説明

第VIII因子の安定製剤

本発明は、とりわけ、25℃で最低18週間保存安定性であり、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、25℃で18週間の保存後、対照組成物の第VIII因子の効力の少なくとも90%の第VIII因子の効力を有する組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、凝固第VIII因子の安定化、特に治療適用のための水性液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血友病Aは、血液の凝固能力が損なわれ、過剰な出血が生じる遺伝性の障害である。血友病A(しばしば古典的血友病(classic haemophilia)と称される)は、凝固第VIII因子の欠乏である。長期的な出血は血友病Aの顕著な特徴である。小さな創傷および穿刺は、通常問題ではないが、制御されない内出血は疼痛、腫張ならびに特に関節および筋肉に対して永続的な損傷をもたらし得る。症状の重症度は多様であり得、重度の形態は早い時期から明らかとなる。緩やかな症例は、手術または外傷に対して過剰な出血および凝固問題が生じる晩年まで気づかれないことがある。内出血はどこにでも起こり得、関節への出血が一般的である。
【0003】
第VIII因子は、血液凝固カスケードに必須で、血友病Aの治療に使用されるマルチドメイン糖タンパク質である。出血発現の治療とは別に、第VIII因子は、関節に対する長期的な損傷を低減するために徐々に予防的に投与されている。第VIII因子は、血液凝固カスケードに関連する多くのタンパク質の1つである。第VIII因子は、カルシウムイオンおよびリン脂質の存在下で第X因子を活性形態Xaに変換する第IXa因子の補因子である。第VIII因子分子は、A1、A2、A3、B、C1およびC2と示される6個の中心ドメインからなる。最近販売された第VIII因子製品は全てのドメインを含む。しかしながら、Bドメインは、凝固活性になくてもよいことが示され、現在販売されている第VIII因子製品の1つ(ReFacto)は、Bドメインを欠いて生成される。第VIII因子の天然の構造は、推定1:1の化学量論を有する複合体化カルシウムイオン(すなわち、第VIII因子1分子あたり1つのカルシウムイオン)を含む。したがって、第VIII因子の構造内でのカルシウムイオンの適切な結合は、その構造完全性および凝固活性の維持に重要である。
【0004】
全ての市販の第VIII因子製品は、現在、組み換え技術により生成されるかまたはプールされた血漿から精製されるかのいずれかの第VIII因子の凍結乾燥製剤として与えられる。調製物は、典型的にスクロースの添加により安定化される。凍結乾燥製品の投与は、製品の再構成および製剤の滅菌性の維持のための多くの工程を含む非常に複雑な手順である。例えば、ADVATE、2010年3月について処方される情報を参照。一旦再構成されると、貯蔵寿命は3時間に限られる。投薬量は、患者および状況(例えば出血発現)に依存して大きく変化する。ボーラス注入による投与は、10mL/分の最大注入速度で5分までかかる。この投与は最初血友病施設で行なわれるが、一旦患者が自己投与できるようになり、実際の考察が可能な場合、患者は自宅で自己投与する。
【0005】
しかしながら、再構成に頼らない、使用が簡単な第VIII因子の製剤を提供する必要がある。第VIII因子の安定な水性製剤により、現在の粉末製剤に取って代わる、便利な、患者に準備された前もって充填されたシリンジまたは従来の保存バイアル中の包含物の開発が可能になる。
【0006】
第VIII因子は、特に水溶液中では比較的不安定なタンパク質である。他の血漿タンパク質、特にフォン・ビルブラント因子(vWF)およびアルブミンとの複合体化による、製造および保存時の安定化が記載されている。例えば米国特許第6,228,613号参照。vWF:第VIII因子複合体は、治療製品としては販売されていないが、いくつかの商業的過程では安定中間体として使用されている。種々のアルブミン非含有凍結乾燥製剤も開示されている。例えば、米国特許第6,586,573号には、スクロース、トレハロース、ラフィノースおよびアルギニンからなる群より選択される安定化剤、ならびにマンニトール、グリシンおよびアラニンからなる群より選択される増量剤(bulking agent)の使用が記載される。米国特許第5,919,766号には、L-ヒスチジンバッファおよび塩化ナトリウムまたは塩化カリウムと組み合わせた、第VIII因子をアモルファス状態で保護するための非イオン性界面活性剤の使用が開示される。米国特許第5,565,427号には、アミノ酸またはその塩もしくはホモログの1つおよび界面活性剤またはポリエチレングリコールなどの有機ポリマーを含む安定化された第VIII因子の製剤が開示される。
【0007】
米国特許第5,605,884号には、塩化カルシウムおよび高濃度の塩化ナトリウムもしくは塩化カリウムの存在下のヒスチジンバッファに基づいた高イオン強度媒体中の安定化された第VIII因子の製剤が開示される。かかる組成物は、再構成後の水性形態の第VIII因子の安定性を有意に向上することが示された。
【0008】
第VIII因子の製剤中のカルシウムイオンの重要性は、一般的に認識されている(Fatourus et al (1997) Int J Pharm 155, 121-131参照)。現在市場で入手可能な全ての第VIII因子製品は、再構成後に2〜10mMの濃度で塩化カルシウムを含む。米国特許第6,599,724号によると、他の二価カチオン、すなわちCuおよびZnの存在は、任意にCa2+イオンまたはMn2+イオンの存在下で第VIII因子の安定性を向上する。
【0009】
第VIII因子製剤にEDTAを添加することで、金属依存的プロテアーゼによる分解が低減されることがWO96/15150に記載される。
【0010】
したがって、従来技術は、水性安定第VIII因子製剤が存在することを示唆するが、長期的保存に適切な水性製剤を提供しない。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、第VIII因子の保存安定水性組成物の発見に関する。該組成物は、25℃で最低18週間保存安定性であり、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、25℃での保存の18週間後に対照組成物の第VIII因子の効力(potency)の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の第VIII因子の効力を有する。代替的にまたは付加的に、該組成物は、5℃で最低26週間、例えば52週間保存安定性であり、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、5℃で26または52週間の保存後に、対照組成物の第VIII因子の効力の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の第VIII因子の効力を有する。
