説明

管路の耐震化構造及び管路の耐震化構造の形成方法

【課題】 略水平方向に延びる管路の、マンホールへの取り付け部付近において、地上から受ける震動や衝撃、また地震や不等沈下に対し、管路の機能を維持し得る管路の耐震化構造及び管路の耐震化構造を形成する方法を提供すること。
【解決手段】 マンホール10への取り付け部11a近傍において、管路12の内周面12aの全周に亘って、密閉用部材が装填された溝状の誘導メジ18を形成する。そして、所定の厚みを有する可撓性材料で形成された環状シート部材20と、このシート部材20の内側から拡径するスリーブ22と、このスリーブ22の拡径状態を固定する固定部26とを有する被覆体14で、誘導メジ18が形成された位置において管路12の内周面を被装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略垂直下方向に延びるマンホールへの取り付け部付近における管路の耐震化構造、及び管路の耐震化構造を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に下水管等の管路には、ヒューム管、陶管、硬質塩化ビニル管等が広く使用されている。これら管路は、通常地中に埋設されており、このため人為的もしくは自然的な地盤変動の影響を受けやすい。この管路が影響を受ける地盤変動としては、人為的なものとしては、管路やマンホール上を通過する車両による車両加重が挙げられる。また、自然的なものとしては、地震や地盤沈下、特に管路周辺の地盤が不均等に沈下する不等沈下が挙げられる。そして、例えば、地震が発生した場合、管路に地震荷重が加わり管路の一部にクラック等が発生する場合がある。
【0003】
ここで、地震が発生した場合に管路が受ける影響は必ずしも一様ではなく、管路の構造等によってはクラック等が発生しやすい部位が生じる。例えば、大きな地震が発生すると地中に埋められたマンホールが上下にずれる現象や、マンホールと管路の取付部において、管路が管路の長さ方向(軸方向)にずれる現象が知られている。このように地震発生時にはマンホールと管路は縦方向と横方向に互いに異なる動きとを取るため、マンホールへの取り付け部付近において管路にクラック等が発生しやすい状態となる。
【0004】
図6は、地中に埋められたマンホールとマンホールの取り付け部から伸びる管路との構成において、地震の影響により管路にクラックが発生した例を示した説明図である。同図に示した例では、マンホール100が略垂直下方向に伸び、管路102がマンホール100の取り付け部Aから略水平方向に伸びている。そして、管路102において、取り付け部Aから20〜100cm離れた位置にクラック104が発生している。
【0005】
このようなクラック104が発生する位置は、地震発生時におけるマンホール100の主に縦方向の動きと、この動きに起因して管路102に加わる曲げモーメントやせん断応力等の状況によって若干の差異が認められる。しかし、上述した取り付け部Aから20〜100cm離れた位置に、クラック104が複数又は複雑に発生する場合が多いことが経験上知られている。
【0006】
また、上述した管路102が軸方向にずれる現象が発生した場合、クラック104の部位で管路102が、例えば図の右側と左側の管路102が、クラック104を境に互いに逆方向にずれる場合がある。これによりクラック104の部位に隙間が生じ、また、クラック104の部位で管路102が座屈する場合がある。
【0007】
更に、管路102を地中に埋設する工法によっては、取り付け部Aから管路102の軸方向に約2m程度離れた位置の管路102の下部に図示しない鋼材(残置パイル)が埋設されている場合がある。この鋼材が埋設された状態で地盤沈下が発生すると、埋設された鋼材と管路102との間で応力が発生し、鋼材が埋設された位置、すなわち取り付け部Aから約2m程度離れた位置にクラックが発生する場合もある。これらクラックの発生等のため、上記管路102の取り付け部A付近における、管路102の地震等に対する対策が必要となる。
【0008】
図7は、マンホールへの管路の取り付け部において地震等によるクラックの発生を防止する従来技術を説明した断面図である。同図に示した技術は、既設のマンホール100と既設の管路102について、管路102の取り付け部Aの付近に補修を施すものである。
【0009】
