説明

粒子径測定装置

【課題】 レーザ光源の光軸を正確に調整しなくても、第n次の回折光強度を検出することができる粒子径測定装置を提供すること。
【解決手段】 検出器51で検出された第n次の回折光強度の時間変化に基づいて、被測定粒子群の拡散係数を算出して、粒子径を算出する粒子径算出部35を備える粒子径測定装置10であって、検出器51は、2次元的に配列された複数の受光素子51aからなり、粒子径算出部35は、電源3から電極2に印加する電圧を停止する前に得られた複数の受光素子51aからの回折光強度のうちから、最大の回折光強度を検出した受光素子51a’又は受光素子51a’を含む周辺の受光素子群51a’、51aを選択し、選択した受光素子51a’又は受光素子群51a’、51aを用いて、第n次の回折光強度の時間変化を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的手法(例えば、誘導回折格子法(IG法)等)を用いて被測定粒子群の粒子径を算出する粒子径測定装置に関し、特に媒体中で形成した被測定粒子群の粒子密度分布による過渡的な回折格子(以下、「密度回折格子」ともいう)を利用して、被測定粒子群の拡散係数を算出し、さらには拡散係数から粒子径を算出する粒子径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体(例えば、水等の液体や、ゲル等)中に分散させた粒子群の粒子径dの測定は、製薬や化学や研磨剤やセラミックスや顔料等の粒子径dが品質に影響を与える製品について行われている。さらに、粒子径dが100nm以下である粒子は、一般にナノ粒子と称され、同じ材質であっても通常のバルク物質とは異なる性質を表すことから、さまざまな分野で利用され始めている。
【0003】
ナノ粒子の粒子径dを測定する測定方法として、媒体中に粒子群を分散させた試料に、空間周期パターンを有する電界分布を発生させることによって、粒子群を誘電泳動作用(若しくは電気泳動作用)で移動させることで、媒体中に粒子群の密な領域と疎な領域とが周期的に並ぶ密度回折格子を形成させて、この密度回折格子にレーザ光(測定光)を照射することによって、密度回折格子による第n次の回折光強度Iを検出した後、電界分布を発生させることを停止(若しくは変調)することによって、媒体中で粒子群を拡散させることでぼやけていく密度回折格子による第n次の回折光強度Iの時間変化を計測することにより、粒子群の拡散係数Dを算出し、さらには拡散係数Dから粒子径dを算出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、nは1以上の整数を表している。
【0004】
このような測定方法によれば、粒子径dが小さくなればなるほど拡散係数Dが大きくなるので、形成した密度回折格子が早く消失することを利用している。つまり、電界分布を発生させることを停止した拡散開始時間tから密度回折格子が消失するときまでの間、試料にレーザ光を照射して第n次の回折光強度Iを検出しつづけることにより、第n次の回折光強度Iの時間変化を計測している。
図6(a)は、電圧Vと時間tとの関係を示すグラフであり、図6(b)は、回折光強度Iと時間tとの関係を示すグラフである。
【0005】
そして、回折光強度Iの時間変化から拡散係数Dを算出するために、下記式(1)を用いている。
=Iexp(−2Dqt)・・・・・(1)
ここで、q=2π/Λ、tは拡散開始時間tから経過した時間、Iは拡散開始時間tに検出された回折光強度、Iは時間tに検出された回折光強度、Λは密度回折格子の格子間隔である。
【0006】
次に、拡散係数Dを算出したら、下記式(2)で示すアインシュタインストークスの関係を用いて、絶対温度Tと媒体の粘度μとを入力することにより、拡散係数Dから粒子径dを算出している。
D= KT/ 3πμd ・・・・・(2)
ここで、Kはボルツマン定数である。
【0007】
図8は、このような測定方法を用いる粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。また、図2は、試料キュベット(セル)の一例を示す斜視図であり、図9は、検出光学系の一例を示す図である。
粒子径測定装置100は、試料が収容される試料キュベット1と、試料キュベット1に設けられている電極対2に対して交流電圧を印加する交流電源3と、試料キュベット1に対してレーザ光(測定光)を照射するレーザ光源4と、第n次の回折光強度Iを検出するための検出光学系150と、粒子径測定装置100全体を制御する制御部70とを備える。
【0008】
試料キュベット1は、長方形状の底面12と、4個の側壁11とを有するガラス製のものであり、光透過性を有する。そして、試料キュベット1の内部には、試料が収容されるようになっている。
