説明

端子・コネクタ用導電材料及び嵌合型接続端子

【課題】多極化の小型端子に適し、微摺動磨耗による電気接触抵抗の上昇を抑えることができ、高い電気接続信頼性を有する端子・コネクタ用導電材料及び嵌合型接続端子を提供する。
【解決手段】導電性を有する基材2と、基材2の上に形成されたSn又はSn合金からなるSnメッキ層5とを備えた端子・コネクタ用導電材料であって、Snメッキ層5の積層方向厚さが、0.1〜15.0μmの範囲内とされており、Snメッキ層5の表面には、Ag−Sn微粒子が凝集したAg−Sn合金層6が形成されており、Ag−Sn合金層6の平均厚さが0.002〜1.0μmの範囲内に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電子機器などの振動を受けやすい場所に設置される接続端子及びコネクタの素材として適した端子・コネクタ用導電材料及びこの端子・コネクタ用導電材料を用いた嵌合型接続端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、接続端子やコネクタを形成する端子・コネクタ用導電材料としては、導電性基材である銅合金または鉄鋼材料の表面にSn金属を被覆したSnメッキ材が利用されている。Snメッキ材は優れる半田濡れ性と電気接触特性(接点特性)を兼ね備え、また低コストであるため、端子・コネクタ用導電材料として広く利用されている。
近年、自動車の電装化が進み、LSIやIC等の集積回路が多く使用されてきており、端子やコネクタに流れる信号電流も低レベル化している。これに伴い、接続端子及びコネクタの電気的な接触抵抗の安定性が要求されている。
【0003】
自動車に用いられる接続端子及びコネクタは、走行などに伴う振動によって端子相互が短い距離(20〜100μm)を接触状態で移動(摺動)し、接触点で接続端子及びコネクタの表層に形成されたメッキ層を磨耗するいわゆる微摺動磨耗(フレッティングコロージョン)が発生する。この微摺動磨耗が発生すると、接続端子及びコネクタの表面が削られて摩耗粉が発生し、この摩耗粉が大気雰囲気中において酸化されることになる。そして、酸化した摩耗粉が接点間に入り込むことにより、接触不良が生じる上に、さらに研磨材として作用して接点の磨耗を促進する。これにより、端子・コネクタの電気接触抵抗が増大し、製品の電気接続信頼性が低下してしまうという問題が知られている。
【0004】
特に、前述の一般的なSnメッキ材を用いて形成した接続端子及びコネクタは、Sn金属が比較的柔らかいため、自動車等の振動を受ける環境下での電気接続に使用すると、微摺動磨耗の影響により接点部分にSnメッキ層自体の酸化、またはメッキ層が速く消耗して下地材料の酸化により電気的な接続が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、従来より、接続端子及びコネクタの微摺動摩耗性を改善する種々の対策が提案されている。例えば、特許文献1には、接続端子及びコネクタの形状を変えることによって雄端子と雌端子の間の嵌合力を大きくし、振動を抑えるとともに端子の間の隙間を小さくして電気接触抵抗の上昇を抑える方法が開示されている。つまり、摩擦により形成した酸化物粉末が接点の間に入らないような形状としているのである。
また、特許文献2には、コネクタ材料として、微摺動磨耗によって表面が酸化しない材料、例えば、Ag,Au,Pdなどの貴金属メッキ処理材料を利用することが提案されている。
【特許文献1】特開2001−297820号公報
【特許文献2】特開昭62−70596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、自動車の電装化の進展に伴って電子制御装置の多機能化が要求され、コネクタの端子数(ピン数)が増える方向に進行しており、コネクタの多極化とともに端子の小型化が要求されている。このため、コネクタ接点部の荷重(端子間嵌合力)の低減化が求められている。しかしながら、コネクタ接点部の荷重を低減すると、振動を受けやすくなり、摩擦によって生じる酸化物粉末が端子の接点の間に入りやすくなるため、コネクタの接触障害や電気接触抵抗の増加などの問題が発生しやすくなるといった問題があった。また、荷重が小さくなる場合、端子材料の表面状態(酸化膜や表面導電性)は接点部の電気接続状態に対して大きな影響を与えることになる。このため、特許文献1に記載されたようにコネクタ形状を工夫しただけでは微摺動磨耗を十分に抑えることができなくなってきている。
【0007】
また、特許文献2に記載されているように貴金属メッキ処理材料を利用した場合には、材料コストが大幅に上昇してしまうことになる。さらに、はんだ濡れ性が悪いため部品の組立方法を従来のSnメッキ材とは大幅に変更する必要となり、既存の実装ラインの設備や手段を変更することになるため、広く実用化することは困難であった。
【0008】
さらに、最近では、コネクタの小型化と狭ピッチ化に伴い、鉛フリーSnメッキ材に対する耐ウィスカー性が要求される上に、自動車のエンジンルームにおけるコネクタ端子に対して高温環境での電気接触抵抗の安定性、すなわち耐熱性の要求も益々高くなってくる。言い換えると、製品の電気接続信頼性を向上するために、自動車や電気機器などに使用する端子・コネクタ・接点材料に対する要求は年々厳しくなっており、特に、コネクタ端子材料の高温微摺動磨耗性などの特性については、より一層厳しく要求されている。
そこで、製品の電気接続信頼性向上のため、微摺動磨耗による表面の酸化は発生し難い材料、または微摺動磨耗によった電気接触抵抗の劣化を抑制できるSnメッキ端子・コネクタ材料の提供が強く望まれている。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、多極化の小型端子に適し、微摺動磨耗による電気接触抵抗の上昇を抑えることができ、高い電気接続信頼性を有する端子・コネクタ用導電材料及び嵌合型接続端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Snメッキ層の上に薄いAg層を形成し、Snが溶融する温度よりもはるかに低い温度で保持することでAgとSnとを拡散・反応させ、Snメッキ層の表層にAg−Sn微粒子が凝集したAg−Sn合金層を形成させ、このAg−Sn合金層及びSnメッキ層の厚さを適正化することで微摺動摩耗による接触抵抗の上昇を抑制可能であるとの知見を得た。また、嵌合型接続端子において、メス端子のメッキ構造とオス端子のメッキ構造との組み合わせにより、嵌合型接続端子の寿命延長を図ることが可能であるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明に係る端子・コネクタ用導電材料は、導電性を有する基材と、該基材の上に形成されたSn又はSn合金からなるSnメッキ層とを備えた端子・コネクタ用導電材料であって、前記Snメッキ層の積層方向厚さが、0.1〜15.0μmの範囲内とされており、前記Snメッキ層の表面には、Ag−Sn微粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されており、該Ag−Sn合金層の平均厚さが0.002〜1.0μmの範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0012】