この技術では、まず、マンホール100内のインバート部110を壊して除去している。次に、管路102のマンホール100への取り付け部Aにおいて、管路102の周囲のマンホール100の部位を間隔Dだけ除去し、この除去した部位にゴム等の可撓性材料106を充填している。そして、可撓性材料106の充填後、インバート部110をもとの状態に復旧している。
【0010】
この構成により、地震発生時等に発生するマンホール100の縦方向の動きや管路102の横方向にずれる動きに起因して管路102にかかる応力を上記ゴム等の可撓性材料で吸収し、管路102にクラック等が発生するのを防止している。なお、インバート部110とは、マンホール100の底部において管路102の下端部までコンクリート等のインバート材を充填したもので、これによりマンホール100の底部における水流を円滑にするものである。
【0011】
特許文献1には、管路の補修に関する技術が開示されている。同文献には、円筒状のスリーブ(S)を形成する複数(実施の形態では3枚)のスリーブ構成部材(11)等を有する補修用被覆体(C)が示されている。
【0012】
同文献に示された補修用被覆体(C)では3枚のスリーブ構成部材(11)を管路内(1)で管路内周面(1a)に沿って周方向に並べ円筒状のスリーブ(S)を形成している。そのスリーブ(S)の外周上には環状の弾性シート部材(21)が被装され、弾性シート部材(21)は、スリーブ(S)と管路内周面(1a)との間に装填された状態となっている(図示せず)。そして、最終的なスリーブ(S)の拡径を行うための固定部材(31)がスリーブ(S)の幅方向(長さ方向)両側からスリーブ構成部材(11)の相互間の隙間に挿入され、これによりスリーブ(S)は拡径され、弾性シート部材(21)は管路内周面(1a)に押圧され密着している。
【0013】
これにより、例えば管路(1)の継ぎ目部分に設置された補修用被覆体(C)について、地震等によって管路(1)が径方向にずれたときでも、弾性シート部材(21)の要所を管路内周面(1a)に密着させることができる。すなわち、管路(1)が径方向にずれ、管路内周面(1a)とスリーブ(S)との間隙が周方向に不均等となったときでも、弾性シート部材(21)が弾性変形するので、上記密着された状態が維持される。
【0014】
また、補修用被覆体(C)を組立式とし、補修用被覆体(C)の既設管路内への施工作業を容易ならしめ、作業効率の向上を図ると共に、組み立て前はパーツごとに分解された状態とすることにより各部材の大きさや重量を小さくし、運搬及び搬入を容易なものとしている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−130282
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記、図7に示した従来技術では、まずマンホール100のインバート部110を壊し、そして取り付け部Aにおいて、管路102の周囲に位置するマンホール100の部位を除去し、除去した部位にゴム等を詰める作業を行う必要がある。さらに、インバート部110を復旧する必要がある。そして、このような作業は労力と手間を要するものとなる。また、上述したように地震の発生によりマンホール100が地表から突出するように大きく動く場合には、同図に示された技術を施してもクラックが発生する場合がある。そして、クラック等が一旦発生すると、クラックを介して地下水等が管路102に侵入するので、このクラックを直ちに補修する必要が生じる。
【0017】
特許文献1に開示された補修用被覆体(C)では、補修用被覆体(C)で被覆された範囲内で管路(1)に更にクラック等が発生し、また地震により管路(1)の継ぎ目部分がずれた場合であっても、良好な補修状態を保つことができる。
【0018】
しかし、地震等により管路(1)にクラック等が発生する前においては、補修箇所が特定できない。従って、クラック等が発生する前においては、対象となる補修箇所が存在しない状態なので補修用被覆体(C)を適用することができない。
【0019】
