説明

粒子状物質検出装置

【課題】エンジンの運転状態や排気の温度によらず安定して濃度を検出できるPMセンサを提供すること。
【解決手段】PMセンサは、エンジンの排気管に設けられたセンサ電極部を有し、排気に含まれるPMが付着したセンサ電極部の電気的特性に基づいて、排気のPM濃度を検出する。PMセンサは、センサ電極部に付着したPMの温度を、その電気物性が安定する安定PM温度範囲内に制御した上で、センサ電極部の静電容量変化量ΔCを測定し、測定した静電容量変化量ΔCに応じて排気のPM濃度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出装置に関する。特に、内燃機関から排出された排気の粒子状物質の濃度を検出する粒子状物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排気管には、排気の粒子状物質の濃度を検出するために粒子状物質検出装置が設けられている。この粒子状物質検出装置として、例えば特許文献1には、排気管内に電極部を設け、この電極部に排気に含まれる粒子状物質を付着させた後、粒子状物質が付着した電極部の電気的特性を測定することにより排気管内の排気の粒子状物質の濃度を検出するものが示されている。
【特許文献1】特開2008−139294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、粒子状物質は温度が変化するとその電気物性も変化するという特性がある。このため、上述のように、粒子状物質が付着した電極部の電気的特性の測定に基づいて粒子状物質の濃度を検出する粒子状物質検出装置では、内燃機関の運転状態や排気の温度の変動に応じて検出値も変動してしまうおそれがある。
【0004】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、粒子状物質の電気的特性の測定に基づいて排気の粒子状物質の濃度を検出する粒子状物質検出装置であって、内燃機関の運転状態や排気の温度によらず安定して濃度を検出できる粒子状物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の排気通路(EP)に設けられた電極部(2)を有し、排気に含まれる粒子状物質が付着した電極部の電気的特性に基づいて、排気の粒子状物質の濃度を検出する粒子状物質検出装置(1)であって、前記電極部に付着した粒子状物質の温度を制御する温度制御手段(5,6,8)と、前記温度制御手段により前記電極部に付着した粒子状物質の温度をその電気物性が安定する安定温度範囲内に制御した上で、当該電極部の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に応じて排気の粒子状物質の濃度を検出する濃度検出手段(6)と、を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の粒子状物質検出装置において、前記安定温度範囲は、200℃以上であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の粒子状物質検出装置において、前記温度制御手段は、前記電極部に付着した粒子状物質の温度に相関のあるパラメータ(T)を検出するパラメータ検出手段(5,6,8)と、前記パラメータ検出手段により検出されたパラメータに応じて前記電極部を加熱する加熱手段(5,6)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の粒子状物質検出装置において、前記加熱手段は、前記パラメータ検出手段により検出されたパラメータが、前記相関に基づいて前記安定温度範囲に対応して設定された安定パラメータ範囲内にあるか否かを判定し、前記検出されたパラメータが前記安定パラメータ範囲内にあると判定した場合には、前記電極部を加熱せず、前記検出されたパラメータが前記安定パラメータ範囲内にないと判定した場合には、前記電極部を加熱することを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れかに記載の粒子状物質検出装置において、前記濃度検出手段は、前記電極部に所定の電圧を印加することで排気に含まれる粒子状物質を付着させた後、当該電極部の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に応じて排気の粒子状物質の濃度を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、温度制御手段により電極部に付着した粒子状物質の温度を、その電気物性が安定する安定温度範囲内に制御した上で、電極部の電気的特性を測定する。