試料キュベット1の一つの側壁11の表面(内面)には、電極対2が形成されている。図3は、電極対2が形成された側壁11の一例を示す平面図であり、図4は、試料キュベットの断面の一部を示す断面図である。
電極対2は、左側電極21と右側電極22とからなる。
左側電極21は、幅L(例えば、1μm)の直線状の電極片21aが間隔を空けて平行に並べられるとともに、これらの電極片21aの外側の片側端どうしを電気的に接続する直線状の接続部21bが設けられ、いわゆる櫛型電極を形成している。
右側電極22についても左側電極21と同様であり、幅L(例えば、1μm)の直線状の電極片22が間隔を空けて平行に並べられるとともに、これらの電極片22aの外側の片側端どうしを電気的に接続する直線状の接続部22bが設けられ、いわゆる櫛型電極を形成している。
そして、電極片21aと電極片22aとの各間隔が、それぞれ一定距離S(例えば、1μm)を空けて配置される。
また、接続部21bの上端部と接続部22bの上端部とには、交流電源3が接続される。
【0009】
これにより、電極対2に交流電源3からの交流電圧が印加されることにより、試料キュベット1内に電界分布が形成される。すると、電気力線が集中する電極片21aと電極片22aとの間に、誘電泳動によって被測定粒子群が凝集する。一方、電極片21aと電極片21aとの間と、電極片22aと電極片22aとの間とには、誘電泳動によって被測定粒子群が存在しなくなる。よって、被測定粒子群が凝集する領域Pは、格子間隔Λとなるように形成される(図4(a)参照)。すなわち、被測定粒子群が凝集する領域Pは、他の領域より粒子密度が高くなり、屈折率が異なることから、格子間隔Λの密度回折格子が形成される。
また、電極対2に交流電源3からの交流電圧が印加されなければ、試料キュベット1内に電界分布が形成されないので、電気力線が集中する領域もなく、被測定粒子群は媒体中で均一に存在する(図4(b)参照)。すなわち、粒子密度が均一になり、屈折率が同じになっている。
【0010】
なお、電極対2の材料としては、例えば、ITO等が挙げられ、ITOの屈折率は2.0程度であり、試料キュベット1の側壁11の材料として高屈折率ガラス(例えば、商品名「s−LAH79」;オハラ社製;屈折率2.0)を用いることで、電極対2と側壁11との屈折率差をなくすことにより、レーザ光の照射時に電極対2による回折光が発生することを抑えることができる。
【0011】
交流電源3には、被測定粒子群に誘電泳動を引き起こすことができる電圧、周波数の交流電源が用いられる。例えば、1〜100V、10kHz〜10MHz程度の交流電圧が印加できる交流電源等を使用する。
レーザ光源4は、被測定粒子群に応じて種類を選択すればよいが、例えば、He−Neレーザ光源(波長λ=0.6328μm)である。そして、試料キュベット1にレーザ光が照射される。
【0012】
検出光学系150は、第n次の回折光強度Iを検出する検出器151と、不要なノイズ光を避けるために直径1mmの円形状(面積:0.785mm)のピンホール152aを有するピンホール板152と、レーザ光源4の光軸Lの位置を把握するための光軸調整用受光部153とからなる。
検出器151は、1個のフォトダイオード(受光素子)からなる。そして、検出器151の直前には、レーザ光源4から出射されたレーザ光のうち、被測定粒子群による密度回折格子で回折した次数nの回折光のみを検出するように、ピンホール152aが配置される。
ここで、密度回折格子の格子間隔Λ、レーザ光の波長λ、回折角θ、次数nとすると、下記式(3)が成立する。
nλ=Λ・sinθ・・・・・(3)
よって、例えば、λ=0.6328μm、Λ=3μmとしたとき、n=1次の回折光はθ≒12°に現れるので、光軸Lに対して角度θ≒12°となる光が、ピンホール152aを通過するように、ピンホール板152が配置される。
【0013】
ところで、光軸Lに対して角度θとなる光が、ピンホール152aを通過するように、ピンホール板152を配置するためには、レーザ光源4の光軸L(n=0)の位置を把握する必要がある。そのため、粒子径測定装置100には、例えば、4個のフォトダイオード(受光素子)153aからなる光軸調整用受光部153が設けられている。光軸調整用受光部153の受光面の面積は、3mm×3mm(=9mm)であり、光軸調整用受光部153の受光面に、三角形状のフォトダイオード153aが光軸調整用受光部153の受光面の中心に頂角が来るように配置されている。そして、4個のフォトダイオード153aでそれぞれ検出される光強度の大きさが等しくなるように、光軸調整用受光部153を移動させることで、光軸調整用受光部153の中心にレーザ光源4の光軸Lが来るように光軸合わせが行われている。このように光軸調整用受光部153を用いて、レーザ光源4の光軸Lの位置を把握することにより、光軸Lに対して角度θとなる光のみが、ピンホール152aを通過するように、ピンホール板152を配置している。
