説明

筋疲労低減装置

【課題】筋疲労を高精度に判定して、その筋疲労を効率的に軽減できる筋疲労低減装置を提供する。
【解決手段】制御部10の体液量比算出部15で、対象者20の異なる2個所の部位(腰部とふくらはぎ部)の生体インピーダンスを計測し、筋疲労判定部17で、生体インピーダンスの比率の変化をもとに筋疲労度を判定する。そして、筋刺激部19により、生体インピーダンスの測定対象とした部位の筋とは異なる部位の筋であって、体液量の不足した部位よりも心臓から見て遠位にある筋に刺激を与え、筋疲労を効率的に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋疲労低減装置に係り、特に筋肉の疲労状態を判定して、その疲労を回復させる筋疲労低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日常的に筋肉を使うスポーツ選手等が筋力の回復や増進を行う際、その際の筋肉の疲労状態を的確に知る必要がある。例えば、特許文献1は、筋疲労を客観的に評価するために、対象とする筋肉の生体インピーダンスと筋電図とを計測し、これら生体インピーダンスと筋電図の変化率から筋疲労度を判定する技術を提案している。また、特許文献2は、むくみの発生し易い部位、例えば、ふくらはぎのむくみ状態を検出して、その部位を対象にエアバッグの膨張圧を調整してマッサージの強さや時間を制御することで、むくみの改善効果を狙ったエア式のマッサージ機を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−49789号公報
【特許文献2】特開2006−175016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の筋疲労測定装置では、筋疲労が生じると筋の血液やリンパ液等の体液組織が変化することに着目し、その変化を生体インピーダンスとして計測している。ここでは、生体インピーダンスは個体差が大きいため、変化の絶対値では評価が難しいことから、筋電位(筋を動かしたときに発生する電気信号)を同時に計測し、生体インピーダンスと筋電位の変化率を算出して筋疲労度を判定している。しかし、筋をそれほど使用しない状態、例えば、長い時間、着座している状態では、僅かな筋電位の変化しか観測されない。そのため、特許文献1では、同じ姿勢を保持したまま着座している場合の筋疲労の判定精度が低いという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載のマッサージ機による筋刺激方法では、筋疲労の生じ易い部位をエアバッグの膨張圧の強さ、時間等を組み合わせながら直接、刺激することにより、筋疲労の低減を図っている。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、疲労の生じている筋を直接、刺激するので筋疲労感の一時的な軽減を実感できても、筋に損傷を与え易く、それが炎症となって、さらに強く筋を刺激しなければならないという悪循環(いわゆる、揉み返し現象)に陥る問題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、長時間、着座することによって引き起こされる筋疲労を効率的に軽減できる筋疲労低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明に係る筋疲労低減装置は、対象者の予め定めた測定部位の体液量に応じた物理量を計測する物理量計測手段と、前記物理量計測手段で計測された物理量に基づいて、予め定めた筋疲労判定対象部位の筋疲労度を算出する筋疲労度算出手段と、前記筋疲労度算出手段で算出された筋疲労度が予め定めた所定の閾値よりも高い場合に、前記筋疲労判定対象部位が筋疲労状態にあると判定する筋疲労判定手段と、前記筋疲労判定手段により前記筋疲労判定対象部位が筋疲労状態にあると判定された場合に、対象者の心臓を基準として遠位にある部位であって前記筋疲労判定対象部位とは異なり、かつ体液量の過剰な部位より体液量の不足した部位へ体液移動を促すことが可能な部位の筋を刺激する刺激手段と、を備える。
【0008】
