説明

粒子凝集判定用容器

【課題】免疫学的な反応による凝集物のパターンを上下方向から容易かつ正確に判定でき、大量検体処理を自動分析機によって行うことが可能な粒子凝集判定用容器を提供する。
【解決手段】抗体または抗原を含む検体と凝集用粒子との反応を含む凝集反応により生成する凝集物に基づいて免疫学的分析を行う粒子凝集判定用容器であって、互いに対向する内面どうしの間に層状の間隙を形成するようにそれぞれ傾斜して配置された底部透明板状部材および上部透明板状部材と、前記層状の間隙に形成された、凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層とを具備したことを特徴とする粒子凝集判定用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的分析に用いる容器に関するものであり、抗原抗体結合等による凝集反応、特に赤血球を用いた凝集反応により、被検物質を定性的あるいは定量的に判定するための粒子凝集判定用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原または抗体の有無を判定する方法として、抗原または抗体を結合させたラテックスや抗原が既に存在する赤血球に抗体または抗原を一定時間反応させ、ラテックスまたは赤血球の凝集パターンにより判定する受身凝集法が知られている。
【0003】
上述の凝集パターンにより判定する受身凝集法の判定は、古くから試験管を反応容器として用いていた。この方法は、試験管内で赤血球とそれに反応する抗体を混合し、形成された赤血球−抗体の凝集物を自然沈降或いは遠心により一度沈殿させた後、試験管を振り揺らすことにより沈殿物をほぐして判定する方法である。この方法によれば、沈殿物がほぐれなければ陽性、ほぐれれば陰性であることを示す。しかしながら、実際にはこれらの中間の反応(弱陽性)も存在するが、この方法では肉眼で検出するのは困難である。また、試験管を使用する場合は試験管数が増大し、多数の検体を扱う場合には最適な方法とはいえない。
【0004】
そこで、大量検査を行う場合は、たとえばV底やU底のウェルを多数備えたマイクロプレートに代表される反応容器を用いる。この方法においては、上述した方法と同様に、各ウェル内で赤血球とそれに反応する抗体を混合し、形成された赤血球−抗体の凝集物を自然沈降により沈殿させる。このとき、赤血球−抗体の凝集が生じていれば、反応容器の底面に凝集物が捕捉され、赤血球が底面に広がったようなパターンが得られる(陽性)。一方、凝集が生じなければ赤血球は反応容器の底面の最下部に集まる(陰性)。また、この中間の反応(弱陽性)も検出できる。この方法では反応容器であるマイクロプレートの底面における凝集物の捕捉を、マイクロプレートの上或いは下より目視、或いは光学的に検出することができるので大量検体処理に適している。マイクロプレート底面における凝集物の捕捉は、底面の状態に大きく左右される。凝集物は底面に安定に付着しなければならないが、何も加工を施していない平滑な底面では弱い凝集はすぐに滑り落ちてしまい、偽陰性となってしまう。そこで、特許文献1および特許文献2に述べられているように反応容器の底面に凹凸を作ったり、底面を粗面にしたりすることで、凝集物の捕捉をある程度は向上できる。しかしながら、ウェル底面のみによる凝集物の捕捉には限度がある。また、この方法では血球を自然沈降させるため、時間がかかる。
【0005】
近年、これらの凝集物を更に効率よく捕捉する容器が考案されており、これを使用した受身凝集法を一般にマイクロカラム凝集法と呼んでいる。
【0006】
Y.Lapierreらは、特許文献3において、カード上に配置した細長いマイクロ反応容器に、10〜200μmのポリマー粒子やガラス粒子に代表される不溶性粒子を充填し、遠心によって効率よく赤血球の凝集物と非凝集物を区別できる反応容器を考案している。また、特許文献4ではガラスビーズを用いた同様な反応容器が考案されている。いずれの方法も不溶性粒子が充填された細長いマイクロ反応容器が板状のプラスチック板に複数個埋め込まれたようになっており、マイクロ反応容器を垂直方向に立てた状態で使用する。通常、不溶性粒子は抗A抗体や抗B抗体或いは抗ヒトグロブリン血清といった赤血球と反応する試薬(抗血清)に分散されている。不溶性粒子に抗体や抗原等の免疫学的反応をする物質を結合させて、赤血球をこれらの活性化された不溶性粒子に捕捉する方法も、特許文献5に述べられている。