【0012】
例えば、本発明の局面として、25℃で最低18週間および5℃で最低26週間保存安定性であり、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、25℃で18週間の保存後および5℃で26週間の保存後に、対照組成物の第VIII因子の効力の少なくとも95%の第VIII因子の効力を有する組成物が提供される。
【0013】
EDTAなどの強力なリガンドの存在下で過剰なCa2+イオンを有する製剤を提供することが特に有益である。強力なリガンドは、望ましくは、製剤中の第VIII因子の効力に有害に影響し得る望ましくない遷移金属イオンに結合する。この文脈において「過剰な」は、第VIII因子または強力なリガンド(または任意の他のリガンド)のいずれかと複合体化していない遊離Ca2+イオンが存在することを意味する。
【0014】
本発明はさらに、本明細書に記載される組成物に対応する凍結乾燥物、乾燥組成物、例えば噴霧乾燥組成物または他の実質的に水を含まない組成物に関する。かかる乾燥組成物は、再構成に適切であり得、注射用の水と共に滅菌密封バイアルまたは容器に包装され得る。かかる再構成製品は、現在市販されている他の第VIII因子製剤に対して貯蔵寿命が延長されるという利点を有する。したがって、本発明は、凍結乾燥または乾燥、例えば噴霧乾燥によるなど本発明の組成物から水を除去することで得られ得る実質的に水を含まない組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、第VIII因子の安定な水性組成物の発見に関する。静脈内、皮下または筋内適用などの治療適用に適切な水性組成物を作製するために、組成物の特定の所望の特性、例えば安全性および賦形剤の規制上の許容が確実にされなければならない。本明細書に開示される基本的な第VIII因子の水性組成物は、非経口適用のための薬物製品中の不活性成分として、規制当局にすでに認可された賦形剤を基にする。
【0016】
第VIII因子の効力は、CA-50半自動化凝固測定装置(coagulometer)(Sysmex Corporation)および凝固第VIII因子の測定用のDade Behring Inc. (OTXW G13 E0535 (623) H1、2001年4月版)により提供されるAPTT手順を使用して測定された値として定義される。該アッセイまたは凝固測定装置が利用できないかまたは不都合である場合、本願の教示を手引きとして使用して同等のアッセイがそれらと置換され得ることが理解される。
【0017】
「対照組成物」は、本明細書において、保存条件に供されない、同じ成分および同じ賦形剤を同じ濃度で有する組成物として定義される。対照組成物は、(例えば凍結乾燥されたかまたは最近作製/単離された第VIII因子から)新たに調製され得るか、または組成物を保存条件に供する前に、効力について測定され得る。対照組成物は、再構成されたかまたは任意の条件下もしくは第VIII因子の効力の実質的な低減を引き起こす条件下で3時間より長く保存された第VIII因子組成物を含まない。
【0018】
実質的な時間の間の保存は、種々の条件に供されることであると予想されることも理解される。25℃での典型的な保存は、実際に室温保存に典型的な温度における変化または変形を含む。典型的に、組成物が制御された安定性試験に供される場合、温度は、記載の温度から3℃以内に維持される。しかしながら、試験は、例えば販売の時点または投与の時点に市販のロットから得られる製品でも行われ得ることが理解される。これらの例において、保存温度、特に室温保存は、厳密に制御されていなくても良く、10℃以上異なり得ることが理解される。保存条件におけるかかる変形は、特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【0019】
好ましくは、組成物は、水、治療有効量の第VIII因子、TRIS、安息香酸塩(benzoate)、カルシウムイオン、EDTA、およびナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属イオン、ならびに任意に界面活性剤および/または保存剤を含む。好ましい態様において、組成物は、本質的にこれらの成分からなる。本質的に記載の成分からなる組成物は、保存の条件下で第VIII因子の効力の低減を生じる賦形剤または添加剤を含む組成物を除外することが意図される。例えば、本質的に記載の成分からなる組成物は、製剤のpHから1pH単位以内のpKaを有する賦形剤および/または製剤中に存在する遊離金属イオンの濃度を超える量の強力なリガンドを含む組成物を除外することが意図される。pHは、好ましくは約6.25である。
【0020】
第VIII因子は、好ましくは50〜1000IU/ml、好ましくは50〜250IU/mlの量で組成物中に存在する。IUは、WHOにより定義された国際単位を意味すると理解される。本発明は、組み換え第VIII因子およびプールされた血漿から精製された第VIII因子に適用可能である。用語「凝固第VIII因子」および「第VIII因子」は、本明細書で使用する場合、天然のヒト第VIII因子の生物学的活性と同一または同様の生物学的活性を有する、組み換え技術により生成されたかまたはプールされた血漿から精製されたかのいずれかのタンパク質分子を含む。用語「凝固第VIII因子」および「第VIII因子」は、第VIII因子の全ての天然のドメイン (A1、A2、A3、B、C1およびC2)を含む分子、および血液凝固活性に有意に影響することなく1つ以上のドメインが欠失した、例えばBドメインが欠失した分子の両方を含む。用語「凝固第VIII因子」および「第VIII因子」は、天然のヒト第VIII因子と同一のアミノ酸配列を有するドメインを含む分子、および凝固活性に有意に影響することなくアミノ酸配列の変異が実行されたアナログの両方を含む。
【0021】
