説明

竪型遠心分離装置

【課題】高速回転で、且つ、バッチ方式で遠心分離を行うのに適した竪型遠心分離装置を提供する。
【解決手段】被処理液の供給口が下部側に形成され、遠心分離された分離液の排出口が上部側に形成され、遠心分離の実行時において鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒と、前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りに回転可能に収容されるケーシングと、前記円筒状回転筒の供給口に被処理液を供給する供給装置と、前記円筒状回転筒を回転させる駆動装置と、を含み、バッチ方式で遠心分離を行う縦型遠心分離装置において、前記円筒状回転筒の胴部が、内周側に配置される円筒状の金属と、前記金属の外周面に被覆された繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックの表面を覆うコート層の少なくとも三層構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竪型遠心分離装置に関し、特に、高速回転で、且つ、バッチ方式で遠心分離を行うのに適した竪型遠心分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離装置は、回転するボウル内に被処理液を供給することにより、被処理液に遠心力を付与して固−液分離,液−液分離,或いは固−液−液分離などの目的に応じた分離操作を行うことのできる装置である。遠心分離装置は、分野を問わず各種の産業分野で広く採用されている。
【0003】
遠心分離装置には、鉛直軸を回転軸にしてボウルが回転する竪型遠心分離装置と、水平軸を回転軸にしてボウルが回転する横型遠心分離装置がある。竪型遠心分離装置は、横型に比べて、ボウルを収容するケーシングの気密性を高めた構造であるので、例えば薬品や化学の分野にも適用可能である。しかし、バッチ方式で遠心分離を行う竪型遠心分離装置の場合、ボウルの内部の沈降した固形物の排出作業・洗浄作業を行う際の不便性などの課題がある。
【0004】
特許文献1は、バッチ方式で遠心分離を行う竪型遠心分離装置を開示する。特許文献1の竪型遠心分離装置は、ボウル内から固形物を排出する作業を行うために、ケーシングの上部を開放してボウルを抜き出しする。特許文献1の第1図に示されている回転機構を備えていないタイプの場合は、図5に模式的に示すように、ボウルを斜め上に引き上げて抜き出す。ボウルは金属製であるため、ケーシングから人の手でボウルを抜き出し、さらに洗浄場所まで運んで洗浄する負担は大きい。例えばステンレス製の場合、直径が160mm,長さが730mmのボウルでも総重量が46kgにおよぶことがある。そのため、作業員の負担を軽減するための対策が望まれている。
【0005】
また、作業員の負担以外にも、ボウルの重量が大きい場合には慣性力に因ってボウルの回転が停止するまでの待ち時間が長いという課題がある。従って、例えば1日のうちに複数回のバッチ処理を行う場合には、1日の作業時間に占める待ち時間の割合も大きく、その分、処理効率が悪くなってしまう。
【0006】
特許文献2には、鋼製の内殻と繊維強化プラスチック製の外殻とで形成された軽量のボウルを備えた遠心分離装置が開示されている。しかしながら、特許文献2の遠心分離装置は、ボウル内にスクリューコンベアを配置し、低速回転で、且つ、連続運転により遠心分離を行う横型の遠心分離装置である。従って、高速回転で、且つ、バッチ式で遠心分離を行う縦型の遠心分離装置に単純に適用した場合、繊維強化プラスチックを追加したことに起因する問題が新たに発生する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−220750号公報
【特許文献2】特表平10−512799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、本発明は、一例として挙げた上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高速回転で、且つ、バッチ方式で遠心分離を行うのに適した竪型遠心分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る竪型遠心分離装置は、被処理液の供給口が下部側に形成され、遠心分離された分離液の排出口が上部側に形成され、遠心分離の実行時において鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒と、前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りに回転可能に収容されるケーシングと、前記円筒状回転筒の供給口に被処理液を供給する供給装置と、前記円筒状回転筒を回転させる駆動装置と、を含み、バッチ方式で遠心分離を行う縦型遠心分離装置において、前記円筒状回転筒の胴部が、内周側に配置される円筒状の金属と、前記金属の外周面に被覆された繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックの表面を覆うコート層の少なくとも三層構造であることを特徴とする。
【0010】
前記繊維強化プラスチックの層は、複数枚の繊維強化プラスチックのシートを厚さ方向に重ね貼りした構成であり、これらシートの端部の位置が、円筒状回転筒の周方向において均等に割り付けされていることが好ましい。この場合、前記複数枚のシートは3枚で一組みであり、一組を構成する3枚のシートの端部の位置が、円筒状回転筒の周方向において120°間隔で均等に割り付けされていることが一例として挙げられる。さらに前記複数枚のシートは少なくとも二組以上であり、シートの引張り強度が大きい繊維方向が円筒状回転筒の周方向に沿って配置される一組みのシートと、シートの引張り強度が大きい繊維方向が円筒状回転筒の長さ方向に沿って配置される他の組みのシートを含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る竪型遠心分離装置は、円筒状回転筒の胴部が、内周側に配置される円筒状の金属と、前記金属の外周面に被覆された繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックの表面を覆うコート層の少なくとも3層構造としたことにより、金属の部分を薄くすることができ、軽量化された分において作業員の負担を軽減することが可能である。また、減衰特性がステンレスに比べ優れているため振動を軽減することも可能である。
【0012】
さらに、繊維強化プラスチック層の外周面をコート層で覆ったことにより、繊維強化プラスチック層の表面が平滑されるので、高速で回転させた際の空気摩擦に因る発熱を抑えることができる。高速で円筒状回転筒を回転させると、空気摩擦に因って外周面側で発生した熱が円筒状回転筒内の温度分布に悪影響を及ぼすことが懸念される。被処理液の種類によっては、温度変化によって品質が悪化するものもある。コート層が空気摩擦による発熱を抑制し、円筒状回転筒内の被処理液の品質劣化を防止する本発明の効果は、高速回転という条件下においてこそ特に有効となる。
【0013】
コート層の材料は、特に制限されないが、塗料やコーティング材を用いることができる。被処理液に対する耐食性を有する材料を用いれば、円筒状回転筒の金属部分や繊維強化プラスチックの部分の腐食を防止することができる。
【0014】
さらに、複数枚の繊維強化プラスチックのシートを厚さ方向に重ね貼りして繊維強化プラスチックの層を構成し、これらシートの端部の位置が、円筒状回転筒の周方向において均等に割り付けされていることにより、周方向のアンバランスが抑制され、高速回転させても振動を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好ましい実施形態に従う竪型遠心分離装置の縦断面図である。
【図2】上記竪型遠心分離装置の正面図である。
【図3】上記竪型遠心分離装置が備えるボウルの縦断面図である。
【図4】上記ボウルの繊維強化プラスチックの層の説明図である。
【図5】ボウルをケーシングから抜き出す作業の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態による竪型遠心分離装置について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0017】
図1は、本実施形態に従う竪型遠心分離装置の縦断面図であり、図2は、竪型遠心分離装置の正面図である。また、図3は、ボウルの縦断面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態に従う竪型遠心分離装置1は、鉛直方向に配置された円筒状回転筒であるボウル2と、ボウル2を回転可能に収容する外装体をなすケーシング3と、遠心分離の実行時にボウル2を鉛直軸廻りに回転させる駆動装置としての駆動モータ4と、これらを支持する支持装置5を備えている。