【0007】
分析に際しては、垂直に立てたマイクロ反応容器の上部開口から液体サンプルを注入するが、開口部はロート状になっていて反応槽として使用する。ここで、反応槽と不溶性粒子層とは、液体サンプルと不溶性粒子層とが反応前に接しないように、空気で隔離されている。反応させた後に遠心を行い、比重の関係により血球(およびそれに結合した抗体)のみを不溶性粒子槽に移動させて凝集物を不溶性粒子で捕捉する。そして側面から不溶性粒子による凝集物の捕捉を目視、或いは光学的に検出する。凝集物が不溶性粒子の上にある場合は強陽性反応を示し、凝集物が不溶性粒子の中層に存在する場合は弱陽性反応を示し、凝集物が下にある場合は陰性を示す。
【0008】
ここで、不規則性抗体などの中には、赤血球上の抗原と反応しても凝集を起こさないものも存在する(不完全抗体)。このような抗体を検出する場合には、抗原抗体反応をさせた後に、2次抗体として抗グロブリン抗体(クームス血清)を添加することにより抗体を架橋し、赤血球の凝集を生じさせる(間接抗グロブリン試験(IAT))。しかしながら通常、血漿等の検体中には試薬である赤血球に結合する抗体以外にも複数種の抗体が含まれるため、2次抗体が他の抗体にも結合してしまう。これを防ぐためには、赤血球上の抗原に目的の抗体を結合させた後に、遠心、洗浄操作を繰り返し、赤血球を洗浄して余分な抗体を除去する(B/F分離)必要がある。このような複雑な操作を機械によって自動化することは難しい。しかしながら、マイクロカラム凝集法においては、不溶性粒子層に抗グロブリン抗体を含有させておき、隔離された反応槽で赤血球−抗体の反応を行った後、遠心分離を行う。すると、比重の影響により血球(およびそれに結合した抗体)のみが不溶性粒子層に移動し、そこで抗グロブリン抗体と反応し、凝集を形成する。したがって、この方法によれば、赤血球の洗浄(B/F分離)を行うことなくIATを実施できる。
【0009】
上述したような細長いマイクロ反応容器では、遠心分離法を用いることにより短時間で反応を終了させることができ、また陽性および陰性で凝集パターンの違いが明確であるため、判定が容易にできる。しかしながら、凝集パターンの展開が垂直方向であるということと、不溶性粒子層が不透明であるために上下方向から判定することは出来ず、横面から観察する必要がある。したがって何枚ものカードの凝集物を観察する際には、その都度カードを持ち上げて横面から判定しなければならず、このことは大量検体処理を自動分析機によって行わせる場合に、大きな障害となっている。また、このような問題の解決方法として、マイクロカラム凝集法を用いて大量検体処理を実施するために、底部の少なくとも一部が細くなっている容器に不溶性粒子を充填し、これをマイクロプレート状にしたものが、特許文献6に開示されている。これによれば、陽性の場合は凝集物が平らに広がったパターンが得られ、陰性の場合は非凝集物が細くなった部分に集まったパターンが得られるため、上下方向からの観察が可能となる。しかしながら、不溶性粒子の中には不透明なものもあり、そのような場合、特に弱陽性の反応が起きた場合に、上下方向からの検出が正確にできなくなるという問題がある。
【特許文献1】特公昭61−44268号公報
【特許文献2】特公昭63−60854号公報
【特許文献3】特公平8−7215号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第0725276号明細書
【特許文献5】国際公開第95/31731号パンフレット
【特許文献6】ドイツ特許第10061515号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明は、凝集パターンの判定が容易かつ正確にでき、また上下方向から観察可能であり、大量検体処理を自動分析機によって行うことが可能な粒子凝集判定用容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様における粒子凝集判定用容器は、抗体または抗原を含む検体と凝集用粒子との反応を含む凝集反応により生成する凝集物に基づいて免疫学的分析を行う粒子凝集判定用容器であって、底面の少なくとも一部が斜面をなすように検体収容部が形成された透明容器本体と、前記検体収容部の底面との間に層状の間隙を形成するように前記検体収容部内に配置されたスペーサーと、前記層状の間隙に形成された、凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層とを具備したことを特徴とする。
