説明

粒子コーティング方法及び粒子コーティング装置

【解決手段】粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする方法であって、粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により上記粒子容器を上下に微動させて該粒子容器を介して粒子を振動させながら該粒子に被覆材料をスパッタする方法。
【効果】スパッタリングにより粒子表面に薄膜を均一にコーティングすることができ、特に、分散しにくいサイズの微粒子に対して、個々の粒子に強い力を与えて分散させつつ攪拌してスパッタリングできることから、このような微粒子に対しても均一に薄膜をコーティングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子表面に薄膜をコーティングする方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のスパッタリングや蒸着等のドライ成膜法によって粒子表面に均一に薄膜をコーティングするには、粒体や粉体を十分に攪拌しながら成膜する必要がある。しかしながら、通常真空下や減圧下で行われるドライ成膜装置中で粒体や粉体を効率的に攪拌して薄膜をコーティングすることはこれまで困難であった。
【0003】
ドライ成膜において粒子を攪拌するための攪拌機としては、例えば、図6に示されるようなシーソー型の攪拌具があり、これは図示しない駆動源により両端が交互に上下して揺動する傾斜板a上に、底面下部に支軸dを有する粒子収容トレイcが載置されたものであり、支軸dは傾斜板a上に設けられた軸受けbにより支持されている。この攪拌具は、図7(A)〜(D)に示されるように、傾斜板aが一方に傾斜した状態で粒子収容トレイcの一端部が傾斜板aに接し、この状態から傾斜板aが水平状態を経て他方に一定以上傾斜すると、粒子収容トレイcの一端部が傾斜板aから離れ、他端部が傾斜板aに接するように瞬時に移行するものであり、粒子収容トレイcの間歇的な揺動と、それに伴う傾斜板aと粒子収容トレイcの端部との衝突により生じる振動とによって粒子pを攪拌するものであるが、個々の粒子を十分に回転させることができず、また、積層状態の粒子の下層を上層へと移動させることも難しく、そのため薄膜を均一にコーティングすることが困難である。
【0004】
特に、従来の攪拌具は、個々の粒子に与えられる力が弱く、攪拌力が小さいため、分散しにくいサイズの微粒子、例えば粒径が10μm以下の微粒子を効率よく分散させて攪拌することができず、このような微粒子に対する均一なコーティングが困難なものであった。
【0005】
なお、この発明に関する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250771号公報
【特許文献2】特開2005−264297号公報
【特許文献3】特開2006−7106号公報
【特許文献4】特許第3620842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、スパッタリングにより粒子表面に薄膜を均一にコーティングすることができる方法及びこの方法に用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を達成するため、粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする方法であって、粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により上記粒子容器を上下に微動させて該粒子容器を介して粒子を振動させながら該粒子に被覆材料をスパッタすることを特徴とする粒子コーティング方法を提供する。
【0009】
即ち、本発明では、粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により粒子容器を上下に微動させ、この粒子容器を介して粒子を振動させる。この際、振動する粒子は粒子容器内面又は他の粒子と衝突しながら粒子容器内をランダムに動き回り、この動作によって粒子が攪拌される。従って、この攪拌されている粒子に対して被覆材料をスパッタすることにより、粒子を強力に振動させて攪拌しながら粒子の表面に効率よく薄膜をコーティングすることができる。
【0010】
特に、ボイスコイル式動電型加振器の加振力により粒子を強力に分散させることができることから、粒径の小さい粒子、例えば粒径が0.05μm〜5mm、特に0.1〜10μmの凝集性の高い微粒子をも効果的に分散させることができ、従来、均一な薄膜コーティングが不可能であった微粒子のコーティングも可能である。
【0011】
また、本発明は、上記薄膜コーティング方法を適用した薄膜コーティング装置として、粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする装置であって、被覆材料をスパッタするスパッタユニットと、粒子容器と、該粒子容器と接続され上記粒子容器を上下に微動させるボイスコイル式動電型加振器と、上記スパッタユニット、粒子容器及びボイスコイル式動電型加振器を収容するチャンバーとを備え、上記粒子容器に収容された粒子を、上記ボイスコイル式動電型加振器により上下に微動する粒子容器を介して振動させながら、上記粒子に上記スパッタユニットから被覆材料をスパッタするように構成したことを特徴とする粒子コーティング装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スパッタリングにより粒子表面に薄膜を均一にコーティングすることができ、特に、分散しにくいサイズの微粒子に対して、個々の粒子に強い力を与えて分散させつつ攪拌してスパッタリングできることから、このような微粒子に対しても均一に薄膜をコーティングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態及び実施例】
