粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法
【課題】シンクロトロンの出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られる粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法を提供する。
【解決手段】粒子線治療システム100は、シンクロトロン200と、ビーム輸送系300と、照射装置500から構成される。制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、加速空胴25に印加した高周波電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分を合成した高周波電圧を加速空胴25に印加した状態で、荷電粒子ビームを出射装置26と出射偏向装置27を用いてビーム輸送系300へと出射する。
【解決手段】粒子線治療システム100は、シンクロトロン200と、ビーム輸送系300と、照射装置500から構成される。制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、加速空胴25に印加した高周波電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分を合成した高周波電圧を加速空胴25に印加した状態で、荷電粒子ビームを出射装置26と出射偏向装置27を用いてビーム輸送系300へと出射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムに係り、特にシンクロトロンの出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られる粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会を反映し、がん治療法の一つとして、低侵襲で体に負担が少なく、治療後の生活の質が高く維持できる放射線治療が注目されている。その中でも、加速器で加速した陽子や炭素などの荷電粒子ビームを用いた粒子線治療システムが、患部への優れた線量集中性のため特に有望視されている。粒子線治療システムは、イオン源で発生したビームを光速近くまで加速するシンクロトロンなどの加速器と、加速器の出射ビームを輸送するビーム輸送系と、患部の位置や形状に合わせてビームを患者に照射する照射装置から構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
粒子線治療システムの照射装置で患部の形状に合わせてビームを照射する際、散乱体でビーム径を拡大したのちコリメータで周辺部を削ってビームを整形する方法や、加速器からの細径ビームを電磁石で偏向し患部形状に合わせて走査する方法が用いられる。何れの場合にも、粒子線治療システムを導入した医療機関が短期間で十分な収益を確保できるだけの高い治療スループットの実現が必須である。
【0004】
高い治療スループットを実現するため、加速器には出射ビーム電流の増強による線量率向上が強く要求される。それを達成するため、従来、シンクロトロンでは加速可能なビーム粒子数を増加するため、入射・加速初期の低エネルギー領域での空間電荷効果(荷電粒子間のクーロン反発力)によるビーム不安定性を緩和する目的で、高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳する運転が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2833602号公報
【特許文献2】特許第3600129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では入射・加速初期の低エネルギー領域で空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和し加速終了後のビーム粒子数を確かに増加できる。しかしながら、加速終了後のビーム粒子数が増加すると荷電粒子ビームによる周回電流値が大きくなり、出射準備期間や出射期間中に空間電荷効果とは別種のビーム不安定性で粒子損失が発生したり、出射ビーム電流が不安定化する可能性があることが、発明者の加速器の運転経験で明らかになった。特に、出射準備期間や出射期間が数秒以上に及ぶ治療照射に対応するシンクロトロンの運転では、荷電粒子ビームによる周回電流が真空ダクト内構造物に高周波電圧を誘起し、それが原因で周回ビームの進行方向や横方向の不安定振動現象が成長しうることがわかった。
そこで、本発明の目的は加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生しうるビーム不安定性を抑制して、出射ビーム電流の増強と安定化により高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射を実現する粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射するものである。
【0008】
(2)また、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射するものである。
【0009】
(3)さらに、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射するものである。
【0010】
(4)望ましくは、前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致ように前記高周波加速電圧の周波数を設定するものである。
【0011】
(5)また、望ましくは、前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成するものである。
【0012】
上記(1)、(2)及び(3)の各発明によれば、加速終了後に周回ビームの粒子密度分布を進行方向に平坦化し最大電流値を低減できるので、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。
【0013】
また、上記(2)及び(3)の各発明によれば、加速終了後に周回ビームの運動量分散(粒子毎の運動量のバラツキ)を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。これらの解決手段は、発明者の加速器の運転経験から独自に見出されたものである。
【0014】
また、上記(4)の発明によれば、加速終了後に高周波加速電圧の基本波成分の周波数を低く設定できるため、必要な電圧振幅を低減できる効果がある。さらに、基本波成分に重畳する高調波成分まで考慮しても、入射、加速から出射に至るシンクロトロンの運転に必要な、加速空胴とそれを励振する高周波電力増幅器の動作周波数帯域を特に拡大する必要がない。これらの効果により、機器コストを抑制したうえで、ビーム不安定性を抑制し出射ビーム電流の増強と安定化が達成できる。
【0015】
さらに、上記(5)の発明によれば、シンクロトロンに入射する前段加速器からのビームエネルギーを増加しなくとも空間電荷効果が緩和でき、前段加速器のコストを抑制して安価なシステムで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