このような構成とすることで、対象者の全身的な体液貯留の偏りを知ることができ、筋疲労判定対象部位の筋疲労度を精度良く判定するとともに、筋疲労の生じている部位と刺激を与える部位とを明確に区別して、効率的に体液のアンバランスを解消でき、しかも、筋疲労の生じている部位の炎症を防止できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において前記測定部位は、対象者の筋疲労判定対象部位である第1の測定部位、及び該第1の測定部位よりも遠位にある第2の測定部位を含む、少なくとも2箇所の部位であることを特徴とする。また、前記第1の測定部位は対象者の腰部、背中、及び臀部のいずれかの部位であり、前記第2の測定部位は対象者のふくらはぎ部である。また、請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明において前記測定部位は、対象者の筋疲労判定対象部位以外の部位であって該対象者の心臓を基準として遠位にある少なくとも2箇所の部位である。このように、少なくとも2箇所の部位を測定部位とすることで、筋疲労度判定の個体差を排除できる。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4のいずれかに記載の筋疲労低減装置において、前記物理量計測手段は、前記物理量として前記少なくとも2箇所の部位各々の体液量を示す生体インピーダンスを計測し、前記筋疲労度算出手段は、前記物理量計測手段で計測された生体インピーダンスの比率に基づいて前記筋疲労度を算出することを特徴とする。これにより、異なる測定部位での体液量に応じた物理量をもとに、対象者の全身的な体液貯留の偏りを知ることができる。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の筋疲労低減装置において、前記物理量計測手段は、前記物理量として体液量に応じて変化するふくらはぎ部の周囲長を計測し、前記筋疲労度算出手段は、前記物理量計測手段で計測された前記ふくらはぎ部の周囲長の変化率に基づいて前記筋疲労度を算出する。これにより、ふくらはぎ部の周囲長の変化率という相対比率を筋疲労指標として、筋疲労判定対象部位の筋疲労度を精度良く判定することができる。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の筋疲労低減装置において、前記物理量計測手段は、着座状態にある対象者に対して前記計測を行い、前記刺激手段は、着座状態にある対象者の大腿部の筋を刺激することを特徴とする。これにより、長時間、同じ姿勢を保持したまま着座状態にある者の筋疲労を的確に判断し、筋疲労が生じている部位の体液量の回復を効果的に行える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る筋疲労低減装置は、対象者の少なくとも2箇所の測定部位の体液量を計測して、その対象者の全身的な体液貯留の偏りを知ることで、筋疲労度を精度良く判定し、その筋疲労を効率的に軽減できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る筋疲労低減装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る筋疲労低減装置を模式的に表した図である。
【図3】実施形態に係る筋疲労低減装置において筋疲労を判定し、低減する制御手順を示すフローチャートである。
【図4】実施形態に係る筋疲労低減装置における筋疲労の判定閾値と筋刺激との関係を示すグラフである。
【図5】変形例に係る筋疲労低減装置における筋疲労度の判定及び低減の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る筋疲労低減装置の全体構成を示すブロック図である。また、図2は、筋疲労低減装置を車両運転者の筋疲労低減に適用した実施形態を模式的に表した図である。図1に示す筋疲労低減装置1において、制御部10は、筋疲労の被測定者であって、筋疲労の低減対象となる者(以下、単に対象者20という)の第1の部位の体液量を測定するため、電極31a,31bが接続された第1の体液量測定部11と、対象者20の第2の部位の体液量を測定するため電極33a,33bが接続された第2の体液量測定部12と、これら第1の体液量測定部11及び第2の体液量測定部12からの測定結果が入力される体液量比算出部15と、疲労判定対象部位における筋疲労度を判定する筋疲労判定部17と、筋疲労判定部17による筋疲労度の判定結果を受けて、対象者20の特定の筋に刺激を与えるための筋刺激部19とを備えて構成される。この筋刺激部19は、コンプレッサ38を制御して、そのコンプレッサ38に接続されたエアバッグ35の内圧を調整し、振動させることで、対象者20に筋刺激を与える。
【0016】