【特許文献1】特開2006−84207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、第n次の回折光が、直径1mmの円形状のピンホール152aを通過するようにするためには、レーザ光源4の光軸Lを正確に把握する必要があり、すなわち、光軸調整用受光部153の中心にレーザ光源4の光軸Lが正確に来るように光軸合わせを行う必要があり、非常に手間がかかった。
なお、光軸調整用受光部153のほぼ中心にレーザ光源4の光軸Lが来るように光軸合わせを行えばよくなるように、ピンホール152aの直径を1mmより大きくすることで、第n次の回折光が、ピンホール152aを通過するようにすることも考えられるが、ピンホール152aの直径を1mmより大きくすると、多量のノイズ光もピンホール152aを通過してしまうという問題点がある。
そこで、本発明は、レーザ光源の光軸を正確に把握する必要もなく、第n次の回折光強度を検出することができる粒子径測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明の粒子径測定装置は、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を収容するセルと、交流電圧又は直流電圧を印加する電源と、前記電源からの電圧印加によりセル内に空間周期的に変化する電界を形成する電極と、前記電界により媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせた状態で、前記試料に測定光を照射する光源と、前記試料に測定光を照射することにより発生する回折光による第n次の回折光強度を検出する検出器と、前記電源から電極に印加する電圧を停止又は変調することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせることで、前記回折光に変化を生じさせる印加電圧制御部と、前記検出器で検出された第n次の回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径を算出する粒子径算出部とを備える粒子径測定装置であって、前記検出器は、並べられた複数の受光素子からなり、前記粒子径算出部は、前記電源から電極に印加する電圧を停止又は変調する前に得られた複数の受光素子からの回折光強度のうちから、最大の回折光強度を検出した受光素子又は当該受光素子を含む周辺の受光素子群を選択し、選択した受光素子又は受光素子群を用いて、第n次の回折光強度の時間変化を得るようにしている。
【0016】
ここで、「電気的な泳動」としては、例えば、荷電した被測定粒子群に直流電圧を印加して電気的に被測定粒子群を泳動させる静電泳動や、分極した被測定粒子群に交流電圧を印加して電気的に被測定粒子群を泳動させる誘電泳動等が挙げられる。
また、「測定光」としては、レーザ光が好ましいが、これに限らず、LEDによる光、分光器で分光された光、干渉フィルタやバンドパスフィルタ等で波長範囲が制限された光を用いてもよい。
また、「媒体」としては、内部で被測定粒子群が泳動できるものであればよく、例えば、水や油等の液体や、ゲルや、固体等が挙げられる。
そして、「回折光強度」とは、検出器で検出される数値そのものではなくてもよく、密度回折格子を形成する前に既に検出されている初期余剰光の光強度が存在する場合もあるので、検出器で検出される数値と初期余剰光の数値との差分であることが好ましい。
【0017】
本発明の粒子径測定装置によれば、検出器は、並べられた複数の受光素子からなる検出器を備える。これにより、複数の受光素子のいずれかが、第n次の回折光強度Iを検出すればよくなるので、光源の光軸Lを正確に把握する必要がなく、検出器を配置することができるようになっている。しかしながら、光源の光軸Lを正確に把握していないので、複数の受光素子のいずれが、第n次の回折光強度Iを検出しているかがわからないことになる。
そこで、本発明の粒子径測定装置では、まず、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料をセル内に収容する。次に、電源からの電圧を電極に印加することにより、セル内の空間に対して空間周期的に変化する電界を形成する。すると、被測定粒子群に電気的な泳動が生じることで、電界の空間周期に対応するように密な領域と疎な領域とが周期的に並ぶ空間周期的な濃度変化が発生し、すなわち被測定粒子群による密度回折格子が形成される。次に、密度回折格子が形成された試料に向けて光源から測定光を照射することで、密度回折格子による回折光が生じる。このとき、密度回折格子が安定して形成されているので、回折光強度Iは強くなっている。
