説明

粉体塗料組成物

本発明は、少なくとも、(a)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含む熱硬化性ポリマーと、(b)β−ヒドロキシアルキルアミド単位を含む化合物と、(c)ポリマー(a)の官能基を可逆的にブロックすることができる減速剤とを含む粉体塗料組成物に関する。この減速剤は、ポリマー(a)の官能基の全量の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で存在する。本発明は、粉体塗料組成物中の減速剤としての特殊なアミン化合物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含むポリマーと、β−ヒドロキシアルキルアミド化合物とを含む粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
β−ヒドロキシアルキルアミド化合物と、β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含むポリマーとを含む粉体塗料組成物が、米国特許第4,801,680号明細書に開示されている。β−ヒドロキシアルキルアミド化合物を含む粉体塗料組成物は、粉体塗料組成物の反応性が高く、比較的厚いコーティング層が適用される場合に特に、ブリスター限界(blister limit)が低くなる。ブリスター限界または脱ガス限界(degassing limit)は、硬化後のコーティング中に気泡が残留する塗膜厚さである。
【0003】
この粉体塗料組成物の別の欠点は、組成物の流れを基材に適用し、表面に広げるために加熱するのでは、「オレンジピール」効果が生じるため、一部特定の粉体コーティング用途には十分ではないことである。
【0004】
国際公開第01/02505A号パンフレットには、粉体塗料組成物中に使用されるポリマーを適合させることによってこれらの欠点を克服する方法が開示されている。しかし、より高いブリスター限界を実現できるが、ポリマーの変更によって、得られるコーティングの化学的性質および機械的性質も変化し、たとえば可撓性の望ましくない低下、および耐溶剤性の望ましくない低下などが起こる。
【0005】
別の望ましくない効果は、ポリマーのガラス転移温度(Tg)が低下するために、押出機中で組成物をさらに加工する場合、または粉体塗料組成物を貯蔵する場合の粉体安定性が低下しうることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、
(a)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含むポリマーと、
(b)β−ヒドロキシアルキルアミド化合物とを含み、
高いブリスター限界を有するコーティングが得られ、所望の機械的性質をも有する粉体塗料組成物を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明による粉体塗料組成物は、少なくとも、
(a)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含む熱硬化性ポリマーと、
(b)β−ヒドロキシアルキルアミド単位を含む化合物と、
(c)ポリマー(a)の官能基を可逆的にブロックすることができる減速剤とを含み、
減速剤は、ポリマー(a)の官能基の全量の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で存在する。
【0008】
減速剤(c)は、硬化反応を減速することができる化合物である。減速剤は、ポリマー(a)の官能基を可逆的にブロックすることができるので、本発明による組成物においてこれは重要である。
【0009】
減速剤は、可逆的にポリマー(a)の官能基をブロックし、その結果、本発明による粉体塗料組成物は、改善されたブリスター限界を有するコーティングが得られ、所望の機械的性質を示すコーティングが得られる。
【0010】
さらなる利点は、たとえば、より長いゲル化時間、改善された流動性、改善された沸騰水/湿気抵抗性、改善された顔料分散性、および良好な機械的性質、たとえば可撓性である。結果として得られるコーティングは、抗菌性および/または防汚性も有する。
【0011】
好ましくは、β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含む熱硬化性ポリマー(a)は、官能性カルボン酸基を含有するポリマー、または官能性無水物基を含有するポリマーである。
【0012】
好適なポリマーとしては、たとえば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリエーテル(たとえば、ビスフェノールまたはフェノール−アルデヒドノボラックを主成分とするポリエーテル)、ポリウレタン、ポリカーボネート、トリフルオロエチレンコポリマーまたはペンタフルオロプロピレンコポリマー、ポリブタジエン、ポリスチレン、および/またはスチレン無水マレイン酸コポリマーが挙げられる。
【0013】
好ましくは、ポリマー(a)はポリエステルである。
【0014】
より好ましくは、このポリエステルがカルボン酸基含有ポリエステルである。
【0015】
好適なポリエステルは、たとえば、線状脂肪族、分岐脂肪族、および/または脂環式のポリオールと、脂肪族、脂環式、および/または芳香族のポリカルボン酸またはその無水物との間の縮合反応に基づくものであってよい。ポリオールと酸または無水物との比率は、酸または無水物がアルコールに対して過剰に存在し(そのため)遊離のカルボン酸基または無水物基を有するポリエステルが形成されるように選択される。