【0013】
以下、本発明につき更に詳述する。
本発明の粒子コーティング方法は、粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする方法であり、粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により上記粒子容器を上下に微動させて該粒子容器を介して粒子を振動させながら該粒子に被覆材料をスパッタする方法である。
【0014】
この方法においては、粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により粒子容器を上下に微動させ、この粒子容器を介して粒子を振動させる。この際、振動する粒子は粒子容器内面又は他の粒子と衝突しながら粒子容器内をランダムに動き回り、この動作によって粒子が攪拌される。従って、この攪拌されている粒子に対して被覆材料をスパッタすることにより、粒子を強力に振動させて攪拌しながら粒子の表面に効率よく薄膜をコーティングすることができる。
【0015】
特に、ボイスコイル式動電型加振器を用いることにより、その大きな加振力を粒子に直接与えることによって、通常、分散・撹拌がしにくい粒径の小さい粒子、例えば粒径が0.05μm〜5mm、特に0.1〜10μmの凝集性の高い微粒子をも効果的に分散させることができ、また、べたつきを有する粒子のような粒子同士が離れにくいものであっても粒子を分離しながら撹拌して、薄膜をコーティングすることが可能であり、従来、均一な薄膜コーティングが不可能であった微粒子のコーティングが可能である。
【0016】
次に、このような方法を適用した薄膜コーティング装置の具体例を図示して、本発明をさらに詳しく説明する。図1は、本発明のコーティング装置の一例を示し、DCマグネトロンスパッタ法を適用した装置である。この装置では、チャンバー1の内部に被覆材料をスパッタするスパッタユニット2と、被覆材料をスパッタする粒子を収容して撹拌する粒子容器3と、この粒子容器と接続され粒子容器を上下に微動させるボイスコイル式動電型加振器4とが収容されている。
【0017】
チャンバー1は、スパッタリングにおける真空雰囲気を形成するためのものであり、スパッタリングガスを導入するガス導入口11、ガスを排気するための排気口12を有している。また。スパッタユニット2は、従来公知のスパッタ装置におけるカソード機構をそのまま適用することができ、ターゲット21に電力を印加することにより、その前方にスパッタリング雰囲気(プラズマ領域)22を形成するようになっている。そして、上記スパッタユニット2はプラズマ領域22が粒子容器3内部に収容された粒子pと対向するように配設されている。従って、本発明のスパッタユニットとしては、一般に、デポダウン型、斜め入射型と呼ばれるスパッタユニットが好適である。なお、図1中、13は電流導通用端子、14はビューポート、23はカソード電源、41はスペーサー、5はシャッター、51は駆動機(回転機)、6はファンクションジェネレーター、7はパワーアンプ、8はタイマーである。
【0018】
この装置では、粒子容器3内部に収容された粒子は、ボイスコイル式動電型加振器4から与えられる振動により上下に微動する粒子容器を介して振動するようになっている。この場合、ファンクションジェネレーター6により発生させた任意の電流信号、例えば、三角波、矩形波、正弦波などをパワーアンプ7により増幅してボイスコイル式導電型加振器4に導入することができ、必要に応じてタイマー8を用いて間欠的に導入することもできる。従って、この攪拌されている粒子に対して被覆材料をスパッタすることにより、粒子を強力に振動させて攪拌しながら粒子の表面に効率よく薄膜をコーティングすることができる。
【0019】
スパッタ方式としては、通常のDCスパッタ法、RFスパッタ法、MF(パルス)スパッタ法に加えて、複数のターゲットを用いたデュアルマグネトロンスパッタ法など各種の方式を適用することができる。また、アルゴンガス等の不活性ガスのみをスパッタガスとして用いる非反応性のスパッタだけでなく、酸素ガス、窒素ガス等の反応性ガスを不活性ガスと共にスパッタガスとして導入する反応性スパッタを適用することもできる。
【0020】
更には、発生させたプラズマ近傍に光ファイバーを配設し、発効波長、強度をモニターすることによって、反応性ガスの制御を行い、その反応度(酸素ガスを用いる場合、酸化度)を調整するPEMコントロールを適用することも可能である。これらのスパッタ手法を適用することによって様々な無機薄膜をスパッタリングにより粒子にコーティングすることが可能である。図2にデュアルマグネトロンスパッタ法及びPEMコントロールを適用した装置の一例を示す。なお、図2中、9はプラズマモニターであり、その他各部位は、図1と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0021】
次に、上述した本発明の粒子コーティング装置を用いた粒子の薄膜コーティングの実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の粒子コーティング方法は下記実施例に限定されるものではなく、また、本発明の粒子コーティング装置も上述した具体例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
