説明

端子付き電線の製造方法

【課題】 端子金具と空気層との間の音響インピーダンスの差により生じる反射波に起因する超音波振動の減衰を抑制して良好な超音波溶接を行う。
【解決手段】 電線W端末の芯線Waと、端子金具11における電線接続部14とを超音波溶接する方法であって、端子金具11の接触部15には超音波溶接時の振動エネルギーを吸収する振動吸収手段16、26、36を設けて反射波の発生を抑制することにより、超音波振動の減衰を防止して良好な超音波溶接を行い得るようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き電線の製造方法に関し、詳しくは、超音波溶接により電線と端子金具とを接合するに際し、溶接部における振動エネルギーのロスを少なくして良好な溶接を行い得るようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、端子金具と電線の芯線との接合方法に超音波溶接を利用したものとしては特許文献1に記載のものがある。一般に超音波溶接により芯線と端子とを接合するには、図5に示すように、先ずアンビル1上に端子金具2の電線接続部3を載置し、この電線接続部3の上面に電線Wの端末を皮剥ぎして露出させた芯線Waを載置する。次いで、電線接続部3上の芯線Waを溶接チップ4で押圧してアンビル1との間で芯線Waと端子金具2とを挟み付けるようにして超音波振動を付加することにより芯線Waを端子金具2の電線接続部3に接合するようにしている。
【特許文献1】特開2000−202642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように超音波溶接を利用して芯線Waと端子金具2とを接合する過程においては、溶接チップ4から端子金具2へ付加される超音波振動の入射波Aは端子金具2の他端における相手側端子との接触部5へ伝わるが、同時に反射波Bが発生して入射波Aの振動エネルギーが打ち消されて減衰する場合がある。即ち、図6(A)の関係図に示すように、接触部5と空気層6との間の音響インピーダンスの差が大きいため、接触部5に至った入射波Aはその一部が空気層6へ透過波Cとして逸散されるが、多くは反射波Bとして接触部5から電線接続部3へ戻ってくる。そして、この反射波Bと入射波Aに位相のずれが生じると図6(B)に示すように、反射波Bによって入射波Aの振動エネルギーが弱められ、その結果減衰された合成波Dが電線接続部3に生じると考えられる。
このように、電線接続部3に作用する振動エネルギーが反射波Bによって弱められるため、芯線Waと電線接続部3との接合が不十分となる場合があった。
【0004】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたもので、端子金具と空気層との間の音響インピーダンスの差違により生じる反射波の発生を極力小さくすることができる超音波溶接方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、電線の端末部を皮剥ぎして露出させた芯線と、該芯線を受け入れる電線接続部を一端に備えると共に相手側端子との接触部を他端に備えた端子金具とをアンビルと溶接チップとの間で挟み付けた状態で超音波溶接して端子付き電線を製造する方法であって、
上記端子金具の接触部に超音波溶接時の振動エネルギーを吸収して反射波の発生を抑制する振動吸収手段を作用させて超音波溶接するようにしたことを特徴とする端子付き電線の製造方法を提供している。
【0006】
この方法によれば、端子金具の電線接続部から接触部へ至った入射波の振動エネルギーを振動吸収手段によって効果的に吸収することができるため、接触部と空気層との間の音響インピーダンスの大差により生じる反射波の発生を抑制することができる。
なお、芯線の溶接すべき端子金具としては、雌端子、雄端子、アース端子、バッテリー端子等の種々の端子に適用できる。
【0007】
具体的には、前記振動吸収手段は上記端子金具の接触部に備えられた弾性接触片からなり、該弾性接触片は端子金具の本体とは別体で成形したものを本体に対し揺動可能な状態で嵌合固定している。
このようにすれば、接触部の弾性接触片は端子金具の電線接続部から接触部へ至った入射波の振動エネルギーによって、本体とは別個に揺動するため、これにより反射波が発生する前に接触部に伝達された振動エネルギーを吸収することができる。
【0008】
また、記振動吸収手段は上記端子金具の接触部をアンビルに対し弾性的に押圧する押え片から構成するようにしてもよい。
このように構成すれば、端子金具の電線接続部から接触部へ至った入射波の振動エネルギーは、接触部を弾性的に押圧する押え片によって吸収されるため、反射波の発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
更に、上記振動吸収手段は上記端子金具の接触部の先端を突き当て可能に上記アンビルに形成した段部と、該段部に対し上記端子金具を弾性的に押圧する押し付け手段とからなるようにしてもよい。
