説明

等速ジョイント用グリース組成物及び等速ジョイント

【課題】等速ジョイントの耐久性及び抑温性を向上させ、低温回転トルクを低減させたグリース組成物及びこれを封入した等速ジョイントを提供すること。
【解決手段】下記の成分(a)〜(e)を含有する等速ジョイント用グリース組成物。
(a)合成油を含む基油、
(b)増ちょう剤、
(c)ジチオリン酸亜鉛、
(d)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(e)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントの低温回転トルクを低減し、耐久性及び抑温性を改善したグリース組成物及びこれを封入した等速ジョイントに関する。詳しくは、等速ジョイントの高速耐久性を改善するとともに、抑温性を改善し、及び、低温起動回転トルクを低減させたグリース組成物及びこれを封入した等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車産業界においては、軽量化及び居住空間の確保の観点から、FF車の生産が増加している。また、その機能性の観点から4WD車も増加している。これらFF車や4WD車では、前輪にて動力の伝達と操舵を行うため、例えば、ハンドルを一杯に切った状態でも円滑な動力伝達を行うために、交差する二軸間で交差角が種々変化しても回転運動を等速度で伝達可能な等速ジョイントで構成されたドライブシャフトが使用される。
一方、FR車および4WD車は、エンジンからの動力は、プロペラシャフトを通して後輪のドライブシャフトに伝達される構造となっており、このプロペラシャフトは音、振動源およびその伝達経路として働くことが分っている。従来から使用されてきたカルダンジョイントとスライドスプラインで構成されたプロペラシャフトに代わり、作動角を取っても等速度で回転しながら軸方向にスライドすることが可能な等速ジョイントで構成されたプロペラシャフトが使用されるようになってきた。
【0003】
近年、自動車の高性能化がますます進み、高出力車が増加していることから、等速ジョイントにかかる負荷も増大し、その潤滑条件がより過酷になる傾向がある。一方で、自動車の乗り心地の向上も更に高度なレベルを要求される傾向にある。
特に、プロペラシャフトは、ドライブシャフトに比べ負荷トルクが低い反面、高速回転で使用されるなど使用条件が異なる。そのためプロペラシャフトに使用される等速ジョイントに使用するグリースには、ドライブシャフト以上に高速耐久性や高速時低振動性など、高速性能の向上が求められる。
高速性能は、等速ジョイントを回転させた時に発生する熱量(温度上昇量)を指標とすることができ、その温度上昇量によりその等速ジョイントの限界使用条件が想定される。発生する熱量は、グリースの摩擦係数に依存する傾向があり、高温下にて優れた抑温効果を発揮するグリースの開発が望まれる。
【0004】
一方、厳寒地における等速ジョイントの円滑な作動も重要視されている。厳寒地では、低温状態で自動車を始動させることも考えられる。この条件下において、自動車をスムーズに始動させるためにグリースの低温回転トルクを低減することが重要になってくる。
しかし、優れた抑温性、耐久性を持ち、低温回転トルクを十分低減することが可能な等速ジョイント用グリース組成物は未だに提案されていない。
従来、潤滑剤としては基油、ジウレア系増ちょう剤、添加剤としてモリブデン化合物、を含有する等速ジョイント用グリース組成物が提案されている(例えば特許文献1、2、4、5、6、7参照)。
特定のトリメリット酸エステル及び増ちょう剤からなるグリースに、硫黄原子を含む化合物を含有するグリース組成物も提案されている(例えば特許文献3参照)。
また、基油にエステル油、添加剤としてモリブデン化合物、ポリテトラフルオロエチレン、ジチオリン酸亜鉛を用いることで低温時の回転抵抗変動を安定化させるグリース組成物も提案されている(例えば特許文献8)。
しかし、これらの等速ジョイント用グリース組成物では等速ジョイントで必要な高速回転時の抑温性、耐久性、及び、低温回転トルクを低減する性能が不十分であり、より安定した性能への改善が望まれる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−273691
【特許文献2】特開平10−273692
【特許文献3】特開平11−131082
【特許文献4】特開2001−11481
【特許文献5】特開2003−165988
【特許文献6】特開2005−226038
【特許文献7】特開2006−16481
【特許文献8】特開2007−138110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、150℃〜−40℃の使用温度範囲において、等速ジョイントの耐久性及び抑温性を向上させ、低温回転トルクを低減させたグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記グリース組成物を封入した等速ジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の成分を含有したグリース組成物が150℃〜−40℃の使用温度範囲において、等速ジョイントの発熱を抑制し、必要な耐久性を有し、及び、低温回転トルクを低減することができるとの知見を得た。本発明の等速ジョイント用グリース組成物はこの知見を基に完成された。
即ち、本発明は以下に示す等速ジョイント用グリース組成物及び等速ジョイントを提供するものである。
1.下記の成分(a)〜(e)を含有する等速ジョイント用グリース組成物。
(a)合成油を含む基油、
(b)増ちょう剤、
(c)ジチオリン酸亜鉛、
(d)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(e)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。
2.成分(a)の合成油が合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも一種類を含むことを特徴とする上記1記載の等速ジョイント用グリース組成物。
