説明

粉体の製造方法、粉体、吸着装置

【課題】得られる粉体の強度を調整することができ、かつこの粉体を均一な硬さで製造することができる粉体の製造方法、かかる粉体の製造方法により製造された粉体およびかかる粉体を備える吸着装置を提供すること。
【解決手段】本発明の粉体の製造方法は、第1の原料を含有する第1の液と、第2の原料を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させ、これらの合成物の凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、前記スラリーを乾燥して、前記合成物の粉体を得る第2の工程とを有しており、前記第1の工程において、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定することにより、前記粉体の強度を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の製造方法、粉体、吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料の一種であるリン酸カルシウム系化合物は、例えば、生体材料や、クロマトグラフィーの固定層用材料等として、広く使用されている。
【0003】
生体材料として使用する場合、リン酸カルシウム系化合物は、スラリー等から粉体を得、この粉体を所望の形状に成形して成形体とし、さらに、この成形体を焼成(焼結)することにより焼結体とされる。そして、かかる焼結体を、人工骨や人工歯根等として、臨床的に使用している。
【0004】
また、クロマトグラフィーの固定層用材料として使用する場合、リン酸カルシウム系化合物は、前記生体材料として使用する場合と同様にして粉体を得、この粉体を焼成(焼結)することにより、焼結された粉体(以下、「焼結粉体」と言う。)とされる。そして、かかる焼結粉体を、カラム等に充填して使用している(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、人工骨、人工歯根等として用いる焼結体では、その製造工程の途中で得られる粉体の強度が十分(一定)でないと、加工・気孔率のコントロールが難しくなると言う問題がある。通常、前記焼結体を製造する場合、次のI〜IIIの工程を経て製造される。
【0006】
すなわち、I:得られた粉体を仮焼きして、その後粉砕機により粉砕する。II:粉砕後の粉体と、例えばメチルセルロース水溶液等と混合する。III:この混合物を、ゲル化させ固めてブロック化する。
【0007】
ところが、前記工程Iにおいて、粉体の強度が一定でないと、粉砕条件(例えば、粉砕後の粉体の粒度分布等)が一定にならず、得られる焼結体の気孔率・強度が不安定になるという問題がある。
【0008】
また、クロマトグラフィーの固定層として用いる焼結粉体では、焼成前の粉体の強度が十分かつ一定でないと、カラムへの充填操作の際に焼結粉体が崩壊し、フィルターへの目詰まり等が原因となり、例えばタンパク質の分離操作が効率よく行えないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−137910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、得られる粉体の強度を調整することができ、かつこの粉体を均一な硬さで製造することができる粉体の製造方法、かかる粉体の製造方法により製造された粉体およびかかる粉体を備える吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(12)に記載の本発明により達成される。
(1) 第1の原料を含有する第1の液と、第2の原料を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させ、これらの合成物の凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、
前記スラリーを乾燥して、前記合成物の粉体を得る第2の工程とを有し、
前記第1の工程において、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定することにより、前記粉体の強度を調整することを特徴とする粉体の製造方法。
【0012】
これにより、得られる粉体の強度を調整することができるとともに、この粉体を均一な硬さで製造することができる。
【0013】
(2) 前記第1の工程において、前記第1の液に前記第2の液を滴下することにより、前記第1の原料と前記第2の原料とを反応させ、前記第1の液の初期温度を設定することにより、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定する上記(1)に記載の粉体の製造方法。
【0014】
これにより、第1の液と第2の液とを反応させる初期温度を確実に設定することができる。
【0015】
(3) 前記第1の液の初期温度を、0〜20℃に設定する上記(2)に記載の粉体の製造方法。
【0016】
これにより、第2の工程により得られる粉体の嵩密度を確実に向上させることができる。
【0017】
(4) 前記第1の液に前記第2の液を滴下する際に、前記第1の液と前記第2の液との混合液の温度が漸増する上記(2)または(3)に記載の粉体の製造方法。
【0018】
かかる条件で混合液中において合成物を合成することにより、第2の工程において得られる粉体は、特に、嵩密度が高いものとなる。
【0019】
(5) 前記第1の液に前記第2の液を滴下する際の雰囲気の温度は常温である上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の粉体の製造方法。
これにより、第1の液と第2の液との混合液の温度を漸増させることができる。
【0020】
