説明

粉体層の製造方法、電極体の製造方法、及び、固体電池の製造方法

【課題】粉体層を製造可能な粉体層の製造方法、集電体と粉体層との密着性を向上させることが可能な電極体の製造方法、及び、粉体層を備える固体電池の性能を向上させることが可能な固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】固体電解質及び活物質の少なくとも一方を含む粉体を基材の表面に配置する工程と、配置された粉体へ表面と交差する方向に振動を付与しながら粉体を押圧する工程と、を有する粉体層の製造方法、該粉体層の製造方法を用いる電極体の製造方法、並びに、該電極体の製造方法を用いる電池の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質及び固体電解質の少なくとも一方を含む粉体層の製造方法、少なくとも集電体及び電極層を備える電極体の製造方法、及び、固体電解質を用いた固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極層及び負極層(以下において、これらの一方又は両方を「電極層」ということがある。)と、これらの間に配置される電解質層とが備えられ、電解質層に備えられる電解質としては、例えば非水系の液体や固体が用いられる。電解質に液体(以下において、「電解液」という。)が用いられる場合には、電解液が正極層や負極層の内部へと浸透しやすい。そのため、正極層や負極層に含有されている活物質と電解液との界面が形成されやすく、性能を向上させやすい。ところが、広く用いられている電解液は可燃性であるため、安全性を確保するためのシステムを搭載する必要がある。一方、固体の電解質(以下において、「固体電解質」という。)は不燃性であるため、上記システムを簡素化できる。それゆえ、不燃性である固体電解質を含有する層(以下において、「固体電解質層」という。)が備えられる形態のリチウムイオン二次電池(以下において、「固体電池」という。)が提案されている。
【0004】
このような固体電池に関する技術として、例えば特許文献1には、導電性を有する正極集電体形成用粉末を含有する正極集電体形成用材料を圧粉し、正極集電体を形成する正極集電体形成工程と、正極活物質粉末を含有する正極層形成用材料を圧粉し、正極層を形成する正極層形成工程と、を有することを特徴とする固体電池の製造方法が開示されている。そして、特許文献1には、正極集電体形成用材料の上に正極層形成用材料を添加し、水平方向に振動させた後に、圧粉を行うことが好ましい旨、説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−193802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、正極集電体形成用粉末の粒子と、正極活物質粉末の粒子との接触面積を向上させることが可能になるので、電池の内部抵抗を低減して高出力化を図ることが可能な固体電池を製造することも可能になると考えられる。しかしながら、特許文献1に記載されているように、水平方向に振動させながら圧粉を行うと、粉末が水平方向へと飛散しやすい。そのため、特許文献1に開示されている技術には、正極集電体や正極層を形成し難くなる虞があるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、粉体層を製造可能な粉体層の製造方法、集電体と粉体層との密着性を向上させることが可能な電極体の製造方法、及び、粉体層を備える固体電池の性能を向上させることが可能な固体電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、固体電解質及び活物質の少なくとも一方を含む粉体を、基材の表面に配置する粉体配置工程と、配置された粉体へ上記表面と交差する方向に振動を付与しながら、粉体を押圧する粉体振動押圧工程と、を有することを特徴とする、粉体層の製造方法である。
【0009】
ここに、本発明において、「固体電解質」とは、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池や、いわゆる一次電池に使用可能な、イオン伝導性を有する固体の電解質をいう。また、「活物質」とは、二次電池及び一次電池を含む電池の正極に用いられる正極活物質や、負極に用いられる負極活物質をいう。また、「粉体」とは、全体として粉状の物質をいい、本発明における粉体には、バインダーと称されるような結着材・粘着材は含まれていない。また、「基材」とは、粉体が配置される部材をいう。本発明の第1の態様において、基材の形態は特に限定されず、電池の集電体として機能し得る物質を基材として用いることも可能であるほか、当該集電体の表面に形成された正極層や負極層を基材として機能させること(すなわち、集電体の表面に形成された正極層や負極層の表面に粉体層を形成すること。)も可能である。また、本発明において、「押圧」とは、粉体を圧縮するような力を付与して粉体を圧縮する(プレスする)ことをいう。
【0010】
本発明の第1の態様では、粉体が配置された基材の表面と交差する方向に振動を付与しながら粉体を押圧する工程を経て、粉体層が形成される。かかる形態とすることにより、粉体が均一に充填された平坦な粉体層を製造することが可能になる。したがって、本発明の第1の態様によれば、粉体層を製造することが可能な、粉体層の製造方法を提供することができる。
【0011】
また、上記本発明の第1の態様において、振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、結着材、粘着材、凝集防止剤、流動化剤等の添加物(以下において、単に「添加物」ということがある。)を用いなくても粉体に流動性を付与することが可能になるので、粉体が均一に充填された平坦な粉体層を製造することが容易になるからである。
【0012】
また、上記本発明の第1の態様において、押圧時に粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、粉体の充填率(単位空間を占める粉体の割合。以下において同じ。)を向上させた粉体層を製造することが容易になるからである。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様において、振動押圧工程が、加熱されている粉体に振動を付与しながら該粉体を押圧する工程であることが好ましい。かかる形態とすることにより、粉体の充填率を向上させることが容易になるからである。
【0014】
また、振動押圧工程が、加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧する工程である上記本発明の第1の態様において、加熱が、電磁誘導加熱であることが好ましい。かかる形態とすることにより、粉体層を構成すべき粉体を均一に加熱することが容易になるので、粉体の充填率を向上させることが一層容易になるからである。
【0015】
本発明の第2の態様は、少なくとも活物質を含む電極粉体層と集電体とを備える電極体を製造する方法であって、活物質を含む電極粉体を集電体の表面に配置する電極粉体配置工程と、配置された電極粉体へ上記表面と交差する方向に振動を付与しながら、電極粉体を押圧する電極粉体振動押圧工程と、を有することを特徴とする、電極体の製造方法である。
