説明

等速自在継手及び等速自在継手の外側継手部材

【課題】強度の低下を伴わず、高精度で、且つ軽量化が可能な等速自在継手の外側継手部材およびこのような外側継手部材を用いた等速自在継手を提供する。
【解決手段】等速自在継手の外側継手部材3は、内径面1にトラック溝2を形成したカップ部10と、カップ部10の奥側端部に外嵌固定されるフランジ部11とを備える。カップ部10が、複数の薄板プレス成形品25の重ね合せ体26にて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される等速自在継手及び等速自在継手の外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
トルク伝達部材にボールが用いられる等速自在継手は、一般には、内球面に複数のトラック溝が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された外側継手部材としての外輪と、外球面に外輪のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された内側継手部材としての内輪と、外輪のトラック溝と内輪のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外輪の内球面と内輪の外球面との間に介在してボールを保持するケージとを備えている。
【0003】
ところで、近年の環境意識の高まりとガソリンの高騰を受け、自動車製造メーカは自動車燃費の向上を目的として大幅な軽量化を図るのが好ましい。このため、自動車の動力伝達系において使用される等速自在継手にも大幅な軽量化が必要となる。
【0004】
そこで、等速自在継手の外輪に対して軽量化を図るようにしたものがある(特許文献1〜特許文献3等)。これらは、外輪のカップ部(マウス部)をプレス成形体として、薄肉化を図ったものである。
【0005】
すなわち、特許文献1では、軸部とフランジ部を有する素材に対して、絞り加工によって中間品を成形し、次に、その中間品に対して前方押出加工を行って成形品を成形するものである。特許文献2では、2種類のパンチおよびダイス等を用いて絞り加工するものである。特許文献3では、鋼板の深絞りにより成形するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−83357号公報
【特許文献2】特開平4−351242号公報
【特許文献3】特開平9−53647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ボールタイプの等速自在継手の外輪は、コンパクト性を重視する設計においては、トラック溝と内球径(内径面)の繋ぎRを小さくする必要がある。そのため、特許文献1から特許文献3に記載されているようなプレス成型において、必要な精度を得るには薄肉素材とする必要がある。しかしながら、薄肉素材を用いれば、強度が不足するか、または、強度確保のためにコンパクト性を犠牲にする必要があり、軽量化が困難であった。
【0008】
また、強度確保を目的に、厚肉素材にてプレス成形すると、必要寸法精度が得られないか、無理に高い荷重にてプレスすると、素材に割れが生じてしまう等、実現するには限界があった。
【0009】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、強度の低下を伴わず、高精度で、且つ軽量化が可能な等速自在継手の外側継手部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の等速自在継手の外側継手部材は、内径面にトラック溝を形成したカップ部と、カップ部の奥側端部に外嵌固定されるフランジ部とを備えた等速自在継手の外側継手部材であって、前記カップ部が、複数の薄板プレス成形品の重ね合せ体にて構成されているものである。
【0011】
本発明の等速自在継手の外側継手部材によれば、カップ部が、複数の薄板プレス成形品の重ね合せ体にて構成されているので、強度的に優れる。しかも、各薄板プレス成形品は、プレス成形しやすい薄肉板の使用が可能であり、寸法精度を得易い利点がある。
【0012】
前記重ね合せ体にプレス加工が施されてなるものが好ましい。このようにプレス加工を施せば、重ね合せ体全体が加締られた状態となって、薄板プレス成形品同士の密着性が向上する。また、重ね合せ体を構成する薄板プレス成形品が接着一体化されているものであって、溶接一体化されているものであってもよい。ここで、接着一体化とは接着剤を用いた接合であり、溶接一体化とは溶接(例えば、レーザー溶接)を用いた接合である。
【0013】
前記重ね合せ体の最内径層の薄板プレス成形品に浸炭焼入れ材を用いたり、高周波焼入れ材を用いたりすることによって、最内径層に焼入れ硬化層を設けるのが好ましい。このように、最内径層の焼入れ硬化層を設けることによって、最内径層の強度及び耐久性を確保することができる。
【0014】
前記重ね合せ体の最内径層と最外径層の間に、軽量素材を介装してもよい。軽量素材は、自動車の量産車等に使用される軽量素材であって、アルミニウムやマグネシウムに代表される軽金属類、各種のFRP(繊維強化プラスチック)やエンジニアリング・プラスチック、高張力鋼などである。