(6) 前記第1の原料と前記第2の原料とを反応させて、前記スラリーが得られた際の該スラリーの温度は、30〜50℃である上記(5)に記載の粉体の製造方法。
これにより、第2の工程において得られる粉体は、さらに嵩密度が高いものとなる。
【0021】
(7) 前記合成物は、セラミックス材料である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【0022】
(8) 前記合成物は、リン酸カルシウム系化合物である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【0023】
(9) 前記第1の原料は、水酸化カルシウムであり、前記第2の原料はリン酸であり、前記合成物はハイドロキシアパタイトである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【0024】
本発明は、セラミックス材料、特に、リン酸カルシウム系化合物の一種であるハイドロキシアパタイトの粉体の製造に適している。
【0025】
(10) 上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の粉体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする粉体。
これにより、得られる粉体を、優れた粒子強度を有するものとすることができる。
【0026】
(11) ハイドロキシアパタイトの凝集体を含有するスラリーを乾燥して、前記凝集体を造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体であって、
当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、圧縮粒子強度を測定したとき、前記圧縮粒子強度が2.0MPa以上であることを特徴とする粉体。
【0027】
かかる圧縮粒子強度を有する粉体は、優れた粒子強度を有するものということができる。
【0028】
(12) 上記(10)または(11)に記載の粉体、または、当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を吸着剤として備える吸着装置。
【0029】
これにより、吸着剤に適用される粉体が優れた粒子強度を有しているものとすることができるため、この吸着剤をサイズの大きい分離カラムの吸着剤にも好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、第1の原料を含有する第1の液と、第2の原料を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させてリン酸カルシウム系化合物のような合成物を含むスラリーを得る第1の工程において、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定することにより、得られる粉体の強度を調整することができるとともに、この粉体を均一な硬さで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】スラリー中におけるハイドロキシアパタイトで構成される凝集体の粒度分布を示す図である。
【図2】水酸化カルシウム分散液に対してリン酸水溶液を滴下している間の温度の変化を示す図である。
【図3】水酸化カルシウム分散液に対してリン酸水溶液を滴下している間のpHの変化を示す図である。
【図4】ハイドロキシアパタイトの凝集体を含有するスラリーにおける凝集体の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の粉体の製造方法、粉体および吸着装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0033】
まず、本発明の粉体の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、第1の原料を含有する第1の液と、第2の原料を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させ、これらの合成物の凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、前記スラリーを乾燥して、前記合成物の粉体を得る第2の工程とを有する粉体の製造方法である。
【0034】
ここで、粉体とは、粉粒体、顆粒等を含む概念であり、その形状や形態等は、特に限定されない。
【0035】
本発明における合成物は、有機材料、無機材料のいずれでもよいが、無機材料が好ましく、特にセラミックス材料が好ましい。
【0036】
セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、イットリア等の酸化物系セラミックス、リン酸カルシウム系化合物、窒化珪素、窒化アルミ、窒化チタン、窒化ボロン等の窒化物系セラミックス、グラファイト、タングステンカーバイド等の炭化物系セラミックス、その他、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、PZT、PLZT、PLLZT等の強誘電体材料等が挙げられる。
【0037】
ここで、リン酸カルシウム系化合物は、例えば、生体材料、クロマトグラフィーの固定層用材料等に用いられており、その具体例としては、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられる。
【0038】
このうちハイドロキシアパタイトは、生体親和性に富み、生体材料、特に、医科用、歯科用の充填材、人工骨、人工歯根等に使用される。また、ハイドロキシアパタイトは、例えばタンパク質等の吸着能に特に優れている。
【0039】
本実施形態では、合成物として、代表的に、ハイドロキシアパタイトについて説明する。ただし、合成物は、これに限定されないことは、言うまでもない。
