説明

管板と管とを接合する方法およびこの方法を実施する摩擦工具

【課題】回転摩擦工具を利用して管束熱伝達装置における管板と管とを接合する方法およびこの方法を実施する摩擦工具を提供する。
【解決手段】回転摩擦工具を利用して管束熱伝達装置における管板10と管11とを接合する方法において、上記摩擦工具が管板10により囲まれた管11の開放端内に上記管の軸方向に回転移動され、管11の表面に押し付けられ、この際、管端12と管端を囲む管板10の領域とが可塑化され、合一されて溶接継手となるように押し付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転摩擦工具を利用して管束熱伝達装置における管板と管とを接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝達装置は、ある媒体の熱が他の媒体に伝えられる装置であり、例えば、第1の媒体が第2の媒体中に位置する多数の管を流通し、その結果、第2の媒体が同様にそれらの管の周囲を流れるような装置である。これを可能とするため、第1の媒体は通常、第2の媒体が流入および流出する槽またはシリンダー内に格納された多数の管を流通する。第1の媒体が例えば、設備を冷却しながら大いに加熱された冷却水であるなら、第2の媒体は例えば、他の場所で加熱に用いられる空気または油であり得る。第1の媒体が流される管は一般に、互いに対しわずかな距離を置いて管板に保持され、管板本体は熱交換器のジャケットまたはシリンダーにより担持される。一般に、管は転造およびフランジ付けにより管板に固定される。一般に操作開始時には、その時点で多用される操作条件にとり、このやり方で充分である。熱交換器のいっそうの操作中、およびこの過程で現れる温度負荷や振動負荷中、これらの結合は部分的に崩壊し、その後、緊密性要件を満たさなくなる。その結果、交換または大幅な修理を相当する設備停止時間をかけて行わざるを得ない。
【0003】
上述の理由から、入念な工程チェックと工程管理を必要とするYAGレーザにより、管は既に管板に溶接されている。それにもかかわらず、溶接継目でのガス化が工程中に起こり、気孔の形成が発生した。このレーザ溶接法のいっそうの欠点は、レーザ溶接された継目領域での延性が低いので、(約0.8×管の厚さ)というかなり大きな溶接深さが必要とされることである。しかしながら、この溶接深さは全ての形態のYAGレーザで達成できるというわけではない。必要とされる溶接速度のため、また基部をなす形状の半径が小さいため、溶加材を作業に用いることができないので、近い将来にYAGレーザ溶接法で良好な結果を達成することはできないであろう。
【0004】
さらに既知の溶接法はMIG法であり、この方法によれば、溶接継目の見た目に良い外観が達成できる。しかしながら、熱管理が複雑なので、MIG継目の表面の真下まで達する応力割れが頻繁に起こり、構造の保全性を損なう。一般に、アルミニウム被加工物上に存在する高融点酸化物被膜は、融接法には障害となる。何故なら、これらの被膜は、良好な接合が得られる前に溶かさなければならないからである。アルミニウムの溶融温度約660℃と酸化物の溶融温度約2050℃とに差があるので、拡散障壁として溶接を妨げる恐れのある酸化物の溶融が必要となる。しかしながら、これに必要なより高いエネルギーは、溶接される材料のより低い融点の合金成分に悪影響を及ぼす。その結果、強度の低下または硬化の事例が継目領域に起こる。
【0005】
摩擦溶接継手の製造方法は、特許文献1から知られており、この文献においては例えば熱交換器用管板が製造されている。この目的で、接合される部品同士が確実に固定され、溶接される継目の領域で、溶接熱を発生する回転摩擦リングを利用して加熱、溶接される。ここで用いられる摩擦リングは溶加材として働き、実施される溶接作業に応じて様々な断面で具体化できる。したがって、摩擦リングが摩擦工具の一部として消費される。
【0006】
特許文献2から、熱交換器の管の管端を管板に溶接する方法が知られており、この方法では、様々な形状の摩擦工具が管端に作用し、加熱によりこれらを溶接する。この目的で、一つの実施態様では、円筒状摩擦工具は溶接される管と同一の直径を持つ。他の実施態様では、摩擦工具の直径は溶接される管の外径より小さいが、その内径より大きい。さらに他の実施態様では、円筒状摩擦工具の表面は、管が接触される輪郭を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第205357号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0138237号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、管束熱伝達装置における管板と管とを接合する方法と、この目的に適した摩擦工具であって、従来技術に比較し改善された上記方法および摩擦工具を作成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
はじめに述べた種類の方法は、この課題を解決するものであり、この方法は、摩擦工具が管板により囲まれた管の開放端内に管の軸方向に回転移動され、管の表面に押し付けられ、この際、管端と管端を囲む管板領域とが溶接された継手において可塑化され、合一されるように押し付けられる、ことを特徴とする。
【0010】
この方法を実施する摩擦工具は、シャンクとつばを特徴とする。このシャンクは、締付けを意図しないその自由端において、摩擦溶接中に消費されない円筒状摩擦ピンを含む。上記つばは、摩擦ピンに続いて位置し、摩擦ピンより大きい外径を持ち、つばから摩擦ピンへの移行部を形成する肩部を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、摩擦工具は、はじめそれぞれの用途に特有の形態で作成され、それぞれの材料組合わせに適した輪郭を付与される。円筒状摩擦ピンを持つこの摩擦工具は、次に管の自由端内に移動され、摩擦攪拌溶接で通常行われ、したがって当業者に知られているように、高速回転される。さらに管の自由端内で摩擦ピンが内向きに移動される(図示せず)と、様々な輪郭を備えた肩部は最終的に管の自由端に接触し、この過程で、管の自由端と管板の周辺領域が可塑化、合一されて円形継手になるような高い摩擦熱を発生する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】管を持つ管板の詳細と、管端に挿入された摩擦工具を示す図である。
