説明

立軸ポンプ

【課題】背丈を低くして振動の発生を抑制し、かつ設置面積が狭くて足りる立軸ポンプ10を提供する。
【解決手段】吐出エルボ12の外壁の上に軸受ケーシング26を一体的に付設して、ポンプ軸30を軸受ケーシング26を貫通させ、軸受ケーシング26内でポンプ軸30を軸支し、軸受ケーシング26の上にクラッチケーシング28を一体的に付設して、ポンプ軸30をクラッチケーシング28内に挿入し、クラッチケーシング28内に配設された油圧クラッチ38の出力軸38aの下端部を筒状とし、ポンプ軸30の上端部を出力軸38aの下端部の筒状内に軸回りに相対回転できないように嵌入させる。立軸ポンプ10全体の背丈が低くなり、振動の発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行待機運転に好適な立軸ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ排水機場に設置される先行待機運転用の立軸ポンプにあっては、大雨などにより急な出水が予想される際に、吸込水槽の急激な水位の上昇に備えて、吸込水槽の水位が揚水運転できない低水位の状態から全速運転が開始される。かかる全速運転により、吸込水槽に大量の水が流入して水位が急激に上昇しても、迅速に排水することができる。そして、かかる先行待機運転用の立軸ポンプは、吸込水槽の水位が揚水運転できない低水位では気中運転がなされ、さらには充分な高さの水位となるまでは気水混合運転がなされ、充分な高さの水位となって揚水運転が可能となる。そこで、気中運転と気水混合運転および揚水運転が、吸込水槽の水位の変化に応じて、繰り返して行われる。この立軸ポンプの気中運転および気水混合運転にあっては、振動と騒音が発生し易いという問題点がある。また、特に気中運転では、水による潤滑と冷却がなされていないために、揚水管およびポンプケーシング内等でポンプ軸を軸支する軸受摺動部の温度上昇と摩耗による損傷が生じ易く、さらには振動により軸受が損傷し易い。そこで、特殊は水中軸受が、採用されていた。
【0003】
かかる従来の先行待機運転用の立軸ポンプの問題点を解決する技術として、特開平09−264287号公報(特許文献1)には、立軸ポンプの吐出エルボの外壁を上方に向けて貫通突出するポンプ軸を、吐出エルボの上方に配設された原動機の出力軸とクラッチを介して連結する構造が示されている。大雨などにより急な出水が予想される際に、吸込水槽の水位が揚水運転できない低水位の状態ではクラッチをOFF状態として、原動機の全速運転が開始される。そして、吸込水槽に大量の水が流入して水位が上昇すると、クラッチがON状態に制御される。クラッチをON状態に切り換え制御することで、立軸ポンプを直ちに全速運転させることができ、吸込水槽の水位が急激に上昇しても、迅速に排水することができる。そして、特許文献1記載の技術では、気中運転および気水混合運転が行われる必要がなく、立軸ポンプの振動と騒音を防止し得る。
【特許文献1】特開平09−264287号公報
【0004】
また、上述した従来の先行待機運転用の立軸ポンプの問題点を解決する他の技術として、特開2000−27788号公報(特許文献2)には、立軸ポンプの吐出エルボの外壁を上方に向けて貫通突出するポンプ軸を、吐出エルボの上方に配設された変速機の出力軸と連結し、変速機から横方向に突出した入力軸が変速機の横側方に配設された原動機に駆動連結される構造が示されている。しかも、変速機内で、横軸にクラッチを介装するとともに出力軸側の回転を規制するブレーキを設けることが示されている。特許文献1記載の技術と同様に、大雨などにより急な出水が予想される際に、吸込水槽の水位が揚水運転できない低水位の状態ではクラッチをOFF状態とするとともにブレーキをON状態として、原動機の全速運転が開始される。そして、吸込水槽に大量の水が流入して水位が上昇すると、クラッチがON状態にブレーキがOFF状態に制御される。クラッチをON状態にブレーキをOFF状態に切り換え制御することで立軸ポンプを直ちに全速運転させることができ、吸込水槽の水位が急激に上昇しても、迅速に排水することができる。また、クラッチがOFF状態の際にブレーキをON状態とすることで、ポンプ軸のいわゆるつれ回りが確実に規制される。特許文献2記載の技術では、特許文献1記載の技術と同様に、気中運転および気水混合運転が行われる必要がなく、立軸ポンプの振動と騒音を防止し得る。
