説明

筒内噴射式内燃機関の制御装置

【課題】筒内噴射式エンジンの燃料の噴霧挙動を適正に制御することができ、筒内ウエット量(ピストン上面やシリンダ内壁面等に付着する燃料量)を低減できるようにする。
【解決手段】ピストン位置が基準位置(タンブル流を形成可能な筒内容積になる位置)となるクランク角を基準タイミングθb とする。この基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が進角側の場合には上側吸気通路24を閉鎖して下側吸気通路25を開放するように気流制御弁26を制御して逆タンブル流(吸気ポート12からピストン28に向かう気流)を形成し、この逆タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御する。一方、基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が遅角側の場合には下側吸気通路25を閉鎖して上側吸気通路24を開放するように気流制御弁26を制御してタンブル流を形成し、このタンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた筒内噴射式内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
筒内噴射式の内燃機関においては、燃料噴射弁から噴射された燃料がピストン上面やシリンダ内壁面等に付着することにより排気エミッションが悪化する可能性がある。そこで、ピストン上面やシリンダ内壁面等に付着する燃料量(筒内ウエット量)を低減する技術として、例えば、特許文献1(特開2005−248857号公報)に記載されているように、燃焼室形状や燃焼性能に応じて燃料噴射弁の噴射方向、噴霧貫徹力、噴霧粒径、噴霧特性を設定するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−248857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関の運転状態に応じて燃料噴射弁の噴射量や噴射時期が設定されるが、内燃機関のピストン位置によって筒内容積や吸気流速が変化するため、燃料噴射弁の噴射時期におけるピストン位置によって、燃料噴射時の筒内容積や吸気流速が変化して、筒内ウエット量を低減するのに適した気流の方向や強度(つまりピストン上面やシリンダ内壁面等に燃料の噴霧を付着し難くする気流の方向や強度)が変化する。
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、燃料噴射弁の噴射時期におけるピストン位置の影響が全く考慮されていないため、内燃機関の運転状態によっては燃料の噴霧挙動を適正(筒内ウエット量を低減するのに適した挙動)に制御することができず、筒内ウエット量を十分に低減することができない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、燃料の噴霧挙動を適正に制御することができ、筒内ウエット量を低減することができる筒内噴射式内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた筒内噴射式内燃機関の制御装置において、筒内の気流の方向と強度のうちの少なくとも一方を変化させる気流可変機構と、内燃機関のピストンの位置と燃料噴射弁の噴射時期との関係に応じて気流可変機構を制御して燃料噴射弁から噴射される燃料の噴霧挙動を制御する噴霧挙動制御手段とを備えた構成としたものである。
【0008】
この構成では、内燃機関のピストン位置と燃料噴射弁の噴射時期との関係に応じて気流可変機構を制御することで、燃料噴射弁の噴射時期におけるピストン位置によって、筒内ウエット量を低減するのに適した気流の方向や強度(つまりピストン上面やシリンダ内壁面等に燃料の噴霧を付着し難くする気流の方向や強度)が変化するのに対応して、筒内の気流の方向や強度を適正に変化させて、燃料の噴霧挙動を適正(筒内ウエット量を低減するのに適した挙動)に制御することができ、筒内ウエット量を低減することができる。これにより、PM(粒子状物質)の排出量を低減して排気エミッションを向上させることができる共に、筒内ウエットによるオイル希釈を抑制することができる。
【0009】
内燃機関の吸気行程では、ピストン位置によって筒内容積や吸気流速が変化するが、ピストンの下降に伴って筒内容積がある程度増加してからでないと、筒内にタンブル流(縦方向の渦流)を形成することが困難である。
【0010】
そこで、請求項2のように、ピストンの位置が所定の基準位置となる基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には内燃機関の吸気通路からピストンに向かう気流を筒内に形成するように気流可変機構を制御し、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には筒内にタンブル流を形成するように気流可変機構を制御するようにすると良い。
【0011】
ピストンの位置が基準位置(例えばタンブル流を形成可能な筒内容積になるピストン位置)となる基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、吸気流速が比較的速いが、まだタンブル流を形成可能な筒内容積になっていないため、燃料噴霧がシリンダ内壁面に到達しないようにする必要がある。そこで、吸気通路からピストン(下方)に向かう気流(以下「逆タンブル流」という)を筒内に形成するように気流可変機構を制御することで、逆タンブル流を強化することができ、この逆タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン上面やシリンダ内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
