説明

粉体塗料及びプライマー

【課題】本発明は、耐熱密着性に優れた塗膜を得ることができる粉体塗料及びプライマーを提供する。
【解決手段】本発明は、クロロトリフルオロエチレン共重合体を含有する粉体塗料又はプライマーであって、上記クロロトリフルオロエチレン共重合体は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、並びに、クロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成され、上記クロロトリフルオロエチレン単位及び上記テトラフルオロエチレン単位は、合計で90〜99.9モル%であり、上記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料及びプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
化学・医療用器具や、半導体製造設備の配管材料等は、通常、使用時に化学薬品等と接触するので、化学薬品等に対する抵抗性を備えたものとすることが望ましい。フッ素樹脂は、耐熱性、耐食性、非粘着性、潤滑性に優れることから、これらの用途に適している。フッ素樹脂の使用方法としては、例えば、塗料に含有させて、基材に塗布して塗布膜を得、必要に応じて乾燥した後、焼成することにより、フッ素樹脂を含有する塗膜を形成する方法等がある。
【0003】
フッ素樹脂は、一般に耐熱性に優れたものであるが、塗料として塗布した直後はある程度の密着性を有している場合であっても、熱水や高温等の過酷条件下にあっては、密着性が低下し、塗膜にクラックを生じたり、被塗装物から塗膜が剥離する等の塗膜欠陥を生じることがあるという問題があった。
【0004】
この問題を解決することを目的として、プライマー層がETFE(A)とバインダー成分とからなるものであり、表面層がETFE(B)からなるものであり、ETFE(B)のフッ素含有率がETFE(A)のフッ素含有率以上であるETFEライニング部材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、高分子材料及び平均粒子径が0.1〜30μmである溶融性フッ素樹脂を配合して得られる含フッ素塗料組成物であって、上記溶融性フッ素樹脂と上記高分子材料との容量比は、上記溶融性フッ素樹脂:上記高分子材料が35:65〜95:5である含フッ素塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/068499号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/090450号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、水の透過性が小さく、耐熱密着性が更に優れた皮膜を得ることができる粉体塗料及びプライマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クロロトリフルオロエチレン共重合体を含有する粉体塗料であって、上記クロロトリフルオロエチレン共重合体は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、並びに、クロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成され、上記クロロトリフルオロエチレン単位及び上記テトラフルオロエチレン単位は、合計で90〜99.9モル%であり、上記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%であることを特徴とする粉体塗料である。
【0008】
本発明は、上記粉体塗料から形成されることを特徴とするフッ素樹脂皮膜である。
【0009】
本発明は、基材、上記基材上に形成されたプライマー皮膜、及び、上記プライマー皮膜上に上記粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品である。
【0010】
本発明は、クロロトリフルオロエチレン共重合体、耐熱性樹脂及び分散媒を含有するプライマーであって、上記クロロトリフルオロエチレン共重合体は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、並びに、クロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成され、上記クロロトリフルオロエチレン単位及び上記テトラフルオロエチレン単位は、合計で90〜99.9モル%であり、上記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%であり、上記クロロトリフルオロエチレン共重合体と上記耐熱性樹脂との固形分比は、質量基準で40:60〜90:10であることを特徴とするプライマーである。
【0011】
本発明は、上記プライマーから形成されることを特徴とするプライマー皮膜である。
【0012】
本発明は、基材、上記基材上に上記プライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、上記プライマー皮膜上に形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品である。
【0013】
本発明は、基材、上記基材上に上記プライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、上記プライマー皮膜上に上記粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品である。
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の粉体塗料及びプライマーはクロロトリフルオロエチレン共重合体を含有することを特徴とし、これによって、優れた耐熱密着性を示す皮膜を得ることができる。
【0016】
上記クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、「CTFE共重合体」という。)は、クロロトリフルオロエチレン単位〔CTFE単位〕、テトラフルオロエチレン単位〔TFE単位〕、並びに、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕及びテトラフルオロエチレン〔TFE〕と共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成されるものである。
【0017】
本明細書において、上記「CTFE単位」及び「TFE単位」は、CTFE共重合体の分子構造上、それぞれ、クロロトリフルオロエチレンに由来する部分〔−CFCl−CF−〕、テトラフルオロエチレンに由来する部分〔−CF−CF−〕であり、上記「単量体〔A〕単位」は、同様に、CTFE共重合体の分子構造上、単量体〔A〕が付加してなる部分である。
【0018】
上記単量体〔A〕としては、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、また、少なくとも1種であれば2種以上であってもよいが、エチレン〔Et〕、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、下記一般式(I)
CX=CX(CF (I)
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、下記一般式(III)
CF=CF−OCH−Rf (III)
(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0019】
上記単量体〔A〕は、Et、VdF、PAVE及び上記一般式(I)で表されるビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
上記単量体〔A〕は、PAVEとして、上記一般式(I)で表されるビニル単量体として、及び/又は、上記一般式(III)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体として、それぞれ1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記一般式(I)で表されるビニル単量体としては特に限定されないが、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、パーフルオロ(1,1,2−トリハイドロ−1−ヘキセン)、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)、下記一般式(IV)