【0015】
また、前記重ね合せ体からなるカップ部と、このカップ部に外嵌されるフランジ部とを溶接一体化してもよく、接着一体化してもよい。
【0016】
さらに、カップ部とこのカップ部に外嵌されるフランジ部とは凹凸嵌合構造を介して一体化された等速自在継手の外側継手部材であって、カップ部のフランジ嵌合部外径面とフランジ部の孔部内径面とのいずれか一方に軸方向に延びる凸部を設け、この凸部を他方に軸方向に沿って圧入し、この圧入によって、他方に凸部に嵌合する凹部を形成して前記凹凸嵌合構造を構成するものであってもよい。
【0017】
凸部を他方に軸方向に沿って圧入し、この圧入によって、凸部にて、相手側に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凹凸嵌合構造を構成していくことになる。この際、凸部が相手側の凹部形成面に食い込んでいくことによって、孔部が僅かに拡径した状態となる。孔部が縮径しようとするため、凸部の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部に対して密着する。
【0018】
前記フランジ部に周方向に沿って複数個の貫通孔が開設されているものであってもよい。また、周方向に隣合う貫通孔間のフランジ部外径面に切欠部が設けられているもの、すなわち、フランジ部を花形形状としたものであってもよい。
【0019】
カップ部のトラック溝の溝底全範囲が円弧形状であるものであっても、カップ部のトラック溝の溝底が円弧形状部とストレート形状部とを有するものであってもよい。すなわち、これらの場合は、ボールを用いた固定式等速自在継手を構成することができる。また、カップ部のトラック溝の溝底全範囲がストレート形状であってもよい。この場合、ダブルオフセット型等の摺動式等速自在継手を構成することができる。
【0020】
本発明の等速自在継手は、前記記載の等速自在継手の外側継手部材を用いたものである。この際、トルク伝達部材としてボールを用い、ボール数を3個以上とすることができる。本発明の等速自在継手は、自動車の駆動系またはプロペラシャフトに適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の等速自在継手の外側継手部材では、寸法精度を得易すく、必要な形状(等速自在継手の外側継手部材の形状)の精度を得ることができる。しかも、このように重ね合わせ体を構成することによって、小型でも高い強度をもった製品(外側継手部材)を提供できる。プレス加工を施せば、薄板プレス成形品同士の密着性が向上して、一層の強度向上を図ることができる。
【0022】
最内径層の薄板プレス成形品に焼入れ材等を用いることによって、最内径層の強度及び耐久性を確保することができ、長期にわたって安定して等速自在継手を構成できる。最内径層の焼入れと共に、軽量素材を最内径層以外に使用することによって、強度の低下を招く事なく軽量化を図ることができる。
【0023】
ところで、この等速自在継手の外側継手部材はフランジ部を有するものであり、このフランジ部を、車両または産業機械等の動力出力部に取付けることができる。このため、フランジ部に貫通孔が開設されているものであれば、この貫通孔をいわゆるボルト孔として使用して、このフランジ部を前記動力出力部に固定でき、組立て性の向上を図ることができる。また、フランジ部を花形形状としたものであれば、前記貫通孔(ボルト孔)周辺を残して、強度的に不要な部分を削除することで、軽量化を図ることができる。
【0024】
カップ部とフランジ部とを凹凸嵌合構造を介して連結すれば、カップ部とフランジ部とは安定して連結され、しかも、カップ部とフランジ部の孔部に圧入すればよいので、その連結作業の簡略化を図ることができ、生産性に優れる。
【0025】
この外側継手部材としては、ボールを用いた固定式等速自在継手や摺動式等速自在継手(ダブルオフセット型)を構成することができ、種々のタイプの等速自在継手に対応することができる。さらに、ボール数も任意に設定でき、設計の自由度が拡がる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の外側継手部材の正面図である。
【図2】前記図1のA−O−A線の断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す等速自在継手の外側継手部材の正面図である。
【図4】前記図3のA1−O−A1線の断面図である。
【図5】カップ部の変形例の断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態を示す等速自在継手の外側継手部材の正面図である。
【図7】前記図6のA2−O−A2線の断面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態を示す等速自在継手の外側継手部材の正面図である。
【図9】前記図8のA3−O−A3線の断面図である。
【図10】カップ部とフランジ部とを連結する凹凸嵌合構造の断面図である。
【図11】図10に凹凸嵌合構造の拡大断面図である。
【図12】カップ部とフランジ部とを連結する他の凹凸嵌合構造の断面図である。