【0012】
一方、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、タンブル流を形成可能な筒内容積になっているため、筒内にタンブル流を形成するように気流可変機構を制御することで、タンブル流を強化することができ、このタンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン上面やシリンダ内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
【0013】
また、請求項3のように、気流可変機構を、内燃機関の吸気通路を上下に仕切る仕切壁と、該仕切壁によって仕切り形成された上側吸気通路と下側吸気通路を開閉する気流制御弁とを備えた構成とし、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には上側吸気通路を閉鎖して下側吸気通路を開放するように気流制御弁を制御し、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には下側吸気通路を閉鎖して上側吸気通路を開放するように気流制御弁を制御するようにしても良い。
【0014】
このようにすれば、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には、上側吸気通路を閉鎖して下側吸気通路を開放するように気流制御弁を制御することで、下側吸気通路から筒内に吸入される空気流によって逆タンブル流を形成することができる。一方、基準タイミングに対して燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には、下側吸気通路を閉鎖して上側吸気通路を開放するように気流制御弁を制御することで、上側吸気通路から筒内に吸入される空気流によってタンブル流を形成することができる。
【0015】
この場合、請求項4のように、内燃機関の運転状態に応じて気流制御弁の開度を調整するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の運転状態に応じて筒内の気流の方向や強度を制御しながら筒内に吸入される空気量を確保することができる。
【0016】
また、燃料噴射弁の噴射圧力に応じて噴霧の貫徹力が変化するため、請求項5のように、燃料噴射弁の噴射時期におけるピストンの位置及び筒内の気流の方向と強度に応じて燃料噴射弁の噴射圧力を設定して、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴霧がピストン上面及びシリンダ内壁面に衝突しないように該噴霧の貫徹力を設定するようにしても良い。このようにすれば、より確実に筒内ウエット量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。である。
【図2】図2は噴射量、噴射圧力、噴射期間の設定方法を説明する図である。
【図3】図3は噴射開始時期の設定方法を説明する図である。
【図4】図4は実施例1における噴射時期が基準タイミングよりも進角側の場合の気流制御(噴霧挙動制御)を説明する図である。
【図5】図5は実施例1における噴射時期が基準タイミングよりも遅角側の場合の気流制御(噴霧挙動制御)を説明する図である。
【図6】図6は噴射圧力と噴霧の貫徹力との関係を示す図である。
【図7】図7は気流制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図8は実施例2におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図9】図9は実施例2における噴射時期が基準タイミングよりも進角側の場合の気流制御(噴霧挙動制御)を説明する図である。
【図10】図10は実施例2における噴射時期が基準タイミングよりも遅角側の場合の気流制御(噴霧挙動制御)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1を図1乃至図7に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
筒内噴射式の内燃機関であるエンジン11の吸気ポート12に接続された吸気管13の途中には、スロットルバルブ(図示せず)が設けられ、このスロットルバルブの下流側に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ14が設けられている。エンジン11の各気筒には、それぞれ筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁15が取り付けられ、この燃料噴射弁15に燃料を供給する高圧ポンプ16の吐出圧力を調整することで燃料噴射弁15の噴射圧力が調整される。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ17が取り付けられ、各点火プラグ17の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0020】
一方、エンジン11の排気ポート18に接続された排気管19の途中には、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒(図示せず)が設けられている。また、クランク軸20の外周側には、クランク軸20が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ21が取り付けられ、このクランク角センサ21の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