本発明は、略水平方向に延びる管路の、マンホールへの取り付け部付近において、地上から受ける震動や衝撃、また地震や不等沈下に対し、管路の機能を維持し得る管路の耐震化構造及び管路の耐震化構造を形成する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に記載の管路の耐震化構造は、略水平方向に延びる管路の、略垂直下方向に延びるマンホールへの取り付け部付近における耐震化構造において、管路の取り付け部付近の内周面で全周に亘って形成された溝状の誘導メジと、管路の内周側から被装する被覆体であって、可撓性材料で形成され、外側面の両端縁部に全周に亘って突起部を有する所定幅の環状シート部材と、この環状シート部材の内側から拡径し、該環状シート部材を両突起部の間に誘導メジを位置させた状態で管路内周面に押圧する略円筒状のスリーブと、このスリーブの前記拡径状態を固定する固定部とを有する被覆体と、を有することを特徴とする。
【0021】
これにより、例えば、大きな地震が発生した時に、管路の誘導メジが形成された位置にクラックを発生させる。すなわち、誘導メジは、この誘導メジが形成された部位にクラック発生位置を誘導する機能を有している。これは、管路に誘導メジを形成することにより、誘導メジが形成された部位の管路の厚さが他の部位よりも薄くなるので、管路に曲げモーメントや、せん断応力が付加された時に誘導メジの部位が割れやすくなるためである。このクラック発生位置の誘導により、種々の要因によりマンホールが上下にずれることに起因する他の管路の部位でのクラック発生を回避することができる。
【0022】
そして、誘導メジとその前後の管路は被覆体で被装されており、この部位の管路は環状シート部材でシールされた状態となっている。従って、発生したクラックを介して、管路周囲の地下水が管路内部に侵入等することが防止される。すなわち、クラックが発生した管路をシート部材が補修した状態となる。このことは、管路の上下方向のずれのみならず、横方のずれにより生ずる種々の不具合も解消できるものである。なお、管路の内周面の全周に亘って形成される誘導メジの本数は1本であっても良く、また複数本であっても良い。
【0023】
請求項2に記載の管路の耐震化構造は、請求項1に記載の管路の耐震化構造であって、誘導メジには、密閉用部材が装填されていることを特徴とする。
【0024】
これにより、誘導メジにクラックが生じた場合に、上記密閉用部材によってクラックが生じた部位の水密性が確保されている。
【0025】
請求項3に記載の管路の耐震化構造は、請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造であって、誘導メジの両側壁が、管路の軸方向に略直交する互いに略平行な2壁面を構成することを特徴とする。
【0026】
これにより、誘導メジを形成する場合に、管路の内周面を一定幅で深さ方向に削れば良く、誘導メジを形成するための作業性が良好なものとなる。また、誘導メジの部位でのクラック発生の誘導性については、この誘導メジの深さ等により適宜調製が可能である。
【0027】
請求項4に記載の管路の耐震化構造は、請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造であって、誘導メジの両側壁が、共に前記管路の軸方向に所定の角度傾斜した略平行な壁面を構成することを特徴とする。
【0028】
これにより、同じ切削幅であっても、誘導メジの開口部の幅を広く切削することが可能になる。従って、上記構成の誘導メジとすることにより、所定の開口幅を有する誘導メジを切削幅が狭い小型の管路切削機器で少ない切削工数で容易に形成することができる。
【0029】
請求項5に記載の管路の耐震化構造は、請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造であって、前記誘導メジが略V字の溝形状とされたことを特徴とする。
【0030】
誘導メジを上記形状とすることにより、例えば大きな地震が発生した時に、管路に加わる曲げモーメントやせん断応力等に起因する応力が誘導メジの上記略V字の形状の頂点位置に集中する傾向が強くなる。従って、誘導メジの上記頂点位置にクラックを発生させる誘導性が高められる。このようにして、誘導メジが形成された部位の管路にクラックを確実に発生させることができる。
【0031】
請求項6に記載の管路の耐震化構造は、請求項1〜5の何れかに記載の管路の耐震化構造であって、誘導メジの取り付け部からの距離は、経験則上、管路にクラックの発生する頻度の高い部位に設定されることを特徴とする。
【0032】