以上を纏めると、本発明によれば、シンクロトロンで加速終了時点のビーム粒子数を増加したうえで、加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生するビーム不安定性を抑制できる。その結果、出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射が実現できる。
【0017】
また、本発明によれば、機器コストを抑制したうえで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できるので、高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムを安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置(2重散乱体法)の構成を示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図4】高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳する従来技術で空間電荷効果を緩和し、シンクロトロンで加速可能なビーム粒子数が増加できる原理を示す説明図である。
【図5】シンクロトロンで空間電荷効果を緩和する従来技術である、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置(スポット走査法)の構成及び動作原理を示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は患部に照射される荷電粒子ビームをその上流側から見た平面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムにおける出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図12】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図13】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下、図1〜図7を用いて、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。最初に図1を用いて、本実施形態による粒子線治療システムの全体構成について説明する。
【0020】
粒子線治療システム100は、ライナックのような前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロン200と、シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室400まで導くビーム輸送系300と、治療室400で患者41の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置500と、制御装置600とから構成される。
【0021】
シンクロトロン200は、前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを入射する入射装置24と、荷電粒子ビームを偏向し一定の軌道上を周回させる偏向電磁石21と、荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石22と、高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する加速空胴25と、加速空胴25に高周波加速電圧を印加する高周波電力増幅器25Aと、周回する荷電粒子ビームの振動振幅に対して安定限界を形成する六極電磁石23と、高周波電磁場で荷電粒子ビームの振動振幅を増大し安定限界を超えさせて外部に取り出す出射装置26と、出射装置26に高周波電力を供給する出射用高周波電源26Aと、荷電粒子ビームを出射するために偏向する出射偏向装置27とから構成される。
【0022】
ビーム輸送系300は、シンクロトロンの出射ビームを磁場で偏向して所定の設計軌道に沿って治療室400内の照射装置500に導く偏向電磁石31と、輸送中に荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石32とから構成される。
【0023】
ここで、図2を用いて本実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置500の構成について説明する。照射装置500は2重散乱体法を用いており、ビーム輸送系300で導かれた荷電粒子ビームのサイズを横方向に拡大する2個の散乱体53a,53bと、患部42の深さ方向の厚みに応じて荷電粒子ビームのエネルギー幅を拡大するエネルギー幅形成器54と、散乱体53で拡大した荷電粒子ビームの周辺部を患部42の断面形状に合わせて除去するコリメータ55と、患部42の最深部形状に一致するように荷電粒子ビームのエネルギーを補償するボーラス56と、荷電粒子ビームの位置、サイズ(形状)、線量を監視する各種ビームモニタ52a,52bから構成される。
【0024】
図1に戻り、制御装置600について説明する。制御装置600は、前段加速器11、シンクロトロン200、ビーム輸送系300、照射装置500を構成する各機器及びその電源を制御し、シンクロトロンでのビーム入射・加速・出射、及び照射装置でのビーム照射の各過程の制御と監視を司っている。なお、図1には本発明に密接に関係する加速空胴25に高周波加速電圧を印加する高周波電力増幅器25A、及び出射装置26に高周波電力を供給する出射用高周波電源26Aとの関係のみを明示している。
【0025】
制御装置600は、シンクロトロンの入射・加速・出射の各過程に対応して加速空胴25に印加する高周波加速電圧を最適化するため、周波数・振幅・位相を制御した高周波信号を生成し高周波電力増幅器25Aに出力する。また、照射装置500に荷電粒子ビームを供給する際には、出射装置26に印加する高周波電磁場をONするため出射用高周波電源26AにON指令を出力し、照射装置500への荷電粒子ビームを遮断する際には、出射装置26に印加する高周波電磁場をOFFするため出射用高周波電源26AにOFF指令を出力する。
【0026】
本実施形態の照射装置500では2重散乱体法を用いており、前述の如く、荷電粒子ビームをコリメータ55で整形するためビーム利用効率が悪い。したがって、線量率を向上するためには、シンクロトロンの出射ビーム電流を格段と増強した状態で安定に運転する必要がある。
【0027】
図3はそれを実現するための、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す図である。加速空胴25に印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0028】
図3では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。加速期間の途中で高調波成分をOFFしているのは、加速とともに空間電荷効果が小さくなるためと、加速空胴25とそれを励振する高周波電力増幅器25Aの動作周波数帯域の制限による。本実施形態では磁性体装荷型加速空胴と半導体式固体増幅器を用いることを前提に、周波数帯域の下限が1MHzで上限が10MHzの場合を想定している。
【0029】