C=CXRf (IV)
(式中、Xは、H、F又はCFであり、Rfは、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロ(アルキル)エチレン等が挙げられる。
【0022】
上記パーフルオロ(アルキル)エチレンとしては、パーフルオロ(ブチル)エチレンが好ましい。
【0023】
上記一般式(III)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0024】
上記PAVEとしては、下記一般式(II)
CF=CF−ORf (II)
(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)であることが更に好ましい。上記一般式(II)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロビルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられ、なかでもパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、又は、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。
【0025】
従来、CTFEとビニルエーテルとは共重合性に劣る傾向にあったが、上記CTFE共重合体は、TFEをも共重合させることにより、PAVE及び/又はフッ素非含有ビニルエーテルを比較的高い共重合割合で共重合することを可能にしたものである。
【0026】
上記単量体〔A〕としては、また、CTFE及びTFEと共重合可能な不飽和カルボン酸類を用いてもよい。
【0027】
上記不飽和カルボン酸類としては特に限定されず、例えば、炭素数3〜6の不飽和脂肪族カルボン酸類等が挙げられ、炭素数3〜6の不飽和脂肪族ポリカルボン酸類であってもよい。
【0028】
上記不飽和脂肪族ポリカルボン酸類としては特に限定されず、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0029】
上記単量体〔A〕は、2種以上であってもよいが、そのうちの1種がVdF、PAVE及び/又はHFPである場合、イタコン酸、シトラコン酸及びそれらの酸無水物と併用しなくてもよい。
【0030】
上記CTFE共重合体は、TFEを必須単量体とし、更に、上記単量体〔A〕を後述の特定割合にて付加させて得られたものであることにより、耐熱性、成形性、耐ストレスクラック性、耐薬品性を向上することができたものである。
【0031】
上記CTFE共重合体は、また、従来ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕の特徴として知られていたガスバリア性、水蒸気低透過性のみならず、PCTFEの性質として従来知られていなかった薬液等の液体低透過性をも有するものである。
【0032】
上記CTFE共重合体において、上記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%であり、CTFE単位及び上記TFE単位は、合計で90〜99.9モル%である。上記単量体〔A〕単位が0.1モル%未満であると、成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%を超えると、薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性等に劣る傾向にある。
【0033】
上記単量体〔A〕がPAVEである場合、上記単量体〔A〕単位のより好ましい下限は、0.5モル%、より好ましい上限は、5モル%、更に好ましい上限は、3モル%である。
【0034】
上記CTFE共重合体における上記単量体〔A〕単位の割合は、19F−NMR等の分析により得られる値であり、具体的には、NMR分析、赤外分光光度計[IR]、元素分析、蛍光X線分析をモノマーの種類により適宜組み合わせて得られる値である。
【0035】
上記CTFE単位は、上記CTFE単位とTFE単位との合計の10〜90モル%であることが好ましい。上記CTFE単位とTFE単位との合計に占めるCTFE単位が10モル%未満であると、薬液低透過性が不充分となる場合があり、90モル%を超えると、重合速度が急激に低下し、生産性が低下するだけでなく、耐薬品性が低下したり、耐熱性が不充分となったりする場合がある。より好ましい下限は、15モル%、更に好ましい下限は、20モル%、より好ましい上限は、80モル%、更に好ましい上限は、70モル%、特に好ましい上限は、55モル%である。
【0036】
上記CTFE単位は、上記単量体〔A〕としてPAVEを用いる場合、上記CTFE単位とTFE単位との合計に対して幅広く選択することができ、より好ましくは、15〜90モル%、更に好ましくは、20〜90モル%とすることができる。
【0037】
上記CTFE共重合体は、単量体に由来するポリマー鎖部分が上記CTFE単位、TFE単位及び単量体〔A〕単位から構成されるものであれば、ポリマー鎖末端が上記CTFE単位、TFE単位、及び、単量体〔A〕単位とは異なる化学構造であるものであってよい。上記ポリマー鎖末端としては特に限定されず、例えば、後述の不安定末端基であってもよい。
【0038】
上記CTFE共重合体は、300℃以上の成形温度にて溶融成形する場合、炭素数10個あたり不安定末端基が80個以下であるものが好ましい。炭素数10個あたり80個を超えると、成形温度が300℃以上における溶融成形時に発泡を生じやすい。より好ましい上限は40個、更に好ましい上限は、20個、特に好ましい上限は、6個である。上記不安定末端基数は、上記範囲内であれば、測定限界の観点で下限を例えば、1個とすることができる。
【0039】
300℃未満の成形温度にて溶融成形する場合、炭素数10個あたり不安定末端基数が80個を超えるものが好ましい。300℃未満の成形温度にて溶融成形する場合、炭素数10個あたり80個以下であると、接着性が低下することがある。より好ましい下限は100個、更に好ましい下限は150個、特に好ましい下限は180個、最も好ましい下限は220個である。300℃未満の成形温度にて溶融成形する場合、上記不安定末端基数は、上記範囲内であれば、生産性の観点で、上限を、例えば、500個とすることができる。
【0040】
上記不安定末端基は、通常、連鎖移動剤又は重合時に用いた重合開始剤が付加したことにより主鎖末端に形成されるものであり、連鎖移動剤又は重合開始剤の構造に由来するものである。
【0041】
本明細書において、上記「不安定末端基」は、−CFCHOH、−CONH、−COF、−COOH、−COOCH、−CF=CF、又は、−CFHである。上記不安定末端基としては、なかでも、−CFCHOH、−CONH、−COF、−COOH、及び、−COOCHが接着性、溶融成形時の発泡に影響しやすい。
【0042】
上記不安定末端基の数は、赤外分光光度計〔IR〕を用いて測定し得られる値である。上記不安定末端基の数は、具体的には、上記CTFE共重合体の粉末を融点より50℃高い成形温度、5MPaの成形圧力にて圧縮成形することにより得られた厚み0.25〜0.30mmのフィルムシートを、赤外吸収スペクトル分析し、既知のフィルムの赤外吸収スペクトルと比較して種類を決定し、その差スペクトルから次式により算出した個数である。
【0043】
末端基の個数(炭素数10個あたり)=(l×K)/t
l:吸光度
K:補正係数
t:フィルム厚(mm)
対象となる末端基の補正係数を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の補正係数は炭素数10個あたりの末端基を計算するためにモデル化合物の赤外吸収スペクトルから決定する値である。
【0046】
上記CTFE共重合体は、300℃未満の温度にて溶融成形あるいは加熱処理をする場合、接着機能性官能基を有するものが好ましい。本明細書において、接着機能性官能基とは、上記CTFE共重合体に含まれる重合体の分子構造の一部分であって、上記CTFE共重合体と基材との接着性に関与し得るものを意味する。上記接着機能性官能基は、このような接着性に関与し得るものであれば、官能基と通常称されるもののみならず、エーテル結合等の結合と通常称される構造をも含む概念である。