【特許文献2】特開2000−27788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された技術にあっては、原動機の出力軸とクラッチの入力軸、およびクラッチの出力軸とポンプ軸がそれぞれに軸継手で連結されて、縦方向に配列されている。このため、立軸ポンプ全体の背丈が高いものとなり、それだけ振動が発生し易い構造である。また、かかる立軸ポンプが設置される揚水機場の建家も、立軸ポンプの背丈にに応じた高いものが必要となる。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された技術にあっては、原動機とクラッチおよび変速機が横軸により連結され、変速機の出力軸とポンプ軸が縦軸により連結されている。原動機とクラッチおよび変速機が横軸により連結されているために、立軸ポンプ全体の設置面積が広いものとなり、それだけ揚水機場の建家も広いものが必要となる。
【0007】
本発明は、上述のごとき事情に鑑みてなされたもので、立軸ポンプ全体の背丈をできるだけ低いものとして、振動の発生を抑制するとともに、設置面積が狭くて足りるようにした立軸ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述のごとき問題点を解決するためになされたもので、本発明の立軸ポンプは、吐出エルボの外壁をポンプ軸が上方に貫通突出する立軸ポンプにおいて、前記吐出エルボの外壁の上に軸受ケーシングを一体的に付設して、前記ポンプ軸を前記軸受ケーシングを貫通させ、前記軸受ケーシング内に配設された軸受で前記ポンプ軸を軸支し、前記軸受ケーシングの上にクラッチケーシングを一体的に付設して、前記ポンプ軸を前記クラッチケーシング内に挿入し、前記クラッチケーシング内に配設されたクラッチの出力軸の下端部を筒状とし、前記ポンプ軸の上端部を前記出力軸の下端部の筒状内に軸回りに相対回転できないように嵌入させ、前記クラッチの入力軸を前記クラッチケーシングから上方に貫通突出させ、上方に配設された駆動装置に駆動連結して構成されている。
【0009】
そして、前記クラッチケーシング内または前記軸受けケーシング内に、前記ポンプ軸の回転を規制するブレーキを配設して構成しても良い。
【0010】
また、前記クラッチケーシングから上方に貫通突出した前記クラッチの入力軸に冷却用ファンを配設して、前記クラッチケーシングに風を当てるように構成しても良い。
【0011】
さらに、前記軸受ケーシング内で前記ポンプ軸に同心上に接続部材を嵌合固定し、前記接続部材と前記軸受ケーシングの間にラジアル荷重を軸支するラジアル軸受とスラスト荷重を軸支するスラスト軸受を配設し、前記接続部材の下側部分に同心上に前記ポンプ軸より太径の内径太径部を設けて前記ポンプ軸との間に隙間を設け、筒状部材を前記軸受ケーシングの底壁に液密的接合するとともに前記底壁より上端が上になるように配設し、前記筒状部材を前記ポンプ軸と前記内径太径部の前記隙間に同心上に配設して、前記軸受ケーシングの底壁と前記ポンプ軸の間から潤滑油が漏出しないように構成することも可能である。
【0012】
そしてさらに、前記クラッチを油圧クラッチで構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の立軸ポンプにあっては、吐出エルボの外壁の上に軸受ケーシングを一体的に付設し、さらにその上にクラッチケーシングを一体的に付設し、ポンプ軸をクラッチケーシング内に挿入し、クラッチの出力軸の下端部にポンプ軸の上端部を軸回りに相対回転できないように嵌入させて連結したので、従来技術のようにポンプ軸とクラッチの出力軸を連結する軸継手を必要とせず、それだけ立軸ポンプ全体の背丈を低いものとすることができる。もって、振動の発生が抑制される。また、吐出エルボの外壁に軸受ケーシングとクラッチケーシングを一体的に付設しているので、これらのケーシングの振動も抑制することができる。