一方、シンクロトロン200の周長として60m、前段加速器11からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり5MeVの場合を想定すると、入射時に荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は0.5MHzである。シンクロトロンで周回ビームを安定に加速するためには、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数の整数倍に設定する必要があり、本実施形態では入射時に周回周波数の2倍の1MHzに設定している。それに応じて2倍高調波成分の周波数を入射時に2MHz、3倍高調波成分の周波数を入射時に3MHzに設定している。加速が進むと荷電粒子ビームの周回周波数が増加し、治療照射に必要な最大エネルギー(陽子線230MeV、炭素線400MeV/核子)まで加速すると、周回周波数が3MHzで高周波加速電圧の基本波成分の周波数が6MHzに達する。本実施形態では2倍高調波成分と3倍高調波成分の周波数が10MHzに達した段階でそれぞれOFFしている。
【0030】
入射・加速初期において、高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳することで空間電荷効果が緩和でき加速可能なビーム粒子数が増加する原理を図4に示す。図4の(a)〜(c)は、基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は基本波成分に高調波成分を重畳した場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。いずれも加速開始直前のものである。
【0031】
基本波成分に高調波成分を重畳して(d)に示す合成波を生成すると、(e)に示す進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある安定領域(高周波バケット)が形成される。その結果、安定領域中央部の荷電粒子に対する収束力が低下して、(f)の破線のように粒子密度分布が平坦化し最大電荷密度が低減、即ち空間電荷効果が緩和する。ここで逆に、加速可能なビーム粒子数は(c)の如く最大電荷密度で制限されるので、高調波成分を重畳した場合は(f)の実線まで最大電荷密度を増加でき、加速可能なビーム粒子数はその分だけ増加する。(e)の安定領域内に示したビーム粒子分布のうち、斜線で示した領域が増加した分である。
【0032】
図5に従来のシンクロトロンの運転方法を示す。図5でも、図3の本実施の形態と同様、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。
【0033】
従来の運転方法で入射・加速初期の低エネルギー領域で空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和し加速終了後のビーム粒子数を確かに増加できる。しかしながら、加速終了後のビーム粒子数が増加すると荷電粒子ビームによる周回電流値が大きくなり、出射準備期間や出射期間中に空間電荷効果とは別種のビーム不安定性で粒子損失が発生したり、出射ビーム電流が不安定化する可能性がある。特に、出射準備期間や出射期間が数秒以上に及ぶ治療照射に対応するシンクロトロンの運転では、荷電粒子ビームによる周回電流が真空ダクト内構造物に高周波電圧を誘起し、それが原因で周回ビームの進行方向や横方向の不安定振動現象が成長しうる。
【0034】
そこで、加速終了後に発生するビーム不安定性を抑制するため、周回ビームの運動量分散を適度に増加したうえで粒子密度分布を進行方向に平坦化し最大電流値を低減する必要がある。それを実現するために本実施の形態では、図3に示すように、加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する運転パターンを用いている。なお、高周波加速電圧をON/OFFする回数は1回でも効果があるが、複数回の方が周回ビームの運動量分散の増加や粒子密度分布の平坦化の効果が大きい。
【0035】
図6は本発明による出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。図6の(a)〜(c)は、加速終了直後の基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は、その後の出射準備・出射の過程において、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳した場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。加速終了直後の高周波加速電圧は(a)の如く基本波成分のみであり、周回ビームは、進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある図4(e)の形状から、図6(b)の如く進行方向の安定領域(高周波バケット)内の狭い位相幅にバンチした形状に変化しており、(c)の如く粒子密度分布の最大値が大きく最大電流値が大きい。そこで、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳して(d)の如く合成波を生成し振幅を増加すると、(e)に示す進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある安定領域が形成される。その場合、安定領域中央部の荷電粒子に対する収束力が低下して、(f)の如く粒子密度分布が平坦化し最大電流値が低減、即ち、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。また、(e)に示すように、高周波加速電圧ON/OFFの効果で周回ビームの運動量分散を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。本実施形態では、このように高周波加速電圧ON/OFFと高調波成分重畳の相乗効果により、出射ビーム電流の増強と安定化を効果的に達成できる。
【0036】
なお、本実施の形態では、加速終了後に高周波加速電圧をON/OFFする制御と、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する制御の両方の制御を行ったが、いずれか一方の制御を行っても、上述した原理に基づき、個々の作用により出射ビーム電流の増強と安定化の効果を得ることができる。加速終了後に高周波加速電圧をN/OFFする制御のみを実行する実施の形態については後述する。
【0037】
ここで図3に戻り、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンについて追加説明する。本実施形態では加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を6MHzから周回周波数に等しい3MHzに遷移させて、周回ビームを高周波バケット内に再捕獲している。この運転方法により2倍高調波成分の周波数を6MHzに、また3倍高調波成分の周波数を9MHzに設定できる。ここで、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を低く設定できるので、必要な電圧振幅を低減できる効果がある。さらに、基本波成分に重畳する高調波成分まで考慮しても、入射、加速から出射に至るシンクロトロンの運転に必要な、加速空胴とそれを励振する高周波電力増幅器の動作周波数帯域を1〜10MHzに収めることができる。これらの効果により、機器コストを抑制したうえで、ビーム不安定性を抑制し出射ビーム電流の増強と安定化が達成できる。
