説明

競技場用の防護柵

【課題】劣化、経年変化等により透明感がなくなった時に必要とする部分のみの交換を可能とする一方、衝突時の衝撃エネルギーを確実に吸収できる防護柵を提供する。
【解決手段】所定の間隔で立てられた各主柱1に対して、前記主柱1から主柱1までの長さに形成された透明な合成樹脂製の棚板7−1,7−2を少なくとも上下2枚に分割し、その両端部を進退可能な取付けブラケット3を介して前記主柱1に着脱自在に取付ける。上下に分割された柵板7−1と柵板7−2の間には多数の孔のあいた孔あき衝撃吸収部材35を設ける一方、各柵板7−1,7−2に沿って緊張力付勢手段45により緊張力が与えられると共に波打ちを防ぐワイヤ43を設けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は競技場等に適する競技場用の防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に競技場等の防護柵はバンクに沿って設けられ、防護柵は、例えば、金網等によって作られる。
【0003】
金網はバンク内への侵入を阻止する一方、金網を透して競輪選手の動きや競技状況が見えるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防護柵はバンク内への侵入を阻止する点、外から直接見える点に加えて競輪選手が衝突した時にその衝撃エネルギーを吸収し大怪我になるのを抑える安全柵としての機能が求められる。
【0005】
その点、金網は前記要求を満たすようになるが、金網製の防護柵は針金を格子状に編んだ形状となるため表面全体に凹凸が生まれる。
【0006】
この凹凸は衝突時に滑らずに身体が引っかかる問題を残す。このために、最近では金網に変えて引っかかりのない透明なアクリル板を用いた防護柵が採用されている。
【0007】
防護柵をアクリル板で作る場合、金網と同様に外から中が見えるように透明であることが絶対条件となるがアクリル板は、衝突時に引っかかりが発生しない点で優れているが、第1に経年変化によって表面に多数の傷がついたり、劣化等の影響で透明感がなくなり次第に見えづらくなる不具合をかかえる。第2に外気温の影響で膨張すると両端が支柱に固定されているため波打ちが発生する恐れがある。この場合、波打ちが起きない厚みを備えるようにするため、アクリル板1枚あたりの重量が増加し設置時の作業性の面で望ましくないことと、コスト高を招く。第3にアクリル板が厚くなると衝突時に変形しづらい剛性壁面として作用し衝突エネルギーの吸収がしづらくなる課題を残す。
【0008】
そこで本発明にあっては、透明感がなくなった時に防護柵全体ではなく、見る領域となる必要とする部分のみの交換を可能とする一方、衝突時の衝突エネルギーを確実に吸収できる競技場用の防護柵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明にあっては、所定の間隔で立てられた主柱と、前記各主柱に設けられたスプリングにより常時前方へ向け付勢された進退可能な取付けブラケットと、前記主柱から主柱までの長さに形成され両端部が前記取付けブラケットに対して着脱自在に取付けられた透明な合成樹脂製の柵板とで構成され、前記合成樹脂製の柵板は少なくとも所定の隙間を有して上下2段に分割され、上下に分割された柵板と柵板の間に多数の孔のあいた孔あき部材を設ける一方、少なくとも、前記合成樹脂製の柵板に沿って常に緊張力を与える緊張力付勢手段を備えたワイヤを設け、そのワイヤを所定の間隔で前記柵板に固定支持したことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記緊張力付勢手段としては、一端が前記ワイヤに、他端が固定部材にそれぞれ支持されたコイルばねや、あるいは、テンション支持体を介して垂直されるワイヤの一端に取付けられたテンションウエイトとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外気温の影響を受けた時に合成樹脂製の棚板は要所、要所が緊張力が与えられたワイヤに固定支持されているため、膨張にともなう波打ちが抑えられ薄い板厚で対応することができる。
【0012】
この結果、衝突等が発生した時に、一般面の領域にあっては大きく撓む変形によって、主柱領域にあってはスプリングによる進退可能な取付けブラケットによって衝突エネルギーの吸収が図れる。この時、柵板の一般面領域の撓みによる変形はその変形量に比例して緊張力付勢手段によってワイヤも一緒に伸長するため衝撃に基づく柵板の変形に何等悪影響は起きず、無理なく確実に衝撃エネルギーを吸収できる。しかも、一般面に沿って身体は円滑に滑るため傷等の発生を抑えることができる。
