説明

端末により非接触通信要素の存在を検出する方法

【課題】トランスポンダ及び/又は端末の発振回路が同調されていない場合でも、電磁場内でトランスポンダの存在を検出する方法を提供する。
【解決手段】電磁場を形成し、発振回路を有する端末により非接触通信要素の存在を検出する方法において、前記端末の発振回路を、該発振回路の所定の同調周波数を挟んだ2つの周波数間での可変周波数で励振して、前記発振回路の負荷を示す信号が、基準電圧を超えたか否かを検出して、前記信号が前記基準電圧を超えていない場合に、前記電磁場内に前記非接触通信要素が存在すると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には電子回路に関し、より具体的には離れた電磁トランスポンダタイプの要素と非接触で通信する端末に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、(数メーターより短い)短距離の通信システムに適用し、例えば、近距離無線通信(NFC) システムに適用する。
【背景技術】
【0003】
端末の電力消費が問題ではない近距離無線通信システムでは、前記端末は、端末の電磁場内に設けられることが多いトランスポンダのために呼掛信号フレームを周期的に(例えば、0.5秒毎に)送信する。トランスポンダはこのフレームを受信すると、このフレームに応答する。呼掛信号フレームは、予め定義されたコーディングに応じてキャリアを調整することを意味する。キャリアは、端末及びトランスポンダの発振回路が同調される周波数でのA.C.信号(交流信号)に相当する。
【0004】
端末の電力消費を最小限に抑えることが望まれるシステムでは、トランスポンダが端末によって先に検出された場合にのみ、このような呼掛信号フレームが送信される。このために、送信が行われない場合にも、トランスポンダに設けられた共振回路のために、トランスポンダが位置付けられる電磁場で端末の発振回路に負荷が与えられる。その後、トランスポンダが存在する状態にてこの負荷の変動が検出されることにより、トランスポンダが電磁場内に存在して、端末と通信することが可能であるとみなされる。一般的には、端末は、データでキャリアを調整せずに、端末の発振回路を周期的に(例えば、0.5秒毎に)励振して、基準値に対するアンテナの電圧の起こり得る減少を検出する。これにより、端末の電力消費を減少させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/162312号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検出を確実に行うために、発振回路の励振周波数は正確でなければならない。このような周波数の生成のために、従来から水晶発振器が必要とされている。水晶発振器では、水晶発振器を起動する毎に比較的高い電力消費が生じる。
【0007】
更に、完全に同調されていない共振回路を有するトランスポンダが存在する状態では、検出誤差が生じる危険性がある。
【0008】
通常の回路の不利点の全て又は一部を克服するために、端末の電磁場内で電磁トランスポンダの存在を検出するための回路を備えることが望ましい。
【0009】
特に、存在を検出するモードでは水晶発振器を用いないことが望ましい。
【0010】
更に、端末又はトランスポンダの共振回路の同調周波数で起こり得るドリフトと関係なく検出器を作動させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的及び他の目的の全て又は一部を達成するために、本発明は、電磁場を形成し、発振回路を有する端末により非接触通信要素の存在を検出する方法において、
前記端末の発振回路を、該発振回路の所定の同調周波数を挟んだ2つの周波数間での可変周波数で励振して、
前記発振回路の負荷を示す信号が、基準電圧を超えたか否かを検出して、
前記信号が前記基準電圧を超えていない場合に、前記電磁場内に前記非接触通信要素が存在すると判断する
ことを特徴とする方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、前記端末は水晶発振器を備えており、前記端末の発振回路が前記可変周波数で励振されている間、前記水晶発振器を非接続としている。
【0013】
本発明によれば、前記可変周波数の励振サイクルの数を、一定間隔で送信する。
【0014】
本発明によれば、前記信号は、電磁場を形成する前記端末のアンテナの電圧である。
【0015】
本発明は、更に、電磁場を形成する端末と非接触通信要素とを通信させるために前記端末を制御する方法において、前記端末が電磁場内に前記非接触通信要素の存在を検出したとき、水晶発振器を用いて通信を開始することを特徴とする方法を提供する。
【0016】