【0038】
図7は本発明に関わる制御装置600の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。制御装置600はシンクロトロン運転制御の各過程(入射、加速、出射準備、出射、減速準備、減速)の時間管理を担うタイミング信号生成器61と、シンクロトロンを構成する各機器の運転パターン(時系列データ)を生成する運転パターンデータ生成器62と、運転パターンデータ生成器62で生成した運転パターンデータを保存し、タイミング信号生成器61が出力するタイミング信号に同期して運転パターンデータを各機器に出力する運転パターンデータ制御器63と、基本波信号から3倍高調波信号まで生成する高周波発振器64と、各高周波信号の位相を制御する位相調整器65と、各高周波信号の振幅を制御する振幅調整器66と、位相と振幅を制御した各高周波信号を加算する信号合成器67から構成される。ここで、基本波用、2倍高調波用、3倍高調波用の各機器をa,b,cで表記している。信号合成器67の出力信号は高周波電力増幅器25Aに伝送される。また、運転パターンデータ制御器63より出射用高周波電源26Aに出射ON/OFF指令信号が伝送される。
【0039】
制御装置600は、上記のように運転パターンデータ制御器63によりタイミング信号生成器61が出力するタイミング信号に同期して運転パターンデータを高周波発振器64と位相調整器65振幅調整器66に出力することにより、図3に示した運転パターンで高周波加速電圧を形成し荷電粒子ビームを出射するよう高周波電力増幅器25A及び出射用高周波電源26Aを制御する。すなわち、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。また、加速終了後に高周波加速電圧をON/OFFする制御と、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する制御のいずれか一方の制御を行うように変形した場合は、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段、或いはシンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。
【0040】
以上のように構成した本実施の形態によれば、シンクロトロン200で加速終了時点のビーム粒子数を増加したうえで、加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生するビーム不安定性を抑制できる。その結果、出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射が実現できる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、機器コストを抑制したうえで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できるので、高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムを安価に提供できる。
<第2の実施形態>
以下、図8〜図10を用いて、本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による粒子線治療システムの全体構成は第1の実施形態の図1と同様であり、シンクロトロン200、ビーム輸送系300の説明は以下省略する。
【0042】
ここで、図8を用いて本実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置500の構成について説明する。照射装置500はスポット走査法を用いており、ビーム輸送系300で導かれた荷電粒子ビームを水平及び垂直方向に偏向し患部42の断面形状に合わせて2次元的に走査する走査電磁石51と、荷電粒子ビームの位置、サイズ(形状)、線量を監視する各種ビームモニタ52a,52bから構成される。
【0043】
図8(A)に示すように、患者41の患部42に対して、その3次元的な患部形状を深さ方向の複数の層に分割し、各層を更に2次元的に分割して複数の照射スポットを設定する。深さ方向にはシンクロトロンの出射ビームのエネルギー変更などで照射ビームのエネルギーを変更して各層を選択的に照射する。各層内では、図8(B)に示すように、走査電磁石51で照射ビームを2次元的に走査するが、各照射スポットSPでは停止した状態で所定線量を与える。1つの照射スポットSPの線量が満了すると照射ビームを高速で遮断したのち、照射ビームをOFFした状態で次の照射スポットに移動し、同様に照射を進めていく。
【0044】
本実施形態の照射装置500では細径の荷電粒子ビームをそのまま利用するため、2重散乱体法でコリメータを用いた前実施形態に比較してビーム利用効率が高い。したがって、線量率向上に必要なシンクロトロンの出射ビーム電流の増強度や安定化の程度は前実施形態に比較して厳しくない。しかし、一方で、細径の荷電粒子ビームを走査して利用するため、ビーム位置やサイズに対する安定性も重要であり、その観点で出射ビーム電流の安定性が要求されることには変わりない。
【0045】
図9はそれを実現するための、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す図である。加速空胴25に印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0046】
前実施形態の図3と同様に、図9では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。加速期間の途中で高調波成分をOFFしているのは、加速とともに空間電荷効果が小さくなるためと、加速空胴25とそれを励振する高周波電力増幅器25Aの動作周波数帯域の制限による。本実施形態でも磁性体装荷型加速空胴と半導体式固体増幅器を用いることを前提に、周波数帯域の下限が1MHzで上限が10MHzの場合を想定している。
【0047】
前実施形態と同様に、シンクロトロン200の周長として60m、前段加速器11からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり5MeVの場合を想定すると、荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は入射時に0.5MHzで出射時に最大3MHzに達する。本実施形態でも高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数の2倍に設定しており、入射時の1MHzから出射時の最大6MHzまで増加する。それに対応して2倍高調波成分と3倍高調波成分の周波数を変化させるが、本実施形態でも周波数が10MHzに達した段階でそれぞれOFFしている。
【0048】