【0040】
本実施形態の粉体の製造方法は、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る工程S1と、スラリーを乾燥してハイドロキシアパタイトの粉体を得る工程S2とを有している。以下、これらの工程について、順次説明する。
【0041】
[S1:ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る工程(第1の工程)]
この工程では、水酸化カルシウム(第1の原料)を含有する水酸化カルシウム分散液(第1の液)と、リン酸(第2の原料)を含有するリン酸水溶液(第2の液)とを、攪拌しつつ、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させ、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る。
【0042】
具体的には、例えば、容器(図示せず)内で、水酸化カルシウム分散液(第1の液)を攪拌しつつ、この分散液に、リン酸水溶液(第2の液)を滴下し、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液との混合液を混合し、この混合液中で水酸化カルシウムとリン酸とを反応させて、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る。
【0043】
本実施形態では、リン酸(第2の原料)を水溶液として使用する湿式合成法が用いられる。これにより、高価な製造設備を必要とせず、より容易かつ効率よくハイドロキシアパタイト(合成物)を合成することができる。
【0044】
また、この反応を攪拌しつつ行うことにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応を効率よく進行させること、すなわち、それらの反応の効率を向上させることができる。
【0045】
さらに、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを含有する混合液を攪拌する攪拌力は、特に限定されないが、混合液(スラリー)1Lに対して、0.75〜2.0W程度の出力であるのが好ましく、0.925〜1.85W程度の出力であるのがより好ましい。攪拌力をこのような範囲とすることにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応の効率を、より向上させることができる。
【0046】
水酸化カルシウム分散液中における水酸化カルシウムの含有量は、5〜15wt%程度であるのが好ましく、10〜12wt%程度であるのがより好ましい。また、リン酸水溶液中におけるリン酸の含有量は、10〜25wt%程度であるのが好ましく、15〜20wt%程度であるのがより好ましい。水酸化カルシウムおよびリン酸の含有量を、かかる範囲内に設定することにより、水酸化カルシウム分散液を攪拌しつつ、リン酸水溶液を滴下する際の水酸化カルシウムとリン酸との接触機会が増大することから、水酸化カルシウムとリン酸とを効率よく反応させることができ、ハイドロキシアパタイトを確実に合成することができる。
【0047】
リン酸水溶液を滴下する速度は、1〜40L/時間程度であるのが好ましく、3〜30L/時間程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でリン酸水溶液を水酸化カルシウム分散液中に混合(添加)することにより、水酸化カルシウムとリン酸とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0048】
この場合、リン酸水溶液を滴下する時間(加える時間)は、5〜32時間程度かけて行うのが好ましく、6〜30時間程度かけて行うのがより好ましい。このような滴下時間で、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトを十分に合成することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、水酸化カルシウムとリン酸との反応の進行は、それ以上期待できない。
【0049】
ここで、水酸化カルシウムとリン酸との反応が徐々に進行すると、スラリー中には、ハイドロキシアパタイト(合成物)の微粒子(以下、単に「微粒子」と言う。)が生成する。そして、これらの微粒子同士は、一の微粒子の正に帯電している部分と、他の微粒子の負に帯電している部分との間にファンデルワールス力(分子間力)が働き、それらが凝集することにより、ハイドロキシアパタイト(合成物)の凝集体(以下、単に「凝集体」と言う。)が生成する。この凝集体の生成に伴い、スラリーの粘度は、徐々に上昇する。
【0050】
さらに、水酸化カルシウムとリン酸との反応が進行すると、スラリー中における正の電荷と負の電荷との割合が接近する。このとき、スラリー中では、微粒子に働く斥力が減少し、微粒子同士の凝集がさらに加速して、より粒径の大きな凝集体が形成される。
【0051】
このような凝集体は、本発明者の検討により、凝集体同士間の間で生じる引力と斥力の関係により、図1に示すように、その凝集体の大きさに従って粒度分布を求めたとき、その分布の頻度が大きくなる、二つのピークを有することが判っている。なお、本明細書中において、粒径が小さい方のピークにある凝集体を一次凝集体と言い、粒径が大きい方のピークにある凝集体を二次凝集体と言うこととする。
【0052】
ところで、ハイドロキシアパタイトが合成された後に、スラリーを攪拌する構成とし、この攪拌する攪拌力を制御することにより、一次凝集体および二次凝集体の粒径の大きさ、さらには、一次凝集体と二次凝集体との存在比を調整することができる。さらに、一次凝集体の存在比がより大きい凝集体を含有するスラリーを乾燥させることにより得られたハイドロキシアパタイト粉体は、粒子強度が強いものとなる。