【0047】
上記接着機能性官能基としては、フッ素樹脂と基材との接着性に関与し得るものであれば特に限定されず、例えば、カルボニル基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。本明細書において、上記「カルボニル基」は、炭素−酸素二重結合から構成される炭素2価の基であり、−C(=O)−で表されるものに代表される。上記カルボニル基としては特に限定されず、例えば、カーボネート基、ハロゲノホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合[−C(=O)O−]、酸無水物結合[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基、アミド基、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]等の化学構造上の一部分であるもの等が挙げられる。
【0048】
上記カーボネート基は、−OC(=O)O−R(式中、Rは、有機基を表す。)で表されるものである。上記式中のRである有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜20のアルキル基等が挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜4のアルキル基等であることが好ましい。上記カーボネート基としては、例えば−OC(=O)OCH、−OC(=O)OC、−OC(=O)OC17、−OC(=O)OCHCHCHOCHCH等が好ましく挙げられる。
【0049】
上記アミド基は、下記一般式
【0050】
【化1】

【0051】
(式中、Rは、水素原子又は有機基を表し、Rは、有機基を表す。)で表される基である。
【0052】
上記アミド基、イミド基、ウレタン結合、カルバモイル基、カルバモイルオキシ基、ウレイド基、オキサモイル基等の窒素原子に結合する水素原子は、例えばアルキル基等の炭化水素基により置換されていてもよい。
【0053】
上記接着機能性官能基は、導入が容易である点、及び、得られる皮膜が適度な耐熱性と比較的低温での良好な接着性とを有する点で、アミド基、カルバモイル基、水酸基、カルボキシル基、カーボネート基が好ましく、なかでも、カーボネート基がより好ましい。
【0054】
上記CTFE共重合体は、接着機能性官能基を有するものである場合、上記接着機能性官能基を主鎖末端又は側鎖の何れかに有する重合体からなるものであってもよいし、主鎖末端及び側鎖の両方に有する重合体からなるものであってもよい。主鎖末端に接着機能性官能基を有する場合は、主鎖の両方の末端に有していてもよいし、何れか一方の末端にのみ有していてもよい。上記CTFE共重合体は、上記接着機能性官能基を主鎖末端及び/若しくは側鎖に有するとともに又はこれらに代え、接着機能性官能基がエーテル結合等の結合と通常称される構造である場合、該接着機能性官能基を主鎖中に有するものであってもよい。上記CTFE共重合体は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体からなるものが、機械特性、耐薬品性を著しく低下させない理由で、又は、生産性、コスト面で有利である理由で好ましい。
【0055】
上記CTFE共重合体は、側鎖に接着機能性官能基を有する重合体からなるものである場合、接着機能性官能基含有単量体を、目的のフッ素樹脂に応じた種類並びに配合のフッ素含有単量体及び/又はフッ素非含有単量体と共重合させることにより得ることができる。本明細書において、上記「接着機能性官能基含有単量体」とは、接着機能性官能基を有する単量体を意味する。上記接着機能性官能基含有単量体はフッ素原子を有していてもよいし有していなくてもよいが、上述したフッ素含有単量体及びフッ素非含有単量体は、接着機能性官能基を有しないものであり、この点で、接着機能性官能基を有する接着機能性官能基含有単量体とは概念上区別される。
【0056】
接着機能性官能基含有単量体としては、下記一般式(V)
CX=CY−(Rf−Z (V)
(式中、Zは、ヒドロキシル基、カルボニル基又はアミノ基を有する官能基を表し、X及びYは、同一又は異なって、水素原子若しくはフッ素原子を表し、Rfは、炭素数1〜40のアルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基、エーテル結合を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、又は、エーテル結合を有する炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基を表し、nは、0又は1を表す。)で表される不飽和化合物が好ましい。本明細書において、上記「ヒドロキシル基、カルボニル基又はアミノ基を有する官能基」とは、ヒドロキシル基であってもよいし、カルボニル基であってもよいし、アミノ基であってもよいし、これらの接着機能性官能基の何れかを有する官能基であってもよいことを意味する。
【0057】
上記接着機能性官能基含有単量体は、また、不飽和二塩基酸のモノエステル、ビニレンカーボネート、無水マレイン、マレイン酸等であってもよい。
【0058】
上記CTFE共重合体は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体であって、上記接着機能性官能基がカーボネート基である重合体からなるものである場合、パーオキシカーボネートを重合開始剤として用いて重合する方法により得ることができる。上記方法を用いると、カーボネート基の導入及び導入の制御が非常に容易であることや、経済性の面、耐熱性、耐薬品性等の品質面等から好ましい。
【0059】
上記パーオキシカーボネートとしては、下記式
【0060】
【化2】

【0061】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基を表す。)で表される化合物が好ましい。
【0062】
なかでも、上記パーオキシカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましい。
【0063】
上記CTFE共重合体は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体であって、上記接着機能性官能基がカーボネート基以外である重合体からなるものである場合、上述のカーボネート基を導入する場合と同様に、パーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシアルコール等のパーオキサイドを重合開始剤として用いて重合することにより、パーオキサイドに由来する接着機能性官能基を導入することができる。なお、「パーオキサイドに由来する」とは、パーオキサイドに含まれる官能基から直接導入されるか、又は、パーオキサイドに含まれる官能基から直接導入された官能基を変換することにより間接的に導入されることを意味する。
【0064】
パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等の上記重合開始剤の使用量は、目的とするフッ素樹脂の種類や組成、分子量、重合条件、使用する開始剤の種類等によって異なるが、得られる重合体100質量部に対して0.05〜20質量部であることが好ましく、特に好ましい下限は0.1質量部であり、特に好ましい上限は10質量部である。
【0065】
上記CTFE共重合体を得るための重合方法としては特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられるが、工業的にはフッ素系溶媒を用い、重合開始剤としてパーオキシカーボネート等を使用した水性媒体中での懸濁重合が好ましい。
【0066】
上記懸濁重合においては、フッ素系溶媒を水に添加して使用することができる。懸濁重合に用いるフッ素系溶媒としては、例えば、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性及び経済性の面から、水に対して10〜100質量%が好ましい。
【0067】