3.成分(c)のジチオリン酸亜鉛、成分(d)の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び成分(e)のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量が、グリース組成物の全質量に対して、各々0.1〜10質量%である上記1または2記載の等速ジョイント用グリース組成物。
4.さらに、(f)成分として二硫化モリブデンを含有する上記1〜3のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリース組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなる等速ジョイント。
【発明の効果】
【0008】
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、150℃〜−40℃の使用温度範囲において高速回転時の抑温性を向上し、必要な耐久性を有し、および、低温回転トルクを低減する。このため、等速ジョイントの高速回転が可能となり、低温状態で自動車を始動させることができ、厳寒地における等速ジョイントのトラブルを回避することができる。特に、高速回転下の振動低減に適したクロスグルーブ型等速ジョイントに、より好適に使用できる。更には、より高速回転性が求められるプロペラシャフトに適用するクロスグルーブ型等速ジョイントに、より好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係わる等速ジョイント用グリース組成物は、前記成分(a)〜(e)を必須成分として含むことを特徴とする。以下、これらの成分について説明する。
本発明に使用する成分(a)に使用する合成油とは、合成炭化水素油、合成エステル油、エーテル系合成油、ポリグリコール等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられる。合成油の好ましい例としては、合成炭化水素油及び合成エステル油が挙げられる。
成分(a)に使用する合成炭化水素油の好ましい例としては、ポリαオレフィン及びポリブデンが挙げられる。
成分(a)に使用するエステル系合成油は、好ましくは炭素数6〜22のアルコールと、好ましくは炭素数が8〜22でカルボキシル基を好ましくは2〜6個含有する芳香族カルボン酸とから製造されたものが好ましい。炭素数6〜22のアルコールとしては、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1−ヘプタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ノナン−2−オール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、14−メチルヘキサデカン−1−オール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、16−メチルオクタデカノール、イコサノール、イソデシルアルコール、18−メチルノナデカノール、18−メチルイコサノール、ドコサノール、20−メチルヘンイコサノール、2−オクチルドデカノールを挙げる事ができる。
好ましくは、1−ヘキサノール、2−エチル−1−ブタノール、1−オクタノール、1−ヘプタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノナン−2−オール、2−エチル−1−オクタノール、イソデシルアルコール、2−オクチルドデカノールである。
【0010】
炭素数が8〜12でカルボン酸基を2〜6個含有する芳香族カルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、4,5−ジメトキシフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、メリット酸を挙げる事ができる。好ましくは、5−メチルイソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸である。
【0011】
以上のアルコールと芳香族カルボン酸から製造されるエステル系合成油としては、たとえば次の様なものを挙げる事ができる。
<ジエステル> ヘキシルフタル酸エステル、2−エチルブチルフタル酸エステル、オクチルフタル酸エステル、ヘプチルフタル酸エステル、2−オクチルフタル酸エステル、2−エチルヘキシルフタル酸エステル、ノナン−2−オールフタル酸エステル、2−エチルオクチルフタル酸エステル、ノナン−2−オールイソフタル酸エステル、2−エチルオクチルイソフタル酸エステル、オクチル5−メチルイソフタル酸エステル、ノナン−2−オール5−メチルイソフタル酸エステル、ヘキシルテレフタル酸エステル、オクチルテレフタル酸エステル
【0012】
<トリエステル> ヘキシルトリメリット酸エステル、オクチルトリメリット酸エステル、ヘプチルトリメリット酸エステル、2−エチルブチルトリメリット酸エステル、2−エチルヘキシルトリメリット酸エステル、ノナン−2−オールトリメリット酸エステル、イソデシルアルコールトリメリット酸エステル
<テトラエステル> オクチルベンゼンテトラカルボン酸エステル、ヘプチルベンゼンテトラカルボン酸エステル、ヘキシルベンゼンテトラカルボン酸エステル、2−エチルブチルベンゼンテトラカルボン酸エステル、2−エチルオクチルベンゼンテトラカルボン酸エステル、2-オクチルドデカノールピロメリット酸エステル。
これらのエステルはいずれも、すべてのカルボン酸がエステル化されたフルエステルである。
【0013】
基油中の合成油の含有量は基油の全質量に対して、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、基油がすべて合成油であっても良い。
本発明に使用する成分(b)の増ちょう剤の好ましい例としては、下記一般式(1)で表されるジウレア系増ちょう剤が挙げられる。
1NH-CO-NH-C64-p-CH2-C64-p-NH-CO-NHR2 (1)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、炭素数8〜20、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基、炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜7のアリール基又は炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜7のシクロアルキル基である。)