【0016】
ここに、「少なくとも活物質を含む電極粉体層と集電体とを備える」とは、電極粉体層及び集電体が電極体に備えられていれば良いことを意味し、電極粉体層及び集電体に加えて固体電解質層が備えられるような形態も許容される。また、「活物質を含む電極粉体」とは、集電体の表面に正極層を形成する場合には、正極活物質を含む粉体をいい、集電体の表面に負極層を形成する場合には、負極活物質を含む粉体をいう。
【0017】
本発明の第2の態様では、電極粉体が配置された集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら電極粉体を押圧する工程を経て、電極体が製造される。かかる形態とすることにより、電極粉体が均一に充填された電極粉体層(正極層や負極層。以下において同じ。)を形成することが可能になるほか、電極粉体層と集電体との密着性を高めることが可能になる。したがって、本発明の第2の態様によれば、集電体と電極粉体層との密着性を向上させることが可能な電極体の製造方法を提供することができる。
【0018】
また、上記本発明の第2の態様において、振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、添加物を用いなくても電極粉体に流動性を付与することが可能になるので、電極粉体が均一に充填された平坦な電極粉体層を形成することが容易になるからである。また、電極粉体層と集電体とを強く且つ均一に密着させることが容易になり、電極体の製造時に電極粉体層及び集電体が湾曲する事態を回避することも可能になるからである。
【0019】
また、上記本発明の第2の態様において、押圧時に電極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、電極粉体の充填率を向上させた電極粉体層を製造することが容易になるからである。
【0020】
また、上記本発明の第2の態様において、電極粉体振動押圧工程が、加熱されている電極粉体に振動を付与しながら該電極粉体を押圧する工程であることが好ましい。かかる形態とすることにより、電極粉体の充填率を向上させた電極粉体層を製造することが容易になるからである。
【0021】
また、電極粉体振動押圧工程が、加熱されている電極粉体に振動を付与しながら押圧する工程である上記本発明の第2の態様において、加熱が、電磁誘導加熱であることが好ましい。かかる形態とすることにより、電極粉体層を構成すべき電極粉体を均一に加熱することが容易になるので、電極粉体の充填率を向上させることが一層容易になるからである。
【0022】
本発明の第3の態様は、少なくとも正極活物質を含む正極層と、少なくとも負極活物質を含む負極層と、正極層及び負極層の間に配設された固体電解質を含む固体電解質層と、正極層に接続された正極集電体と、負極層に接続された負極集電体と、を備える固体電池を製造する方法であって、少なくとも正極活物質を含む正極粉体を正極集電体の表面に配置する正極粉体配置工程と、正極粉体が配置された上記表面と交差する方向に振動を付与しながら、正極粉体を押圧する正極粉体振動押圧工程と、少なくとも負極活物質を含む負極粉体を負極集電体の表面に配置する負極粉体配置工程と、負極粉体が配置された上記表面と交差する方向に振動を付与しながら、負極粉体を押圧する負極粉体振動押圧工程と、固体電解質を含む電解質粉体を、正極粉体及び/又は負極粉体の表面に配置する電解質粉体配置工程と、電解質粉体が配置された表面と交差する方向に振動を付与しながら、電解質粉体を押圧する電解質粉体振動押圧工程と、を有することを特徴とする、固体電池の製造方法である。
【0023】
ここに、「電解質粉体が配置された表面」とは、電解質粉体配置工程において、正極粉体の表面にのみ電解質粉末を配置した場合には、正極粉体の表面をいい、電解質粉体配置工程において、負極粉体の表面にのみ電解質粉末を配置した場合には、負極粉体の表面をいう。これに対し、電解質粉体配置工程において、正極粉体の表面及び負極粉体の表面に電解質粉末を配置した場合には、正極粉体の表面、及び、負極粉体の表面をいう。電解質粉体工程で正極粉体の表面に電解質粉体を配置する場合、電解質粉体が配置される正極粉体は、押圧されていても良く、押圧されていなくても良い。また、電解質粉体配置工程で負極粉体の表面に電解質粉体を配置する場合、電解質粉体が配置される負極粉体は、押圧されていても良く、押圧されていなくても良い。
【0024】
本発明の第3の態様では、正極粉体が配置された正極集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら正極粉体を押圧する過程を経て正極層が形成され、負極粉体が配置された負極集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら負極粉体を押圧する過程を経て負極層が形成され、電解質粉体が配置された正極層や負極層の表面と交差する方向に振動を付与しながら電解質粉体を押圧する過程を経て固体電解質層が形成される。かかる形態とすることにより、粉体が均一に充填された正極層、負極層、及び、固体電解質層を形成することが可能になるほか、正極層と正極集電体との密着性、負極層と負極集電体との密着性、及び、正極層や負極層と固体電解質層との密着性を向上させることが可能になる。粉体を均一に充填することによって性能むらを低減することが可能になり、隣り合う層の界面における密着性を向上させたりすることによって内部抵抗を低減することが可能になる。したがって、本発明の第3の態様によれば、性能を向上させることが可能な固体電池の製造方法を提供することができる。
【0025】
また、上記本発明の第3の態様において、正極粉体振動押圧工程で付与される振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、添加物を用いなくても正極粉体に流動性を付与することが可能になるので、正極粉体が均一に充填された平坦な正極層を形成することが容易になるからである。また、正極層と正極集電体とを強く且つ均一に密着させることが容易になり、正極層の形成時に正極層及び正極集電体が湾曲する事態を回避することも可能になるからである。
【0026】
また、上記本発明の第3の態様において、正極粉体振動押圧工程における押圧時に正極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、正極粉体の充填率を向上させた正極層を形成することが容易になるからである。
【0027】
また、上記本発明の第3の態様において、正極粉体振動押圧工程が、加熱されている正極粉体に振動を付与しながら該正極粉体を押圧する工程であることが好ましい。かかる形態とすることにより、正極粉体の充填率を向上させた正極層を形成することが容易になるからである。
【0028】
また、正極粉体振動押圧工程が、加熱されている正極粉体に振動を付与しながら該正極粉体を押圧する工程である上記本発明の第3の態様において、加熱が、電磁誘導加熱であることが好ましい。かかる形態とすることにより、正極層を構成すべき正極粉体を均一に加熱することが容易になるので、正極粉体の充填率を向上させることが一層容易になるからである。
