説明

粉末及び溶液前駆体原料を用いてプラズマ溶射によって複合多層及び傾斜被膜を生成する、改善されたハイブリッド方法論

【課題】多様な用途に対応するために、層状被膜を形成するために逐次的に又は複合被膜若しくは連続傾斜被膜を形成するために同時にナノ構造層及びミクロ構造層を堆積させる被膜組成及びミクロ構造の制御を可能にする方法を提供する。
【解決手段】a)ミクロサイズ粒子を含む粉末原料をプラズマ溶射プルーム中に噴射する工程;及びb)液体前駆体溶液を含む液体原料を該プラズマ溶射プルーム中に噴射する工程を含み、該粉末原料の噴射及び該液体原料の噴射は独立に制御可能である、プラズマ溶射銃における粉末原料及び溶液前駆体原料の同時供給を用いて複合プラズマ溶射被膜を生成する方法が開示される。この新規方法を使用して生成される熱遮蔽被膜は、従来の空気プラズマ溶射被膜と比較して2倍の寿命を実証した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液前駆体及び粉末の同時又は逐次的供給を含む2種類以上の原料を用いて複合多層及び傾斜(graded)被膜を形成する堆積の方法論又は方法に関する。より具体的には、本発明は、粉末及び溶液前駆体原料物質をプラズマ溶射システム、又は任意の他の溶射システムに導入して、被膜の機能特性を増強させるべく設計された独自のミクロ構造を達成する新規なスキームに関する。
【背景技術】
【0002】
溶射被覆は、プラズマ、酸素燃焼又はアークにより発生したエネルギーなどの種々の高温、高速エネルギー源を用いて、原料物質の逐次的な層毎の堆積による保護又は機能層又は被膜を形成することを含む有用な工業的方法である。金属、合金、セラミックス、サーメット又はこれらの組合せを含む原料物質は、上記高エネルギー源のいずれかに注入される場合、熱的に軟化/溶融され、基材に向けられて被膜を形成する。原料物質は通常、典型的には10から125ミクロンのサイズ範囲である粉末の形態で供給される。多くの種々の溶射変型が利用できるが、それらの中でより一般的なものは、プラズマ溶射、爆発溶射、酸素を用いる高速フレーム(HVOF)溶射、空気を用いる高速フレーム(HVAF)溶射、コールドスプレー、フレーム溶射、溶線式アーク溶射などである。従来、上記技術は、主に粉末粒子の形態の、及び場合によってまた線又は棒としての原料物質の高温帯域(プラズマ、燃焼、アークなどで形成された)中への投入を含んだものであり、ここで、それらは、ガス流によって完全/部分溶融及び加速され、その後、基材に衝突して被膜を形成する。高速での完全/部分溶融粒子の繰返し衝突は、それぞれ「スプラット(splat)」を形成し、最終的には様々な用途に用いられる所望の厚さの被膜層の形成をもたらす。
【0003】
上記方法は、固有の熱エネルギー源に関して異なるが、すべて工業的に用いられ、それらの堆積層の特性は、用いられる特定の溶射変型に依存する。溶射被覆の用途はすべて、広範であり、部品の耐用年数及びそれらの性能を向上させるために、様々な種類の磨耗、腐食及び高温状況に曝露される様々なエンジニアリング部品に及ぶ。例えば、下層基材に対して高温保護を必要とする典型的な用途では、セラミックジルコニアをベースとする熱遮蔽被膜(TBC)の堆積は、高温で稼動するガスタービン部品の寿命を延ばす。同様に、原料物質の思慮深い選択による適切な被膜の堆積は、表面に対して耐摩耗性、耐食性、又は耐酸化性などの任意の必要な又は所望の機能特性を付与し得る。
【0004】