【0013】
一方、柵板表面が傷及び劣化等の影響で透明感が失われた場合には、透明感がなくてもあまり影響のない下位領域の柵板を除き、目の高さとなる上位側の柵板のみ新しいものと交換することができる。この交換時において薄い板厚からくる軽量化によって取付け時の搬送、取付け作業を容易に行なうメリットが生まれる。しかも、交換時のコストも安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1乃至図8の図面を参照しながら本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
図中1は競輪場等のバンクに沿って所定の間隔で立てられた上下に長い主柱、3は前記主柱1に対して進退可能(図1矢印)な取付けブラケットをそれぞれ示している。
【0016】
主柱1は中空の角柱状に形成され、下端は基礎5内に埋め込まれることで固定支持されている。
【0017】
取付けブラケット3は、主柱1に対して上下方向に四箇所配置され、最上位となる一番目と次に位置する二番目の取付けブラケット3は、後述する上下の合成樹脂製の棚板7−1,7−2の上位側の柵板7−1取付け用となっている。三番目と四番目の取付けブラケット3は上下の合成樹脂製の棚板7−1,7−2の下位側の棚板7−2取付け用となっている。
【0018】
この場合、取付けブラケット3をさらに増やして柵板を三つに分割し上段、中段、下段の各柵取付け用とすることも可能である。
【0019】
上下に四箇所設けられた取付けブラケット3の構造は、同一構造となるため、その代表例を図4に示す。
【0020】
取付けブラケット3は前面9と両サイド部11とからなる断面コ字状に形成され、その前面9は柵板取付面となっている。両サイド部11は前記主柱1の両側面と外側から挟みつけるよう接触しボルト13及び袋状のナット15によって固定支持されている。ボルト13は取付けブラケット3の両サイド部11に設けられた前後に長い長孔17と主柱1の両側面に設けられた取付孔19を貫通し、貫通したボルト13のねじ部13aに袋状のナット15が螺合している。
【0021】
取付けブラケット3と主柱1との間には前方(図4矢印イ)へ向け付勢するスプリング19が介装支持されている。
【0022】
スプリング19は、衝撃等の荷重が作用すると取付けブラケット3を長孔17の範囲内においてばね圧に抗して後退(矢印ロ)させることで衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収用となっている。
【0023】
一方、上下に分割された合成樹脂製の棚板7−1,7−2は透明なポリカーボネート製で、両端部までの寸法は主柱1から主柱1までの長さに作られている。
【0024】
上位側の柵板7−1は、観客の上半身が隠れる寸法に作られていて、競技中の競輪選手が柵板7−1を透して見えるようになっている。
【0025】
上位側の柵板7−1はその両端部が前記取付けブラケット3の前面9にボルト21及びナット23によって固定支持された上下に長い取付板25に着脱自在に取付られている。
【0026】
この場合、ナット23は取付けブラケット3の裏面に溶着されたウェルとナットとなっていて、ボルト螺合時にナット23を支持しなくても外からのボルト21の螺合が支障なく行なえるようになっている。
【0027】
取付板25には、各主柱1と主柱1の間に配置された前記柵板7−1と柵板7−1の両端末部が突合わされた状態で、ボルト27、ナット29によりゴム製の弾性部材31を介して取付けられている。したがって、ボルト27を弛め取外すことで新しい柵板7−1の交換が可能となっている。
【0028】
弾性部材31は、前記取付板25とほぼ同一幅に形成され、中央部位に突条部31aが長手方向に沿って形成されている。弾性部材31の突条部31aには前記柵板7−1と柵板7−1の各端末が弾接しており、その突合わせ領域に おいて面一形状が確保されている。
【0029】
上位側の柵板7−1を取付けるボルト27の頭は、皿板状に形成され座金33から外部へ突出しないようになっている。
【0030】
下位側の柵板7−2は透明なポリカーボネート製で所定の隙間dを有して前記上位側の柵板7−1と同様に取付けブラケット3に取付けられている。取付け構造は同一のため同一符号を符して詳細な説明を省略する。