本実施形態では、加速終了後に発生するビーム不安定性を抑制するため、図9の如く加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分のみの高周波加速電圧を印加する運転パターンを用いている。この制御は、第1の実施の形態と同様に制御装置600(図1参照)によって行われる。すなわち、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。
【0049】
図10は本発明による出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。図10の(a)〜(c)は、加速終了直後の基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は、その後の出射準備過程において、高周波加速電圧を複数回ON/OFFした場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。加速終了直後の周回ビームは(b)の如く進行方向の安定領域(高周波バケット)内の狭い位相幅にバンチしており、(c)の如く粒子密度分布の最大値が大きく最大電流値が大きい。そこで、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、(d)の如く基本波成分のみの高周波加速電圧を印加して振幅を増加すると、(e)の如く進行方向(高周波位相方向)の安定領域内でビーム粒子が一様に広がる。その結果、(f)の如く粒子密度分布がある程度平坦化して最大電流値が低減、即ち、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。また、(e)に示すように高周波加速電圧ON/OFFの効果で周回ビームの運動量分散を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。高調波成分を重畳する前実施形態に比較して最大電流値の低減効果は小さいが、それでも照射装置にスポット走査法を用いる粒子線治療システムでは十分安定に線量率向上が実現できる。
<第3の実施形態>
以下、図11〜図13を用いて本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。本実施形態による粒子線治療システムの全体構成を図11に示す。第1の実施形態の図1と同様に、粒子線治療システム100の基本構成は、シンクロトロン200、ビーム輸送系300、照射装置500、制御装置600である。以下では相違する部分について説明する。
【0050】
本実施形態ではシンクロトロンの入射ビームは、前段加速器11と前段ブースタ加速器12で加速される。即ち、前段ブースタ加速器12は前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを追加速してシンクロトロン200へ入射する。また、シンクロトロン200を構成する加速空胴25は、基本波加速電圧を発生する基本波加速空胴25aと高調波電圧を発生する高調波加速空胴25bに分離して構成される。同様に、加速空胴に対応して高周波電力増幅器25Aも、基本波信号を増幅する基本波電力増幅器25Aaと高調波信号を増幅する高調波電力増幅器25Abに分離して構成される。
【0051】
図12にはシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す。基本波加速空胴25aに印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波加速空胴25bに印加する高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0052】
本実施形態では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、前段ブースタ加速器12で入射ビームのエネルギーを高めている。そのため、入射・加速初期の低エネルギー領域でも高周波加速電圧は基本波成分のみで、加速終了後のビーム粒子数を必要な値まで増強できる。また、入射ビームのエネルギーを高めることで、入射から出射に至る高周波加速電圧の周波数変化の幅が狭くなるため、加速空胴25と高周波電力増幅器25Aに必要な性能が緩和し、設計の自由度も大きくなる。
【0053】
シンクロトロン200の周長として60m、前段ブースタ加速器12からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり20MeVの場合を想定すると、荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は入射時に1MHzで出射時に最大3MHzに達する。本実施形態では高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数に等しく設定しており、入射時の1MHzから出射時の最大3MHzまで増加する。加速終了後の周回ビーム電流によるビーム不安定性を抑制するため、本実施形態でも加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に2倍高調波成分と3倍高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加している。第1の実施の形態とは異なり、加速終了後に基本波成分の周波数を遷移させることなく、2倍高調波成分の周波数を最大6MHzに、3倍高調波成分の周波数を最大9MHzに収めることができる。なお、加速終了後のビーム不安定性を抑制して出射ビーム電流を安定化する概念は、第1の実施の形態の図6と同様である。
【0054】
本実施形態では高周波加速電圧の基本波成分の周波数範囲が1〜3MHz、高調波成分の周波数範囲が6〜9MHzで十分であり、前述の如く加速空胴25と高周波電力増幅器25Aをそれぞれ基本波用と高調波用に分離し構成している。これにより各機器が狭帯域動作で済むため、少ない消費電力で高い高周波加速電圧を発生させることができる。また、高周波加速電圧の振幅や位相の制御精度が向上し、より安定に高い出射ビーム電流値を達成できる。
【0055】
図13に本実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置600の構成、特に高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図を示す。第1の実施の形態の図7との相違は信号合成器67にあり、基本波成分と高調波成分に分離し構成している点である。2倍高調波信号と3倍高調波信号は信号合成器67bで加算して高調波電力増幅器25Abに供給するが、基本波成分はそのまま基本波電力増幅器25Aaに送信される。本実施形態では周波数が変化する入射・加速期間では高調波成分を用いず、加速終了後の周波数が一定の期間でのみ高調波成分を用いるため、位相調整器65b,65cや振幅調整器66b,66cで高調波信号の位相や振幅を調整する煩雑さが減少し制御が容易となる。また、高周波発振器64に関しても、高調波信号生成用の64b,64cは一定周波数を発生できる単純な発振器で済む。
【符号の説明】
【0056】
11…前段加速器
12…前段ブースタ加速器
21…偏向電磁石(シンクロトロン)
22…収束/発散型四極電磁石(シンクロトロン)
23…六極電磁石
24…入射装置
25…加速空胴
25A…高周波電力増幅器
26…出射装置
26A…出射用高周波電源
27…出射偏向装置
31…偏向電磁石(ビーム輸送系)