【0029】
また、上記本発明の第3の態様において、負極粉体振動押圧工程で付与される振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、該振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、添加物を用いなくても負極粉体に流動性を付与することが可能になるので、負極粉体が均一に充填された平坦な負極層を形成することが容易になるからである。また、負極層と負極集電体とを強く且つ均一に密着させることが容易になり、負極層の形成時に負極層及び負極集電体が湾曲する事態を回避することも可能になるからである。
【0030】
また、上記本発明の第3の態様において、負極粉体振動押圧工程における押圧時に負極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、負極粉体の充填率を向上させた負極層を形成することが容易になるからである。
【0031】
また、上記本発明の第3の態様において、負極粉体振動押圧工程が、加熱されている負極粉体に振動を付与しながら該負極粉体を押圧する工程であることが好ましい。かかる形態とすることにより、負極粉体の充填率を向上させた負極層を形成することが容易になるからである。
【0032】
また、負極粉体振動押圧工程が、加熱されている負極粉体に振動を付与しながら該負極粉体を押圧する工程である上記本発明の第3の態様において、加熱が、電磁誘導加熱であることが好ましい。かかる形態とすることにより、負極層を構成すべき負極粉体を均一に加熱することが容易になるので、負極粉体の充填率を向上させることが一層容易になるからである。
【0033】
また、上記本発明の第3の態様において、電解質粉体振動押圧工程で付与される振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、該振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、添加物を用いなくても電解質粉体に流動性を付与することが可能になるので、電解質粉体が均一に充填された平坦な固体電解質層を形成することが容易になるからである。また、正極層や負極層と固体電解質層とを強く且つ均一に密着させることが容易になり、固体電解質層の形成時に固体電解質層、電極層(正極層や負極層)、及び、集電体(正極集電体や負極集電体)が湾曲する事態を回避することも可能になるからである。
【0034】
また、上記本発明の第3の態様において、電解質粉体振動押圧工程における押圧時に電解質粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることが好ましい。かかる形態とすることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、電解質粉体の充填率を向上させた固体電解質層を形成することが容易になるからである。
【0035】
また、上記本発明の第3の態様において、電解質粉体振動押圧工程が、加熱されている電解質粉体に振動を付与しながら該電解質粉体を押圧する工程であることが好ましい。かかる形態とすることにより、電解質粉体の充填率を向上させた固体電解質層を形成することが容易になるからである。
【0036】
また、電解質粉体振動押圧工程が、加熱されている電解質粉体に振動を付与しながら該電解質粉体を押圧する工程である上記本発明の第3の態様において、加熱が、電磁誘導加熱であることが好ましい。かかる形態とすることにより、固体電解質層を構成すべき電解質粉体を均一に加熱することが容易になるので、電解質粉体の充填率を向上させることが一層容易になるからである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、粉体層を製造可能な粉体層の製造方法、集電体と粉体層との密着性を向上させることが可能な電極体の製造方法、及び、粉体層を備える固体電池の性能を向上させることが可能な固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の粉体層の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明で使用する装置20の一形態を説明する図である。
【図3】本発明の電極体の製造方法を説明するフローチャートである。
【図4】電極体40の形態を説明する図である。
【図5】本発明の固体電池の製造方法を説明するフローチャートである。
【図6】固体電池60の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
固体電池の性能を向上させるためには、固体電池を構成する各層の粉体を均一に充填して性能むらを抑制することや、集電体と電極層とを密着させること等が重要である。集電体と電極層との密着は、これまで、電極層に含まれる粉体と集電体とのアンカー効果による接合か、電極層に含有させた添加物によって確保されていた。しかしながら、アンカー効果は材料によって変動し、多くの場合十分な効果が得られず、また、電極層に添加物を含有させると固体電池の品質低下の一因になる虞がある。それゆえ、品質等を考慮すると、添加物が含有されていない粉体によって構成される電極層を用いることが好ましい。ところが、粉体によって構成される電極層を用いると、電極層と集電体との密着性を確保し難くなるほか、粉体を均一に充填することも困難になりやすい。そのため、粉体で構成される電極層を備える固体電池の性能を向上させることが可能な、固体電池の製造方法の開発が求められていた。
【0040】
本発明者らは、鋭意研究の結果、粉体が配置された集電箔(基材)の表面と交差する方向に振動を付与しながら粉体を押圧することにより、粉体が均一に充填された粉体層を形成可能であり、粉体層と集電箔(基材)とを強く接合可能であることを知見した。そして、振動の振幅や周波数を制御することにより、粉体の流動性を制御することが容易になり、その結果、粉体を均一に充填しやすくなることを知見した。また、本発明者らは、鋭意研究の結果、上記方向に振動を付与しながら粉体を押圧する際に粉体を加熱することにより、粉体の充填率を高めやすくなり、粉体を電磁誘導加熱することにより、粉体の充填率をより一層高めやすくなることを知見した。また、本発明者らは、鋭意研究の結果、振動を付与しながら粉体を押圧して粉体層を形成する形態とすることにより、押圧時に粉体へと付与すべき圧力を従来の1/1000〜1/30程度にしても、粉体の充填率を従来と同等以上にすることが可能であることを知見した。
【0041】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。本発明は、粉体が配置された基材の表面と交差する方向に振動を付与しながら粉体を押圧する過程を経て粉体層を形成することにより、粉体が均一に充填された粉体層を製造し得る、粉体層の製造方法を提供することを、第一の目的とする。また、本発明は、電極粉体が配置された集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら電極粉体を押圧する過程を経て電極体を形成することにより、電極粉体が均一に充填された電極層と強固に密着した集電体を備える電極体を製造し得る、電極体の製造方法を提供することを、第二の目的とする。また、本発明は、当該電極体の製造方法を用いて固体電池を製造することにより、性能むらや内部抵抗を低減して性能を向上させることが可能な固体電池を製造し得る、固体電池の製造方法を提供することを、第三の目的とする。