【0014】
そして、請求項2記載の立軸ポンプにあっては、ポンプ軸の回転を規制するブレーキを配設しているので、クラッチのOFF状態で、ポンプ軸をブレーキで拘束することで、駆動装置が運転された状態において、ポンプ軸がつれ回るようなことがない。もって、揚水管やポンプケーシング内でポンプ軸を軸支する軸受が、つれ回りによる軸受摺動部の摩耗や損傷が防止される。そこで、摩耗等に強い特殊な水中軸受等を必要とせずに、一般的なセラミック軸受を採用でき、交換を必要とする際に軸受の入手が容易である。
【0015】
また、請求項3記載の立軸ポンプにあっては、クラッチの入力軸に冷却用ファンを配設しているので、駆動装置が運転されている状態では、常にクラッチケーシングに風が当たり、クラッチケーシングを冷却することができる。そこで、クラッチケーシング内の潤滑油等を冷却でき、過熱を防止できる。
【0016】
さらに、請求項4記載の立軸ポンプにあっては、ポンプ軸に固定された接続部材の下側部分に同心上にポンプ軸より太径の内径太径部を設けてポンプ軸との間に隙間を設け、筒状部材を軸受ケーシングの底壁に液密的接合するとともに底壁より上端が上になるように配設して、筒状部材をポンプ軸と内径太径部の隙間に同心上に配設しているので、軸受ケーシングの底部に溜まった潤滑油が軸受ケーシングの底壁とポンプ軸の間から漏出するのを防止できる。
【0017】
そしてさらに、請求項5記載の立軸ポンプにあっては、クラッチを油圧クラッチで構成しているので、油圧のみの管理で済み、維持管理が容易であるとともに、機械的な信頼性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施例を図1ないし図2を参照して説明する。図1は、本発明の立軸ポンプの第1実施例の全体構造を示す縦断面図である。図2は、軸受ケーシングとクラッチケーシング内の構造を示す拡大した縦断面図である。
【0019】
図1および図2において、立軸ポンプ10の吐出エルボ12が吸込水槽14の上部を塞ぐ床16に固定され、吐出エルボ12の下端に吊下管18と揚水管20およびポンプケーシング22が順次に連結されて、吸込水槽14内に垂下される。吐出エルボ12の外壁に取付座24が設けられ、この取付座24の上に軸受ケーシング26が一体的に付設される。さらに、この軸受ケーシング26の上にクラッチケーシング28が一体的に付設される。そこで、軸受ケーシング26とクラッチケーシング28が、取付座24を介して吐出エルボ12の外壁に一体的に上下に積み重ねて配設される。なお、取付座24が省かれて、吐出エルボ12の外壁に直接的に軸受ケーシング26が一体的に配設されても良い。そして、ポンプ軸30の下端部でポンプケーシング22に臨む位置に羽根車32が配設される。ポンプ軸30の上部は、吐出エルボ12の外壁を上方に貫通突出し、さらに軸受ケーシング26を貫通してクラッチケーシング28内に挿入される。軸受ケーシング26内で、ポンプ軸30はラジアル軸受34およびスラスト軸受36で軸支される。また、クラッチケーシング28内で、ポンプ軸30の上端部が油圧クラッチ38の出力軸38aに軸回りに相対回転しないように嵌入させて連結され、油圧クラッチ38の入力軸38bがクラッチケーシング28から上方に突出されて軸継手40により上方に配設された駆動装置としての電動機42の出力軸42aと駆動連結されている。
【0020】
そして、ポンプ軸30には、軸受ケーシング26に臨んで略円筒状の接続部材46が嵌合固定され、ラジアル荷重が接続部材46の外側面に配設されるラジアル軸受34で軸受ケーシング26に軸支され、スラスト荷重が接続部材46の下端部に配設されるスラスト軸受36で軸受ケーシング26に軸支される。また、接続部材46の下側部分に同心上にポンプ軸30より太径の内径太径部46aを設けて、ポンプ軸30との間に隙間が設けられる。また、軸受ケーシング26の底壁26aにポンプ軸30と同心上に円筒部材48がその上端部が底壁26aより上となるように配設されて液密的に接合される。この円筒部材48は、接続部材48の内径太径部46aとポンプ軸30の間の隙間に同心上に配設される。
