説明

粉末金属構成要素を含む複合組立体

【課題】粉末金属構成要素を組み込む組立体の製造方法において、鋼鉄の変形及び特性の劣化を回避し軽減すること。
【解決手段】粉末金属から形成される第1の構成要素と、鋼鉄から形成され第1の構成要素にろう付けによって接続される第2の構成要素と、第2の構成要素に溶接されるトルク伝達要素とを有する組立体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末金属構成要素を組み込む組立体の製造方法に関し、更にこのような組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置に用いられる多くの部品は複雑な形状を有する。これらは、適当な機械加工によって鋼鉄の固体ビレットから作ることができるが、これは通常、特に大量生産では効率的な材料の利用ではない。或いは、複雑な形状は、鋳造された後に機械加工して仕上げ寸法にすることができる。これは、発生する廃棄物は少ないが、鋳造プロセスは労働集約的であり且つエネルギー集約的である。また、粉末金属製造プロセスを利用して複雑な形状の構成要素を作ることも良く知られている。かかるプロセスにおいて、鉄及び他の添加剤の粉末が加圧下で成形されて完成形状の「グリーンな」構成要素を生成し、次いで炉を通り、ここでグリーン構成要素が焼結される。完成構成要素は、錬鋼に近い特性を有することができ、動力伝達装置を含む多くの領域で幅広く用いられてきた。構成要素をニアネット形状に成形する能力は、材料の無駄な損失を最小限にし、生産効率を向上させる。
【0003】
粉末金属構成要素(PMC)の使用は、多くの応用において、これらの構造組立体の幾何形状及び設計並びにPMCの製造に用いられる設備及びプロセスの開発の状況によって制限される。スタンピング、鍛造、又は鋳造プロセスを用いて作られる多くのトルク伝達構成要素及び組立体が存在し、PMCは錬鋼に容易には接合することができないので、このことによりかかる応用におけるPMCの使用が制限される。機械的締結又はコンデンサ放電型溶接を用いてPMCを非PMC構成要素に接続する応用があるが、これは、トルク伝達性能の制限によって適用が制限されるか、又は生産コストの増大及び製造がより複雑になることによって高額なものになる。
【0004】
米国特許第3,717,442号において、粉末金属構成要素を鋼鉄、鋳鉄、又は同様のものなどの固体鍛造基材に接合することができるろう付け用合金が開示されている。当該ろう付け用合金の改良は、米国特許第4,029,476号に開示され、これもまた第3,717,442号のろう付け用合金で遭遇した問題の一部に言及している。これらの参考文献の各々においては、粉末金属構成要素の焼結中に2つの構成要素をろう付けすることが提案されている。これは錬鋼構成要素を焼結表面内で高温に曝すことにより、鋼鉄の変形及び特性の劣化が生じる可能性がある。従って、上記の特許に記載されているプロセスは、粉末金属構成要素と共に精密機械加工された高負荷構成要素を利用する組立体の生産に好適であるとは考えられない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,717,442号公報
【特許文献2】米国特許第4,029,476号公報
【特許文献3】米国特許第3,717,442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、上記の欠点を未然に排除し且つ軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概括的に言えば、本発明の一態様は、粉末金属構成要素が鋼鉄基材にろう付けされた後、トルク伝達要素が基材に溶接される組立体を提供する。
好ましくは、鋼鉄基材の炭素含有量は、0.12%よりも多く0.45%よりも少なく、より好ましくは0.18%から0.26%の間、最も好ましくは0.18%である。
【0008】
より好ましいものとして、トルク伝達要素はシャフト又はクラッチ機構或いは環状ギアとすることができ、基材にレーザ溶接される。
【0009】
本発明の別の態様において、粉末金属から構成要素を成形するステップと、構成要素を鋼鉄基材上に支持するステップと、鋼鉄基材と構成要素との間にろう付け用合金を配置するステップと、構成要素及び基材を焼結炉に通して構成要素を焼結し基材を該基材にろう付けするステップと、その後で、トルク伝達要素を基材に溶接するステップとを含む、組立体製造方法が提供される。