【0042】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0043】
1.粉体層の製造方法
図1は、本発明の粉体層の製造方法を説明するフローチャートである。図1に示すように、本発明の粉体層の製造方法は、粉体配置工程(S11)と、粉体振動押圧工程(S12)と、を有している。
【0044】
粉体配置工程(以下において、「S11」ということがある。)は、固体電解質及び活物質の少なくとも一方を含む粉体を、基材の表面に配置する工程である。本発明の粉体層の製造方法を用いて固体電池の正極層を製造する場合、S11は、基材に相当する集電体(例えば、集電箔。以下において同じ。)の表面に、固体電解質及び正極活物質を含む正極粉体を配置する工程、とすることができる。S11が、固体電解質及び正極活物質を含む正極粉末を配置する工程である場合、固体電解質と正極活物質との体積比は特に限定されるものではなく、適宜決定することができる。正極粉末の体積を100とするとき、固体電解質と正極活物質との体積比は、例えば、固体電解質:正極活物質=50:50とすることができる。また、本発明の粉体層の製造方法を用いて固体電池の負極層を製造する場合、S11は、基材に相当する集電体の表面に、固体電解質及び負極活物質を含む負極粉体を配置する工程、とすることができる。S11が、固体電解質及び負極活物質を含む負極粉末を配置する工程である場合、固体電解質と負極活物質との体積比は特に限定されるものではなく、適宜決定することができる。負極粉末の体積を100とするとき、固体電解質と負極活物質との体積比は、例えば、固体電解質:負極活物質=50:50とすることができる。また、本発明の粉体層の製造方法を用いて固体電池の固体電解質層を製造する場合、S11は、基材に相当する、集電体の表面に形成された正極層、及び/又は、集電体の表面に形成された負極層の表面に、固体電解質を含む電解質粉体を配置する工程、とすることができる。
【0045】
粉体振動押圧工程(以下において、「S12」ということがある。)は、S11で粉体が配置された基材表面と交差する方向に振動を付与しながら、基材表面に配置されている粉体を押圧する工程である。粉体に振動を付与しながら押圧することにより、粉体が均一に充填された粉体層を製造することができる。したがって、S11及びS12を経て粉体層を製造する本発明の粉体層の製造方法によれば、粉体が均一に充填された粉体層を製造することができる。
【0046】
S12における振動の振幅は例えば10μm以上100μm以下とすることが好ましく、振動の周波数は20kHz以上60kHz以下とすることが好ましい。振幅を10μm以上100μm以下とし、周波数を20kHz以上60kHz以下とすることにより、粉体に流動性を付与することが容易になるので、粉体を均一に充填することが容易になる。
【0047】
また、S12で粉体に付与される圧力は、490kPa以上9.8MPa以下とすることが好ましい。このような圧力を付与する形態であることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、粉体の充填率を向上させた粉体層を製造することが容易になる。また、S12の時間は、特に限定されるものではなく、例えば、1秒以上10秒以下程度とすることができる。S12は、例えば、振幅20μm、周波数40kHzの振動を粉体に付与しながら、490kPaの圧力を2秒間に亘って付与することにより、粉体層を製造する工程、とすることができる。
【0048】
図2は、S12で使用可能な装置20を説明する図である。装置20は、基材1を配置する台21と、基材1の表面に配置された粉体2に接触する接触部22と、接触部22に接続された軸部23と、粉体2を加熱する加熱部24とを有している。接触部22及び軸部23は、軸部23に接続された超音波振動制御手段25で超音波を発生させると上下動し、軸部23に接続された圧力制御手段26によって制御された圧力が接触部22を介して粉体2へと付与されることにより、粉体2が、振動を付与されながら押圧される。加熱部24は、電磁誘導加熱コイルであり、電磁誘導加熱制御手段27を用いて、粉体2の加熱温度を制御可能なように構成されている。
【0049】
S12は、図2に示した加熱部24を用いて加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧する工程、とすることもできる。加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧することにより、粉体の充填率を向上させることが容易になるため好ましい。なお、加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧する形態のS12とする場合、粉体を加熱する方法は電磁誘導加熱に限定されるものではない。ただし、粉体を均一に加熱しやすい形態にする等の観点からは、電磁誘導加熱によって粉体を加熱する形態とすることが好ましい。粉体を加熱する形態のS12とする場合、粉体の加熱温度は、粉体の種類に応じて適宜変更することができる。粉体の充填率を向上させやすい形態にする等の観点から、粉体の加熱温度は例えば40℃以上とすることが好ましく、固体電解質の電気的特性を劣化させない形態にする等の観点から、粉体の加熱温度は例えば200℃以下とすることが好ましい。S12は、粉体に応じて(振動を付与されながら押圧される材料に応じて)、加熱するか否かを決定することができ、加熱しない場合には、常温下で粉体に振動を付与しながら押圧する工程とすることができる。
【0050】
本発明の粉体層の製造方法において、固体電解質は、リチウムイオン二次電池等の公知の電池で使用可能な、酸化物系固体電解質や硫化物系固体電解質等、公知の固体電解質を適宜用いることができる。酸化物系固体電解質としては、LiPO等を例示することができ、硫化物系固体電解質としては、LiPSのほか、LiS:P=50:50〜100:0となるようにLiS及びPを混合して作製した硫化物固体電解質(例えば、質量比で、LiS:P=70:30となるようにLiS及びPを混合して作製した硫化物固体電解質)等を例示することができる。
【0051】