重合温度としては特に限定されず、0〜100℃であってよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常、0〜9.8MPaGであってよい。
【0068】
上記CTFE共重合体を得るための重合において、分子量調整のために、通常の連鎖移動剤、例えば、イソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。パーオキサイド由来の末端のカーボネート基等の接着機能性官能基の含有量は、パーオキシカーボネート等の重合開始剤の使用量、連鎖移動剤の使用量、重合温度等の重合条件によって制御できる。
【0069】
上記CTFE共重合体としては特に限定されず、例えば、CTFE/TFE/HFP共重合体、CTFE/TFE/VdF共重合体、CTFE/TFE/PAVE共重合体、CTFE/TFE/HFP/PAVE共重合体、CTFE/TFE/VdF/PAVE共重合体、CTFE/TFE/Et共重合体、CTFE/TFE/Et/PAVE共重合体等が挙げられ、CTFE/TFE/PAVE共重合体が好ましい。
【0070】
上記CTFE共重合体は、樹脂、エラストマーの何れを構成するポリマーであってもよいが、好ましくは、樹脂を構成するものである。
【0071】
上記CTFE共重合体としては、メルトフローレート〔MFR〕が0.1〜70(g/10分)であるものが好ましい。MFRが上記範囲内であると耐ストレスクラック性に優れたものとなる。上記MFRのより好ましい下限は、1(g/10分)、より好ましい上限は、50(g/10分)である。
【0072】
上記MFRは、メルトインデクサーを用い、融点より70℃高い温度、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するCTFE共重合体の質量を測定し得られる値である。
【0073】
上記CTFE共重合体としては、融点〔Tm〕が150〜300℃であるものが好ましい。より好ましい下限は、160℃、更に好ましい下限は、170℃、より好ましい上限は、290℃である。
【0074】
上記融点〔Tm〕は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークに対応する温度である。
【0075】
上記CTFE共重合体としては、加熱試験に供したCTFE共重合体の1質量%が分解する温度〔Tx〕が370℃以上であるものが好ましい。より好ましい下限は、380℃、更に好ましい下限は、390℃である。上記熱分解温度〔Tx〕は、上記範囲内であれば上限を、例えば、450℃とすることができる。
【0076】
上記熱分解温度〔Tx〕は、示差熱・熱重量測定装置〔TG−DTA〕を用いて加熱試験に供したCTFE共重合体の質量が1質量%減少する時の温度を測定することにより得られる値である。
【0077】
上記CTFE共重合体としては、上記融点〔Tm〕と、CTFE共重合体の1質量%が分解する温度〔Tx〕との差〔Tx−Tm〕が150℃以上であることが好ましい。150℃未満であると、成形可能な範囲が狭すぎて成形条件の選択の幅が小さくなる。上記CTFE共重合体は、成形可能な温度範囲が上述のように広いので、共押出成形を行う場合、相手材として高融点ポリマーを用いることができる。上記差〔Tx−Tm〕のより好ましい下限は、170℃である。上記差〔Tx−Tm〕は、上記範囲内であれば成形条件の選択の幅が充分に広い点で、上限を、例えば210℃とすることができる。
【0078】
本発明の粉体塗料は、上記CTFE共重合体の粉末を含有するものである。
【0079】
CTFE共重合体粉末は、上記重合方法により得られたCTFE共重合体原末をロールなどを使用して真比重(溶融成形品の比重)の90%以上となる比重が得られる条件で高密度化し、粉砕した後、気流分級によって粉砕物の粒度分布全体の3〜40質量%の範囲の微粒子および繊維状粒子を除去し、さらに分級によって粉砕物の粒度分布全体の1〜20質量%の粗粒子を除去する方法により製造することが望ましい。また、粗粒子の分級後にフッ素系重合体粉末の融解開始温度以上で熱処理すれば、より一層望ましい。
【0080】
まず、CTFE共重合体原末をロールなどを使用して、真比重の90%以上、好ましくは95〜99%が得られる条件で圧縮してシート化する。圧縮後の比重が真比重の90%未満の場合には、粉砕後に得られる粒子の見掛密度が低く粉末の流動性が悪い。また、圧縮後の比重が真比重の99%を超える場合には、粉砕後に得られる粒子は不均一な形状となり、やはり見掛密度が低く粉末の流動性が悪くなる。
【0081】
ロールによるシート化では、シート厚さを0.05〜5mm、好ましくは0.1〜3mmとする。使用するロールは、2本以上のロールが垂直型、逆L型、Z型などに配置されたものが好ましく、具体的にはカレンダーロール、ミキシングロール、ローラーコンパクターなどが挙げられる。このようなロールを使用した場合には、シート化時にCTFE共重合体原末に強力なずり剪断力がかかり、原末中に存在する気孔や気泡が除去されて均一なシートを得ることが可能となる。0〜250℃、好ましくは5〜150℃の温度において、乳白色ないし透明となるような条件でシートを製造することが好ましい。
【0082】
シートの粉砕は、解砕機によって平均粒径が0.1〜10mmとなるように解砕した後、粉砕機によって粉砕する方法が一般的である。
【0083】
解砕は、解砕粒子径の大きさの孔を有するスクリーンやメッシュを固定して解砕するか、溝またはうねりを有する凹凸になったロールを数段通過させることにより解砕して、平均粒径を0.1〜10mmとすることが好ましい。
【0084】
粉砕は機械的粉砕機によって行うことが一般的である。機械的粉砕機にはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどの衝撃式や、回転刃と外周ステーターが凹凸による剪断力で粉砕する摩砕式などがある。粉砕機は高剪断による方式が粉砕効率の点で優れており好ましい。粉砕温度は−200〜100℃である。冷凍粉砕では通常−200〜−100℃であるが、室温(10〜30℃)で粉砕してもよい。冷凍粉砕では一般に液体窒素を使用するが、設備が膨大で粉砕コストも高くなる。工程が簡素となる点、粉砕コストを抑えることができる点で、室温(10℃)〜100℃、好ましくは、室温付近の温度(10℃〜30℃)で粉砕することが適当である。得られる粉末粒子は微粒子の凝集体あるいはペレットを粉砕したような不均一な形態ではなく、均一に整った粒度分布を有し、その平均粒径は5〜100μmである。
【0085】
微粒子や繊維状粒子を気流分級により除去した後に、さらに分級により粗粒子を除去する。
【0086】
気流分級においては、粉砕された粒子が減圧空気により円柱状の分級室に送られ、室内の旋回気流により分散され、遠心力によって微粒子が分級される。微粒子は中央部からサイクロンおよびバグフィルターへ回収され、再度シート化される。分級室内には、粉砕粒子と空気が均一に旋回運動を行うために円錐状のコーンまたはローターなどの回転体が設置されている。
【0087】
分級コーンを使用する場合には、分級点の調節は二次エアーの風量と分級コーン間の隙間を調節することにより行う。ローターを使用する場合には、ローターの回転数により分級室内の風量を調節する。ブロアーの風圧は0.1〜1MPa、好ましくは0.3〜0.6MPaである。分級範囲は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%であり、3〜40質量%の微粒子や繊維状粒子が除去される。除去される微粒子が3質量%未満の場合には粉末の流動性を改良することができず、また粒度分布が著しく広いために形成された皮膜のレベリング性が劣る。一方、除去される微粒子が40質量%を超える場合にはコストの点で不適である。
【0088】
粗粒子の除去方法としては、メッシュによる気流分級、振動篩または超音波篩などが挙げられるが、気流分級が好ましい。粒径による分級範囲は粉砕物の粒度分布全体の1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%であり、この範囲の粗粒子が除去される。
【0089】
気流分級において回収された微粒子や繊維状粒子は原末と同様に再度シート化することができる。また、メッシュによる気流分級または振動篩において分級された粗粒子は再度粉砕機へ戻してリサイクルすることができる。