大きな地震が発生した時に、管路の、マンホールへの取り付け部付近におけるクラックの発生位置は、特定の範囲に多くなることが経験上知られている。従って、経験則上得られた上記特定の範囲に誘導メジを形成することにより、誘導メジが形成された部位へのクラック発生の誘導性を高めることができる。すなわち、誘導メジが形成された部位により限定的に確実にクラックの発生を誘導することができる。
【0033】
請求項7に記載の管路の耐震化構造の形成方法は、略水平方向に延びる管路の、略垂直下方向に延びるマンホールへの取り付け部付近において、管路の内周面にこの内周面の全周に亘って溝状の誘導メジを形成し、可撓性材料で形成され、外側面両端部に全周に亘って突起部を有する所定幅の環状シート部材を、両突起部の間に誘導メジを位置させた状態で管路内に配置し、この環状シート部材の内部に所定範囲で拡径する略円筒状のスリーブを挿入し、このスリーブを、環状シート部材の内側から拡径し、該環状シート部材を管路内周面に押圧し、スリーブの拡径を固定部で固定することを特徴とする。
【0034】
これにより、管路の誘導メジが形成された部位にクラック等の発生を誘導し、誘導メジの部位に発生したクラック等を被覆体で補修した状態にするという作用を有する請求項1の構成を得ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明にかかる管路の耐震化構造及び管路の耐震化構造を形成する方法によれば、略水平方向に伸びる管路のマンホールへの取り付け部付近における管路を容易な作業手順で、地上から受ける震動や衝撃、地震や不等沈下に対し、管路の機能を維持し得る構造とすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は、本発明にかかる管路の耐震化構造を説明した斜視図である。同図には、略垂直下方向に伸びるマンホール10と、マンホール10から略水平方向に伸びる管路12及び従来技術である被覆体14の構成が示されている。ここで、マンホール10は、その底部に略直方体形状の連絡部11を有しており、連絡部11において管路12が取り付けられる構造となっている。
【0037】
まず、本実施の形態に係る管路の耐震化構造16の特徴的構成は、連絡部11における管路12の取り付け部11aから所定距離を置いた位置で、管路12の内周面12aに、この内周面12aの全周に亘って溝状の誘導メジ18が1本形成されている。この誘導メジ18には、合成樹脂等の密閉用部材が装填されている。そして、誘導メジ18が形成された部位に可撓性材料で形成された所定幅の環状シート部材20を配置し、環状シート部材20の内部において環状シート部材20の内側から拡径する略円筒状のスリーブ22を位置させた構成となっている。この環状シート部材20とスリーブ22は後述する固定部26とで被覆体14を形成するものである。
【0038】
ここで、本実施の形態において、例えば、管路12の内径は約2m程度、スリーブ22の厚さは、2〜6mm程度、また、環状シート部材20の厚さは2〜30mm程度が例示できる。また、スリーブ22の材質としては、例えばステンレス等、環状シート部材20の材質としては、例えばゴム等が挙げられる。
【0039】
図2は、図1に示した管路の耐震化構造を管路12の側方から見た説明図である。図示のように、管路の耐震化構造16において、誘導メジ18は、誘導18メジの両側壁が、管路12の軸方向に略直交する、互いに略平行な2壁面18a、18bを構成している。この誘導メジ18に密閉用部材25が装填されている。
【0040】
また、環状シート部材20は、外側面の両端縁部20a、20bに全周に亘って突起部24を有している。そしてこのスリーブ22は、両突起部24の間に誘導メジ18を位置させた状態で、環状シート部材20の内側から拡径し、環状シート部材20を管路12の内周面12aに押圧するようにしている。
【0041】
ここで、スリーブ22は、本実施の形態では、3枚のスリーブ構成部材22−1〜22−3を管路12内で管路内周面12a沿って周方向に並べて構成されている(図1参照)。また、固定部26は、スリーブ構成部材22−1〜22−3が上記並べられた状態で互いに対向する端部22a、22bとこの対向する端部22a、22bの間に形成される隙間に挿入される固定部材28とで構成されている。
【0042】
スリーブ22を拡径するときは、スリーブ22の長さ方向の3箇所からスリーブ構成部材22−1〜22−3の相互間の隙間に固定部材28を挿入し、これによりスリーブ22が拡径される。そして、固定部材28を上記隙間にそのまま介在させることにより、スリーブ22の拡径状態が維持されるものである。
