緻密な焼結組織を有していた。また、各cBN焼結体について測定したヴィッカース硬さ(Hv)を表1に示す。
ここで、X線回折は、ブルカー製AXSMXP18VAHFにより測定し、cBN焼結体の硬さは、ダイヤモンドペーストを研摩剤として焼結体表面を研摩した後、その表面のヴィッカース硬さ(Hv)を測定した。
【0022】
【表1】

【実施例3】
【0023】
実施例1と同じ試料を用いて、圧力4.7GPa、温度1436℃で1時間反応させた後、試料を回収した。原料hBNのほぼ100%がcBNに変化していた。
【実施例4】
【0024】
Co60−Mo40wt%の成分組成の合金粉末をまず調整して、それに対して4wt%の含有割合になるようにAlを添加したCo57.6−Mo38.4−Al4wt%組成の混合粉末からなる金属触媒を用いて、6GPa、1750℃で20分間反応させたところ、試料中のhBNはほぼ100%cBNに変化していた。
【実施例5】
【0025】
実施例4と同じCo60−Mo40wt%の成分組成の合金粉末に対して、1.5wt%の含有割合になるようにAlを添加した混合粉末からなる金属触媒を用いて、実施例4と同じ6GPa、1750℃で25分間反応させた試料の状況を調べたところ、金属触媒層は収縮が大きくかなりの部分が原料hBNに吸収されていて、cBNの収率は約70%であった。
【比較例1】
【0026】
一方、実施例4と同じCo60−Mo40wt%の成分組成の合金粉末に対して、0.5wt%の含有割合になるようにAlを添加した混合粉末からなる金属触媒を用いて、実施例4と同じ6GPa、1750℃で30分間反応させたところ、試料の金属触媒層は原料hBN層と固着しておらず、金属触媒層の変形もわずかであった。
また、X線回折を行ったところ、図5のX線回折チャートに示されるように、hBNの回折ピークが存在するもののcBNの回折ピークはみられず、cBNへの転換が生じていないことがわかる。
【0027】
上記実施例5と比較例1の結果からみると、Co60−Mo40wt%の成分組成の合金粉末に対して、Alの含有割合が1.5wt%以上になるように添加含有させたCo−Mo−Al系金属触媒を用いることによって、効果的な触媒効果が出現することを確認できた。
したがって、金属触媒におけるAl含有割合は、少なくとも1.5wt%以上必要であることがわかる。
【比較例2】
【0028】
Co81.6−Mo14.4−Al4wt%の成分組成の混合粉末を金属触媒として用いて、4.7GPa、1480℃で1時間反応させた試料を調べたところ、一部に微細なcBN粒子が析出していたが、その収率は約20%以下にすぎなかった。
【0029】
上記実施例1〜5の結果と、比較例2の結果の比較から、金属触媒におけるMo含有割合が少ない場合には、cBNへの変換反応の触媒効果は低下することがわかる。
したがって、金属触媒においては、少なくとも15wt%以上のMoが含有されていることが必要である。
【比較例3】
【0030】
Co96−Al4wt%の成分組成(すなわち、実施例1〜7と異なり、Mo成分を全く含まない)の金属触媒を用いて、実施例1と同様な方法で、4.8GPa、1436℃で1時間反応させたところ、試料からはcBNが全く検出されなかった。
同様に、上記の金属触媒(すなわち、Mo成分を全く含まないCo96−Al4wt%の成分組成)を用いて、実施例1と同様な方法で、5.5GPa、1440℃で1時間反応させた場合にも、試料からはcBNが全く検出されなかった。
そこで、合成圧力及び合成温度を高め、6.2GPa、1600℃で40分間反応させた反応物、及び、6GPa、1650℃で50分間反応させた反応物についてcBN生成の有無を調べたところ、多量のcBNが検出された。
【0031】
上記比較例3の結果から、Moを全く含まない金属触媒(Co−Al合金)を用いた場合には、cBNの最低合成圧力は約6GPaであって、cBNを合成するためには超高圧が必要とされることがわかる。
しかし、実施例1〜5からも明らかなように、Moを15wt%以上50wt%未満の範囲内で含有する本発明の金属触媒を用いた場合(実施例1〜5)には、cBNの最低合成圧力を4GPaにまで低減することができ、本発明によれば、低圧力範囲でcBNを合成できることが確認された。
【実施例6】
【0032】
cBN核発生・成長の促進・助長成分であるMg成分を含有する金属触媒として、Co58.2−Mo38.8−Mg3wt%の成分組成の混合粉末を用いて(即ち、実施例1〜5におけるcBN核発生促進・助長作用を有するAl成分に代えてMgを用いる)、実施例1と同様な試料構成によって、4.2GPa、1370℃で1時間反応させたところ、金属触媒層付近の一部分に非常に微細なcBN粒子の析出が観察された。
このことから、MgはAlと同様に、cBNの核発生・成長を促進・助長する作用を有し、金属触媒におけるMgの含有割合が1.5〜8wt%の範囲内であれば、cBNの核発生・成長を促進・助長する作用は効果的に発揮されることがわかる。
さらに、cBN核発生・成長の促進・助長成分として、AlとMgを併用した場合にも、両者の含有割合の合計量が1.5〜8wt%の範囲内であれば、cBNの核発生・成長を促進・助長する作用は十分に発揮されることを確認した。
【実施例7】
【0033】
Bを溶解する作用を有する成分であるFe成分を含有する金属触媒として、Fe60.14−Mo36.86−Al3wt%の成分組成を持つ混合粉末を用意し、実施例1に述べたと同じ方法で、4.4GPa、1300℃で1時間反応させて、生成物を調べたところ、およそ0.3〜0.5mmの比較的大きなサイズのcBN粒子が生成していた。
上記金属触媒を用い、合成条件を変更し、5.8GPa、1450℃で1時間反応させたところ、合成されたcBNは上記の場合よりもはるかに細かいcBN粒子から構成されていた。
また、4.4GPa、1450℃で1時間反応させてcBNの析出状況を調べたところ、金属触媒との界面付近に少量のcBN粒子が析出していることから、4.4GPaがこの金属触媒を使用したときのcBN合成の最低圧力条件であることが確認された。
さらに、上記で合成されたcBNを原料粉末とし、上記金属触媒と同一成分組成の混合粉末を焼結助剤として用い、種々の圧力(4.0〜6.0GPa)、温度(1200〜2000℃)でcBN焼結体を製造し、得られたcBN焼結体の組織を観察し、また、焼結体のヴィッカース硬さ(Hv)を測定した。
得られたcBN焼結体の組織は、実施例2の場合と同様であり、cBN焼結体は、各cBN粒子間に強固な直接結合を有し、緻密な焼結組織を有していた。
また、各cBN焼結体について測定したヴィッカース硬さ(Hv)を表2に示す。
【0034】
【表2】

