説明

筐体組み込み用アンテナおよびそれを用いたラベルプリンタ

【課題】 ラベルプリンタなどの筐体内にて無線ICタグとの双方向通信を行う際に、同時に所定の1つの無線ICタグとアンテナとの間のみで確実な無線通信を実施することのできる、筐体組み込み用のアンテナと、それを用いたラベルプリンタを提供する。
【解決手段】 ラベルプリンタなどの筐体内への筐体組み込み用アンテナとして、指向性が高いホーンアンテナ1を用いる。そしてホーンアンテナ1の開口部の内部に、双方向通信にて使用する周波数λに対応した、特定範囲の比誘電率を有する誘電体4を充填することで、ホーンアンテナ1の小型化を図る。また筐体内に組み込まれた前記ホーンアンテナ1とRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルの外側導体に対し、前記周波数λに対してλ/4の長さ以下の間隔で筐体内の電位零の部位への接続点を設けることにより、前記アンテナケーブルからの無線ICタグへの不要な放射を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体内に組み込まれて使用されるホーンアンテナに関し、とくに無線ICタグとの双方向の無線通信を行うアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)システムが普及してきている。RFIDシステムとは無線IC(Integrated Circuit)タグとそのリーダライタとから構成されるシステムであり、リーダライタが電磁波を用いて非接触にて無線ICタグと双方向通信を行うことにより、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを行うシステムである。RFIDシステムは商品管理における個体識別や物流における荷物の管理など、様々な分野で実用化されている。無線ICタグとしては主に950MHz帯を用いる無線ICタグと、主に2.45GHz帯を用いる無線ICタグの、2種類の無線ICタグが実用化されている。
【0003】
ここで950MHz帯とは950MHzないし955MHzの周波数帯域のことであり、また2.45GHz帯とは2.40GHzないし2.50GHzの周波数帯域のことである。これらの周波数帯域の範囲については、社団法人電波産業会が制定した、ARIB STD−T90「特定小電力無線局 950MHz帯移動体識別用無線設備」およびARIB STD−T81「特定小電力無線局 周波数ホッピング方式を用いる2.4GHz帯移動体識別用無線設備」のそれぞれの規格として規定されている。
【0004】
無線ICタグの製造の際には一般にラベルプリンタが使用される。ラベルプリンタは、無線ICタグを内蔵したラベルの製造工程の途中で、その表面にバーコードや商品名などを印刷する装置である。最近ではラベルプリンタの内部に質問器であるRFIDリーダライタを内蔵し、印刷の際に内蔵したアンテナによって無線ICタグとの間で双方向通信を行い、無線ICタグに自分自身の固有IDなどの必要な電子データの書き込みを行うことのできる装置が開発されている。なお、無線ICタグを内蔵したラベルは紙や樹脂などからなり、一般には台紙に連続して貼り付けられた状態で供給され、使用者はラベルを台紙から剥がして1枚ずつ物品に取り付けて使用する。
【0005】
ラベルプリンタを用いて無線ICタグへの印刷と電子データの書き込みを行う場合には、無線ICタグは一般にロール状の台紙に貼り付けられた、各々のラベルに内蔵された状態でラベルプリンタに供給される。この台紙はリールに巻かれた細長いテープ状で、そこに無線ICタグを内蔵したラベルが1列に所定の間隔を設けて貼り付けられている。この台紙がラベルプリンタの内部を通過する際に、無線ICタグは台紙に貼られたまま装置内の印刷ヘッドとRFIDリーダライタに接続されたアンテナの近傍を通過し、その際に個々のラベルへの印刷と無線ICタグでの電子データの読み出しや書き込みが行われる。
【0006】
印刷の際に電子データの書き込みを行う従来のラベルプリンタでは、無線ICタグと双方向通信を行うアンテナとして、一般に平面マイクロストリップアンテナが用いられてきた。ラベルプリンタに内蔵される、従来の平面マイクロストリップアンテナの例を図4に斜視図として示す。図4に示す平面マイクロストリップアンテナ21は、950MHz帯の電磁波を用いる無線ICタグに用いられるものであって、非導電性の長方形の誘電体からなる基板22の片側の表面(図4では上面)に、導電体からなる箔状のアンテナ部24を有している。このアンテナ部24としては金属薄膜の使用が好適であり、銅箔、アルミ箔などが用いられる。
【0007】
図4ではアンテナ部24の設置領域のみを四角形状にて示しているが、実際のアンテナ部には1本以上のスリットにより方形や円形などのパターンが設けられていて、これによってある程度の指向性を有するアンテナエレメントが形成されている。このパターンは基板22上に設けられた金属箔をエッチングすることにより作製される。基板22におけるアンテナ部24の反対面(図4では下面)には、同じく金属箔からなるアンテナグランド部25が設けられている。このアンテナグランド部25は、その反対面に設けられたアンテナ部24を形成する金属箔よりも面積が広くなるように形成される。またアンテナ部24およびアンテナグランド部25は、基板22に固定された給電コネクタ23に電気的に接続されていて、この給電コネクタ23はラベルプリンタの内部にアンテナケーブル(図示せず)により引き込まれている。
【0008】
図5は、図4において示した平面マイクロストリップアンテナが組み込まれた従来のラベルプリンタの内部構成図の例である。図5において、ラベルプリンタ26の筐体内に設置された平面マイクロストリップアンテナ21は、アンテナケーブル29によってRFIDリーダライタ28に接続されている。一方、ラベルプリンタ26の筐体内にはラベルロール27が配置されており、そこに巻き取られて収納された台紙32は、各々のガイドローラに導かれてその筐体内を移動する。台紙32には、無線ICタグ30a〜30dを内蔵した各々のラベルが一定の間隔を空けて連続して貼り付けられている。各ラベルがラベルプリンタ26の内部を移動する間に、図示しない印刷ヘッドにより、各ラベルに対して各種コードなどの必要事項の印刷が行われる。
【0009】
また、この印刷と前後して、RFIDリーダライタ28は各々の無線ICタグとの間で無線による双方向通信を順次行い、無線ICタグに対してその動作の確認や、個別IDなどのデータの書き込みを行う。図5は、台紙32上の無線ICタグのうち、無線ICタグ30bのみが平面マイクロストリップアンテナ21と双方向通信を行っている状態を示している。なお、各無線ICタグの形状は、そのアンテナ領域を含めると一般にやや細長い扁平な長方形であるが、無線ICタグを内蔵する台紙32上の各ラベルは、各無線ICタグの長手方向が台紙32の長さ方向となる向きに、互いに一定の間隔を設けて連続して貼り付けられている。これは主としてユーザ側の要求により、無線ICタグが一般にはリール形状にて提供されるという事情によるものであり、無線ICタグどうしの取り付け間隔は、その用途に起因する規格に従って決められている。また図5に示すように、平面マイクロストリップアンテナと通信相手の無線ICタグとは、ラベルプリンタ内にてそれぞれの長手方向が互いに一致する向きに配置される。
【0010】
ここで、RFIDリーダライタ28はアンテナケーブル29を介して平面マイクロストリップアンテナ21に接続されているが、この平面マイクロストリップアンテナ21による無線ICタグとの通信可能範囲を示す放射指向性31は、図5において点線の楕円形として示される領域の内部である。平面マイクロストリップアンテナ21を用いた場合の、通信可能範囲を示す放射指向性31の電力半値角(アンテナからの距離が同じで、しかもアンテナによる電界強度が最大の場合より3dB低下する角度領域の範囲)は、約65°と非常に大きいことが知られている。図5より明らかな通り、この場合の平面マイクロストリップアンテナ21との双方向通信が可能な領域には、通信対象である無線ICタグ30bだけではなく、それに隣り合う無線ICタグ30a、30cが存在し、平面マイクロストリップアンテナ21の放射指向性31の広さのために、これらの隣り合う無線ICタグとの間でも通信が同時に行われてしまう可能性がある。