これにより、内燃機関の運転状態や排気の温度によらず安定して電極部の電気的特性を測定することができる。したがって、内燃機関の運転状態や排気の温度によらず安定して排気の粒子状物質の濃度を検出することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、温度制御手段により電極部に付着した粒子状物質の温度を200℃以上に制御した上で、電極部の電気的特性を測定する。これにより、電極部に付着した粒子状物質の電気物性をより確実に安定させながら、電極部の電気的特性を測定することができる。したがって、より安定して排気の粒子状物質の濃度を検出することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、電極部に付着した粒子状物質の温度に相関のあるパラメータを検出し、検出したパラメータに応じて電極部を加熱する。これにより、電極部に付着した粒子状物質の温度をより確実に安定温度範囲内に制御することができる。したがって、より安定して排気の粒子状物質の濃度を検出することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、パラメータ検出手段により検出されたパラメータが、安定温度範囲に対応して設定された安定パラメータ範囲内にあるか否かを判定する。さらに、パラメータが安定パラメータ範囲内にあると判定した場合には電極部を加熱せず、パラメータが安定パラメータ範囲内にないと判定した場合には電極部を加熱する。これにより、電極部に付着した粒子状物質の温度を安定温度範囲内に制御しながら、電極部を加熱するための余分な電力の消費を抑制することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明によれば、電極部に所定の電圧を印加することで粒子状物質を電極部に付着させた後、電極部の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に応じて排気の粒子状物質の濃度を検出する。すなわち、この粒子状物質検出装置では、粒子状物質を電極部に付着させる工程と、電極部の電気的特性を測定する工程との2つの工程を実行する必要があるため、精度の高い検出が可能である反面、粒子状物質の濃度を検出するまでに時間がかかる。このため、2つの工程を実行している間に内燃機関の運転状態が変動し、電極部に付着した粒子状物質の温度が変動してしまい、結果として検出精度が低下してしまうおそれがある。したがって、上述のように電極部の電気的特性を測定する前に、この電極部に付着した粒子状物質の温度を安定温度範囲に制御することは、このような検出までに時間がかかる検出装置では、特に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る粒子状物質検出装置(以下、「PMセンサ」という)1の構成を示す模式図である。
【0015】
PMセンサ1は、エンジンの排気管EP内に設けられたセンサ電極部2と、このセンサ電極部2に接続された集塵用DC電源3、及びインピーダンス測定器4、センサ電極部2の温度を制御する温度制御装置5と、これらを制御する電子制御ユニット(以下「ECU」という)6と、を含んで構成される。以下、詳述するように、PMセンサ1は、排気管EP内を流通する排気に含まれる粒子状物質(以下、「PM(Particulate Matter)」という)が付着したセンサ電極部2の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に基づいて、排気管EP内を流通する排気の粒子状物質の濃度(以下、「PM濃度」という)を検出する。
【0016】
図2は、センサ電極部2の構成を示す図である。より具体的には、図2(A)は、センサ電極部2の電極板25の構成を示す斜視図であり、図2(B)は、2枚の電極板25,25を含んで構成されたセンサ電極部2の構成を示す斜視図である。
【0017】
図2(A)に示すように、電極板25は、略矩形状のアルミナ基板251と、このアルミナ基板251の表面に形成されたタングステン導体層252と、を備える。このタングステン導体層252は、アルミナ基板251の略中央部において、略正方形状に形成された導体部と、この導体部からアルミナ基板251の一端側へかけて線状に延びる導線部と、を含んで構成される。また、アルミナ基板251の一端側には、このタングステン導体層252の導線部に積層して設けられたタングステン印刷部253が形成されている。
ここで、アルミナ基板251の厚みは、約1mmであり、タングステン導体層252の導体部の一辺の長さは、約10mmである。
【0018】