【0021】
また、クラッチケーシング28内に挿入されたポンプ軸30の上端部分の外周面には軸方向のスプライン加工30aがなされている。そして、油圧クラッチ38の出力軸38aは下端部がポンプ軸30が挿入し得る内径を有する筒状に形成され、その内周面に軸方向にポンプ軸30の上端部分の外周面になされたスプライン加工30aと噛合し得るようにスプライン加工がなされる。そこで、ポンプ軸30の上端部を油圧クラッチ38の出力軸38aに嵌入することで軸回りに相対回転しない構造が形成されて駆動連結される。油圧クラッチ38の入力軸38bは、その下端部分に太径の円筒形状の入力軸側円筒部38cが形成され、その外周全面に軸方向に多数の溝38d、38d…が刻設されて軸方向から見て歯車状に形成されている。そして、この入力軸側円筒部38cの外周面の歯車状の溝38d、38d…に係合し得る溝が内周面に刻設された入力軸側クラッチ板50、50…が、入力軸側円筒部38cの外周面に軸方向に複数枚配設される。入力軸側クラッチ板50、50…は、入力軸38bに対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。また、出力軸38aは、その上端部分に太径の円筒形状の出力軸側円筒部38eが形成されるが、その内周面が入力軸側円筒部38cの外周面に臨んでこれを覆うようにかなり太径に形成される。そして、その内周全面に軸方向に多数の溝38f、38f…が刻設されて軸方向から見て内歯歯車状に形成され、この出力軸側円筒部38eの内周面の歯車状の溝38f、38f…に係合し得る溝が外周面に刻設された出力軸側クラッチ板52、52…が、出力軸側円筒部38eの内周面に軸方向に複数枚配設される。出力軸側クラッチ板52、52…は、出力軸38aに対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。なお、入力軸側クラッチ板50、50…と出力軸側クラッチ板52、52…は、軸方向に交互に重なるように配設される。さらに、出力軸38aの下部分には、軸方向に交互に重なるように配設された入力軸側クラッチ板50、50…と出力軸側クラッチ板52、52…を密着させるように、上方に押し上げるクラッチピストン54が配設されている。クラッチピストン54に作動油が供給されると、作動桿が上方に突き上げられて、入力軸側クラッチ板50、50…と出力軸側クラッチ板52、52…を上方に押し上げて、相互に密着させて軸回りに相対回転できなくして、油圧クラッチ38がON状態とされる。作動油の供給が停止されると、作動桿が下方に移動して、入力軸側クラッチ板50、50…と出力軸側クラッチ板52、52…の密着状態を解除して解放状態となり、軸回りに相対回転できるようにして、油圧クラッチ38がOFF状態とされる。なお、入力軸38bは、クラッチケーシング28にラジアル軸受により適宜に軸支され、出力軸38aは入力軸38bとクラッチケーシング28にラジアル軸受により適宜に軸支されている。
【0022】
さらに、クラッチケーシング28内で、出力軸38aとクラッチケーシング28の間に油圧ブレーキ56が配設される。出力軸38aの下端部に一体的に設けられたリング部材58の外周面の全面に軸方向に多数の溝58a、58a…が刻設されて軸方向から見て歯車状に形成されている。そして、このリング部材58の外周面の歯車状の溝58a、58a…に係合し得る溝が内周面に刻設されたディスク60が、リング部材58の外周面に配設される。ディスク60は、出力軸38aに対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。