種々の溶射変型、特にプラズマ溶射と関連して使用される粉末供給技術は、噴射効率を改善するために、例えば、Coucherに付与された米国特許第3,987,937号、Fabelに付与された米国特許第4,674,683号、及びFuimefreddoらに付与された米国特許第5,013,883号に記載されるとおりのプラズマ溶射トーチに対する修正及び付属品によって改良されてきた。ほとんどの場合、一次プラズマ発生ガスが、粉末原料を高温プラズマプルーム(plume)に運び、それをプラズマ流中に径方向に注入するために用いられる。プラズマ溶射の一部の変型及びいくつかの他の溶射技術は、粒子の加熱及び加速を促進するために軸方向粉末注入を採用するが、プラズマ溶射装置の大部分は、径方向の粉末注入ポートを用いる。プラズマ溶射の間の粉末原料及び液体原料の同時供給は、Skoogら(米国特許出願公開第US20060222777号)により開示されている。しかし、複合ナノ構造/ミクロ構造被膜を生成するためにこの装置の使用することは、開示されていない。上記開示の本質は、担体液体中に懸濁した微粒子を用いて基材にプラズマ溶射被覆を適用して、従来の粉末供給装置における目詰まりの問題を克服する方法である。反応による微細ナノサイズ粒子のその場(in situ)での形成につながる溶液前駆体の使用は、想定されていない。
【0005】
より最近になって、ナノ構造物質が、従来のミクロンサイズの物質よりも硬度、靭性、及び耐摩耗性に関して改善された性能をもたらすことが報告された。同様に、溶射によるナノ構造物質の一体化も、改善された特性及び性能を示すことが報告された。しかし、ナノサイズ粉末は、それらの流動性不良に伴う問題のために溶射によって直接適用することができず、したがって、供給を可能にするために許容されるサイズに不可避的に凝集させなければならない。米国特許出願公開第US20070134432A1号には、再構成ナノ構造物質を溶射して、2以上の構造状態を含む被膜を形成することよって、2層型ナノ構造被膜を形成する方法が開示されているが、溶液前駆体の使用を想定していない。粒子が供給を促進するために凝集する場合でさえ、プラズマ溶射又は爆発溶射又はHVOF溶射の高温プルームに一旦曝露された粒子は、避けることができない結晶粒の成長を引き起こし、そのナノ構造は保持され得ない。さらに、ナノ構造物質の最初の合成、及びその後の凝集に関与する費用は、工業用途の大部分にとって魅力がない。
【0006】
上記課題に対処するために、液体系原料の噴射が、ナノ構造物質を噴射する可能性のある手段として提案された。Karthikeyanら(Mat Sci.Eng.、238、1997年)による研究出版物、Gitzhoferらに付与された米国特許第5,609,921号及びChowらに付与された米国特許第6,447,848B1号は、所望の金属イオンを含む前駆体溶液又は溶媒中のナノ粒子懸濁液を用いる液体原料系溶射の分野の先駆的な仕事の一つである。上記手法の両方は、ナノ粒子が、前駆体溶液の場合にその場で生成され、又は懸濁液中に元来存在しており、それにより、ナノ構造被膜の形成につながるという事実のおかげで、微細スプラットをもたらす。溶液前駆体のための送達装置は、Maらに付与された米国特許第7,112,758B2号で実証されている。溶液系噴射が最初に提案されてからずっと、その使用は、多くの発表論文から及びGellらに付与された米国特許第7,563,503B2号において反映されるように酸化物系被膜に主に向けられた。ナノ構造層及びミクロ構造層の両方を組み入れている多層溶射被膜は、以前から米国特許出願公開第US20080072790A1号及び米国特許出願公開第US20070134432A1号に開示されている。US20080072790においては、酸素を用いる高速フレーム溶射によって微細構造金属及びサーメットの被膜を生成するための、粉末原料及び液体原料の逐次的噴射の使用が開示されているが、一方US20070134432A1においては、層状構造が、再構成ナノ構造物質を用いて形成され、液体原料を必要としない。本方法は、これらの方法を凌ぐ改善となることが意図される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