【0090】
分級された粉末を、連続気流式加熱乾燥機などを使用してフッ素系重合体粉末の融解開始温度以上の気流に瞬間的に接触させると、粉末粒子表面が丸みを帯び、見掛密度および粉末の流動性をさらに向上して、好ましい塗装用粉末を得ることができる。
【0091】
連続気流式加熱乾燥の接触温度は1000℃以下、好ましくは200〜800℃であり、接触時間は0.1〜10秒である。熱源はガス加熱が省エネルギーの点で好ましい。熱処理した粉末は、さらに粗粒子を気流式篩または振動篩により分級して除去し、粒度分布の狭い粉末を得ることができる。
【0092】
こうして得られる粉末は5〜30μm厚の超薄膜塗装が可能となる。レベリング性に優れた超薄膜を得ようとする場合には、粉末の形状が整っていること、見掛密度が高いこと、粉末の流動性が優れること、熱溶融しやすいことが求められる。また、粉末の平均粒径は5〜30μm、好ましくは10〜25μmである。上記の条件が満たされない場合には、皮膜にピンホールが発生したり、表面が柚肌になったりすることがある。
【0093】
上記粉体塗料は、粉体粒子の平均粒子径が10〜1000μmであることが好ましい。10μm未満であると、静電塗装が困難となりやすく、1000μmを超えると、ロトライニングで使用したときの平滑性が悪化しやすい。上記粉体粒子の平均粒子径は、目的により決められ、一般的に、乾燥膜厚が100μm以下である薄塗り用粉体塗料の場合、20〜40μmが好ましく、厚塗り用粉体塗料の場合、40〜80μmが好ましく、ロトライニング用粉体塗料の場合、200〜500μmが好ましい。
【0094】
本発明の粉体塗料は、必要に応じ、上記CTFE共重合体以外のその他の樹脂を含有するものであってもよい。上記その他の樹脂としては、通常、粉体塗料に用い得る樹脂であれば特に限定されず、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れであってもよい。上記その他の樹脂は、耐熱性樹脂であることが好ましく、上記CTFE共重合体を塗装する際に加熱する温度で分解しないものがより好ましい。上記耐熱性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、フルオロシリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。上記その他の樹脂は、1種又は2種以上を用いるものであってよい。
【0095】
本発明の粉体塗料は、上記CTFE共重合体とともに、必要に応じ、添加剤等を含有するものであってよい。上記添加剤としては一般的な粉体塗料に添加されるものであれば特に限定されず、例えば、着色を目的として、酸化チタン、酸化コバルト等の着色顔料;防錆等を目的として、防錆顔料、焼成顔料等のその他の顔料;皮膜の収縮率の低減を目的とし、また、皮膜の硬度を高めて傷付き易さを改良するために、カーボン繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ等のフィラー;導電性付与を目的として、導電性カーボン等の導電性付与材等が挙げられる。上記添加剤は、また、レベリング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤等であってもよい。
【0096】
本発明は、本発明の粉体塗料から形成されることを特徴とするフッ素樹脂皮膜でもある。本発明のフッ素樹脂皮膜は、本発明の粉体塗料から形成されたものであるので、非常に優れた耐熱密着性を示す。上記耐熱密着性は、ブリスターの程度で評価することができる。また、本発明のフッ素樹脂皮膜は、水の透過性が小さいものである。ブリスターが発生しにくいことは、耐熱密着性が優れていることだけでなく、ブリスター発生の原因となる水がフッ素樹脂皮膜中に浸入しにくいことも示す。
【0097】
本発明は、基材、上記基材上に形成されたプライマー皮膜、及び、本発明の粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品でもある。
【0098】
上記基材は、金属又はセラミックからなるものである。
【0099】
上記金属としては特に限定されず、例えば、鉄;SUS304、SUS316L、SUS403等のステンレス;アルミニウム;亜鉛メッキ、アルミニウムメッキ等を施したメッキ鋼鈑等が挙げられる。上記セラミックとしては耐熱性のあるものであれば特に限定されず、例えば、陶器、磁器、アルミナ材、ジルコニア材、酸化ケイ素材等が挙げられる。
【0100】
上記基材としては、一般的にフッ素樹脂によるライニングの形成が望まれるものであれば特に限定されず、例えば、耐蝕性付与が望まれるものが好適である。このような基材としては、例えば、タンク、ベッセル、塔、バルブ、ポンプ、継手、その他の配管材料等の耐蝕ライニングが施されるもの;化学・医療用器具、ウエハーバスケット、コイルボビンタワーパッキン、薬品用バルブ、ポンプインペラー等のその他の耐蝕加工を施されるもの等が挙げられる。
【0101】
上記基材としては、必要に応じて前処理として清浄化、粗面化等を予め施したものであってもよい。上記基材は、上記プライマー皮膜との密着性を向上させ、上記フッ素樹脂皮膜の劣化防止の点から、上記前処理を施したものであることが好ましい。上記前処理としては、例えば、溶剤、洗浄剤、焼成による焼き飛ばし等による上記基材の油分の除去;塩酸、硫酸、アルカリ等を用いたケミカルエッチング;ケイ砂、アルミナ粉等を用いたブラスト処理等による基材表面の酸化物の除去、表面積増加のための凹凸の付与等が挙げられる。また、ブラスト処理後、溶射によりセラミック等の材料を被覆し、その上にプライマーを塗装することも可能である。
【0102】
本発明の物品は、上記基材上にプライマーを塗布し乾燥してプライマー皮膜を形成し、このプライマー皮膜上に本発明の粉体塗料を塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで焼成して上記フッ素樹脂皮膜を形成することにより、製造することができる。
【0103】
上記プライマーとしては、特に限定されないが、後述する本発明のプライマーが好ましい。後述する本発明のプライマーを使用すると、フッ素樹脂皮膜と基材との間に、バインダー成分とCTFE共重合体とからなるプライマー皮膜を積層させたものとなるので、上記バインダー成分により上記基材と上記プライマー皮膜との間の密着性に優れ、CTFE共重合体同士の相溶性によりプライマー皮膜とフッ素樹脂皮膜との層間密着性が優れたものとなる。
【0104】
上記基材にプライマーを塗布する方法としては特に限定されず、例えば上記プライマーが液状である場合、スプレー塗装、浸漬塗装(ディッピング)、静電塗装等の従来公知の方法等が挙げられる。上記塗布は、乾燥後における膜厚が好ましくは5〜200μmとなるように行うことができ、より好ましい下限は10μm、より好ましい上限は100μmであり、更に好ましい上限は50μmである。
【0105】
上記プライマー塗布後の乾燥は、例えば、80〜200℃等で10〜60分間行う。上記乾燥は、加熱する前に予め室温で行ってもよく、これにより上記加熱条件を緩和し得る。また、プライマーを乾燥せずにトップコートを塗布する方法で行ってもよい。
【0106】
本発明の粉体塗料の塗布方法としては特に限定されず、吹付、静電吹付、静電スプレー塗装、流動浸漬塗装、静電流動浸漬塗装、ロトライニング方法等が挙げられる。
【0107】
上記焼成は、フッ素樹脂の融点、軟化点又はガラス転移点を超える温度以上であって、フッ素樹脂及びバインダー成分並びに所望により配合する熱安定剤の分解が生じない温度であれば特に限定されないが、通常、260〜320℃で20〜60分間行う。本発明の粉体塗料をロトライニングにより塗布する場合、フッ素樹脂皮膜の形成と焼成が同時に行われる。
【0108】
上記フッ素樹脂皮膜は、上記焼成後の膜厚が100〜10000μmであることが好ましい。100μm未満であると、CTFE共重合体の優れた特性が充分に発揮されない場合があり、10000μmを超えると、クラック等が生じる場合がある。より好ましい上限は5000μmである。
【0109】
本発明は、上記CTFE共重合体、耐熱性樹脂及び分散媒を含有するプライマーでもある。
【0110】
上記耐熱性樹脂は、通常、本発明のプライマーにおいてバインダーとして機能するものである。
【0111】