なお、制御部10は、図示を省略するが、筋疲労低減装置1全体の制御を司る、例えばマイクロプロセッサと、オペレーティングシステム(OS)等の基本プログラムや筋疲労低減の制御手順を示すプログラム等が格納された記憶媒体である読み取り専用メモリ(ROM)と、筋疲労低減の制御等に用いる各種データを一時的に記憶する記憶媒体である随時読出し/書込みメモリ(RAM)とを備える。
【0017】
本実施形態に係る筋疲労低減装置1は、例えば、事務職に従事する対象者や車両の運転者等、長時間、同じ姿勢を保持したまま着座することの多い対象者の筋疲労度を計測するとともに、その筋疲労を低減する装置である。このような長時間の着座による筋疲労は、筋にある体液(例えば、血液、リンパ液等)が適正に循環しないことによって引き起こされると考えられる。すなわち、本実施形態に係る筋疲労低減装置1では、静的な着座状態では、重力の影響により上半身では体液不足、下半身では体液過剰となる体液移動が生じ、このような体液の偏りが筋疲労の主原因となっていることに着目して、筋疲労低減の対象者20の体液量を少なくとも2箇所の異なる部位において測定する。具体的には、長時間の着座により筋疲労が生じやすい腰部(第1の部位)とふくらはぎ部(第2の部位)を筋疲労の測定対象部位とする。そして、第1の体液量測定部11により対象者20の第1の部位における体液量を測定し、第2の体液量測定部12によって対象者20の第2の部位における体液量を測定する。
【0018】
また、筋疲労低減装置1では、腰部とふくらはぎ部の体液量を示す生体量として、それぞれの部位における電気インピーダンス(生体インピーダンスともいう)を計測する。ここでは、第1の体液量測定部11によって腰部(第1の部位)の電気インピーダンスを測定し、第2の体液量測定部12により、ふくらはぎ部(第2の部位)の電気インピーダンスを測定する。体液量比算出部15は、得られた腰部の電気インピーダンスとふくらはぎ部の電気インピーダンスの比を算出する。このように対象部位の電気インピーダンスを計測し、それらの比を算出するのは、体液には、血液、リンパ液、間質液、及び細胞内液等があり、これらの体液が生体組織中に多くなると、その抵抗値(インピーダンス)が低下する、ということを利用している。
【0019】
上述したように、長時間の静的な着座状態では、重力が体液循環に大きな影響を与える。腰部においては、特にリンパ液や間質液等が流出してインピーダンスが増加するのに対して、ふくらはぎ部では、逆に体液が流入してインピーダンスが減少する。したがって、筋疲労の原因となる体液循環の不全(体液のアンバランス)は、部位により逆の生理現象として観測され、上記の異なる2つの部位における体液量についての電気インピーダンスの比(これを以降において、筋疲労指標ともいう)は、体液循環の不全に伴う体液量の変化により増加する。そこで、筋疲労低減装置1の筋疲労判定部17は、体液量比算出部15より入力された筋疲労指標を所定の閾値と比較し、体液のバランス状態をもとに疲労判定対象部位(例えば、腰部)の筋疲労度を判定する。
【0020】
筋疲労低減装置1の筋刺激部19は、筋疲労判定部17における筋疲労判定の結果をもとに、対象者20の所定の部位(ここでは、大腿二頭筋)に刺激を与える。筋疲労判定部17において、筋疲労指標が所定の閾値(筋疲労の判定閾値)よりも大きいと判定された場合、図2に示すように、対象者20の大腿部25の大腿二頭筋と車両のシートクッション34との間に配置したエアバッグ35の内圧をコンプレッサ38で調整することで、エアバッグ35を振動させる。そして、エアバッグ35の振動によって大腿二頭筋を動かすように刺激を与える。なお、刺激を与える部位は、電気インピーダンスを測定する筋とは異なる筋であって、かつ、体液量の不足した筋よりも心臓を基準として遠位にある筋とする。
【0021】
図2に示すように、本実施形態に係る筋疲労低減装置1では、対象者20の腰部21の皮膚上に電極31a,31bを貼り、ふくらはぎ部23の皮膚上に電極33a,33bを貼る。より具体的には、腰部21では腰腸肋筋に、一定の距離をおいて一対の電極31a,31bを貼り、ふくらはぎ部23では外側排腹筋に、一定の距離をおいて一対の電極33a,33bを貼る。そして、第1の体液量測定部11内に設けた定電圧源41より、電極31a,31bを介して、腰部21に対して微弱の交流電流を流し、第2の体液量測定部12内に設けた定電圧源43より、電極33a,33bを介して、ふくらはぎ部23に微弱の交流電流を流す。ここでは、腰部21とふくらはぎ部23に対して、定電圧源41,43より、例えば、周波数50kHzの一定電圧を印加しながら、0.5mA程度の微弱の交流電流を流す。そして、このような交流電流を流すと同時に、第1の体液量測定部11内に設けた第1の計測器51で、腰部21の生体インピーダンスを測定し、第2の体液量測定部12内に設けた第2の計測器53で、ふくらはぎ部23の生体インピーダンスを測定する。