また、本発明の粉体層の製造方法において、活物質は、リチウムイオン二次電池等の公知の電池で使用可能な公知の活物質を適宜用いることができる。本発明の粉体層の製造方法で使用可能な正極活物質としては、LiCoO粉末、LiNiO粉末、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3粉末、LiMn粉末、LiCoMnO粉末、LiNiMn粉末、LiNi0.5Mn1.5粉末、LiCoPO粉末、LiMnPO粉末、及び、LiFePO粉末等を例示することができる。また、本発明の粉体層の製造方法で使用可能な負極活物質としては、金属系活物質粉末やカーボン系活物質粉末等を例示することができる。金属系活物質粉末としては、In粉末、Al粉末、Si粉末、及び、Sn粉末のほか、LiTi12等の無機酸化物系活物質粉末を例示することができる。また、カーボン系活物質粉末としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)粉末、高配向性グラファイト(HOPG)粉末、ハードカーボン粉末、及び、ソフトカーボン粉末等を例示することができる。このほか、本発明の粉体層の製造方法で製造される粉体層が正極層や負極層である場合、正極粉体や負極粉体には導電体粉末が含有されていても良い。含有され得る導電体粉末としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及び、VGCF(「VGCF」は、昭和電工株式会社の登録商標。)等を例示することができる。
【0052】
また、本発明の粉体層の製造方法において、基材の形態は特に限定されるものではない。本発明の粉体層の製造方法を用いて、固体電池を構成すべき正極層や負極層を製造する場合には、集電体として機能する導電性材料(例えば、金属箔)を基材として用いることが好ましい。金属箔を基材として用いることにより、正極層や負極層と金属箔とを強く密着させることが可能になる。本発明の粉体層の製造方法において、基材として使用可能な金属箔としては、Al箔、Cu箔、Ni箔、Fe箔、CuNi箔、及び、CuFe箔等を例示することができる。
【0053】
2.電極体の製造方法
図3は、本発明の電極体の製造方法を説明するフローチャートである。図3に示すように、本発明の電極体の製造方法は、電極粉体配置工程(S31)と、電極粉体振動押圧工程(S32)と、を有している。以下、図2及び図3を参照しつつ、本発明の電極体の製造方法について説明する。
【0054】
電極粉体配置工程(以下において、「S31」ということがある。)は、活物質を含む電極粉体を、集電体の表面に配置する工程である。S31は、例えば、固体電解質及び正極活物質及び導電体を混合して作製した正極粉体を、正極集電体として機能する金属箔の表面に配置する形態や、固体電解質及び負極活物質及び導電体を混合して作製した負極粉体を、負極集電体として機能する金属箔の表面に配置する形態とすることができる。
【0055】
電極粉体振動押圧工程(以下において、「S32」ということがある。)は、S31で電極粉体が配置された集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら、集電体表面に配置されている電極粉体を押圧して電極粉体層を形成する工程である。S31が、正極集電体として機能する金属箔の表面に正極粉体を配置する形態であった場合、S32は、正極粉体が配置された金属箔の表面と交差する方向に振動を付与しながら、正極粉体を押圧して正極層を形成する工程、とすることができる。このほか、S31が、負極集電体として機能する金属箔の表面に負極粉体を配置する形態であった場合、S32は、負極粉体が配置された金属箔の表面と交差する方向に振動を付与しながら、負極粉体を押圧して負極層を形成する工程、とすることができる。電極粉体(正極粉体や負極粉体。以下において同じ。)に振動を付与しながら押圧することにより、電極粉体が均一に充填された電極粉体層(正極層や負極層。以下において同じ。)を製造することができ、さらに、電極粉体層と集電体(正極集電体や負極集電体。以下において同じ。)とを強く密着させることができる。電極粉体層と集電体とを強く密着させることにより、抵抗を低減することが可能になる。したがって、本発明の電極体の製造方法によれば、抵抗を低減することが可能な電極体を製造することができる。
【0056】
S32における振動の振幅は例えば10μm以上100μm以下とすることが好ましく、振動の周波数は20kHz以上60kHz以下とすることが好ましい。振幅を10μm以上100μm以下とし、周波数を20kHz以上60kHz以下とすることにより、電極粉体に流動性を付与することが容易になるので、電極粉体が均一に充填された電極粉体層を製造することが容易になる。また、かかる形態とすることにより、電極粉体層と集電体とを強く且つ均一に密着させることが容易になり、電極体の製造時に電極粉体層及び集電体が湾曲する事態を回避することも可能になる。
【0057】
また、S32で粉体に付与される圧力は、490kPa以上9.8MPa以下とすることが好ましい。このような圧力を付与する形態であることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、電極粉体の充填率を向上させた電極粉体層を製造することが容易になる。また、S32の時間は、特に限定されるものではなく、例えば、1秒以上10秒以下程度とすることができる。S32は、例えば、振幅20μm、周波数40kHzの振動を電極粉体に付与しながら、490kPaの圧力を2秒間に亘って付与することにより、電極粉体層を製造する工程、とすることができる。
【0058】
また、S32は、加熱部24を用いて加熱されている電極粉体に振動を付与しながら押圧する工程、とすることもできる。加熱されている電極粉体に振動を付与しながら押圧することにより、電極粉体の充填率を向上させることが容易になるため好ましい。なお、加熱されている電極粉体に振動を付与しながら押圧する形態のS32とする場合、電極粉体を加熱する方法は特に限定されるものではない。ただし、電極粉体を均一に加熱しやすい形態にする等の観点からは、電磁誘導加熱によって電極粉体を加熱する形態とすることが好ましい。電極粉体を加熱する形態のS32とする場合、電極粉体の加熱温度は、電極粉体の種類に応じて適宜変更することができる。電極粉体の充填率を向上させやすい形態にする等の観点から、電極粉体の加熱温度は例えば40℃以上とすることが好ましく、固体電解質の電気的特性を劣化させない形態にする等の観点から、電極粉体の加熱温度は例えば200℃以下とすることが好ましい。S32は、電極粉体に応じて(振動を付与されながら押圧される材料に応じて)、加熱するか否かを決定することができ、加熱しない場合には、常温下で粉体に振動を付与しながら押圧する工程とすることができる。
【0059】
本発明の電極体の製造方法は、S31及びS32を有していれば良く、これら以外の工程を有していても良い。他に備えられ得る工程としては、例えば、正極集電体の表面に形成された正極層の表面に、固体電解質を含む電解質粉末を配置する工程や、電解質粉末が配置された正極層の表面と交差する方向に振動を付与しながら、加熱されている電解質粉末を押圧する工程等を挙げることができる。このほか、負極集電体の表面に形成された負極層の表面に、固体電解質を含む電解質粉末を配置する工程や、電解質粉末が配置された負極層の表面と交差する方向に振動を付与しながら、加熱されている電解質粉末を押圧する工程等を挙げることもできる。図4に、正極集電体41と正極層42と固体電解質層43とを備える電極体40の断面図を示す。図4に示す電極体40は、S31及びS32によって正極集電体41の表面に正極層42を形成し、さらに、当該正極層42の表面に固体電解質層43を形成することによって製造されている。本発明の電極体の製造方法によれば、例えば、図4に示す電極体40を製造することができる。