世界中で発表された論文及びいくつかの特許において開示されるように、溶液前駆体系溶射堆積は、従来の粉末系プラズマ溶射から得られるラメラ構造に対して、微細なスプラット形態、均質な微細孔アーキテクチャ、相純度、垂直クラック、ナノメートルサイズ結晶粒などの顕著な特徴(feature)を有する被膜をもたらす。一方、粉末原料を必要とする従来の技術は、溶液系方法と比べて非常に高いスループットを与える。本発明は、両方の利点を組み合わせて、複合多層傾斜被膜を生成することによって、従来の粉末系溶射被膜のみならず既存の溶液前駆体系噴射被膜を凌ぐ実質的な改善を達成する補完的手法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
a)ミクロンサイズの粒子を含む粉末原料をプラズマ溶射プルーム中に噴射する工程;及びb)液体前駆体溶液を含む液体原料を該プラズマ溶射プルーム中に噴射する工程を含み、該粉末原料の噴射及び該液体原料の噴射は独立に制御可能であり、工程a)及び工程b)を用いて、該粉末原料に対応するミクロンサイズのスプラット及び該液体原料に対応し該プラズマプルーム内の該液体前駆体溶液中の成分の反応によって形成されるナノメートルサイズのスプラットを組み入れて、基材上に表面被膜を形成する、プラズマ溶射銃における粉末原料及び液体原料の同時供給を用いて複合プラズマ溶射被膜を生成する方法が開示される。
【0009】
本発明の方法で用いられる粉末原料は、Ni、Co、Cr、Al、及びYの1種若しくは複数を含む金属若しくは合金粉末、又は代替として、Y、ZrO、Al、TiO、ZnO、Fe、Cr、及びLaを含む1種又は複数のセラミック粉末を含む。液体原料は、Y、ZrO、Al、TiO、ZnO、Fe、Cr、及びLaから選択される1種又は複数のセラミックスを形成するように構成された前駆体溶液を含む。粉末原料及び液体原料の噴射は、堆積被膜に存在する成分の0%から100%を供給するように独立に制御可能である。
【0010】
本発明の方法は、液体原料及び粉末原料を用いて交互の層を逐次的に噴射することにより形成されるナノ構造層及びミクロ構造層の複合被膜を生成するために使用され得る。代替として、該被膜は、基材の近くで完全ミクロ構造成分及び表面の近くで完全ナノ構造成分を含む、又はその逆の、傾斜被膜(gradient coating)であり得る。細孔のサイズ及び分布も制御され得る。
本発明の方法を用いて製造される被覆物品は、金属若しくはセラミックの粒子、又は両方で被覆された金属基材であり得る。被覆物品は、Ni、Co、Cr、Al、及びYの1種若しくは複数の金属を含む金属結合コート;並びにY、ZrO、Al、TiO、ZnO、Fe、Cr、Laの1種又は複数を含むセラミックトップコートを様々な割合で含み得る。セラミックトップコートは、ミクロ構造層及びナノ構造層から形成され得る、又は代替として、結合コート中の0%のセラミック成分からトップコート中の100%のセラミック成分までを有する傾斜層を含み得る。該傾斜層は、ナノ細孔を内包する、ナノ構造のセラミックを含んでいてもよい。
【0011】
本発明は、添付の図面と併せて解釈することで、以下の本発明の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲からより容易に明らかとなる、他の利点及び特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】溶液前駆体及び粉末原料を供給するための実験装置の正面図である。これにより、同時に又は逐次的に、制御された仕方によって、溶液前駆体供給に加えて粉末供給が可能になる。
【0013】
【図2】粉末原料に加えて溶液前駆体供給を含む方法の概略図である。
【0014】