【図13】図12に凹凸嵌合構造の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
【0028】
図1と図2に本発明に係る等速自在継手の外側継手部材を示している。この等速自在継手は、外側継手部材3と、この外側継手部材3内に収容状となる図示省略の内部部品とを備える。外側継手部材3は、内径面1に複数のトラック溝2が軸方向に沿って形成されたカップ部10と、カップ部10の奥側端部に外嵌固定されるフランジ部11とを備える。図示省略の内部部品は、外径面に複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝2と内側継手部材のトラック溝との対で形成されるボールトラックに配置される複数のトルク伝達ボールと、外側継手部材3の内径面と内側継手の外径面との間に介在すると共に前記トルク伝達ボールを保持するケージを備える。
【0029】
外側継手部材3のトラック溝2は、トラック溝底が奥側の円弧部2aと、継手軸方向と平行な開口側のストレート部2bとからなり、内側継手部材のトラック溝は、トラック溝底が奥側のストレート部と、開口側の円弧部とからなる。すなわち、この等速自在継手はアンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手である。
【0030】
カップ部10は、内径面にトラック溝2が形成されたカップ本体10aと、このカップ本体10aの小径側に連設される短円筒部10bとからなる。カップ部10は複数枚(図例では3枚)の薄板プレス成形品25の重ね合せ体26にて構成している。薄板プレス成形品25は、例えば、鋼板を既存のプレス成形機のプレス加工にて成形することができる。すなわち、各薄板プレス成形品25は、完成品のカップ部10と同一形状品であって、その肉厚が小であるものである。各薄板プレス成形品25は、カップ部本体形成部51aと、短円筒部形成部51bとからなる。なお、薄板プレス成形品25には、超高強度鋼板を用いることができる。高張力鋼板は、「ハイテン」(High Tensile Strength Steel Sheets)とも呼ばれる引っ張り強さが高い鋼板のことである。普通鋼板が引張り強さ270MPa以上であるのに対して、一般的には340MPa〜790MPaのものが高張力鋼板と定義されている。なお、引張り強さ980MPa以上のものは通常「超高張力鋼板」と呼ばれる。
【0031】
高張力鋼板の種類としては、炭素の他にニッケル(Ni)やシリコン(Si)、マンガン(Mn)などの元素を添加して強化した固溶強化型や析出強化型鋼板、プレス成形後に焼入れして強化した複合組織鋼板などがある。また、プレス成形する前に材料を加熱して、成形後急冷して強度を高める熱間プレス成形法が開発され、採用が広がっている。なお、薄板プレス成形品25としては、このような超高強度鋼板に限るものではなく、プレス成形機のプレス加工にて成形することができるものであればよい。
【0032】
重ね合せ体26としては、薄板プレス成形品25を重ね合せた後に、プレス加工が施されて、薄板プレス成形品25同士の密着性を向上させるのが好ましい。また、薄板プレス成形品25間に接着剤を介在させ、薄板プレス成形品25を接着一体化するようにしてもよい。このように接着一体化する場合、接着剤としては、例えば、エポキシ系、ウレタン系またはアクリル系等を用いることができる。
【0033】
また、接着一体化することなく、溶接一体化するようにしてもよい。この場合、例えば、強度確保に適した箇所に部分的なレーザー溶接を行えばよい。ここで、レーザー溶接とは、レーザー光を熱源として主として金属に集光した状態で照射し、金属を局部的に溶融・凝固させることによって接合する方法のことである。
【0034】
フランジ部11は、例えば、炭素鋼等からなる円盤体にて構成される。そして、図2に示すように、周方向に沿って所定ピッチで複数個(図例では、6個)の貫通孔12が設けられている。なお、この貫通孔12の数は6個に限るものではない。
【0035】
カップ部10とフランジ部11とは、接着一体化又は溶接一体化等される。接着一体化する場合、カップ部10のフランジ嵌合部15、つまり、カップ部10の短円筒部10bの反カップ本体側の外径面と、フランジ部11の孔部11aの内径面との間に、接着剤を介在させて、フランジ部11の孔部11aにカップ部10のフランジ嵌合部15を嵌入すればよい。使用する接着剤としては、例えば、エポキシ系,ウレタン系,アクリル系等であり、カップ部10の材質、フランジ部11の材質に応じて種々の種類のものを用いることができる。
【0036】
溶接一体化する場合、フランジ部11の孔部11aにカップ部10のフランジ嵌合部15を嵌入乃至圧入した後、フランジ部11の外面11b側及び/又は内面11c側から、フランジ部11の孔部11aの内径面とカップ部10のフランジ嵌合部15の外径面との間に対して、周方向に沿って全周又は所定ピッチで、レーザー溶接を行えばよい。
【0037】
図3と図4に示す外側継手部材3は、周方向に隣合う貫通孔12間のフランジ部外径面に切欠部13が設けられている。すなわち、フランジ部11がいわゆる花形形状とされている。この図3と図4に示す外側継手部材3の他の構成は、図1と図2に示す外側継手部材3と同様であるので、同一部材については図1と図2と同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