【0016】
ポリエステルは、たとえば、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−オキシビス安息香酸、3,6−ジクロロフタル酸、テトラクロロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリト酸、ピロメリット酸、ヘキサヒドロテレフタル酸(シクロヘキサンジカルボン酸)、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、および/またはフマル酸の単位を含むことができる。これらの酸は、そのまま使用される場合もあるし、または利用できるのであれば、それらの無水物、酸塩化物、または低級アルキルエステルで使用される場合もある。
【0017】
好ましくは、ポリエステルは、少なくともイソフタル酸単位および/またはテレフタル酸単位を含む。
【0018】
ポリエステルは、カルボン酸の全量のたとえば最大25mol%の量で他のカルボン酸単位を含むこともできる。また、たとえばトリメリト酸またはピロメリット酸などの、三官能性以上の酸単位が存在してもよい。これらの三官能性以上の酸は、分岐ポリエステルを得るために使用したり、またはポリエステルの末端基として使用したりすることができる。
【0019】
ヒドロキシカルボン酸および/または場合によりラクトンを使用することもでき、たとえば、12−ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシピバリン酸、および/またはε−カプロラクトンを使用することができる。
【0020】
モノカルボン酸、たとえば安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ヘキサヒドロ安息香酸、および/または飽和脂肪族モノカルボン酸などを使用することもできる。
【0021】
カルボン酸と反応してポリエステルを得ることができる有用なポリアルコール、特にジオールとしては、脂肪族ジオールが挙げられる。好適な例としては、エチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,2−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパンジオール−1,3(=ネオペンチルグリコール)、ヘキサン−2,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、2,2−ビス−(4ヒドロキシ−シクロヘキシル)−プロパン(水素化ビスフェノール−A)、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]プロパン、ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバリン酸エステル、2−エチル、2−ブチルプロパンジオール−1,3(=ブチルエチルプロパンジオール)、2−エチル、2−メチルプロパンジオール−1,3(=エチルメチルプロパンジオール)、および/または2−メチルプロパンジオール−1,3(MP−ジオール)が挙げられる。
【0022】
三官能性以上のアルコールは、分岐ポリエステルを得るために少量で使用することができる。好適なポリオールの例としては、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパントリス−(2−ヒドロキシエチル)−イソシアヌレート、ペンタエリスリトール、および/またはソルビトールが挙げられる。
【0023】
ポリエステルは、エステル化またはエステル交換によって、場合により従来のエステル化触媒、たとえばジブチルスズオキシドまたはテトラブチルチタネートの存在下で、従来手順によって調製することができる。調製条件およびCOOH/OH比は、目標範囲内の値の酸価および/またはヒドロキシル価を有する最終生成物が得られるように選択される。
【0024】
一般に、ポリマー(a)は、15〜120mgKOH/g樹脂の間の酸価を有し、およびより好ましくはポリマー(a)は15〜80mgKOH/g樹脂の間の酸価を有する。
【0025】
ポリマー(a)の数平均分子量(Mn)は、たとえば約1,000〜約8,000の間であってよい。好ましくはポリマー(a)の数平均分子量(Mn)は約1,400〜7,500の間の範囲である。
【0026】
ポリマー(a)は、室温において、結晶性、半結晶性、または非晶質の固体であってよい。このポリマーが結晶性である場合、これは溶融温度Tmを有し、半結晶性である場合、これは溶融温度Tmおよびガラス転移温度Tgを有し、非晶質である場合、これはガラス転移温度Tgを有する。これらの温度は、示差走査熱量計(DSC)を使用し、標準的なDSC技術を使用して、たとえばメトラー・トレド(Mettler Toledo)DSC 821−Eによって求められる。DSC測定は5℃/分の加熱速度および冷却速度で実施される。
【0027】
好ましくは、ポリマー(a)は室温において非晶質固体である。このポリマーのガラス転移温度は20℃〜100℃の間、好ましくは35℃〜85℃の間、より好ましくは40℃〜75℃の間であってよい。
【0028】
ポリマー(a)は、200Pa・s未満の粘度を有することができ(160℃において、レオメトリックスCP5(Rheometrics CP 5)で測定)、好ましくはポリマー(a)は150Pa・s未満の粘度を有する。
【0029】
β−ヒドロキシアルキルアミド単位を含む化合物(b)は、ポリマー(a)の硬化剤となることができる。
【0030】
一般に、β−ヒドロキシアルキルアミド化合物のヒドロキシル官能基数は、平均で少なくとも2であり、好ましくは2を超える。