上記耐熱性樹脂は、耐熱性を有する樹脂として一般に知られているものであれば特に限定されないが、後述する耐熱性樹脂溶解溶媒に溶解するものが好ましい。
【0112】
このような耐熱性樹脂としては、耐熱性、溶解性等の点から、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルホン及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、2種以上を用いてもよい。
【0113】
上記CTFE共重合体と上記耐熱性樹脂との固形分比は、質量基準で40:60〜90:10である。上記CTFE共重合体が少なすぎると、上記フッ素樹脂皮膜との密着性が悪化して層間剥離が起こるので好ましくなく、多すぎると、基材との密着力が低下する。上記CTFE共重合体の好ましい下限は、45:55であり、好ましい上限は、80:20である。
【0114】
本発明のプライマーは、上記耐熱性樹脂を溶解させるための耐熱性樹脂溶解溶媒を含有することが好ましい。上記耐熱性樹脂溶解溶媒を含有するものであると、上記耐熱性樹脂を上記耐熱性樹脂溶解溶媒に溶解させ、プライマー内に均一に分散させて、塗布により基材上の隅々にまで行き渡らせる結果、上記基材との密着性を向上させることができる。
【0115】
上記耐熱性樹脂溶解溶媒としては上記耐熱性樹脂を溶解し得る溶媒であれば特に限定されないが、沸点が100℃以上のものが好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0116】
上記耐熱性樹脂溶解溶媒は、上記耐熱性樹脂に対し、質量基準で10%以上であることが好ましい。上記範囲内であると、上述のように上記耐熱性樹脂を基材上に行き渡らせ、基材との密着性を向上させることができる。10%未満であると、基材上の上記耐熱性樹脂が不均一となり、密着力に劣る。より好ましい下限は、50%である。上記耐熱性樹脂溶解溶媒が増加すると基材との密着性は向上する傾向にあるが、工業的生産に鑑み、通常、好ましい上限は、500%、より好ましい上限は、350%である。
【0117】
本発明のプライマーは、上述のCTFE共重合体及び耐熱性樹脂のほかに、分散媒を含有するものである。本発明のプライマーは、上記耐熱性樹脂が上記耐熱性樹脂溶解溶媒に溶解したもの、及び、上記CTFE共重合体が、分散質として上記分散媒に分散している分散系(ディスパージョン)となり、基材上の隅々にまで塗布されることが可能となる。
【0118】
上記分散媒としては、水、アルコール、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。上記分散媒としては、作業環境上好ましい点で、水が好適に用いられる。
【0119】
上記分散媒として水を用いる場合、上記CTFE共重合体を分散させるため、界面活性剤を用いることが好ましい。上記界面活性剤としては特に限定されず、ノニオン系、アニオン系又はカチオン系の何れの界面活性剤であってもよいが、250℃程度の比較的低温で蒸散又は分解するものが好ましく、ノニオン系及びアニオン系がより好ましい。
【0120】
上記分散媒として水を用いる場合、塗装時における基材の腐食を防止するため、防錆剤が必要である。上記防錆剤としては特に限定されず、例えば、ジブチルアミン等が挙げられる。
【0121】
上記分散媒としては、上記CTFE共重合体を樹脂成分を単離することなくディスパージョンのまま用いる場合、重合に用いた水を上記分散媒として用いてもよく、別に水を追加してもよい。乳化重合により得られる上記CTFE共重合体のディスパージョンをそのまま用いる場合、重合に用いた界面活性剤をそのまま上記界面活性剤の一部又は全部として用いてもよい。上記CTFE共重合体を懸濁重合により得た場合も同様に、懸濁重合に用いた溶媒は上記分散媒の範囲内であれば上記分散媒として用いてもよい。
【0122】
本発明のプライマーは、上記CTFE共重合体、耐熱性樹脂及び分散媒と併用して、熱安定剤を含有するものであってもよい。本発明のプライマーは、上記熱安定剤を含有することにより、上述のフッ素樹脂皮膜形成における加熱等による上記CTFE共重合体及び上記耐熱性樹脂の酸化を防止して熱劣化を軽減することができ、その結果、密着安定性を向上することができる。
【0123】
上記熱安定剤としては特に限定されないが、例えば、金属酸化物、アミン系酸化防止剤、有機イオウ含有化物等が好ましい。
【0124】
上記金属酸化物としては熱安定剤として機能するものであれば特に限定されず、例えば、Cu、Al、Fe、Co、Zn等の典型金属の酸化物等が挙げられる。
【0125】
上記アミン系酸化防止剤としては、上述の加熱工程に鑑み、250℃以上においても安定性を有するアミン系化合物が好ましく、例えば芳香族アミン等が挙げられ、例えば、ジナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニルシクロヘキシル−p−フェニレンジアミン等のフェニル基又はナフチル基を有するアミン誘導体が好ましい。
【0126】
上記有機イオウ化合物としては特に限定されず、例えば、ベンゾイミダゾール系メルカプタン系化合物、ベンゾチアゾール系メルカプタン系化合物及びチオカルバミン酸並びにこれらの塩、チウラムモノサルファイド等が挙げられる。上記塩としては特に限定されず、例えば、Zn、Sn、Cd、Cu、Fe等との塩が挙げられる。
【0127】
上記熱安定剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0128】
上記熱安定剤としては、特に、金属イオンの溶出が望ましくない医薬品、半導体等の分野で本発明のプライマーを用いる場合、残渣を生じない非金属化合物が好ましく、例えば、アミン系酸化防止剤及び有機イオウ化合物のうち、金属塩以外のものが挙げられる。
【0129】
上記熱安定剤は、上記CTFE共重合体の固形分に対し、質量基準で0.001〜5%であることが好ましい。0.001%未満であると、熱安定効果が不充分となるおそれがあり、5%を超えると、上記熱安定剤の分解により生じる発泡が与える影響が大きくなるおそれがある。好ましい下限は、0.003%であり、好ましい上限は、2%である。
【0130】
本発明のプライマーは、上述の各成分と併用して、必要に応じ、添加剤を含有するものであってもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、一般的な塗料のプライマーに用いられるもの等が挙げられ、例えば、顔料であってよい。上記顔料としては特に限定されず、例えば、カーボン、酸化チタン、弁柄、マイカ等の着色顔料のほか、防錆顔料、焼成顔料等が挙げられる。
【0131】
本発明のプライマーは、従来公知の方法等により調製され、例えば、上述のCTFE共重合体、耐熱性樹脂、分散媒、並びに、必要に応じて界面活性剤、防錆剤及び添加剤を混合し、耐熱性樹脂溶解溶媒を添加し攪拌して分散させる方法等が挙げられる。
【0132】
本発明は、本発明のプライマーから形成されることを特徴とするプライマー皮膜でもある。本発明のプライマー皮膜は、本発明のプライマーを基材に塗布し、適宜乾燥や加熱を行うことにより得ることができる。本発明のプライマー皮膜は、本発明のプライマーから形成されたものであるので、非常に優れた耐熱密着性を示す。
【0133】
本発明は、基材、上記基材上に本発明のプライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、上記プライマー皮膜上に形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品でもある。
【0134】
上記基材としては、上述したものが挙げられる。
【0135】
本発明のプライマーの上記基材への塗布の方法としては特に限定されず、基材の形態等により適宜選択することができ、例えば、スプレー塗装、浸漬塗装、はけ塗り、静電塗装等の従来公知の方法等が挙げられる。上記塗布は、乾燥膜厚が10〜60μmとなるように行うことができる。本発明のプライマーは、このようにクラック限界厚みを高めることができる。上記加熱は、上述の層分離を起す温度以上で行い、例えば60〜120℃等である。上記加熱の前に、室温で乾燥してもよく、乾燥により上記加熱条件を緩和し得る。
【0136】
本発明の物品は、上記基材上に本発明のプライマーを塗布し乾燥してプライマー皮膜を形成し、このプライマー皮膜上にフッ素樹脂塗料を塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで焼成してフッ素樹脂皮膜を形成することにより、製造することができる。