本発明は、更に、非接触通信要素の存在を検出する検出器において、発振回路と、該発振回路を励振するための周波数を可変とする発振器と、前記発振回路の負荷を示す値を基準値と比較する比較器とを備えることを特徴とする検出器を提供する。
【0017】
本発明によれば、前記検出器は、前記値が前記基準値を超えていない場合に、電磁場内に前記非接触通信要素が存在すると判断するように構成されている。
【0018】
本発明は、更に、非接触通信要素と通信する端末において、発振回路と、該発振回路を励振するための周波数を可変とする発振器と、前記発振回路の負荷を示す値を基準値と比較する比較器とを含み、前記非接触通信要素の存在を検出する検出器を備えることを特徴とする端末を提供する。
【0019】
本発明によれば、前記端末は更に水晶発振器を備える。
【0020】
本発明の前述の目的、特徴及び利点を、添付図面を参照して本発明を限定するものではない特定の実施形態について以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が一例として適用されるタイプの通信システムを示すブロック図である。
【図2】端末の電磁場内でトランスポンダの存在を検出する通常の検出器を示す部分ブロック略図である。
【図3】端末の電磁場内で非接触通信要素の存在を検出する検出器の実施形態を示すブロック略図である。
【図4】非接触通信要素の検出方法の実施形態を示すタイミング図である。
【図5】非接触通信要素の存在を検出する方法の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
同一の要素は、異なる図面において同一の参照番号で示されている。図4(a)乃至図4(d)のタイミング図は正しい縮尺で示されていない。
【0023】
明瞭さのために、本発明の理解に役立つステップ及び要素のみを示し、説明する。特に、トランスポンダの存在を検出する端末の説明は、詳述されておらず、本発明は、このような検出の任意の利用に適合する。更に、端末及びトランスポンダ間の通信フレームもまた詳述されておらず、本発明は、従来の通信モードとも適合する。
【0024】
図1は、読取り端末又は読取り/書込み端末2 (読取装置)と非接触通信要素又はトランスポンダ3 (本例では、チップカード)との間の近距離無線通信システム1 を示す概略図である。典型的な例では、トランスポンダ3 は、1又は複数の電子回路31と、端末2 のアンテナ22によって形成された電磁場を検出することが可能なアンテナ32とを含む。一般には、トランスポンダの電子回路31は端末2 によって形成された電磁場から電子回路31の作動に必要な電力を抽出する。
【0025】
例えば、トランスポンダ3 は、非接触カード、小型又は携帯用電子回路等であり、端末2 は、アクセス又はチケット確認端末、支払端末等である。別の適用例では、端末2 自体が、電池式携帯機器(例えば、携帯電話)から構成されている。
【0026】
図2は、アンテナ22によって形成された電磁場内でトランスポンダの存在を検出するために現在用いられている端末2'の構成を示す部分ブロック略図である。典型的な例では、水晶発振器23が、増幅器24を介して端末の発振回路(アンテナ22を除いて図示せず)を励振するために用いられる。アンテナ22の電圧が、トランスポンダのあり得る存在を検出するために、比較器25によって基準値Ref と比較される。トランスポンダの存在は、アンテナ22の電圧レベルの変動として解釈されて、トランスポンダが存在するとき、アンテナ22の電圧レベルは、基準レベルより低くなり、比較器25の出力信号OUT が出力信号の二進状態間で切り替えられる。
【0027】
水晶発振器23は、システムの共振周波数(例えば、13.56 メガヘルツ)に同調される必要がある。トランスポンダがこの13.56 メガヘルツの周波数に同調された共振回路を有しているので、同調することにより、トランスポンダが存在する状態における電磁場の変動を検出することが可能になる。しかしながら、この共振周波数を変える場合、回路は検出誤差を生じる危険性がある。
【0028】
更に、通信を待機するモード(存在を検出するモード)中に水晶発振器を用いると、半永久的に比較的大きな電力消費を伴う。
【0029】
図3は、非接触通信端末2 に備えられた、トランスポンダの存在を検出する検出器の実施形態を示すブロック図であり、図2のブロック図と比較されるべきである。図3には、増幅器24を介して励振されることが可能であり、発振回路28に接続されたアンテナ22が示されている。
【0030】
本実施形態によれば、端末2 が存在検出モードにあるとき、端末の発振回路28は、周波数可変発振器26から与えられた信号によって励振される。アンテナ22の電圧Vantは、トランスポンダのあり得る存在を検出するために、比較器27によって基準電圧Vrefと比較されて、比較器27は比較結果を信号DETECTとして出力する。