本発明の等速自在継手の外側継手部材では、カップ部10が、複数の薄板プレス成形品25の重ね合せ体26にて構成されているので、強度的に優れる。しかも、各薄板プレス成形品25は、プレス成形しやすい薄肉板の使用が可能であり、寸法精度を得易い利点がある。このため、本発明の等速自在継手の外側継手部材では、寸法精度を得易すく、必要な形状(等速自在継手の外側継手部材の形状)の精度を得ることができる。しかも、このように重ね合せ体26を構成することによって、小型でも高い強度をもった製品(外側継手部材)を提供できる。プレス加工を施せば、重ね合せ体26全体が加締られた状態となって、薄板プレス成形品同士の密着性が向上して、一層の強度向上を図ることができる。薄板プレス成形品25が接着一体化や溶接一体化されているものであれば、一体化が安定して耐久性の向上を図ることができる。
【0039】
この等速自在継手の外側継手部材3はフランジ部11を有するものであり、このフランジ部11を、車両または産業機械等の動力出力部に取付けることができる。このため、実施形態のように、フランジ部11に貫通孔12が開設されているものであれば、この貫通孔12をいわゆるボルト孔として使用して、このフランジ部11を前記動力出力部に固定できる。また、図3に示すように、フランジ部11を花形形状としたものであれば、前記貫通孔(ボルト孔)12周辺を残して、強度的に不要な部分を削除することで、軽量化を図ることができる。
【0040】
ところで、前記重ね合せ体26の最内径層の薄板プレス成形品25に浸炭焼入れ材(例えば、SCr420等)を用いたり、高周波焼入れ材(例えば、S48C等)を用いたりするのが好ましい。このように、最内径層の薄板プレス成形品に焼入れ材等を用いることによって、最内径層に焼き入れ硬化層を形成することができ、最内径層の強度及び耐久性を確保することができ、長期にわたって安定して等速自在継手を構成できる。
【0041】
また、図5に示すように、前記重ね合せ体26の最内径層26aと最外径層26bの間に、軽量素材29を介装してもよい。軽量素材29は、自動車の量産車等に使用される軽量素材であって、アルミニウムやマグネシウムに代表される軽金属類、各種のFRP(繊維強化プラスチック)やエンジニアリング・プラスチック、高張力鋼などである。軽量素材を使用することによって、強度低下することなく軽量化を図ることができる。なお、アルミニウム等を用いる場合、カーボンナノチューブ添加アルミニウム等を用いるのが好ましい。
【0042】
軽量素材29を用いる場合、重ね合せ体26の外径側、つまり最外径層部26bを軽量素材29としてもよい。
【0043】
前記実施形態では、カップ部10のトラック溝2の溝底が円弧形状部とストレート形状部とを有するものであったが、カップ部10のトラック溝2の溝底全範囲が円弧形状であるものであってもよい。すなわち、これらの場合は、ボール7を用いた固定式等速自在継手を構成することができる。
【0044】
また、図6と図7に示すように、外側継手部材として、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手に用いるものであってもよい。この場合のカップ部10は、その内径面に軸方向に沿ってストレート状に延びるトラック溝32が周方向に沿って60°ピッチで6個が形成されたものである。カップ部10は、前記実施形態と同様、複数枚(図例では3枚)の薄板プレス成形品25の重ね合せ体26にて構成している。各薄板プレス成形品25は、完成品のカップ部10と同一形状品であって、その肉厚が小であるものである。なお、薄板プレス成形品25には、超高強度鋼板等を用いることができる。
【0045】
また、フランジ部11は、図1と図2に示す外側継手部材3のフランジ部11と同様、周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60°ピッチ)で貫通孔12が設けられたものであり、カップ部10のフランジ嵌合部15に外嵌固定されている。この場合、接着一体化したり、溶接一体化したりできる。
【0046】
図8と図9に示すように、外側継手部材3として、トリポード型の摺動式等速自在継手に用いるものであってもよい。この場合のカップ部10は、内周に軸方向に延びた3本のトラック溝33を有するものであって、各トラック溝33の向かい合った側壁をローラ案内面33aとしている。なお、トリポード型等速自在継手は、一般的には、このような外側継手部材3と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、トリポード部材の脚軸に回転自在に支持されるローラとを備え、ローラが外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面33aに沿って案内されるものである。
【0047】