【0137】
上記フッ素樹脂塗料としては、特に限定されず、例えば、CTFE、トリフルオロエチレン、TFE、HFP、VdF、及び、PAVEからなるフッ素含有単量体群のなかから選ばれる1種又は2種以上のフッ素含有単量体を重合することにより得られたフッ素樹脂を含有する塗料が挙げられ、液状塗料であっても粉体塗料であってもよいが、特に上述した本発明の粉体塗料が好ましい。本発明の粉体塗料を使用すると、CTFE共重合体同士の相溶性によりプライマー皮膜とフッ素樹脂皮膜との層間密着性が優れたものとなる。
【0138】
本発明は、基材、上記基材上に本発明のプライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、上記プライマー皮膜上に本発明の粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品でもある。
プライマー皮膜、及び、フッ素樹脂皮膜がそれぞれ本発明のプライマー、及び、粉体塗料から形成されたものであると、プライマー皮膜とフッ素樹脂皮膜との層間密着性が特に優れたものとなり、優れた耐熱密着性を示す物品を得ることができる。
上記基材としては、上述したものを用いることができる。
上記物品は、上記基材上に本発明のプライマーを塗布し乾燥してプライマー皮膜を形成し、このプライマー皮膜上に本発明の粉体塗料を塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで焼成してフッ素樹脂皮膜を形成することにより、製造することができる。
【0139】
本発明の粉体塗料及びプライマーは、家電・厨房関係としては、炊飯釜、ポット、ホットプレート、アイロン、フライパン、ホームベーカリー等に用いることができ、工業用としては、OA機器用ロール、OA機器用ベルト、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール、インジェクション金型等の離型用途;攪拌翼、タンク内面、ベッセル、塔、遠心分離器等の耐蝕用途等に、幅広く応用される。
【0140】
本発明の物品の用途としては特に限定されず、例えば、耐熱エナメル線等の各種電線の被覆材用途;情報機器部品(紙分離爪、プリンタガイド、ギア、ベアリング)、コネクタ、バーニインソケット、ICソケット、油田用電気部品、リレー、電磁波シールド、リレーケース、スイッチ、カバー、端子板母線等の電気・電子産業関連用途;バルブシート、油圧用シール、バックアップリング、ピストンリング、ウェアバンド、ベーン、ボールベアリングリテーナー、ローラー、カム、ギア、ベアリング、ラビリンスシール、ポンプ部品、機械的リンク機構、ブッシング、ファスナ、スプラインライナー、ブラケット、油圧ピストン、ケミカルポンプケーシング、バルブ、弁、タワーパッキン、コイルボビン、パッキン、コネクター、ガスケット、バルブシール等の機械工業関連用途;スラストワッシャ、シールリング、ギア、ベアリング、タペット、エンジン部品(ピストン、ピストンリング、バルブステア)、トランスミッション部品(スプール弁、ボール逆止弁、シーリング)、ロッカーアーム等の車両工業関連用途;ジェットエンジン部品(ブッシング、ワッシャ、スペーサー、ナット)、パワーコントロールクラッチ、ドアヒンジ用ベアリング、コネクター、チューブクランプ、ブラケット、油圧部品、アンテナ、レドーム、フレーム、燃料系統部品、コンプレッサ部品、ロケットエンジン部品、ウェアストリップ、コネクタシェルフ、宇宙構造体等の航空、宇宙産業関連用途等が挙げられる。その他にも、製罐機ピンカバー、メッキ装置用部品、原子力関連部品、超音波トランデューサ、ポテンショメータシャフト、給水栓部品等の用途が挙げられる。
【0141】
本発明の物品の用途としては、また、攪拌翼、タンク内面、ベッセル、塔、遠心分離器、ポンプ、バルブ、配管、通風孔、ダクト、熱交換器、メッキ冶具、タンクローリー内面、スクリューコンベア等の耐蝕用途;半導体工場ダクト等の半導体関連用途;OAロール、OAベルト、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール、インジェクション金型等の工業用離型用途;炊飯釜、ポット、ホットプレート、アイロン、フライパン、ホームベーカリー、パントレー、ガステーブル天板、パン天板、鍋、釜等の家電・厨房関連用途;各種ギアを含む精密機構摺動部材、製紙ロール、カレンダーロール、金型離型部品、ケーシング、バルブ、弁、パッキン、コイルボビン、オイルシール、継ぎ手、アンテナキャップ、コネクター、ガスケット、バルブシール、埋設ボルト、埋設ナット等の工業部品関連用途等が挙げられる。
【発明の効果】
【0142】
本発明の粉体塗料及びプライマーは、上述の構成よりなるので、耐熱密着性に優れ、ブリスターが発生しにくい皮膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0143】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0144】
実施例1
クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテルのモル比が28/70/2である懸濁重合で得られたクロロトリフルオロエチレン共重合体粉末(297℃でのメルトフローレート15g/10分、平均粒子径37μm)30g、バインダー成分としてポリアミドイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液37g、並びに、界面活性剤(商品名:ノニオンHS−208、日本油脂社製)3g、防錆剤(ジブチルアミン)1g及び純水13gをステンレス溶液に入れ、プロペラ攪拌機を用いて攪拌しながら分散し、プライマーを得た。
【0145】
アルミナ(商品名:トサエメリー、宇治電化学工業社製、80メッシュ:100メッシュ=5:5)を使用して、脱脂されたステンレス基材(SUS430)に対して0.59MPaの圧力でブラストを行い、エアーでブラスト粉を除去した上に、上記プライマーをスプレーで塗装し、80℃で30分間乾燥させ、プライマー皮膜を得た。
【0146】
次に、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテルのモル比28/70/2である粉体塗料(297℃でのメルトフローレート15g/10分、平均粒子径37μm)を静電塗装により上記プライマー皮膜の上に塗布し、300℃で30分間焼成した。得られた皮膜の上に、更に、粉体塗料を静電塗装により塗布し、300℃で40分間焼成し、試験片を得た。
【0147】
比較例1
エチレン/テトラフルオロエチレン/CH=CFCHのモル比が31.8/66.0/2.2である乳化重合で得られたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末(297℃でのメルトフローレート13g/10分、平均粒子径80μm)30g、バインダー成分としてポリアミドイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液37g、並びに、界面活性剤(商品名:ノニオンHS−208、日本油脂社製)3g、防錆剤(ジブチルアミン)1g及び純水13gをステンレス溶液に入れ、プロペラ攪拌機を用いて攪拌しながら分散し、プライマーを得た。
【0148】
アルミナ(商品名:トサエメリー、宇治電化学工業社製、80メッシュ:100メッシュ=5:5)を使用して、脱脂されたステンレス基材(SUS430)に対して0.59MPaの圧力でブラストを行い、エアーでブラスト粉を除去した上に、上記プライマーをスプレーで塗装し、80℃で30分間乾燥させ、プライマー皮膜を得た。
【0149】
次いで、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロイソブチレンのモル比が31.8/66.0/2.2の粉体塗料(297℃でのメルトフローレート13g/10分、平均粒子径35μm)を静電塗装により上記プライマー皮膜の上に塗布し、300℃で30分間焼成した。得られた皮膜の上に、更に、粉体塗料を静電塗装により塗布し、300℃で40分間焼成し、試験片を得た。
【0150】
耐熱水性の評価