【0031】
上位側の柵板7−1と下位側の柵板7−2の間dと、下位側の棚板7−2と地表面9との間には、孔あき衝撃吸収部材35が設けられている。
【0032】
孔あき衝撃吸収部材35は図6(a)(b)に示す如く中間部用と下部用の二種類あって、中間部用となる孔あき衝撃吸収部材35は、ゴムの材質で帯板状に形成された主体部35aの上端縁と下端縁に沿って断面U字状の嵌合凹部36,37を有する形状となっている。上方の嵌合凹部36は上位側の柵板7−1の下端縁と、下方の嵌合凹部37は下位側の棚板7−2の上端縁とそれぞれ嵌合している。孔あき衝撃吸収部材35の主体部35aには多数の貫通孔39が設けられている。この貫通孔39は、選手が近くを通過した時に声援がよく届くようにすること、通過時の自転車通過音が貫通孔39を介してよく聞こえるようにすることで臨場感が得られるようにするためのものとなっている。
【0033】
下部用の孔あき衝撃吸収部材35は、ゴムの材質で帯板状に形成された主体部35aの上端縁に沿って断面U字状の嵌合凹部41を有する形状となっている。上方の嵌合凹部41は下位側の棚板7−2の下端縁と嵌合し合うと共に主体部35aの下縁は地表面9と接している。主体部35aには多数の貫通孔39が設けられ、この貫通孔39は前記中間部用の主体部35aに設けられた貫通孔39と同一機能を有する。
【0034】
なお、孔あき衝撃吸収部材35はゴムの帯板状に特定されず、ネットタイプであってもよい。
【0035】
一方、上位側及び下位側の柵板7−1,7−2と孔あき衝撃吸収部材35には波打ち防止用のワイヤ43が設けられている。ワイヤ43は各柵板7−1,7−2が外気温の影響で膨張し波打ちが起きるのを抑えるための補強手段となっていて、例えば、図7に示すように例えば20mおきに設けられた緊張力付勢手段45によって常に緊張力が与えられている。
【0036】
ワイヤ43は上位側の柵板7−1の上端部と孔あき衝撃吸収部材35の中間部と下位側の棚板7−2の下端部とに沿って設けられている。
【0037】
ワイヤ43は約20mの長さとなっていて、その一端は図8に示すように主柱1に、他端はプーリ等のテンション支持体46から緊張力付勢手段45となるコイルばね47とターンバークル49を介して地表面9のアンカ51にそれぞれ固定支持されている。
【0038】
したがって、ターンバークル49を右又は左へ回転させることでコイルばね47を引張る引張力の調節が可能となり、強く引張ることでワイヤ43に強い緊張力を与えることが可能となっている。
【0039】
この場合、緊張力付勢手段45としては必ずしもコイルばねタイプでなくてもよい。例えば、図9に示すようにプーリ等のテンション支持体46から延長される前記ワイヤ43の端部にテンションウエイト52を吊下げ、そのテンションウエイト52のウエイトによって前記ワイヤ43に常に緊張力を与えるテンションウエイトタイプとすることも可能である。
【0040】
なお、上下に位置するテンション支持体46は各柵板7−1,7−2に直接に、中間に位置するテンション支持体46は各柵板7−1,7−2をつなぐジョイントブラケット(点線で示す)にそれぞれ取付られる。
【0041】
一方、ワイヤ43の中間領域は図5に示すように第1、第2、第3ワイヤ支持具53,55,57によって上位側と下位側の各柵板7−1,7−2にそれぞれ支持されている。
【0042】
第1ワイヤ支持具53は主柱領域用となっていて、上下に長い前記取付板25の上端部、中間部、下端部(図示していない)にそれぞれ固着された中空の筒状に形成されている。上端部は上位側の柵板7−1の上端部と、中間部は孔あき衝撃吸収部材35の中央部と、下端部は下位側の棚板7−2の下端部の各位置とそれぞれ対応し、内部を前記ワイヤ43が貫通している。
【0043】
第2ワイヤ支持具55は、各柵板7−1,7−2の上端部、下端部領域用となっていて、ナット59にリング部61が設けられたアイナットの形状となっている。ナット59は上位側と下位側の各柵板7−1,7−2にボルト63によって固定支持され、リング部61には前記ワイヤ43が貫通している。
【0044】
第3ワイヤ支持具57は、各柵板7−1,7−2の中間部位を連結する連結領域用となっていて、上下の取付孔65,66を有する金具67に中空の筒部69が設けられたジョイント金具の形状となっている。上方の取付孔65はボルト71、ナット73によって上位側の柵板7−1に、下方の取付孔66はボルト75、ナット77によって下位側の棚板7−2にそれぞれ固定されている。中空の筒部69には前記ワイヤ43が貫通した構造となっている。
