説明

筆記具用消去性インキ組成物及びそれを用いた筆記具

【課題】予め紙面等に印刷された又は筆記された文字、数字、絵などの上に筆記膜を形成することができ、消しゴム等で擦ることで筆記膜を容易に消去できる筆記具用消去性インキ組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、前記課題を解決するために、少なくとも炭化水素系溶剤、顔料、ゴム系樹脂、ハードケーキ抑制剤からなる消去性インキ組成物であって、前記ハードケーキ抑制剤が、脂肪酸アマイドワックスであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ組成物に関し、さらに詳細としては予め紙面等に印刷された又は筆記された文字、数字、絵などの上に筆記膜を形成することができ、消しゴム等で擦ることで筆記膜を容易に消去できる筆記具用消去性インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、紙等に筆記された筆跡を消しゴム等で消去できる消去性インキ組成物が多く提案されている。
【0003】
こうした消しゴム等で消去できる油性の消去性インキ組成物としては、特開昭54−156731号公報「ボールペン筆記具」、特開昭56−155266号公報「ボールポイント書込器具」、特開昭57−170967号公報「初期には消去可能なボールペン筆記具用インキ組成物」、特開昭57−170968号公報「初期消去が可能なインキ組成物」などのように、インキ粘度が極めて高い100万cps〜600万cpsといったインキ組成物、ゴム成分や顔料などの固形分濃度の多いインキ組成物が開示されている。さらには、特開昭60−158280号公報「消去可能なボールペン用インキ」、特公平3−54712号公報「消去可能なボールペン用インキ」などのように、顔料粒径が5μm以下のインキ組成物が、その他として特開2001−354893号公報「インキ組成物」が従来技術として知られている。
【特許文献1】「特開昭54−156731号公報」
【特許文献2】「特開昭56−155266号公報」
【特許文献3】「特開昭57−170967号公報」
【特許文献4】「特開昭57−170968号公報」
【特許文献5】「特開昭60−158280号公報」
【特許文献6】「特公平3−54712号公報」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2、3、4のようにインキ粘度を極めて高くすることによって、顔料沈降を抑制することができる。インキ粘度が高いため、インキ出が少なく、筆跡にカスレ等が出てしまう。また、固形分濃度が多いと、キャップオフで暫く放置後の初期の書き出しが悪く、ひどい場合には、固形物が詰まり筆記不良になる問題があった。
【0005】
また、特許文献5、6では、その問題を解消するため、比較的低粘度のインキにすることで筆跡は良好になるが、インキ中で顔料が沈降し始めて、長期間の経時によって、インキ中の底部に徐々に顔料が堆積し、その重みによって、顔料同士が絡み合うことで顔料同士が吸着などして、密に堆積してしまうことで、ハードケーキを形成してしまうため、顔料沈降を防ぐため5μm未満にすると、顔料が紙面の繊維と繊維の隙間に入り込み、筆跡を消しゴム等で消去しようとしても、薄く筆跡が残ってしまった。
【0006】
このように、ハードケーキ抑制剤が用いられていないと、顔料の重みによって、顔料同士が絡み合うことで顔料同士が吸着などして、ハードケーキを形成する。そのため、振とうしても、顔料再分散されない問題も抱えていた。
【0007】
本発明の目的は、予め紙面等に印刷された又は筆記された文字、数字、絵などの上に筆記膜を形成することができ、消しゴム等で擦ることで筆記膜を容易に消去できる筆記具用消去性インキ組成物及びそれを用いた筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
「1.少なくとも炭化水素系溶剤、顔料、ゴム系樹脂、ハードケーキ抑制剤からなる消去性インキ組成物であって、前記ハードケーキ抑制剤が、脂肪酸アマイドワックスであることを特徴とする筆記具用消去性インキ組成物。
2.前記ゴム系樹脂が、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムから選ばれる1種又は2種以上ることを特徴とする第1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
3.前記ゴム系樹脂の含有量が、インキ組成物全質量に対して0.1質量%以上、10.0質量%以下であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
4.前記脂肪酸アマイドワックスの含有量が、インキ組成物全質量に対して0.1質量%以上、15.0質量%以下であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
5.前記炭化水素系溶剤の沸点が、150℃未満であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