【実施例8】
【0035】
Bを溶解する作用を有する成分であるNi成分を含有する金属触媒として、Ni76−Mo20−Al4wt%の成分組成を持つ混合粉末を用意し、実施例1に述べたと同じ方法で、4.8GPa、15440℃において1時間反応させたところ、約60%のhBN原料が微粒cBN結晶に変換していた。
【0036】
上記のとおり、本発明のcBN合成方法および合成したcBNを原料粉末としたcBN焼結体の製造方法によれば、金属触媒として、Nを溶解する作用を有するMo15wt%以上50wt%未満と、cBN核発生・成長の促進・助長作用を有するAl及びMgのいずれか1種又は2種1.5〜8wt%と、残部はBを溶解する作用を有するFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上からなる合金粉末あるいは混合粉末を用いることによって、従来よりも低圧力範囲(最低圧力4GPa)でcBNを合成することができ、また、上記金属触媒と同一成分組成の焼結助剤を用いた焼結により、cBN粒子間で強固な直接結合を有し、緻密な組織を備え高硬度を有するBN焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】hBNからcBNを合成するcBN合成装置の試料配置概略図を示す。
【図2】合成したcBNを原料粉末としてcBN焼結体を製造するためのcBN焼結体製造装置の試料配置概略図を示す。
【図3】Co57.6−Mo38.4−Al4wt%の金属触媒を用いて、合成したcBN粉末を原料粉末とし、Co57.6−Mo38.4−Al4wt%の金属触媒の含有割合が、6.9体積%となるように配合し、これを図2に示す焼結装置で、5.0GPa×1900℃の条件で焼結することによって得たcBN焼結体の走査型電子顕微鏡写真による組織及びこのcBN焼結体について測定したヴィッカース硬さ(Hv)を示す。
【図4】実施例2(圧力:5GPa、温度:1300℃)により合成したcBNのX線回折チャート(cBNピークが存在する)を示す。
【図5】比較例1(Co60−Mo40wt%の成分組成の合金粉末に対して、0.5wt%の含有割合になるようにAlを添加した混合粉末からなる金属触媒を用いて、hBNを6GPa、1750℃で30分間反応)で得た粉末のX線回折チャート(hBNピークが存在し、cBNピークは存在しない)を示す。
【符号の説明】
【0038】
1,11 :グラファイトヒーター
2 :Mo箔
3 :金属触媒
4 :hBN
5,15 :NaCl−10wt%ZrO
12 :cBN+焼結助剤(=金属触媒)
13 :Mo箔
14 :WC/Co

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒の存在下、超高圧高温条件で六方晶窒化ホウ素から立方晶窒化ホウ素を合成する立方晶窒化ホウ素の合成方法において、上記金属触媒は、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上の成分組成からなる合金粉末あるいは混合粉末であって、さらに、上記合成を、4GPa以上、1200〜1900℃で行うことを特徴とする立方晶窒化ホウ素の合成方法。
【請求項2】
立方晶窒化ホウ素を原料粉末とし、該原料粉末に焼結助剤を添加して焼結することからなる立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法において、焼結助剤として、15wt%以上50wt%未満のMoと、1.5〜8wt%のAl及びMgのいずれか1種又は2種と、残部はFe,Co及びNiのうちから選ばれる1種又は2種以上の成分組成からなる合金粉末あるいは混合粉末を、原料粉末に5〜10体積%添加して焼結することを特徴とする立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−137997(P2010−137997A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313054(P2008−313054)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】