【0011】
このような複数の無線ICタグとの同時通信の発生を避けるためには、平面マイクロストリップアンテナ21から放射される電波強度を抑制する方法が考えられるが、この場合には、今度は電波強度が弱くなって通信対象の無線ICタグ30bとの読み出しや書き込みが不安定となる場合がある。従ってこの問題の解決には、双方向通信を行うアンテナとして、より指向性の高いアンテナを用いることが適切である。指向性が高く、双方向通信が可能なアンテナとしては、ホーン形状を有する、いわゆるホーンアンテナの存在が知られている。特許文献1の段落番号0053、および特許文献2の段落番号0048には、無線ICタグへの読み出しや書き込みを行うラベルプリンタに内蔵する双方向通信のためのアンテナとして、平面パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、八木アンテナ、ループアンテナとともに、ホーンアンテナが使用可能であることがそれぞれ記載されている。
【0012】
図6に、平面マイクロストリップアンテナおよびホーンアンテナのアンテナ方位に対する各アンテナの利得(受信感度)の分布の例の、シミュレーション結果のグラフを示す。このうち図6(a)はホーンアンテナの場合、図6(b)は平面マイクロストリップアンテナの場合をそれぞれ想定してシミュレーションを行っている。このうち図6(a)は、ホーンアンテナのアンテナ面の中央位置から一定の距離に、所定の強度の点状の電磁波の発信源を置いて、この発信源を前記中央位置から一定の距離を保ったまま、アンテナ面の周囲を順次仮想的に移動させた際の、ホーンアンテナによる相対的な受信感度をグラフ化したものである。ホーンアンテナによる相対的な受信感度は、発信源がアンテナ面の中央正面に位置する場合が最大であり、このときの受信感度を0dBと規定している。
【0013】
なお図6(a)では発信源がホーンアンテナの裏側に位置する場合も含め、ホーンアンテナの周囲を360°移動させた場合を示しているが、実際にはホーンアンテナは一定の大きさを有するため、発信源がホーンアンテナ本体に十分に近い場合には、当然ながら、この発信源をホーンアンテナの横部や裏側に位置させることはできない。このシミュレーションでは、発信源が発する電磁波を950MHz帯の電磁波、ホーンアンテナの開口部の長さを30cm、ホーンアンテナの開口角を32°、発信源とホーンアンテナとの距離を10mmと規定している。
【0014】
一方、図6(b)は、ホーンアンテナの代わりに平面マイクロストリップアンテナを用いたこと以外は、図6(a)の場合と同様の想定によってシミュレーションを行ったものである。従って発信源の電磁波の波長(950MHz帯)や、平面マイクロストリップアンテナのアンテナ面の中央位置からの発信源までの距離(10mm)、発信源がアンテナ面の中央正面に位置する場合の受信感度を0dBと規定している点も同様である。また、平面マイクロストリップアンテナのアンテナ面の長さは10cmと想定している。
【0015】
図6(a)および図6(b)に示すシミュレーション結果から分かるとおり、電磁波の発信源として想定される、無線ICタグからの受信感度の分布を示す電力半値角の値は、ホーンアンテナの場合で約32°、平面マイクロストリップアンテナの場合で約65°と大きな違いがある。このことから、近傍の無線ICタグとの双方向通信の確立を防ぎ、通信対象とした所定の無線ICタグとのみ双方向通信を行うためには、指向性の高いアンテナである、ホーンアンテナの使用が適していることが分かる。この傾向は、ホーンアンテナや平面マイクロストリップアンテナの側から電磁波を発信し、受信源の方を各アンテナの周囲で移動させた場合にも同様である。
【0016】
ここでホーンアンテナの開口角を前記の規定の32°より大きくすると、ホーンアンテナの全長を若干短縮させることができ、よってその容積を低減させることが可能である。しかしこの場合にはそれに伴って電力半値角の値が急激に大きくなってしまい、その指向性が低くなることが知られており、また同時にホーンアンテナの利得の値も低下することが分かっている。このことから、ホーンアンテナの全長を長くして容積をさほど増大させずにアンテナとしての良好な特性を維持するためには、その開口角を32°前後として用いる場合が一般的である。
【0017】
なお図6(a)および図6(b)において、各アンテナの利得の分布を示すグラフによって囲まれる面積はホーンアンテナの場合よりも平面マイクロストリップアンテナの場合の方が大きくなっているが、これはグラフの軸が相対値であることが理由であり、従って平面マイクロストリップアンテナの方がホーンアンテナよりも平均的な利得が大きいことを意味するものではない。ホーンアンテナは高い指向性を持っていることから、アンテナ面のうち特定の向きに対しては、開口部の寸法形状がほぼ同一の平面マイクロストリップアンテナと比較して、一般により高い送受信の感度が得られることが多い。
【0018】
【特許文献1】特開2006−004150号公報
【特許文献2】特開2006−004151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ラベルプリンタなどへの筐体組み込み用アンテナとして、高い指向性を有するホーンアンテナを使用することは、隣り合う無線ICタグとの同時通信の発生を防止し、ラベルプリンタが内蔵するRFIDリーダライタが常に1つの無線タグのみを通信対象として、双方向通信を確立するためには有利である。しかし従来は、ラベルプリンタへの筐体組み込み用アンテナとして、ホーンアンテナが実際に使用された例はほとんどなかった。これは、平面マイクロストリップアンテナなど、他の方式のアンテナに比べてホーンアンテナの形状がかなり大きいためであり、この大きさが筐体組み込み用アンテナとして使用する際の障害となっていたためである。
【0020】
例えば、950MHz帯の無線ICタグと双方向通信を行うために必要なホーンアンテナの開口部の寸法は、一般に数十cmに達することが知られており、またこの場合は、ホーン部の長さも前記開口部の長さと同等以上とする必要がある。平面マイクロストリップアンテナなど、より小型のアンテナという選択肢が存在する中で、このように形状の大きなホーンアンテナをラベルプリンタに内蔵することは実際には難しく、指向性が高いというホーンアンテナの利点は、筐体組み込み用アンテナとして生かされることは少なかった。
【0021】
一方で、ラベルプリンタなどに筐体組み込み用アンテナを用いる際には、アンテナ直近に位置する通信対象の無線ICタグ以外の離れた位置にある無線ICタグが、筐体内に組み込まれたアンテナを介さずにRFIDリーダライタと双方向通信を行ってしまうという問題があった。図5に示した平面マイクロストリップアンテナを用いたラベルプリンタの場合であれば、RFIDリーダライタ28とアンテナ部24とを接続するアンテナケーブル29が、アンテナとしての役割を果たす場合が存在する。このような場合は、通信対象である無線ICタグ10b以外の無線ICタグ10a,10c,10dなどが、アンテナケーブル29との間で独自に双方向通信を確立してしまう可能性がある。
【0022】
従って、本発明は、台紙に連続して貼り付けられた各々のラベルが有する複数の無線ICタグと、ラベルプリンタが内蔵するアンテナとの間で双方向の無線通信を実施する場合において、同時に所定の1つの無線ICタグとアンテナとの間のみで確実な無線通信を実施することのできる、RFIDリーダライタ用の筐体組み込み用アンテナと、それを用いたラベルプリンタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明においては、筐体組み込み用のRFIDリーダライタ用アンテナとしてホーンアンテナを用いるとともに、ホーンアンテナの開口部の内側に適切な比誘電率を有する誘電体を充填することにより、その開口部寸法の短縮を図り、同時にホーン部の長さも短縮する。これによってラベルプリンタに内蔵するなど、RFIDリーダライタによる無線ICタグとの双方向通信を実現するために十分な寸法形状とするための、ホーンアンテナの小型化を実現することができる。このときにホーンアンテナの内部に充填する誘電体の比誘電率の値はそれぞれ一定範囲内とする必要があり、950MHz帯用無線ICタグと双方向通信を行うホーンアンテナの場合は16ないし20、2.45GHz帯用無線ICタグとの場合は、4ないし8の範囲の材質を用いることが条件である。