好ましくは、第VIII因子組成物は、第VIII因子の効力を最適化するのに充分な濃度のカルシウムイオンを含み、好ましくは組成物中のタンパク質との、より具体的にはタンパク質および任意の強力なリガンドとの複合体化に必要な濃度を超えて組成物中に存在する。したがって、好ましくはカルシウムは、0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度でカルシウムイオン(遊離および複合体化)を提供する量および適切な形態で添加される。カルシウムは、例えば塩として組成物に添加され得る。カルシウム塩の好ましい例としては、塩化カルシウムが挙げられる。以下に説明されるように、炭酸カルシウムおよび炭酸水素カルシウムは好ましくは除外される。任意に、塩化マグネシウムなどのマグネシウムイオンが添加され得る。別の態様において、マグネシウムは除外され得る。
【0022】
組成物は、さらに好ましくは、組成物中の遊離カルシウムイオンの存在を可能にするのに充分に低い量で強力なリガンドを含む。用語「リガンド」は、複合体イオンの形成を生じる金属イオンに結合し得る任意の化合物を含むように本明細書において使用される。本発明の目的のために、リガンドは「弱いリガンド」、「中強度のリガンド」および「強力なリガンド」に分けられる。「弱いリガンド」、「中強度のリガンド」および「強力なリガンド」の用語は、以下のように、カルシウムイオンとリガンドの複合体の安定性定数に基づいて定義される:弱いリガンドは、logK<0.5のカルシウムイオンとの複合体の安定性定数を有する;中強度のリガンドは、0.5〜2のlogKのカルシウムイオンとの複合体の安定性定数を有する;強力なリガンドは、logK>2のカルシウムイオンとの複合体の安定性定数を有する。全ての安定性定数は、25℃で測定されたものである。強力なリガンドは、好ましくは望ましくないタンパク質-金属イオン複合体化を制御または最小限にするために組成物に添加される。したがって、添加されるリガンドの好ましい量は、望ましくない金属イオン(例えば、残存または微量の銅、亜鉛または鉄またはマンガンのイオンなどの遷移金属)と結合する量である。強力なリガンドは、望ましくはCu2+、Zn2+、Fe3+)またはMn2+などの遷移金属イオンに対して、Ca2+イオンに対するその結合親和性を超える結合親和性を有する。結合親和性は、強力なリガンドと前記イオンとの複合体の25℃で測定される安定性定数に関して適切に測定される。例えば、Ca2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+イオンとのEDTA複合体の安定性定数は、それぞれ25℃で10.7、16.5、18.8および25.7である。しかしながらリガンドの好ましい量は、好ましくは、第VIII因子タンパク質との所望のカルシウムイオンの複合体化と競合するおよび防ぐほど高くはないか、または組成物中の全てのカルシウムイオンに結合するほど高くはない。したがって、強力なリガンドの存在は、組成物中の遊離カルシウムイオンの所望のレベルに影響することなく、カルシウム以外の金属イオンの存在を実質的に排除する。リガンドのこの好ましい範囲は、本明細書において「有効量」と定義される。金属-リガンド複合体の安定性定数は、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)により公開された包括的データベースから入手し得る(NIST Standard Reference Database 46, R. M. Smith and A. E. Martell: Critically Selected Stability Constants of Metal Complexes Database)。本発明に関連して安定性定数を使用した技術は、参照により本明細書に援用されるJan Jezekの名義のWO2009/133200に詳細に記載される。用語「遊離カルシウムイオン」は、第VIII因子または強力なリガンド(または任意の他のリガンド)により結合されないカルシウムイオンを示すように本明細書で使用される。本定義の目的のために、(カルシウムイオンを溶媒和し得る)水はリガンドとは見なされない。
【0023】
適切な強力なリガンド(括弧内はカルシウムイオンのLogK)の例としては、EDTA(10.81)、クエン酸塩(citrate)(3.48)、メチオニン(2.04)、システイン(2.5)、リンゴ酸塩(malate)(2.06)および亜硫酸塩(sulhite)(2.62)が挙げられる。リガンドの選択は一般的に、参照により本明細書に援用されるWO2009/133200に記載される。望ましくない金属イオンに結合する目的のために、強力なリガンドの使用が好ましく、最も好ましくは強力なリガンドはEDTAである。
【0024】
したがって、好ましくは、EDTAは、組成物中の遊離カルシウムイオンの存在を可能にする濃度で存在する。例えば、好ましい組成物は、0.001mM〜2mMの濃度のEDTAを含む。
【0025】
組成物のpHは好ましくは約6.25である。このpHで、本発明者は、第VIII因子が最も安定であると考える。WO2008/084237には、置換バッファ(displaced buffer)を使用して、水性組成物のpHを調節する方法が記載される。該公開公報は、その全体において参照により本明細書に援用される。置換バッファは、組成物からpHの1〜5、例えば1〜4、例えば1〜3のpH単位以内のpKaを有し、組成物のpHから1pH単位以内のpKa値を有さないイオン化可能(ionisable)基を有するバッファである。適切な置換バッファの組合せは、組成物のpHより高いpKaを有するイオン化可能基を有する1つの置換バッファおよび組成物のpHより低いpKaを有するイオン化可能基を有する1つの置換バッファを含む。代替的に、置換バッファは、2つのイオン化可能基を含み得、1つは組成物のpHより高いpKaを有し、1つは組成物のpHより低いpKaを有するイオン化可能基を有する。好ましいバッファは、この参考文献の教示に従って選択され得る。特に好ましい置換バッファとしては、組み合わせて、かつ特に5.5〜7、例えば約6.25のpHの組成物中で使用され得るTRISおよび安息香酸塩が挙げられる。好ましくは、TRISおよび安息香酸塩は、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度で存在する。
【0026】
所望のカルシウムイオンの都合の悪い複合体化を回避するために、使用されるバッファは、それ自体が弱いリガンドであるべきである。
【0027】