【0012】
第1の態様の粒子凝集判定用容器においては、スペーサーの上部にスペーサーと一体化させた反応槽を設け、かつ反応槽の下部側面に小孔またはメッシュを設けることもできる。
【0013】
第1の態様の粒子凝集判定用容器においては、検体収容部の底面に形成された斜面の傾斜角度は、水平面から45°以上75°以下であることが好ましい。また、斜面の傾斜が深部に向かうほど増加していてもよい。さらに、斜面は粗面化されていてもよい。
【0014】
第1の態様の粒子凝集判定用容器においては、流動性分離層の厚さは、0.5〜2mmであることが好ましい。また、不溶性粒子は、粒径25〜200μmのガラスビーズまたは架橋ポリマーであることが好ましい。さらに、流動性分離層は、抗血清を含んでいてもよい。
【0015】
第1の態様の粒子凝集判定用容器においては、同一の透明容器本体に複数の検体収容部を形成することが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様における粒子凝集判定用容器は、抗体または抗原を含む検体と凝集用粒子との反応を含む凝集反応により生成する凝集物に基づいて免疫学的分析を行う粒子凝集判定用容器であって、互いに対向する内面どうしの間に層状の間隙を形成するようにそれぞれ傾斜して配置された底部透明板状部材および上部透明板状部材と、前記層状の間隙に形成された、凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層とを具備したことを特徴とする。
【0017】
第2の態様の粒子凝集判定用容器においては、底部透明板状部材の内面の傾斜角度は、水平面から45°以上75°以下であることが好ましい。また、底部透明板状部材の内面は粗面化されていてもよい。
【0018】
第2の態様の粒子凝集判定用容器においても、流動性分離層の厚さは、0.5〜2mmであることが好ましい。また、不溶性粒子は、粒径25〜200μmのガラスビーズまたは架橋ポリマーであることが好ましい。さらに、流動性分離層は、抗血清を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凝集パターンの判定が容易かつ正確にでき、また凝集パターンを上下方向から観察できる。さらに、本発明の容器をマイクロプレート状にすることにより、大量検体処理を自動分析機によって行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図面を用いてより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器10の断面図である。透明容器本体たとえば透明樹脂からなるマイクロプレート11には、底面13の少なくとも一部が斜面をなすように検体収容部としてのウェル12が形成されている。ウェル12内には、ウェル底面13との間に層状の間隙を形成するように、ウェル底面13にほぼ平行に対向する下面を有するスペーサー14が配置されている(スペーサー14の支持部材は図示していない)。ウェル底面13とスペーサー14の下面との間の間隙には凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層15が形成されている。流動性分離層15は、ウェル12の下方から凝集パターンの観察が容易にできるように、その上面がウェル底面13の斜面が始まる点とほぼ一致するように不溶性粒子の量を調整することが好ましい。
【0022】
スペーサー14は、容器に蓋を設けて蓋に固定する等して、スペーサー14とウェル底面13との間の間隔、すなわち流動性分離層15の厚さが調節される。流動性分離層15の厚さは0.5mm〜2mm程度が好ましい。スペーサー14上部のウェル12内部は反応槽として用いることができる。反応槽に収容された反応液と流動性分離層15とが接触することを防ぐため、スペーサー14は流動性分離層15の上方に張り出していることが好ましい。
【0023】
本発明において、流動性分離層15に使用される不溶性粒子は従来のマイクロカラム凝集法において通常使用されているものであれば良く、比重の大きい不溶性粒子が扱いやすいが、特に限定されるものではない。また、EP797097に記載される様な多孔物質を用いることもできる。好ましくはガラスビーズまたは架橋ポリマーを使用する。粒径は25〜200μmが好ましい。また、IATなどの試験項目によっては、不溶性粒子を抗血清中に浮遊させてもよい。