この構成の端子・コネクタ用導電材料においては、Snメッキ層の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されている。ここで、Ag−Sn粒子が凝集することで形成されたAg−Sn合金層は、耐食性が高いため使用環境においてSnメッキ層の表面の酸化を抑制できる。
また、このAg−Sn粒子は、主にAgSn金属間化合物からなるので、この端子・コネクタ用導電材料の表面は硬く、耐磨耗性を向上させることができ、摩耗粉の発生を抑えることができる。
【0013】
さらに、微摺動によって発生した摩耗粉が酸化されて表面に分散した場合でも、端子・コネクタ用導電材料の表面には導電性を有するAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が存在しており、このAgSn金属間化合物によって電気的接触を行うことができ、接触抵抗の増加を抑えることができる。
詳述すると、接続端子は、まず、表層のSnメッキ層同士によって電気的に接続されている。これに微摺動が作用し続けると、Snメッキ層のSnが削られて摩耗粉になり、それが更に酸化されて表層に分散することになり、電気接触抵抗が上昇することになる。ここで、本発明では、Snメッキ層の表面にAg−Sn合金層が形成されていることから、Snメッキ層の表面には、酸化Snとともに導電性を有するAg−Sn粒子が分散することになり、電気接触抵抗の上昇が抑えられるのである。
【0014】
さらに、前記Ag−Sn合金層の平均厚さ0.002〜1.0μmの範囲内に設定されているので、AgSn金属間化合物を確実に存在させて接触抵抗の増加を抑えることができるとともに、表面に純Agが存在することがなくAgの硫化変色による電気接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0015】
また、Snメッキ層の積層方向厚さが、0.1μm以上とされているので、半田濡れ性
とAg−Sn合金層の形成を確保することができる。また、Snメッキ層の積層方向厚さが、15.0μm以下とされているので、この端子・コネクタ用導電材料の加工性を確保することができる。また、嵌合型接続端子を形成した場合の挿抜性を確保することができる。
なお、前記基材としては、少なくても表面が導電性である材料が用いられる。例えば、CuとCu合金、またはFeとFe合金などの金属からなる導電性材料や、非導電性材料の表面に導電性材料を被覆した複合材料などが用いることができる。そのうち、導電性が高く機械的な特性も良好であるCuとCu合金材料が好適である。
【0016】
ここで、前記基材と前記Snメッキ層との間に、Cu又はCu合金からなるCu層を形成してもよい。
この場合、Cu層によって前記基材表面の化学状態を均一にし、その上にSnメッキ層を形成することで、基材の元素のSnメッキ層への拡散を防止し、Snメッキ層の均一性を向上させることができる。なお、このCu層の形成方法は、特に限定はなく、電気メッキ、無電解メッキ、置換メッキでもよい。
【0017】
さらに、前記基材の上に、前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層を形成してもよい。
この場合、拡散防止層によって、高温環境下における基材中の元素とSnとの拡散合金化を防止でき、この端子・コネクタ用導電材料の耐熱性及びSnメッキ層と基材との接合強度を向上させることができる。なお、拡散防止層をなす元素は、前記基材中の元素と反応しにくいものであればよい。ここで、例えばCuまたはCu合金からなる基材の場合、拡散防止層として、Ni、Cr、Mo、W、Al、Ti、Zr,V、Ta、Nb等、またはこれらの合金を適用することができる。
【0018】
本発明に係る嵌合型接続端子は、互いに嵌合するオス端子及びメス端子を有する嵌合型接続端子であって、前記オス端子及び前記メス端子の少なくとも一方が、前述の端子・コネクタ用導電材料で構成されていることを特徴としている。
この構成の嵌合型接続端子によれば、微摺動が作用しても導電性を有するAgSn金属間化合物によって接触抵抗の上昇を抑えることができ、電気接続信頼性を大幅に向上させることができる。
【0019】
さらに、前記オス端子及び前記メス端子の両方が、前述の端子・コネクタ用導電材料で構成されており、前記Ag−Sn合金層が互いに対向するように配置されている構成を採用してもよい。
この場合、Ag−Sn合金層同士が互いに対向するように配置されているので、微摺動摩耗による電気接触抵抗の上昇を確実に抑えることができる。また、一方が早期に摩耗することがなく、この嵌合型接続端子の寿命延長を図ることができる。さらに、耐熱性に優れているので、例えば、自動車のエンジンルーム等の高温環境下でも使用することができる。また、本発明のAg−Sn合金層を被覆するSn導電材料は、優れる耐熱性と耐Snウィスカー性を有するため、自動車のエンジンルームなどの高温環境下でも適用し、特に接続端子間の嵌合力によるSnウィスカーの発生にも抑制することができ、製品の信頼性を向上することができる。
【0020】
また、前記オス端子及び前記メス端子のいずれか一方が、前述の端子・コネクタ用導電材料で構成されており、前記オス端子及び前記メス端子の他方が、Snメッキ導電材料で構成されている構成を採用してもよい。
この場合、一方の端子がAg−Sn合金層を有していて表面が比較的硬く、他方の端子がSnメッキ導電材料であって表面が一方の端子よりも表面が軟らかくなる。このように、硬質のメッキ層(Ag−Sn合金層)と軟質のメッキ層(Snメッキ層)とを組み合わせることによって振動を吸収することが可能となり、微摺動磨耗性を大幅に改善することができる。
【0021】
さらに、前記メス端子に、前記オス端子側に向けて突出した凸部を形成し、前記メス端子が前述の端子・コネクタ用導電材料で構成され、前記オス端子がSnメッキ導電材料で構成されている構成を採用してもよい。
この場合、凸部が形成されたメス端子を比較的硬いAg−Sn合金層を備えたものとすることにより、最も磨耗して劣化し易い凸部のメッキ層の消耗を抑制することができ、一方的に早期磨耗することがなく、端子全体の寿命延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多極化の小型端子に適し、微摺動磨耗による電気接触抵抗の上昇を抑えることができ、高い電気接続信頼性を有する端子・コネクタ用導電材料及び嵌合型接続端子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の第1の実施形態である端子・コネクタ用導電材料1について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である端子・コネクタ用導電材料1は、図1に示すように、基材2と、この基材2の表面に形成されたNiメッキ層3と、Niメッキ層3の表面に形成されたCu層4と、Cu層4の表面に形成されたSnメッキ層5と、Snメッキ層5の表面に形成されたAg−Sn合金層6とを備えている。
【0024】
基材2は、導電性を有する金属で構成されており、本実施形態では、基本的に各種銅合金で構成されているが、鉄系合金も用いられる。