図2(B)に示すように、センサ電極部2は、一対の電極板25,25を、板状のスペーサ26,26を介装して組み合わせることにより構成される。これらスペーサ26,26は、各電極板25の両端側に設けられており、これにより、各電極板25のタングステン導体層252の導体部には、PMが集塵されるキャビティ27が形成される。
【0019】
図1に戻って、集塵用DC電源3及びインピーダンス測定器4は、切換スイッチSWを介してセンサ電極部2の電極板25,25に接続されている。
【0020】
集塵用DC電源3は、ECU6から送信された制御信号に基づいて動作し、センサ電極部2の電極板25,25間に所定の電圧を所定の時間に亘って印加する。これにより、排気管EP内を流通する排気に含まれるPMを、電極板25,25に付着させる。
【0021】
インピーダンス測定器4は、ECU6から送信された制御信号に基づいて動作し、所定の測定電圧及び測定周期の交流信号のもとでセンサ電極部24の電極板25,25間の静電容量を検出し、検出した静電容量値に略比例した検出信号をECU6に出力する。
【0022】
切換スイッチSWは、ECU6から送信された制御信号に基づいて動作し、電極板25に対する接続を、集塵用DC電源3とインピーダンス測定器4との間で選択的に切り換える。後に詳述するように、センサ電極部2のキャビティ27内にPMを集塵するサンプリング処理を実行する場合には集塵用DC電源3と電極板25とを接続し、センサ電極部2の静電容量を測定する測定処理を実行する場合にはインピーダンス測定器4と電極板25とを接続する。
【0023】
温度制御装置5は、各電極板25,25に接して設けられたヒータ51,51と、これらヒータ51,51に電力を供給するヒータ用DC電源52と、を含んで構成される。
ヒータ用DC電源52は、ECU6から送信された制御信号に基づいて動作し、ヒータ51,51に所定の電流を通電する。ヒータ51,51は、ヒータ用電源52から電流が供給されると発熱し、電極板25,25を加熱する。これにより、センサ電極部2に付着したPMの温度を制御することができる。また、電極板25,25を加熱し電極板25,25に付着したPMを燃焼除去することにより、センサ電極部2を再生することができる。
【0024】
この他、ECU6には、電極温度センサ8が接続されている。電極温度センサ8は、センサ電極部2に付着したPMの温度に相関のあるパラメータとして電極板25の温度を検出し、検出信号をECU6に出力する。
ここで、電極板25の温度と、この電極板25に付着したPMの温度との関係について説明する。電極板25の熱容量は、この電極板25に付着するPMの熱容量よりも十分に大きい。このため、電極板25の温度と異なる温度のPMが、この電極板25に付着しても、PMの温度は電極板25の温度とほぼ等しくなる。したがって以下では、電極板25の温度と、この電極板25に付着したPMの温度はほぼ等しいものとする。
【0025】
ECU6は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU6は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、集塵用DC電源3、インピーダンス測定器4、ヒータ用DC電源52、及び切換スイッチSWなどに制御信号を出力する出力回路とを備える。
【0026】
図3は、PMセンサ1により排気のPM濃度を検出する手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジンの始動後、ECU6により実行される。
【0027】
ステップS1では、PMセンサの暖機、再生、及び校正を実行する。
ステップS2では、電極温度センサにより、センサ電極部の温度Tを検出する。
【0028】
ステップS3では、検出したセンサ電極部の温度Tが、所定の下限値TMINで設定された安定電極温度範囲内にあるか否かを判別する。すなわち、検出したセンサ電極部の温度Tが下限値TMIN以上であるか否かを判別する。この判別がYESの場合にはステップS5に移り、この判別がNOの場合にはステップS4に移る。
【0029】
ここで、センサ電極部の温度に対する安定電極温度範囲について説明する。
一般的に、センサ電極部に付着したPMの電気物性は、その温度によって変化する。しかしながら、後に詳述するように、PMの温度が所定の安定PM温度範囲内にある場合には、PMの電気物性はその温度によらず安定する。
そこで、上述の安定電極温度範囲とは、このような安定PM温度範囲に対応して設定されたセンサ電極部の温度の範囲を示す。すなわち、安定電極温度範囲とは、センサ電極部にPMが付着した場合、この付着したPMの電気物性が安定すると考えられるセンサ電極部の温度の範囲を示す。
また、上述のように、センサ電極部に付着したPMの温度とセンサ電極部の電極板の温度とはほぼ等しいと考えられるため、これら安定PM温度範囲と安定電極温度範囲とは同じ温度範囲を示すと考えられる。