6.前記顔料の平均粒径が、5μm以上、100μm以下であることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
7.20℃、におけるインキ粘度が、10mPa・s以上、1000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし6項のいずれか1項に記載の消去性インキ組成物。
8.前記脂肪酸アマイドワックスが、ペースト状であることを特徴とする第1項ないし7のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
9.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備してなる筆記具において、第1項ないし8のいずれか1項に記載された筆記具用消去性インキ組成物をインキ収容筒に直詰めしたことを特徴とする筆記具。」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、少なくとも炭化水素系溶剤、顔料、ゴム系樹脂、ハードケーキ抑制剤からなるインキ組成物において、前記ハードケーキ抑制剤が脂肪酸アマイドワックスであることを特徴とする筆記具用消去性インキ組成物とすることで、筆跡が良好で、消しゴム等での消去性に優れ、かつ沈降してもハードケーキ形成を抑制する筆記具用消去性インキ組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第一の特徴は、消去性インキ組成物中に、ハードケーキ抑制剤として脂肪酸アマイドワックスを用いることである。
【0011】
ハードケーキとは、インキ中で顔料が沈降し、長期間の経時によって、インキ中の底部に徐々に顔料が堆積し、その重みによって、顔料同士が絡み合うことで顔料同士が吸着などして、密に堆積してしまうことである。一度顔料が沈降して、ハードケーキを形成してしまうと、振とうしても、顔料が再分散されないため、顔料同士を吸着させないように、顔料と顔料の間に立体障害などを起こさせる効果のある抑制剤を、本発明においてハードケーキ抑制剤とする。
【0012】
脂肪酸アマイドワックスは、インキ組成物中でコロイド状に分散して立体網目構造を形成していると考えられている。そのため、顔料とゴム系樹脂と脂肪酸アマイドワックスとの間で立体網目構造を形成することで、顔料同士が絡み合うのを抑制する立体的な障害の役目をすることで、顔料が沈降しても、ハードケーキ形成を抑制できると考えられる。そのため、一度顔料が沈降しても、ハードケーキ形成を抑制することで、振とうすることによって、顔料の再分散が可能である。
【0013】
本発明に用いる脂肪酸アマイドワックスには、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸アマイド)等が例示できる。
【0014】
具体的には共栄社化学(株)製の商品名;ターレン5200−25、同5500−25、同5400−25、同M−1021B、同6200−20、同ED−2020、同7200−20、同KU−700、同KY−2000、同7500−20、同8200−20、同8300−20、同8700−20、同8900−25、同BA−600、同KY−5020、同VA−750B、同VA−800、フローノンSH−290、同HR−2NT、同ED−1000、同SP−1000、同EDM−10等がある。日本化成(株)製の商品名;スリパックスC、同L、同E、同H、同B、同ZHS、同ZHB、同ZSA、ビスアマイドLA、ダイヤミッドビス200LA、川研ファインケミカル(株)製の商品名;パリシン285等が例示できる。
【0015】
上記脂肪酸アマイドワックスは、単独又は2種以上組み合わせて混合して使用してもよい。なお、形状は粉末状、液体状、ペースト状のものいずれも使用できる。
【0016】
ペースト状の場合は、すでにプレゲルとなっているので、そのまま他の成分と混合攪拌が可能である。しかし、粉末状、液体状の場合には、予め有機溶剤などに溶解させて膨潤させる加工や、加温等の加工が必要不可欠になってしまう。そのため、ペースト状の場合は、特に粉末状、液体状のような加工が必要ないため、加工の手間がかからないペースト状を用いることが好ましい。
【0017】
さらに脂肪酸アマイドワックスは、0.1質量%未満だとハードケーキ抑制剤が不十分になる可能性があり、また、経時安定性を考慮すると15.0質量%以下が良い。そのため、0.1質量%以上、15.0質量%以下が好ましい。
【0018】
本発明は、筆記した時の紙面への定着性が良好であるとともに、剥離性も良好であるゴム系樹脂を用いる。ゴム系樹脂は、溶解させることで、顔料と脂肪酸アマイドワックスを吸着させる働きをするため、安定した立体網目構造を形成することで、顔料同士が絡み合うのを抑制することで、沈降しても顔料のハードケーキ形成を抑制できる。
【0019】