【図3】プラズマ溶射の間のYSZ形成性溶液前駆体及びNiCoCrAlY粉末の同時供給により形成された、YSZ+NiCoCrAlY被膜の走査電子顕微鏡断面写真を示す図である。溶液前駆体供給は、YSZがその場で(in situ)形成され、NiCoCrAlYスプラットとともに分布することが可能になるように制御した。
【0015】
【図4】溶液前駆体由来のYSZ及び粉末由来のNiCoCrAlYの共堆積を確認するための、複合被膜における元素Y及びZr、並びにNi、Co、Cr及びAlの存在を示すYSZ+NiCoCrAlY被膜のエネルギー分散スペクトルを示す図である。
【0016】
【図5】溶液前駆体由来のその場で形成されたYSZ粒子の微細サイズの特徴及びYSZ粉末のラメラの特徴の分布を示す高倍率での「複合」YSZ被膜の走査電子顕微鏡断面写真を示す図である。
【0017】
【図6】相変態なしの好ましい正方晶ジルコニア単独の存在を有する複合YSZ被膜の相安定性を示す図であり、一方、粉末原料を用いる従来のプラズマ溶射YSZ被膜は、単斜晶ジルコニア相の存在をも示している。
【0018】
【図7】NiCoCrAlY結合コートとともに、粉末原料及び溶液前駆体原料の逐次的供給によって生成した二層のYSZトップコートの走査電子顕微鏡断面写真を示す図である。
【0019】
【図8】粉末原料を単独で用いる従来のプラズマ溶射YSZ被膜と比較して、逐次的に供給した粉末原料及び溶液前駆体を用いる二層のYSZ被膜の優れた相対熱サイクル性能を示す図である。
【0020】
【図9】YSZ形成性液体前駆体溶液及びNiCoCrAlY粉末の同時供給を用いて生成した傾斜YSZ+NiCoCrAlY被膜の走査電子顕微鏡断面写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
新規な複合多層及び傾斜被膜の開発に関する本提案の発明は、逐次的に番号が付けられた数字を参照して以下の項で説明される。上記目的は、本出願においてプラズマ溶射装置について具体的に説明されるが、任意の溶射装置の高温帯域中へ溶液前駆体及び粉末原料物質を同時に供給することによって達成される。
【0022】
その主な実施形態において、本発明の方法は、図1に概略的に示される。図1に示されるように、プラズマ溶射銃101には、プラズマプルーム102中に、溶液前駆体原料を噴射するアトマイザー110及び粉末原料を噴射する粉末フィーダー120が付されている。アトマイザー装置110には、加圧液体前駆体槽112によって加圧された溶液前駆体原料111が供給され、プラズマプルームに入る液体前駆体溶液原料111の噴霧液滴113を生じさせる。粉末フィーダー120は、ホッパー(図示せず)から粉末121を取り込む空気又はガスの送り込みを導入し、粉末流122をプラズマプルーム102中に放出する。機器が運転されると、被膜Cが基材S上に堆積する。アトマイザー110及び粉末フィーダー120は、プラズマトーチ101のノズル部分103に装着されている。
【0023】
プラズマトーチ101のノズル部分103に付された、粉末及び液体の複合供給装置200の詳細図が、トーチの下側から上方を見て、図2に示される。装置200は、液体アトマイザー110及び粉末フィーダー120を保持するブラケット201を備えるが一方、クランプ202は、それをプラズマトーチのノズル103に装着するために用いられる。プラズマプルーム出口部分104も、図2に示される。プラズマ溶射プルーム軸の中心線に垂直な粉末及び溶液前駆体原料の半径方向の注入がこの図に示されるが、特定の粉末又は溶液前駆体原料にとって最良の被膜特性をもたらすために、プルーム方向に対して内向き及び外向きの両方を含めて、変化し且つ独立に制御できる角度での両原料の注入が可能である。したがって、プラズマ溶射銃用の原料送達付属品は、図2に示されるように粉末供給ホースのみならず溶液前駆体を供給するアトマイザーを収容するように製作される。
【0024】