【0024】
なお、このうち2.45GHz帯用無線ICタグに対して用いられる、比誘電率が4ないし8の範囲の誘電体の材質としては、透磁率が低いことが必要であることや、その比誘電率の周波数特性が安定していることなどから、ガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂の中から選択される樹脂を用いることが好適である。一方、950MHz帯用無線ICタグに用いられる、比誘電率が16ないし20の範囲の材質としては、単一の材質でとくに好適なものは見出されていない。この場合は樹脂に対して比誘電率が高いセラミクス製のフィラーを適当な割合で混合させた材料が使用可能である。なお樹脂として前記のガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂などを用いた場合には、セラミクス製のフィラーによる比誘電率に、これらの樹脂の比誘電率が上乗せされることになるので、16ないし20の比誘電率を得るために混合するセラミクス製のフィラーの必要量を、若干減少させることが可能である。
【0025】
一般にホーンアンテナの特性上、その開口部長さとして必要な寸法は、充填する誘電体の比誘電率の平方根の値に反比例するという特性がある。従ってアンテナの内側に充填する誘電体の比誘電率が小さい場合は、無線ICタグとの通信特性を維持したままでホーンアンテナを十分に小型化することができないため、充填する誘電体の比誘電率の値には下限が存在する。
【0026】
一方、ホーンアンテナの開口部寸法は、無線ICタグが用いる周波数帯域の波長λに対して1λ〜3λ程度とする必要があるため、比誘電率の値が大き過ぎる誘電体を充填材料として用いた場合は、結果としてホーンアンテナの開口部長さを無線ICタグのアンテナ部の長手方向の寸法よりもかなり短縮しなければならない。この場合は、無線ICタグが備えるアンテナ部のうち、ホーンアンテナの開口部に対向する一部の領域のみしか両者の双方向通信に寄与しないことになるため、ホーンアンテナと無線ICタグとの双方向通信の感度が結果として低下してしまうこととなる。従ってこのような感度の低下が生じることがない、適切な比誘電率の値の上限値までが、本発明にて使用可能な誘電体の比誘電率の範囲である。
【0027】
また、一般に比誘電率の値が大きい誘電体は、フェライトのように同時に透磁率の値も大きい場合が多いが、このような材料はとくに高周波領域での電磁波の吸収率が大きいために、アンテナに用いる充填用の材料としては不適当である。一般に、比較的大きな透磁率を有し、しかも透磁率が小さい誘電体は特定の材料に限られる傾向がある。
【0028】
一方、本発明におけるもう一つの課題として、アンテナ部とRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルがアンテナの役割を果たすことにより、そこから放射される電磁波によって、周辺に位置する双方向通信の対象以外の無線ICタグとの間で不要な通信が生じる問題があった。この問題については、以下の方法により解決を図るものとする。まずアンテナケーブルとして同軸ケーブルを用いた上で、その外側導体を、ホーンアンテナが組み込まれた筐体内の電位零の部位に電気的に接続(接地)することとする。一般にホーンアンテナには一定長さの奥行きが必要であるため、ここで使用するアンテナケーブルの全長は、平面マイクロストリップアンテナなどを用いた場合よりも多少短く設計することができ、この点においてはホーンアンテナの使用は構成上有利である。しかし、これだけではアンテナケーブルによる放射の問題を完全に解決することはできない。
【0029】
アンテナケーブルによる放射の問題の本質的な解決には、アンテナケーブルの外側導体の筐体内の電位零の部位への接続を、一定間隔以下の頻度で実施することが必要である。この電気的な接続点は、無線通信に使用される周波数の波長をλとした場合に、少なくともλ/4以下の頻度の間隔で設けることが必要である。この接地位置の間隔がλ/4の長さを越える場合には、その2点の接地位置の間の領域が放射アンテナとしての機能を有してしまう場合があり、所定以外の無線ICタグとの双方向通信を完全に防止することはできない。また、この筐体内の電位零の部位をある程度の面積を有する連続的な領域として確保できる場合には、この領域への接続点(接地点)を断続的ではなく、連続的に設ける(即ちアンテナケーブルの外側導体の全体をシールドする)ことができる。その場合は所定以外の無線ICタグとの不要な通信をより好適に防止することが可能である。
【0030】
即ち、本発明は、双方向の無線通信により、無線ICタグの記憶領域に格納された情報の読み出しおよび書き込みを非接触にて行うRFIDリーダライタに接続される、筐体内に配置されたアンテナであって、前記アンテナがホーンアンテナであり、前記ホーンアンテナが、給電素子と、ホーン形状を有する金属体と、前記金属体のホーン形状の内部に充填された誘電体とを含むことを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0031】
また、本発明は、前記無線通信を行う周波数帯が950MHz帯であって、前記ホーン形状を有する金属体の内部に充填された誘電体の比誘電率が16ないし20であることを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0032】
さらに、本発明は、前記無線通信を行う周波数帯が2.45GHz帯であって、前記ホーン形状を有する金属体の内部に充填された誘電体の比誘電率が4ないし8であることを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0033】
さらに、本発明は、前記誘電体がガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂から選択される少なくとも1種類の樹脂を含み、さらに比誘電率が高いセラミクス製のフィラーを含むことを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0034】
さらに、本発明は、前記誘電体がガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂から選択される少なくとも1種類の樹脂を含むことを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0035】
さらに、本発明は、前記アンテナと、前記RFIDリーダライタの間を接続されるアンテナケーブルの外側導体が、前記無線通信に使用される周波数の波長をλとして、互いにλ/4以下の間隔を有する1箇所もしくは複数箇所の接続点で前記筐体内の電位零の部位に電気的に接続されていることを特徴とする筐体組み込み用アンテナである。
【0036】
さらに、本発明は、前記筐体がラベルプリンタ用筐体であって、前記ラベルプリンタが一定間隔に配列された無線ICタグを含む印刷媒体に印刷を行う機能を有し、前記筐体内に設置された前記ホーンアンテナによって、前記各無線タグと個別に双方向の無線通信を行う機能を有することを特徴とするラベルプリンタである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ラベルプリンタなど内部を搬送される無線ICタグに対して情報の読み出しおよび書き込みを非接触にて行う装置において、無線ICタグと双方向通信を行う筐体組み込み用アンテナとしてホーンアンテナを使用する。指向性が高いホーンアンテナを用いることにより、近傍に位置する他の無線ICタグとの不要な通信の発生を防ぎ、所定の無線ICタグとの確実な双方向通信を実現する。そして、このアンテナのホーン形状の内部に適切な比誘電率の誘電体を充填することにより、ホーンアンテナの寸法形状の小型化を図り、筐体組み込み用アンテナとして遜色のない大きさのアンテナを実現する。