【0031】
発振器26は、トランスポンダの検出期間に経時的に周波数を周期的に変えるために、例えば可変電圧源又は可変電流源を用いて制御信号CTRLによって制御される。発振器26は、同調周波数前後の周波数の範囲全体が検出期間に調べられるので励振周波数が正確である必要はない。
【0032】
端末の様々な構成要素の制御、及び検出結果の解釈は、例えば処理回路29によって行なわれる。処理回路29は、例えば、端末の他のタスクに用いられるデジタルプロセッサ(マイクロプロセッサ等)である。処理回路29のプログラミングによって、周波数が可変である励振信号を周期的なサイクルで生成することが可能になる。
【0033】
図4(a)乃至図4(d)は、図3の端末の作動の一例を示すタイミング図である。図4(a)は、周波数可変発振器26の制御信号CTRLの推移の一例を示す。図4(b)は、発振器26によって経時的に与えられる信号の周波数f の推移の一例を示す。図4(c)及び図4(d)は、トランスポンダが電磁場内に存在しない状態、及びトランスポンダが電磁場内に存在する状態におけるアンテナの電圧Vantの推移の一例を夫々示す。
【0034】
存在を検出するモードでは、端末の発振回路の公称されている理論的な同調周波数faccを挟んだ周波数f0と周波数f1との間で可変周波数の信号が周期的に(例えば、毎秒又は0.5秒毎に)送信されると仮定されている。図4(a)乃至図4(d)の例では、この周波数の変動が2つのサイクルT 中に行なわれて、各サイクルT の第1部分で周波数が値f0から値f1に増加し、各サイクルT の第2部分で値f1から値f0に減少する(図4(b)参照)と仮定されている。図4(a)は、周波数可変発振器26の電圧源からの電圧又は電流源からの電流を増加させるべく用いられる制御信号CTRLの一例を示す。この制御信号CTRLは、発振器26が周波数f0に略相当する周波数にあるときの値0と、発振器26が周波数f1に略相当する周波数にあるときの最大値MAX との間で増減する。
【0035】
電磁トランスポンダが電磁場内に存在しない状態(図4(c))では、アンテナの電圧Vantは、周波数f0で最小値Vmin0 から開始して、同調周波数faccに達したとき最大値Vmaxに達し、その後、周波数f1で値Vmin1 まで減少する。値Vmin0 及び値Vmin1 は必ずしも同一でなくてもよい。周波数が周波数f1と周波数f0との間に減少するとき、電圧Vantは、電圧Vmin1 から増加して、電圧Vmaxに達し、その後電圧Vmin0 に減少する。
【0036】
トランスポンダが電磁場内に存在する場合(図4(d))、基本的には同調周波数faccで共振回路の負荷が変更される。結果として、値Vmin0 及び値Vmin1 は必ずしも変更されないか、又は僅かに変更されるだけである。しかしながら、電圧Vantは、電圧Vmaxに達しないで、より低い値Vintで停止する。
【0037】
期待値Vintと期待値Vmaxと間で比較器27の基準値Vrefを選択することにより、比較器27の出力は、トランスポンダが存在する状態を除いて、制御信号のサイクルT 毎に2回切り替えられる。
【0038】
図5は、検出方法の実施形態を示す簡略化されたフローチャートである。
【0039】
読取装置2 (端末)が初期化されると(ステップS31 )、読取装置2 の電子回路は、計時を開始して(ステップS32 )、可変周波数のサイクルT の数n (図4(a)の例では2)を周期的に送信する(ステップS33 )。次に、アンテナの電圧Vantが基準電圧Vrefと比較されて(ステップS34 )、アンテナの電圧Vantが基準電圧Vrefを超えたか否かが検出される。アンテナの電圧Vantが基準電圧Vrefを超えたとき(ステップS34 の出力Y )、処理はステップS32 に戻されて、計時を再開する。アンテナの電圧Vantが基準電圧Vrefを超えていないとき(ステップS34 の出力N )、トランスポンダが存在することを意味し、次に読取装置2 は、呼掛信号フレームをトランスポンダに送信することにより通信を開始する(ステップS35 )。通信を開始することにより、端末の回路が検出モード中より更に電力を消費するモードで端末の回路を起動することになる。特に、端末はその後、水晶発振器を用いて正確な周波数(例えば、13.56MHz)を生成し、正確な周波数に基づいてキャリアを送信する。
【0040】
比較処理(ステップS34 )は、n サイクルが送信される時間窓を考慮に入れたタイミングで行なわれてもよい。変形例として、電圧Vantが平均されて、閾値Vrefが平均された電圧に応じて選択されてもよい。
【0041】
水晶発振器を必要とせずに、トランスポンダの存在を検出することが可能である。
【0042】