本発明の方法は、図3から図9における熱遮蔽被膜のいくつかの実施例を参照してさらに説明される。熱遮蔽被膜は、タービンブレードなどの部品基材上に堆積した、耐酸化性及び/又は耐食性を与える金属MCrAlY型合金結合コートの上に堆積した、断熱を与えるセラミックトップコートを本質的に構成する。目的とする機能性、以下の実施形態で説明されるように、広範に及ぶ。
【0025】
トップコート:イットリア−安定化ジルコニア(YSZ)被膜は、それが、すべての所望の特性要件、特に高い熱膨張係数、低い熱伝導率及び高温での良好な化学的安定性を最も良く満たすので、熱遮蔽被膜の場合にトップコートとして好まれている選択である。しかし、YSZは、高温への長期曝露時のその平凡な相−ミクロ構造安定性及び焼結性によって制限される。複合多層又は傾斜アーキテクチャに基づいて処方された設計されたミクロ構造は、上記課題に対して有望な解決策を与え得る。従来の粉末系YSZ及び溶液前駆体から形成されるナノ構造YSZを含む複合層は、良好な耐焼結性のみならず低下した熱伝導率を相互に与え得る。同様に、ナノ構造溶液前駆体系YSZ層及び従来の粉末系YSZ層を含む多層被膜は、結合コート酸化の反応速度の低下を助長し得る。溶液前駆体形成YSZ及び従来のNiCoCrAlY粉末を含む傾斜構造により、NiCoCrAlY及びYSZの従来の二重構造を含むTBCアーキテクチャと比較して、熱膨張の不整合が効果的に減少し得る。
【0026】
結合コート:結合コートは、基材とトップコートとの間のより適合する界面を与えることは別として、不可欠な高温耐酸化性及び耐腐食性を付与するために必要とされる。結合コート表面上の熱的に成長した酸化物(TGO)は、さらなる結合コート酸化に対する遮蔽として作用することが知られており、Zr、Yを含む二次相の追加は、TGOと結合コートとの付着を強化することがわかった。
【0027】
したがって、本発明の様々な実施形態により、さらに示されるとおりの様々な処理手段によって上記要件に対処する適切な解決策が与えられる。
【0028】
本発明の一実施形態は、図3に示される複合被膜で示され、これは、YSZ形成性溶液前駆体及びNiCoCrAlY粉末の同時供給により形成された、YSZ+NiCoCrAlY被膜の走査電子顕微鏡断面写真である。YSZの存在は、図3で明らかなようにより大きいスプラットサイズのNiCoCrAlYと比較して明確な細かいスプラットサイズから推測され得る。図3に対応するYSZ+NiCoCrAlY被膜のエネルギー分散スペクトル(EDS)である図4により、元素Zr及びYの存在も確認される。複合YSZ+NiCoCrAlY被膜の微小硬度も、微小硬さ試験機を用いて負荷100グラムで測定して、従来のNiCoCrAlY被膜単独の514±41HV0.1から724±124HV0.1に改善した。微小硬度の上記の増加により、NiCoCrAlYマトリックス中に分散したナノ構造YSZ粒子による強化が示される。本発明の上記の実施形態によって、TBC構造の純結合コートと純セラミック層との間の熱膨張係数の不整合の減少の外に、耐酸化性、耐クリープ性及び強度における改善が生じ得る。
【0029】
本発明の別の実施形態は、YSZ形成性溶液前駆体及びYSZ粉末原料の同時供給による複合YSZ被膜の堆積に関する。従来法を用いる6〜8重量%のイットリアを有するYSZ粉末粒子の噴射の間、望ましくない単斜晶ジルコニア相の形成は、通常の現象である。さらに、従来の粉末系YSZ被膜において、より大きいスプラット及びかなり大きい細孔を含む欠陥の存在は通常、水平方向に配向したクラックをもたらし、これは、界面に平行に伝播して、YSZ層の破砕による破壊を加速させる。これらの態様は、その場で垂直クラック及びナノサイズ細孔を形成していたスプラットサイズを低下させた、溶液前駆体系の従来技術のYSZ被膜で対処される。しかし、この溶液前駆体系被膜は、減少した欠陥のために、YSZ粉末系被膜よりも、わずかにより高い熱伝導率、すなわち、より小さい断熱効果を与えると報告されている。溶液前駆体系被膜の別の側面は、従来の粉末系被膜と比較して、かなり低下した生産性である。