Niメッキ層3は、基材2の元素の拡散防止層とし、Ni又はNi合金で構成されており、基材2の表面に電気メッキ法によって形成されている。このNiメッキ層3の厚さは、0.01〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0025】
Cu層4は、NiとSnの合金化の拡散防止層とし、Cu又はCu合金で構成されており、Niメッキ層3の表面に電気メッキ法によって形成されている。Cu層4は、Niメッキ層3のNiがSnメッキ層5に拡散することを防止する作用を有している。具体的には、Cu層4の厚さは0.1〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0026】
Snメッキ層5は、Sn又はSn合金で構成されており、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されている。このSnメッキ層5の厚さは、基本的に半田濡れ性を満足すればよく、その用途により0.1〜15.0μmの範囲内に設定されている。このSnメッキ層5には、後述するリフロー処理(溶融処理)が施されており、メッキ層5内部の応力が解放されている。
【0027】
Ag−Sn合金層6は、基材2とSnメッキ層5との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層5の表層部分にAg−Sn粒子が凝集することによって形成されている。なお、Ag−Sn粒子は、導電性を有するAgSn金属間化合物である。Ag−Sn合金層6の平均厚さは、0.002〜1.0μmの範囲内に設定されている。なお、Ag−Sn合金層6は、その厚さが0.002〜1.0μmとされているので、微粒子またはその微粒子の凝集体としてSnメッキ層に均一に分散している状態又は連続的に密集した状態とされている。
【0028】
以下に、このSnメッキ導電材料1の製造方法について、図3に示すフロー図を参照にして説明する。
まず、基材2の表面に電気メッキによってNiメッキ層3を形成する(Niメッキ層形成工程S1)。
次に、Niメッキ層3の表面に電気メッキによってCu層4を形成する(Cu層形成工程S2)。
そして、Cu層4の上にSnメッキ層5を電解メッキ又は無電解メッキによって形成する(Snメッキ層形成工程S3)。
このようにSnメッキ層5をメッキにて形成した後に、Sn金属の融点以上に加熱してSnを溶融させるリフロー処理を行う(リフロー処理工程S4)。この時点で、Cu層4の一部または全部がCu−Sn合金となる。
【0029】
次に、図2に示すように、リフロー処理が施されたSnメッキ層5の表面に、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、厚さ0.001〜0.5μmのAg又はAg合金からなるAg層7を形成する(Ag層形成工程S5)。
【0030】
そして、Snメッキ層5の表面にAg層7を形成した状態で10以上100℃未満に調整された温水浴中に浸漬して2秒以上保持し、Ag層7のAgとSnメッキ層5のSnとを反応させてAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)を生成させて厚さ0.002〜1.0μmのAg−Sn合金層6を形成する(Ag−Sn合金層形成工程S6)。
【0031】
以上のようにして、本実施形態である端子・コネクタ用導電材料1が製造される。この端子・コネクタ用導電材料1は、図4に示すように、互いに嵌合するオス端子8Aとメス端子8Bとからなる嵌合型接続端子8に加工されて使用される。
【0032】
本実施形態である端子・コネクタ用導電材料1によれば、Snメッキ層5の表層部分にAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が凝集したAg−Sn合金層6が形成されており、このAg−Sn合金層6は耐食性が高いため、使用環境においてSnメッキ層5の表面酸化を抑制することができる。また、Ag−Sn合金層6がAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)で構成されているので、この端子・コネクタ用導電材料1の表面が硬くなり、耐磨耗性を向上させることができ、摩耗粉の発生を抑えることが可能となる。
【0033】
さらに、微摺動によって発生した摩耗粉が酸化されて表面に分散した場合でも、端子・コネクタ用導電材料1の表面には導電性を有するAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が存在しており、このAgSn金属間化合物によって電気的接触を行うことができ、接触抵抗の上昇を抑えることができる。。
【0034】
また、Ag−Sn合金層6の平均厚さ0.002〜1.0μmの範囲内に設定されているので、AgSn金属間化合物を確実に存在させて接触抵抗の増加を抑えることができるとともに、表面に純Agが存在することがなくAgの硫化変色による電気接触抵抗の上昇を抑制できる。
さらに、高温環境において長期使用した場合、Snメッキ層5が完全にSn−Cu合金化したとしても、Snメッキ層5上に酸化しにくいAg−Sn粒子が凝集して常にメッキ層表面にいるため、Sn−Cu合金の酸化にも関らず、電気通路として端子・接点の電気的な接続を維持することができる。
特に、表面のAg−Sn粒子は下のSnメッキ層5に引張応力を与え、Sn−Cu合金化と伴う生じる内部応力や端子間の嵌合による外部応力などの圧縮応力とを相殺し、Snメッキの端子材に関する最大な問題であるSnウィスカー発生を抑制することができるため、製品の全面的な信頼性を向上することができる。
【0035】
さらに、Snメッキ層5の積層方向厚さが、0.1μm以上とされているので、半田濡れ性とAg−Sn合金層6の形成を確保することができる。また、Snメッキ層5の積層方向厚さが、15.0μm以下とされているので、この端子・コネクタ用導電材料1の加工性を確保することができる。また、嵌合型接続端子を形成した場合の挿抜性を確保することができる。
【0036】
また、基材2とSnメッキ層5との間に、基材2の元素の拡散防止層としてNi又はNi合金からなるNiメッキ層3が形成されているので、このNiメッキ層3によって、基材2のCu等の元素がSnメッキ層5へと拡散することを防止でき、Snメッキ導電材料1の耐熱性を向上させることができ、高温環境での使用時においても熱剥離を防止することができる。
また、Niメッキ層3の上に、Ni拡散防止層としてCu層4が形成されているので、このCu層4によってNiがSnメッキ層5中に拡散することを防止でき、Snメッキ層5の半田濡れ性の劣化を防止することができる。
【0037】
また、本実施形態である端子・コネクタ用導電材料1は、基材2の表面にNi又はNi合金からなるNiメッキ層3を形成するNiメッキ層形成工程S1と、Niメッキ層の上にCu又はCu合金からなるCu層4を形成するCu層形成工程S2と、Cu層4の上にSn又はSn合金からなるSnメッキ層5を形成するSnメッキ層形成工程S3と、Snメッキ層5に加熱処理を施すリフロー処理工程S4と、このSnメッキ層形成工程によって形成されたSnメッキ層5の上に、Ag又はAg合金からなるAg層7を形成するAg層形成工程S5と、10℃以上100℃未満で2秒以上保持し、Ag層7のAgとSnメッキ層5のSnとを反応させてAg−Sn合金層6を形成するAg−Sn合金層形成工程S6と、によって製造される。