【0024】
図1のような構成のウェル12を同一マイクロプレート11に複数個形成することにより、多数の検体を同時に処理することができる。例えば、8×12のウェルを2次元的に配列したマイクロプレートが挙げられる。
【0025】
本発明の粒子凝集判定用容器の使用方法を次に示すが、これに限定するものではなく、多少の改変が可能である。また、ここでは受身凝集法について説明するが、本発明の容器の用途はこれに限定されるものではない。まず、抗原または抗体が結合したラテックスまたは赤血球などの凝集用粒子と、凝集用粒子上の抗原または抗体と結合する抗体または抗原を含む検体とを、図1に示すウェル12内のスペーサー14上部の空間(反応槽)で必要に応じて一定時間反応させるか、ウェル12の外部で一定時間反応させた後にウェル12に入れる。この反応液を遠心分離にかけると、反応液はウェル底面13とスペーサー14との間隙に入って流動性分離層15に接し、比重の関係により凝集用粒子(およびこれに結合した抗体または抗原)のみが流動性分離層15中に移動し、斜面をなすウェル底面13に沿って最下部へ向かって沈降する。強い凝集が起こった場合には、凝集物16が流動性分離層15内の上部に捕捉される(図2aおよび下から見た図3a)。比較的弱い凝集の場合には、凝集物16は流動性分離層15の中間部に捕捉される(図2bおよび下から見た図3b)。陰性の場合には、凝集用粒子は最下部に沈降する(図2cおよび下から見た図3c)。このように、ウェル12内にスペーサー14を設け、ウェル12底面の斜面に沿うように層状の流動性分離層15を設けることにより、不溶性粒子が不透明であっても、下側からの観察で容易に凝集物の捕捉を判定できる。
【0026】
図1においてはウェル12の底面13がV状の斜面をなし、その斜面の水平面からの傾斜角度が約65°である場合を示しているが、図4に示すように、底面13aの傾斜を深部に向かうほど増加するように連続的に変化させ、スペーサー14の下面を底面13aに対応させた形状としてもよい。
【0027】
通常市販されているマイクロプレートのウェルのV状底面は傾斜角度が約30°であるが、斜面2の傾斜が緩いと非凝集の粒子が底部に集まったときに薄く広がったようなパターンになってしまい、陰性の判断がしにくい。したがって図1に示す容器のウェル底面の斜面の傾斜角度は水平面から45°以上が好ましく、特に55°〜75°が好ましい。この場合、遠心条件は、斜面の角度と使用する不溶性粒子の種類にもよるが、70G〜600Gで5〜10分が好ましい。なお、陽性パターンを得るためには遠心Gは低い方が好ましいので、70G〜115Gで遠心することが最も好ましい。
【0028】
特公平8−7215やEP725276に述べられている細長いマイクロ反応容器では、壁面が垂直であるため凝集物の捕捉は100%粒子によっているが、本発明に係る容器では斜面をなす底面の傾斜角度が水平に近づくにつれ、凝集物の捕捉は底面の影響を受けるようになる。このため、図5に示すように、ウェル12の底面13bを粗面化してもよい。図5に示すウェル12の底面13bは例えば特公昭61−44268や特公昭63−60854に記載されるものと同様である。なお、図5ではスペーサーを省略している。ここでいう粗面とは、凝集物のみが捕捉される程度の凹凸を有する面である。したがって、図5に示したウェル底面13bのように規則的な凹凸を設けてもよいし、不規則な凹凸を有していても良い。
【0029】
また、図6に示すように、スペーサー14の上部にスペーサー14と一体化した反応槽を設けることもできる。この場合、各ウェル12に挿入される個々のスペーサー14は蓋状の保持部17により互いに連結され、スペーサー14上部に保持部17の垂直壁面によって囲まれた円筒状の反応槽18が設けられる。反応槽18の下部壁面には小孔またはメッシュ19が形成されている。なお、この小孔またはメッシュ19は、反応により生じた凝集物が透過でき、かつ反応液が遠心操作前に流出しない程度の大きさである。
【0030】