【0030】
本発明の方法は、相/ミクロ構造制御における実質的な改善につながる溶液前駆体原料の同時供給により、従来の粉末系YSZ被膜の固有の特性を強化することによって上記欠点に対処する。図5は、溶液前駆体由来のその場で形成されたYSZ粒子に関する微細ナノメートルサイズの特徴及びYSZ粉末原料由来の溶融ミクロンサイズのラメラの特徴の分布を示す高倍率での複合YSZ被膜の走査電子顕微鏡断面写真を示す。さらに、図6は、二次相なしの好ましい正方晶ジルコニア相の存在を有する複合YSZ被膜の相安定性を示す。複合YSZ被膜の微小硬度は、微小硬さ試験機を用いて負荷100gで測定して、従来の粉末系YSA被膜の約1043±139HV0.1に対して1221±150HV0.1であることがわかった。硬度の増加は、ナノサイズのYSZ粒子とミクロンサイズのYSZ粒子と間のより良い凝集性、及びより重要なことに、被膜内の水平クラックなどの許容できない欠陥の不存在の指標である。上記特性に基づいて、本実施形態は、好適な熱伝導率、酸化物のより少ない浸透性及び、それらによる、被膜の向上した熱サイクル寿命を有する、粉末及び溶液前駆体の両方をベースとする被膜由来の特性の補完的増強を与える。
【0031】
別の実施形態では、前堆積した従来の粉末系YSZ層の上に適用される溶液前駆体系YSZ層を含む、2つのセグメントに分けられるトップセラミックコートを有する層状アーキテクチャが用いられる。図7は、NiCoCrAlY結合コートとともに、粉末及び溶液前駆体から生成したこのような二重層トップコートの走査電子顕微鏡断面写真を示し、すべての層は、超合金基材上に堆積している。非常に緻密なセラミック層は、熱応力に適応するその能力の無さのために未熟な破砕を起こす傾向があり、一方、高度に多孔性のセラミック層は、酸化性/腐食性種の進入のためにその下にある結合コートの急速な劣化をもたらすので、通常は、特定の最適な多孔性レベルが、従来の二重TBCのトップセラミック層において望ましい。上記破壊の機構を考慮すると、本発明で開示される方法の1つは、YSZ系TBCの耐久性の改善に対して傾斜又は多層アーキテクチャを提供することである。図7からわかるように、溶液前駆体由来のナノサイズ細孔及びサブミクロンサイズYSZ粒子の存在により、恐らくは、従来の粉末系YSZ被膜に典型的である顕著により多孔性のミクロ構造を凌ぐ、トップ表面における溶液前駆体プラズマ溶射から生じる微細な粒状の緻密なYSZ層構造を与え得る。このような構造は、相対的に優れた歪み許容範囲を有し、酸化性/腐食性種の進入も抑制する熱遮蔽被膜を得ることに対して有望である。図8は、1100℃で試験した、粉末系YSZ被膜及び二重層YSZ被膜の相対熱サイクル性能を示す。このような発明は、1100℃サイクル(20分間の加熱時間、40分間の保持時間及び20分間の冷却)における熱サイクル試験によって試験した、TBCの性能においてかなりの改善をもたらす。
【0032】
別の実施形態は、溶液前駆体形成YSZ及び粉末系NiCoCrAlY被膜の、溶液前駆体原料及び粉末原料の同時供給の間のそれらの個々の供給速度の連続的な制御による段階的な組成変化を含む傾斜被膜アーキテクチャの実証を伴う。図9は、YSZ形成性前駆体溶液及びNiCoCrAlY粉末を用いて生成した傾斜YSZ+NiCoCrAlY被膜の走査電子顕微鏡断面写真を示す。ミクロ構造における連続的変化を有する傾斜熱遮蔽構造は、独特の機械的特性を示すが、さらにより顕著には、改善された耐破砕性を与えることによって機能特性を向上させる可能性を有する。さらに、ナノ細孔とともにナノサイズYSZの存在は、粉末系YSZよりも、より良い耐焼結性及び酸素の進入低下を示し、改善された寿命をもたらす。ナノサイズYSZ粒子とミクロンサイズNiCoCrAlYとの緊密な混合は、物質特性の独自の組合せを生じさせ、それによってより良好な性能が生じる。