耐熱水性の評価は、樹脂ライニングの耐食性試験で一般的に用いられているライニングテスタ(商品名:山崎式ライニングテスタLA−15、株式会社山崎精機研究所製)を用いて行った。純水を60〜70%充填し、水平配置した耐熱ガラス製の円筒セルの両端に、上記パネルを円筒セルを塞ぐように取り付け、所定の温度で純水の液相と気相とに試験片を暴露して所定の試験時間を経過させた。結果を表2に示す。
【0151】
評価基準
○:ブリスターが観察されなかった。
△:ブリスターの発生が微少であった。
×:ブリスターの発生が観察された。
【0152】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の粉体塗料及びプライマーは、耐熱性が要求される用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロトリフルオロエチレン共重合体を含有する粉体塗料であって、
前記クロロトリフルオロエチレン共重合体は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、並びに、クロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成され、
前記クロロトリフルオロエチレン単位及び前記テトラフルオロエチレン単位は、合計で90〜99.9モル%であり、前記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%である
ことを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
単量体〔A〕は、エチレン、ビニリデンフルオライド、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及び、下記一般式(I)
CX=CX(CF (I)
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種である
請求項1記載の粉体塗料。
【請求項3】
単量体〔A〕は、下記一般式(II)
CF=CF−ORf (II)
(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である請求項1又は2記載の粉体塗料。
【請求項4】
クロロトリフルオロエチレン単位は、前記クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との合計の10〜90モル%である請求項1、2又は3記載の粉体塗料。
【請求項5】
クロロトリフルオロエチレン単位は、前記クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との合計の20〜90モル%である請求項1、2、3又は4記載の粉体塗料。
【請求項6】
クロロトリフルオロエチレン共重合体は、メルトフローレートが0.1〜70(g/10分)である請求項1、2、3、4又は5記載の粉体塗料。
【請求項7】
クロロトリフルオロエチレン共重合体は、1質量%が分解する温度〔Tx〕が370℃以上である請求項1、2、3、4、5又は6記載の粉体塗料。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の粉体塗料から形成されることを特徴とするフッ素樹脂皮膜。
【請求項9】
基材、前記基材上に形成されたプライマー皮膜、及び、前記プライマー皮膜上に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品。
【請求項10】
クロロトリフルオロエチレン共重合体、耐熱性樹脂及び分散媒を含有するプライマーであって、
前記クロロトリフルオロエチレン共重合体は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、並びに、クロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体〔A〕に由来する単量体〔A〕単位から構成され、
前記クロロトリフルオロエチレン単位及び前記テトラフルオロエチレン単位は、合計で90〜99.9モル%であり、前記単量体〔A〕単位は、0.1〜10モル%であり、
前記クロロトリフルオロエチレン共重合体と前記耐熱性樹脂との固形分比は、質量基準で40:60〜90:10であることを特徴とするプライマー。
【請求項11】
単量体〔A〕は、エチレン、ビニリデンフルオライド、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及び、下記一般式(I)
CX=CX(CF (I)
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種である
請求項10記載のプライマー。
【請求項12】
単量体〔A〕は、下記一般式(II)
CF=CF−ORf (II)
(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である請求項10又は11記載のプライマー。
【請求項13】
クロロトリフルオロエチレン単位は、前記クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との合計の10〜90モル%である請求項10、11又は12記載のプライマー。
【請求項14】
クロロトリフルオロエチレン単位は、前記クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との合計の20〜90モル%である請求項10、11、12又は13記載のプライマー。
【請求項15】
クロロトリフルオロエチレン共重合体は、メルトフローレートが0.1〜70(g/10分)である請求項10、11、12、13又は14記載のプライマー。
【請求項16】
クロロトリフルオロエチレン共重合体は、1質量%が分解する温度〔Tx〕が370℃以上である請求項10、11、12、13、14又は15記載のプライマー。
【請求項17】
更に、耐熱性樹脂溶解溶媒を含有し、
前記耐熱性樹脂溶解溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、耐熱性樹脂に対し質量基準で10%以上含まれる請求項10、11、12、13、14、15又は16記載のプライマー。
【請求項18】
耐熱性樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルホン及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項10、11、12、13、14、15、16又は17記載のプライマー。
【請求項19】
更に、熱安定剤をクロロトリフルオロエチレン共重合体の固形分に対し質量基準で0.001〜5%含有する請求項10、11、12、13、14、15、16、17又は18記載のプライマー。
【請求項20】
請求項10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19記載のプライマーから形成されることを特徴とするプライマー皮膜。
【請求項21】
基材、前記基材上に請求項10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19記載のプライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、前記プライマー皮膜上に形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品。
【請求項22】
基材、前記基材上に請求項10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19記載のプライマーから形成されたプライマー皮膜、及び、前記プライマー皮膜上に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の粉体塗料から形成されたフッ素樹脂皮膜を有することを特徴とする物品。

【公開番号】特開2009−263609(P2009−263609A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178201(P2008−178201)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】