【0014】
ジウレア系増ちょう剤は、例えば、所定のジイソシアネートと、所定のモノアミンとを反応させることにより得ることができる。ジイソシアネートの好ましい具体例は、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートである。モノアミンとしては、脂肪族系アミン、芳香族系アミン、脂環式アミン又はこれらの混合物が挙げられる。脂肪族アミンの具体例としては、炭素数8〜18の脂肪族アミン、例えば、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン及びオレイルアミンが挙げられる。芳香族アミンの具体例としては、炭素数6〜7の芳香族アミン、例えば、アニリン及びp−トルイジンが挙げられる。脂環式アミンの具体例としては、シクロヘキシルアミンが挙げられる。
【0015】
成分(b)は、上述したモノアミンのうちオクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン又はこれらの混合物を用いて得られる脂肪族ウレア系増ちょう剤が好ましい。
成分(b)の増ちょう剤の含有量は、必要なちょう度を得るのに適切な量であれば良く、通常は、グリース組成物の全質量に対して、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは、5〜20質量%である。
【0016】
本発明に使用する成分(c)のジチオリン酸亜鉛としては、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【0017】

(式中、R3は炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基である。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。)
成分(c)のジチオリン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満では効果が不十分な傾向があり、また10質量%を超えてもさらなる効果の向上は認められない。
【0018】
本発明に使用する成分(d)の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの具体例としては、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
[R45N−CS−S]2−Mo2mn (2)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1〜24、好ましくは2〜18のアルキル基であり、mは0〜3、nは1〜4であり、m+n=4である。)
成分(d)の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量は、グリース組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満では効果が不十分な傾向があり、また10質量%を超えてもさらなる効果の向上は認められない。
【0019】
本発明に使用する成分(e)のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の具体例としては下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
[R62N−CS−S]2−Zn (3)
式中、R6は一級または二級の炭素数1〜24のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基である。特に好ましくは炭素数3〜8の一級または二級のアルキル基である。)
本発明のグリース組成物中の成分(e)のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満では効果が不十分な傾向があり、また10質量%を超えてもさらなる効果の向上は認められない。
【0020】
本発明のグリース組成物中の成分(c)ジチオリン酸亜鉛、(d)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び(e)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の配合比率(質量)は、好ましくは成分(c)が1に対して成分(d)が0.3〜3.0、成分(e)が0.1〜5.0、さらに好ましくは成分(c)が1に対して成分(d)が0.5〜1.5、成分(e)が0.2〜3.0である。
【0021】
本発明に任意成分として使用する成分(f)の二硫化モリブデンは、一般に、等速ジョイントにおける固体潤滑剤として広く用いられている。その潤滑機構としては、層状格子構造を持ち、すべり運動により薄層状に容易に剪断して、摩擦抵抗を低下させることが知られている。また、等速ジョイントの焼き付き防止にも効果がある。
成分(f)の含有量は、グリース組成物の全質量に対して好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
【0022】
本発明のグリース組成物には、上記成分に加えて、他の極圧添加剤、酸化防止剤、錆止め剤、防食剤等、通常グリース組成物に使用される添加剤を含有させることができる。
本発明に係る等速ジョイントのトルク伝達部材が球体である等速ジョイントとは、例えば、ツェッパ型、バーフィールド型などの固定式等速ジョイントやダブルオフセット型、クロスグルーブ型などのスライド式等速ジョイントなどが挙げられる。これらは、トルク伝達部材としてボールを用い、等速ジョイントの外輪及び内輪に形成されたトラック上に配置され、ケージを介して組み込まれる構造を成している。
本発明に係る等速ジョイントが固定式等速ジョイントである等速ジョイントとは、例えば、上述のツェッパ型、バーフィールド型などの固定式等速ジョイントなどが挙げられる
本発明に係る等速ジョイントがスライド式等速ジョイントである等速ジョイントとは、例えば、上述のダブルオフセット型、クロスグルーブ型などのスライド式等速ジョイントが挙げられ、作動角を取ると同時に軸線方向にスライドすることが可能である。