また、各気筒の吸気ポート12(吸気通路)には、それぞれ筒内の気流の方向や強度を変化させる気流可変機構22が設けられている。この気流可変機構22は、吸気ポート12を上下に仕切る仕切壁23が設けられ、この仕切壁23によって上側吸気通路24と下側吸気通路25とが仕切り形成されている。更に、上側吸気通路24と下側吸気通路25の入口部(分岐部)には、上側吸気通路24と下側吸気通路25を開閉する気流制御弁26が設けられ、この気流制御弁26の開度を調整することで上側吸気通路24や下側吸気通路25の開口面積を調整できるようになっている。気流制御弁26は、図示しないモータ等のアクチュエータによって開度調節される。
【0022】
上述した各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)27に入力される。このECU27は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0023】
その際、ECU27は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とエンジン負荷)に応じて燃料噴射弁15の噴射量、噴射圧力(噴射率)、噴射期間(噴射時間)をマップ又は数式等により設定する。この場合、例えば、図2(a)に示すように、エンジン回転速度やエンジン負荷が高くなるほど噴射量を多くする。また、図2(b)に示すように、噴射量が比較的少なくなる低回転・低負荷領域Cでは噴射圧力を低くすると共に噴射期間を短くして噴射量を少なくする。この低回転・低負荷領域Cよりも噴射量が多くなる低回転・高負荷領域Aでは噴射圧力を低くしたまま噴射期間を長くして噴射量を多くする。また、低回転・低負荷領域Cよりも噴射量が多くなる高回転・低負荷領域Dでは噴射期間を短くしたまま噴射圧力を高くして噴射量を多くする。更に、噴射量が最も多くなる高回転・高負荷領域Bでは噴射圧力を高くすると共に噴射期間を長くして噴射量を多くする。
【0024】
図3に示すように、エンジン11の吸気行程では、ピストン位置(ピストン28の位置)によって筒内容積や吸気流速が変化するが、ピストン28の下降に伴って筒内容積がある程度増加してからでないと、筒内にタンブル流(縦方向の渦流)を形成することが困難である。本実施例では、タンブル流を形成可能な筒内容積になるピストン位置を基準位置とし、ピストン位置が基準位置となるクランク角を基準タイミングθb とする。この基準タイミングθb は、予め設定した固定値としても良いが、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とエンジン負荷)に応じて変化させるようにしても良い。
【0025】
そして、燃料噴射弁15から噴射される燃料の噴霧がピストン28に届かなくなるピストン位置に相当する第1クランク角θ1 から、ピストン28の下死点に相当する第2クランク角θ2 までの範囲を噴射開始時期の許容範囲とし、この噴射開始時期の許容範囲内で、エンジン運転領域(領域A〜D)に応じて燃料噴射弁15の噴射開始時期を設定する。例えば、低回転・高負荷領域Aでは噴射開始時期を基準タイミングθb から所定クランク角(第2クランク角θ2 よりも少し進角側のクランク角)までの範囲内に設定する。高回転・高負荷領域Bでは噴射開始時期を第1クランク角θ1 から基準タイミングθb までの範囲内に設定する。低回転・低負荷領域Cでは噴射開始時期を基準タイミングθb から第2クランク角θ2 までの範囲内に設定する。高回転・低負荷領域Dでは噴射開始時期を第1クランク角θ1 から所定クランク角(吸気流速が所定値以下となるクランク角)までの範囲内に設定する。
【0026】
また、ECU27は、エンジン11のピストン位置と燃料噴射弁15の噴射時期との関係に応じて気流可変機構22を制御することで、燃料噴射弁15の噴射時期におけるピストン位置によって、筒内ウエット量を低減するのに適した気流の方向や強度(つまりピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に燃料の噴霧を付着し難くする気流の方向や強度)が変化するのに対応して、筒内の気流の方向や強度を適正に変化させて、燃料の噴霧挙動を適正(筒内ウエット量を低減するのに適した挙動)に制御する。
【0027】
具体的には、図4に示すように、基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が進角側の場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、吸気流速が比較的速いが、まだタンブル流を形成可能な筒内容積になっていないため、燃料噴霧がシリンダ29の内壁面に到達しないようにする必要がある。そこで、図4(a)に示すように、吸気ポート12からピストン28(下方)に向かう気流(以下「逆タンブル流」という)を筒内に形成するように気流可変機構22を制御する。本実施例1では、上側吸気通路24を閉鎖して下側吸気通路25を開放するように気流制御弁26を制御することで、下側吸気通路24から筒内に吸入される空気流によって逆タンブル流を形成する。これにより、逆タンブル流を強化することができ、図4(b)に示すように、逆タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
【0028】