【0019】
ケーシング3は、支持装置5に支持されるケーシング本体31と、このケーシング本体31の上部に脱着可能に設けられる上部ケーシングとしての捕集カバー32を備えている。捕集カバー32は、遠心分離の実行時において、遠心力の作用によってボウル2の上部側から排出される分離液を受け止めて排出ノズル34へと導く機能を有する。本実施形態の竪型遠心分離装置は、被処理液を固−液−液の3相に分離する機能を備えている。そのため、捕集カバー32は、比重の小さい液(軽液)を捕集する第1捕集カバー32aと、比重の大きい液(重液)を捕集する第2捕集カバー32bで構成されており、それぞれ軽液用の排出ノズル34a及び重液用の排出ノズル34bに捕集した液を排出する。排出ノズル34a,34bには配管(不図示)が脱着可能に接続され、これらの配管は分離液の貯留タンクにそれぞれ接続されている。なお、固−液−液の3相分離でなく、固−液の2相分離を行う装置の場合は、捕集カバーを1つにすることもできる。
【0020】
ボウル2は、詳しくは図3に示すように、内部が空洞に形成された円筒形の胴部21を有し、下部側に被処理液の供給口22が形成され、上部側の回転軸から離れた位置に軽液を排出する排出口23aと重液を排出する排出口23bがそれぞれ形成されている。供給口22には、被処理液の供給装置としての供給ノズル24が下方側から内挿されている。供給ノズル24は、回転されるボウル2の内壁面と接触しないように、ボウル2の内壁面から離して配置している。被処理液は、例えばポンプなどの送液手段(不図示)によって、供給ノズル24を介してボウル2内に供給される。なお、図示は省略するが、ボウル2の内部には、ボウル2の内部空間を周方向に区画する羽根部材(例えば羽根が3枚のスリーウイング)なお、図3からも分かるように、ボウル2には分離された固形分の排出口は設けていない。すなわち、本実施形態の竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時において分離液は連続的に排出するが、固形分はボウル2内に蓄積させていき、ボウル2をケーシング3から抜き出してから固形分の回収を行うバッチ方式を採用する。
【0021】
ボウル2の寸法は限定されないが、一例として、内径を95〜160mm、長さを457〜730mmの範囲内から選択される寸法に設定することができる。ボウル2の胴部21は、図3に示される形状の金属を母体とし、この金属の円筒状の部分の外周面に繊維強化プラスチックを被覆し、さらに繊維強化プラスチックの外周面をコート層で覆った構成である。すなわち、詳しくは図3(b)に示されるように、金属の層21A,繊維強化プラスチックの層21B,コート層21Cの三層構造となっている。金属としては、例えばステンレスやハステロイなどを用いることができる。金属の内周面の部分は被処理液と接するので、被処理液に対して耐食性を有する金属を選択するのが好ましい。繊維強化プラスチックとしては、例えば炭素繊維強化プラスチックなどを用いることができる。また、コート層21Cの材料としては、例えばフタル酸樹脂系塗料などの耐食塗料,無機系又は有機系のコーティング材などを用いることができる。
【0022】
前述の三層構造の部分における金属の層21Aの厚みは、例えば3mm程度に薄く設定することができる。繊維強化プラスチックの層21Bの厚みは、例えば2〜4mmの範囲内に設定することができる。但し、前記範囲に厚みが限定されることはなく、金属の層21Aの厚みは機械加工ができる厚さとし、繊維強化プラスチックの層21Bの厚みは高速回転によって金属が永久変形を発生しないレベルとする。また、コート層21Cの層厚は、例えば50〜70μmの範囲内に設定することができる。
【0023】
好ましい一例として、繊維強化プラスチックの層21Bは、シート状の繊維強化プラスチックを胴部21の外周面に巻くことによって構成することができる。より具体的には、図4(a)に概念的に示すように、1枚のシートSで胴部21を一周巻きにし、シートSの端部同士の間(すなわち、つなぎ目S1)に隙間がないように、且つ、オーバーラップしないようにシートSを切断して、シートSの幅を調整する。一枚のシートSの厚みは、薄い方が好ましく、例えば0.2〜0.3mmである。本実施形態では、複数枚のシートSを繊維強化プラスチックの層21Bの厚さ方向に重ね貼りすることによって所望の厚みの繊維強化プラスチックの層21Bを形成し、その際に各シートSの端部のつなぎ目を胴部21の周方向において均等に割り付けるようにしている。