【0018】
次に、第n次の回折光強度Iを検出している受光素子を特定することになるが、複数の受光素子からの光強度Iのうちから、最大の光強度Iを検出した受光素子又はその受光素子を含む周辺の受光素子群を選択する。つまり、複数の受光素子から、不要なノイズ光を検出している受光素子群を除外する。その結果、この特定した受光素子又は受光素子群を用いて、第n次の回折光強度Iの時間変化を得ることになる。
次に、印加電圧制御部が、電極へ印加する電圧を停止又は変調することにより、空間周期的に変化する電界が消失するので、被測定粒子群は徐々に拡散していくことになる。つまり、密度回折格子が崩れてぼやけるようになる。そして、特定した受光素子又は受光素子群によって回折光強度Iの時間変化を検出する。これにより、電圧を停止又は変調した拡散開始時間tからの時間tと回折光強度Iとの関係が得られる。
なお、第n次の回折光強度Iを検出している受光素子を特定するには、電極へ印加する電圧を停止又は変調する前から、電極へ印加する電圧を停止又は変調することにより、媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせた後までの複数の受光素子からの光強度Iの時間変化を記憶しておき、記憶した複数の受光素子からの光強度Iを用いて受光素子又はその受光素子を含む周辺の受光素子群を選択してもよい。
最後に、粒子径算出部は、拡散開始時間tからの時間tと回折光強度Iとに基づいて、上記式(1)及び式(2)を用いて被測定粒子群の拡散係数Dを算出して、粒子径dの分布を算出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粒子径測定装置によれば、光源の光軸Lを正確に把握する必要もなく、第n次の回折光強度Iを検出することができる。さらに、光軸調整用受光部等を設ける必要がなくなるので、コストを下げることができる。
【0020】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の粒子径測定装置においては、前記検出器の受光面に、前記受光素子がX行Y列で配列されているようにしてもよい。
本発明の粒子径測定装置によれば、受光素子がX行Y列で配列されているので、第n次の回折光強度Iを確実に見つけ出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
図1は、本発明の一実施形態である粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。また、図7は、本発明に係る検出光学系の一例を示す図である。なお、粒子径測定装置100と同様のものについては、同じ符号を付している。
本実施形態は、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を測定することにより、被測定粒子群の粒子径dの分布を算出するものである。また、媒体の粘度μは既知であるものを使用している。そして、交流電圧を印加して誘電泳動により分極した被測定粒子群を媒体中で泳動させるものとする。
【0022】
粒子径測定装置10は、試料が収容される試料キュベット1と、試料キュベット1に設けられている電極対2に対して交流電圧を印加する交流電源3と、試料キュベット1に対してレーザ光を照射するレーザ光源4と、第1次の回折光強度Iを検出するための検出光学系50と、粒子径測定装置10全体を制御する制御部7とを備える。
【0023】
検出光学系50は、第1次の回折光強度Iを検出する検出器51と、レーザ光が外部に漏れることを防止するビームストッパ52とからなる。
ビームストッパ52は、試料キュベット1を通過したレーザ光が外部に漏れることを防止するために、光軸L上に配置される。なお、ビームストッパ52は、円形状であり、その直径は2mmとなっている。
【0024】
検出器51は、64個のフォトダイオード(受光素子)51aからなる。1個のフォトダイオード51aの受光面の面積は、0.2mm×0.2mm(=0.04mm)であり、64個のフォトダイオード51aが、8列8行に配列されることにより、検出器51の受光面の面積は、1.6mm×1.6mm(=2.56mm)となっている。
これにより、検出器51の受光面の面積が、2.56mmと大きくなっているので、レーザ光源4の光軸Lを正確に把握することなく、64個のフォトダイオード51aのいずれかが、レーザ光源4から出射されたレーザ光のうち、被測定粒子群による密度回折格子で回折した第1次の回折光を検出することができる位置に、配置されるようになっている。
そして、64個のフォトダイオード51aでそれぞれ検出された光強度Iの出力は、増幅器6で増幅された後、制御部7にデジタル化されて取り込まれるようになっている。
