説明

筋伸張反射測定装置

【課題】 叩打ミス(ミスインパクト)及び/又は測定前の筋収縮を検出することで、筋伸張反射の叩打データの測定精度を向上させること。
【解決手段】 解析装置4は、叩打ハンマー1により骨を叩打した場合と腱を叩打した場合を、叩打力の時間軸波形とFFT波形から識別し、ミスインパクトを判定する。解析装置4は、ミスインパクトによる結果であれば、正しいインパクトの結果から除去する。また、解析装置4は、筋電計3により測定前の筋電位をモニタリングし、筋収縮がある場合は測定が出来ない、または、測定結果から除去されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋伸張反射測定装置に係り、特に、叩打ミスの検出機能又は筋収縮の検出機能又はこれら両方の検出機能を備えた筋伸張反射測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、付与された刺激に対する患者の物理的反射応答を検出する反射測定装置であって、刺激に対する患者の応答のあるパラメータを定量的に検出し、かつ測定する改良された反射測定装置と方法が記載されている。
特許文献2には、加速度信号入力装置による関節運動の測定から、評価値算出装置による評価値算出までの一連の処理を自動的にした関節運動機能評価装置及び評価方法が記載されている。
【0003】
本発明者は、被測定者の腱を打腱器で刺激した際に誘発される筋伸長反射を測定することにより、被測定者の神経系障害部位の推定や障害程度の評価ができるようにしたことを特徴とする筋伸張反射測定装置を出願した(特願2004−222308)。
【特許文献1】特表平7−506998号
【特許文献2】特開2003−319920号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、筋伸張反射の誘発は、腱の直上の皮膚を叩打することによって腱に連続する筋を伸張させることによって行う。しかしながら、腱の近くには骨が存在するため、間違って骨を叩打することがある。この場合腱が叩打されず、その結果筋も伸張されないため、筋伸張反射が誘発されない。このため、腱ではなく、骨や骨−腱境界部を叩打した場合をミスインパクトとして、解析データより省く必要性がある。
【0005】
また、測定前に筋が収縮している場合は、測定値が影響を受ける。そして、筋伸張反射の叩打による誘発法は、叩打ミスや測定時の不必要な筋収縮のため測定結果にアーチファクトが混入する。
本発明は、以上の点に鑑み、叩打ミス(ミスインパクト)及び/又は測定前の筋収縮を検出することで、筋伸張反射の叩打データの測定精度を向上させることを目的とする。また、本発明は、測定前の筋電位をモニタリングし、筋収縮がある場合は測定が出来ない、または、測定結果から除去されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、骨を叩打した場合と腱を叩打した場合は、叩打力の時間軸波形から、特に、上昇部分の傾斜の程度及び時間、下降部分の時間等のうち予め定めた項目を求め、また、叩打力のFFT波形から、2Hz付近と200Hz〜300Hz付近のうち予め定めた項目に存在する減衰の違いを求めることで、ミスインパクトを判定する。ミスインパクトによる結果であれば、正しいインパクトの結果から除去する。また、測定前の筋電位をモニタリングし、筋収縮がある場合は測定が出来ない、または、測定結果から除去されるようにする。
【0007】
本発明の第1の解決手段によると、
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
筋電位測定用のひとつ又は複数の電極と接続され、前記筋伸張反射誘発部位に対応する筋の筋電位データを測定する筋電計と、
前記叩打ハンマーからの叩打力データ及び前記筋電計からの筋電位データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、筋電位計からの筋電位データを入力し、測定前筋電位データがある一定値を超えると筋収縮があると判断し、
前記解析装置は、筋収縮があると判断したときは、その旨を表示部に可聴又は可視表示し、
一方、前記解析装置は、測定前筋収縮がないと判断したときは、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力し、
前記解析装置は、測定された叩打力データに基づき、時間軸波形とフーリエ変換波形を形成し、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、及び、反作用時間の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間が予め定められた値より短いこと、作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値より大きいこと、反作用時間が予め定められた値より短いこと、反作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値よりマイナス方向に大きいことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、又は、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域で振幅スペクトルが予め定められた値よりマイナス方向に大きいこと、及び、200〜300Hz程度のレベルで予め定められた値より大きい部分的な減衰を示さないことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、