【0038】
ここで、Ag−Sn合金層形成工程S6における温度条件が10℃以上とされているので、AgとSnとの反応を促進することができる。また、Ag−Sn合金層形成工程S6における温度条件が100℃未満とされているので、AgとSnとの必要以上の反応を抑制でき、Ag−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が、基材2とSnメッキ層5との積層方向に沿った断面においてSnメッキ層5の全体に分散されてしまうことを防止でき、Snメッキ層5の表層にAg−Sn粒子を凝集させることが可能となる。また、水浴系液に浸漬することでAg−Sn合金層形成工程S6を行うことができ、高温加熱炉等を使用することなく低コストで端子・コネクタ用導電材料1を製造することができる。
【0039】
また、Ag層形成工程S5が、電気メッキ法、無電解メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって厚さ0.001〜1.0μmのAg層7を形成するものとされているので、AgとSnとの反応を促進させてAg−Sn粒子を生成し、Ag−Sn合金層6を確実に形成することができるとともに、Ag層7のAgの全てを反応させることができ、Snメッキ層5の表面にAg層7が残存することを防止できる。このようにAg層7のAgの全てを反応させてSnメッキ層5表面に純Agを残さないことにより、Ag表面の変色による電気接触抵抗と電気接触抵抗の上昇を防止することができる。
【0040】
また、Snメッキ層形成工程S3の後に、このSnメッキ層5に加熱処理を施すリフロー処理工程S4を有しているので、Snメッキ層形成工程S3においてSnメッキ層5に発生した内部応力をリフロー処理によって解放させることができ、この内部応力に起因するSnウィスカーの自然発生を防止することができる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態である端子・コネクタ用導電材料11について図5を参照して説明する。
本実施形態である端子・コネクタ用導電材料11は、基材12が部品の形状に応じて加工されており、この基材12の表面に形成されたCu層14と、Cu層14の表面に形成されたSnメッキ層15と、Snメッキ層15の表面に形成されたAg−Sn合金層16とを備えている。
【0042】
基材12は、第1の実施形態と同様に、基本的に各種銅合金で構成されるが、鉄系合金も用いられる。
Cu層14は、基材12の表面に電気メッキ法または無電解メッキ法等によって形成させたCu又はCu合金から構成される。Cu層14の厚さは0.01〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0043】
Snメッキ層15は、Sn又はSn合金で構成されており、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されている。このSnメッキ層15の厚さは、基本的に半田濡れ性を満足すればよく、その用途により0.1〜15.0μmの範囲内に設定されている。なお、この第2の実施形態においては、実用の場合を想定して、Snメッキ層15が基材12の必要部分にのみ局所的に形成されており、Snメッキ層15の内部応力の解放を目的としたSnの溶融温度までのリフロー処理を施さないこととした。
【0044】
Ag−Sn合金層16は、基材12とSnメッキ層15との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層15の表層部分にAg−Sn粒子が凝集することによって形成されている。Ag−Sn合金層16の平均厚さは、0.002〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0045】
以下に、この端子・コネクタ用導電材料11の製造方法について、図6に示すフロー図を参照にして説明する。
まず、基材12を部品の形状に応じて加工する(基材加工工程S´0)。
次に、基材12のうちSnメッキ層15を形成しない部分にマスキングを行う(マスキング工程S´1)。
【0046】
次に、露出している基材12の表面に、基材12の拡散防止層としてCu層14を電気メッキまたは無電解メッキにより形成する(Cu層形成工程S´2)。
Cu層14の上にSnメッキ層15を電気メッキまたは無電解メッキにより形成する(Snメッキ層形成工程S´3)。
【0047】
次に、Snメッキ層15の表面に、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、厚さ0.001〜0.5μmのAg又はAg合金からなるAg層を形成する(Ag層形成工程S´5)。
そして、Snメッキ層15の表面にAg層を形成した状態で10以上100℃未満に調整された温水浴中に浸漬して2秒間以上保持し、Ag層のAgとSnメッキ層15のSnとを反応させてAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)を生成させてAg−Sn合金層16を形成する(Ag−Sn合金層形成工程S´6)。
【0048】
このような構成とされた第2の実施形態である端子・コネクタ用導電材料11によれば、前述した第1の実施形態と同様に、Ag−Sn合金層16により、微摺動摩耗時の電気接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態である端子・コネクタ用導電材料について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
基材の表面にNi下地,Cu下地とSnメッキ層を順次に形成してリフロー処理したもの(第1実施形態)で説明したが、これに限定されることはなく、CuとSnメッキ層を形成してリフローするや基材の表面に直接Snめっきしてリフローしてもよい。また、第2実施形態においてCu下地層を形成したもので説明したが、これにも限定されることはなく、基材の表面に直接Snめっき層を形成してもよい。
【0050】
また、基材を金属導電材料で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、非金属材料表面に導電性を有する材料を被覆したもので構成してもよい。具体的には、Cu−Ni−Si系銅合金、Cu−Mg−P系銅合金、Cu−Fe−P系銅合金、Cu−Zn系銅合金、Cu−Cr−Sn−Zn系銅合金、SUS、Fe−42Ni合金などの金属導電材料、有機フィルム材や半導体、ガラスとセラミックス材料の表面にCu等の導電性金属膜を被覆した非金属材料が挙げられる。
【0051】
また、Ag−Sn合金層形成工程では、温度10℃以上100℃未満に調整された温水浴中に2秒以上浸漬させるものとして説明したが、これに限定されることはなく、温水浴以外の手段で、Snメッキ層の表面にAg層が形成された状態で温度10℃以上100℃未満で2秒以上保持してAgとSnとを反応させてAg−Sn粒子を生成すればよい。