【図2】図1の摩擦工具の斜視図である。
【図3】矢印Aの方向から見た図2の摩擦工具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、管を持つ管板の詳細と、管端に挿入された摩擦工具を示し;図2は、図1の摩擦工具の斜視図であり;図3は、矢印Aの方向から見た図2の摩擦工具の正面図である。
【0015】
図1は、管板10の詳細を示し、管11が挿入され、わずかに突出されて頂部に保持されている。管11の自由端には摩擦工具が挿入され、摩擦工具は上端にシャンク1を含み、シャンクは摩擦攪拌溶接機(図示せず)の溶接スピンドル内に締結されるようになっている。摩擦工具の反対側の下端には、円筒状の摩擦ピン2が設けられており、この摩擦ピンは操作中に管11の自由端内に進められる。この目的のため、摩擦ピン2の外径と管11の内径は適合しなければならないことは、当業者には明らかである。
【0016】
摩擦ピン2とシャンク1との間には第1のつば3と第2のつば5が配置されており、これらのつばは外径が互いに相違し、特に、第1のつば3の外径は摩擦ピン2の外径より大きく、第2のつば5の外径は第1のつば3の外径より大きいという点で相違している。このようにして、第1のつば3は、摩擦ピン2への移行部の第1の軸方向肩部4と、第2のつば5への移行部の第2の肩部6を形成する。
【0017】
しかしながら、第2の肩部6は通常、溶接中に何の機能も示さない。したがって、第2の肩部6を円錐形または中高形にすることもできる。第2の肩部6と平行に延びるが、上記肩部とは距離をおいてその上方に位置する環状面で、摩擦工具は溶接スピンドル(図示せず)に支持される。
【0018】
摩擦工具は、例えば矢印Xの方向に回転されて管11の表面12と第1の肩部4で接触し、この過程で、管11の素材が表面12の領域で可塑化されるような高い熱を摩擦により発生する。第1の肩部4の半径方向の延長部は管11の外径より大きいので、第1の肩部4は管11の近辺に位置する管板10の領域にさらに接触し、摩擦過程で発生される熱により、この領域を同様に可塑化する。その結果、2つの可塑化された部品10と11とは接合され、溶接継目を形成する。
【0019】
形成される溶接継目の領域でより良く発熱させるため、したがって、管板10と管11をより早く可塑化させるため、例えば半円形、三角形または長方形の断面を持つ螺旋の形をした1つまたは複数の長穴の形状をした輪郭7が第1の肩部4に設けられる。図3にしたがう例示のための実施態様では、2つの螺旋形長穴が認められる。これらの長穴は、互いに対して偏位しており、内側から外側に及んでいる、すなわち、円筒形摩擦ピン2の外径から第1のつば3の外径へと及んでいる。
【0020】
摩擦ピン2は、摩擦による管の支持といっそうの加熱との両方の作用がある。理想的には、摩擦ピンは初めに管11の内部に接触し、次に摩擦ピンの円錐形の部分が接触する。その後、肩部4が管11と板10の移行部を加熱し、可塑化する。試験中に肩部4と摩擦ピン2との両方に溶着されたアルミニウムは、摩擦ピンも摩擦工程に関与していることを示している。
【符号の説明】
【0021】
1 シャンク
2 摩擦ピン
3 第1のつば
4 第1の肩部
5 第2のつば
6 第2の肩部
7 輪郭
10 管板
11 管
12 管表面、管端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転摩擦工具を利用して管束熱伝達装置における管板(10)と管(11)とを接合する方法において、
上記摩擦工具が管板(10)により囲まれた管(11)の開放端内に上記管の軸方向に回転移動され、管(11)の表面に押し付けられ、この際、管端(12)と管端を囲む管板(10)の領域とが可塑化され、合一されて溶接継手となるように押し付けられる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法を実施する摩擦工具において、
締付け用に設けられてはいない自由端で、摩擦溶接中に消費されない円筒状摩擦ピン(2)を含むシャンク(1)と、
摩擦ピン(2)に続いて位置し、摩擦ピン(2)より大きい外径を持ち、つば(3)から摩擦ピン(2)への移行部を形成する肩部(4)を有する上記つば(3)と、
を特徴とする摩擦工具。
【請求項3】
つば(3)の肩部(4)は少なくとも1つの輪郭(7)を備えている、
ことを特徴とする請求項2記載の摩擦工具。
【請求項4】
肩部(4)における輪郭(7)は摩擦ピン(2)から見て凹である、
ことを特徴とする請求項3記載の摩擦工具。
【請求項5】
肩部(4)における輪郭(7)は断面が半円形、長方形または三角形である、
ことを特徴とする請求項4記載の摩擦工具。
【請求項6】
回転摩擦工具を利用して管束熱伝達装置を製造する方法において、
上記摩擦工具が管板(10)により囲まれた管(11)の開放端内に上記管の軸方向に回転移動され、管(11)の表面に押し付けられ、この際、管端(12)と管端を囲む管板(10)の領域とが可塑化され、合一されて溶接継手となるように押し付けられる、
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−148831(P2009−148831A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−323076(P2008−323076)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(599036761)ゲーカーエスエス フオルシユングスツエントルーム ゲーエストハフト ゲーエムベーハー (22)
【Fターム(参考)】