ミスインパクトと判断し、
前記解析装置は、ミスインパクトでないと判断した場合は、叩打力データを記憶部に保存又は出力部に出力し、一方、ミスインパクトと判断した場合は、叩打力データを保存せず、ミスインパクトであること及び再測定を促す表示を表示部に可聴又は可視表示する、
筋伸張反射測定装置が提供される。
【0008】
本発明の第2の解決手段によると、
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
前記叩打ハンマーからの叩打力データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力し、
前記解析装置は、測定された叩打力データに基づき、時間軸波形とフーリエ変換波形を形成し、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、及び、反作用時間の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間が予め定められた値より短いこと、作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値より大きいこと、反作用時間が予め定められた値より短いこと、反作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値よりマイナス方向に大きいことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、又は、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域で振幅スペクトルが予め定められた値よりマイナス方向に大きいこと、及び、200〜300Hz程度のレベルで予め定められた値より大きい部分的な減衰を示さないことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、
ミスインパクトと判断し、
前記解析装置は、ミスインパクトでないと判断した場合は、叩打力データを記憶部に保存又は出力部に出力し、一方、ミスインパクトと判断した場合は、叩打力データを保存せず、ミスインパクトであること及び再測定を促す表示を表示部に可聴又は可視表示する、
筋伸張反射測定装置が提供される。
【0009】
本発明の第3の解決手段によると、
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
筋電位測定用のひとつ又は複数の電極と接続され、前記筋伸張反射誘発部位に対応する筋の筋電位データを測定する筋電計と、
前記叩打ハンマーからの叩打力データ及び前記筋電計からの筋電位データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、筋電位計からの筋電位データを入力し、測定前筋電位データがある一定値を超えると筋収縮があると判断し、
前記解析装置は、筋収縮があると判断したときは、その旨を表示部に可聴又は可視表示し、
一方、前記解析装置は、筋収縮がないと判断したときは、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力する
筋伸張反射測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、以上のように、叩打ミス(ミスインパクト)及び/又は筋収縮を検出することで、筋伸張反射の叩打データの測定精度を向上させることができる。また、本発明によると、測定前の筋電位をモニタリングし、筋収縮がある場合は測定が出来ない、または、測定結果から除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.筋伸張反射測定装置の構成
図1に、システムの概要構成図を示す。
また、図2に、システムの詳細ブロック図を示す。
叩打ハンマー1は、叩打用力センサー11を備える。叩打ハンマー1は、打腱器とも呼ばれ、筋伸張反射誘発部位を叩打し、叩打力を測定する。筋伸張反射としては、例えば、大腿四頭筋伸張反射以外にも、腓腹筋反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、三角筋反射、肩甲上腕筋反射等がある。叩打ハンマー1は、例えば、形状は円柱状で、先端の叩打用キャップの根元または表面付近に叩打力を検知する叩打用力センサー11を備えることができる。叩打用力センサー11は、例えば、圧電式のセンサー等で構成することができ、被験者を叩いた際の力の強さを検出する。
【0012】