好ましくは、組成物はさらに、組成物のイオン強度を向上するためにナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含む。これらのイオンは、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどの塩として都合よく添加され得る。したがって、好ましい組成物は、少なくとも100mMの塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを含む。硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムなどの代替的な塩も考慮され得る。
【0028】
組成物には、界面活性剤も任意に添加され得る。好ましい界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407が挙げられる。好ましくは、界面活性剤は、10mg/mlまで(up)、例えば5mg/mlまで、例えば3mg/mlの量で添加され得る。好ましくは、組成物は、10〜50mg/Lの濃度のポリソルベート80または0.2〜3mg/mLの濃度のポロキサマー188を含む。
【0029】
組成物はまた、任意に、薬物製品中での使用が認可されたものなどの保存剤を含み得る。好ましい保存剤は、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムを含む群から選択され得る。
【0030】
態様において、1,2-プロパンジオールは、少なくとも100mMの濃度などで添加され得る。好ましくは、上述の組成物は、100mM〜1M、最も好ましくは200mM〜500mMの濃度で1,2-プロパンジオールを含む。
【0031】
密封バイアル中のヘッドスペース(headspace)のガスを調節することでも安定性が改善され得ることが発見された。特に、二酸化炭素が第VIII因子の安定性に有害であることが発見された。したがって、本発明は、密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まないヘッドスペース下で保存された組成物に関する。例えば、密封容器のヘッドスペースを充填するために、窒素またはヘリウムが都合よく使用され得る。
【0032】
注射用の組成物は滅菌されなければならない。治療的使用のための液体組成物の滅菌は、滅菌条件下でバイアルまたは前もって充填されたシリンジなどの適切な容器に最終的に充填する前に、0.22μmフィルターまたは0.45μmフィルターなどの適切なフィルターまたは膜を使用して、組成物をろ過することにより達成され得る。本明細書に開示される第VIII因子の好ましい水性組成物は、滅菌ろ過して最終容器に無菌的に充填される。組成物はまた、薬理学的に許容され得る保存剤の存在下で使用され得る。
【0033】
本発明は、第VIII因子の効力が5℃および25℃の両方で、延長された期間保存される第VIII因子の水性製剤を開示する。本発明の重要な局面は、金属イオンを制御すること、例えばカルシウムイオンを添加することならびに中強度および強力なリガンドの過剰なまたは遊離形態を回避すること、したがって溶液中の遊離カルシウムイオンの存在を確実にすることにある。本明細書で使用する場合、リガンドの「遊離形態」は、金属イオンと複合体化しないリガンドの形態である。バッファ、例えば置換バッファは、好ましくはカルシウムイオン結合に関連して弱いリガンドから選択される。
【0034】
本発明に関連して、溶解した気体の分子も金属イオンと配位結合を形成し得るリガンドであるということを理解することが重要である。これは特に二酸化炭素の場合である。二酸化炭素-金属複合体は、Gibson D.H.: Coordination Chemistry Reviews, 185-186 (1999) 335-355に概説される。金属イオンへの直接結合とは別に、二酸化炭素はまた、金属結合し得る種々の炭酸(carbonate)種を生じることにより間接的に金属結合に寄与し得る。これは、水溶液中で、二酸化炭素は常に、炭酸と種々の炭酸アニオンとの平衡において存在していることによる:


実験により、ヘッドスペースに低い分圧であっても二酸化炭素が存在することは、ヘッドスペース下に保存された水性第VIII因子の安定性に有害であることが示された。これは、炭酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムとして、カルシウムの使用が適切に回避されたためである。
【0035】
第VIII因子の貯蔵安定性の最適pHは、約6.25である。さらに、第VIII因子の安定性は、実験的に、イオン種の存在下で改善されることが見出された。この事は以前の報告(例えば米国特許第5,605,884号)と一致している。しかしながら、イオン種が、カルシウムイオン結合に関連して中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態を含まないことを確実にすることが重要である。本発明に関連して好ましいイオン種は、ナトリウムまたはカリウムのカチオンおよび塩化物のアニオンである。本発明の全ての局面の第VIII因子の組成物は、好ましくは少なくとも100mMの塩化ナトリウムまたは少なくとも100mMの塩化カリウムを含む。
【0036】
本発明の組成物は、適切に、ヘパリンまたはヘパリンナトリウムなどのヘパリン塩を含まない。
【0037】
本発明の組成物は、適切に、アルギニンを含まない。
【0038】
本発明の組成物は、適切に、グリシンを含まない。
【0039】
本発明の一局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度または有効量の第VIII因子を含み、さらに:
(i) 該組成物は、0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態である賦形剤を実質的に含まないこと;
(iii) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること
を特徴とする。
【0040】
驚くべきことに、かかる組成物に、少量のEDTAなどの強力なリガンドを添加することが有益であることが見出された。しかしながら、強力なリガンドの濃度が組成物中に存在するカルシウムイオンの濃度を越えないことが重要である。好ましくは、強力なリガンドの濃度は、カルシウムイオンの濃度の半分未満、例えばカルシウムイオンの濃度の10分の1である。次いで、強力なリガンドは、実際にはその遊離形態では非存在となる(すなわち金属イオンに結合しない)。カルシウムイオンと強力なリガンドが同時に存在することは、そうでなければ夾雑物として組成物中に存在して有害な酸化または凝集過程に寄与し得る微量の他の金属イオン(遷移金属イオンなど、例えば第二銅イオンまたは第二鉄イオンまたは銅、鉄、亜鉛およびマンガンの他のイオン)の除去に利点を有すると考えられる。上述のように、望ましくは、強力なリガンドは、Ca2+イオンに対する結合親和性を超えるCu2+、Zn2+、Fe3+)またはMn2+などの遷移金属イオンに対する結合親和性を有する。