このような構成においては、保持部17により一体化されたスペーサー14をマイクロプレート11から取り外し、反応槽18内で検体と凝集用粒子を予め反応させてから、マイクロプレート11に取り付け、遠心操作を行う方法も可能である。このように、スペーサーの上部を反応槽として使用することで、IATの様な2段階の反応ステップの必要な試験項目においても、検体の移動が必要なく一つの反応容器で処理することが可能である。
【0031】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る粒子凝集判定用容器30の断面図である。この粒子凝集判定用容器30は、たとえば平面形状が三角形の透明樹脂からなる底部透明板状部材31および上部透明板状部材32を、互いに対向する内面どうしの間に層状の間隙を形成するようにそれぞれ傾斜して配置し、この層状の間隙に凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層33を形成したものである。なお、底部透明板状部材31および上部透明板状部材32の側面も同様の素材で覆われている。このような構成とすることにより、本発明の第1の実施形態と同様に、層状の流動性分離層33を形成することができる。なお、底部透明板状部材31および上部透明板状部材32の平面形状は三角形に限定されるものではないが、非凝集物の沈殿の確認が容易にできるように、深部に向かうほど幅が狭くなる形状であることが好ましい。
【0032】
底部透明板状部材31および上部透明板状部材32の内面は曲面を有していてもよく、例えば流動性分離層33が円筒形や円錐形であっても良い。底部透明板状部材31および上部透明板状部材32との間隔は0.5mm〜2mm程度が好ましく、流動性分離層33の上部は反応槽として使用することができる。底部透明板状部材31の内面の傾斜角度は水平面から45°〜75°が好ましい。底部透明板状部材31の内面は凝集物が付着するように粗面化しておいてもよい。
【0033】
不溶性粒子は試験項目に応じて抗血清に浮遊させておくことができる。使用する不溶性粒子は、上記第1の実施形態において説明したものと同様であり、比重の大きい不溶性粒子が扱いやすいが限定されるものではない。また、多孔性物質を使用することもできる。粒径は25〜200μmが好ましい。
【0034】
本実施形態の容器を使用するには、上記第1の実施形態において説明したのと同様に、流動性分離層33の上部(反応槽)に検体を分注し、必要に応じて一定時間反応させた後、遠心を行う。凝集用粒子は底部透明板状部材31と上部透明板状部材32との間隙の流動性分離層33中で斜面に沿って滑り落ちる。このとき、強陽性であれば、凝集物35が流動性分離層33上部に捕捉される(図8aおよび図9a)。比較的弱い凝集の場合には、凝集物35は流動性分離層33の中間に捕捉される(図8bおよび図9b)。陰性の場合には、凝集用粒子は流動性分離層33の最下部に沈降する(図8cおよび図9c)。
【0035】
本発明においては、短時間で所望の沈殿を達成するために、遠心分離法によりパターン形成することが好ましい。遠心の最適条件の決定は、使用する容器の形状、不溶性粒子の種類、分析対象それぞれについて確認しなければならない。その理由は、凝集物および凝集していない凝集用粒子、遊離している抗体および抗原ならびに不溶性粒子のそれぞれの比重、大きさ、形、変形性、安定性が影響力を有しており、それは計算によって得ることが困難であるからである。
【0036】
以上詳述したように本発明によれば、粒子の凝集判定を短時間で容易に行うことができ、しかも斜面に沿って凝集用粒子を沈降させることによって、粒子にかかる重力(遠心力)は斜面方向に分散されるため、弱い力で凝集用粒子を展開できるので、弱い凝集反応もより高感度に検出できる。また、上下方向からの判定が可能なために、この容器を同一基板上に2次元的に複数個形成することにより、従来問題となっていた大量検体処理を自動分析機により行うことができる。
【0037】
本発明の粒子凝集判定用容器を同一基板上に形成し、マイクロプレート状にした容器を用いて、凝集の有無を自動判定装置により判定する方法はいくつか考えられるが、その一例を以下に示す。
【0038】