好ましくは、本方法はトルク伝達要素をレーザ溶接するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ここで添付図面を参照しながら本発明の実施形態を例証として説明する。
【0011】
従って、図1を参照すると、遊星キャリア組立体10は、ベース14を有するキャリア12を含む。脚部16は、ある間隔を置いてベース14から突出し、端面18で終端する。キャリア12は粉末金属から成形され、焼結前は「グリーン」状態にある。粉末は、鉄、銅、炭素、並びにモリブデン、マンガン、クロム、及びニッケルなどの利用可能な他の合金元素を含む鉄粉末金属合金である。
【0012】
キャリア12は、19で示されるように、ろう付けによって比較的低い炭素含有量を有し、通常はASTM1018又はASTM1026等級である圧延鋼材からスタンプされた基材20に接続される。一般的に炭素含有量は、0.12%から0.45%の間、好ましくは0.18%から0.26%の間である。焼結プロセス中のアニール後に適当な強度をもたらすと共に、基材の溶接性を保持するためにより高い炭素含有量が選択される。
【0013】
基材20は、シャフト26のボス24を受けるための中心アパーチャ22を有する。ボス24は、25で示されるようにその外周周りで基材20にレーザ溶接される。シャフト26は、遊星キャリア12とドライブ部材(図示せず)との間でトルクを伝達するために設けられ、ASTM4130など高張力鋼の鋼鉄ブランクから機械加工される。通常、シャフト26は中空又は中実とすることができ、ドライブ部材及び該ドライブ部材内でシャフト26を支持する軸受面30と嵌合するために外面上にスプライン28を含む。シャフト26は通常、熱処理されて、キャリア組立体10に組み込まれる前に製造過程寸法に部分的に機械加工される。
【0014】
脚部16の基材20への接続を容易にするために、図4に最もよく見られるように脚部16の各々の位置で凹部32が基材に形成される。凹部32は、脚部16の端面18に向かって方向付けられた陥凹合わせ面34を有する。合わせ面34は、ろう付け19の接着性を改善するためにスタンプ/鋳造作業中又はその後に粗面化される。スタンプ鋼鉄基材の表面仕上げは通常、最大0.001mmの平均表面仕上げRa及び最大0.005mmの山谷粗度Ryを有する。合わせ面34の粗面化後、平均粗度Raは通常0.005mmの値であり、山谷粗度Ryは0.015と0.080mmとの間である。
【0015】
遊星キャリア組立体10を形成するステップが図3に概略的に示される。最初に、キャリア12は、所要の寸法に成形され、基材20が圧延鋼材からスタンプされる。合わせ面34が粗面化され、基材20をプレートP上に配置する。ろう付けのペレット19が脚部16の端面18の各々に形成されたポケット35に配置され(図3a)、「グリーン」キャリア12は、各脚部16がそれぞれの凹部32に受けられるように基材上に配置される(図3b)。ろう付けペレット19は、溶融されてろう付け用合金を形成し、これによって端面18及び合わせ面34を溶接する。
【0016】
プラテンPは、焼結炉Sに送給され(図3c)、該焼結炉は高温に保持されて、グリーンキャリア12を焼結し完成構成要素にする。炉Sを通過する間、基材20はキャリア12を安定した方法で支持し、キャリア12の寸法精度を維持する。基材自体は、粒状構造の変化を引き起こす炉Sの温度まで上昇する。基材20の微細構造は、微細なパーライトから粗い粒状構造に変化し、降伏強度及び最終引張強度の低下をもたらすことになる。しかしながら、基材に用いられる高い炭素含有量により、基材の物理的特性がASTM1010等級などの従来の非アニール圧延鋼に匹敵するレベルに維持される。
【0017】
炉Sを通過中、ろう付けペレット19は溶融し、キャリア12の脚部16の多孔質構造に部分的に吸収される。合わせ面34は吸収性がないので、凹部32は、脚部16を基材20に固定するためのろう付け19のプールを提供するよう機能する。位置34での基材の粗面テクスチャは、合わせ面の湿潤性を最適化するように設計され、堅牢なろう付け接合をもたらす。プラテンPが炉Sから出てくると、ろう付け19は凝固し、キャリア12を基材20に物理的に固定する。
【0018】