【0025】
制御部7は、CPUを備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置(図示せず)と、キーボードやマウス等を有する入力装置(図示せず)とが連結されている。
また、CPUが処理する機能をブロック化して説明すると、交流電源3の制御を行う印加電圧制御部31と、レーザ光源4の制御を行うレーザ光源制御部32と、光強度Iを取り込む光強度取得制御部36と、粒子径dの分布を算出する粒子径算出部35とからなる。
【0026】
印加電圧制御部31は、電極対2に交流電圧を印加(ON)したり印加停止(OFF)したりするように交流電源3の制御を行う(図6(a)参照)。
これにより、印加電圧制御部31が、交流電源3から電極対2に交流電圧を印加すると、上述したように試料キュベット1内に電界分布が形成されるので、充分な時間、交流電圧を印加することにより、安定した密度回折格子を形成することができるようになっている。そして、安定した密度回折格子を形成した後、交流電圧を印加停止すれば、試料キュベット1内に電界分布が形成されなくなるので、交流電圧を印加停止した時間が拡散開始時間tとして、密度回折格子を崩してぼやけさせていくことができるようになっている。
レーザ光源制御部32は、試料キュベット1にレーザ光を照射(ON)したり照射停止(OFF)したりするようにレーザ光源4の制御を行う。
【0027】
光強度取得制御部36は、64個のフォトダイオード51aでそれぞれ検出された光強度Iを所定の時間間隔で取得して、第1次の回折光強度Iを検出していく制御を行う。
ところで、粒子径測定装置10では、レーザ光源4の光軸Lを調整していないので、64個のフォトダイオード51aのいずれが、第1次の回折光強度Iを検出しているかがわからない。そこで、光強度取得制御部36は、交流電源3から電極対2に印加する電圧を印加停止(OFF)する前に、密度回折格子が安定して形成されていることにより、回折光強度Iは強くなっているので、64個のフォトダイオード51aからの光強度Iのうちから、最大の光強度Iを検出した1個のフォトダイオード51a’を特定し、さらに特定した1個のフォトダイオード51a’を中心とする3行3列のフォトダイオード群51a’、51aを選択する。これにより、この9個のフォトダイオード群51a’、51aが、第1次の回折光強度Iを検出しているものとする。
そして、交流電源3から電極対2に印加する電圧を印加停止(OFF)した後には、9個のフォトダイオード群51a’、51aで検出された光強度Iの時間変化を、第一次の回折光強度Iの時間変化として得る。
なお、第n次の回折光強度Iを検出しているフォトダイオード51aを特定するには、電極対2へ印加する電圧を停止する前から、電極対2へ印加する電圧を停止することにより、媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせた後までの64個のフォトダイオード51aからの光強度Iの時間変化をメモリ等に記憶しておき、記憶した64個のフォトダイオード51aからの光強度Iを用いて9個のフォトダイオード群51a’、51aを選択してもよい。
粒子径算出部35は、光強度取得制御部36で得られた第1次の回折光強度Iの時間変化に基づいて、上記式(1)及び式(2)を用いて被測定粒子群の拡散係数Dを算出して、粒子径dの分布を算出する制御を行う。
【0028】
次に、粒子径測定装置10により粒子径dの分布を算出する算出方法について説明する。図5は、算出方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を試料キュベット1に収容する。
次に、ステップS102の処理において、印加電圧制御部31は、電極対2に交流電圧を印加するように交流電源3の制御を行う。つまり、密度回折格子が形成される。
【0029】
次に、ステップS103の処理において、レーザ光源制御部32は、試料キュベット1にレーザ光を照射(ON)する。
次に、ステップS104の処理において、光強度取得制御部36は、64個のフォトダイオード51aからの光強度Iを取得する。
次に、ステップS105の処理において、光強度取得制御部36は、最大の光強度Iを検出した1個のフォトダイオード51a’を特定し、さらに特定した1個のフォトダイオード51a’を中心とする9個のフォトダイオード群51a’、51aを選択する。
【0030】
次に、ステップS106の処理において、印加電圧制御部31は、電極対2に交流電圧を印加停止するように交流電源3の制御を行う。つまり、密度回折格子が崩れてぼやけていく。このとき、拡散開始時間tとなり、9個のフォトダイオード群51a’、51aで検出された回折光強度Iが回折光強度Iとなる。