図10は、自動判定装置81の一例を示す模式図である。この装置は、検査者の目視判定により近付けるために、CCDカメラ85を用いて反応パターンを1ウェルずつ走査するものである。マイクロプレート82の上部には、蛍光管83、および光散乱板84が設置されている。蛍光管83から放射された光は光散乱板84を通って光の分布が一様になるように散乱され、マイクロプレート82のウェルに照射される。マイクロプレート82の下部にはCCDカメラ85が設置され、ウェル内の凝集パターンを透過した光はCCDカメラ85で電気信号に変換される。電気信号に変換されたウェル内の画像情報は画像処理回路86に入力され、高速CPUにより凝集・非凝集を判定するために画像処理される。これを1ウェルずつ走査し、種々の判定パラメーターを用いて高速CPUにより自動判定することにより、大量の検体を自動的に処理することができる。
【0039】
ここで、凝集・非凝集を判定するためのパラメーターとしては、透過光量の変化から算出したウェル内各部(例えば、ウェルの中心から同心円状に中心部、内部、外周部の3部分に分ける)における凝集物の面積や、ウェル内各部における透過光量の比、およびウェル外の透過光量とウェル内各部の透過光量の比などを用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1:容器底面の傾斜角度と遠心Gの最適化>
底面が種々の傾斜角度(30°、45°、60°、75°)の斜面をなすロート状容器を準備した。一方、不溶性粒子としてガラスビーズ(UB67LRS;(株)ユニオン)をBSA含有PBS溶液に懸濁させた懸濁液を調製した。それぞれのロート状容器に上記懸濁液を分注してガラスビーズを沈殿させた。次に、懸濁液の上部にA型ドナー血漿100μLおよび0.5%に希釈したA型血球(Ortho社アファーマジェン)100μLを分注し、36G〜570Gにおいて5分間遠心を行い、陰性パターンを観察した。この結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
底面の傾斜角度が45°以下では、形成された陰性パターンが容器最下部で広がった形になり、好ましくなかった。また、底面の傾斜角度が75°以上では、容器最下部の陰性パターンを下方から観察するのが困難であった。
【0043】
上記とは別に陽性反応を観察したところ、遠心Gが450G以上では陽性反応が弱まる傾向にあった。
【0044】
以上の結果から、好ましい底面の傾斜角度は45°〜75°であり、試験に際しては70G〜300Gで5〜10分遠心することが好ましいと考えられた。以下の実施例においては、底面の傾斜角度が60°である容器を用い、70G、10分間の条件で遠心して検討することにした。
【0045】
<実施例2:血液型オモテ検査>
図1に示すように、マイクロプレート11に開口部の直径が約1cm、斜面をなす底面13の傾斜角度が60°であるウェル12を複数形成した。一方、不溶性粒子として粒径約100μmのガラスビーズ(UB67LRS;(株)ユニオン)を、抗A或いは抗B血清を含むBSA含有PBS溶液に懸濁させて懸濁液を調製した。各懸濁液をそれぞれのウェルに分注した後、スペーサー14をウェル12内に挿入し、ウェル底面13とスペーサー14の下面との間の間隙に層状の流動性分離層15を形成した。このとき、流動性分離層15の上面がウェル底面13の傾斜が始まる位置とほぼ一致するように懸濁液の量を調整した。
【0046】
次に、各ウェル12内に、生理食塩水で0.5%に希釈したA型血球(Ortho社アファーマジェン)或いはB型血球(Ortho社アファーマジェン)を100μL分注して、70Gで10分間遠心した。
【0047】
遠心後、各ウェル12の下方から凝集パターンを観察した。その結果、A型血球は、抗A血清と反応して図3(a)の様にガラスビーズ上に血球が凝集した陽性パターンを呈し、抗B血清と反応せず図3(c)の様な陰性パターンを呈した。逆に、B型血球は、抗A血清と反応せず図3(c)の様な陰性パターンを呈し、抗B血清と反応して図3(a)の様にガラスビーズ上に血球が凝集した陽性パターンを呈した。このように、オモテ検査の陽性、陰性が正しく判定された。
【0048】
<実施例3:血液型ウラ検査>
実施例2と同様に、図1に示すように、マイクロプレート11に開口部の直径が約1cm、斜面をなす底面13の傾斜角度が60°であるウェル12を複数形成した。一方、不溶性粒子として粒径約100μmのガラスビーズ(UB67LRS;(株)ユニオン)を、BSA/PBS溶液に懸濁させて懸濁液を調製した。この懸濁液をそれぞれのウェルに分注した後、スペーサー14をウェル12内に挿入し、ウェル底面13とスペーサー14の下面との間の間隙に層状の流動性分離層15を形成した。このとき、流動性分離層15の上面がウェル底面13の傾斜が始まる位置とほぼ一致するように懸濁液の量を調整した。