32…収束/発散型四極電磁石(ビーム輸送系)
41…患者
42…患部
51…走査電磁石
52…ビームモニタ
53…散乱体
54…エネルギー幅形成器
55…コリメータ
56…ボーラス
61…タイミング信号生成器
62…運転パターンデータ生成器
63…運転パターンデータ制御器
64…高周波発振器
65…位相調整器
66…振幅調整器
67…信号合成器
100…粒子線治療システム
200…シンクロトロン
300…ビーム輸送系
400…治療室
500…照射装置
600…制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムに係り、特にシンクロトロンの出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られる粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会を反映し、がん治療法の一つとして、低侵襲で体に負担が少なく、治療後の生活の質が高く維持できる放射線治療が注目されている。その中でも、加速器で加速した陽子や炭素などの荷電粒子ビームを用いた粒子線治療システムが、患部への優れた線量集中性のため特に有望視されている。粒子線治療システムは、イオン源で発生したビームを光速近くまで加速するシンクロトロンなどの加速器と、加速器の出射ビームを輸送するビーム輸送系と、患部の位置や形状に合わせてビームを患者に照射する照射装置から構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
粒子線治療システムの照射装置で患部の形状に合わせてビームを照射する際、散乱体でビーム径を拡大したのちコリメータで周辺部を削ってビームを整形する方法や、加速器からの細径ビームを電磁石で偏向し患部形状に合わせて走査する方法が用いられる。何れの場合にも、粒子線治療システムを導入した医療機関が短期間で十分な収益を確保できるだけの高い治療スループットの実現が必須である。
【0004】
高い治療スループットを実現するため、加速器には出射ビーム電流の増強による線量率向上が強く要求される。それを達成するため、従来、シンクロトロンでは加速可能なビーム粒子数を増加するため、入射・加速初期の低エネルギー領域での空間電荷効果(荷電粒子間のクーロン反発力)によるビーム不安定性を緩和する目的で、高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳する運転が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2833602号公報
【特許文献2】特許第3600129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では入射・加速初期の低エネルギー領域で空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和し加速終了後のビーム粒子数を確かに増加できる。しかしながら、加速終了後のビーム粒子数が増加すると荷電粒子ビームによる周回電流値が大きくなり、出射準備期間や出射期間中に空間電荷効果とは別種のビーム不安定性で粒子損失が発生したり、出射ビーム電流が不安定化する可能性があることが、発明者の加速器の運転経験で明らかになった。特に、出射準備期間や出射期間が数秒以上に及ぶ治療照射に対応するシンクロトロンの運転では、荷電粒子ビームによる周回電流が真空ダクト内構造物に高周波電圧を誘起し、それが原因で周回ビームの進行方向や横方向の不安定振動現象が成長しうることがわかった。
そこで、本発明の目的は加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生しうるビーム不安定性を抑制して、出射ビーム電流の増強と安定化により高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射を実現する粒子線治療システム及びシンクロトロンの運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射するものである。
【0008】
(2)また、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射するものである。
【0009】
(3)さらに、本発明は、加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたものである。また、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射するものである。
【0010】
(4)望ましくは、前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致ように前記高周波加速電圧の周波数を設定するものである。
【0011】
(5)また、望ましくは、前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成するものである。
【0012】
上記(1)、(2)及び(3)の各発明によれば、加速終了後に周回ビームの粒子密度分布を進行方向に平坦化し最大電流値を低減できるので、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。
【0013】
また、上記(2)及び(3)の各発明によれば、加速終了後に周回ビームの運動量分散(粒子毎の運動量のバラツキ)を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。これらの解決手段は、発明者の加速器の運転経験から独自に見出されたものである。
【0014】
また、上記(4)の発明によれば、加速終了後に高周波加速電圧の基本波成分の周波数を低く設定できるため、必要な電圧振幅を低減できる効果がある。さらに、基本波成分に重畳する高調波成分まで考慮しても、入射、加速から出射に至るシンクロトロンの運転に必要な、加速空胴とそれを励振する高周波電力増幅器の動作周波数帯域を特に拡大する必要がない。これらの効果により、機器コストを抑制したうえで、ビーム不安定性を抑制し出射ビーム電流の増強と安定化が達成できる。
【0015】
さらに、上記(5)の発明によれば、シンクロトロンに入射する前段加速器からのビームエネルギーを増加しなくとも空間電荷効果が緩和でき、前段加速器のコストを抑制して安価なシステムで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
以上を纏めると、本発明によれば、シンクロトロンで加速終了時点のビーム粒子数を増加したうえで、加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生するビーム不安定性を抑制できる。その結果、出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射が実現できる。
【0017】