一方、図5に示すように、基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が遅角側の場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、タンブル流を形成可能な筒内容積になっているため、図5(a)に示すように、筒内にタンブル流を形成するように気流可変機構22を制御する。本実施例1では、下側吸気通路25を閉鎖して上側吸気通路24を開放するように気流制御弁26を制御することで、上側吸気通路24から筒内に吸入される空気流によってタンブル流を形成する。これにより、タンブル流を強化することができ、図5(b)に示すように、タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
【0029】
また、図6に示すように、燃料噴射弁15の噴射圧力に応じて噴霧の貫徹力が変化するため、燃料噴射弁15の噴射時期におけるピストン28の位置及び筒内の気流の方向と強度に応じて燃料噴射弁15の噴射圧力を設定して、燃料噴射弁15から噴射される燃料の噴霧がピストン28の上面及びシリンダ29の内壁面に衝突しないように該噴霧の貫徹力を設定するようにしても良く、このようにすれば、より確実に筒内ウエット量を低減することができる。
【0030】
以上説明した本実施例1の気流制御(噴霧挙動制御)は、ECU27によって図7の気流制御ルーチンに従って実行される。以下、このルーチンの処理内容を説明する。
図7に示す気流制御ルーチンは、ECU27の電源オン期間中(イグニッションスイッチのオン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう噴霧挙動制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、各種センサの出力信号に基づいてエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度やエンジン負荷等)を読み込む。
【0031】
この後、ステップ102に進み、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とエンジン負荷)に応じて燃料噴射弁15の噴射量、噴射圧力、噴射期間をマップ又は数式等により設定する(図2参照)。
【0032】
この後、ステップ103に進み、噴射開始時期の許容範囲内(第1クランク角θ1 から第2クランク角θ2 までの範囲内)で、エンジン運転領域(領域A〜D)に応じて燃料噴射弁15の噴射開始時期を設定する(図3参照)。
【0033】
この後、ステップ104に進み、噴射開始時期が基準タイミングθb よりも進角側であるか否かを判定する。本実施例では、タンブル流を形成可能な筒内容積になるピストン位置を基準位置とし、ピストン位置が基準位置となるクランク角を基準タイミングθb とする。
【0034】
このステップ104で、噴射開始時期が基準タイミングθb よりも進角側であると判定された場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、まだタンブル流を形成可能な筒内容積になっていないため、ステップ105に進み、上側吸気通路24を閉鎖して下側吸気通路25を開放するように気流制御弁26を制御することで、下側吸気通路24から筒内に吸入される空気流によって逆タンブル流を形成し[図4(a)参照]、この逆タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くする[図4(b)参照]。
【0035】
一方、上記ステップ104で、噴射開始時期が基準タイミングθb よりも遅角側であると判定された場合には、筒内に燃料が噴射されるときに、タンブル流を形成可能な筒内容積になっているため、ステップ106に進み、下側吸気通路25を閉鎖して上側吸気通路24を開放するように気流制御弁26を制御することで、上側吸気通路24から筒内に吸入される空気流によってタンブル流を形成し[図5(a)参照]、このタンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くする[図5(b)参照]。
この後、ステップ107に進み、各気筒の噴射開始時期になる毎に燃料噴射弁15の噴射を実行する。
【0036】
以上説明した本実施例1では、エンジン11のピストン位置と燃料噴射弁15の噴射時期との関係に応じて気流可変機構22を制御するようにしたので、燃料噴射弁15の噴射時期におけるピストン位置によって、筒内ウエット量を低減するのに適した気流の方向や強度(つまりピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に燃料の噴霧を付着し難くする気流の方向や強度)が変化するのに対応して、筒内の気流の方向や強度を適正に変化させて、燃料の噴霧挙動を適正(筒内ウエット量を低減するのに適した挙動)に制御することができ、筒内ウエット量を低減することができる。これにより、PM(粒子状物質)の排出量を低減して排気エミッションを向上させることができる共に、筒内ウエットによるオイル希釈を抑制することができる。
【実施例2】
【0037】
次に、図8乃至図10を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0038】
本実施例2では、図8に示すように、各気筒の気流可変機構30が次のように構成されている。吸気管13から分岐した逆タンブル用の吸気通路31とタンブル用の吸気通路32が設けられ、これら2本の吸気通路31,32の出口部が共通の吸気ポート12に接続されている。逆タンブル用の吸気通路31の出口部は、吸気ポート12から下方へ向かって空気が流れるように設けられ、タンブル用の吸気通路32の出口部は、吸気ポート12から斜め下方へ向かって空気が流れるように設けられている。更に、逆タンブル用の吸気通路31とタンブル用の吸気通路32の入口部(分岐部)には、逆タンブル用の吸気通路31とタンブル用の吸気通路32を開閉する気流制御弁33が設けられている。
【0039】