このようにすれば、端子金具の接触部は段部を介してアンビルに緊密に押し付けられた状態となる。このため、電線接続部から接触部へ至った入射波の振動エネルギーは、そのほとんどがアンビルに伝達されるが、端子金具とアンビルとの間の音響インピーダンスの差は空気層に比し極めて小さいため、入射波の振動エネルギーはアンビルによって吸収され、よって反射波の発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上の説明より明らかなように、本発明の端子付き電線の製造方法によれば、反射波の発生に起因する電線接続部での振動エネルギーの減衰を防止して、良好な超音波溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1〜図2は、本発明の第1実施形態を示し、超音波溶接機10を用いて端子金具11に電線Wの端末を皮剥ぎして露出させた芯線Waを超音波溶接することで端子付電線を製造する工程を示している。超音波溶接機10は端子金具11を載置するアンビル12と、このアンビル12の上方に対向してアンビル12との間で端子金具11と電線Wとを挟みつける溶接チップ13とからなり、この溶接チップ13とアンビル12との間で端子金具11と芯線Waに超音波振動を付与することで両者を接合するようにしている。
【0012】
本実施形態では、図1(A)に示すように、端子金具11は、その一端には芯線Waを接合固定すべき電線接続部14を備えている。電線接続部14は平板状の底壁14aと、この底板部14aの両側から垂直上方へ立ち上げて延出した側壁14bを備え、断面が略U字形状となっている。一方、端子金具11の他端には相手側端子(図示せず)を受け入れる箱状の接触部15を備え、その内部には別体で山状に成形された振動吸収手段を兼用した弾性接触片16を備え、この弾性接触片16と接触部15の内面の上面部15aとの間で相手側端子を弾性的に挟持することで電気的接触を得るようにしている。
弾性接触片16は、図1(B)に示すように、基部両端に係合突起16aを突設する一方、接触部15の両側壁には係合孔15bを形成して弾性接触片16の係合突起16aを嵌合することで弾性接触片16を端子金具11の本体11aに対し若干揺動可能に固定するようにしている。
【0013】
端子金具11に溶接すべき電線Wは、複数本の素線を断面円形状に撚り合わせた芯線Waを合成樹脂製の絶縁被覆Wbで外装してなり、端末部の絶縁被覆Wbを端子金具11への接合に必要な所定長さにわたって皮剥ぎすることで芯線Waを露出させている。
【0014】
次に、第1実施形態による端子付き電線の製造方法について説明する。
図2(A)に示すように、超音波溶接機10のアンビル12は本体基部に固定されており、上面部に端子金具11の電線接続部12を収容して位置決めするための収容部12aが凹設されている。溶接チップ13は端子金具11の電線接続部12内に進入可能な幅を有するブロック形状をなし、アンビル12の上方に対向して上下方向に作動できるようになっている。この溶接チップ13の下面は芯線31に対する押圧面13aとされ、この押圧面13aと電線接続部14の底壁14aとの間で芯線Waを圧縮して芯線Waと電線接続部14との間に超音波振動を付与するようになっている。
【0015】
先ず、図2(A)に示すように、電線Wの端部から露出された芯線Waを、アンビル12の収容部12aに収容された端子金具11の電線接続部14内に載置する。このとき、芯線Waの上方には超音波溶接機10の溶接チップ13が上昇位置で待機している。次いで図2(B)に示すように、溶接チップ13をアンビル12に向けて下降させると、芯線Waはアンビル12により押し潰されて底壁14aとの間で圧縮され、同時に溶接チップ13から超音波振動が付与される。これにより、次第に芯線Waが摩擦熱により温度上昇して軟化し、端子金具11の底壁14bに接合されることとなる。
【0016】
上記の超音波振動の付与によって電線接続部14に作用する入射波は先端の接触部15から空気層へ伝達されるとき、両者の音響インピーダンスの差が大きいため反射波となって電線接続部14に戻される成分がある。この反射波は電線接続部14から離れた位置から戻ってくるため入射波に対し位相がずれた状態となるため電線接続部14に作用する入射波の振動エネルギーが大きく相殺する場合がある。本実施形態では、接触部15に設けた弾性接触片16が別体部品からなり、本体11aに対し揺動可能に嵌合固定されているため、接触部15に伝達された入射波の振動エネルギーによって弾性接触片16が共振する結果、空気層へ伝達される振動エネルギーの多くが吸収される。このため、接触部15と空気層との間の音響インピーダンスの差に起因する反射波の発生を効果的に抑制することができ、よって電線接続部14に対する超音波振動のエネルギーの損失を最小限に止めることができるため、良好な超音波溶接を行うことができる。
【0017】
図3(A)〜(C)は端子付き電線の製造方法の第2実施形態を示す。
振動吸収手段として端子金具21の先端の接触部25をアンビル22に対して弾性的に押圧する押え片26を設けている。押え片26は、弾性を有する山状の板状部材からなり、例えばアンビル22の上面に立設した支持部材22aに対し、その中間部に突設した支持ピン26aを介して回動可能に支持している。そして、通常の状態において押え片26は図3(A)に示すように、先端の押圧部26bがアンビル22の上面に弾性的に接触する状態で支持されている。また、押圧部26bの先端部は上方へ湾曲させて端子金具21を受け入れ可能な案内部26cを形成している。第2実施形態で超音波溶接すべき端子金具21は、平板状の接触部25を備えた雄端子またはアース端子等としている。なお、その他の構成は第1実施形態と同様のため、同一符号を付してその説明を省略する。
【0018】
次に、第2実施形態による端子付き電線の製造方法について説明する。
図2(A)に示す押え片26に対し、図2(B)に示すように、案内部26cを通して端子金具21の接触部25を押圧部26bとアンビル22の上面との間に挿入し、押え片26によって接触部25をアンビル22に向けて弾性的に押圧保持した状態とする。次いで、電線Wの芯線Waを電線接続部14内に配置する。そして、図2(C)に示すように、溶接チップ13を下降動作させて芯線Waと電線接続部14との間に超音波振動を付与することにより両者間を超音波接合する。