【0041】
そのため、本発明の別の局面において、水性組成物は、治療的に関連する濃度または有効量の第VIII因子を含み、さらに:
(i) 該組成物は、0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること;
(iii) 該組成物は、カルシウムイオンの濃度以下の濃度で強力なリガンドを含むこと;好ましい強力なリガンドはEDTAであること
(iv) 該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態である他の賦形剤を実質的に含まないこと
を特徴とする。
【0042】
本発明の好ましい組成物は、安息香酸イオンおよびトロメタミン(tromethamine) (TRIS)の組合せに基づくバッファ系を含む。かかるバッファ系は、組成物の保存の所定の温度範囲での組成物のpHより少なくとも1単位高いかまたは低いpKa値を有する成分に基づくように、WO2008/084237になされる開示に従う。本発明の別の局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度または有効量の第VIII因子を含み、さらに:
(i) 該組成物は、0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度で安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態である賦形剤を実質的に含まないこと;
(iv) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること
を特徴とする。
【0043】
本発明のさらに別の局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度または有効量の第VIII因子を含み、さらに:
(i) 該組成物は、0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度で安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること;
(iv) 該組成物は、カルシウムイオンの濃度以下の濃度で強力なリガンドを含むこと;好ましい強力なリガンドはEDTAである;
(v) 該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態である他の賦形剤を実質的に含まないこと
を特徴とする。
【0044】
本発明のさらに別の局面において、凍結乾燥物、噴霧乾燥または他の実質的に水を含まない組成物は、本明細書に記載される水性組成物から水を除去することにより得られ得る。この目的のために、組成物はまた、凍結防止剤、ガラス化剤(vitrification agent)および/または増量剤として作用する1つ以上のさらなる賦形剤を含み得る。好ましいさらなる賦形剤は、スクロース、トレハロース、ラクトース、ラフィノース、グリセロール、マンニトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される。かかる乾燥組成物は、再構成に好適であり得、滅菌密封バイアルまたは容器に、注射に必要な水または他の再構成媒体と共に包装され得る。かかる乾燥および再構成製品は、現在市販されている他の第VIII因子製剤よりも長い貯蔵寿命の利点を有すると予想され得る。
【0045】
本発明の全ての局面の組成物は、好ましくは以下の特徴:
(i) 該組成物は、滅菌されており、滅菌バイアル、アンプルまたは前もって充填されたシリンジなどの適切な容器に無菌的に充填され;滅菌は、最終的に容器に充填される前に、0.22μmフィルターまたは0.45μmmフィルターなどの適切なフィルターまたは膜を使用して、該組成物をろ過することにより達成され得;該組成物はまた、フェノール、m-クレゾールまたはベンジルアルコールなどの薬学的に許容され得る保存剤を含み得ること;
(ii) 該組成物は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407などの薬学的に許容され得る界面活性剤を含むこと;
(iii) 該組成物は、100mM〜1M、最も好ましくは200mM〜500mMの濃度で1,2-プロパンジオールを含むこと;
(iv) 該組成物は、実質的に二酸化炭素を含まない、窒素ヘッドスペースまたはヘリウムヘッドスペースなどのヘッドスペース下で保存され;代替的に該組成物はヘッドスペースを有さない密封容器中に保存されること
の1つ以上を有する。
【0046】
本発明の別の局面は、治療的に関連のある濃度または有効量の第VIII因子を含む第VIII因子の最適化水性組成物を記載し、さらに:
(i) 該組成物は、8〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、それぞれ10〜25mM、例えば15〜25mMの濃度で安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物は、200〜500mM、例えば300〜500mMの濃度で塩化ナトリウムを含むこと;
(iv) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること;
(v) 該組成物は、0.25mM〜0.5mMの濃度でEDTAを含むこと;
(vi) 該組成物は、10〜50mg/Lの濃度でポリソルベート80または0.2〜3g/L、例えば0.5〜3g/Lの濃度でポロキサマー188を含むこと;
(vii) 該組成物は、密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まない、窒素ヘッドスペースまたはヘリウムヘッドスペースなどのヘッドスペース下で保存されること;
(viii) 該組成物は滅菌されていること
を特徴とする。
【0047】
例えば、本発明の局面は、治療的に関連のある濃度または有効量の第VIII因子を含む第VIII因子の最適化された水性組成物を記載し、さらに:
(i) 該組成物は、8〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、それぞれ10〜25mMの濃度で安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物は、200〜500mMの濃度で塩化ナトリウムを含むこと;
(iv) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること;
(v) 該組成物は、0.25mM〜0.5mMの濃度でEDTAを含むこと;
(vi) 該組成物は、10〜50mg/Lの濃度でポリソルベート80または0.5〜3g/Lの濃度でポロキサマー188を含むこと;
(vii) 該組成物は、密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まない、窒素ヘッドスペースまたはヘリウムヘッドスペースなどのヘッドスペース下で保存されること;
(viii) 該組成物は滅菌されていること
を特徴とする。
【0048】
本発明の特に好ましい水性組成物は:
(i) 治療有効量の第VIII因子;
(ii) 8〜15mMの濃度のカルシウムイオン;
(iii) それぞれ15〜25mMの濃度の安息香酸イオンおよびTRIS;
(iv) 300〜500mMの濃度の塩化ナトリウム;
(v) 0.25mM〜0.5mMの濃度のEDTA;
(vi) 10〜50mg/Lの濃度のポリソルベート80または0.2〜3mg/mL、例えば0.5〜3mg/mLの濃度のポロキサマー188
を含み、該組成物は約6.25に調整されたpHを有し、密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まない、窒素ヘッドスペースまたはヘリウムヘッドスペースなどのヘッドスペース下で保存される。
【0049】
第VIII因子の効力は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)試験における凝固時間を測定すること、または本明細書に記載されるような具体的な第VIII因子色原体アッセイ(chromogenic assay)によりインビトロで推定され得る。かかる方法は、米国および欧州薬局方により許容される。
【0050】
安息香酸またはその塩、例えばナトリウムまたはカリウムの塩は、本発明に関連して安息香酸塩アニオンの供給源として使用され得る。TRIS塩基またはTRIS塩酸塩のいずれかは、TRISの供給源として使用され得る。塩化カルシウムはカルシウムイオンの好ましい供給源であるが、カルシウムの他の可溶性の塩も使用され得る。
【0051】
用語「治療的に関連のある濃度の第VIII因子」は、本明細書において、ヒトまたは動物の身体に対する治療に使用される水性組成物中の第VIII因子の濃度を記載するために使用される。これは、静脈内注入などの充分に確立された投与経路、およびポンプ投与などの本発明により可能になり得る新規の投与経路を含む。再構成後の、現在市販されている製品中の第VIII因子の治療的に関連のある濃度は、典型的に100〜300IU/mLである。しかしながら、本発明は、500IU/mLよりも高いまたは100IU/mLよりも高い濃度などのより高い濃度にも適用可能である。
【0052】
用語「リガンドの遊離形態」は、本明細書において、リガンド分子および金属イオン分子を含む特定の組成物中の金属カチオンに結合しないリガンドの分子を記載するために使用される。当業者は、組成物中の全リガンドおよび全金属イオンの全濃度が既知である場合に、ガンド-金属イオン複合体の安定性定数から、遊離リガンドの割合を計算し得る。
【0053】
当業者は、本発明に関連して、「およそ」または「約」6.25のpHは、主要な分解工程の速度がpH6.25で測定可能なものと大きく異ならないpH範囲、好ましくは5.9〜6.6、最も好ましくは6.1〜6.4の範囲のpHを意味することを理解する。
【0054】
本発明は以下の実施例で説明される:
【実施例】
【0055】
実施例1:2工程凝固アッセイにより測定した、再構成された市販の第VIII因子組成物および安定化製剤における第VIII因子の効力の保存性(preservation)
第VIII因子の効力の測定は、CA-50半自動化凝固測定装置(Sysmex Corporation)を使用して行なった。凝固第VIII因子の測定のためのDade Behring Inc. (OTXW G13 E0535 (623) H1、2001年4月版)により示されたAPTT手順に従った。安定性試験の開始時に試料中で測定した活性に対して、残存効力を計算した。全ての測定は、1回測定で行なった。凍結乾燥された市販の第VIII因子製品(HELIXATE(登録商標), Bayer Schering Corp.)の再構成組成物と本発明に従って安定化された同じ活性物質の製剤との間で、効力の保存性を比較した。
【0056】
HELIXATEは、以下の成分を含むといわれる:
(Helixate(登録商標)FS処方情報、2009年8月):



【0057】
Helixate FSのそれぞれのバイアルは、国際単位(IU)で、表示された量の組み換え第VIII因子を含むといわれる。ヒト血液凝固第VIII因子についての世界保健機関基準により定義されるように、1IUは、1mLの新鮮なプールされたヒト血漿中に見られる第VIII因子活性のレベルとほぼ等しい。
【0058】
本発明に従って安定化された製剤は:




を含む。
【0059】
全ての製剤は、150IU/mLの第VIII因子活性で調製した。安定化された製剤は、新しい製剤にする、再構成されたHELIXATE(登録商標)製品の3工程の透析およびその後の、第VIII因子の必要な比活性を達成するための体積の調整により調製した。4℃、25℃および37℃でのインキュベーション後に測定した残存効力を表1に示す。安定化された試料では、再構成された市販の製剤と比較して、第VIII因子効力の保存性においてかなりの改善が観察された。対照製剤は、37℃および25℃の両方で2週間の保存後ならびに4℃で26週間の保存後に>50%の効力の消失を示したのに対し、安定化された液体組成物では、効力は、4℃で52週間の保存後および25℃で13週間の保存後、元の値から10%以内に維持された。安定化された組成物における効力の消失(loss)は、37℃ではより早かったが、依然として2週間の保存後に>67%が維持され、6週間の保存後に>42%が維持され、HELIXATE(登録商標)の再構成された市販の組成物の効力に対して、大きく改善された安定性が示された。