【0060】
本発明の電極体の製造方法で使用可能な固体電解質、活物質、及び、集電体としては、本発明の粉体層の製造方法で例示した固体電解質、活物質、及び、金属箔と同様のものを例示することができる。
【0061】
3.固体電池の製造方法
図5は、本発明の固体電池の製造方法を説明するフローチャートである。図5に示すように、本発明の固体電池の製造方法は、正極粉体配置工程(S51)と、正極粉体振動押圧工程(S52)と、負極粉体配置工程(S53)と、負極粉体振動押圧工程(S54)と、電解質粉体配置工程(S55)と、電解質粉体振動押圧工程(S56)と、積層工程(S57)と、積層体押圧工程(S58)と、を有している。また、図6は、本発明の固体電池の製造方法によって製造された固体電池60を説明する断面図である。図6では、端子や外装材等の記載を省略している。図6に示すように、固体電池60は、正極集電体61の表面に形成された正極層62と、負極集電体63の表面に形成された負極層64と、正極層62の表面に形成され、且つ、正極層62及び負極層64に接触するように配置されている固体電解質層65と、を有している。固体電池60は、不図示の外装材に収容された状態で使用される。以下、図2、図5、及び、図6を参照しつつ、本発明の固体電池の製造方法について説明する。
【0062】
正極粉体配置工程(以下において、「S51」ということがある。)は、正極活物質を含む正極粉体を、正極集電体の表面に配置する工程である。S51は、例えば、正極集電体61の表面に、正極活物質と固体電解質と導電体とを含む正極粉末を配置する工程、とすることができる。
【0063】
正極粉体振動押圧工程(以下において、「S52」ということがある。)は、S51で正極粉体が配置された正極集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら、正極集電体の表面に配置されている正極粉体を押圧して正極層を製造する工程である。S52は、例えば、正極集電体61の表面に配置された上記正極粉末に振動を付与しながら押圧することにより、正極集電体61の表面に正極層62を製造する工程、とすることができる。このようにして正極層62を製造することにより、正極粉体が均一に充填された正極層62を製造することが可能になり、且つ、正極集電体61と正極層62とを強く密着させることが可能になる。
【0064】
負極粉体配置工程(以下において、「S53」ということがある。)は、負極活物質を含む負極粉体を、負極集電体の表面に配置する工程である。S53は、例えば、負極集電体63の表面に、負極活物質と固体電解質と導電体とを含む負極粉末を配置する工程、とすることができる。
【0065】
負極粉体振動押圧工程(以下において、「S54」ということがある。)は、S53で負極粉体が配置された負極集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら、負極集電体の表面に配置されている負極粉体を押圧して負極層を製造する工程である。S54は、例えば、負極集電体63の表面に配置された上記負極粉末に振動を付与しながら押圧することにより、負極集電体63の表面に負極層64を製造する工程、とすることができる。このようにして負極層64を製造することにより、負極粉体が均一に充填された負極層64を製造することが可能になり、且つ、負極集電体63と負極層64とを強く密着させることが可能になる。
【0066】
電解質粉体配置工程(以下において、「S55」ということがある。)は、固体電解質を含む電解質粉体を、正極層及び/又は負極層の表面に配置する工程である。S55は、例えば、S52で製造された正極層62の表面に、固体電解質を含む電解質粉末を配置する工程、とすることができる。
【0067】
電解質粉体振動押圧工程(以下において、「S56」ということがある。)は、S55で電解質粉体が配置された正極層及び/又は負極層の表面と交差する方向に振動を付与しながら、電解質粉体を押圧して固体電解質層を製造する工程である。S56は、例えば、S55で正極層62の表面に配置された電解質粉体に振動を付与しながら押圧することにより、正極層62の表面に固体電解質層65を製造する工程、とすることができる。このようにして固体電解質層65を製造することにより、電解質粉体が均一に充填された固体電解質層65を製造することが可能になり、かつ、正極層62と固体電解質層65とを強く密着させることが可能になる。
【0068】
積層工程(以下において、「S57」という。)は、S56で製造された固体電解質層が正極層と負極層との間に配置されるように、正極集電体の表面に形成された正極層と、固体電解質層と、負極集電体の表面に形成された負極層とを積層することにより、正極集電体と正極層と固体電解質層と負極層と負極集電体とを順に備える積層体を形成する工程である。
【0069】
積層体押圧工程(以下において、「S58」ということがある。)は、S57で形成された積層体を押圧する工程である。積層体を構成する隣接する各層の密着性を向上させることにより、性能を向上させた固体電池を製造しやすい形態にする等の観点から、S58は、積層体を構成する各層の積層方向に振動を付与し、且つ、積層体を電磁誘導加熱しながら、押圧する工程、とすることが好ましい。かかる形態とする場合、振動の振幅は例えば5μm以上15μm以下とすることが好ましく、振動の周波数は例えば15kHz以上40kHz以下とすることが好ましい。また、加熱温度は、極めて低温(例えば、180℃程度)とすることが好ましい。なお、積層体を構成する各層の材料によっては、加熱することなく常温で、積層体を構成する各層の積層方向に振動を付与しながら押圧する工程とすることも可能である。
【0070】
S51〜S58を経て製造した固体電池60は、正極集電体61と正極層62と固体電解質層65と負極層64と負極集電体63とが強く密着している。隣接する各層の界面を強く密着させることにより、抵抗を低減することが可能になり、抵抗を低減することにより、電池の性能を向上させることが可能になる。また、固体電池60は、S52、S54、S56を経て製造されているため、正極粉体が均一に充填された正極層62と、負極粉体が均一に充填された負極層64と、電解質粉体が均一に充填された固体電解質層65と、を有している。粉体が均一に充填された層が備えられていることにより、性能むらを低減することが可能になり、固体電池の性能を向上させることが可能になる。したがって、本発明の固体電池の製造方法によれば、性能を向上させることが可能な固体電池60を製造することができる。
【0071】
本発明の固体電池の製造方法において、S52、S54、及び、S56における振動の振幅は例えば10μm以上100μm以下とすることが好ましく、振動の周波数は20kHz以上60kHz以下とすることが好ましい。振幅を10μm以上100μm以下とし、周波数を20kHz以上60kHz以下とすることにより、粉体(S52では正極粉体、S54では負極粉体、S56では電解質粉体。以下において同じ。)に流動性を付与することが容易になるので、粉体が均一に充填された粉体層(S52では正極層、S54では負極層、S56では固体電解質層。以下において同じ。)を製造することが容易になる。また、かかる形態とすることにより、S52では正極層と正極集電体とを、S54では負極層と負極集電体とを、S56では正極層及び/又は負極層と固体電解質層とを、それぞれ強く且つ均一に密着させることが容易になり、粉体層の製造時に粉体層等が湾曲する事態を回避することも可能になる。