【0031】
好ましくは、β−ヒドロキシアルキルアミドのヒドロキシル官能基数は10未満である。より好ましくはβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物ののヒドロキシル官能基数は6未満であり、最も好ましくはβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物のヒドロキシル官能基数は4以下である。
【0032】
本発明の好ましい実施態様によると、β−ヒドロキシアルキルアミドのヒドロキシル官能基数は2を超え最大4まで(4を含む)の範囲である。
【0033】
好適なβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物(b)の例は米国特許第4,801,680号明細書に開示されており、この記載内容を本明細書に援用する。
【0034】
好ましくはβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物は式(I):
【化1】


(式中、
は、HまたはC〜Cアルキルであり、
は、H、C〜Cアルキル、または
【化2】


(式中Rは上記の通りである)であり、
Aは結合、2〜20個の炭素原子を含有する置換炭化水素基などの飽和、不飽和、または芳香族の炭化水素1価または多価有機基であり、
mは1〜2であり、
nは0または2であり、
m+nは少なくとも2である)の化合物である。
【0035】
好ましくは、Aはアルキレン基−(CH−であり、式中のxは2〜12の範囲である。好ましくは、xは4〜10の範囲である。
【0036】
好ましくは、m+nは2を超え、より好ましくは2から最大4まで(4を含む)の範囲内である。
【0037】
β−ヒドロキシアルキルアミド化合物は、低級アルキルエステル、またはカルボン酸エステルの混合物と、β−ヒドロキシアルキルアミンとの反応を、反応物の選択、触媒の存在および非存在に依存して周囲温度〜約200℃の範囲の温度で実施することで調製することができる。好適な触媒としては、塩基触媒、たとえばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、アルキルエステルの重量を基準にして約0.1〜約1重量%の量で存在する。
【0038】
β−ヒドロキシアミドの好適な例は、たとえば米国特許第4727111号明細書、米国特許第4788255号明細書、米国特許第4076917号明細書、EP−A第322834号明細書、およびEP−A第473380号明細書に記載されている。
【0039】
市販のβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物の好適な例は、たとえば、N,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシエチル)−アジパミド(プリミド(Primid)XL−552)およびN,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシプロピル)−アジパミド(プリミド(Primid)QM 1260)である。
【0040】
より大きなβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物を本発明による組成物中に使用しても好適である。このようなβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物の例は、国際公開第99/16810号パンフレットに記載されるポリエステルアミドであり、この文献の記載内容を本明細書に援用する。
【0041】
国際公開第99/16810号パンフレットには、エステル基と、少なくとも1つのアミド基とを主鎖中に含有し、少なくとも1つのヒドロキシアルキルアミド末端基を有し、>800g/molの重量平均分子量を有する、線状または分岐の縮合ポリマーが記載されている。
【0042】
好適なβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物(b)の別の例は、式(II):
【化3】


(式中、
【化4】


、H、(C〜C24)(シクロ)アルキル、または(C〜C10)アリールであり、
B=(C−C24)の、場合により置換された、アリールまたは(シクロ)アルキル脂肪族の二価の基であり、
、R、R、R、R、およびRは、互いに独立して、同種の場合も異種の場合もある、H、(C〜C10)アリール基、または(C〜C)(シクロ)アルキル基である)の少なくとも2つの基を含む分岐ポリエステルアミドである。
【0043】
より好ましくは、市販のβ−ヒドロキシアルキルアミドであるN,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシエチル)−アジパミドおよびN,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシプロピル)−アジパミドが使用される。
【0044】
好ましくは、β−ヒドロキシアルキルアミド(ヒドロキシ当量)のカルボキシ含有ポリエステル(カルボン酸当量)に対する当量比は、約0.6:1〜1.6:1の間であり、より好ましくは0.8:1〜1.3:1の間であり、最も好ましくは0.9:1〜1.15:1の間である。この比の場合に、粉体塗料組成物に望ましい効果的な硬化が起こる。0.6:1〜1.6:1の間の範囲から外れた比では、組成物の硬化が不十分となる。
【0045】