【0052】
さらに、Snメッキ層を電解メッキ又は無電解メッキによって形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Snメッキ層をHotDip法で形成してもよい。また、Snメッキ層を形成した後にリフロー処理したものとして説明したが、図6に示すように、リフロー処理を行うことなくAg層を形成してもよい。
また、第2の実施形態においては、リフロー処理を行わないものとして説明したが、部品の形状に加工してSnメッキ層を形成した後にリフロー処理を行ってもよい。また、端子・コネクタ用導電材料11に加熱処理を行わないものとして説明したが、用途に応じてSnが溶融しない温度(例えば120〜200℃)で加熱処理をしてもよい。
【0053】
また、本実施形態の模式図では、基材の一方の面にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、基材の全面にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成してもよい。
さらに、本実施形態の模式図では、基材の表面全部にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成したものとしたが、これに限定されることはなく、Snメッキ層及びAg−Sn合金層が端子の接点付近に局部的に形成されていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の有効性を検証するために行った微摺動摩耗試験の結果について説明する。
微摺動磨耗性の評価装置は、精密摺動試験機(山崎精機研究所製:CRS−G2050−MTS型)を採用した。測定条件は、室温、振幅が50μm、摺動周波数が1Hz,荷重が100g(1N)にし、摺動回数(サイクル数)の変動に従う電気接触抵抗の値を測定した。(ここで、評価の感度を上げるために、予備試験の結果を基づいて低荷重(通常1〜20N)、小振幅(通常20〜200μm)と高摺動周波数(通常0.013〜1Hz)の条件を選んで評価した。)
電気接触抵抗はJIS−C−5402に準処し、4端子法(測定電流:10mA,最大開放電位20mV)により測定し、測定間隔が2回、サンプリングが1個/測定のペースでデータをコンピューターに収集した。
【0055】
微摺動磨耗試験機の接点構成と試験片の形状を略図として図7に示す。微摺動摩耗試験器10は、図7に示すように、試験片21が載置される載置面12を有し、所定距離を往復移動可能なステージ部11と、このステージ部11の上方に配置され、載置面12に対向するとともに試験片22が支持される支持面16を備えた上方支持部15と、を備えている。なお、上方支持部15は、支持面16に支持された試験片22をステージ部11側へと所定の圧力で押圧する押圧機構17を備えている。
【0056】
微摺動が負荷される接点は、球面状突起23を有する凸型接点試験片22(図4の8B:メス端子に相当)と平板状試験片21(図4の8A:オス端子に相当)とが、互いのメッキ面を対向配置することによって構成した。なお、凸型接点試験片22は、板素材に対してR1.5mmの球面先端のある圧子を用いて押圧加工により成型した。接点用の試験片は、後述するようにそれぞれのメッキ層構成を有するSnメッキ材から切り出したものを使用した。
【0057】
微摺動磨耗試験の際、平板状試験片21を往復移動可能なステージ11に設置・固定し、凸型接点試験片22をステージ部11の上方に配置されたアーム12に固定し、所定の振幅と周波数でステージ11摺動しながら電気接触抵抗を測定した。なお、接点負荷は、押圧機構17からアーム12と凸型接点試験片22を通じて所定の荷重を下の平板状試験片21に与えた。
【0058】
(実施例1)
まず、コネクタのメス端子とオス端子は両方とも同じメッキ材を用いて形成した場合を想定して、前述の第1実施形態であるSnメッキ導電材料を用いて上述の凸型接点試験片と平板状試験片を加工し、微摺動磨耗性を評価した結果について説明する。
基材として高導電端子材の代表であるMg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.4mmの銅合金板を用い、Niメッキ層、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μm、0.2μmと1.0μm膜厚で形成し、Snを溶融する温度までの加熱によりリフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層をそれぞれ0.01μm、0.02μm、0.04μmの膜厚で形成し、45℃の温水に20秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片(本発明例1〜3)を作製した。また、比較としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片(比較例1)を作製した。これらの試験片を用いて同じメッキ同士の接点を構成し、各3回ずつ微摺動磨耗性を評価した。その平均値の曲線を図8に示す。
【0059】
図8に示すように、すべての試験片において接触抵抗は、最初の30〜100サイクルの間に一時上昇し、その後の200〜1000サイクルの段階にしばらく安定状態になり、さらにそれ以上に摺動させると接触抵抗が一方的に上昇し、最終的に測定レンジを越えて、接触不良となることがわかる。ここで、各試験片の最初のピークの高さ(すなわち接触抵抗値)を比較してみると、本発明の表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料(本発明例1〜3)はいずれも通常のSnメッキ材(比較例1)より小さく、特に、Ag―Sn合金層が厚くなるとともにピークの高さが段々小さくなり、接触抵抗の上昇が抑えられることが確認された。また、最終段階の抵抗上昇開始点から見ると、通常のSnメッキ材(比較例1)は約1000サイクルで接触抵抗の一方的な上昇が始まるが、Ag−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料(本発明例1〜3)は1200〜1400サイクルまで接触抵抗が安定し、耐磨耗性を有することがわかる。すなわち、表面にAg−Sn微粒子を被覆することにより、Snメッキ層の総合的な微摺動磨耗性も改善され、端子の使用寿命が延長されて電気接続信頼性が向上されることが確認された。
【0060】
(実施例2)
Snメッキ層表面にAg−Sn微粒子の被覆により微摺動磨耗性を改善するメカニズムを解明するために、前述のCu−Mg−P銅合金基材の表面にNi−0.3μm、Cu−0.2μm、Sn−1.0μmメッキしてリフロー処理をし、Ag0.04μmメッキしてAg−Sn合金層を形成して試験片(本発明例4)を作製した。この試験片をそれぞれ20サイクル、50サイクル、100サイクル、500サイクルと2000サイクルで微摺動磨耗試験を実施した後、SEM表面観察とEDX分析を行った。
【0061】
図9に示すように、抵抗が安定状態である20サイクル磨耗試験をした時点では、接点中心部にSnとAgを検出され、AgSn微粒子がSnカス中に分散していることが確認された。この段階はまたメッキ層領域にいることが推察される。