次に、ステップS107の処理において、レーザ光源制御部32は、試料キュベット1にレーザ光を照射停止(OFF)する。
【0031】
次に、ステップS108の処理において、粒子径算出部35は、拡散開始時間tからの時間tと回折光強度Iとに基づいて、被測定粒子群の拡散係数Dを算出して、粒子径dの分布を算出する。
そして、ステップS108の処理を終了したときには、本フローチャートを終了させる。
【0032】
以上のように、本発明の粒子径測定装置10によれば、レーザ光源4の光軸Lを正確に把握する必要もなく、第1次の回折光強度Iを検出することができる。さらに、光軸調整用受光部等を設ける必要がなくなるので、コストを下げることができる。
【0033】
(他の実施形態)
(1)上述した粒子径測定装置10では、最大の光強度Iを検出した1個のフォトダイオード51a’を中心とする3行3列のフォトダイオード群51a’、51aが、第1次の回折光強度Iを検出しているものとする構成を示したが、最大の光強度Iを検出した1個のフォトダイオードのみが、第1次の回折光強度Iを検出しているものとする構成としてもよく、順番に大きな4個の光強度Iを検出した4個のフォトダイオードが、第1次の回折光強度Iを検出しているものとする構成としてもよい。
(2)上述した粒子径測定装置10では、検出器51が、第1次の回折光強度Iを検出しているものとする構成を示したが、第2次やさらに高次の回折光強度Iを検出するものとする構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の粒子径測定装置は、媒体中で形成した被測定粒子群による密度回折格子を利用して、被測定粒子群の拡散係数を算出し、さらには拡散係数から粒子径を算出する粒子径測定装置等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態である粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。
【図2】試料キュベットの一例を示す斜視図である。
【図3】電極対が形成された側壁の一例を示す平面図である。
【図4】試料キュベットの断面の一部を示す断面図である。
【図5】算出方法について説明するためのフローチャートである。
【図6】電圧と時間との関係を示すグラフと、回折光強度と時間との関係を示すグラフとである。
【図7】本発明に係る検出光学系の一例を示す図である。
【図8】従来の粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。
【図9】従来の検出光学系の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 試料キュベット(セル)
2 電極対
3 交流電源
4 レーザ光源
10 粒子径測定装置
31 印加電圧制御部
35 粒子径算出部
51 検出器
51a、51a’ フォトダイオード(受光素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を収容するセルと、
交流電圧又は直流電圧を印加する電源と、
前記電源からの電圧印加によりセル内に空間周期的に変化する電界を形成する電極と、
前記電界により媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせた状態で、前記試料に測定光を照射する光源と、
前記試料に測定光を照射することにより発生する回折光による第n次の回折光強度を検出する検出器と、
前記電源から電極に印加する電圧を停止又は変調することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせることで、前記回折光に変化を生じさせる印加電圧制御部と、
前記検出器で検出された第n次の回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径を算出する粒子径算出部とを備える粒子径測定装置であって、
前記検出器は、並べられた複数の受光素子からなり、
前記粒子径算出部は、前記電源から電極に印加する電圧を停止又は変調する前に得られた複数の受光素子からの回折光強度のうちから、最大の回折光強度を検出した受光素子又は当該受光素子を含む周辺の受光素子群を選択し、選択した受光素子又は受光素子群を用いて、第n次の回折光強度の時間変化を得ることを特徴とする粒子径測定装置。
【請求項2】
前記検出器の受光面に、前記受光素子がX行Y列で配列されていることを特徴とする請求項1に記載の粒子径測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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