また、クラッチケーシング28には、リング部材58の外周面に臨んで太径の内周面部28aが形成され、その内周全面に軸方向に多数の溝28b、28b…が刻設されて軸方向から見て内歯歯車状に形成される。この内周面部28aの内周面の歯車状の溝28b、28b…に係合し得る溝が外周面に刻設されたブレーキパッド62、62が、軸方向に2枚配設される。ブレーキパッド62、62は、クラッチケーシング28に対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。なお、2枚のブレーキパッド62、62で、1枚のディスク60を軸方向に挟むように配設される。さらに、クラッチケーシング28の下部分には、ブレーキパッド62、62とディスク60を密着させるように、上方に押し上げるブレーキピストン64が配設されている。ブレーキピストン64に作動油が供給されると、作動桿が上方に突き上げられて、ブレーキパッド62、62とディスク60が相互に密着させて軸回りに相対回転できなくなり、油圧ブレーキ56がON状態とされる。もって、出力軸38aの軸回りの回転が規制され、ポンプ軸30も軸回りの回転が規制される。作動油の供給が停止されると、作動桿が下方に移動して、ブレーキパッド62、62とディスク60の密着状態を解除して解放状態となり、軸回りに相対回転できるようになり、油圧ブレーキ56がOFF状態とされる。
【0023】
クラッチケーシング28の外周面に、油圧クラッチ38に作動油を供給するための作動油の経路が開口され、この作動油の経路が油クラッチ38の出力軸38aに設けた経路を経てクラッチピストン54に供給される。軸回りに回転する出力軸38aに作動油を供給するには、出力軸38aの外周に軸回りの溝を設けてその軸方向の両側をOリング等で液密状態として作動油の経路を形成し、この経路から出力軸38aに設けたクラッチピストン54に作動油を供給すれば良い。また、クラッチケーシング28の外周面に、油圧ブレーキ56に作動油を供給するための別の作動油の経路が開口され、ブレーキピストン64に作動油が供給される。さらに、クラッチケーシング28の外周面には、潤滑油を供給するためのの潤滑油の経路が開口され、入力軸38bとクラッチケーシング28の間で軸支する軸受に潤滑油が供給される。そして、クラッチケーシング28の潤滑油の経路から入力軸38bに設けられた軸回りの経路を介して、入力軸側クラッチ板50、50…と出力軸側クラッチ板52、52…の間、および入力軸38bと出力軸38aの間で軸支する軸受とに潤滑油が供給される。なお、クラッチケーシング28の下部には、内側と外側を連通させる潤滑油排出口28cが設けられていて、クラッチケーシング28の底部に溜まった潤滑油が適宜に外部に排出される。さらに、クラッチケーシング28の外周面に、油圧ブレーキ56に潤滑油を供給するための別の潤滑油の経路が開口され、ブレーキパッド62、62とディスク60の間に潤滑油が供給され、これらのブレーキパッド62、62とディスク60を潤滑した潤滑油が、軸受ケーシング26内に流下してラジアル軸受34およびスラスト軸受36を潤滑して軸受ケーシング26の底部に溜まる。軸受ケーシング26の下部には、内側と外側を連通させる潤滑油排出口26bが設けられていて、軸受ケーシング26の底部に溜まった潤滑油が適宜に外部に排出される。なお、クラッチケーシング28から回転する油圧クラッチ38の入力軸38bや出力軸38aに作動油および潤滑油を供給する技術は、公知の技術であり、詳細な説明は省略した。
【0024】
油圧クラッチ38の潤滑油は粘性を有するものが用いられている。そこで、油圧クラッチ38がOFF状態であっても、入力軸38bが回転している状態では、出力軸38aを自由に回転できる状態としたならば、潤滑油の粘性により出力軸38aはいわゆるつれ回りにより回転する。先行待機運転にあっては、吸込水槽14の水位が揚水運転不可能な低水位な状態で油圧クラッチ38をOFF状態として電動機42の全速回転がなされる。ここで、つれ回りにより出力軸38aが回転したとすると、揚水状態でないために揚水管20やポンプケーシング22内でポンプ軸30を軸支する軸受に潤滑水が供給されずに軸受摺動部の過熱や摩耗が生じ易く、特殊な水中軸受が必要となる。先行待機運転においては、出力軸38aがつれ回りしないように回転が規制されていれば良い。そのために、油圧ブレーキ56が設けられていて、この油圧ブレーキ56をON状態とすることでつれ回りが規制できる。