本発明の利点は、トランスポンダ及び/又は端末の発振回路が、公称周波数に対して同調されていない場合でも、検出が行なわれるということである。実際に、周波数f0と周波数f1との間の共振周波数が何であれ、システムは必然的にアンテナの最大電圧値を通過することになる。従って、端末及びトランスポンダの夫々の同調周波数がドリフトする場合でさえ、トランスポンダの存在を検出することが可能な閾値Vrefを適切に選択するには十分である。
【0043】
水晶発振器を用いないことにより、存在を検出するモード中の電力消費を減少させることが可能になる。一般的には端末の使用において、検出モードが主である(通信期間は多くの場合待機期間に対して短い)。従って、電力消費の点から効果的である。
【0044】
13.56 メガヘルツの公称共振周波数に適用された特定の実施形態では、周波数f0及び周波数f1は夫々約8 メガヘルツ及び20メガヘルツである。
【0045】
様々な実施形態が説明されたが、様々な変更及び調整が当業者に想起される。特に、説明された存在の検出に必要な回路を実際に形成することは、上記に説明された機能的表示に基づき、最新の回路を用いることによって当業者の技能の範囲内になる。例えば、電圧又は電流が制御された発振器の代わりに、定電流容量性要素の充電及び放電が、周波数可変発振器を得るために用いられてもよい。別の特定の実施形態によれば、発振器は、可変電圧が供給されて、直列に配置された数個の変換器から構成される。
【0046】
更に、アンテナの電圧の(基準に対する)測定が説明されたが、端末の電磁場でトランスポンダによって形成された負荷により影響を受ける任意の信号が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 端末、読取装置
3 非接触通信要素
22 アンテナ
23 水晶発振器
26 発振器
27 比較器
28 発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁場を形成し、発振回路を有する端末により非接触通信要素の存在を検出する方法において、
前記端末の発振回路を、該発振回路の所定の同調周波数を挟んだ2つの周波数間での可変周波数で励振して、
前記発振回路の負荷を示す信号が、基準電圧を超えたか否かを検出して、
前記信号が前記基準電圧を超えていない場合に、前記電磁場内に前記非接触通信要素が存在すると判断する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記端末は水晶発振器を備えており、
前記端末の発振回路が前記可変周波数で励振されている間、前記水晶発振器を非接続としていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可変周波数の励振サイクルの数を、一定間隔で送信することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記信号は、電磁場を形成する前記端末のアンテナの電圧であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電磁場を形成する端末と非接触通信要素とを通信させるために前記端末を制御する方法において、
請求項1の方法に応じて前記端末が電磁場内に前記非接触通信要素の存在を検出したとき、水晶発振器を用いて通信を開始することを特徴とする方法。
【請求項6】
非接触通信要素の存在を検出する検出器において、
発振回路と、
該発振回路を励振するための周波数を可変とする発振器と、
前記発振回路の負荷を示す値を基準値と比較する比較器と
を備えることを特徴とする検出器。
【請求項7】
前記値が前記基準値を超えていない場合に、電磁場内に前記非接触通信要素が存在すると判断するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の検出器。
【請求項8】
非接触通信要素と通信する端末において、
発振回路と、該発振回路を励振するための周波数を可変とする発振器と、前記発振回路の負荷を示す値を基準値と比較する比較器とを含み、前記非接触通信要素の存在を検出する検出器を備えることを特徴とする端末。
【請求項9】
更に水晶発振器を備えることを特徴とする請求項8に記載の端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−33572(P2010−33572A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172296(P2009−172296)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(509096153)エス テ マイクロエレクトロニクス(ローセット)エス アー エス (15)
【Fターム(参考)】