本実施形態では、この安定PM温度範囲、すなわち安定電極温度範囲は、後に図4〜図6を参照して詳述する電気物性把握実験に基づいて、例えば、200℃以上に設定される。
【0030】
ステップS4では、検出したセンサ電極部の温度Tが安定電極温度範囲内にないと判定されたことに応じて、ヒータにより所定の時間tに亘ってセンサ電極部を加熱し、ステップS2に移る。この加熱時間tは、加熱後のセンサ電極部の温度が上述の安定電極温度範囲内に含まれるように設定される。また、これに加えて、この加熱時間tは、加熱後のセンサ電極部の温度が安定電極温度範囲内であり、かつ、所定の燃焼開始温度TMAXを超えないように設定されることが好ましい。ここで、燃焼開始温度TMAXとは、PMの燃焼が開始する温度を示す。
【0031】
ステップS5では、センサ電極部の静電容量を測定し、これを初期静電容量Cとして記録する。
ステップS6では、所定の時間に亘りサンプリング処理を実行する。このサンプリング処理では、具体的には、所定の時間に亘ってセンサ電極部に電圧を印加することにより、排気に含まれるPMをセンサ電極部に付着させる。
ここで、上述のように、センサ電極部の温度が安定電極温度範囲内にない場合には、センサ電極部を加熱しその温度が安定電極温度範囲内に含まれるようにしておくことにより、この処理においてセンサ電極部に付着したPMの温度も安定PM温度範囲内に含まれるように制御することができる。
【0032】
ステップS7では、センサ電極部の電気的特性としての静電容量変化量ΔCを測定する。具体的には、このステップS7では、センサ電極部の静電容量を測定し、これを集塵後静電容量Cとして記録する。次に、この集塵後静電容量Cから上述の初期静電容量Cを減算したものを算出し、これを静電容量変化量ΔC(=C−C)として記録する。すなわち、静電容量変化量ΔCとは、センサ電極部にPMを集塵する前と集塵した後のセンサ電極部の静電容量の変化量を示す。
【0033】
ステップS8では、測定した静電容量変化量ΔCに応じて、排気のPM濃度を検出する。より具体的には、このステップS8では、センサ電極部の静電容量変化量ΔCと排気管内のPM濃度Fとを関係付ける制御マップF(ΔC)に基づいて、測定した静電容量変化量ΔCに応じたPM濃度Fを算出する。なお、この制御マップF(ΔC)は、センサ電極部の温度が安定電極温度範囲内に含まれている状態で行われた実験に基づいて作成されたものを用いる。
ステップS9では、センサ電極部を再生し、ステップS2に移る。
【0034】
[電気物性把握実験]
次に、センサ電極部に付着したPMの電気物性を把握するための実験について説明する。
図4は、実験装置100の構成を示す図である。
この電気物性把握実験では、電極板102,102間にPMが満たされた実験用センサ電極部101を準備し、この実験用センサ電極部101及びPMを炉103内で加熱しながらインピーダンス測定器104により実験用センサ電極部101のレジスタンス及びリアクタンスを測定した。
【0035】
図5及び図6は、それぞれ、本実験の測定結果を示す図である。より具体的には、図5は、レジスタンスの温度特性を示し、図6は、リアクタンスの温度特性を示す。なお、これら測定結果の横軸のPM温度は、実験を行う前に予め測定しておいた炉103の昇温プロファイルとPMの温度との関係に基づいて得られたものを示す。
【0036】
図5に示すように、レジスタンスは、正の値であるとともにPM温度が上昇するに従い小さくなり漸近的に0に収束する。また、図6に示すように、リアクタンスは、負の値であるとともにPM温度が上昇するに従い漸近的に0に収束する。また、これら図5及び図6に示すように、PMの温度変化に対するレジスタンス及びリアクタンスの変化の割合は、PMの温度が上昇するに従い小さくなる。したがって、PMの電気物性は、その温度が上昇するに従い安定すると言える。そこで、上述の安定電極温度範囲(安定PM温度範囲)の下限値TMINは、PMの電気物性が安定してきたと判定される温度に設定される。本実験結果によれば、この安定電極温度範囲(安定PM温度範囲)の下限値TMINを200℃とする。
【0037】
[静電容量の温度特性把握実験]
次に、センサ電極部の静電容量の温度特性を把握するための静電容量の温度特性把握実験について説明する。
図7は、実験装置110の構成を示す図である。
実験装置110は、エンジン111と、このエンジン111の下流に設けられた正常DPF112及び破損DPF113と、エンジン111から排出された排気を正常DPF112及び破損DPF113とで切り換える切換弁114と、正常DPF112及び破損DPF113の下流側に設けられた試験用PMセンサ115と、を含んで構成される。
【0038】