【0062】
図10に示すように、50サイクルにおいて接触抵抗の上昇が始まる時点で、Sn膜下のSn−Cu合金層が表面に露出されることが確認された上に、Snの酸化物の生成も確認される。このことから、50サイクル時点での接触抵抗の上昇はSnの摩耗によって発生したSn粒の酸化に起因したものであると推察される。
【0063】
図11に示すように、100サイクルにて接触抵抗の上昇は一番激しくなり、この時点で、Sn−Cu合金とSnの酸化物以外に、Ni下地メッキ層からのNi元素も検出される。このことから、接触抵抗の上昇または電気接続性の劣化は、抵抗の大きいNiとその酸化物に関連するものであることが推察される。
【0064】
図12に示すように、500サイクルにて抵抗が再び安定になる領域で、素材のCuが表面に露出されている。この時点で、接触点は主に基材のCuがメインとなるため、接触抵抗の変動が少なくなっていると推察される。
【0065】
図13に示すように、2000サイクルにてほぼ不導通状態となる時点で、大量のCuの酸化物のカスが形成することが確認され、電気接続性が最終的に劣化となる原因は、メッキ層が完全に消耗してしまい、基材まで酸化したことに起因すると考えられる。
【0066】
このように微摺動磨耗試験においては、最初段階(一回目)の接触抵抗の一時上昇は、メッキ膜のSnの酸化によるものであり、最終段階(二回目)の接触抵抗の劣化は、メッキ層が消耗してからの基材の露出と酸化によるものであることがわかった。従って、本発明の表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料が優れる微摺動磨耗特性を有する理由については、表面のAg−Sn微粒子によりSnの酸化を抑えることにより、または、AgSn微粒子が摩耗粉中に導電通路として働くことにより、最初段階の接触抵抗の上昇を抑制したと考えられる。さらに、表面に硬いAg−Sn微粒子の存在により、メッキ膜の消耗を低減し、または基材の露出を遅らせることができるため、2回目の抵抗上昇時期を延長し、接点(コネクタ)全体の微摺動磨耗特性を改善できたと考えられる。
【0067】
(実施例3)
前述の第1実施形態であるNi下地メッキを省略し、2層の薄Snメッキ導電材料を用いて上述の接点を加工して微摺動磨耗性を評価した結果を説明する。
基材はMg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.25mmの銅合金板を用い、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μmと0.5μm膜厚で形成してリフロー処理をした後に、Snメッキ層の上にAg−Sn合金層を形成し、Ag−Sn合金層膜厚0μm、0.04μmと0.06μmとした3種類の試験片(比較例2、本発明例5,6)を作製した。これらの試験片を用いてそれぞれ同じメッキ同士の接点を構成し、微摺動磨耗性を3回ずつ評価した。その平均値の曲線を図14に示す。ここで、説明の便宜のため、横軸は対数(a)と線性(b)で表現した。
【0068】
図14(a)に示すように、2層Snメッキを利用する場合、最初の接触抵抗の上昇はAg−Sn合金層の有無に関らず、いずれも30〜40mΩと小さいが、通常のSnメッキ材(比較例2)は抵抗のピーク位置が約20サイクルであることに対し、Ag−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材(本発明例5,6)のピークは約40サイクルとなり、前述のようにメッキ層領域のSnの酸化を抑えることによって耐摩耗性を大幅に(2倍程度)に改善可能であることが確認された。
【0069】
また、図14(b)に示すように、全体的な微摺動磨耗性を比較すると、通常のSnメッキ材(比較例2)は約1200サイクルから接触抵抗の2回目の上昇が始まるが、表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材(本発明例5,6)は約1600〜1900サイクルとなり、Ag−Sn合金層膜厚を最適化することにより、微摺動磨耗性を大幅に改善できることが認められた。
【0070】
(実施例4)
第1実施形であり、高導電端子材の代表であるNi;2.0%、Zn;1.0%、Sn;0.5%、Si;0.5%を含有した板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μmと1.0μm膜厚で形成してリフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAg−Sn合金層を形成し、Ag−Sn合金層膜厚0μm、0.04μmと0.06μmとした3種類の試験片(比較例3、本発明例7,8)を作製した。これらの試験片を用いて同じメッキ同士の接点構成として微摺動磨耗性を評価した。その3回測定の平均結果を図15に示す。
【0071】
1回目の抵抗上昇ピークは、いずれも100サイクル付近で、およそ80mΩであるが、2回目の抵抗上昇は、通常のSnメッキ材(比較例3)が約1700サイクルであることに対し、表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材(本発明例7,8)が約2100〜2300サイクルまで延長することとなり、微摺動磨耗性が大幅に改善されることがわかる。また、実施例1の結果と実施例4の結果と比較すると、最初の抵抗上昇の値とサイクル数はSnメッキ膜の膜厚と比例することがわかる。特に、Sn層とAg−Sn合金層の膜厚が同じにし、Ni下地を省略する場合、常温での微摺動磨耗性がよいことがわかる。
【0072】
(実施例5)
次に、コネクタのメス端子とオス端子は異なるメッキ材を用いて形成する場合を想定し、微摺動磨耗性を評価した結果について説明する。
試験片の作製は第1実施形態の製造工程により、Mg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.4mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μm、0.2μmと1.0μm膜厚で形成してリフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAg層を0μm、0.02μm、0.04μmと0.06μmの膜厚でメッキしてAg−Sn合金層を形成して4種類の試験片(比較例4、本発明例9〜11)を作製した。そして、これらの試験片を用いて平板状試験片又はオス端子とし、通常のリフローSnメッキ材を凸型接点試験片又はメス端子として異種メッキ材により接点を構成して微摺動磨耗性を評価した。その平均値の曲線を図16に示す。
【0073】
図16(a)に示すように、接点の一方としてSnメッキを利用する場合、Ag−Sn合金層の有無に関らず、最初のメッキ層領域の接触抵抗はSnの酸化によりほぼ同じ程度で上昇するが、通常のSnメッキ材(比較例4)の抵抗上昇ピークが約40サイクルであることに対し、Ag−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材(本発明例9〜11)のピークは約80〜120サイクルとなり、メッキ層領域の耐摩耗性が2〜3倍程度で改善されることが確認された。