【0033】
本発明の方法は、様々な組合せの金属及びセラミック粉末を用いて傾斜組成被膜を生成するために使用され得る。金属粉末は、それらに限定されるものではないが、上記実施例に詳述されたものを含む所望の特性及び機能性の被膜を生成するために、任意の金属、例えば、Fe、Ni、Co、Cr、Al、Y又はこれらの組合せであることができる。セラミック粉末は、上記の例で詳述されるような被膜における所望の熱的特性及びミクロ構造安定性を得るための必要に応じて、Al、TiO、Fe、ZnO、La、Y、ZrO、及びCrの1種又は複数を含めて、任意の酸化物又は他のセラミック粉末であることができる。同様に、ナノ構造成分を生成するために用いられる溶液前駆体は、本発明の実施例及び実施形態で示されるとおりのものを含む、Al、TiO、Fe、ZnO、La、Y、ZrO、及びCrの1種若しくは複数、又は任意の他のセラミックを含有するナノ構造スプラット又は結晶粒を形成するために調整され得る。
【0034】
被膜を堆積させるための新規な経路を導入する上記実施形態、及び得られた被膜で行われた特性評価試験からの推測は、本発明が、従来の被膜を用いることにより可能であるものを超えて部品の耐用年数を延ばすために明らかな見込みを有することを示す。複合又は多層若しくは傾斜被膜中への制御された仕方での二次相又は細孔の導入により、用途要求に特有な様々な機械的、熱的及び磨耗特性の調整が可能になる。上記発明の潜在的な用途は、単に燃焼用ライナ−及びタービン翼のようなガスタービン部品に限定されず、ディーゼルエンジンピストン、バルブ、シリンダーヘッド、鋳型などに拡張され得る。
【0035】
該発明は、本明細書で部分的に示され及び検討された特定の実施形態の記述である。請求された発明に基づいて、その装置又は新規な物質の組合せの修正に関連した様々な変形が、本発明の範囲を拡張するためになされ得る。
【0036】
本発明の本質は、従来可能であった被膜の品質及びアーキテクチャの範囲を著しく改善するために、粉末、及び前駆体又は懸濁液の形態の溶液を組み合せた供給の着想にある。これは、図1及び図2に示される原料送達装置の正面図に示されるように、溶液送達用であるアトマイザーと一緒の粉末供給付属品の装置によって実現される。この図ではプラズマ溶射装置について具体的に例示されるが、このような同時の粉末及び溶液供給装置は、他の溶射装置にも同様に拡大適用され得る。
【0037】
上記開発に対する主たる動機は、この改善された方法が、それらの基本的な機能性を拡張する可能性とともに、被膜の増強した機械的及び物理的特性を得るために与えるさらなる利点である。上記を考慮して、本発明は、溶液及び粉末原料をプラズマプルーム中へ所定の比で二重供給して、独自のミクロ構造を有する新規な被膜を得ることに関する。複合層状傾斜被膜はすべて、既存の被膜の性能を改善する目的を持って、この改善された方法によって達成され得る。
【0038】
本発明の新規な方法は、プラズマ溶射法を用いて説明されたが、一般に、上記実施形態で記載されたとおりの及び添付の特許請求の範囲で正確に叙述されるとおりの任意の溶射法に適用できる。同様に、熱遮蔽被膜用途との関連が実施例として上記に具体的に検討されているが、この用途は、さらにより多岐にわたる用途関連も有する。
【符号の説明】
【0039】
101 プラズマ溶射銃、プラズマトーチ
102 プラズマプルーム
103 ノズル部分
104 プラズマプルーム出口部分
110 アトマイザー
111 溶液前駆体原料
112 加圧液体前駆体槽
113 噴霧液滴
120 粉末フィーダー
121 粉末
122 粉末流
200 一体とした粉末及び液体供給装置
201 ブラケット
202 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ溶射銃における粉末原料及び液体原料の同時供給を用いて複合プラズマ溶射被膜を生成する方法であって、