正常DPF112は、エンジン111から排出された排気に含まれるPMを捕集するフィルタである。したがって、正常DPF112の下流側の排気のPM濃度は、ほぼ0である。破損DPF113は、正常DPF112を故意に破損したものである。したがって、破損DPF113の下流側には、所定のPM濃度の排気が流通する。
試験用PMセンサ115としては、上述の実施形態と同様のもの、すなわち、センサ電極部にヒータが設けられ、このヒータによりセンサ電極部の温度を制御できるものを準備した。
【0039】
温度特性把握実験では、以上のように構成された実験装置110を用いて、センサ電極部の静電容量に関する3種類の実験(実験1〜実験3)を行った。以下では、図8〜図10を参照して、これら3種類の実験及びその結果について説明する。
【0040】
図8は、実験1の結果を示す図である。
実験1では、切換弁114を正常DPF112側にセットし、エンジン111から排出された排気を正常DPF112に流入させながらセンサ電極部でPMを集塵し、PM集塵前とPM集塵後の静電容量を測定した。この際、センサ電極部に流入する排気の温度を320℃にした。
その後、センサ電極部の再生を行わずに、センサ電極部に流入する排気の温度を180℃に変更し、このときにおけるセンサ電極部の静電容量を測定した。なお、排気の温度が320℃のときセンサ電極部の温度は300℃であり、排気の温度が180℃のときセンサ電極部の温度は150℃であった。
図8には、左側から順に、PM集塵前(排気温度は320℃)、PM集塵後(排気温度は320℃)、PM集塵後(排気温度は180℃)におけるセンサ電極部の静電容量の測定値を示す。図8に示すように、これら3つの条件の下では、センサ電極部の静電容量の測定値は、ほぼ等しいことが確認された。したがって、センサ電極部にPMが付着していない状態では、センサ電極部の静電容量は、排気の温度によらず一定であることが検証された。
【0041】
図9は、実験2の結果を示す図である。
実験2では、切換弁114を破損DPF113側にセットし、エンジン111から排出された排気を破損DPF113に流入させながらセンサ電極部でPMを集塵し、PM集塵前とPM集塵後の静電容量を測定した。この際、センサ電極部に流入する排気の温度を320℃にした。
その後、センサ電極部の再生を行わずに、切換弁114を正常DPF112側にセットし、エンジン111から排出された排気を正常DPF112に流入させた。この際、センサ電極部に流入する排気の温度を、280℃及び180℃に段階的に変更し、各温度におけるセンサ電極部の静電容量を測定した。なお、排気の温度が320℃のときセンサ電極部の温度は300℃であり、排気の温度が280℃のときセンサ電極部の温度は250℃であり、排気の温度が180℃のときセンサ電極部の温度は150℃であった。
【0042】
図9には、左側から順に、PM集塵前(排気温度は320℃)、PM集塵後(排気温度は320℃)、PM集塵後(排気温度は280℃)、PM集塵後(排気温度180℃)におけるセンサ電極部の静電容量の測定値を示す。図9に示すように、センサ電極部にPMを集塵すると、センサ電極部の静電容量は上昇する。また、排気の温度を320℃から280℃に変化させた際には、センサ電極部の静電容量に大きな変化は確認されなかった。しかしながら、排気の温度を280℃から180℃に変化させると、センサ電極部の静電容量は小さくなることが確認された。
【0043】
図10は、実験3の結果を示す図である。
実験3では、切換弁114を破損DPF113側にセットし、エンジン111から排出された排気を破損DPF113に流入させながらセンサ電極部でPMを集塵し、PM集塵前とPM集塵後の静電容量を測定した。この際、センサ電極部に流入する排気の温度を280℃にした。
その後、センサ電極部の再生を行わずに、切換弁114を正常DPF112側にセットし、エンジン111から排出された排気を正常DPF112に流入させながら、センサ電極部の静電容量を測定した。この際、センサ電極部に流入する排気の温度を180℃にした。また、特にこの実験3では、センサ電極部の温度が300℃に保たれるように、ヒータを駆動した。
【0044】
図10には、左側から順に、PM集塵前(排気温度は280℃)、PM集塵後(排気温度は280℃)、PM集塵後(排気温度は180℃)におけるセンサ電極部の静電容量の測定値を示す。図10に示すように、センサ電極部にPMを集塵すると、センサ電極部の静電容量は上昇する。また、上述の図9に示す結果とは異なり、排気の温度を280℃から180℃に変化させても、センサ電極部の温度を300℃に保つことにより、センサ電極部の静電容量の測定値もほぼ一定になることが検証された。したがって、上述の実施形態のように、センサ電極部の温度を安定電極温度範囲内に制御した上でセンサ電極部の静電容量を測定することにより、エンジン111の運転状態や排気の温度によらず、センサ電極部の静電容量を測定できることが検証された。