【0049】
次に、各ウェル12内に、生理食塩水で0.5%に希釈したA型血球或いはB型血球(Ortho社アファーマジェン)を100μL分注し、さらにB型ドナー由来のACD加血漿をBSA含有PBS溶液で2〜64倍に希釈したものを検体として100μL分注し、室温で5分間放置後、70Gで10分間遠心した。
【0050】
遠心後、各ウェル12の下方から凝集パターンを観察した。その結果、A型血球は図3(a)の様にガラスビーズ上に血球が凝集した陽性パターンを呈し、B型血球は図3(c)の様な陰性パターンを呈した。このように、B型ドナーのウラ検査は正しく判定された。
【0051】
このとき、各希釈検体の凝集パターンを2,1,w,0の4段階で評価した結果を表2に示した。なお、2は強陽性を、1,wは弱陽性を、0は陰性を示す。
【0052】
同じ希釈検体についてID−System NaClカード(DiaMed AG Switzerland Morat)、およびID−DiaCell A1,B血球(DiaMed AG Switzerland Morat)を使用して試験を行い、反応性を確認した。メーカーのマニュアルに従って、各希釈検体の凝集パターンを4,3,2,1,w,0の6段階で評価した結果を表2に示した。なお、4は強陽性を、3〜wは弱陽性を、0は陰性を示す。
【0053】
表2から、本実施例の粒子凝集判定用容器の方が、ID−Systemより希釈感度が高いことが分かった。
【表2】

【0054】
<実施例4:不規則抗体検査>
実施例2、3と同様に、図1に示すように、マイクロプレート11に開口部の直径が約1cm、斜面をなす底面13の傾斜角度が60°であるウェル12を複数形成した。一方、不溶性粒子として粒径約100μmのガラスビーズ(UB67LRS;(株)ユニオン)を、抗ヒトグロブリン試薬(Ortho社)に懸濁させて懸濁液を調製した。この懸濁液をそれぞれのウェルに分注した後、スペーサー14をウェル12内に挿入し、ウェル底面13とスペーサー14の下面との間の間隙に層状の流動性分離層15を形成した。このとき、流動性分離層15の上面がウェル底面13の傾斜が始まる位置とほぼ一致するように懸濁液の量を調整した。
【0055】
各ウェル12に、生理食塩水で0.5%に希釈したO型R1R1血球(Ortho社サージスクリーン)或いはO型rr血球(Ortho社サージスクリーン)を100μL分注し、更にドナー由来の抗D抗体保有血漿を100μL分注し、37℃で10分間インキュベートした後、70Gで10分間遠心した。
【0056】
遠心後、ウェルの下方から凝集パターンを観察した。O型R1R1血球は、図3(a)の様なガラスビーズの上に血球が凝集した陽性パターンを呈した。O型rr血球は、図3(c)の様な陰性パターンを呈した。このように、2段階の反応を要するIATも、洗浄操作を行わずに1つの容器内で行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器の断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器を用いて試験を行った場合の、陽性(a)、弱陽性(b)、および陰性(c)反応のそれぞれの凝集パターンを横から見た図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器を用いて試験を行った場合の、陽性(a)、弱陽性(b)、および陰性(c)反応のそれぞれ凝集パターンを下方から見た図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器の変形例の断面図。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器の変形例の断面図。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集判定用容器の変形例の断面図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る粒子凝集判定用容器の断面図。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る粒子凝集判定用容器を用いて試験を行った場合の、陽性(a)、弱陽性(b)、および陰性(c)反応のそれぞれ凝集パターンを横から見た図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る粒子凝集判定用容器を用いて試験を行った場合の、陽性(a)、弱陽性(b)、および陰性(c)反応のそれぞれ凝集パターンを上方から見た図。