【0025】
かかる構成からなる本発明の立軸ポンプ10にあっては、ポンプ軸30をクラッチケーシング28内に挿入し、油圧クラッチ38の出力軸38aの下端部にポンプ軸30の上端部を軸回りに相対回転できないように嵌入させて連結したので、従来技術のようにポンプ軸30と油圧クラッチ38の出力軸38aを連結する軸継手を必要とせず、それだけ立軸ポンプ10全体の背丈を低いものとすることができる。もって、振動の発生が抑制される。また、吐出エルボ12の外壁の上に軸受ケーシング26を一体的に付設し、さらにその上にクラッチケーシング28を一体的に付設しているので、これらのケーシングの振動も抑制することができる。さらに、ポンプ軸30の回転を規制する油圧ブレーキ56を配設しているので、油圧クラッチ38のOFF状態で、ポンプ軸30を油圧ブレーキ56で拘束することで、電動機42が運転された状態において、ポンプ軸30がつれ回るようなことがない。もって、揚水管20やポンプケーシング22内でポンプ軸30を軸支する軸受が、つれ回りによって軸受摺動部の摩耗や損傷が生ずるのが防止される。そこで、摩耗等に強い特殊な水中軸受を必要とせずに、一般的なセラミック軸受を採用でき、交換を必要とする際に軸受の入手が容易である。そして、ポンプ軸30に固定された接続部材46の下側部分の内径太径部46aとポンプ軸30との間の隙間に、軸受ケーシング26の底壁26aに液密的接合した円筒部材48を同心上に配設しているので、軸受ケーシング26の底壁26aとポンプ軸30の間から潤滑油が漏出するのを防止できる。そしてさらに、油圧クラッチ38と油圧ブレーキ56を用いているので、油圧のみの管理で済み、維持管理が容易であるとともに、機械的な信頼性も高い。
【0026】
次に、本発明の第2実施例を図3を参照して説明する。図3は、本発明の立軸ポンプの第2実施例の全体構造を示す縦断面図である。図3において、図1および図2に示したものと同じまたは均等な部材には、同じ符号を付けて重複する説明を省略する。
【0027】
本発明の第2実施例において、第1実施例と相違するところは、クラッチケーシング28から上方に突出する油圧クラッチ38の入力軸38bに、クラッチケーシング28方向に風を送る冷却用ファン66が配設されたことにある。かかる構成の第2実施例にあっては、電動機42が運転されている状態では、常にクラッチケーシング28に風が当たり、クラッチケーシング28を冷却することができる。もって、クラッチケーシング28内の潤滑油等を冷却でき、過熱を防止できる。
【0028】
さらに、本発明の第3実施例を図4を参照して説明する。図4は、本発明の立軸ポンプの第3実施例の全体構造を示す縦断面図である。図4において、図1ないし図3に示したものと同じまたは均等な部材には、同じ符号を付けて重複する説明を省略する。
【0029】
本発明の第3実施例において、第1実施例と相違するところは、電動機42が吸込水槽14の床16よりも上方に設けられた第2の床68に配設されている。そして、クラッチケーシング28から上方に突出する油圧クラッチ38の入力軸38bが、連結軸70を介して電動機42の出力軸42aに連結される。電動機42の出力軸42aと連結軸70および油圧クラッチ38の入力軸38bと連結軸70は、それぞれにフレキシブルカップリング72、72で連結されている。かかる構成の第3実施例にあっても、第1実施例と同様に、ポンプ軸30をクラッチケーシング28内に挿入し、油圧クラッチ38の出力軸38aの下端部にポンプ軸30の上端部を軸回りに相対回転できないように嵌入させて連結したので、立軸ポンプ10全体の背丈を低いものとすることができ、振動の発生が抑制される。また、吐出エルボ12の外壁の上に軸受ケーシング26とクラッチケーシング28を一体的に付設しているので、これらのケーシングの振動も抑制することができる。