【0045】
本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)本実施形態によれば、センサ電極部2に付着したPMの温度を、その電気物性が安定する安定電極温度範囲内に制御した上で、センサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定する。これにより、エンジンの運転状態や排気の温度によらず安定してセンサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定することができる。したがって、エンジンの運転状態や排気の温度によらず安定して排気のPM濃度Fを検出することができる。
【0046】
(2)本実施形態によれば、センサ電極部2に付着したPMの温度を200℃以上に制御した上で、センサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定する。これにより、センサ電極部2に付着したPMの電気物性をより確実に安定させながら、センサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定することができる。したがって、より安定して排気のPM濃度Fを検出することができる。
【0047】
(3)本実施形態によれば、センサ電極部2に付着したPMの温度に相関のあるパラメータとして、センサ電極部2の電極板25の温度を検出し、検出した電極板25の温度に応じてセンサ電極部2を加熱する。これにより、センサ電極部2に付着したPMの温度をより確実に安定PM温度範囲内に制御することができる。したがって、より安定して排気のPM濃度Fを検出することができる。
【0048】
(4)本実施形態によれば、電極温度センサ8により検出された電極板25の温度Tが、安定電極温度範囲内にあるか否かを判定する。さらに、電極板25の温度Tが安定電極温度範囲内にあると判定した場合にはセンサ電極部2を加熱せず、電極板25の温度Tが安定電極温度範囲内にないと判定した場合にはセンサ電極部2を加熱する。これにより、センサ電極部2に付着したPMの温度をより確実に安定PM温度範囲内に制御しながら、センサ電極部2を加熱するための余分な電力の消費を抑制することができる。
【0049】
(5)本実施形態によれば、センサ電極部2に所定の電圧を印加することでPMをセンサ電極部2に付着させた後、センサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定し、測定した静電容量変化量ΔCに応じて排気のPMの濃度を検出する。すなわち、このPMセンサ1では、PMをセンサ電極部2に付着させる工程と、センサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定する工程との2つの工程を実行する必要があるため、精度の高い検出が可能である反面、PM濃度を検出するまでに時間がかかる。このため、2つの工程を実行している間にエンジンの運転状態が変動し、センサ電極部2に付着したPMの温度が変動してしまい、結果として検出精度が低下してしまうおそれがある。したがって、上述のようにセンサ電極部2の静電容量変化量ΔCを測定する前に、このセンサ電極部2に付着したPMの温度を安定PM温度範囲に制御することは、このような検出までに時間がかかるPMセンサ1では、特に効果的である。
【0050】
本実施形態では、電極温度センサ8、温度制御装置5、及びECU6が温度制御手段を構成し、ECU6が濃度検出手段を構成し、電極温度センサ8、温度制御装置5、及びECU6がパラメータ検出手段を構成し、温度制御装置5、及びECU6が加熱手段を構成する。より具体的には、図3のステップS1〜S9の実行に係る手段が濃度検出手段を構成し、図3のステップS2〜S4の実行に係る手段が温度制御手段を構成し、図3のステップS2の実行に係る手段がパラメータ検出手段を構成し、図3のステップS3及びS4の実行に係る手段が加熱手段を構成する。