【0024】
図4(b)は、12枚のシートを用いたときの好ましい各シートの配置を示す。まず、1枚目から3枚目のシートを一つの組みとし、これらシートの端部のつなぎ目が120°間隔で均等に割り付けられるように、1〜3枚目までのシートを胴部21に順に巻く。このとき、1枚目から3枚目までのシートは、繊維方向が胴部21の周方向に沿うよう向きを合わせる。すなわち、繊維強化プラスチックのシートは、一般的に、繊維の織り方に因って縦又は横方向のいずれか一方の引張り強度が他方よりも大きくなるようになっている。そこで、1枚目から3枚目までのシートは、周方向の引張り応力にボウル2が耐え得るように、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の周方向に沿うように配置する。
【0025】
続いて4枚目のシートは、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の長さ方向(軸方向)に沿うように向きを合わせて胴部21に巻く。これにより、長さ方向の引張り応力にボウル2が耐え得るようにする。後述する8枚目と12枚目のシートも、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の長さ向に沿うように配置する。従って、4枚目,8枚目及び12枚目の3枚のシートを一つの組とし、これらシートの端部のつなぎ目を120°間隔で均等に割り付けるようにする。4枚目,8枚目及び12枚目のシートの端部のつなぎ目は、例えば1枚目から3枚目のシートの端部のつなぎ目とは時計回りに90°位相をずらした位置とする。
【0026】
続いて、5枚目から7枚目の3枚のシートを一つの組みとし、これらシートの端部のつなぎ目が120°間隔で均等に割り付けられるように、且つ、1枚目から3枚目のシートの端部のつなぎ目とは時計回りに60°位相をずらした位置となるように胴部21に順に巻く。5〜7枚目までのシートは、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の周方向に沿うよう配置する。次に、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の長さ方向(軸方向)に沿うように向きを合わせた8枚目のシートを胴部21に巻く。
【0027】
続いて、9枚目から11枚目の3枚のシートを一つの組みとし、これらシートの端部のつなぎ目が120°間隔で均等に割り付けられるように、且つ、1枚目から3枚目のシートの端部のつなぎ目とは時計回りに30°位相をずらした位置となるように胴部21に順に巻く。5〜7枚目までのシートは、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の周方向に沿うよう配置する。次に、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の長さ方向(軸方向)に沿うように向きを合わせた12枚目のシートを胴部21に巻く。
【0028】
上記12枚目まで巻き終わると後述する硬化処理を行うこともできるが、硬化後に行う旋盤加工で削り落すことを前提として、つまり旋盤加工の削り代のために、更にもう一組みのシートを巻くようにするのが好ましい。すなわち、13〜15枚目のシートを、例えば4枚目,8枚目及び12枚目のシートと同じ移送に巻くことができる。
【0029】
シートの固定方法について説明すると、1枚目のシートを貼る前にガルバニック腐食防止のためフィルムボンドを貼り付ける。その後、1枚目のシートから順に巻いていく。このとき、例えば一組みのシートを巻き終える毎にコンパクション(真空引き)を行うことが好ましい。そして、最後の15枚目のシートを巻き終えた後に、オートクレープで例えば60〜125℃に加熱してシートを硬化させることにより繊維強化プラスチックの層を形成する。硬化後、表面を旋盤加工することによって外径の寸法を調整し、その上に耐食塗料を塗布し、乾燥させて塗膜を形成する。
【0030】
図1及び図3に説明を戻すと、ボウル2は、脱着手段であるカップリングナット25によって、ベアリングアッセンブリ26の回転軸26aと脱着可能に連結されている。ベアリングアッセンブリ26は、回転ベルト41を通じて駆動モータ4の回転プーリ42と連結されている。従ってボウル2の回転軸の上端は、カップリングナット25と螺合するネジ部27が形成されている。遠心分離の実行時においては、ボウル2とベアリングアッセンブリ26とを連結することによってボウル2が懸架支持され、駆動モータ4の動力によって鉛直軸廻りに回転可能となる。一方、ボウル2をケーシング3から抜き出す際には、カップリングナット25による連結を解除することによって、ボウル2とベアリングアッセンブリ26の連結状態を解除する。