【0030】
そしてさらに、本発明の第4実施例を図5を参照して説明する。図5は、本発明の立軸ポンプの第4実施例の軸受ケーシングとクラッチケーシング内の構造を示す拡大した縦断面図である。図5において、図1ないし図4に示したものと同じまたは均等な部材には、同じ符号を付けて重複する説明を省略する。
【0031】
第4実施例において、第1実施例と相違するところは、軸受ケーシング26内で、ポンプ軸30に嵌合固定された接続部材46と軸受ケーシング26の間に油圧ブレーキ74が配設されることにある。接続部材46の外周面の全面に軸方向に多数の溝46b、46b…が刻設されて軸方向から見て歯車状に形成されている。そして、この接続部材46の外周面の歯車状の溝46b、46b…に係合し得る溝が内周面に刻設されたディスク76が、接続部材46の外周面に配設される。ディスク76は、接続部材46に対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。また、軸受ケーシング26には、接続部材46の外周面に臨んでポンプ軸30と同心上の太径の内周面部26cが形成され、その内周全面に軸方向に多数の溝26d、26d…が刻設されて軸方向から見て内歯歯車状に形成される。この内周面部26cの内周面の歯車状の溝26d、26d…に係合し得る溝が外周面に刻設されたブレーキパッド78、78が、軸方向に2枚配設される。ブレーキパッド78、78は、軸受ケーシング26に対して軸回りに相対回転せずに軸方向に移動自在である。なお、2枚のブレーキパッド78、78で、1枚のディスク76を軸方向に挟むように配設される。さらに、軸受ケーシング26の内周面部26cの下部分には、ブレーキパッド78、78とディスク76を密着させるように、上方に押し上げるブレーキピストン80が配設されている。ブレーキピストン80に作動油が供給されると、作動桿が上方に突き上げられて、ブレーキパッド78、78とディスク76が相互に密着させて軸回りに相対回転できなくなり、油圧ブレーキ74がON状態とされる。もって、接続部材46の軸回りの回転が規制され、ポンプ軸30も軸回りの回転が規制される。作動油の供給が停止されると、作動桿が下方に移動して、ブレーキパッド78、78とディスク76の密着状態を解除して解放状態となり、軸回りに相対回転できるようになり、油圧ブレーキ74がOFF状態とされる。もって、第4実施例においても、ポンプ軸30の回転を規制する油圧ブレーキ74を配設しているので、油圧クラッチ38がOFF状態で油圧ブレーキ74をON状態とすれば、電動機42が運転された状態においてもポンプ軸30がつれ回るようなことがない。
【0032】
なお、上記実施例にあっては、油圧クラッチ38および油圧ブレーキ56、74を用いているが、クラッチおよびブレーキは油圧により作動するものに限られず、電磁気等により作動するものであっても良いことは容易に理解されるであろう。また、駆動装置は、電動機42に限られず、ディーゼルエンジン等であっても良く、さらに駆動装置に変速機が連結され、その変速機の出力軸が油圧クラッチ38の入力軸38bに連結するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の立軸ポンプの第1実施例の全体構造を示す縦断面図である。
【図2】軸受ケーシングとクラッチケーシング内の構造を示す拡大した縦断面図である。
【図3】本発明の立軸ポンプの第2実施例の全体構造を示す縦断面図である。
【図4】本発明の立軸ポンプの第3実施例の全体構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の立軸ポンプの第4実施例の軸受ケーシングとクラッチケーシング内の構造を示す拡大した縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 立軸ポンプ
12 吐出エルボ
14 吸込水槽
16 床
18 吊下管