【0038】
また、本発明によれば、筐体組み込み用アンテナとRFIDリーダライタとの間を接続するアンテナケーブルとして同軸ケーブルを用い、その外側導体をホーンアンテナが組み込まれた装置の筐体内の電位零の部位に電気的に接続する。この接続点を、無線通信に使用される周波数の波長をλとした場合に、少なくともλ/4以下の間隔の頻度で設けることとする。このことにより、アンテナケーブルからの電磁放射が原因となって想定以外の無線ICタグとの間での不要な通信の発生を防ぐように構成する。以上の方法により、本発明によって、所望の無線ICタグとの間のみで安定した双方向通信を行うことが可能な、RFIDリーダライタを内蔵するラベルプリンタ組み込み用のアンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明の実施の形態による筐体組み込み用アンテナについて、図1ないし図3を参照しながら説明する。
【0040】
このうち図1は、本発明の実施の形態におけるホーンアンテナの例を示す斜視図である。図1において、ホーンアンテナ1は4枚の台形状の金属の板材もしくは箔材によって構成される、四角形のホーン形状をなす金属体のアンテナグランド部5を有している。この金属体には、銅やアルミニウム、およびそれらを含む合金が好適に用いられる。図1でこのアンテナグランド部5の上方に形成された、アンテナグランド部5の長方形の開口部には、アンテナグランド部5内に充填されている誘電体4の表面が露出している。またこのアンテナグランド部5の下方には同軸状の給電コネクタ3が設けられており、これにはRFIDリーダライタとをつなぐ、図示しないアンテナケーブルが接続されて用いられる。給電コネクタ3の中心部に電気的に接続される内部導体2は、誘電体4の内部に突出して埋め込まれており、また給電コネクタ3の周辺部はアンテナグランド部5に電気的に接続されている。このため給電コネクタ3に接続されるアンテナケーブルの中心導体は内部導体2に、外側導体はアンテナグランド部5にそれぞれ電気的に接続されることとなる。
【0041】
このホーンアンテナ1をラベルプリンタの筐体組み込み用アンテナとして使用する場合は、図のホーンアンテナ1の開口部の直上に各無線ICタグを通過させて、その間にホーンアンテナ1と各無線ICタグとの双方向通信を実施する。その際には、連続して通過する無線ICタグのアンテナを含めた長手方向と、ホーンアンテナ1の開口部の長手方向の向きが一致するように、両者の相対位置を決める必要がある。この際に図1におけるホーンアンテナ1の開口部の長さAが、無線ICタグの長手方向の長さに比べて大き過ぎたり、逆に小さすぎたりしないことが、両者の双方向通信を確立するための条件である。一般にホーンアンテナ1の開口角を32°程度の値よりも大きくすると、前記のようにその指向性やアンテナ利得が低下するという問題がある。従って、ホーンアンテナ1の開口角を32°程度としたときに、開口部の長さAが双方向通信の対象である無線ICタグの長手方向の長さと同程度の寸法となるように、ホーン形状の金属体から構成されるアンテナグランド部5の内部に充填する、誘電体4の比誘電率を適切な値に選定することが、筐体組み込み用アンテナとして、このホーンアンテナ1が使用可能であることの条件である。
【0042】
図2は、図1に示した本発明の実施の形態におけるホーンアンテナを筐体組み込み用アンテナとして用い、各々の無線ICタグと双方向通信を行って、各無線ICタグでの情報の読み出しや書き込みを連続的に行うラベルプリンタの例の内部構成図である。なお図2のラベルプリンタ6の内部構成は、アンテナとして従来の平面マイクロストリップアンテナの代わりにホーンアンテナ1を採用したこと以外は、図5に従来例として示したラベルプリンタの場合と基本的に同様である。ラベルプリンタ6の筐体内にはラベルロール7が配置され、そこに巻き取られて収納された台紙13は、各々のガイドローラに導かれてラベルプリンタ6の筐体内を移動する。台紙13には、無線ICタグ10a〜10dを内蔵した各々のラベルがそれぞれ一定の間隔を空けて連続して貼り付けられている。各ラベルがラベルプリンタ6の内部を移動する間に、図示しない印刷ヘッドによって、各ラベルに対して各種コードなどの必要事項の印刷が行われる。
【0043】
図2では、各々の無線ICタグ10a〜10dのアンテナ部を含む長手方向が、台紙13の面上で、それぞれ図の左右方向を向いた状態で搬送されており、この向きはホーンアンテナ1の開口部の長手方向(図1での開口部の長さAの向き)と同一となるよう配置されている。ここで、ホーンアンテナ1の上向きの開口部を起点に図中に点線にて示している放射指向性11の内部は、その直上に位置する無線ICタグ10bとの双方向通信が可能な領域の範囲を示している。この放射指向性11の点線の範囲の起点の広がり角は、ホーンアンテナ1の開口角と一致しており、図2の場合は約32°である。
【0044】
ここで、図2では無線ICタグ10bは放射指向性11の点線の領域内に完全に含まれるように位置しており、一方、それ以外の無線ICタグ10a、10c、10dは全てこの領域の外に位置している。従って、ホーンアンテナ1は、この配置の場合は無線ICタグ10bとのみ双方向通信を確立することができ、それ以外の無線ICタグとは双方向通信を行うことがない。なおこの場合にホーンアンテナ1を小さくすると、図2における放射指向性11の点線の範囲も小さくなってしまい、無線ICタグ10bのアンテナの一部がこの範囲からはみ出すことになって、双方向通信の確立が不安定となってしまう。
【0045】
ホーンアンテナ1は、その給電コネクタを介してアンテナケーブル9によってRFIDリーダライタ8に接続されている。このホーンアンテナ1は、誘電体が充填された開口角が約32°のホーン形状のアンテナグランド部5を有しているため、その厚さ(奥行き)は平面マイクロストリップアンテナよりもはるかに大きい。従って、ラベルプリンタ6の小型化の観点からは、平面マイクロストリップアンテナに比較して奥行きの点で不利である。しかし、ホーンアンテナ1とRFIDリーダライタ8とを接続するためのアンテナケーブル9の長さを結果的に短縮できるという利点があり、このことはアンテナケーブル9と無線ICタグ10a〜10dとの間の不要な通信を抑制するためには有利である。なお、図2では無線ICタグ10a〜10dがラベルプリンタ6の筐体の内部を通過する際にホーンアンテナ1と双方向通信を行う場合を示している。しかしその表面への印刷やホーンアンテナ1との双方向通信が確保できるならば、無線ICタグ10a〜10dは必ずしもラベルプリンタ6の内部を通過させる必要はなく、例えばラベルプリンタ6の上面に沿って搬送させる構成などとしてもよい。
【0046】
また図3は、筐体組み込み用アンテナとしてホーンアンテナ1を用いたラベルプリンタ6において、アンテナケーブル9の外側導体を、ラベルプリンタ6内の複数箇所の電位零の部位に電気的に接続した構成の例の場合を示したものである。なお、アンテナケーブル9の引き回し方法や後記の金属筐体12の存在以外は、このラベルプリンタ6の内部構成は図2の場合と同一である。アンテナケーブル9はホーンアンテナ1とRFIDリーダライタ8とを互いに接続する同軸ケーブルの導体線であり、ここには各無線ICタグと双方向通信を行うための高周波の電気信号が直接流れている。このため、従来はアンテナケーブル9自身がアンテナとして作用することにより、双方向通信の対象以外の無線ICタグ10a、10c、10dなどとの間で不要な双方向通信が行われる問題があった。前記のようにホーンアンテナ1がある程度の奥行きを有するために、アンテナケーブル9は他のアンテナ方式を用いた場合よりも若干短くなるため、アンテナとしての作用も多少は小さくなる。しかし、この種の不要な双方向通信を完全に阻止するためには不十分である。
【0047】