【0074】
また、図16(b)に示すように、総合的な微摺動磨耗性を比較すると、通常のSnメッキ材(比較例4)は約900サイクルから接触抵抗の2回目の上昇が始まるが、表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材(本発明例9〜11)の抵抗上昇は約1200〜1700サイクルまで延長することができ、Ag−Sn合金層の被覆により接点の全体微摺動磨耗性を大幅に向上することも確認された。すなわち、接点又はコネクタに対して、一方の端子のみを、本発明の表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材を利用すれば、微摺動磨耗性を改善することにより電気接続信頼性を向上できることが認められた。また、Ag−Sn合金層の膜厚の増加とともに、耐微摺動磨耗の改善効果が大きくなるが、ある程度の厚さ(ここでは0.04μm)を超えると、微摺動磨耗性はそれ以上改善されない、又は逆に多少落ちる傾向も見られることから、微摺動磨耗性改善の最大効果を得るために、最適なAg層膜厚の制御が必要だと考えられる。
【0075】
(実施例6)
さらに、実用上の状況を想定して、コネクタのメス端子とオス端子として、本発明のAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料と通常のリフローSnメッキを様々な組合せにより接点(コネクタ)を構成して微摺動磨耗性を評価した結果について説明する。ここで、接点の構成は表1のように設定した。
【0076】
【表1】

【0077】
試験片の作製は第1実施形態、Ni;2.0%、Zn;1.0%、Sn;0.5%、Si;0.5%を含有した板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μmと0.86μm膜厚で形成してリフロー処理をした後に、Snメッキ層の上にAg層を0.04μm形成し、Ag−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ試験片を作製した。また、通常のリフローSnメッキ材は同じような工程で同じSn膜厚のSnメッキ試験片を作製した。その3回の測定値を平均化した曲線を図17に示す。
【0078】
図17に示すように、最初のメッキ層領域の抵抗上昇ピークは、Ag−Sn合金層の有無に関らず、ほぼ同じ位置であるが、接点のいずれの側又は両側がAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキを利用する場合、通常のSnメッキより低く、微摺動磨耗による接触抵抗の上昇を抑制することが確認された。また、2回目の接触抵抗の上昇から見ると、通常のSnメッキは約1300サイクルから上昇開始に対し、表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキの抵抗上昇は約1800〜2300サイクルまで延長することができ、いずれも通常のSnメッキより抵抗の安定領域が広いことが分かる。即ち、接点の片側さえ本発明のAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材を利用すれば、接点の全体微摺動磨耗性を向上できることが認められた。
【0079】
さらに、Agメッキ膜厚が同じでも、片側の端子がAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材を利用する場合は、両側ともそれを利用する場合より抵抗の上昇を遅れることが確認された。これは、硬質メッキ層(即ちAg−Sn層)と軟質メッキ層(即ちSn層)と組み合せれば、振動を吸収しやくなると推察される。特に、凸型接点がAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材を利用するとより効果があることは、最も磨耗し易い凸型部分は硬いメッキ層を利用すると、接点の上下は同時に消耗することができるため、接点全体の耐摩耗性が向上されると考えられる。すなわち、接点又はコネクタに対して、少なくても片側の端子が本発明の表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材を利用すれば、微摺動磨耗性を大幅に改善することにより電気接続信頼性を向上できることが認められた。
【0080】
(実施例7)
さらに、高温環境において、本発明のAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料と通常のリフローSnメッキをそれぞれ使用する場合、微摺動磨耗性を評価した結果について説明する。
試験片は、Mg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.4mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層とSnメッキ層をそれぞれ0.3μm、0.2μmと1.2μm膜厚で形成してリフロー処理を行い、リフローSnメッキ材を作製した。その後に、そのSnメッキ層の上にAgメッキ層を0.04μmの膜厚で形成し、45℃の温水に20秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片(本発明例15)を作製した。また、比較としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片(比較例6)を用いた。
【0081】
これらの試験片を用いて同じメッキ同士の接点を構成し、各3回ずつ120℃での微摺動磨耗性を評価した。また、実験の際に、各組の接点を常温でセットしてから加熱電源を入れて、120℃まで全速昇温して30分間保持した後、微摺動磨耗性の測定を開始することとした。その平均値の曲線を図18に示す。
【0082】
全体の微摺動磨耗性はほぼ同じであるが、通常のリフローSnメッキは50サイクルの時点で200mΩ以上に接触抵抗が上昇したことに対し、本発明のAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料がおよそ100mΩ前後まで抑えられることがわかる。これは、高温環境においてAg−Sn微粒子がメッキ膜領域のSn酸化を抑制すると挙げられる。
【0083】
(実施例8)
次に、前述の第2実施形態であるリフロー処理しないSnメッキ材を利用する例として、本発明のAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ導電材料と通常のリフローSnメッキをそれぞれ使用する場合、微摺動磨耗性を評価した結果について説明する。
試験片は、リードフレーム材の代表であるFe;2.4%、Zn;0.13%、P;0.1%を含有した板厚0.15mmの銅合金板を基材とし、Snメッキ層を1.0μmメッキした後、Agメッキ層を0.02μmと0.04μm膜厚で形成して45℃の温水に30秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片(本発明例16、17)を作製した。また、比較としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片(比較例7)を用いた。