【0045】
なお、ワイヤ43は柵板交換時、途中箇所を切断して切り離し新しいワイヤを用いるようにしてもよく、あるいは、ワイヤ43を取り外し再使用してもよい。
【0046】
このように構成された防護柵によれば、主柱1によって両端が固定支持された柵板7−1,7−2が外気温等の影響を受けたとしても柵板の要所、要所はワイヤ43に固定支持されているため膨張にともなう波打ちが抑えられ、今迄より薄い板厚の柵板で対応することが可能となる。この結果、衝突等が発生した時に、一般面の領域及び孔あき衝撃吸収部材35の領域にあっては大きく撓む変形によって、また、主柱領域にあってはスプリング19による進退可能な取付けブラケット3によってそれぞれ衝撃エネルギーの吸収が図れる。この場合、各柵板7−1,7−2の一般面領域の変形量はその変形量に比例してワイヤ43は緊張力付勢手段45となるコイルばね47が伸長するため衝撃に基づく柵板の変形,撓みに対して何等悪影響は起きず、無理なく確実に衝撃エネルギーを吸収する。しかも、一般面に沿って身体は円滑に滑るため傷等の発生が抑えられる。
【0047】
一方、柵板表面が傷や劣化等の影響で透明感が失われた場合には、透明感がなくてもあまり影響のない下位領域の柵板7−2を除き、目の高さとなる上位側の柵板7−1のみ新しいものと交換する。この交換時、柵板7−1は薄い板厚からくる軽量化によって取付け時の搬送、取付け作業が楽に行なえる。しかも、交換時にかかる柵板7−1のコストも安価に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明にかかる防護柵の支柱領域の取付け状態を示した一部の概要切断面図。
【図2】防護柵の中間領域の取付け状態を示した一部分の概要切断面図。
【図3】防護柵を主柱に取付けた状態の一部分の概要平面図。
【図4】主柱、取付けブラケット、柵板の関係を示した概要分解平面図。
【図5】第1、第2、第3ワイヤ支持具の取付け状態を示した概要説明図。
【図6】孔あき衝撃吸収部材を示した一部分の概要斜視図。
【図7】コイルばねタイプとした緊張力付勢手段を示した概要説明図。
【図8】図7Aの拡大概要斜視図。
【図9】テンションウエイトタイプとした緊張力付勢手段を示した概要説明図。
【符号の説明】
【0049】
1 主柱
3 取付けブラケット
7−1 上位側の柵板
7−2 下位側の棚板
19 スプリング
35 孔あき衝撃吸収部材
45 緊張力付勢手段
46 テンション支持体
47 コイルばね
52 テンションウエイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で立てられた主柱と、前記各主柱に設けられたスプリングにより常時前方へ向け付勢された進退可能な取付けブラケットと、前記主柱から主柱までの長さに形成され両端部が前記取付けブラケットに対して着脱自在に取付けられた透明な合成樹脂製の柵板とで構成され、
前記合成樹脂製の柵板は少なくとも所定の隙間を有して上下2段に分割され、上下に分割された柵板と柵板の間に多数の孔のあいた孔あき部材を設ける一方、少なくとも、前記合成樹脂製の柵板に沿って常に緊張力を与える緊張力付勢手段を備えたワイヤを設け、そのワイヤを所定の間隔で前記柵板に固定支持したことを特徴とする競技場用の防護柵。
【請求項2】
前記緊張力付勢手段は、一端が前記ワイヤに、他端が固定部材にそれぞれ支持されたコイルばねとなっていることを特徴とする請求項1記載の競技場用の防護柵。
【請求項3】
前記緊張力付勢手段は、テンション支持体を介して延長されるワイヤの一端に取付けられたテンションウエイトとなっていることを特徴とする請求項1記載の競技場用の防護柵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−211(P2009−211A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162659(P2007−162659)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000232508)日本道路株式会社 (48)
【出願人】(391017975)AGC硝子建材エンジニアリング株式会社 (28)
【出願人】(503368476)塚本商事機械株式会社 (1)
【Fターム(参考)】