図1に示される粒子コーティング装置を用い、粒径が約8μmのポリスチレン粒子の表面にDC反応性スパッタ法により酸化銅をコーティングした。粒子容器としてステンレス製の120mmφ、深さ40mmのものを用い、約15g(約容積50ml)の試料を粒子容器に収容して処理した。スパッタ条件は以下のとおりである。
【0023】
ターゲット Cu(4N),50mm×80mm
DC印加電力 300W
ガス供給全圧 0.5Pa
スパッタ圧力(背圧) 2×10-3Pa
成膜時間 6時間
【0024】
スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを導入したが、酸素導入量による酸化度の変化を見るために、Ar/O2=27sccm/3sccm(サンプル1)、24sccm/6sccm(サンプル2)、22sccm/8sccm(サンプル3)の3水準で成膜を行った。
【0025】
なお、ファンクションジェネレーターからは50Hzの矩形波を出力し、パワーアンプで増幅して加振器に導入し、電流はタイマーを用いて10秒印加し、20秒停止する間欠印加として加振器のヒートアップを防止した。
【0026】
その結果、スパッタリング中、チャンバーに設けられたビューポートから試料全体が真空中で十分攪拌されていることが確認できた。得られた粒子の写真を図3に示す。成膜時の導入酸素量によって色が変化している様子が分かる。
【0027】
また、これらのサンプルのXRDパターンを図4に示す。導入酸素量の増加に伴って得られた酸化銅膜がCu→Cu2O→CuOと変化している様子が分かる。
【0028】
更に、サンプル2について、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、図5に示されるように、一様に表面がコーティングされている様子が確認された。コーティングされたCu2O膜厚は約50nmであり、表面観察からは膜の結晶粒径が20nm程度であることが確認された。
【0029】
[実施例2]
図1に示される粒子コーティング装置を用い、べたつきを有する粒径が約3μmのポリブテンペレット粒子の表面にDCスパッタ法により金属Cuをコーティングした。粒子容器としてステンレス製の120mmφ、深さ40mmのものを用い、約30g(約容積50ml)の試料を粒子容器に収容して処理した。スパッタ条件は以下のとおりである。
【0030】
ターゲット Cu(4N),50mm×80mm
DC印加電力 300W
スパッタガス Ar(20sccm)
ガス供給全圧 0.5Pa
スパッタ圧力(背圧) 0.5×10-3Pa
成膜時間 1時間
【0031】
なお、ファンクションジェネレーターからは30Hzのサイン波を出力し、パワーアンプで増幅して加振器に導入し、電流はタイマーを用いて10秒印加し、20秒停止する間欠印加として加振器のヒートアップを防止した。
【0032】
その結果、スパッタリング中、チャンバーに設けられたビューポートから試料全体が真空中で十分攪拌されていることが確認できた。また、得られた粒子を目視で確認したところ、全てのペレットに対して一様に金属Cuがコーティングされていることが確認された。また、得られた粒子をX線回折(XRD)により分析したところ、Cuに由来する回折ピークが検出された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の薄膜コーティング装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の薄膜コーティング装置の他の例を示す概略図である。
【図3】実施例1で得られた粒子(サンプル1〜3)のサンプルの写真である。
【図4】実施例1で得られた粒子(サンプル1〜3)及び未成膜粒子(ポリスチレン粒子)のXRDパターンである。
【図5】実施例1で得られた粒子(サンプル2)の断面のSEM像である。
【図6】従来の攪拌具を示す断面図である。
【図7】同攪拌具の動作を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 チャンバー
2 スパッタユニット
21 ターゲット
22 プラズマ領域
23 カソード電源
3 粒子容器
4 ボイスコイル式動電型加振器
6 ファンクションジェネレーター
7 パワーアンプ
8 タイマー
a 傾斜板
b 軸受け
c 粒子収容トレイ
d 支軸
p 粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする方法であって、
粒子容器に粒子を収容し、ボイスコイル式動電型加振器により上記粒子容器を上下に微動させて該粒子容器を介して粒子を振動させながら該粒子に被覆材料をスパッタすることを特徴とする粒子コーティング方法。
【請求項2】
上記粒子の粒径が0.05μm〜5mmであることを特徴とする請求項1記載の粒子コーティング方法。
【請求項3】
粒子に被覆材料をスパッタすることにより粒子表面に薄膜をコーティングする装置であって、
被覆材料をスパッタするスパッタユニットと、粒子容器と、該粒子容器と接続され上記粒子容器を上下に微動させるボイスコイル式動電型加振器と、上記スパッタユニット、粒子容器及びボイスコイル式動電型加振器を収容するチャンバーとを備え、
上記粒子容器に収容された粒子を、上記ボイスコイル式動電型加振器により上下に微動する粒子容器を介して振動させながら、上記粒子に上記スパッタユニットから被覆材料をスパッタするように構成したことを特徴とする粒子コーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−204785(P2007−204785A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22483(P2006−22483)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】