a)ミクロンサイズの粒子を含む粉末原料をプラズマ溶射プルーム中に噴射する工程;及び
b)液体前駆体溶液を含む液体原料を該プラズマ溶射プルーム中に噴射する工程を含み、該粉末原料の噴射及び該液体原料の噴射は独立に制御可能であり、工程a)及び工程b)を用いて、該粉末原料に対応するミクロンサイズのスプラット及び該液体原料に対応し該プラズマプルーム内の該液体前駆体溶液中の成分の反応によって形成されるナノメートルサイズのスプラットを組み入れて、基材上に表面被膜を形成する、上記方法。
【請求項2】
前記粉末原料が、Ni、Co、Cr、Al、及びYの1種又は複数を含む、金属又は合金粉末を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末原料が、Al、TiO、Fe、ZnO、La、Y、ZrO、及びCrの1種又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体原料が、Al、TiO、Fe、ZnO、La、Y、ZrO、及びCrの1種又は複数を形成するように構成された前駆体溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末原料及び溶液前駆体原料の噴射が、いずれかの原料により供給される成分の0%から100%の範囲に及ぶ所望の被膜組成を得るように、独立に制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被膜が、溶液前駆体原料及び粉末原料を用いて交互の層を逐次噴射することにより形成される、ナノ構造層及びミクロ構造層の複合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被膜が、基材の近くの完全ミクロ構造成分及び表面の近くの完全ナノ構造成分を含む傾斜被膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細孔のサイズ及び分布が、前記プラズマ溶射条件を変えることによって制御される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
金属基材が、金属粒子若しくはセラミック粒子又は両方で被覆されている、請求項1に記載の方法を用いて製造される被覆物品。
【請求項10】
Ni、Co、Cr、Al、及びYの1種又は複数の金属を含む金属結合コート;並びに
Al、TiO、Fe、ZnO、La、Y、ZrO、及びCrの1種又は複数を含むセラミックトップコートを、様々な割合でさらに含む、請求項9に記載の被覆物品。
【請求項11】
前記セラミックトップコートが、ミクロ構造層及びナノ構造層の層を含む、請求項10に記載の被覆物品。
【請求項12】
前記被膜が、前記結合コート中のセラミックゼロ%成分から前記トップコート中のセラミック100%成分を有する傾斜層を含んでなる、請求項10に記載の被覆物品。
【請求項13】
前記傾斜層が、ナノ細孔を組み入れたナノ構造セラミックを含む、請求項12に記載の被覆物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87363(P2013−87363A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−93888(P2012−93888)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(512101246)インターナショナル アドバンスド リサーチ センター フォー パウダー メタラジー アンド ニュー マテリアルズ (エーアールシーアイ)、ディパートメント オブ サイエンス アンド テクノロジー、ガバ (1)
【Fターム(参考)】