【0060】



【0061】
実施例2:安定化された製剤における第VIII因子の効力の保存性
Coatest SP4第VIII因子色原体アッセイキット(Chromogenix、Instrumentation Laboratory Company、Lexington、USA)を、Futura Analyser(Instrumentation Laboratory、Warrington、UK)での使用に適合されたキット製造業者の推奨の方法に従って使用して、第VIII因子の効力の測定を行なった。全ての試料は、(正常なVWF成分を有する)第VIII因子欠失血漿中およそ1IU/mLに最初に希釈し、その後キットバッファを使用してさらなる希釈を行なった。全ての測定は3重に行い、そこから平均値を測定した。同一の組成物の凍結した参照試料中で測定した活性に対して、残存効力を計算した。残存効力は、以下の賦形剤: TRIS(21mM)、安息香酸カリウム(21mM)、塩化ナトリウム(500mM)、塩化カルシウム(8mM)、EDTA(0.5mM)およびTween80 (25mg/L)を含む、pH6.25に調整した第VIII因子(151IU/mL)の水性組成物中で4℃、25℃および37℃でのインキュベーション後に測定した。全ての組成物は窒素ヘッドスペース下で保存した。新しい製剤に対する再構成された凍結乾燥製品(KOGENATE(登録商標)、Bayer Schering Corp.)の3工程の透析、その後の必要な濃度を達成するための体積の調整により、液体組成物を調製した。
【0062】
KOGENATE(登録商標)は、以下の成分:


を含むといわれる。
【0063】
4℃で保存した試料中で評価された第VIII因子の残存効力は、18週間の保存後105.2%であった。25℃で保存した試料中で評価された第VIII因子の残存効力は、7週間の保存後96.9%であり、18週間の保存後96.2%であった。37℃で保存した試料中で評価された第VIII因子の残存効力は、2週間のインキュベーション後79.9%であり、7週間の保存後28.4%であった。また、アレニウスの式を使用した結果(4℃、25℃および37℃で1、2、4、7、10、14および18週間の保存)の解析により、3種類の温度で観察された効力の消失から、予測分解速度の生成が可能になった。凍結参照試料に対する消失の平均予測値は、以下の1年当たりの効力の予測消失を示した:4℃での1年あたりの消失の平均予測は0.475%であった(上側95%信頼限界=4.142%)。25℃での1年あたりの消失の平均予測は21.789%であった(上側95%信頼限界=19.554%)。
【0064】
実施例3:第VIII因子効力の保存性に対するヘッドスペースの効果
水溶液中の第VIII因子の安定性に対するヘッドスペースの効果は、第VIII因子を含み、pH6.25に調整され、以下の賦形剤:TRIS(21mM)、安息香酸カリウム(21mM)、塩化ナトリウム(500mM)、塩化カルシウム(4mM)およびTween 80(25mg/L)を含む製剤の6週間の保存後の残存効力を測定することにより調べた。液体組成物は、新しい製剤に対する再構成された凍結乾燥製品(KOGENATE(登録商標)、Bayer Schering Corp.)の3工程の透析、およびその後の必要な濃度を達成するための体積の調整により調製した。残存効力は、保存試験前の試料中で測定した効力に対して表した。100マイクロリットルの試料を、特定の気体で完全にフラッシュ(flush)し、かつ密封した300マイクロリットルのバイアルに保持した。空気、窒素、酸素および二酸化炭素のヘッドスペースの効果を比較した。25℃で6週間の保存後に測定した残存効力は、空気ヘッドスペース下で86.7%、窒素ヘッドスペース下で98.1%、酸素ヘッドスペース下で95.3%および二酸化炭素ヘッドスペース下で<1%であった。この実験は明確に、第VIII因子に対する溶解した二酸化炭素の有害な効果を示した。
【0065】
実施例4:細胞培養培地中の第VIII因子の活性に対するカルシウムイオン(EDTAありおよびなし)の存在の効果
第VIII因子を発現する細胞(calls)を含む発現培地中で測定可能な第VIII因子活性に対するカルシウムイオンおよびEDTAの効果を調べた。第VIII因子遺伝子をトランスフェクトした新生児ハムスター腎臓(BHK)細胞(付着性)を、100μg/mLジェネティシン、ペニシリンGおよびストレプトマイシンを含むD-MEM/F-12 (Invitrogen)中で維持した。この培地に細胞を播種し、70〜80%コンフルエントを達成した。第VIII因子の産生のために、細胞を、血清非含有AIM-V培地(Invitrogen)に移した。AIM-Vは、50μg/mLの硫酸ストレプトマイシンおよび10μg/mLのゲンタマイシンを含んだ。この基本組成物を対照培地として使用して、同じ基本組成物に(i) 3mMの塩化カルシウム、ならびに(ii) 3mM塩化カルシウムおよび0.5mM EDTAを添加した2種類の他の培地と比較した。細胞に、4日間第VIII因子を発現させた。この時間の後、細胞を除去して、周囲温度で20日までの間、培地中で第VIII因子の活性を追跡した。カルシウムまたはカルシウム/EDTAのさらなる供給源の存在は、AIM-V培地中での第VIII因子の産生に大きな影響を与えなかったことが示された。しかしながら、カルシウムイオンのさらなる供給源の存在は、さらなるカルシウムイオン(3mM)の非存在の対照培地と比較して、培地中でかなり高い第VIII因子活性の保存性をもたらすことが示された。重要なことに、第VIII因子の保存性は、3mM塩化カルシウムおよび0.5mM EDTAの両方を添加した培地において、さらに大きかった(表1)。細胞培養培地における第VIII因子のかかる安定化は、おそらく組み換え第VIII因子産生の収率を大きく向上させ得た。
【0066】

【0067】
表2から分かるように、カルシウムイオンの添加(強力なリガンドEDTAありまたはなし)は、発現段階中に第VIII因子活性に大きな効果を有さなかった。しかしながら、細胞の除去後のその後の段階では、さらなるカルシウムイオンの存在下では、活性の減少はより遅くなり、カルシウムイオンの添加は培養培地中の第VIII因子の安定性を改善させることが示唆された。強力なリガンドEDTAの添加の効果は、安定性をさらに増加させることである。
【0068】
本発明は、その好ましい態様を参照して具体的に示され記載されるが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において、種々の変更がなされ得ることが当業者には理解される。