20 揚水管
22 ポンプケーシング
24 取付座
26 軸受ケーシング
26a 底壁
26b 潤滑油排出口
26c 内周面部
26d 溝
28 クラッチケーシング
28a 内周面部
28b 溝
28c 潤滑油排出口
30 ポンプ軸
30a スプライン加工
32 羽根車
34 ラジアル軸受
36 スラスト軸受
38 油圧クラッチ
38a 出力軸
38b 入力軸
38c 入力軸側円筒部
38d 溝
38e 出力軸側円筒部
38f 溝
40 軸継手
42 電動機
42a 出力軸
46 接続部材
46a 内径太径部
46b 溝
48 円筒部材
50 入力軸側クラッチ板
52 出力軸側クラッチ板
54 クラッチピストン
56 油圧ブレーキ
58 リング部材
58a 溝
60 ディスク
62 ブレーキパッド
64 ブレーキピストン
66 冷却用ファン
68 第2の床
70 連結軸
72 フレキシブルカップリング
74 油圧ブレーキ
76 ディスク
78 ブレーキパッド
80 ブレーキピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出エルボの外壁をポンプ軸が上方に貫通突出する立軸ポンプにおいて、前記吐出エルボの外壁の上に軸受ケーシングを一体的に付設して、前記ポンプ軸を前記軸受ケーシングを貫通させ、前記軸受ケーシング内に配設された軸受で前記ポンプ軸を軸支し、前記軸受ケーシングの上にクラッチケーシングを一体的に付設して、前記ポンプ軸を前記クラッチケーシング内に挿入し、前記クラッチケーシング内に配設されたクラッチの出力軸の下端部を筒状とし、前記ポンプ軸の上端部を前記出力軸の下端部の筒状内に軸回りに相対回転できないように嵌入させ、前記クラッチの入力軸を前記クラッチケーシングから上方に貫通突出させ、上方に配設された駆動装置に駆動連結して構成したことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の立軸ポンプにおいて、前記クラッチケーシング内または前記軸受けケーシング内に、前記ポンプ軸の回転を規制するブレーキを配設して構成したことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項3】
請求項1記載の立軸ポンプにおいて、前記クラッチケーシングから上方に貫通突出した前記クラッチの入力軸に冷却用ファンを配設して、前記クラッチケーシングに風を当てるように構成したことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項4】
請求項1記載の立軸ポンプにおいて、前記軸受ケーシング内で前記ポンプ軸に同心上に接続部材を嵌合固定し、前記接続部材と前記軸受ケーシングの間にラジアル荷重を軸支するラジアル軸受とスラスト荷重を軸支するスラスト軸受を配設し、前記接続部材の下側部分に同心上に前記ポンプ軸より太径の内径太径部を設けて前記ポンプ軸との間に隙間を設け、筒状部材を前記軸受ケーシングの底壁に液密的接合するとともに前記底壁より上端が上になるように配設し、前記筒状部材を前記ポンプ軸と前記内径太径部の前記隙間に同心上に配設して、前記軸受ケーシングの底壁と前記ポンプ軸の間から潤滑油が漏出しないように構成したことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項5】
請求項1ないし4記載のいずれかの立軸ポンプにおいて、前記クラッチを油圧クラッチで構成したことを特徴とする立軸ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−94509(P2011−94509A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247633(P2009−247633)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000151058)株式会社電業社機械製作所 (21)
【Fターム(参考)】