【図10】本発明の粒子凝集判定用容器に適用可能な、凝集・非凝集の自動判定装置の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0058】
10…粒子凝集判定用容器
11…透明容器本体
12…検体収容部
13、13a、13b…底面
14…スペーサー
15…流動性分離層
16…凝集物
17…保持部
18…反応槽
19…小孔またはメッシュ
30…粒子凝集判定用容器
31…底部透明板状部材
32…上部透明板状部材
33…流動性分離層
35…凝集物
81…自動判定装置
82…マイクロプレート
83…蛍光管
84…光散乱板
85…CCDカメラ
86…画像処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体または抗原を含む検体と凝集用粒子との反応を含む凝集反応により生成する凝集物に基づいて免疫学的分析を行う粒子凝集判定用容器であって、互いに対向する内面どうしの間に層状の間隙を形成するようにそれぞれ傾斜して配置された底部透明板状部材および上部透明板状部材と、前記層状の間隙に形成された、凝集物を分離する不溶性粒子を含む流動性分離層とを具備したことを特徴とする粒子凝集判定用容器。
【請求項2】
前記底部透明板状部材の内面の傾斜角度が、水平面から45°以上75°以下であることを特徴とする請求項1記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項3】
前記底部透明板状部材および前記上部透明板状部材の平面形状が、深部に向かうほど幅が狭くなる形状であることを特徴とする請求項1または2記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項4】
前記前記底部透明板状部材の内面が粗面化されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項5】
前記流動性分離層の厚さが0.5〜2mmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項6】
前記不溶性粒子が粒径25〜200μmのガラスビーズまたは架橋ポリマーであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項7】
前記流動性分離層が抗血清を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の粒子凝集判定用容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の粒子凝集判定用容器を用いた凝集パターンの形成方法であって、
抗体または抗原を含む検体と凝集用粒子とを反応させる工程と、
反応後の検体および凝集用粒子を、前記判定用容器の上部から深部に向けて遠心力で移動させる工程と
を含み、
ここで前記移動工程が、前記反応後の凝集用粒子が前記流動性分離層において凝集パターンを形成するまで続けられることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の凝集パターンの形成方法であって、前記凝集パターンが、
(i)前記判定用容器の上部に、凝集した粒子が分布し、
(ii)前記判定用容器の深部に向かうほど、より凝集が弱い粒子が分布し、
(iii)前記判定用容器の最下部に、非凝集の粒子が分布する
ものであることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−240538(P2007−240538A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110708(P2007−110708)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【分割の表示】特願2002−180135(P2002−180135)の分割
【原出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】