【0069】
本明細書および特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載される完全体または完全体の群を含むが、他の完全体または完全体の群をいずれも除外しないことを示唆すると理解される。
【0070】
本発明は、好ましい群およびより好ましい群ならびに上述の群の態様の全ての組合せを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃で最低18週間保存安定性である組成物であって、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、25℃で18週間の保存後に、対照組成物の第VIII因子の効力の少なくとも90%の第VIII因子の効力を有する、組成物。
【請求項2】
25℃で最低18週間保存安定性であり、かつ5℃で最低26週間保存安定性である組成物であって、治療有効量の第VIII因子および水性媒体を含み、25℃で18週間の保存後および5℃で26週間の保存後に、対照組成物の第VIII因子の効力の少なくとも95%の第VIII因子の効力を有する、組成物。
【請求項3】
水、治療有効量の第VIII因子、TRIS、安息香酸塩、カルシウムイオン、EDTA、およびナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属イオンを含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
pHが約6.25である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
カルシウムイオンが0.5〜30mM、好ましくは2〜20mM、最も好ましくは5mM〜15mMの濃度で存在し、EDTAが組成物中に遊離カルシウムイオンの存在を可能にする濃度で存在する、請求項3または4記載の組成物。
【請求項6】
0.001mM〜2mMの濃度でEDTAを含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
治療有効量の第VIII因子を含む水性組成物であって、
(i) 該組成物は、0.5〜30mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物のpHは、約6.25に調整されること;
(iii) 該組成物は、カルシウムイオンの濃度以下の濃度で強力なリガンドを含むこと;
(iv) 該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドの遊離形態である他の賦形剤を実質的に含まないこと
をさらに特徴とする、水性組成物。
【請求項8】
該強力なリガンドがEDTAである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも100mMの塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを含む、請求項1〜8いずれか記載の組成物。
【請求項10】
安息香酸イオンおよびTRISを含むことを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の組成物であって、該TRISおよび安息香酸塩がそれぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度で存在する、組成物。
【請求項11】
ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407などの界面活性剤をさらに含む、請求項1〜10いずれか記載の組成物。
【請求項12】
薬物製品における使用について認可された保存剤をさらに含む、請求項1〜11いずれか記載の組成物。
【請求項13】
該保存剤が、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムを含む群より選択される、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも100mMの濃度で1,2-プロパンジオールをさらに含む、請求項1〜13いずれか記載の組成物。
【請求項15】
第VIII因子が、50〜1000IU/mlの量で存在する、請求項1〜14いずれか記載の組成物。
【請求項16】
密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まないヘッドスペース下で保存される、請求項1〜15いずれか記載の水性組成物。
【請求項17】
治療有効量の第VIII因子を含む水性組成物であって、
(i) 該組成物は、8〜15mMの濃度でカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物は、それぞれ15〜25mMの濃度で安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物は、300〜500mMの濃度で塩化ナトリウムを含むこと;
(iv) 該組成物のpHは、6.25に調整されること;
(v) 該組成物は、0.25mM〜0.5mMの濃度でEDTAを含むこと;
(vi) 該組成物は、10〜50mg/Lの濃度でポリソルベート80または0.2〜3mg/mLの濃度でポロキサマー188を含むこと;
(vii) 該組成物は、密封容器中、実質的に二酸化炭素を含まない窒素ヘッドスペースまたはヘリウムヘッドスペースなどのヘッドスペース下で保存されること;
(viii) 該組成物は、滅菌されていること
をさらに特徴とする、水性組成物。
【請求項18】
凍結乾燥または乾燥などにより、請求項1〜17いずれか記載の組成物から水を除去することにより得られ得る、実質的に水を含まない組成物。

【公表番号】特表2013−503843(P2013−503843A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527390(P2012−527390)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051441
【国際公開番号】WO2011/027152
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(510288895)アレコー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】