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、等速ジョイントであればなんら制限なく用いることができるが、クロスグルーブ型等速ジョイント、更には、より高速回転にて使用されるプロペラシャフトに適用されるクロスグルーブ型等速ジョイントに用いた場合には、その効果の発現が特に顕著である。
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述する。
グリース組成物の調製
容器に基油1050gとジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート294.3gをとり、混合物を70〜80℃に加熱した。別容器に、基油460gとオクタデシルアミン605.7gをとり、70〜80℃に加熱後、先の容器に加え、よく攪拌しながら、30分間反応させた。その後加熱攪拌し放冷後、ベースウレアグリースを得た。このベースウレアグリースに、表1に示す配合で、添加剤を添加し、適宜基油を加え、得られる混合物を三段ロールミルにて、ちょう度No.1グレードに調整した。
【0024】
実施例および比較例のグリース組成物の特定を下記の試験法により評価した。結果を表1に示す。
(1)基油動粘度
JIS K 2283により、100℃における基油動粘度を測定した。
(2)低温トルク試験
JIS K 2220 18により、−40℃における起動トルクを測定した。
評価基準は下記のとおりである。
起動トルク: 1500mN・m以下 良好 ○
1500mN・mを超える 不良 ×
(3)SRV試験
ASTM D5707に準ずる。
テストピース ボール 直径17mm (SUJ2)
プレート 直径24mm×7.85mm(SUJ2)
試験条件 荷重 500N
周波数 50Hz
振幅 1.5mm
時間 60分
試験温度 150℃
測定項目 摩擦係数、ボール摩耗痕径
評価基準は下記のとおりである。
SRV試験 摩擦係数: 0.04以下 良好 ○
0.04を超える 不良 ×
摩耗痕径: 0.70mm以下 良好 ○
0.70mmを超える 不良 ×
(4)台上試験
試験条件 回転数 6000rpm
トルク 200N・m
角度 3deg.
運転時間 100時間
ジョイントタイプ クロスグルーブ型ジョイント
測定項目
抑温性 試験中のジョイント外輪表面温度を測定した。
評価基準は下記のとおりである。
120℃以下 良好○
120℃を超える 不良×
耐久性 試験後ジョイント各部のフレーキング発生面積を測定した。
評価基準は下記のとおりである。
外輪溝フレーキング発生面積 20mm2未満 優れている ◎
外輪溝フレーキング発生面積 25mm2未満 良好 ○
外輪溝フレーキング発生面積 25mm2以上 不良 ×




【0025】
【表1】

【0026】
※1)ジチオリン酸亜鉛
※2)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン
※3)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛
※4)二硫化モリブデン
※5)硫黄系極圧添加剤(S分:43%)
※6)鉛含有極圧添加剤(Pb分:15%)
※7)硫黄-窒素系極圧添加剤
【0027】
以上から、本発明の実施例1〜2の等速ジョイント用グリース組成物は、本発明の成分(a)、(c)、(d)及び(e)のいずれかを含まない比較例1〜4のものに比べ、150℃〜−40℃の使用範囲において、等速ジョイントの低温回転トルクが低く、かつ、高速回転時の耐久性及び抑温性が優れていることが分かる。また成分(f)を含む実施例2のグリース組成物はこれを含まない実施例1のグリース組成物と比較して高速回転時の耐久性がさらに優れていることが分かる。
実施例1の成分(e)ZnDTCの代わりに成分(h)Pb系極圧剤を用いた比較例5、および、実施例2の成分(e)ZnDTCの代わりに成分(g)S系極圧剤を用いた比較例6(特許文献1に該当)、実施例2の成分(e)ZnDTCの代わりに成分(i)脂肪酸アミドを用いた比較例7(特許文献4に該当)、実施例2の成分(e)ZnDTCの代わりに成分(f)MoS2 、(k)ポリテトラフルオロエチレンを用いた比較例9(特許文献8に該当)ではSRV試験におけるボール摩耗痕が大きくなり、耐久性に劣ることが分かる。
実施例1の成分(c)ZnDTP及び成分(e)ZnDTCの代わりに成分(f)MoS2、(g)S系極圧剤、(j)S-N系極圧剤を用いた比較例8(特許文献2に該当)ではSRV試験における摩擦係数が高く、ボール摩耗痕が大きくなり、抑温性、耐久性に劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)〜(e)を含有する等速ジョイント用グリース組成物。
(a)合成油を含む基油、
(b)増ちょう剤、
(c)ジチオリン酸亜鉛、
(d)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(e)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛
【請求項2】
成分(a)の合成油が合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1記載の等速ジョイント用グリース組成物。
【請求項3】
成分(c)のジチオリン酸亜鉛、成分(d)の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び成分(e)のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量が、グリース組成物の全質量に対して、各々0.1〜10質量%である請求項1または2記載の等速ジョイント用グリース組成物。
【請求項4】
さらに、(f)成分として二硫化モリブデンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなる等速ジョイント。

【公開番号】特開2009−270058(P2009−270058A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123671(P2008−123671)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】