【0051】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記実施形態では、ステップS3においてセンサ温度が所定の下限温度よりも低い場合には、ステップS4に移り、所定の時間に亘ってセンサ電極部を加熱したが、これに限るものではない。例えば、センサ温度が下限温度を超えるまで、センサ温度を監視しながらセンサ電極部を加熱してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、センサ電極部2に付着したPMに相関のあるパラメータとして、電極板25の温度を電極温度センサ8で検出したが、これに限らない。センサ電極部2に付着したPMに相関のあるパラメータとして、排気の温度を検出してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、センサ電極部の温度が安定温度範囲内にない場合にのみ、ヒータによりセンサ電極部を加熱し、その温度が安定温度範囲内に含まれるように制御したが、これに限らない。例えば、センサ電極部の温度が、安定温度範囲内に設定された所定の目標温度に常に一致するようにしてもよい。この場合、目標温度は、PM濃度の測定が終了するまで、センサ電極部の温度が安定温度範囲内に含まれるように設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るPMセンサの構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態に係るセンサ電極部の構成を示す斜視図である。
【図3】上記実施形態に係るPMセンサにより排気のPM濃度を検出する手順を示すフローチャートである。
【図4】上記実施形態に係る電気物性把握実験の実験装置の構成を示す図である。
【図5】上記実験の測定結果であるレジスタンスの温度特性を示す図である。
【図6】上記実験の測定結果であるリアクタンスの温度特性を示す図である。
【図7】上記実施形態に係る温度特性把握実験の実験装置の構成を示す図である。
【図8】上記実験の結果を示す図である。
【図9】上記実験の結果を示す図である。
【図10】上記実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…PMセンサ(粒子状物質検出装置)
2…センサ電極部(電極部)
25…電極板
3…集塵用DC電源
4…インピーダンス測定器
5…温度制御装置(温度制御手段、パラメータ検出手段、加熱手段)
51…ヒータ
52…ヒータ用DC電源
6…ECU(温度制御手段、濃度検出手段、パラメータ検出手段、加熱手段)
8…電極温度センサ(温度制御手段、パラメータ検出手段)
EP…排気管(排気通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた電極部を有し、排気に含まれる粒子状物質が付着した電極部の電気的特性に基づいて、排気の粒子状物質の濃度を検出する粒子状物質検出装置であって、
前記電極部に付着した粒子状物質の温度を制御する温度制御手段と、
前記温度制御手段により前記電極部に付着した粒子状物質の温度をその電気物性が安定する安定温度範囲内に制御した上で、当該電極部の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に応じて排気の粒子状物質の濃度を検出する濃度検出手段と、を備えることを特徴とする粒子状物質検出装置。
【請求項2】
前記安定温度範囲は、200℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項3】
前記温度制御手段は、
前記電極部に付着した粒子状物質の温度に相関のあるパラメータを検出するパラメータ検出手段と、
前記パラメータ検出手段により検出されたパラメータに応じて前記電極部を加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、
前記パラメータ検出手段により検出されたパラメータが、前記相関に基づいて前記安定温度範囲に対応して設定された安定パラメータ範囲内にあるか否かを判定し、
前記検出されたパラメータが前記安定パラメータ範囲内にあると判定した場合には、前記電極部を加熱せず、
前記検出されたパラメータが前記安定パラメータ範囲内にないと判定した場合には、前記電極部を加熱することを特徴とする請求項3に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項5】
前記濃度検出手段は、前記電極部に所定の電圧を印加することで排気に含まれる粒子状物質を付着させた後、当該電極部の電気的特性を測定し、測定した電気的特性に応じて排気の粒子状物質の濃度を検出することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の粒子状物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−151553(P2010−151553A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328803(P2008−328803)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】