本発明ではアンテナケーブル9を同軸ケーブルにて構成し、その外側導体をラベルプリンタ6の筐体やその内部に設けた金属筐体12に適切な間隔を設けて電気的に接続することにより、アンテナケーブル9が原因となる、不要な双方向通信を完全に阻止している。図3において、アンテナケーブル9の外側導体が接続しているラベルプリンタ6の筐体、およびその内部の金属筐体12の接続点は、全てラベルプリンタ6の筐体を介してシールドを施された電位零の等電位点である。またこのアンテナケーブル9の外側導体の複数の接続点による接地間隔は、無線通信に使用される周波数の波長をλとした場合に、互いにλ/4以下となるように設ける必要がある。もしこの接続点どうしの間のアンテナケーブル9の長さがλ/4を越える場合には、これら電位零の2点の接続点を節とする、仮想的なアンテナが形成されることとなり、アンテナケーブル9のこの領域から、無線ICタグとの不要な双方向通信に用いられる周波数の電磁波が放射されることとなる。
【0048】
この問題を回避するためには、アンテナケーブル9の外側導体に設ける接続点どうしの間隔を狭めるか、あるいはアンテナケーブル9の外側導体全体を、金属筐体12などの電位零の等電位点に十分なシールド効果を発揮するように電気的に接続することが有効である。ただしこの場合にも、金属筐体12やラベルプリンタ6の筐体の全体がアンテナとなって、不要な電磁波の放射を行うことがないように、ラベルプリンタ6の筐体や内部の金属筐体12に対するシールド対策を十分に施しておく必要がある。
【0049】
筐体組み込み用アンテナとしてホーンアンテナを用いる場合に、仮に内部に誘電体を全く充填せずにホーンアンテナを用いるならば、そのアンテナ開口部の長手方向の寸法(図1での開口部の長さA)は、無線ICタグとの双方向通信に使用される周波数の波長をλとして、前記の通り1λ〜3λ程度の長さが必要である。即ち最短でも一般に波長λと同等程度の長さとしなければならない。従って開口部の長さAとして必要な寸法は、2.45GHz帯の無線ICタグを用いる場合で十数cm、950MHz帯の場合では数十cmに達する。一方、ホーンアンテナの内部にεrの比誘電率の誘電体を充填した場合には、ホーンアンテナ内部における送受信のための電磁波の実効波長λgは、λg=λ/√εrとして表される。このため必要なホーンアンテナの開口部の長さAも、A≧λg、即ちA≧λ/√εrを満たす程度の長さであればよい。従ってホーンアンテナの内部を適切な比誘電率を有する誘電体にて充填することで、高い指向性や無線ICタグとの良好な通信特性を維持したままで、ホーンアンテナの寸法形状の小型化が可能である。
【0050】
一般にホーンアンテナは平面マイクロストリップアンテナ等に比較して高い指向性を有するものの、その奥行きはアンテナ開口部の長手方向の寸法よりもむしろ長くなってしまう。従って、筐体組み込み用アンテナとして用いる場合は、開口部の長手方向の寸法を他の平面型のアンテナの場合よりもさらに短縮して、筐体内での占有体積を小さくすることが必要である。ホーンアンテナとして一般的な約32°の開口角を有するアンテナ形状の場合には、筐体内に搭載する他の装置の設計上、一般的な平面型のアンテナを用いた場合に比較して、前記寸法Aの長さを20%以上短縮することが求められる。
【0051】
なおホーンアンテナの開口角を32°よりも広げた場合は、開口寸法が同じ場合にホーンアンテナの奥行きをさらに短縮させることができるが、この場合は前記のように、指向性が高いというホーンアンテナの特徴が小さくなり、また利得の値も低下することとなる。そのため、本発明ではホーンアンテナの開口角の値を32°から変更せずに、その外形寸法と内部に充填する誘電体の材質のみを変化させ、筐体組み込み用アンテナとして良好な特性が得られるホーンアンテナの提供を図っている。
【0052】
950MHz帯の周波数域における電磁波の波長は31.6cmであるので、内部に誘電体を充填しない場合に無線ICタグとの双方向通信に必要なホーンアンテナの開口部の長さは前記波長と同じ、31.6cm程度となる。一方、950MHz帯で用いられる無線ICタグのアンテナ部を含めた長手方向の寸法としては、10cm程度とすることが一般的に多く用いられており、台紙上に貼り付けられたこれらの無線ICタグの間隔は最短で5cm程度である。また従来の筐体組み込み用の平面マイクロストリップアンテナの長手方向の寸法も、無線ICタグの寸法に合わせて同じ10cm程度とされている。
【0053】
このため筐体組み込み用のホーンアンテナの寸法Aは、従来のアンテナよりも寸法をさらに20%以上短縮した8cm程度以下とする必要がある。この場合、ホーンアンテナを用いる限り、その高い指向性のために、双方向通信の対象以外の無線ICタグとの混信は全く生じることはない。一方、ホーンアンテナの開口部の寸法が著しく小さい場合には、ホーンアンテナの開口部内に誘電体を充填した場合でも、通信対象の無線ICタグの長手方向のアンテナの一部がホーンアンテナの通信可能領域からはみ出してしまい、そのためこの無線ICタグとの通信にエラーが発生する場合がある。発明者らの検討の結果、筐体組み込み用のホーンアンテナの寸法Aを従来のアンテナよりも40%程度以上短縮した場合にはエラー発生による通信安定性の劣化が顕著となり、ラベルプリンタなどに組み込んで使用した場合に運用上支障が生じることが判明している。なお、ホーンアンテナや平面マイクロストリップアンテナをラベルプリンタに適用して用いる場合での、これらのアンテナと通信対象の無線ICタグとの相対的な距離は一般に10mm程度である。
【0054】
以上より、ラベルプリンタなどで950MHz帯にて用いられる無線ICタグに、情報の読み出しや書き込みを行うシステムにおいて、無線ICタグとホーンアンテナを用いて双方向通信を行う場合の条件は以下のようになる。つまり通信対象である無線ICタグの寸法が、一般的なサイズである10cm程度の場合には、筐体内に組み込むホーンアンテナの開口部の長さAを、その長さの約60%〜約80%、即ち6cm〜8cm程度とすることが必要である。950MHz帯においてこのような寸法のホーンアンテナを実現するためには、ホーンアンテナの内部に充填する誘電体の比誘電率を、16ないし20とすることが条件である。950MHz帯においてこの範囲の比誘電率をとり得る非導電性材料としては、価格や実際の製造工程での使用の容易性、長期安定性、低い透磁率などの条件を含めると、単一の材料で好適に用いられる材料は見当たらない。しかしゴムや各種樹脂材料に対して酸化チタンやチタン酸バリウムなどのセラミクス粉末を分散混合させた誘電体材料を用いることにより、適切な比誘電率の充填材料を実現することが可能である。
【0055】
一方、2.45GHz帯の周波数域における電磁波の波長は、12.2cmと950MHz帯の場合に比べるとかなり短くなる。2.45GHz帯における無線ICタグのアンテナ部を含む長手方向の寸法は一般に8cm程度であり、従来の筐体組み込み用の平面マイクロストリップアンテナの長手方向の寸法も、一般に使用される無線ICタグの寸法と同じ8cm程度である。ラベルプリンタなど筐体組み込み用のホーンアンテナの場合、その開口角を約32°から大きくした場合は、指向性が高いというホーンアンテナの特性が低下してしまう。従って、開口角を変更しない場合には、前記950MHz帯用のホーンアンテナの場合と同様に、このホーンアンテナの寸法Aを従来のアンテナよりもさらに寸法を20%以上短縮した、6.4cm程度以下とする必要がある。
【0056】
なおこの場合にはホーンアンテナの高い指向性のために、双方向通信の対象以外の無線ICタグとの不要な通信の発生は全く生じない。一方、ホーンアンテナの開口部の寸法が著しく短い場合には、やはり無線ICタグとの双方向通信における送受信の感度の低下が生じるので、結果として通信対象の無線ICタグとの双方向通信にエラーが発生する場合がある。発明者らの検討の結果、この場合の筐体組み込み用のホーンアンテナの寸法Aの短縮量は50%程度までに抑える必要があり、それ以上短縮した場合にはエラー発生による通信安定性の劣化が顕著となることが判明している。従って、2.45GHz帯における筐体に内に組み込むホーンアンテナの開口部の長さAは、その長さの約50%〜約80%、即ち4cm〜6.4cmの程度の範囲とすることが必要である。
【0057】