また、本発明によれば、機器コストを抑制したうえで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できるので、高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムを安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置(2重散乱体法)の構成を示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図4】高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳する従来技術で空間電荷効果を緩和し、シンクロトロンで加速可能なビーム粒子数が増加できる原理を示す説明図である。
【図5】シンクロトロンで空間電荷効果を緩和する従来技術である、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置(スポット走査法)の構成及び動作原理を示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は患部に照射される荷電粒子ビームをその上流側から見た平面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムにおける出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図12】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる運転パターンを示す図である。
【図13】本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下、図1〜図7を用いて、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。最初に図1を用いて、本実施形態による粒子線治療システムの全体構成について説明する。
【0020】
粒子線治療システム100は、ライナックのような前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロン200と、シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室400まで導くビーム輸送系300と、治療室400で患者41の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置500と、制御装置600とから構成される。
【0021】
シンクロトロン200は、前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを入射する入射装置24と、荷電粒子ビームを偏向し一定の軌道上を周回させる偏向電磁石21と、荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石22と、高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する加速空胴25と、加速空胴25に高周波加速電圧を印加する高周波電力増幅器25Aと、周回する荷電粒子ビームの振動振幅に対して安定限界を形成する六極電磁石23と、高周波電磁場で荷電粒子ビームの振動振幅を増大し安定限界を超えさせて外部に取り出す出射装置26と、出射装置26に高周波電力を供給する出射用高周波電源26Aと、荷電粒子ビームを出射するために偏向する出射偏向装置27とから構成される。
【0022】
ビーム輸送系300は、シンクロトロンの出射ビームを磁場で偏向して所定の設計軌道に沿って治療室400内の照射装置500に導く偏向電磁石31と、輸送中に荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石32とから構成される。
【0023】
ここで、図2を用いて本実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置500の構成について説明する。照射装置500は2重散乱体法を用いており、ビーム輸送系300で導かれた荷電粒子ビームのサイズを横方向に拡大する2個の散乱体53a,53bと、患部42の深さ方向の厚みに応じて荷電粒子ビームのエネルギー幅を拡大するエネルギー幅形成器54と、散乱体53で拡大した荷電粒子ビームの周辺部を患部42の断面形状に合わせて除去するコリメータ55と、患部42の最深部形状に一致するように荷電粒子ビームのエネルギーを補償するボーラス56と、荷電粒子ビームの位置、サイズ(形状)、線量を監視する各種ビームモニタ52a,52bから構成される。
【0024】
図1に戻り、制御装置600について説明する。制御装置600は、前段加速器11、シンクロトロン200、ビーム輸送系300、照射装置500を構成する各機器及びその電源を制御し、シンクロトロンでのビーム入射・加速・出射、及び照射装置でのビーム照射の各過程の制御と監視を司っている。なお、図1には本発明に密接に関係する加速空胴25に高周波加速電圧を印加する高周波電力増幅器25A、及び出射装置26に高周波電力を供給する出射用高周波電源26Aとの関係のみを明示している。
【0025】
制御装置600は、シンクロトロンの入射・加速・出射の各過程に対応して加速空胴25に印加する高周波加速電圧を最適化するため、周波数・振幅・位相を制御した高周波信号を生成し高周波電力増幅器25Aに出力する。また、照射装置500に荷電粒子ビームを供給する際には、出射装置26に印加する高周波電磁場をONするため出射用高周波電源26AにON指令を出力し、照射装置500への荷電粒子ビームを遮断する際には、出射装置26に印加する高周波電磁場をOFFするため出射用高周波電源26AにOFF指令を出力する。
【0026】
本実施形態の照射装置500では2重散乱体法を用いており、前述の如く、荷電粒子ビームをコリメータ55で整形するためビーム利用効率が悪い。したがって、線量率を向上するためには、シンクロトロンの出射ビーム電流を格段と増強した状態で安定に運転する必要がある。
【0027】
図3はそれを実現するための、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す図である。加速空胴25に印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0028】
図3では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。加速期間の途中で高調波成分をOFFしているのは、加速とともに空間電荷効果が小さくなるためと、加速空胴25とそれを励振する高周波電力増幅器25Aの動作周波数帯域の制限による。本実施形態では磁性体装荷型加速空胴と半導体式固体増幅器を用いることを前提に、周波数帯域の下限が1MHzで上限が10MHzの場合を想定している。
【0029】
一方、シンクロトロン200の周長として60m、前段加速器11からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり5MeVの場合を想定すると、入射時に荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は0.5MHzである。シンクロトロンで周回ビームを安定に加速するためには、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数の整数倍に設定する必要があり、本実施形態では入射時に周回周波数の2倍の1MHzに設定している。それに応じて2倍高調波成分の周波数を入射時に2MHz、3倍高調波成分の周波数を入射時に3MHzに設定している。加速が進むと荷電粒子ビームの周回周波数が増加し、治療照射に必要な最大エネルギー(陽子線230MeV、炭素線400MeV/核子)まで加速すると、周回周波数が3MHzで高周波加速電圧の基本波成分の周波数が6MHzに達する。本実施形態では2倍高調波成分と3倍高調波成分の周波数が10MHzに達した段階でそれぞれOFFしている。