本発明は、粉体塗料組成物が減速剤(c)を含むことを特徴とし、減速剤(c)は、β−ヒドロキシアルキルアミドと反応することができるポリマー(a)の官能基の全量の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で存在すべきである。β−ヒドロキシアルキルアミドと反応することができるポリマー(a)の官能基の全量の最大100%をブロックすることができる。
【0046】
好ましくは、減速剤は、ポリマー(a)の官能基の全量の10%〜50%、より好ましくは官能基の15〜30%をブロックするのに十分な量で存在する。減速剤(c)の量は、ポリマー(a)中の可逆的にブロックされる官能基の所望量、およびポリマー(a)中の官能基に依存する。
【0047】
官能基の可逆的ブロックは、ある温度範囲内でのみ安定となる結合の形成などの多くの方法によって実施することができる。可逆的ブロックは、たとえば水素結合、イオン結合、または塩錯体の形態であってよい。
【0048】
好ましくは塩錯体が形成される。
【0049】
好ましくはブロックは、所望の性質のコーティングを得るために、粉体塗料の硬化温度範囲内で可逆的である。
【0050】
減速剤(c)は、脂肪族アミンなどのアミンであってよい。好ましい脂肪族アミンは、脂肪族第3級アミンなどの第3級アミンである。
【0051】
本発明の好ましい実施態様によると、減速剤(c)は式(III)および/または(IV):
YR ((III))
または
(YR (IV)
(式中、
YはNまたはPであり、
、R、R、またはRは互いに独立して、主鎖に1〜50個の炭素原子を有する置換または未置換炭素鎖であり、
はハロゲン化物である)の化合物である。
【0052】
本発明の好ましい実施態様によると、減速剤(c)は式(III)の化合物である。
【0053】
本発明のさらに好ましい実施態様によると、Yは窒素である。
【0054】
本発明の別の好ましい実施態様によると、R、R、R、およびRは、未置換炭素鎖であり、その理由は、置換鎖は立体障害を生じることがあり、化合物がポリマー(a)の官能基を可逆的にブロックすることができなくなる場合があるからである。
【0055】
好ましくは、R、R、R、およびRの少なくとも2つが1〜8個の炭素原子を有する。
【0056】
より好ましくは、R、R、R、およびRの少なくとも2つが1〜4の炭素原子を有する。
【0057】
Yが窒素である式(III)の好適な化合物の例は、オクチルジメチルアミン、デシルジメチルアミン、ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ジドデシルモノメチルアミン、ジテトラデシルモノメチルアミン、ジヘキサデシルモノメチルアミン、ジ−牛脂アルキルモノメチルアミン、(水素化牛脂アルキル)−ジメチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、および/またはトリドデシルアミンである。
【0058】
式(III)の好適な化合物は、オクチルジメチルアミン、デシルジメチルアミン、ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、(水素化牛脂アルキル)−ジメチルアミン、および/またはヘキサデシルジメチルアミン(パルミチルジメチルアミン)である。
【0059】
Yがリンである式(III)の好適な例は、ドデシルジフェニルホスフィン、デシルジフェニルホスフィン、オクチルジフェニルホスフィン、および/またはトリオクチルホスフィンである。
【0060】
Yが窒素である式(IV)の化合物の好適な例は、ハロゲン化オクチルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化デシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ドデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化オクタデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジドデシルジメチルアンモニウム、ハロゲン化ジテトラデシルモノメチルアンモニウム、ハロゲン化ジヘキサデシルモノメチルアンモニウム、ハロゲン化ジ牛脂アルキルモノメチルアンモニウム、ハロゲン化トリオクチルアンモニウム、ハロゲン化トリデシルアンモニウム、および/またはハロゲン化トリドデシルアンモニウムである。
【0061】
Yがリンである式(IV)の化合物の好適な例は、ハロゲン化オクチルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化デシルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化ドデシルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化テトラデシルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化ヘキサデシルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化オクタデシルトリメチルホスホニウム、ハロゲン化ジドデシルジメチルホスホニウム、ハロゲン化ジテトラデシルモノメチルホスホニウム、ハロゲン化ジヘキサデシルモノメチルホスホニウム、ハロゲン化ジ牛脂アルキルモノメチルホスホニウム、ハロゲン化トリオクチルホスホニウム、ハロゲン化トリデシルホスホニウム、および/またはハロゲン化トリドデシルホスホニウムである。
【0062】