2.45GHz帯域において、このような寸法のホーンアンテナを実現するためには、ホーンアンテナの内部に充填する誘電体の比誘電率を、4ないし8とすることが条件である。2.45GHz帯においてこの範囲の比誘電率をとり得る非導電性材料としては、価格や実際の製造工程における使用の容易性、品質の長期安定性、低い透磁率などの条件を含めると、ガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂などを含む材料の使用が好適である。また必要な場合はこれらの樹脂に、セラミクス粉末などの他の材料を分散させた誘電体材料を用いてもよい。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
ラベルプリンタ内を台紙に貼り付けて連続的に搬送する、一連の無線ICタグに対して印刷を行うと同時に、内部に誘電体材料を充填したホーンアンテナによって双方向通信を行い、前記無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを行う実験を実施した。双方向通信を行った周波数は950MHz帯である。この際に、ホーンアンテナの内部に充填する誘電体の組成を変更して比誘電率を順次変えることで、比誘電率がそれぞれ10、16、17、18、20、25である誘電体を作製した。次いでそれらを充填したホーンアンテナを作製して実験を行い、前記の比誘電率の順に試料名をそれぞれ比較例1、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例2とした。この他にホーンアンテナの内部に誘電体を全く充填していない場合、およびホーンアンテナの代わりに平面マイクロストリップアンテナを用いた場合についても実験を行い、それぞれ比較例3、比較例4とした。なおこれらホーンアンテナのアンテナグランド部、平面マイクロストリップアンテナのアンテナ部はそれぞれ銅箔により形成している。
【0059】
比較例4を除く各々のホーンアンテナの寸法は内部の誘電体の比誘電率に合わせて変更しており、各ホーンアンテナの開口部の実効長さが全て同じ(無線ICタグと双方向通信を行う周波数の波長である、31.6cm)となるように設定した。また、ホーンアンテナ内部にそれぞれ誘電体の充填を行った、実施例1〜4、および比較例1、2において使用した各々の誘電体は、全て950MHzにおける比誘電率が約3である、エポキシ樹脂を基材としたもので、そこに粒径を規定した酸化チタンおよびチタン酸バリウムの各粉末をそれぞれ適切な割合で混合したものである。この混合比率の調整によって、各誘電体の950MHzにおける比誘電率の値をそれぞれ前記の10〜25の範囲となるように変化させている。なお酸化チタンおよびチタン酸バリウムの比誘電率にはそれぞれ異方性があるものの、950MHzにおける最大値は各々100、1200である。
【0060】
双方向通信の対象である無線ICタグは、ロール状の台紙に連続的に貼り付けられた各ラベルにそれぞれ内蔵されており、その無線ICタグのアンテナ部を含めた長手方向が、台紙の長手方向と同じ方向となるように配置されている。各無線ICタグの長手方向の全長は10cm、無線ICタグどうしの間隔は5cmである。実験に用いたラベルプリンタの構成は図3に示す通りで、ホーンアンテナの上方を無線ICタグが貼り付けられた台紙が連続的に通過し、無線ICタグがホーンアンテナの直上に位置したときに、そのホーンアンテナと双方向通信を行うものである。各実験におけるホーンアンテナの開口部の面上から各無線ICタグとの距離は10mmである。
【0061】
これら実施例1〜4、および比較例1〜4における実験結果の評価を表1に記す。なお比較例4における平面マイクロストリップアンテナを用いた場合も含め、評価の際の各実施例、および比較例での、ホーンアンテナの開口部の表面とその直上の無線ICタグとの距離は全て10mmに統一している。なお表1での「比誘電率」の項目には、ホーンアンテナ内部に誘電体を充填していない比較例3については「誘電体なし」、平面マイクロストリップアンテナを用いた比較例4の場合はそのアンテナ方式をそれぞれ記載している。
【0062】
【表1】

【0063】
実験では、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを行うラベルプリンタを1台用意し、双方向通信を行う最初の実験対象のアンテナをまずその筐体内に取り付けて各項目の評価を行い、その後はアンテナを順次交換しながらそれぞれの評価を行った。使用した各実施例および比較例に対応する交換用のアンテナは各1台ずつである。まず、通信対象外の無線ICタグとの不要な双方向通信が発生したかどうかの結果を「他ICタグの混信」項目に記載し(不要な通信発生の場合は表1に「混信発生」と記載)、また通信対象である無線ICタグとの双方向通信の感度が低下して、実用上問題となる程度の通信不安定の状態が発生したかどうかの結果を「送受信感度」項目に記載(発生の場合は表1に「低下」と記載)した。さらに、ラベルプリンタの筐体内へのアンテナの収納の際にスペース上の問題があったかどうかの結果を「筐体への内蔵」項目に記載した(収納困難であった場合は表1に「困難」もしくは「やや困難」と記載)。
【0064】
一方、表1の各実施例および比較例のアンテナにおける「開口部長さ」および「奥行き寸法」は実際の各アンテナの実測値を記載したものであり、「占有体積」は各アンテナの開口部がそれぞれ幅2.5cmであって、表1に記した開口部の長さと奥行きを持つ直方体であると仮定した場合に各アンテナが占有する体積である。比較例1および比較例3の場合はホーンアンテナの奥行きが長過ぎるために、そのままの形状でのラベルプリンタ筐体内への設置は困難であり、筐体の下方に貫通孔を設けてその一部を突出させる必要があった。また比較例3の場合は、それに加えてラベルプリンタの筐体内の他の装置の配置の変更も必要であった。なおこれら実施例1〜4、比較例1〜4における実験では、各アンテナとRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルとして同軸ケーブルを用い、その外側導体の全域をラベルプリンタの筐体内の電位零の部位へ接続した。これにより、アンテナケーブルの放射による他の無線ICタグとの不要な通信の発生を防止している。
【0065】
表1からは、実施例1〜4にて示される、比誘電率が16ないし20の場合には、「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」のいずれの項目でも良好な結果が得られたことが分かる。一方、比較例1の場合は、前記の通りホーンアンテナの寸法形状がやや大き過ぎることから「筐体への内蔵」の項目が「やや困難」となった。比較例2の場合は「送受信感度」の項目が「低下」となったが、これは、実施例1とは逆にホーンアンテナの開口部の長さが短すぎることにより、ホーンアンテナの通信領域が狭くなって、双方向通信の対象の無線ICタグのアンテナ部がこの通信領域から一部はみ出したのであろうと考えられる。また比較例3、比較例4では「他ICタグの混信」の項目で「混信発生」となったが、これは各々のアンテナの放射指向性の分布領域が広過ぎたり、放射指向性の電力半値角が大き過ぎたりすることによって、双方向通信の対象以外の無線ICタグとの不要な通信が行われたことが理由と思われる。
【0066】
以上の結果により、ホーンアンテナを用いた筐体組み込み用アンテナを950MHz帯の領域において使用する場合には、その内部に比誘電率が16ないし20の誘電体を充填したホーンアンテナを用いることにより、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを良好な条件にて実施可能であることが分かる。
【0067】
(実施例5〜8、比較例5〜8)
前記実施例1〜4の場合と同様に、2.45GHz帯の周波数域の場合について、内部に誘電体材料を充填したホーンアンテナと無線ICタグとの間で双方向通信を行い、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを行う実験を実施した。ホーンアンテナの内部に充填する誘電体の組成を変更してその比誘電率を変えることにより、比誘電率がそれぞれ2、4、5、6、8、10である誘電体を作製した。次いでそれらを充填したホーンアンテナを作製して実験を行った。それぞれの試料名は前記比誘電率の順に、比較例5、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、比較例6である。またこの他に誘電体を充填していない場合、およびホーンアンテナの代わりに平面マイクロストリップアンテナを用いた場合についても実験を行い、それぞれ比較例7、比較例8とした。なお各試料のアンテナ部の材質が銅箔であることなど、実験の諸条件は前記実施例1〜4の場合と同様としている。