ゴム系樹脂としては、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、多硫化ゴム、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ラテックス等の天然ゴム等が例示できる。その中でも、炭化水素系溶剤に溶解し易いブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムがより好ましい。これ等のゴム系樹脂は、単独又は2種以上組み合わせて混合して使用することができる。
【0020】
さらにゴム系樹脂は、0.1質量%未満だと、紙面等へのインキ定着性がやや劣ってしまい、10.0質量%を超えると、インキ流動性がやや劣り、インキ出が少なく、微少なカスレ等が発生してしまうおそれがある。そのため、0.1質量%以上、10.0質量%以下が好ましい。
【0021】
本発明の第二の特徴は、消去性インキ組成物中に、溶剤として炭化水素系溶剤を用いることである。
【0022】
本発明に用いる溶剤としては、炭化水素系溶剤を用いる。筆記具の筆跡、あるいは印字物に至るまであらゆる紙面等に表記された文字上に筆記及び消去できなくてはならない。この時、溶剤によってそれ等の紙面に表記された文字等に含まれる着色剤が溶解してしまうと、着色剤が浮き出てしまうため消去後に元の文字に戻らない。炭化水素系溶剤は、それら着色剤の溶解能が極めて低いため、被書体中の成分を浮き出すことなく良好に筆記及び消去することができる。
【0023】
また、ゴム系樹脂の溶解性を考慮して、ゴム系樹脂の溶解度パラメーターと同等の溶解度パラメーターの炭化水素系溶剤を用いる。具体的には、本発明に好適に用いるゴム系樹脂の溶解度パラメーターが7.0以上、10.5以下であるため、溶解度パラメーターが7.0以上、10.5以下の炭化水素系溶剤を用いることが好ましい。
【0024】
好適に採用される炭化水素系溶剤としては、沸点が150℃以上では、溶剤の乾燥が遅いため、沸点が、150℃未満となるように炭化水素系溶剤を選定すれば、即乾性があり、筆記後の乾燥が速く、ゴム系樹脂の乾燥皮膜形成までに長時間を要さないため、より好ましい。具体的には、メチルシクロヘキサン(沸点100.9℃)、エチルシクロヘキサン(沸点131.8℃)、n−ヘプタン(沸点98.4℃)、イソオクタン(沸点99.2℃)、n−オクタン(沸点125.6℃)、イソヘキサン(沸点60.0℃)、ノルマルヘキサン(沸点68.7℃)、シクロヘキサン(沸点80.7℃)、ヘキサン(沸点68.7℃)等が挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
また、顔料については、特に限定されるものではなく、無機、有機、加工顔料などが挙げられる。具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、可逆性熱変色顔料等が例示できる。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。更に、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子などや、また着色樹脂粒子や無色樹脂粒子を、顔料もしくは染料で着色したもの等も用いることもできる。これらの顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。含有量は、経時安定性を考慮して、インキ組成物全量に対し、1質量%以上、50質量%以下が好ましい。
【0026】
前記した顔料は、使用する目的によって適宜選択することができる。例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、アルミ顔料、パール顔料等は隠蔽性が高く、書いた文字や印刷物上に筆記すると、修正液やスクラッチインキのように文字や印刷物を隠蔽することができる。一方、蛍光顔料、蓄光顔料、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子、着色樹脂粒子や無色樹脂粒子を、顔料もしくは染料で着色したもの等は隠蔽性が低く、蛍光インキのように、書いた文字や印刷物上に筆記すると、文字や印刷物を透かしてみることができる。
【0027】
顔料粒径については、5μm未満であると、顔料が紙面の繊維と繊維の隙間に入り込み、筆跡を消しゴム等で消去しようとしても、薄く筆跡が残ったり、300μmを超えると粒径が大きすぎて、ボールペンチップ内に詰まってしまうおそれがあるため、5μm以上、300μm以下が好ましい。さらに、顔料沈降も考慮すると100μm以下が好ましい。
【0028】
さらに、その他添加剤として、界面活性剤、防錆剤、分散助剤、潤滑剤、可塑剤等を適時選択して添加することができる。また、粘度調整等の目的で、他の有機溶剤を含有することができる。
【0029】
本発明の筆記具用消去性インキ組成物として、好適なインキ粘度としては、20℃の環境下で、10mPa・s未満では、ハードケーキ抑制効果が低下し、1000mPa・sを超えると筆跡にカスレが発生するおそれがあるため、10mPa・s以上、1000mPa・s以下が好ましい。