【0022】
次に、本実施形態に係る筋疲労低減装置において対象者の筋疲労状態を判定し、それを低減するための制御方法について説明する。図3は、本実施形態に係る筋疲労低減装置において筋疲労を判定し、それを低減するプログラムの制御手順を示すフローチャートである。また、図4は、本実施形態に係る筋疲労低減装置1における、対象者の筋疲労の判定閾値と筋刺激との関係を示すグラフである。図3のステップS11で、制御部10の第1の体液量測定部11によって対象者の腰部(第1の部位)の生体インピーダンスを測定するとともに、第2の体液量測定部12により、ふくらはぎ部(第2の部位)の生体インピーダンスを測定する。ここで得られた生体インピーダンスは、腰部及びふくらはぎ部それぞれにおける生体組織の体液量に応じた、生体量としての電気インピーダンスである。
【0023】
ステップS13では、制御部10の体液量比算出部15において、上記のステップS11で計測された腰部における体液量についての生体インピーダンス(Rとする)と、ふくらはぎ部における体液量についての生体インピーダンス(Rとする)との比R/Rを算出する。続くステップS15において、制御部10の筋疲労判定部17は、体液量比算出部15より入力されたインピーダンス比R/R(以降において、このインピーダンス比を筋疲労指標FR1-R2という)を所定の判定閾値(図4のFth)と比較して、疲労判定対象部位(例えば、腰部)の筋疲労度を判定する。このステップS15では、筋疲労指標が判定閾値よりも大きい場合(FR1-R2>Fthが成立するとき)、筋疲労が生じていると判定する。
【0024】
上記のステップS15で、筋疲労が生じていると判定された場合、制御部10の筋刺激部19は、ステップS17において、図2を参照して上述したように、対象者20の大腿二頭筋と車両のシートクッション34との間に配置したエアバッグ35を振動させることによって、大腿二頭筋への刺激を開始する。この大腿二頭筋への刺激の開始は、図4に示す着座時間の経過のうち、点aの時点に対応する。その後、制御部10は、処理を再度、ステップS11に戻し、上記と同様に各部位(腰部とふくらはぎ部)の生体インピーダンスを測定する。そして、続くステップS13で、それらの部位の生体インピーダンス比R/Rを算出した後、ステップS15において、筋疲労指標FR1-R2と判定閾値Fthとを比較し、疲労判定対象部位の筋疲労度を判定する。ステップS15で、対象者20の疲労判定対象部位が筋疲労状態にあると判定されれば、ステップS17において、大腿二頭筋への刺激を継続する。このように、刺激を与える部位を大腿二頭筋とするのは、電気インピーダンスを測定する部位の筋(つまり、疲労計測対象部位の筋)とは異なる部位の筋であって、体液量の不足した部位の筋(ここでは、腰腸肋筋)よりも心臓を基準として遠位にあり、しかも、相対的に太い筋だからである。
【0025】
ステップS15で、対象者20の疲労判定対象部位が筋疲労状態にないと判定された場合には、制御部10の筋疲労判定部17は、ステップS21において、現在の筋刺激の有無を判定する。筋刺激がある場合(ステップS21でYES)、制御部10は、ステップS23において、筋刺激部19による筋刺激を終了する。この筋刺激の終了は、図4に示す着座時間の経過のうち、点bの時点に対応する。そして、制御部10は、処理をステップS11に戻して、再び筋疲労状態の有無の判定処理に入る。一方、ステップS21において、筋刺激がないと判定された場合には、制御部10は、処理をステップS11に戻し、筋疲労の有無を判定する処理に移行する。
【0026】
このように、本実施形態に係る筋疲労低減装置1は、対象者20が筋疲労状態にあると判定されてから、その筋疲労が低減した状態になったと判定されるまでの間、すなわち、筋疲労指標(FR1-R2)>判定閾値(Fth)となっている、図4において矢印で示すaからbの期間、大腿二頭筋への刺激が継続される。なお、上記のように、FR1-R2>Fthが成立する間、連続して筋刺激を与えてもよいし、あるいは、その間、間欠的に筋刺激を与えるようにしてもよい。
【0027】