筋電計3は、筋電位測定用の電極2と接続され、対象となる筋の筋電位を測定する。電極2は、測定する筋伸張反射誘発部位に応じて、対象となる筋に添付する。例えば、大腿四頭筋伸張反射を測定する場合は、大腿四頭筋と大腿二頭筋に電極を添付する。また、大腿四頭筋伸張反射以外にも、腓腹筋反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、三角筋反射、肩甲上腕筋反射等に適用する場合は、必要に応じてそれぞれの対応する筋に電極2をひとつ又は所定の複数個添付する。筋電計3は、電極2からの入力に基づいて、筋電位データを出力する。筋電計3は、波形図等により筋電位の時間的な変位をグラフ等で出力したり、筋収縮の波形の大きさに応じて音が出力されるようなシステムをとることができる。
【0013】
解析装置4は、CPU41、メモリ42、表示部43、プリンタ、記録媒体のドライバ等の出力部44、各種記録媒体のドライバや外部出力装置への出力のためのインタフェース45等を備える。なお、表示部43、出力部44等の各部は適宜外部に備えることもできる。解析装置4は、叩打ハンマー1による叩打データ及び筋電計3による筋電位の測定、これら測定データに基づき、各種データの解析(時間軸データ、周波数解析(フーリエ変換))、筋収縮の検出、ミスインパクトの検出、各データのメモリ42への保存や、表示部43、出力部44、外部I/F45への出力等を行う。なお、電極2と筋電計3、また、筋電計3と解析装置4は、有線または無線で接続される。また、叩打ハンマー1と解析装置4も、有線または無線で接続される。無線で接続される場合は、無線送信器及び無線受信器が、必要に応じて各部に備えられる。なお、解析装置4と筋電計3は一体化することもできる。
【0014】
2.ミスインパクト測定法
図3に、筋伸張反射測定のフローチャートを示す。
以下は、一例として大腿四頭筋反射に適用する場合について説明するが、上述した他の反射についても同様に適用可能である。
【0015】
(1)セットアップ
被験者は測定用椅子に座り、電極2を検査する対象の筋伸張反射誘発部位に応じて、対応する筋に対して添付する。この例では、大腿四頭筋反射なので、電極2は、大腿四頭筋(主動筋)および大腿屈筋(拮抗筋)の表面にそれぞれ貼りつけられる。
【0016】
(2)筋電位による自動筋収縮解析機能
解析装置4(CPU41)は、筋電計3により安静時筋電図を測定し、必要に応じてメモリ41に測定された筋電位データを記憶する(S101)。
筋伸張反射の測定の際は筋が十分に弛緩していることが必要であるため、解析装置4(CPU41)は筋電計3の出力である筋電位データを、程度に応じて出される音や画面上の波形等として表示部43に可聴又は可視表示する。
【0017】
解析装置4(CPU41)は、メモリ42又は筋電計3を参照して、測定された筋電位データにより、筋収縮の有無を判断する(S103)。このとき、解析装置4(CPU41)は、筋電位データの大きさがある一定値を超えているときは、筋収縮があると判断する。例えば、解析装置4(CPU41)は、弛緩しているかどうかを、安静時の振幅ピーク値の所定倍(例えば2倍)程度を超えた筋電位を測定したときに『筋収縮あり』とし、その際測定された波形データを測定結果より除外することができる。
【0018】
解析装置4(CPU41)が、筋収縮があると判断したときは、音による可聴表示や波形・文字・画像等による可視表示で、測定準備が出来ていないことを表し(S121)、叩打が行われても不適当なデータであるので、データーベースに保存しない。さらに、解析装置4(CPU41)は、筋を弛緩するよう表示部43により表示して、被験者や操作者に指示するようにしてもよい(S121)。
一方、ステップS103で、解析装置4(CPU41)が筋収縮がないと判断したときは、ステップS105に移る。
【0019】
(3)ミスインパクトの検出機能
ステップS105では、表示部43に叩打ハンマー1による叩打測定の指示を表示し、以降の叩打データを保存可能に設定する。
つぎに、操作者は、被験者の腱を叩打することにより、叩打ハンマー1の叩打センサー11により叩打力データが出力され、解析装置4(CPU41)はその叩打力データの時間変化を入力する。なお、マニュアルで医師等の操作者が叩打ハンマー1により被験者の筋反射誘発部位叩くことを想定しているが、自動的に叩打する装置を用いて叩くことで叩打データを得るようにしてもよい。
以降、解析装置4(CPU41)は、測定された叩打力データに基づき、時間軸波形とFFT(フーリエ変換)波形を形成し、これらの波形を解析する(S109、S111、S113)。
このとき解析装置4(CPU41)は、つぎのようにしてミスインパクトを検出する。
【0020】
(叩打力時間軸波形:S109)
図4に、叩打力データの時間軸波形図の一例を示す。
図中、x軸は時間(ms)、y軸は叩打力(N)を示す。各波形は、骨を叩打した場合(ミスインパクト)と、腱を叩打した場合とを、それぞれ示す。
ハンマーが人体に衝突したときの叩打力波形は、主に、叩打により叩打ハンマー1の人体叩打用力センサー1と人体が変形する作用時間と、人体および叩打力センサー11の弾性変形エネルギーが開放される過程で人体がハンマーを押し戻す反作用時間によって構成される。
【0021】
また、図5に、代表例の測定結果の対照図を示す。
この図は、腱を叩打した場合と骨を叩打した場合の叩打力時間軸波形の違いを示す。
このように、腱を叩打した場合と骨部を叩打した場合(ミスインパクト)では、特に、次の4項目に差が検出される。なお、ミスインパクトか否か(叩打データが有効か無効か)を定める基準値(閾値)については、以下のかっこ内の数値は一例にすぎず、筋伸張反射誘発部位の種類や、被験者の年齢・性別等、叩打ハンマー等の装置の特性、測定環境などの違いにより適宜定められるもので、これに限定されない。