【0030】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の筆記具用消去性インキ組成物は、炭化水素系溶剤としてメチルシクロヘキサン、ハードケーキ抑制剤として脂肪酸アマイドワックス(共栄社化学(株)製の商品名;ターレン5200−25)、ゴム系樹脂としてエチレンピロピレンゴム(JSR(株)製の商品名;EP22)、顔料はアルミ顔料(昭和アルミパイウダー(株)製の商品名;フレンドカラーF701SI)を採用し、これを所定量秤量して、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させ、筆記具用消去性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りであった。尚、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度192.0sec−1(回転数50rpm)にてインキ粘度を測定したところ、40mPa・sであった
【0031】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
メチルシクロヘキサン 82.0質量%
脂肪酸アマイドワックス(ターレン5200−25) 4.0質量%
エチレンプロピレンゴム(EP22) 4.0質量%
アルミ顔料(フレンドカラーF701SI) 10.0質量%
(顔料平均粒径:11μm)
【0032】
実施例及び比較例のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃の環境下で、インキ粘度を測定した。なお、インキ粘度12.8mPa・s以上、128mPa・s未満では、剪断速度192.0sec−1(回転数50rpm)にて測定し、インキ粘度128mPa・s以上、1280mPa・s未満では、剪断速度19.2sec−1(回転数5rpm)にて測定した。また、本発明の筆記具用消去性インキ組成物は、ニュートニアンインキであるため、剪断速度が相違してもインキ粘度は、略同じ数値を示した。なお、インキ粘度測定に用いたインキは、密開閉ガラス試験管に入れて、常温にて6か月放置した後のインキを測定したものとする。
【0033】
実施例2〜11
表1に示すように各成分を表1に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜11の筆記具用消去性インキ組成物を得た。表1に測定、評価結果を示す。
【表1】



【0034】
比較例1〜7
インキの配合を表2に示す通りとし、表2に測定、評価結果を示す。
【表2】

【0035】
試験及び評価
溶解試験、顔料再分散試験においては、実施例1〜11及び比較例1〜7で作製した筆記具用消去性インキ組成物を用いて、以下のような試験方法で評価を行った。
また、消去性試験、筆記試験、隠蔽性試験においては、実施例1〜11及び比較例1〜7で作製した筆記具用消去性インキ組成物を、ボール径が1.0mmのボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着し、セラミック製の直径5.0mm撹拌ボールの入ったインキ収容筒(ナイロン製)に直に充填した筆記具と、筆記試験用紙としてコピー用紙(PPC用紙)を用いて以下のような試験方法で評価を行った。
【0036】
溶解試験:炭化水素系溶剤にゴム系樹脂を混ぜて撹拌後、溶解状態を観察した。
溶解しているもの ・・・・○
溶解しないもの ・・・・×
【0037】
顔料再分散試験:セラミック製の直径5.0mm撹拌ボールの入った直径15mmの密開閉ガラス試験管に各試料を入れて、常温にて6か月放置した。その後、一度沈降した各試料のガラス試験管を上下に振とうして、顔料再分散状態を観察した。
10回以内振とうすることで、顔料再分散されたもの ・・・○
20回以上振とうしても顔料再分散されないもの。または、
ハードケーキを形成して顔料再分散不可能なもの ・・・×
【0038】
試験方法;紙面上に予め文字・絵を筆記しておき、筆記具を10回上下に振とうしてから、その文字上に消去性インキで筆記し、筆記膜を形成するまで乾燥させた後に以下の試験を行った。
消去性試験:消去性インキで筆記し、筆記膜を形成するまで乾燥させた後、消しゴムで擦った後のインキ消去性を観測した。
全て消去されたもの ・・・◎
少し消し残りがあるが、実用上問題ないもの ・・・○
消し残りがあり、筆記膜が残ってしまうもの ・・・×
【0039】
筆記試験:紙面に筆記した筆跡を観察した。
筆跡にカスレが出ないもの ・・・◎
筆跡にカスレが出るが、実用上問題ないもの ・・・○
筆跡にカスレがひどく出て、実用性に乏しいもの ・・・×
【0040】
隠蔽性試験:文字・絵が消去性インキで筆記し、隠蔽されているか観測した。
文字・絵が見えず隠蔽されるもの ・・・A
筆記しても文字・絵が隠蔽されず見えるもの ・・・B
【0041】
実施例1〜9では、溶解性試験、顔料再分散試験、消去性試験、筆記試験ともに良好な結果であった。
【0042】
実施例10では、ゴム系樹脂が8.0質量%と多めになることで、インキ流動性がやや劣ってしまい、インキ出がやや少なめになり、筆跡にカスレが発生したが、実用上問題ないレベルのカスレであった。
【0043】