非吸収合わせ面の存在及び炉Sでのキャリアの方向によって、修正ろう付け19を用いて接続の負荷容量を増強することが可能となる。40%より多い銅含有量を用いて、より強い強度を提供する。通常、かかる銅含有量は、表面張力が低下してろう付けのPMC本体への消散を可能にすることになるので許容可能ではない。しかしながら、PMCの下に配置される不浸透性の基材は、ろう付けの吸収を低減し、良好な表面被覆率及び溶接をもたらす高銅合金の使用を可能にする。好ましいろう付け組成は以下の通りである。
Ni 35.0%
Cu 41.9%
Mn 13.1%
B 1.2%
Si 1.5%
Fe 7.3%
鉄含有量は、ろう付け接合の物理的特性を増強するように標準ろう付けより多い。
【0019】
冷却及び機械加工後、シャフト26のボス24は、アパーチャ22内に挿入され、レーザ溶接ヘッドLでその外周周囲をレーザ溶接される(図3d)。基材20は、シャフト26(又は他のトルク伝達要素)を取り付けるために溶接可能構造を提供し、レーザ溶接は、シャフト26の変形を回避するための局所加熱を可能にする。シャフト26(又は他のトルク伝達要素)を固定すると、遊星キャリア組立体が完成して仕上げ機械加工の準備が整い、通常の方法での動力伝達で使用するための遊星ギアを取り付けることができるようになる。
【0020】
例示的な試験において、キャリア組立体は、上述のプロセスを用いて作られ、疲労試験を受けた。焼結炉Sは、Dreverから入手可能であるものなどのメッシュベルトコンベヤ炉であり、プラテンPが炉を通過するときに4つの加熱ゾーンを提供した。温度プロファイルは図5に示され、各ゾーンで設定した温度を以下の表1に示す。
【表1】

プラテンは、4.4から5.3インチ/分の間の速度で炉Sを通って移動し、炉を通過した総時間は2時間15分であった。
【0021】
試験の第1の設定において、基材20は1018圧延鋼材からスタンプされ、シャフト26は4130鋼鉄から作られた。シャフト26は反転トルクを受けた。サンプルは不具合が出るまで試験された。比較のために、PMCキャリアではなく従来のスタンプ鋼鉄キャリアを用いて同じ試験を行った。以下の表にその結果を示す。
【表2】

【0022】
上記試験において、従来のスタンプ鋼鉄構成に比べてPMCキャリアで優れた性能が得られ、適正な性能を示した。
【0023】
従って、鋼鉄基材を提供することによって、PMC構成要素にろう付され、精密な鋼鉄構成要素を溶接するためのベースとして機能することができることが分かる。遊星キャリアの製造について説明したが、同様の技術を他の複合組立体に用いることができる点は認識されるであろう。
【0024】
例えば、図1に点線で示される内部スプラインを備えた環状ギアをアパーチャ22内に嵌合させて、基材20に溶接し、キャリアの代替構成を提供することができる。
【0025】
本発明は特定の実施形態を参照しながら説明したが、当業者であれば、本明細書に添付された請求項で概説される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その様々な修正形態が明らかであろう。上記の全ての参考文献の開示全体は引用により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】遊星ギアキャリア組立体の分解斜視図である。
【図2】図1のキャリア組立体の長手方向断面図である。
【図3a】図1及び図2の組立体を製造するステップの概略図である。
【図3b】図1及び図2の組立体を製造するステップの概略図である。
【図3c】図1及び図2の組立体を製造するステップの概略図である。
【図3d】図1及び図2の組立体を製造するステップの概略図である。
【図3e】図1及び図2の組立体を製造するステップの概略図である。
【図4】図1及び図2に示すキャリア組立体の一部の詳細図である。
【図5】図1の組立体の製造に用いられる焼結炉の温度プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末金属から形成される第1の構成要素と、鋼鉄から形成され前記第1の構成要素にろう付けによって接続される第2の構成要素と、前記第2の構成要素に溶接されるトルク伝達要素とを有する組立体。
【請求項2】
前記トルク伝達要素が、機械加工仕上げされたシャフトである、
ことを特徴とする請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