a.作用時間:はじめてx軸(0の値)と交差する(立ち上がり)時間からピーク時間まで(増加時間)作用時間(この例では、骨部叩打は腱部叩打に比べて約50%短い)
b.作用時間での叩打力波形の傾き:増加中(作用時間)の叩打力傾き(この例では、骨部叩打は腱部叩打に比べて約3倍大きい)
c.反作用時間:ピーク時間からx軸(0の値)と交差する時間(減少時間)(この例では、骨部叩打は腱部叩打に比べて約40%長い)
d.反作用時間の傾きピーク値の絶対値:減少中の叩打力傾き(この例では、骨部叩打は腱部叩打に比べてマイナス方向に約1.3倍大きい)
【0022】
解析装置4(CPU41)は、上述a〜dの各項目のうち、メモリ42に記憶された予め設定された項目について、求めた時間軸波形に基づきその対応する値(作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、及び、反作用時間の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数の項目)を計算し、メモリ42に各項目に対応して記憶する。なお、このとき、解析装置4(CPU41)は、各項目が予め定められた有効範囲内に該当するか判断して各項目毎にその判断結果を(例えば、該当する場合にフラグ“1”をたてる)メモリ42に記憶してもよい。
【0023】
(叩打力FFT波形:S111)
図6に、叩打力波形のフーリエ変換(FFT)波形図の一例を示す。
図中、x軸は周波数(Hz)、y軸は振幅スペクトル(dB)を示す。各波形は、腱部を叩打した波形と、骨部を叩打した波形とをそれぞれ示す。
【0024】
図示のように、腱部を叩打した場合は、骨部を叩打した場合に比べて、(ミスインパクト)、以下のような差異がある。
A.数Hz程度の低周波領域:腱叩打では、プラス方向の振幅スペクトルのピークが大きい(骨叩打つまりミスインパクトの場合はプラスとなるのに対し、腱叩打つまり正しいインパクトはマイナスとなっている。)
B.200〜300Hz付近のレベル:腱叩打では、部分的な減衰を示す。
【0025】
解析装置4(CPU41)は、上述A、Bの各項目のうち、メモリ42に予め設定された項目(数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数の項目)について、求めた叩打力FFT波形に基づきその値を計算し、メモリ42に各項目に対応して記憶する。なお、このとき、解析装置4(CPU41)は、各項目が予め定められた有効範囲内に該当するか判断して各項目毎にその判断結果を(例えば、該当する場合にフラグ“1”をたてる)メモリ42に記憶してもよい。
【0026】
(解析装置4によるミスインパクトの判断:S113)
時間波形については、解析装置4(CPU41)は、例えば、メモリ42を参照して上述a〜d
の4項目データを指標として、骨部を叩打したのか靭帯部を叩打したのか判定する。また、FFT波形については、解析装置4(CPU41)は、例えば、メモリ42を参照して、上述A,Bの2項目データを指標として、骨部を叩打したのか靭帯部を叩打したのか判定する。このとき、メモリ42には各項目について、ミスインパクトか否かを判定するための基準となるデータ(有効又は無効の閾値等)を、予め記憶しておき、解析装置4(CPU41)は、メモリ42を参照して各項目の解析データ(a〜d、A,Bのいずれかひとつ又は複数(全部も含む))に基づき、両者を比較して、ミスインパクトを判定する。
【0027】
解析装置4(CPU41)は、ミスインパクトの判断基準としての各項目a〜e及び項目A、Bをどのように組み合わせるかは、解析装置4の入力部等によりメモリ42に予め設定しておくことができる。例えば、全てがミスインパクトでない場合としてもよいし、反射に応じて適宜適当と思われるデータを選択して選択されたデータにより一つでも該当しない場合、ミスインパクトと判断することができる。例えば、解析装置4(CPU41)は、1)時系列グラフの増加中の傾き(上記項目b)、2)減少中の課傾き(上記項目d)、3)FFTにおいて数Hz付近での振幅(上記項目A)、4)200Hz〜300Hz付近の振幅(上記項目B)の、4項目を予め選択しメモリ42に記憶しておき、それらの項目の全てにおいてミスインパクトでない場合、解析装置4(CPU41)は、ミスインパクトでないと判定することができる。また、解析装置4(CPU41)は、全ての項目について(項目a〜d、A、B)有効であれば、正しいインパクトであると判定することができる。
【0028】
解析装置4(CPU41)は、靭帯部を叩打していると判断した場合は、そのままメモリ42に叩打データを保存し(S115)腱叩打が正常であること(ミスインパクトでないこと)を表示部43に表示する。なお、解析装置4(CPU41)は、必要に応じて、適宜のタイミングで、叩打データや筋電位データを表示部43やI/F46を介して、外部装置や記録媒体等に出力又は記憶することができる。一方、骨部を叩打したようにミスインパクトと判断した場合は、解析装置4(CPU41)は、叩打データを保存せず、ミスインパクトであることを表示部43に可聴または可視で示し、さらに再測定を促す表示を行う(S123)。