ECU27は、基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が進角側の場合には、図9(a)に示すように、タンブル用の吸気通路32を閉鎖して逆タンブル用の吸気通路31を開放するように気流制御弁33を制御することで、逆タンブル用の吸気通路31から筒内に吸入される空気流によって逆タンブル流を形成する。これにより、逆タンブル流を強化することができ、図9(b)に示すように、逆タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
【0040】
一方、基準タイミングθb に対して燃料噴射弁15の噴射時期が遅角側の場合には、図10(a)に示すように、逆タンブル用の吸気通路31を閉鎖してタンブル用の吸気通路32を開放するように気流制御弁33を制御することで、タンブル用の吸気通路32から筒内に吸入される空気流によってタンブル流を形成する。これにより、タンブル流を強化することができ、図10(b)に示すように、タンブル流により燃料の噴霧を筒内の中央方向に制御してピストン28の上面やシリンダ29の内壁面等に付着し難くすることができ、筒内ウエット量を低減することができる。
以上説明した本実施例2においても、前記実施例1とほぼ同じ効果を得ることができる。
【0041】
尚、上記各実施例1,2では、気流制御弁により一方の吸気通路を開放すると共に他方の吸気通路を閉鎖するようにしたが、これに限定されず、例えば、エンジン運転状態に応じて気流制御弁の開度を調整するようにしても良く、このようにすれば、エンジン運転状態に応じて筒内の気流の方向や強度を制御しながら筒内に吸入される空気量を確保することができる。
【0042】
また、上記各実施例1,2では、2本に分岐した吸気通路の入口部(分岐部)に共通の1つの気流制御弁を設ける構成としたが、これに限定されず、例えば、2本に分岐した吸気通路にそれぞれ気流制御弁を設けて、2本の吸気通路の開放/閉鎖や開度を個別に制御できる構成としても良い。
【0043】
その他、本発明は、気流可変機構の構成(例えば吸気通路や気流制御弁の形状や数等)や制御方法を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。
【符号の説明】
【0044】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気ポート(吸気通路)、13…吸気管、15…燃料噴射弁、17…点火プラグ、22…気流可変機構、23…仕切壁、24…上側吸気通路、25…下側吸気通路、26…気流制御弁、27…ECU(噴霧挙動制御手段)、28…ピストン、29…シリンダ、30…気流可変機構、31…逆タンブル用の吸気通路、32…タンブル用の吸気通路、33…気流制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた筒内噴射式内燃機関の制御装置において、
筒内の気流の方向と強度のうちの少なくとも一方を変化させる気流可変機構と、
内燃機関のピストンの位置と前記燃料噴射弁の噴射時期との関係に応じて前記気流可変機構を制御して前記燃料噴射弁から噴射される燃料の噴霧挙動を制御する噴霧挙動制御手段と
を備えていることを特徴とする筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記噴霧挙動制御手段は、前記ピストンの位置が所定の基準位置となる基準タイミングに対して前記燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には内燃機関の吸気通路から前記ピストンに向かう気流を筒内に形成するように前記気流可変機構を制御し、前記基準タイミングに対して前記燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には筒内にタンブル流を形成するように前記気流可変機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気流可変機構は、内燃機関の吸気通路を上下に仕切る仕切壁と、該仕切壁によって仕切り形成された上側吸気通路と下側吸気通路を開閉する気流制御弁とを備え、
前記噴霧挙動制御手段は、前記基準タイミングに対して前記燃料噴射弁の噴射時期が進角側の場合には前記上側吸気通路を閉鎖して前記下側吸気通路を開放するように前記気流制御弁を制御し、前記基準タイミングに対して前記燃料噴射弁の噴射時期が遅角側の場合には前記下側吸気通路を閉鎖して前記上側吸気通路を開放するように前記気流制御弁を制御することを特徴とする請求項2に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記噴霧挙動制御手段は、内燃機関の運転状態に応じて前記気流制御弁の開度を調整することを特徴とする請求項3に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記噴霧挙動制御手段は、前記燃料噴射弁の噴射時期における前記ピストンの位置及び筒内の気流の方向と強度に応じて前記燃料噴射弁の噴射圧力を設定して、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の噴霧がピストン上面及びシリンダ内壁面に衝突しないように該噴霧の貫徹力を設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−215136(P2012−215136A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81428(P2011−81428)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】