この場合も、カップ部10は、前記実施形態と同様、複数枚(図例では3枚)の薄板プレス成形品25(超高強度鋼板等を用いたもの)の重ね合せ体26にて構成している。各薄板プレス成形品25は、完成品のカップ部10と同一形状品であって、その肉厚が小であるものである。また、フランジ部11も、図1に示す外側継手部材3のフランジ部11と同様、周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60°ピッチ)で貫通孔12が設けられたものであり、カップ部10のフランジ嵌合部15に外嵌固定されている。この場合、接着一体化したり、溶接一体化したりできる。
【0048】
図6と図7に示す外側継手部材であっても、図8と図9に示す外側継手部材であっても、図2や図4に示す外側継手部材と同様の作用効果を奏することができる。なお、図6と図7に示す外側継手部材であっても、図8と図9に示す外側継手部材であっても、カップ部10において、重ね合せ体26の最内径層と最外径層の間に、軽量素材を介装しても、重ね合せ体26の外径側に軽量素材を配置してもよい。
【0049】
ところで、前記実施形態では、カップ部10とフランジ部11とを接着一体化や溶接一体化したものであったが、図10と図11に示すように凹凸嵌合構造Mを用いたものであってもよい。凹凸嵌合構造Mは、例えば、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面に設けられた軸方向に延びる凸部35と、フランジ部11の孔部11aの内径面に設けられた軸方向に延びる凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合する凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。この場合、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、フランジ部11の孔部11aの内径面に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。そして、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。なお、嵌合接触部位38の全体が密着しているには、嵌合接触部位38の極一部領域に凸部による凹部形成過程で不可避的に隙間が生じる場合も含むものとする。
【0050】
この場合、フランジ部11の孔部11aの内径寸法Dを、凸部35の頂点を結ぶ円の最大直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部35間の底を結ぶ円の最小外径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。
【0051】
凸部35に対して、熱硬化処理を行い、フランジ部11の孔部11aの内径面を未焼き状態に維持している。熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。具体的には、凸部35の硬度を50HRCから65HRC程度とし、カップ部10の未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。そして、その硬度差を例えばHRCで20ポイント以上とする。
【0052】
ところで、前記凸部35は、周方向に沿って所定ピッチで配設されるものであるので、複数の凸条と複数の凹条とからなるスプラインを形成し、このスプラインの凸条をもって凸部35を構成できる。このようなスプラインは、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、凸部35を形成した後に行うことになる。
【0053】
このように設定して、カップ部10のフランジ嵌合部15をフランジ部11の孔部11aに圧入すれば、D2<D<D1であり、凸部35の硬度がフランジ部11の孔部11aの内径部の硬度よりも大きいので、この圧入によって、この凸部35がフランジ部11の孔部11aの内径面に凹部36を成形しながら食い込んでいき、これにより凹凸嵌合構造Mを成形する。
【0054】
すなわち、この圧入によって、相手側の凹部形成面(フランジ部11の孔部11aの内径面)に凸部35の形状の転写を行うことになって、凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着する。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
【0055】
各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲Aである。また、周方向の隣合う凸部35間において、孔部11aの内径面よりも内径側に隙間40が形成されている。この場合も、隙間40が形成されないものであってもよい。軸方向の圧入は、カップ部10のフランジ嵌合部15の圧入開始側の端面がフランジ部11の外面11bとが同一平面上に配置されるまで行う。
【0056】
このように、カップ部10とフランジ部11とを凹凸嵌合構造Mを介して連結したものでは、カップ部10とフランジ部11とは安定して連結され、しかも、カップ部10とフランジ部11の孔部11aに圧入すればよいので、その連結作業の簡略化を図ることができ、生産性に優れる。
【0057】