前記第2の構成要素が、圧延鋼板である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組立体。
【請求項4】
前記鋼板が、0.12%以上の炭素含有量を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の組立体。
【請求項5】
前記炭素含有量が、0.45%よりも少ない、
ことを特徴とする請求項4に記載の組立体。
【請求項6】
前記炭素含有量が、0.18%から0.26%の間である、
ことを特徴とする請求項5に記載の組立体。
【請求項7】
前記炭素含有量が、0.18%である、
ことを特徴とする請求項6に記載の組立体。
【請求項8】
前記鋼板には複数の凹部が形成され、前記第1の構成要素からの突起部が、前記凹部のそれぞれに受け入れられるように前記第1の構成要素を前記第2の構成要素に対して配置する、
ことを特徴とする請求項3に記載の組立体。
【請求項9】
前記凹部が、前記突起部を受けるための合わせ面を有し、前記合わせ面が粗面化される、
ことを特徴とする請求項8に記載の組立体。
【請求項10】
前記ろう付けが前記凹部に配置される、
ことを特徴とする請求項8に記載の組立体。
【請求項11】
前記ろう付けが、40%よりも多い銅含有量を有する、
ことを特徴とする請求項10に記載の組立体。
【請求項12】
1つが粉末金属構成要素でありもう1つが鋼鉄構成要素である複数の構成要素から組立体を形成する方法であって、前記方法が、
グリーン状態の前記粉末金属構成要素を前記鋼鉄構成要素上に支持するステップと、
前記構成要素間にろう付け用合金を配置するステップと、
前記構成要素を焼結炉に通して前記粉末金属構成要素を焼結させ、前記ろう付け用合金を溶融させるステップと、
前記構成要素を冷却して前記ろう付け用合金を凝固させるステップと、
その後でトルク伝達要素を前記鋼鉄構成要素に溶接して単一構造が得られるようにするステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記鋼鉄構成要素に凹部を形成して前記粉末金属構成要素からの突起部を受けるようにするステップを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記突起部を配置する前に前記凹部の合わせ面を粗面化するステップを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記突起部を配置した後に前記ろう付け用合金を前記凹部内に保持して焼結ろう付け作業を行うステップを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記トルク伝達要素を前記鋼鉄構成要素にレーザ溶接するステップを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項17】
粉末金属から形成され、ベース及び該ベースから突出する脚部を備えるキャリアと、鋼鉄から形成されろう付けによって前記脚部の遠位端に接続される基材と、トルクの伝達のために前記基材に溶接されるシャフトとを有する遊星キャリア組立体。
【請求項18】
前記基材が、前記脚部のそれぞれを受けるための凹部を備えて形成され、前記ろう付けが前記凹部内に配置される、
ことを特徴とする請求項17に記載の遊星キャリア組立体。
【請求項19】
前記基材が、前記シャフトを受けるための中心アパーチャを有し、前記シャフトが、前記アパーチャの外周周囲で前記基材に溶接される、ことを特徴とする請求項18に記載の遊星キャリア組立体。
【請求項20】
前記基材が、0.12%よりも多い炭素含有量を有する、
ことを特徴とする請求項19に記載の遊星キャリア。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−545938(P2008−545938A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515008(P2008−515008)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000893
【国際公開番号】WO2006/130957
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(500219283)スタックポール リミテッド (3)
【Fターム(参考)】