【0072】
また、本発明の固体電池の製造方法において、S52、S54、及び、S56で粉体に付与される圧力は、490kPa以上9.8MPa以下とすることが好ましい。このような圧力を付与する形態であることにより、製造装置の費用や製造装置を設置する空間の広さを低減し、且つ、二酸化炭素排出量を低減しながら、粉体の充填率を向上させた粉体層を製造することが容易になる。また、S52、S54、及び、S56の時間は、特に限定されるものではなく、例えば、1秒以上10秒以下程度とすることができる。S52、S54、及び、S56は、例えば、振幅20μm、周波数40kHzの振動を粉体に付与しながら、490kPaの圧力を2秒間に亘って付与することにより、粉体層を製造する工程、とすることができる。
【0073】
また、本発明の固体電池の製造方法において、S52、S54、及び、S56は、加熱部24を用いて加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧する形態、とすることもできる。加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧することにより、粉体の充填率を向上させた粉体層を製造することが容易になるため好ましい。なお、加熱されている粉体に振動を付与しながら押圧する形態のS52、S54、S56とする場合、粉体を加熱する方法は特に限定されるものではない。ただし、粉体を均一に加熱しやすい形態にする等の観点からは、電磁誘導加熱によって粉体を加熱する形態とすることが好ましい。正極粉体を加熱する形態のS52とする場合、正極粉体の加熱温度は、正極粉体の種類に応じて適宜変更することができる。正極粉体の充填率を向上させやすい形態にする等の観点から、正極粉体の加熱温度は例えば40℃以上とすることが好ましく、固体電解質の電気的特性を劣化させない形態にする等の観点から、正極粉体の加熱温度は例えば200℃以下とすることが好ましい。また、負極粉体を加熱する形態のS54とする場合、負極粉体の加熱温度は、負極粉体の種類に応じて適宜変更することができる。負極粉体の充填率を向上させやすい形態にする等の観点から、負極粉体の加熱温度は例えば40℃以上とすることが好ましく、固体電解質の電気的特性を劣化させない形態にする等の観点から、負極粉体の加熱温度は例えば200℃以下とすることが好ましい。また、電解質粉体を加熱する形態のS56とする場合、電解質粉体の加熱温度は、電解質粉体の種類に応じて適宜変更することができる。電解質粉体の充填率を向上させやすい形態にする等の観点から、電解質粉体の加熱温度は例えば40℃以上とすることが好ましく、固体電解質の電気的特性を劣化させない形態にする等の観点から、電解質粉体の加熱温度は、例えば200℃以下とすることが好ましい。S52、S54、及び、S56は、粉体に応じて(振動を付与されながら押圧される材料に応じて)、加熱するか否かを決定することができ、加熱しない場合には、常温下で粉体に振動を付与しながら押圧する工程とすることができる。
【0074】
本発明の固体電池の製造方法で使用可能な固体電解質、活物質、及び、集電体としては、本発明の粉体層の製造方法で例示した固体電解質、活物質、及び、金属箔と同様のものを例示することができる。
【0075】
本発明の固体電池の製造方法に関する上記説明では、正極粉体振動押圧工程の後に負極粉体配置工程及び負極粉体振動押圧工程が行われる形態を例示したが、本発明の固体電池の製造方法は当該形態に限定されるものではない。本発明の固体電池の製造方法は、負極粉体振動押圧工程の後に正極粉体配置工程及び正極粉体振動押圧工程が行われる形態であっても良い。
【0076】
また、本発明の固体電池の製造方法に関する上記説明では、電解質粉体が正極層の表面に配置される形態の電解質粉体配置工程を例示したが、本発明の固体電池の製造方法は当該形態に限定されるものではない。本発明の固体電池の製造方法は、負極層の表面に電解質粉体を配置する形態の電解質粉体配置工程を有していても良く、正極層及び負極層の表面に電解質粉体を配置する形態の電解質粉体配置工程を有していても良い。
【0077】
また、本発明の固体電池の製造方法に関する上記説明では、S52で正極粉体を押圧し、S54で負極粉体を押圧し、S56で電解質粉体を押圧した後に、S58で積層体を押圧する形態を例示したが、本発明の固体電池の製造方法は当該形態に限定されるものではない。本発明の固体電池の製造方法は、S52、S54、及び、S56を省略することも可能である。この場合、電解質粉体が正極粉体と負極粉体との間に配設されるように、正極集電体、正極粉体、電解質粉体、負極粉体、及び、負極集電体を積層した後、積層体押圧工程において、正極粉体が配置されている正極集電体の表面や負極粉体が配置されている負極集電体の表面と交差する方向に振動を付与しながら、正極粉体、電解質粉体、及び、負極粉体を押圧することにより、正極層、固体電解質層、及び、負極層を作製することができる。
【0078】
上述したように、本発明によれば、粉体が均一に充填された平坦な粉体層を製造することが可能な粉体層の製造方法、集電体と電極粉体層との密着性を向上させることが可能な電極体の製造方法、及び、性能を向上させることが可能な固体電池の製造方法を提供することができる。本発明によるこれらの効果は、粉体が配置された面と交差する方向に振動を付与しながら押圧することによって、粉体が均一に充填され、粉体の充填率が向上し、粉体層を薄膜化することが可能であることに由来しており、充填率の向上や薄膜化が可能という効果は、例えば粉体を分散させた塗液をダイ塗工する過程を経て成膜し乾燥した膜に、膜の表面と交差する方向に振動を付与しながら押圧する(超音波振動プレスを行う)ことによっても、得ることが可能である。ダイ塗工で成膜し乾燥した膜に超音波振動プレスを行う際の条件は、上述した振動押圧工程と同様の条件とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の粉体層の製造方法、電極体の製造方法、及び、固体電池の製造方法は、電気自動車やハイブリッド自動車用等に利用可能な固体電池を製造する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…基材
2…粉体
20…装置
21…台
22…接触部
23…軸部
24…加熱部
25…超音波振動制御手段
26…圧力制御手段
27…電磁誘導加熱制御手段
40…電極体
41…正極集電体
42…正極層
43…固体電解質層
60…固体電池
61…正極集電体
62…正極層
63…負極集電体
64…負極層
65…固体電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質及び活物質の少なくとも一方を含む粉体を、基材の表面に配置する粉体配置工程と、
配置された前記粉体へ前記表面と交差する方向に振動を付与しながら、前記粉体を押圧する粉体振動押圧工程と、
を有することを特徴とする、粉体層の製造方法。