【0068】
実験試料1種類ごとにアンテナを1台作製し、ラベルプリンタ内で台紙面上に貼り付けられて連続的に搬送される無線ICタグの直下にこれらアンテナを順次設置して、各実験の終了後に交換して次の試料の実験を行った。各実験試料のアンテナ部の材質が銅箔であることや、アンテナ開口部から直上の双方向通信を行う無線ICタグまでの距離(10mm)などの実験の諸条件、実験ごとにアンテナを交換する方法などの一連の手順や各実験での評価項目、評価の方法などは、前記の950MHz帯での評価の場合と全く同様である。ただし双方向通信の対象である無線ICタグのアンテナ部を含む長手方向の全長は8cmであり、また無線ICタグどうしの間隔は950MHz帯の場合と同じ5cmとしている。通信周波数の違いにより、比較例7における内部に誘電体を充填しない場合のホーンアンテナの開口部の長手方向の寸法は、その波長と同じ12.2cmであり、前記比較例3の場合よりも短くなっている。またこの長さは実施例5〜8、比較例5〜7におけるホーンアンテナの、それぞれの開口部の長手方向の実効長さとも等しくなっている。
【0069】
ホーンアンテナ内部にそれぞれ異なる比誘電率の誘電体を充填した、実施例5〜8と比較例5、6における各々の誘電体は以下の通りである。まず比較例5では、2.45GHzにおける比誘電率が2であるが、この場合の誘電体はフッ素樹脂である。また2.45GHzにおける比誘電率が4〜10である実施例5〜8および比較例6の場合は、全て2.45GHzでの比誘電率が約2.5のエポキシ樹脂を基材として、そこに粒径を規定した酸化チタンの粉末をそれぞれ適切な割合で混合したものである。この混合比の調整によって、各誘電体の2.45GHzにおける比誘電率の値をそれぞれ前記4〜10の範囲となるように変化させている。
【0070】
これら実施例5〜8、および比較例5〜8における評価の結果を表2に記す。各評価項目の内容については「比誘電率」の項目の記述も含め、前記表1の場合と同様である。なお比較例8における平面マイクロストリップアンテナを用いた場合も含め、評価の際の各実施例、および比較例でのホーンアンテナの開口部の表面とその直上の無線ICタグとの距離は、表1の実験の場合と同じく全て10mmに統一している。
【0071】
【表2】

【0072】
表2の各実施例および比較例のアンテナにおける、「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」「開口部長さ」および「奥行き寸法」の各項目の内容および結果の記載方法は、前記表1の場合と同様である。また「占有体積」についても同様に、各アンテナの開口部がそれぞれ幅2.5cmの、表2に記した開口部の長さと奥行きを持つ直方体であると仮定した場合の各アンテナの占有体積を記載している。また各アンテナとRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルも表1の場合と同じく同軸ケーブルであり、その外側導体の全域をラベルプリンタ内の電位零の部位へ接続している。
【0073】
表2により、実施例5〜8にて示される比誘電率が4ないし8の場合には、「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」のいずれの項目とも良好な結果が得られることが分かる。一方、比較例5〜8の場合は表1における結果と同じく、いずれかの項目において何らかの不良の結果が生じており、2.45GHz帯におけるラベルプリンタへの筐体組み込み用アンテナとして用いるには問題があることが分かる。
【0074】
以上の結果により、ホーンアンテナを用いた筐体組み込み用アンテナを2.45GHz帯の領域にて使用する場合には、その内部に比誘電率が4ないし8の誘電体を充填したホーンアンテナを用いることにより、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを良好な条件にて実施可能であることが分かる。
【0075】
(実施例9〜11)
前記実施例5〜8の場合と同様に、2.45GHz帯の周波数帯域の場合について、内部に誘電体材料を充填したホーンアンテナと無線ICタグとの間で双方向通信を行い、無線ICタグに格納された情報の読み出しや書き込みを行う実験を実施した。このときにホーンアンテナに充填して使用可能な具体的な誘電体の材料を調べるために、候補としてガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂の3種類の材料を誘電体として用い、それぞれの2.45GHzにおける比誘電率を測定した。次にその値を元に各々の誘電体を使用する場合の各ホーンアンテナの外形寸法を算出した。そして実施例5〜8の場合と同じく、銅箔を用いて開口角が32°となるアンテナグランド部を作製し、最後に前記ガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂の3種類の誘電体材料をそれぞれ充填して、ホーンアンテナを計3種類(各1個ずつ)作製して実施例9〜11とした。これら3種類の各ホーンアンテナの開口部の長手方向の実効長さはやはり実施例5〜8の場合と同じく、それぞれ12.2cmである。
【0076】
これら実施例9〜11における評価の結果を表3に記す。各評価項目の内容については全て前記表2の場合と同様である。なお評価の際の各実施例でのホーンアンテナの開口部の表面と、その直上の無線ICタグとの距離は、全て10mmに統一している。
【0077】
【表3】

【0078】
表3の各実施例のアンテナにおける「比誘電率」「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」「開口部長さ」および「奥行き寸法」の各項目の内容および結果の記載方法は、前記表2の場合と同様である。また「占有体積」についても各アンテナの開口部がそれぞれ幅2.5cmの、表2に記した開口部の長さと奥行きを持つ直方体であると仮定した場合の各アンテナの占有体積を記載している。また各アンテナとRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルも表2の場合と同じく同軸ケーブルであり、その外側導体の全域をラベルプリンタ内の電位零の部位へ接続している。
【0079】
表3により、実施例9〜11にて示される、誘電体材料としてガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂の3種類の材料を用いたホーンアンテナの場合は、「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」のいずれの項目とも良好な結果が得られることが分かる。またそれ以外に製造工程の困難さといった、特別な不具合が生じることもない。従って、ガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂の3種類の中から選択される誘電体材料は、2.45GHz帯にて使用されるラベルプリンタへの筐体組み込み用アンテナに充填される誘電体材料として、好適であることが分かる。
【0080】
(実施例12〜14、比較例9〜10)
前記実施例3と同様の条件において、ホーンアンテナとRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルの外側導体を、ラベルプリンタの筐体やその内部に設けられた金属筐体の電位零の部位に、一定間隔で接続を行うことの効果について評価する実験を実施した。実施例3にて使用したホーンアンテナによる無線ICタグとの双方向通信の周波数は950MHz帯であるため、このときの通信周波数の波長λの1/4の長さは、λ/4=7.9cmである。なお各実施例および比較例にて使用したホーンアンテナの寸法形状、内部に充填した誘電体の材質と比誘電率、台紙面上に貼り付けられて連続的に搬送される無線ICタグの寸法形状とその間隔、無線ICタグとその直下のホーンアンテナの開口部表面との距離などの一連の条件は、全て実施例3の場合と同一としている。従って実施例3の場合との実験の条件における相違点は、アンテナケーブルの外側導体を電位零の部位に電気的に接続する、接続点どうしの間隔のみである。