実施例11では、脂肪酸アマイドワックスの量が15質量%と多めになることで、筆跡に微少なカスレが発生したり、消去性試験では、少し消し残りがあるが、実用上問題ないレベルであった。
【0044】
比較例1では、ハードケーキ抑制剤を用いなかったため、顔料が沈降後、その重みによって顔料同士が絡み合うことで顔料同士が吸着などして、ハードケーキを形成したので、所望のインキにならなかった。
【0045】
比較例2、3では、溶剤として炭化水素系溶剤以外のものを用いたため、ゴム系樹脂が溶解せず、所望のインキにならなかった。
【0046】
比較例4、5では、ハードケーキ抑制剤として、脂肪酸アマイドワックス以外のものを用いたため、顔料が沈降後、その重みによって顔料同士が絡み合うことで顔料同士が吸着などして、ハードケーキを形成したので、所望のインキにならなかった。
【0047】
比較例6、7では、ゴム系樹脂以外の樹脂を用いたため、筆跡膜の接着力が強く、消しゴムで消去できなかった。
【0048】
また、本発明の筆記具用消去性インキ組成物を筆記具として用いる場合には、筆記具用消去性インキ組成物を充填するインキ収容筒には、金属製、樹脂製のもの等、材質は特に問わないが、本発明では、炭化水素系溶剤を用いているので、金属、ナイロン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール共重合体等の空気透過量の小さい樹脂製のもので形成することが好ましい。また、圧縮空気やガス等の加圧式筆記具やインキ収容筒を押圧等することにより強制的に加圧する加圧式筆記具の構造にしても良い。さらには、筆記具のインキ収容筒や筆記具の軸筒等に、消しゴム等の擦過機能部材を具備した筆記具にすることで、筆記後に必要に応じて、即座に筆記具に具備された擦過機能部材で消去できるので、とても便利である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、少なくとも炭化水素系溶剤、顔料、ゴム系樹脂、ハードケーキ抑制剤からなるインキ組成物において、前記ハードケーキ抑制剤が脂肪酸アマイドワックスであることを特徴とする筆記具用消去性インキ組成物を用いることで、筆跡が良好で、消しゴム等での消去性に優れ、かつ沈降しても顔料のハードケーキ形成を抑制した筆記具用消去性インキ組成物を提供することができる。そのため、キャップ式、ノック式等、筆記具用インキとして広く利用することができる。
【0050】
また、本発明の筆記具用消去性インキ組成物を充填した筆記具は、被記録媒体としては紙などの浸透面上のみならず、ガラス、金属、プラスチックなど非浸透面上にも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭化水素系溶剤、顔料、ゴム系樹脂、ハードケーキ抑制剤からなる筆記具用消去性インキ組成物であって、前記ハードケーキ抑制剤が脂肪酸アマイドワックスであることを特徴とする筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項2】
前記ゴム系樹脂が、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムから選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項3】
前記ゴム系樹脂の含有量が、インキ組成物全質量に対して0.1質量%以上、10.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸アマイドワックスの含有量が、インキ組成物全質量に対して0.1質量%以上、15.0質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項5】
前記炭化水素系溶剤の沸点が、150℃未満であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項6】
前記顔料の平均粒径が、5μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項7】
20℃、におけるインキ粘度が、10mPa・s以上、1000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸アマイドワックスが、ペースト状であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の筆記具用消去性インキ組成物。
【請求項9】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備してなる筆記具において、請求項1ないし8のいずれか1項に記載された筆記具用消去性インキ組成物をインキ収容筒に直詰めしたことを特徴とする筆記具。

【公開番号】特開2008−50484(P2008−50484A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228993(P2006−228993)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】