【0053】
これに対して、本発明では、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを反応させる初期温度を設定することにより、ハイドロキシアパタイト粉体の強度を調整することに特徴を有する。
【0054】
このような水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを反応させる際の初期温度の設定では、本発明者の検討により、一次凝集体と二次凝集体との存在比が変化せず、次工程[S2]において、スラリー中に含まれる凝集体を乾燥させることにより得られる乾燥粉体の嵩密度が変化することが判っており、初期温度の設定による粒子強度の調整では、一次凝集体と二次凝集体との存在比とは異なる別の要因が寄与しているものと推察される。
【0055】
また、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを反応させる際の初期温度を設定することにより、乾燥粉体の嵩密度を均一なものとすることができるため、乾燥粉体を均一な粒子強度を有するものとすることができる。
【0056】
水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを反応させる際の初期温度の設定は、水酸化カルシウム分散液(第1の液)を攪拌しつつ、この分散液に、リン酸水溶液(第2の液)を滴下して、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させる場合、水酸化カルシウム分散液の初期温度を設定することにより行われる。
【0057】
そして、次工程[S2]において得られる乾燥粉体の嵩密度を向上させて、乾燥粉体の強度を向上させる場合、水酸化カルシウム分散液の初期温度を、0〜20℃程度に設定するのが好ましく、5〜10℃程度に設定するのがより好ましい。水酸化カルシウム分散液の初期温度をかかる範囲内に設定することにより、前記嵩密度を確実に向上させることができる。
【0058】
また、水酸化カルシウム分散液にリン酸水溶液を滴下する際の雰囲気の温度は、特に限定されないが、常温(25℃)程度であるのが好ましい。
【0059】
このような条件で、水酸化カルシウム分散液にリン酸水溶液を滴下すると、これらの液中に含まれる水酸化カルシウムとリン酸との反応が発熱反応であることから、水酸化カルシウム分散液にリン酸水溶液が滴下された混合液の温度は、水酸化カルシウム分散液の初期温度から漸増することとなる。かかる条件で混合液中においてハイドロキシアパタイトの微粒子を合成することにより、この微粒子をより緻密なものとすることができるため、次工程[S2]において得られる乾燥粉体は、特に、嵩密度が高いものとなる。
【0060】
そして、雰囲気の温度が常温であるため、混合液の温度が25℃を超えると混合液から雰囲気中へと熱が発散し、混合液の温度が漸増する傾きが低くなった状態で、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーが得られる。この際のスラリーの温度は、30〜50℃程度であるのが好ましく、30〜40℃程度であるのがより好ましい。かかる温度範囲でスラリーが得られるようにすることにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0061】
[S2:スラリーを乾燥してハイドロキシアパタイトの粉体を得る工程(第2の工程)]
この工程では、前記工程[S1]で得られたスラリーを乾燥することにより、ハイドロキシアパタイトを造粒させて、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体(乾燥粉体)を得る。
【0062】
この乾燥の方法としては、特に限定されないが、噴霧乾燥法が好適に使用される。かかる方法によれば、所望の粒径の粉体を、より確実かつ短時間で得ることができる。
【0063】
また、スラリーを乾燥する際の乾燥温度は、75〜250℃程度であるのが好ましく、95〜220℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、粒子強度(機械的強度)にも優れる粉体を得ることができる。
【0064】
製造する粉体の粒径(粉体の目的とする粒径)は、特に限定されないが、3〜300μm程度とするのが好ましく、10〜120μm程度とするのがより好ましい。
【0065】
なお、本実施形態の粉体の製造方法は、特に、目的とする粒径が10〜80μm程度(特に、15〜43μm程度)の粉体の製造に適している。
【0066】
なお、このような粉体(乾燥粉体)は、焼成(焼結)して焼結粉体とすることもできる。これにより、粉体(焼結粉体)の粒子強度をより向上させることができる。
【0067】
この場合、粉体を焼成する焼成温度は、200〜800℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。
以上のような工程を経て、ハイドロキシアパタイト(合成物)の粉体が得られる。
【0068】
なお、得られた粉体の粒子強度は、例えば、以下のようにして規定することができる。
すなわち、ハイドロキシアパタイト乾燥粉体を焼結して得られた焼結粉体を、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、この分級された焼結粉体で測定される圧縮粒子強度の大きさで規定することができる。
【0069】
このような条件で測定される圧縮粒子強度は、できる限り大きい方が好ましく、具体的には、2.0MPa以上であればよく、2.5〜4.5MPa程度であるのが好ましい。かかる大きさの圧縮粒子強度を有する焼結粉体は、高い粒子強度を有するものと判断することができる。
【0070】