本発明は、ポリエステル粉体塗料中での式(III)および/または式(IV)の化合物の新規使用にも関し、その理由は、これらの化合物がβ−ヒドロキシアルキルアミド化合物を含む粉体塗料組成物中に減速剤として加えると好適であるという驚くべき発見にある。
【0063】
式(III)および/または式(IV)のアミン化合物は、エポキシを含む粉体塗料系中の硬化触媒としての使用が知られており、たとえば国際公開第01/68781号パンフレットに開示されている。非常に驚くべきことに、これらの化合物は、粉体塗料組成物中で減速効果が得られ、そのため、たとえばブリスター限界が低下する。他の利点は、たとえば、より優れた顔料分散性、粉体塗料組成物の改善された加工性、粉体を基材に適用した後の粉体塗料組成物の加熱中のより優れた流動性であってよい。
【0064】
本発明による粉体塗料組成物は、場合により顔料、充填剤、および/または通常の添加剤、たとえば脱ガス剤、流動剤、および(光)安定剤を含有することができる。
【0065】
顔料は、無機でも有機でもよい。好適な無機顔料は、たとえば、二酸化チタン、硫化亜鉛、酸価鉄、および/または酸化クロムである。好適な有機顔料はたとえばアゾ化合物である。
【0066】
好適な充填剤は、たとえば金属酸化物、シリケート、カーボネート、およびサルフェートである。
【0067】
好適な安定剤は、たとえば、一次および/または二次酸化防止剤、およびキノン類などのUV安定剤、(立体障害)フェノール系化合物、ホスホナイト、ホスフィット、チオエーテル、およびHALS(ヒンダードアミン光安定剤)である。
【0068】
好適な脱ガス剤の例としては、国際公開第02/50194号パンフレットに記載されるような、シクロヘキサンジメタノールビスベンゾエート、ベンゾイン、およびベンゾイン誘導体が挙げられる。
【0069】
他の好適な添加剤は、たとえば、たとえば立体障害アミンなどの摩擦帯電を改善するための添加剤である。これらのアミンは、立体障害のために、ポリマー(a)の官能基を可逆的にブロックすることができず、塩錯体を形成することもできないので、本発明による組成物中に減速剤として使用するのには適していない。
【0070】
本発明の好ましい実施態様によると、粉体塗料組成物は、少なくとも、
a)加工温度Tpにおいて、β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を有するポリマー(a)を生成するステップと;
b)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができるポリマー(a)の官能基の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で、減速剤(c)をポリマー(a)に温度Taにおいて加えるステップとを含む方法によって調製され、TaはTp以下であるが、ポリマーのTgまたはTmよりは高い。
【0071】
好ましくは、減速剤(c)は、ポリマー(a)がそのTgまたはTm未満まで冷却される前に加えられ、たとえばポリマー生成終了時に加えられる。
【0072】
減速剤(c)は、粉体塗料組成物の製造中に、ポリマー(a)、および場合によりβ−ヒドロキシアルキルアミド単位(b)を含む化合物に加えることもできる。
【0073】
粉体塗料組成物の調製の概論は、ミセフ(Misev)による粉体塗料、化学および技術(Powder paints,Chemistry and Technology)(1991、ジョン・ワイリー(John Wiley))の224〜227ページに記載されている。一般に、組成物の成分は、たとえば乾式混合またはドラム混合によって予備混合される。得られた予備混合物は、次に押出機中約70℃〜150℃の間の温度で均質化される。次に、この押出物を冷却し、10μm〜150μmの粒度を有する粉体に粉砕して、粉体塗料組成物が得られる。
【0074】
粉体塗料組成物は、静電コロナガンまたはトリボガンなどの粉体ガンを使用することによって基材に付着させることができる。流動床技術などの周知の粉体付着方法を使用することもできる。
【0075】
本発明による粉体塗料組成物は、周知の硬化技術、たとえば熱硬化または赤外線による硬化によって硬化させて粉体コーティングにすることができる。熱硬化は、たとえばガスオーブン中または電気オーブン中で行うことができる。硬化中の温度は、硬化させるコーティング組成物および/または基材に依存して、必要であれば調整することができる。好適な温度範囲は、140℃〜200℃の間とすることができる。許容されるコーティング特性を有するコーティングを得るために必要な時間は、広範囲の間で選択することができ、たとえば4分〜30分の間、好ましくは6分〜10分の間とすることができる。
【0076】
本発明は、コーティングが本発明による塗料組成物を硬化させて得られる、全体または部分的にコーティングされた基材にも関する。
【0077】
以下の非限定的な実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例】
【0078】
実験I〜III
ポリマーI〜IIIの調製
ポリマーI〜IIIを調製するために、URALAC P 865(カルボン酸官能性ポリエステル、DSMコーティング・レジンズ(DSM Coating Resins)より入手可能、酸価範囲AV=33〜37mgKOH/g、Tg=56℃)をベース樹脂として使用した。
【0079】
URALAC P865は、220℃〜270℃の間の温度範囲で直接エステル化によって合成した。
【0080】
合成後、得られたポリエステルを、同じ特性を有する3つの部分に分割し、それぞれをポリマーI、II、およびIIIまでさらに加工した。
【0081】
実験I
ポリマーIは、実験用バッチの第1の部分を25℃に冷却することによって得た。