本実施形態に係る筋疲労低減装置1では、筋刺激部19による対象者20への筋刺激によって、筋肉ポンプ作用を発現させることにより、心臓を基準として遠い側の部位から心臓を基準として近い側の部位へ体液を効果的に戻している。その結果、ふくらはぎ部23の体液量が減少するとともに、腰部21の体液量が増加する。筋肉ポンプ作用とは、心臓から送られてくる血液やそれに伴うリンパ液を、筋肉が活動することにより心臓側へ戻す作用である。ここでは、例えば、体液が不足して痛みや痺れを自覚する腰部21に対して、大腿部を外部刺激により活動させることにより筋肉ポンプ作用を働かせ、腰部21の体液量を回復させるとともに、ふくらはぎ部23のむくみを解消することで、筋疲労を効率的に低減している。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態に係る筋疲労低減装置では、生体の少なくとも2個所の部位、例えば、腰部とふくらはぎ部を対象として、それらの部位の体液量を示す生体インピーダンスの比率の変化をもとに筋疲労度を判定する。こうすることで、筋疲労度の計測結果に対する個体差を排除できるとともに、全身的な体液貯留の偏りを知ることができるので、従来の局所的な生体インピーダンスのみで疲労度を評価するよりも筋疲労の検出精度を向上できる。
【0029】
また、筋疲労が生じている場合、生体インピーダンスの測定対象とした部位の筋とは異なる部位の筋であって、体液量の不足した部位よりも心臓を基準として遠位にある筋に刺激を与える。このような構成とすることで、筋肉ポンプ作用という生理機能を有効に活用することができ、体液量の過剰な生体組織から体液量の不足した生体組織へ体液を移動させることが可能となる。すなわち、疲労し易い腰部やふくらはぎ部の筋が、直接、刺激を受けないので、腰部やふくらはぎ部の炎症等の回避のみならず、筋肉ポンプ作用の強い大腿二頭筋のごとく太い筋を刺激することで、効率的に体液を心臓側へ戻すことができる。その結果、対象部位の体液組織が正常に戻り、筋疲労を回復することが可能となる。
【0030】
<変形例>
上述した実施形態では、筋疲労度の測定対象部位として、対象者20の腰部とふくらはぎ部とにおける体液量についての生体インピーダンスを計測しているが、筋疲労度の測定対象部位はこれに限定されない。例えば、腰部に代えて、背中や臀部等、心臓よりも下側の部位を判定対象部位としてもよい。また、筋疲労度の判定対象部位(例えば、腰部)よりも遠位にある少なくとも2箇所を、筋疲労度の測定対象部位としてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、生体インピーダンスの計測に周波数50kHzの交流電圧信号を使用したが、信号の周波数は、これに限定されず、例えば、1000kHzの交流信号としてもよい。50kHzの信号による計測では、リンパ液、間質液等の細胞外液に関連するインピーダンスを計測できるが、1000kHzの交流信号によって、細胞外液に関連するインピーダンスに加えて細胞内液のインピーダンスを計測できる。さらには、50kHzの信号による計測値と1000kHzによる計測値との比率を算出して、それを筋疲労指標としてもよい。この場合、筋疲労指標により、細胞内液及び細胞外液の全体に対する細胞外液の量を取得できる。
【0032】
また、上記実施形態では、測定対象部位(腰部とふくらはぎ部)の皮膚に電極を貼って、その部位の生体インピーダンスを計測しているが、計測方法は、これに限定されない。例えば、電磁コイルを測定対象部位の筋組織に近接させ、磁界によってその筋組織に発生する渦電流を利用して、非接触で生体インピーダンスを計測してもよい。これは、電磁コイルを筋組織に近接させると、筋に発生する渦電流が、その筋のインピーダンスの影響を受けることを利用している。この場合、筋に対してコイル軸方向を合わせて電磁コイルを配置し、電磁コイルのインダクタンス変化に伴う出力電圧を測定することで、筋のインピーダンスを計測する。
【0033】
さらに、上述した実施形態では、計測部位における体液量を電気インピーダンスによって求めているが、体液量の計測は、これに限定されない。例えば、ふくらはぎ部では、着座している状態で体液量が過剰になりやすく、体液量の増加によりその周囲長も増大するので、ふくらはぎ部の周囲長の変化率に基づいて筋疲労度を求めるようにしてもよい。図5は、ふくらはぎ部の周囲長の変化率に基づく筋疲労度の判定と、その筋疲労低減の制御手順を示すフローチャートである。図5のステップS51で、対象者のふくらはぎ部を、例えば、歪ゲージ付きの線で巻き、ふくらはぎ部の周囲長を計測する。続くステップS53で、ふくらはぎ部の周囲長の変化率を求める。ここでは、ふくらはぎ部の周囲長の変化を歪ゲージの電圧変化として捉える。そして。ステップS55では、ステップS53で求めた周囲長の変化率を予め定めた基準値と比較して、周囲長の変化率が基準値よりも大きい場合、筋疲労が生じていると判定する。しかし、周囲長の変化率が基準値以下であれば、筋疲労は生じていないと判定する。なお、ステップS57,S61,S63の処理は、図3のステップS17,S21,S23と同じであるため、ここでは、それらの説明を省略する。