以上のような粉体の製造方法で製造されたハイドロキシアパタイト粉体(乾燥粉体)または、このハイドロキシアパタイト粉体を焼成した焼結粉体は、クロマトグラフィー(吸着装置)が備える吸着剤(固定相)として適用される。
【0071】
そして、このようなクロマトグラフィーに、例えば、複数のタンパク質を含有する液体を通過させると、粉体(吸着剤)に吸着し、さらに、クロマトグラフィーに溶出液(緩衝液)を通過させると、各タンパク質と粉体との吸着性の差に基づいて、溶出液中に各タンパク質が順次分離される。
【0072】
これらの粉体をクロマトグラフィーの吸着剤として用いれば、被検体(例えばタンパク質等)の分離条件や吸着条件の選択の幅を広げることが可能である。したがって、かかるクロマトグラフィーは、さらに広い領域(分野)への適用が可能となる。
【0073】
また、このような粉体は、所望の形状に成形して成形体を得、かかる成形体を焼結させることにより焼結体とし、かかる焼結体が椎弓スペーサーや耳小骨等の人工骨、人工歯根等として好適に使用される。
【0074】
以上、本発明の粉体の製造方法、粉体および吸着装置について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0075】
例えば、本発明では、任意の目的で、工程[S1]の前工程、工程[S1]と[S2]との間に存在する中間工程、または工程[S2]の後工程を追加するようにしてもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、水酸化カルシウム分散液(第1の液)とリン酸水溶液(第2の液)とを反応させる初期温度を設定する目的(本発明の目的)を、得られる粉体の強度を高くすることとして説明したが、本発明の目的は、これに限定されるものではない。
【0077】
例えば、水酸化カルシウム分散液(第1の液)とリン酸水溶液(第2の液)とを反応させる初期温度を適宜調整することにより、所望の強度を有する粉体を得ることができる。具体的には、合成物がハイドロキシアパタイトの場合、前記初期温度を30〜40℃程度の範囲に設定することにより、比較的強度の低い粉体を得ることができる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.ハイドロキシアパタイトの製造
【0079】
(実施例1)
まず、水酸化カルシウム5000gを純水40Lに分散させ、この水酸化カルシウム分散液をタンクに入れて攪拌しつつ、このものにリン酸水溶液(リン酸濃度19.8wt%)20Lを3L/時間の速度で滴下した。これにより、10wt%のハイドロキシアパタイトを含有するスラリー70Lを得た。
【0080】
なお、水酸化カルシウム分散液にリン酸水溶液を滴下する前、すなわち反応開始前における水酸化カルシウム分散液の初期温度を10℃とした。
また、滴下中の雰囲気の温度は、常温(25℃)とした。
【0081】
さらに、前記分散液にリン酸水溶液を滴下した混合液を攪拌する攪拌力は、混合液(スラリー)1Lに対して1.7Wの出力とした。
【0082】
なお、リン酸水溶液を滴下中の混合液(スラリー)の温度とpHとを10分毎に測定した。また、得られたスラリーを500mL採取した。
【0083】
以上のようにして得られたスラリーを、噴霧乾燥機(マツボー社製、「MAD−6737R」)を用いて、210℃で噴霧乾燥することにより、スラリー中に含まれるハイドロキシアパタイトを造粒させて球状の乾燥粉体を得、得られた乾燥粉体(ハイドロキシアパタイト粉体)を中心粒径約40μmで分級した。
【0084】
なお、乾燥粉体がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0085】
(実施例2)
反応開始前における水酸化カルシウム分散液の初期温度を30℃としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥粉体(ハイドロキシアパタイト乾燥体)を得た。
【0086】
(実施例3)
反応開始前における水酸化カルシウム分散液の初期温度を40℃としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥粉体(ハイドロキシアパタイト乾燥体)を得た。
【0087】
2.評価
2−1.スラリーの温度およびpHの評価
実施例1〜3で、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含有するスラリーを得る際に測定した混合液(スラリー)の温度およびpHの測定結果を、それぞれ、図2および図3に示す。
【0088】
図2に示すように、各実施例のスラリーの温度は、それぞれの初期温度から漸増する結果が得られた。なお、実施例3では、水酸化カルシウムとリン酸との反応による発熱と、混合液から雰囲気中への放熱とがほぼ定常状態に達し、初期温度から漸増する漸増幅は、実施例1および実施例2と比較して小さいものであった。
【0089】
また、図3に示すように、各実施例のスラリーのpHは、各実施例間において殆ど変化が認められなかった。このことから、ハイドロキシアパタイトを得る際の反応開始前における水酸化カルシウム分散液の初期温度を変化させることによっては、スラリーのpHに変化が認められないことが判った。
【0090】
2−2.ハイドロキシアパタイト凝集体の粒度分布の評価
実施例1〜3で得られたハイドロキシアパタイトの凝集体を含有するスラリーについて、それぞれ、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、「MT3300」)を用いて、スラリー中に含まれるハイドロキシアパタイトの凝集体の粒度分布を求めた。
その測定結果を図4に示す。
【0091】
図4に示すように、実施例1〜3で得られたハイドロキシアパタイトの凝集体の粒度分布は、各実施例間において殆ど変化が認められなかった。このことから、ハイドロキシアパタイトを得る際の反応開始前における水酸化カルシウム分散液の初期温度を変化させることによっては、ハイドロキシアパタイト凝集体の粒度分布に変化が認められないことが判った。