【0043】
なお、上述した誘導メジ18に装填する密閉用部材25としては、合成樹脂等の充填材やゴムリングが例示される。また、誘導メジ18は、このような密閉用部材25が存在しない状態であっても良い。
【0044】
この構成により、例えば地震発生時には、上記管路の耐震化構造16は、以下のように作用し、本発明にかかる管路の耐震化構造の機能を発揮する(図1、2参照)。地震や不等沈下等が発生すると、マンホール10が上下方向にずれるため、マンホール10と管路12に異なる応力が働く。例えば、マンホール10が上方に動き、これにより管路12に曲げモーメントやせん断応力等が加わる。このため、マンホール10の取り付け部11a付近の管路12にクラックが発生する。
【0045】
ここで、耐震化構造16の誘導メジ18の構造により、誘導メジ18が設けられた位置において管路12の厚さが薄くなっている。このため、その部分の強度は他の部分よりも弱められており、上記クラックは誘導メジ18が設けられた位置において管路12の厚さ方向に発生する。このクラックは、管路12に対してマンホール10が動くことに起因して発生したものである。従って、一旦、誘導メジ18の部位にクラックが発生すると、管路12の他の部位でのクラックの発生は防止される。すなわち、誘導メジ18がクラックの発生を誘導したことになる。
【0046】
図3は、地震の発生により誘導メジ18においてクラック30が発生した状態を説明した説明図である。同図に示したように誘導メジ18においてクラック30が発生しても、被覆体14が誘導メジ18と誘導メジ18付近の管路12の内周面12aを被覆している。すなわち、シート部材20が内周面12aをシールして、クラック30が発生した管路12を補修した状態となっている。従って、クラック30を介して管路12内部の流水が管路12の外部に漏れ、或いは管路12の外部の地下水等が、管路12内部に侵入することが防止される。
【0047】
そして、シート部材20は、両端部20a、20b付近において突起部24が外周方向に所定長さ突出する構造を有している。これにより、管路12の誘導メジ18に生じたクラック30を境に管路12が例えば、上下方向に若干ずれた場合であっても、突起部24が管路12に押圧された状態が維持される。従って、シート部材20により内周面12aがシールされた状態が維持される。このように、上記クラック30が発生しても本発明の管路の耐震化構造16により、管路12の機能が維持される。
【0048】
また、管路12が管路12の軸方向(管路12の長さ方向)に動き、クラック30が発生した誘導メジ18の部位で管路12同士が互いに離れ、あるいは、互いに近づいて座屈が生じる場合であっても、クラック30が発生した管路12をシート部材20が補修した状態が維持される。すなわち、管路12の機能が維持される。
【0049】
さらに、誘導メジ18に装填された合成樹脂等の密閉用部材25によってもクラック30が生じた部位を密閉し補修することとなる。
【0050】
ここで、誘導メジ18の取り付け部11aからの距離は、経験則上、管路12にクラックの発生する頻度の高い部位に設定されることが可能である。これは、例えば大きな地震が発生した時に、管路12の、マンホール10への取り付け部11a付近におけるクラックの発生位置が、特定の範囲に多くなることが経験上知られているからである。すなわち、経験則上得られた上記特定の範囲に誘導メジ18を形成することにより、誘導メジ18が形成された部位へのクラック30の発生の誘導性を高めることができる。すなわち、誘導メジ18が形成された部位に確実にクラック30の発生を誘導することができる。ここで、図1〜図3では、誘導メジ18は管路12の内周面12aの全周に亘って1本形成された状態となっているが、管路12の内周面12aの全周に亘って形成される誘導メジ18が複数本であっても良い。
【0051】
なお、本発明にかかる管路の耐震化構造16は、レベル2の大きさの地震を想定し、この大きさの地震に対応し得る構造となっている。ここでレベル2とは、管路12の長さに対して1.5%の歪みが発生する程度の地震の大きさを表している。
【0052】
また、本発明にかかる管路の耐震化構造16の「耐震化」とは主に管路12が地上から受ける震動や衝撃、地震や不等沈下に対し、管路12の機能を維持し得る構造に構成されることを示している。
【0053】