【0019】
本実施形態では、接触部25をアンビル22に向けて押え片26によって弾性的に押圧した状態で保持しているため、接触部25に伝達された入射波の振動エネルギーによって押え片26が共振する結果、空気層へ伝達される振動エネルギーの多くが吸収される。このため、接触部25と空気層との間の音響インピーダンスの差に起因する反射波の発生を効果的に抑制することができ、よって良好な超音波溶接を行うことができる。
【0020】
図4(A)(B)は端子付き電線の製造方法の第3実施形態を示す。
振動吸収手段として端子金具31の先端の接触部35をアンビル32に形成した段部32aと、この段部32a対して接触部35を弾性的に押圧する押し付け手段36とから構成している。段部32aは端子金具31の接触部35の先端面を当接状態で受け入れ可能な形状としている。一方、押し付け手段36は、端子金具31の電線接続部14側から接触部35に向けて押圧するピストン等によって弾性的に押圧される押圧片36aから構成している。第3実施形態で超音波溶接すべき端子金具31は、箱型の雌端子であっても、平板状の雄端子またはアース端子等であってもよい。なお、その他の構成は第1実施形態と同様のため、同一符号を付してその説明を省略する。
【0021】
次に、第3実施形態による端子付き電線の製造方法について説明する。
図4(A)に示すようにアンビル32の段部32aに端子金具31の接触部35を嵌合するようにしてアンビル32の上面に配置する。次いで、押圧片36aを介して電線接続部14側から接触部35へ向けて端子金具31を押圧することで接触部35を段部32aに弾性的に押し付け、かかる状態で電線Wの芯線Waを電線接続部14内に配置する。そして、図4(B)に示すように、溶接チップ13を下降動作させて芯線Waと電線接続部14との間に超音波振動を付与することにより両者間を超音波接合する。
【0022】
本実施形態では、接触部35をアンビル32の段部32aに向けて押圧片36aによって押圧した状態で保持しているため、接触部35に伝達された入射波の振動エネルギーは段部32aを介してアンビル32に伝達される。端子金具31とアンビル32との間の音響インピーダンスの差は、端子金具31と空気層との差に比し極めて小さいので、音響インピーダンスの差に起因する反射波の発生を効果的に抑制することができ、よって良好な超音波溶接を行うことができる。
【0023】
なお、上記各実施形態において端子金具に超音波溶接すべき電線は一般の銅電線に限らず、アルミニウム電線にも同様に適用することができ、同様に端子金具の材質としては、一般の銅合金に限らずアルミニウム端子や他の金属端子にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の端子付き電線の製造方法の第1実施形態を示し、(A)は端子金具とこれに接続すべき電線の分解斜視図、(B)は端子金具の要部の拡大斜視図である。
【図2】(A)(B)は第1実施形態の超音波溶接工程を示す断面図である。
【図3】(A)〜(C)は第2実施形態の超音波溶接工程を示す断面図である。
【図4】(A)(B)は第3実施形態の超音波溶接工程を示す断面図である。
【図5】従来例を示す図である。
【図6】(A)は端子金具と空気層との音響インピーダンスの関係を示す図、(B)は入射波、反射波、合成波の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
11、21、31 端子金具
11a 本体
12、22、32 アンビル
13 溶接チップ
14 電線接続部
15、25、35 接触部
16 弾性接触片(振動吸収手段)
26 押え片(振動吸収手段)
32a 段部(振動吸収手段)
36 押し付け手段(振動吸収手段)
W 電線
Wa 芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の端末部を皮剥ぎして露出させた芯線と、該芯線を受け入れる電線接続部を一端に備えると共に相手側端子との接触部を他端に備えた端子金具とをアンビルと溶接チップとの間で挟み付けた状態で超音波溶接して端子付き電線を製造する方法であって、
上記端子金具の接触部に超音波溶接時の振動エネルギーを吸収して反射波の発生を抑制する振動吸収手段を作用させて超音波溶接するようにしたことを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
上記振動吸収手段は上記端子金具の接触部に備えられた弾性接触片からなり、該弾性接触片は端子金具の本体とは別体で成形したものを本体に対し揺動可能な状態で嵌合固定している上記請求項1に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
上記振動吸収手段は上記端子金具の接触部をアンビルに対し弾性的に押圧する押え片からなる請求項1に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項4】
上記振動吸収手段は上記端子金具の接触部の先端を突き当て可能に上記アンビルに形成した段部と、該段部に対し上記端子金具を弾性的に押圧する押し付け手段とからなる請求項1に記載の端子付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−107882(P2006−107882A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291665(P2004−291665)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】