【0092】
2−3.ハイドロキシアパタイト粉体の強度および嵩密度の評価
実施例1〜3の乾燥粉体(ハイドロキシアパタイト粉体)について、それぞれ、マルチテスター(セイシン企業社製、「MT−1001」)を用いて、その嵩密度を求めた。
【0093】
また、実施例1〜3の乾燥粉体について、それぞれ、微小圧縮試験機(島津製作所社製、「MCT−W200−J」)を用いて、その圧縮粒子強度を求めた。
【0094】
さらに、実施例1〜3の乾燥粉体を、それぞれ、大気中、700℃×4時間の条件で焼成し、得られた焼結粉体(ハイドロキシアパタイト焼結体)についても同様に、前記微小圧縮試験機を用いて、その圧縮粒子強度を求めた。なお、圧縮粒子強度は、いずれも粒子10個の平均値である。
その測定結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から明らかなように、実施例1〜3の乾燥粉体のうち、水酸化カルシウム分散液の初期温度が低く設定されたものほど、その嵩密度が高くなる傾向を示し、これに起因して、乾燥粉体の圧縮粒子強度、さらには焼結粉体の圧縮粒子強度が高くなることが明らかとなった。すなわち、乾燥粉体および焼結粉体の圧縮粒子強度は、水酸化カルシウム分散液の初期温度を低く設定することにより、この初期温度に相関して高くなることが判った。
【0097】
そのため、水酸化カルシウム分散液の初期温度を適宜設定することにより、所望の圧縮粒子強度を有する乾燥粉体および焼結粉体を製造し得ることが判った。
【0098】
特に、水酸化カルシウム分散液の初期温度を10℃に設定した実施例1の乾燥粉体を焼結して得られた焼結粉体は、その圧縮粒子強度が2.5MPa以上を示し、優れた粒子強度を有することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原料を含有する第1の液と、第2の原料を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させ、これらの合成物の凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、
前記スラリーを乾燥して、前記合成物の粉体を得る第2の工程とを有し、
前記第1の工程において、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定することにより、前記粉体の強度を調整することを特徴とする粉体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記第1の液に前記第2の液を滴下することにより、前記第1の原料と前記第2の原料とを反応させ、前記第1の液の初期温度を設定することにより、前記第1の液と前記第2の液とを反応させる初期温度を設定する請求項1に記載の粉体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の液の初期温度を、0〜20℃に設定する請求項2に記載の粉体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の液に前記第2の液を滴下する際に、前記第1の液と前記第2の液との混合液の温度が漸増する請求項2または3に記載の粉体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の液に前記第2の液を滴下する際の雰囲気の温度は常温である請求項2ないし4のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の原料と前記第2の原料とを反応させて、前記スラリーが得られた際の該スラリーの温度は、30〜50℃である請求項5に記載の粉体の製造方法。
【請求項7】
前記合成物は、セラミックス材料である請求項1ないし6のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【請求項8】
前記合成物は、リン酸カルシウム系化合物である請求項1ないし7のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の原料は、水酸化カルシウムであり、前記第2の原料はリン酸であり、前記合成物はハイドロキシアパタイトである請求項1ないし8のいずれかに記載の粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の粉体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする粉体。
【請求項11】
ハイドロキシアパタイトの凝集体を含有するスラリーを乾燥して、前記凝集体を造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体であって、
当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、圧縮粒子強度を測定したとき、前記圧縮粒子強度が2.0MPa以上であることを特徴とする粉体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の粉体、または、当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を吸着剤として備える吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−280521(P2010−280521A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133531(P2009−133531)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】