次に、本発明にかかる管路の耐震化構造16の施工手順について図1及び図2に基づいて説明する。先ず、管路12の施工箇所を洗浄し、また必要に応じて管路12の内周面12aに表面処理を施す。次に、マンホール10と管路12との取り付け部11aから所定距離離れた位置において、管路12の内周面12aに誘導メジ18を形成する。誘導メジ18は、管路12の内周面12aの全周に亘って、所定の深さで溝状に切削し、切削した箇所に合成樹脂等の密閉用部材25を装填する。
【0054】
誘導メジ18に密閉用部材25を装填した後、被覆体14のシート部材20を管路12に搬入し、誘導メジ18がカバーされるように位置させる。すなわち、シート部材20を、両突起部24の間に誘導メジ18を位置させるように配置する。そして、シート部材20の内側においてスリーブ構成部材22−1〜22−3を組み立て、スリーブ22を形成する。更に、スリーブ構成部材22−1〜22−3の対向する端部22a、22b間の隙間に固定部材28を挿入してスリーブ22を拡径させる。この拡径によりシート部材20が管路12の内周面12aに押圧される。そして、固定部材28を上記隙間にそのまま介在させることによりスリーブ22の拡径状態が維持される。従って、被覆体14が管路12に被装された状態となり、管路12の耐震化構造16の施工が完了する。
【0055】
なお、図2において、誘導18メジの両側壁が、管路12の軸方向に略直交する、互いに略平行な2壁面18a、18bを構成しているとした。これにより、誘導メジ18を形成する場合、管路12を一定幅で深さ方向に削れば良く、誘導メジ18の形成が容易なものとなる。
【0056】
また、符号17で示した部材は当板部材(図1に点線で図示)であり、平板状の略長方形形状を有している。当板部材17は、端部22a、22bで形成される隙間において、隙間20から環状弾性シート部材16がスリーブ14の内側にはみ出すのを防止等するものである。当板部17は、スリーブ22と環状シート部材20との間に必要に応じて装着される。
【0057】
図4は、本発明にかかる管路の耐震化構造の誘導メジの他の実施の形態を説明した説明図である。なお、図1〜3と同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施の形態では、誘導メジ27の両側壁27a、27bが、共に管路12の軸方向に所定の角度αだけ傾斜した略平行な壁面を構成している。
【0058】
同図に示した誘導メジ27は、同図において破線で示した管路切削機器であるグラインダー29を用いて形成する。ここで、グラインダー29は断面が略台形状の円錐台形状を有しており、管路12を切削幅W3を有している。このグラインダー29を回転軸31を中心に回転させ、そして管路の軸方向に対して傾斜させ、同図に示した矢印200の方向に管路12を切削する。この切削により、管路12に幅W3よりも広い幅の幅W2を形成することができる。
【0059】
このように、上記構成の誘導メジ27とすることにより、切削機器による切削幅が同じであっても、誘導メジの開口部の幅W2を広く切削することが可能になる。従って、誘導メジ27を切削幅が狭い小型の管路切削機器で少ない切削工数で容易に形成することができる。
【0060】
このように、グラインダー29を用い、管路12の軸方向に所定角度傾斜させた傾斜方向に管路12を切削することにより、管路12の軸方向に広い幅W2で管路を切削することができる。従って、上記構成の誘導メジ27とすることにより、管路12の軸方向に所定の幅を有する誘導メジ27を切削幅が狭い小型の管路切削機器で容易に形成することができる。なお、グラインダー29の形状について略円板状とし、誘導メジ27を図4において破線で示した形状としても良い。
【0061】
図5は、本発明にかかる管路の耐震化構造の誘導メジの他の実施の形態を説明した説明図である。なお、図1〜3と同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施の形態では、誘導メジ32が略V字の溝形状となっている。上記形状を有する誘導メジ32を形成することにより、マンホール10が動いた時に、管路12に加わる曲げモーメントやせん断応力等に起因する応力が誘導メジ32の頂点32aに集中する傾向が強くなる。従って、誘導メジ32の頂点32aにクラック等を発生させる誘導性が高められる。このようにして、誘導メジ32が形成された部位の管路12にクラックを確実に発生させることができる。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、図5に示した実施の形態では誘導メジ32の伸長方向に直交する断面形状が、頂点32aを有する略V字状となっているとしたが、断面形状が略五角形状であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明にかかる管路の耐震化構造を説明した斜視図である。