凹凸嵌合構造Mとして、前記図12と図13に示すように、フランジ部11の孔部11aの内径面に凸部35を設けるとともに、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面に凹部36を設けたものであってもよい。
【0058】
この場合、凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小径寸法)D8を、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面の外径寸法D10よりも小さく、凸部35間の底を結ぶ円の径寸法D9をカップ部10のフランジ嵌合部15の外径面の外径寸法D10よりも大きく設定する。すなわち、D8<D10<D9とされる。この凸部35においても、熱硬化処理を行い、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面を未焼き状態に維持している。熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。フランジ部11の孔部11aの凸部35の硬度を、カップ部10のフランジ嵌合部15の外径面の硬度よりも大きく設定する。この硬度差としては、図10に示す凹凸嵌合構造Mと同様、HRCで20ポイント以上とする。
【0059】
フランジ部11の孔部11aに対して、カップ部10のフランジ嵌合部15を挿入(圧入)していく。この際、D8<D10<D9であり、しかも、凸部35の硬度がカップ部10のフランジ嵌合部15の外径面の硬度よりも大きいので、この圧入によって、この凸部35がカップ部10のフランジ嵌合部15の外径面に凹部38を形成しながら食い込んでいき、これにより凹凸嵌合構造Mを成形する。
【0060】
すなわち、この圧入によって、相手側の凹部形成面(フランジ嵌合部15の外径面)に凸部35の形状の転写を行うことになって、凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
【0061】
この場合の各凸部35も、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図13に示す範囲Bであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲Bである。また、周方向の隣合う凸部35間において、フランジ嵌合部15の外径面よりも外径側に隙間42が形成されている。図13では隙間42が形成されるが、凸部35間の凹部まで、フランジ嵌合部15の外径面に食い込むようなものであってもよい。
【0062】
図12と図13に示す凹凸嵌合構造Mにおいても、カップ部10とフランジ部11とは安定して連結され、しかも、カップ部10とフランジ部11の孔部11aに圧入すればよいので、その連結作業の簡略化を図ることができ、生産性に優れる。
【0063】
本発明の等速自在継手は、前記の外側継手部材3を用いたものである。この際、図1から図7等においては、トルク伝達部材としてボールを用い、ボール数を3個以上とすることができる。また、図8では、ボールを用いないトリポード型等速自在継手である。このように、この外側継手部材としては種々のタイプの等速自在継手に対応することができ、ボール数も任意に設定でき、設計の自由度が拡がる。したがって、本発明の等速自在継手では、強度低下を伴わず、高精度で、且つ軽量化が可能であるので、自動車の駆動系またはプロペラシャフトに最適となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、重ね合せ体26を構成する薄板プレス成形品25の数の増減は任意である。また、薄板プレス成形品25の肉厚も任意であり、さらには、使用する複数枚の薄板プレス成形品25において、すべてが同一の肉厚のものを用いても、すべてが異なる肉厚のものを用いても、任意の数のものが同一の肉厚であるものを用いてもよい。重ね合せ体26をプレスする場合、密着性を考慮して、内側の薄板プレス成形品25の外径側の凸部(内径側にトラック溝を形成するための凸部)が、この薄板プレス成形品25の外側の薄板プレス成形品25の内径面の凹部(トラック溝を形成するための凹部)に圧入状となるのが好ましい。圧入する場合、圧入後のトラック溝形状及びトラック溝のピッチダイヤ径が規定の値になるように、予め変形量を考慮した形状としておくのが好ましい。
【0065】
軽量素材29を用いる場合、一枚に限るものではなく、2枚以上の複数枚であってもよい。このように複数枚の軽量素材29を用いる場合、その肉厚が同一であっても相違するものであってもよい。また、軽量素材29の肉厚と薄板プレス成形品25の肉厚とが同一であっても相違するものであってもよい。浸炭焼入れ材や高周波焼入れ材を用いる場合、最内径層に用いることとし、この最内径層に加えて、最外径層や、最内径層と最外径層との間の中間層にも用いてもよい。
【0066】
フランジ部11としても前記軽量素材を用いるようにしてもよい。このように、フランジ部に軽量素材を用いることによって、等速自在継手全体としての軽量化を図ることができる。フランジ部11の厚さ寸法、外径寸法等は、使用する材質、連結される動力出力部等に応じて種々変更できる。
【0067】
凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記実施形態では断面略三角形状であり、これら以外の断面台形、半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、前記実施形態では、スプラインを形成し、このスプラインの凸部(凸歯)をもって凹凸嵌合構造Mの凸部35を形成したが、このようなスプラインを構成することなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着すればよい。
【符号の説明】
【0068】
M 凹凸嵌合構造
1 内径面
2 トラック溝
3 外側継手部材
10 カップ部
11 フランジ部
11a 孔部
12 貫通孔
13 切欠部
25 薄板プレス成形品
26 重ね合わせ体
26a 最内径層
26b 最外径層
29 軽量素材
35 凸部
36 凹部
38 嵌合接触部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面にトラック溝を形成したカップ部と、カップ部の奥側端部に外嵌固定されるフランジ部とを備えた等速自在継手の外側継手部材であって、
前記カップ部が、複数の薄板プレス成形品の重ね合せ体にて構成されていることを特徴とする等速自在継手の外側継手部材。
【請求項2】
前記重ね合せ体にプレス加工が施されてなることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項3】
前記重ね合せ体を構成する薄板プレス成形品が接着一体化されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項4】
前記重ね合せ体を構成する薄板プレス成形品が溶接一体化されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項5】
前記重ね合せ体の最内径層に焼入れ硬化層を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項6】
前記重ね合せ体の最内径層と最外径層の間に、軽量素材を介装したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項7】
前記重ね合せ体からなるカップ部と、このカップ部に外嵌されるフランジ部とを溶接一体化したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項8】
前記重ね合せ体からなるカップ部と、このカップ部に外嵌されるフランジ部とを接着一体化したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項9】
カップ部とこのカップ部に外嵌されるフランジ部とは凹凸嵌合構造を介して一体化された等速自在継手の外側継手部材であって、カップ部のフランジ嵌合部外径面とフランジ部の孔部内径面とのいずれか一方に軸方向に延びる凸部を設け、この凸部を他方に軸方向に沿って圧入し、この圧入によって、他方に凸部に嵌合する凹部を形成して前記凹凸嵌合構造を構成することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項10】
前記フランジ部に周方向に沿って複数個の貫通孔が開設されていることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項11】
周方向に隣合う貫通孔間のフランジ部外径面に切欠部が設けられていることを特徴とする請求項10の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項12】
カップ部のトラック溝の溝底全範囲が円弧形状であることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項13】
カップ部のトラック溝の溝底が円弧形状部とストレート形状部とを有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項14】
カップ部のトラック溝の溝底全範囲がストレート形状であることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材。
【請求項15】
前記請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の等速自在継手の外側継手部材を用いたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項16】
トルク伝達部材としてボールを用い、ボール数を3個以上としたことを特徴とする前記請求項15に記載の等速自在継手。
【請求項17】
自動車の駆動系またはプロペラシャフトに適用したことを特徴とする前記請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−106568(P2011−106568A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261923(P2009−261923)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)