【0034】
また、上記実施形態では、対象者の大腿二頭筋と車両のシートクッションとの間に配置したエアバッグを振動させて、大腿二頭筋に筋刺激を与えているが、筋刺激方法は、これに限定されない。例えば、大腿二頭筋の皮膚上に電極を貼り、その電極に低周波の電圧を印加して微弱な電流を流すことで、電気的な刺激により筋を活動させる構成としてもよい。
【0035】
さらには、上記実施形態において、対象者の特定部位の筋疲労度を判定する際、測定対象部位である腰部とふくらはぎ部それぞれの生体インピーダンスR,Rの比R/Rを筋疲労指標として、その筋疲労指標を閾値と比較しているが、これに限定されない。例えば、生体インピーダンスの比R/Rを筋疲労指標FR1-R2として算出し、この筋疲労指標が所定の判定閾値Fthよりも小さい場合(FR1-R2<Fthが成立するとき)、対象者の特定部位に筋疲労が生じていると判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 筋疲労低減装置
10 制御部
11 第1の体液量測定部
12 第2の体液量測定部
15 体液量比算出部
17 筋疲労判定部
19 筋刺激部
20 対象者
21 腰部
23 ふくらはぎ部
25 大腿部
31a,31b,33a,33b 電極
34 シートクッション
35 エアバッグ
38 コンプレッサ
41,43 定電圧源
51 第1の計測器
53 第2の計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の予め定めた測定部位の体液量に応じた物理量を計測する物理量計測手段と、
前記物理量計測手段で計測された物理量に基づいて、予め定めた筋疲労判定対象部位の筋疲労度を算出する筋疲労度算出手段と、
前記筋疲労度算出手段で算出された筋疲労度が予め定めた所定の閾値よりも高い場合に、前記筋疲労判定対象部位が筋疲労状態にあると判定する筋疲労判定手段と、
前記筋疲労判定手段により前記筋疲労判定対象部位が筋疲労状態にあると判定された場合に、対象者の心臓を基準として遠位にある部位であって前記筋疲労判定対象部位とは異なり、かつ体液量の過剰な部位より体液量の不足した部位へ体液移動を促すことが可能な部位の筋を刺激する刺激手段と、
を備える筋疲労低減装置。
【請求項2】
前記測定部位は、対象者の筋疲労判定対象部位である第1の測定部位、及び該第1の測定部位よりも遠位にある第2の測定部位を含む、少なくとも2箇所の部位である
請求項1に記載の筋疲労低減装置。
【請求項3】
前記第1の測定部位は対象者の腰部、背中、及び臀部のいずれかの部位であり、前記第2の測定部位は対象者のふくらはぎ部である
請求項2に記載の筋疲労低減装置。
【請求項4】
前記測定部位は、対象者の筋疲労判定対象部位以外の部位であって該対象者の心臓を基準として遠位にある少なくとも2箇所の部位である
請求項1に記載の筋疲労低減装置。
【請求項5】
前記物理量計測手段は、前記物理量として前記少なくとも2箇所の部位各々の体液量を示す生体インピーダンスを計測し、前記筋疲労度算出手段は、前記物理量計測手段で計測された生体インピーダンスの比率に基づいて前記筋疲労度を算出する
請求項2乃至4のいずれかに記載の筋疲労低減装置。
【請求項6】
前記物理量計測手段は、前記物理量として体液量に応じて変化するふくらはぎ部の周囲長を計測し、前記筋疲労度算出手段は、前記物理量計測手段で計測された前記ふくらはぎ部の周囲長の変化率に基づいて前記筋疲労度を算出する
請求項1に記載の筋疲労低減装置。
【請求項7】
前記物理量計測手段は、着座状態にある対象者に対して前記計測を行い、前記刺激手段は、着座状態にある対象者の大腿部の筋を刺激する
請求項1乃至6のいずれかに記載の筋疲労低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200490(P2012−200490A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69755(P2011−69755)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】