【請求項2】
前記振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、前記振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることを特徴とする、請求項1に記載の粉体層の製造方法。
【請求項3】
前記押圧時に前記粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の粉体層の製造方法。
【請求項4】
前記振動押圧工程が、加熱されている前記粉体に振動を付与しながら該粉体を押圧する工程であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉体層の製造方法。
【請求項5】
前記加熱が、電磁誘導加熱であることを特徴とする、請求項4に記載の粉体層の製造方法。
【請求項6】
少なくとも活物質を含む電極粉体層と集電体とを備える電極体を製造する方法であって、
前記活物質を含む電極粉体を、前記集電体の表面に配置する電極粉体配置工程と、
配置された前記電極粉体へ前記表面と交差する方向に振動を付与しながら、前記電極粉体を押圧する電極粉体振動押圧工程と、
を有することを特徴とする、電極体の製造方法。
【請求項7】
前記振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、前記振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることを特徴とする、請求項6に記載の電極体の製造方法。
【請求項8】
前記押圧時に前記電極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の電極体の製造方法。
【請求項9】
前記電極粉体振動押圧工程が、加熱されている前記電極粉体に振動を付与しながら該電極粉体を押圧する工程であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の電極体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱が、電磁誘導加熱であることを特徴とする、請求項9に記載の電極体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも正極活物質を含む正極層と、少なくとも負極活物質を含む負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配設された固体電解質を含む固体電解質層と、前記正極層に接続された正極集電体と、前記負極層に接続された負極集電体と、を備える固体電池を製造する方法であって、
少なくとも前記正極活物質を含む正極粉体を前記正極集電体の表面に配置する正極粉体配置工程と、
前記正極粉体が配置された前記表面と交差する方向に振動を付与しながら、前記正極粉体を押圧する正極粉体振動押圧工程と、
少なくとも前記負極活物質を含む負極粉体を前記負極集電体の表面に配置する負極粉体配置工程と、
前記負極粉体が配置された前記表面と交差する方向に振動を付与しながら、前記負極粉体を押圧する負極粉体振動押圧工程と、
固体電解質を含む電解質粉体を、前記正極粉体及び/又は前記負極粉体の表面に配置する電解質粉体配置工程と、
前記電解質粉体が配置された前記表面と交差する方向に振動を付与しながら、前記電解質粉体を押圧する電解質粉体振動押圧工程と、
を有することを特徴とする、固体電池の製造方法。
【請求項12】
前記正極粉体振動押圧工程で付与される前記振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、該振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることを特徴とする、請求項11に記載の固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記正極粉体振動押圧工程における前記押圧時に前記正極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の固体電池の製造方法。
【請求項14】
前記正極粉体振動押圧工程が、加熱されている前記正極粉体に振動を付与しながら該正極粉体を押圧する工程であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項15】
前記加熱が、電磁誘導加熱であることを特徴とする、請求項14に記載の固体電池の製造方法。
【請求項16】
前記負極粉体振動押圧工程で付与される前記振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、該振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項17】
前記負極粉体振動押圧工程における前記押圧時に前記負極粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることを特徴とする、請求項11〜16のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項18】
前記負極粉体振動押圧工程が、加熱されている前記負極粉体に振動を付与しながら該負極粉体を押圧する工程であることを特徴とする、請求項11〜17のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項19】
前記負極粉体振動押圧工程における前記加熱が、電磁誘導加熱であることを特徴とする、請求項18に記載の固体電池の製造方法。
【請求項20】
前記電解質粉体振動押圧工程で付与される前記振動の振幅が10μm以上100μm以下であり、且つ、該振動の周波数が20kHz以上60kHz以下であることを特徴とする、請求項11〜19のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項21】
前記電解質粉体振動押圧工程における前記押圧時に前記電解質粉体へと付与される圧力が、490kPa以上9.8MPa以下であることを特徴とする、請求項11〜20のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項22】
前記電解質粉体振動押圧工程が、加熱されている前記電解質粉体に振動を付与しながら該電解質粉体を押圧する工程であることを特徴とする、請求項11〜21のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【請求項23】
前記電解質粉体振動押圧工程における前記加熱が、電磁誘導加熱であることを特徴とする、請求項22に記載の固体電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−64432(P2012−64432A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207584(P2010−207584)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】