【0031】
さらに、ボウル2の回転軸の下端側には、例えばスリーブ部材28が固定配置されている。このスリーブ部材28は、例えばネジ部28aによってボウル2に固定されている。さらに、スリーブ部材28と摺動するブッシング部材61がケーシング3に固定配置されている。符号62は、ドレインを排出するための排出路である。ボウル2の回転を停止すると、このドレイン排出路を通じてボウル2内の液が抜け落ちる。
【0032】
上記のように構成された竪型遠心分離装置1を用いてバッチ方式で遠心分離を行う手順について説明する。まず、図1に示されるような遠心分離を行える状態に準備する。そして、ボウル2を鉛直軸廻りに回転させると共に、供給ノズル24を通じてボウル2内に被処理液を供給する。ボウル2は、例えば1万G以上、好ましくは2万G以上の遠心力が発生するまで高速回転させる。回転されるボウル2内に被処理液が供給されると、遠心力の作用によって固形物と液(分離液)とに分離される。被処理液を供給し続けることにより、遠心力の作用も働いて分離液である軽液と重液が排出口23a,23bから連続的に排出され、排出ノズル34a,34bを通じて装置外に排出される。一方、固形分は、ボウル2内の内周面側から順次蓄積されていく。
【0033】
そして、例えば所定の時間が経過するか、ボウル2内の固形物が所定量蓄積されると、駆動モータ4を停止すると共に、供給ノズル24からの被処理液の供給を停止する。そして、慣性力によって回転するボウル2が自然に停止するまで待機する。例えば2万Gの遠心力が発生するまで高速回転させていたボウル2を自然停止する場合、従来のようなステンレス製のものに比べ、繊維強化プラスチックを採用したボウル2は重量で約3分の2となる。すなわち、慣性モーメントも約3分の2となるため、自然停止する時間が約3分の2に短縮でき、待機時間を約33%削減できる。
【0034】
ボウル2の回転が止まると、固形分を回収する作業が行われる。まず上部ケーシングである捕集カバー32を外し、さらにカップリングナット25を外し、図5に模式的に示したように、ボウル2を斜め上に引き上げてケーシング3から抜き出す。ケーシング3から抜き出されたボウル2は、図示しない荷台によって移送されて固形分の排出及び洗浄作業が行われる。固形分の排出及び洗浄を終えたボウル2は、再び装置に設置され、次のバッチが行われる。
【0035】
以上のように、本実施形態に従う竪型遠心分離装置よれば、ボウル2の胴部21を金属層21A,繊維強化プラスチック層21B及びコート層31Cの3層構造としたことにより、金属の部分を薄くすることができ、ボウル2が軽量化された分においてバッチ処理時における作業員の負担を軽減することが可能となる。さらに、起動時においてボウル2の回転速度が設定値に到達するまでの時間、停止時にボウル2の回転が止まるまでの待機時間を短縮することが可能である。
【0036】
さらに、本実施形態に従う竪型遠心分離装置よれば、前述の3層構造としたことによってボウル2の減衰特性が向上するので、高速回転時における振動を軽減することが可能である。なお、上述の説明では、好ましい実施形態として3層構造を示したが、必ずしも3層でなくともよく、金属層21Aと繊維強化プラスチック層21Bの間、及び/又は、繊維強化プラスチック層21Bとコート層21Cの間に、新たな層を追加してもよい。
【0037】
高速でボウル2を回転させると、空気摩擦に因って外周面側で発生した熱がボウル2内の温度分布に悪影響を及ぼすことが懸念される。例えば食品,医薬品,バイオの分野では、温度変化によって品質が悪化する被処理液がある。しかし、本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、繊維強化プラスチックの層21Bの外側をコート層21Cで覆ったことにより、繊維強化プラスチックの層21Bの表面が平滑されるので、高速で回転させた際の空気摩擦に因る発熱を抑えることができる。コート層21Cが空気摩擦による発熱を抑制し、ボウル2内の被処理液の品質劣化を防止する効果は、高速回転という条件下においてこそ特に有効である。さらに、繊維強化プラスチックは、種類によって熱伝導率が異なるので、被処理液の種類や金属層21A及びコート層21Cの熱伝導率との関係を考慮して適切な熱伝導率を有する繊維強化プラスチックを選択するのが好ましい。