つぎに、解析装置4(CPU41)は、次の測定を開始するか、測定を終了する(S119)。ここで、次の測定に移る際、ステップS103まで戻らず、ステップS105に戻るようにしてもよい。
【0029】
(4)電極皮膚間抵抗の調整
なお、電極2は通常複数用いられるが、電極と皮膚の間の抵抗値は測定結果に影響を与える場合がある。このため、例えば、ステップS101において、筋電計3は、自動的に表面電極2および皮膚間の抵抗を測定する手段を備え、測定した抵抗が大きい場合は、解析装置4(CPU41)にその旨を伝える信号を出力する手段を備えるようにしてもよい。解析装置4(CPU41)は、この出力を受信すると、表示部43に張りなおしを指示する表示を行う機能を備えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、大腿四頭筋筋伸張反射以外にも、腓腹筋反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、三角筋反射、肩甲上腕筋反射系に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】システムの概要構成図。
【図2】システムの詳細ブロック図。
【図3】筋伸張反射測定のフローチャート。
【図4】叩打力データの時間軸波形図。
【図5】代表例の測定結果の対照図。
【図6】叩打力波形のフーリエ変換(FFT)波形図。
【符号の説明】
【0032】
1 叩打ハンマー
11 叩打用力センサー
2 電極
3 筋電計
4 解析装置
41 CPU
42 メモリ
43 表示部
44 出力部
45 外部I/F
46 I/F


【特許請求の範囲】
【請求項1】
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
筋電位測定用のひとつ又は複数の電極と接続され、前記筋伸張反射誘発部位に対応する筋の筋電位データを測定する筋電計と、
前記叩打ハンマーからの叩打力データ及び前記筋電計からの筋電位データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、筋電位計からの筋電位データを入力し、測定前筋電位データがある一定値を超えると筋収縮があると判断し、
前記解析装置は、筋収縮があると判断したときは、その旨を表示部に可聴又は可視表示し、
一方、前記解析装置は、測定前筋収縮がないと判断したときは、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力し、
前記解析装置は、測定された叩打力データに基づき、時間軸波形とフーリエ変換波形を形成し、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、及び、反作用時間の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間が予め定められた値より短いこと、作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値より大きいこと、反作用時間が予め定められた値より短いこと、反作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値よりマイナス方向に大きいことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、又は、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域で振幅スペクトルが予め定められた値よりマイナス方向に大きいこと、及び、200〜300Hz程度のレベルで予め定められた値より大きい部分的な減衰を示さないことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、
ミスインパクトと判断し、
前記解析装置は、ミスインパクトでないと判断した場合は、叩打力データを記憶部に保存又は出力部に出力し、一方、ミスインパクトと判断した場合は、叩打力データを保存せず、ミスインパクトであること及び再測定を促す表示を表示部に可聴又は可視表示する、
筋伸張反射測定装置。
【請求項2】
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
前記叩打ハンマーからの叩打力データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力し、
前記解析装置は、測定された叩打力データに基づき、時間軸波形とフーリエ変換波形を形成し、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、及び、反作用時間の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数を求め、
前記解析装置は、
(1)時間軸波形について、作用時間が予め定められた値より短いこと、作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値より大きいこと、反作用時間が予め定められた値より短いこと、反作用時間での叩打力波形の傾きが予め定められた値よりマイナス方向に大きいことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、又は、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域で振幅スペクトルが予め定められた値よりマイナス方向に大きいこと、及び、200〜300Hz程度のレベルで予め定められた値より大きい部分的な減衰を示さないことのうち、いずれかひとつ又は複数に該当するとき、