これらの試験片を用いて同じメッキ同士の接点を構成し、各3回ずつ微摺動磨耗性を評価した。その平均値の曲線を図19に示す。
【0084】
いずれの場合においても、最初の接触抵抗の上昇が見られないが、表面にAg−Sn微粒子を被覆することにより、2回目の抵抗上昇時期を延長することができ、全体の微摺動磨耗性を普通のSnメッキより改善されることが確認された。また、リフローSnメッキを利用する場合と同様、Agメッキ層の膜を厚くすることにより、接点の微摺動磨耗性を大幅に改善されることが認められた。
【0085】
(実施例9)
第2実施形態であるリフロー処理しないSnメッキ材を利用する例として、Fe;2.4%、Zn;0.13%、P;0.1%を含有した板厚0.15mmの銅合金板を基材とし、CuメッキとSnメッキ層をそれぞれ0.3μmと2.0μm膜厚でメッキした後、Agメッキ層を0.02μm形成して45℃の温水に20秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片(本発明例18)を作製した。また、比較としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片(比較例8)を用いた。これらの試験片を用いて同じメッキ同士の接点を構成し、その平均値の曲線を図20に示す。
【0086】
表面にAg−Sn微粒子を被覆しているSnメッキ材は普通のSnメッキと比べ、2回目の抵抗上昇時期を延長することがわかり、接点の微摺動磨耗性を改善されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施形態であるSnメッキ導電材料の説明図である。
【図2】図1に示すSnメッキ導電材料のAg−Sn合金形成工程前の状態を示す説明図である。
【図3】図1に示すSnメッキ導電材料の製造方法の工程フロー図である。
【図4】図1に示すSnメッキ導電材料を用いたコネクタ端子の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるSnメッキ導電材料の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるSnメッキ導電材料の製造方法を示す工程フロー図である。
【図7】微摺動摩耗試験の概要を示す説明図である。
【図8】実施例1の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図9】20サイクル後の試験片観察結果である。
【図10】50サイクル後の試験片観察結果である。
【図11】100サイクル後の試験片観察結果である。
【図12】500サイクル後の試験片観察結果である。
【図13】2000サイクル後の試験片観察結果である。
【図14】実施例3の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図15】実施例4の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図16】実施例5の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図17】実施例6の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図18】実施例7の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図19】実施例8の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【図20】実施例9の微摺動摩耗試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1 Snメッキ導電材料
2 基材
3 Niメッキ層
4 Cu層
5 Snメッキ層
6 Ag−Sn合金層
7 Ag層
8 嵌合型接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材と、該基材の上に形成されたSn又はSn合金からなるSnメッキ層とを備えた端子・コネクタ用導電材料であって、
前記Snメッキ層の積層方向厚さが、0.1〜15.0μmの範囲内とされており、
前記Snメッキ層の表面には、Ag−Sn微粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されており、該Ag−Sn合金層の平均厚さが0.002〜1.0μmの範囲内に設定されていることを特徴とする端子・コネクタ用導電材料。
【請求項2】
前記基材と前記Snメッキ層との間に、Cu又はCu合金からなるCu層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の端子・コネクタ用導電材料。
【請求項3】
前記基材の上に、前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の端子・コネクタ用導電材料。
【請求項4】
互いに嵌合するオス端子及びメス端子を有する嵌合型接続端子であって、
前記オス端子及び前記メス端子の少なくとも一方が、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の端子・コネクタ用導電材料で構成されていることを特徴とする嵌合型接続端子。
【請求項5】
前記オス端子及び前記メス端子の両方が、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の端子・コネクタ用導電材料で構成されており、前記Ag−Sn合金層が互いに対向するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の嵌合型接続端子。
【請求項6】
前記オス端子及び前記メス端子のいずれか一方が、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の端子・コネクタ用導電材料で構成されており、前記オス端子及び前記メス端子の他方が、Snメッキ導電材料で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の嵌合型接続端子。
【請求項7】
前記メス端子には、前記オス端子側に向けて突出した凸部が形成されており、前記メス端子が請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の端子・コネクタ用導電材料で構成され、前記オス端子がSnメッキ導電材料で構成されていることを特徴とする請求項6に記載の嵌合型接続端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−37629(P2010−37629A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204475(P2008−204475)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】