【0082】
実験II
ポリマーIIは、195℃において2重量%のヘキサデシルジメチルアミン(HDMA)を第2の部分に加えることによって得た。この混合物を195℃で30分撹拌した。次にこの樹脂を20℃まで冷却した。
【0083】
実験III
ポリマーIIIは、195℃において3.25重量%のヘキサデシルジメチルアミン(HDMA)を第3の部分に加えることによって得た。この混合物を195℃で30分撹拌した。次にこの樹脂を20℃まで冷却した。
【0084】
実施例I、II、III、および比較実験A
粉体塗料組成物の調製
表1に記載される成分を含有する4種類の粉体塗料組成物(単位重量部)を調製した。
【0085】
【表1】

【0086】
これらの成分をプレミキサーで混合し、二軸スクリュー押出機プリズム(Prism)で均質化し押し出した。この押出物を粉砕し、90μm未満の粒度を有する粉体にふるい分けを行った。
【0087】
これらの粉体を、アルミニウム基材(AL−46)上に静電噴霧した。コーティングした基材は180℃で10分間硬化させた。表2は、結果として得られたコーティングされた基材の性質を示している。
【0088】
【表2】

【0089】
減速剤が存在することで脱ガス特性、熱安定性、およびQUV抵抗性が改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(a)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を含む熱硬化性ポリマーと、
(b)β−ヒドロキシアルキルアミド単位を含む化合物と、
(c)ポリマー(a)の前記官能基を可逆的にブロックすることができる減速剤と
を含み、前記減速剤は、ポリマー(a)の官能基の全量の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で存在する、粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリマー(a)がカルボン酸官能性ポリマーまたは無水物官能性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
前記減速剤(c)が、以下の式(III)および/または(IV):
YR ((III))
または
(YR (IV)
(式中、
YはNまたはPであり、
、R、R、またはRは互いに独立して、主鎖に1〜50個の炭素原子を有する置換または未置換炭素鎖であり、
はハロゲン化物である)の化合物であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記減速剤(c)が式(III)の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
YがNであることを特徴とする請求項3〜4のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項6】
、R、R、およびRが未置換炭素鎖であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項7】
前記減速剤が、オクチルジメチルアミン、デシルジメチルアミン、ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、水素化牛脂アルキル)−ジメチルアミン、および/またはヘキサデシルジメチルアミンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物を調製する方法であって、少なくとも、
a)加工温度Tpにおいて、β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる官能基を有するポリマー(a)を生成するステップと、
b)β−ヒドロキシアルキルアミド単位と反応することができる前記ポリマー(a)の前記官能基の少なくとも9%をブロックするのに十分な量で、減速剤(c)を前記ポリマーに温度Taにおいて加えるステップと
を含み、TaはTp以下であるが、前記ポリマーのTgまたはTmよりは高い、方法。
【請求項9】
前記ポリマーがそのTgまたはTm未満に冷却される前に前記減速剤が加えられる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
β−ヒドロキシアルキルアミド化合物を含む粉体塗料組成物中の減速剤としての、以下の式(III)および/または(IV):
YR ((III))
または
(YR (IV)
(式中、
YはNまたはPであり、
、R、R、またはRは互いに独立して、主鎖に1〜50個の炭素原子を有する置換または未置換炭素鎖であり、
はハロゲン化物である)の第3級化合物の使用。
【請求項11】
粉体塗料組成物を最初に基材に適用し、次に硬化させるための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物、または請求項8〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られた粉体塗料組成物を硬化させる方法。

【公表番号】特表2006−527784(P2006−527784A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516981(P2006−516981)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000411
【国際公開番号】WO2004/111142
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】