ミスインパクトと判断し、
前記解析装置は、ミスインパクトでないと判断した場合は、叩打力データを記憶部に保存又は出力部に出力し、一方、ミスインパクトと判断した場合は、叩打力データを保存せず、ミスインパクトであること及び再測定を促す表示を表示部に可聴又は可視表示する、
筋伸張反射測定装置。
【請求項3】
叩打力センサーを有し、筋伸張反射誘発部位を叩打したときに生じる叩打力データを測定する叩打ハンマーと、
筋電位測定用のひとつ又は複数の電極と接続され、前記筋伸張反射誘発部位に対応する筋の筋電位データを測定する筋電計と、
前記叩打ハンマーからの叩打力データ及び前記筋電計からの筋電位データに基づき、ミスインパクトを検出し、表示部に表示又は出力部に出力する解析装置と
を備え、
前記解析装置は、筋電位計からの筋電位データを入力し、測定前筋電位データがある一定値を超えると筋収縮があると判断し、
前記解析装置は、筋収縮があると判断したときは、その旨を表示部に可聴又は可視表示し、
一方、前記解析装置は、筋収縮がないと判断したときは、前記叩打ハンマーの叩打力センサーから出力された叩打力データを入力する
筋伸張反射測定装置。
【請求項4】
前記筋電計は、大腿四頭筋伸張反射を測定する場合は、複数の前記電極により、大腿四頭筋の筋電位と大腿二頭筋の筋電位を測定することを特徴とする請求項1又は3に記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項5】
前記筋電計は、腓腹筋反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、三角筋反射、又は、肩甲上腕反射にそれぞれ適用する場合に応じて、ひとつ又は複数の前記電極により、それぞれの反射に対応する筋の筋電位を測定することを特徴とする請求項1又は3に記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項6】
前記叩打ハンマー腓腹筋反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、三角筋反射、又は、肩甲上腕反射にそれぞれ適用する場合に応じて、それぞれの反射に対応する筋伸張反射誘発部位による叩打力データを測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項7】
時間軸波形及びフーリエ変換波形について、それぞれの有効又は無効の基準となる前記予め定められた値を記憶部に記憶し、
前記解析装置は、前記記憶部を参照することにより、叩打力データに関する時間軸波形及びフーリエ変換波形から求めた値と比較し、ミスインパクトか否かを判断することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項8】
(1)時間軸波形について、作用時間、作用時間での叩打力波形の傾き、反作用時間、での叩打力波形の傾きのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数の項目、及び、
(2)フーリエ変換波形について、数Hz程度の低周波領域での振幅スペクトル、及び、200〜300Hz程度のレベルのうち、予め定められたいずれかひとつ又は複数の項目
を記憶部に記憶し、
前記解析装置は、前記記憶部を参照することにより、記憶された項目について、叩打力データに関する時間軸波形及びフーリエ変換波形から求めた値と比較し、ミスインパクトか否かを判断することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項9】
前記解析装置は、測定前の筋収縮がないと判断したときは、さらに、表示部に叩打ハンマーによる叩打測定の指示を表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項10】
前記解析装置は、測定前に筋収縮があると判断したときは、さらに、筋を弛緩するように指示する表示を表示部により表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋伸張反射測定装置。
【請求項11】
前記筋電計は、さらに、
前記電極と皮膚間の抵抗を測定する手段と、
該抵抗が予め定められた値より強い場合は、前記解析装置にその旨を示すデータを出力する手段と
を備え、
前記解析装置は、該出力を受信すると、前記電極の張りなおし又は皮膚抵抗を減少させる処置を指示する表示を表示部に表示することを特徴とする請求項1又は3に記載の筋伸張反射測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−68756(P2007−68756A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258783(P2005−258783)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】