【図2】図1に示した管路の耐震化構造を管路の側方から見た説明図である。
【図3】誘導メジにおいてクラックが発生した状態を説明した説明図である。
【図4】本発明にかかる管路の耐震化構造の誘導メジの他の実施の形態を説明した説明図である。
【図5】本発明にかかる管路の耐震化構造の誘導メジの他の実施の形態を説明した説明図である。
【図6】地中に埋められたマンホールとマンホールの取り付け部から伸びる管路との構成において、管路にクラックが発生した例を説明した説明図である。
【図7】マンホールへの管路の取り付け部においてクラックの発生を防止する従来技術を説明した断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10 マンホール
12 管路
14 被覆体
16 管路の耐震化構造
18 誘導メジ
20 環状シート部材
22 スリーブ
24 突起部
26 固定部
27 誘導メジ
28 固定部材
30 クラック
32 誘導メジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平方向に延びる管路の、略垂直下方向に延びるマンホールへの取り付け部付近における耐震化構造において、
前記管路の前記取り付け部付近の内周面で全周に亘って形成された溝状の誘導メジと、
前記管路の内周側から被装する被覆体であって、
可撓性材料で形成され、外側面の両端縁部に全周に亘って突起部を有する所定幅の環状シート部材と、
この環状シート部材の内側から拡径し、該環状シート部材を前記両突起部の間に前記誘導メジを位置させた状態で前記管路内周面に押圧する略円筒状のスリーブと、
このスリーブの前記拡径状態を固定する固定部とを有する被覆体と、を有することを特徴とする管路の耐震化構造。
【請求項2】
前記誘導メジには、密閉用部材が装填されていることを特徴とする請求項1に記載の管路の耐震化構造。
【請求項3】
前記誘導メジの両側壁が、前記管路の軸方向に略直交する互いに略平行な2壁面を構成することを特徴とする請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造。
【請求項4】
前記誘導メジの両側壁が、共に前記管路の軸方向に所定の角度傾斜した略平行な壁面を構成することを特徴とする請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造。
【請求項5】
前記誘導メジが略V字の溝形状とされたことを特徴とする請求項1又は2に記載の管路の耐震化構造。
【請求項6】
前記誘導メジの前記取り付け部からの距離は、経験則上、管路にクラックの発生する頻度の高い部位に設定されることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の管路の耐震化構造。
【請求項7】
略水平方向に延びる管路の、略垂直下方向に延びるマンホールへの取り付け部付近において、
前記管路の内周面にこの内周面の全周に亘って溝状の誘導メジを形成し、
可撓性材料で形成され、外側面両端部に全周に亘って突起部を有する所定幅の環状シート部材を、前記両突起部の間に前記誘導メジを位置させた状態で前記管路内に配置し、
この環状シート部材の内部に所定範囲で拡径する略円筒状のスリーブを挿入し、このスリーブを、前記環状シート部材の内側から拡径し、該環状シート部材を前記管路内周面に押圧し、
前記スリーブの前記拡径を固定部で固定することを特徴とする管路の耐震化構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−144229(P2006−144229A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331447(P2004−331447)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】