【0081】
各実施例および比較例におけるアンテナケーブルの全長は47.4cmで統一しており、このアンテナケーブルの外側導体のみに、それぞれ等間隔で接続点を設けた。使用したアンテナケーブルはその内部導体、外側導体がいずれも銅線よりなる同一太さ、同一インピーダンスの同軸ケーブルである。またアンテナケーブルの外側導体を接続するラベルプリンタの筐体、およびその内部に設けられている金属筐体の表面は、互いに電気的に接続されて電位零の等電位をなす部位となっており、これらの筐体の表面にアンテナケーブルの外側導体を電気的に接続すれば、その位置では電位零となるよう構成されている。
【0082】
これらの筐体への接続点(接地点)は、比較例9の場合は1点も設けられておらず、比較例10では4点、実施例12では5点、実施例13では9点設けられている。また実施例14では、アンテナケーブルの外側導体の全体がラベルプリンタの筐体や内部の金属筐体に連続的に接続されている(連続接地)。さらに各実施例および比較例における、筐体への接続点の間隔は等間隔としている。従ってアンテナケーブルの両端も含む各接続点どうしの間隔(接地間隔)は、比較例9の場合は47.4cm、比較例10の場合は9.5cm、実施例12の場合は7.9cm、実施例13の場合は4.7cm、実施例14の場合は連続接地であるために0cmである。
【0083】
これら実施例12〜14、および比較例9〜10における評価の結果を表4に記す。なお各評価項目のうち「比誘電率」「他ICタグの混信」「送受信感度」「筐体への内蔵」「開口部長さ」の内容については前記表3の場合と同様である。
【0084】
【表4】

【0085】
表4の各実施例および比較例における「比誘電率」「開口部長さ」は、全試料にて前記実施例3の場合と同一である。表4によると、「接地間隔」が47.4cmおよび9.5cmである比較例9、比較例10の場合には「他ICタグの混信」が発生しており、この場合には、ホーンアンテナとRFIDリーダライタとを接続するアンテナケーブルが、無線ICタグとの不要な双方向通信を発生させる可能性があることが分かる。一方、「接地間隔」が7.9cm、4.7cmおよび0cmである、実施例12〜14の場合には「他ICタグの混信」は発生していない。この場合の双方向通信に用いる通信波長λの1/4の長さは7.9cmであり、実施例12〜14の場合はいずれも接地間隔がこの長さと同じか、もしくはそれを下回っている。
【0086】
従って、表4により、950MHz帯における無線ICタグとの双方向通信の場合において、以下のことが分かる。即ち、アンテナケーブルの外側導体を接続する、筐体内の電位零の部位での各接続点どうしの接地間隔を、双方向通信に用いる通信波長の1/4の長さ、もしくはそれ以下の長さとなるように密に設けるか、もしくは外側導体に連続して設けることとする。この対策を行うことにより、筐体内を引き回されたアンテナケーブルが実質的にアンテナとして作用することで、無線ICタグとの間に発生する不要な双方向通信を防止することが可能である。
【0087】
以上示したように、本発明の実施の形態に基づく筐体組み込み用アンテナにおいては、無線ICタグと双方向通信を行うアンテナとして、指向性の高いホーンアンテナを用いるとともに、ホーンアンテナの内部に適切な比誘電率を有する誘電体を充填させることによって、筐体内への組み込み用途として遜色のない程度にまでその小型化を図ることが可能である。また、上記各実施例の説明は、本発明の実施の形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記の実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ラベルプリンタに内蔵される本発明のホーンアンテナの例を示す斜視図。
【図2】本発明のホーンアンテナが組み込まれたラベルプリンタの例の内部構成図。
【図3】本発明のホーンアンテナが組み込まれたラベルプリンタの例の内部構成図。
【図4】ラベルプリンタに内蔵される従来の平面マイクロストリップアンテナの例を示す斜視図。
【図5】従来の平面マイクロストリップアンテナが組み込まれたラベルプリンタの例の内部構成図。
【図6】アンテナ方位ごとの各アンテナの利得(受信感度)の分布のシミュレーション結果の例を示すグラフ。図6(a)はホーンアンテナの場合、図6(b)は平面マイクロストリップアンテナの場合をそれぞれ示したもの。
【符号の説明】
【0089】
1 ホーンアンテナ
2 内部導体
3,23 給電コネクタ
4 誘電体
5,25 アンテナグランド部
6,26 ラベルプリンタ
7,27 ラベルロール
8,28 RFIDリーダライタ
9,29 アンテナケーブル
10a,10b,10c,10d,30a,30b,30c,30d 無線ICタグ
11,31 放射指向性
12 金属筐体
13,32 台紙
14 外側導体の接触箇所
21 平面マイクロストリップアンテナ
22 基板
24 アンテナ部
A 開口部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双方向の無線通信により、無線ICタグの記憶領域に格納された情報の読み出しおよび書き込みを非接触にて行うRFIDリーダライタに接続される、筐体内に配置されたアンテナであって、
前記アンテナがホーンアンテナであり、前記ホーンアンテナが、給電素子と、ホーン形状を有する金属体と、前記金属体のホーン形状の内部に充填された誘電体とを含むことを特徴とする筐体組み込み用アンテナ。
【請求項2】
前記無線通信を行う周波数帯が950MHz帯であって、前記ホーン形状を有する金属体の内部に充填された誘電体の比誘電率が16ないし20であることを特徴とする請求項1に記載の筐体組み込み用アンテナ。
【請求項3】
前記無線通信を行う周波数帯が2.45GHz帯であって、前記ホーン形状を有する金属体の内部に充填された誘電体の比誘電率が4ないし8であることを特徴とする請求項1に記載の筐体組み込み用アンテナ。
【請求項4】
前記誘電体がガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂から選択される少なくとも1種類の樹脂を含み、さらに比誘電率が高いセラミクス製のフィラーを含むことを特徴とする請求項2に記載の筐体組み込み用アンテナ。
【請求項5】
前記誘電体がガラスエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂から選択される少なくとも1種類の樹脂を含むことを特徴とする請求項3に記載の筐体組み込み用アンテナ。
【請求項6】
前記アンテナと、前記RFIDリーダライタの間を接続されるアンテナケーブルの外側導体が、前記無線通信に使用される周波数の波長をλとして、互いにλ/4以下の間隔を有する1箇所もしくは複数箇所の接続点で前記筐体内の電位零の部位に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筐体組み込み用アンテナ。
【請求項7】
前記筐体がラベルプリンタ用筐体であって、
前記ラベルプリンタが一定間隔に配列された無線ICタグを含む印刷媒体に印刷を行う機能を有し、
前記筐体内に設置された前記ホーンアンテナによって、前記各無線タグと個別に双方向の無線通信を行う機能を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のラベルプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−159240(P2009−159240A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334345(P2007−334345)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】