【0038】
さらに、本実施形態によれば、複数枚の繊維強化プラスチックのシートを厚さ方向に重ね貼りして繊維強化プラスチックの層を構成し、これらシートの端部のつなぎ目の位置が、胴部21の周方向において均等に割り付けされていることにより、周方向のアンバランスが抑制され、動バランス修正の際の少ないバランス修正量となり、高速回転させても振動を抑制することが可能である。特に、3枚で一組みとしたシートのつなぎ目を120°間隔で配置することによって、周方向のアンバランスを抑制する効果が高まる。さらに、図4(b)に例示するように、全てのシートのつなぎ目が30°間隔となるように配置すれば、より確実に周方向のアンバランスを抑制することが可能となる。
【0039】
さらに、本実施形態によれば、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の周方向に沿うよう配置されるシートの一組と、引張り強度が大きい繊維方向が胴部21の長さ方向(軸方向)に沿うよう配置されるシートの一組とを少なくとも備えたことにより、周方向のアンバランスを抑制すると共にボウル2の必要強度を確保することが可能となり、高速回転で且つバッチ方式の遠心分離に対する適用性がさらに向上する。
【0040】
なお、本発明が適用可能な竪型遠心分離装置は、図1に示した構成に限定されることはなく、例えば特許文献1に示されているようなケーシングを水平に回転させてからボウルを抜き出すタイプであってもよい。
【0041】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0042】
1 竪型遠心分離装置
2 ボウル
21A 金属層
21B 繊維強化プラスチックの層
21C コート層
3 ケーシング
4 駆動モータ
5 支持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液の供給口が下部側に形成され、遠心分離された分離液の排出口が上部側に形成され、遠心分離の実行時において鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒と、前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りに回転可能に収容されるケーシングと、前記円筒状回転筒の供給口に被処理液を供給する供給装置と、前記円筒状回転筒を回転させる駆動装置と、を含み、バッチ方式で遠心分離を行う縦型遠心分離装置において、
前記円筒状回転筒の胴部が、内周側に配置される円筒状の金属と、前記金属の外周面に被覆された繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックの表面を覆うコート層の少なくとも三層構造であることを特徴とする縦型遠心分離装置。
【請求項2】
前記繊維強化プラスチックの層は、複数枚の繊維強化プラスチックのシートを厚さ方向に重ね貼りした構成であり、
これらシートの端部の位置が、円筒状回転筒の周方向において均等に割り付けされていることを特徴とする請求項1に記載の縦型遠心分離装置。
【請求項3】
前記複数枚のシートは3枚で一組みであり、一組を構成する3枚のシートの端部の位置が、円筒状回転筒の周方向において120°間隔で均等に割り付けされていることを特徴とする請求項2に記載の縦型遠心分離装置。
【請求項4】
前記複数枚のシートは少なくとも二組以上であり、シートの引張り強度が大きい繊維方向が円筒状回転筒の周方向に沿って配置される一組みのシートと、シートの引張り強度が大きい繊維方向が円筒状回転筒の長さ方向に沿って配置される他の組みのシートを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の縦型遠心分離装置。
【請求項5】
前記竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時に固形物を排出する排出口が設けられておらず、且つ、内部に堆積した固形物を除去するために円筒状回転筒が脱着される構成であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の竪型遠心分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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