【0030】
入射・加速初期において、高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳することで空間電荷効果が緩和でき加速可能なビーム粒子数が増加する原理を図4に示す。図4の(a)〜(c)は、基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は基本波成分に高調波成分を重畳した場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。いずれも加速開始直前のものである。
【0031】
基本波成分に高調波成分を重畳して(d)に示す合成波を生成すると、(e)に示す進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある安定領域(高周波バケット)が形成される。その結果、安定領域中央部の荷電粒子に対する収束力が低下して、(f)の破線のように粒子密度分布が平坦化し最大電荷密度が低減、即ち空間電荷効果が緩和する。ここで逆に、加速可能なビーム粒子数は(c)の如く最大電荷密度で制限されるので、高調波成分を重畳した場合は(f)の実線まで最大電荷密度を増加でき、加速可能なビーム粒子数はその分だけ増加する。(e)の安定領域内に示したビーム粒子分布のうち、斜線で示した領域が増加した分である。
【0032】
図5に従来のシンクロトロンの運転方法を示す。図5でも、図3の本実施の形態と同様、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。
【0033】
従来の運転方法で入射・加速初期の低エネルギー領域で空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和し加速終了後のビーム粒子数を確かに増加できる。しかしながら、加速終了後のビーム粒子数が増加すると荷電粒子ビームによる周回電流値が大きくなり、出射準備期間や出射期間中に空間電荷効果とは別種のビーム不安定性で粒子損失が発生したり、出射ビーム電流が不安定化する可能性がある。特に、出射準備期間や出射期間が数秒以上に及ぶ治療照射に対応するシンクロトロンの運転では、荷電粒子ビームによる周回電流が真空ダクト内構造物に高周波電圧を誘起し、それが原因で周回ビームの進行方向や横方向の不安定振動現象が成長しうる。
【0034】
そこで、加速終了後に発生するビーム不安定性を抑制するため、周回ビームの運動量分散を適度に増加したうえで粒子密度分布を進行方向に平坦化し最大電流値を低減する必要がある。それを実現するために本実施の形態では、図3に示すように、加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する運転パターンを用いている。なお、高周波加速電圧をON/OFFする回数は1回でも効果があるが、複数回の方が周回ビームの運動量分散の増加や粒子密度分布の平坦化の効果が大きい。
【0035】
図6は本発明による出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。図6の(a)〜(c)は、加速終了直後の基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は、その後の出射準備・出射の過程において、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳した場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。加速終了直後の高周波加速電圧は(a)の如く基本波成分のみであり、周回ビームは、進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある図4(e)の形状から、図6(b)の如く進行方向の安定領域(高周波バケット)内の狭い位相幅にバンチした形状に変化しており、(c)の如く粒子密度分布の最大値が大きく最大電流値が大きい。そこで、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に高調波成分を重畳して(d)の如く合成波を生成し振幅を増加すると、(e)に示す進行方向(高周波位相方向)に平坦部がある安定領域が形成される。その場合、安定領域中央部の荷電粒子に対する収束力が低下して、(f)の如く粒子密度分布が平坦化し最大電流値が低減、即ち、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。また、(e)に示すように、高周波加速電圧ON/OFFの効果で周回ビームの運動量分散を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。本実施形態では、このように高周波加速電圧ON/OFFと高調波成分重畳の相乗効果により、出射ビーム電流の増強と安定化を効果的に達成できる。
【0036】
なお、本実施の形態では、加速終了後に高周波加速電圧をON/OFFする制御と、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する制御の両方の制御を行ったが、いずれか一方の制御を行っても、上述した原理に基づき、個々の作用により出射ビーム電流の増強と安定化の効果を得ることができる。加速終了後に高周波加速電圧をN/OFFする制御のみを実行する実施の形態については後述する。
【0037】
ここで図3に戻り、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンについて追加説明する。本実施形態では加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を6MHzから周回周波数に等しい3MHzに遷移させて、周回ビームを高周波バケット内に再捕獲している。この運転方法により2倍高調波成分の周波数を6MHzに、また3倍高調波成分の周波数を9MHzに設定できる。ここで、高周波加速電圧の基本波成分の周波数を低く設定できるので、必要な電圧振幅を低減できる効果がある。さらに、基本波成分に重畳する高調波成分まで考慮しても、入射、加速から出射に至るシンクロトロンの運転に必要な、加速空胴とそれを励振する高周波電力増幅器の動作周波数帯域を1〜10MHzに収めることができる。これらの効果により、機器コストを抑制したうえで、ビーム不安定性を抑制し出射ビーム電流の増強と安定化が達成できる。
【0038】
図7は本発明に関わる制御装置600の構成、特に、高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図である。制御装置600はシンクロトロン運転制御の各過程(入射、加速、出射準備、出射、減速準備、減速)の時間管理を担うタイミング信号生成器61と、シンクロトロンを構成する各機器の運転パターン(時系列データ)を生成する運転パターンデータ生成器62と、運転パターンデータ生成器62で生成した運転パターンデータを保存し、タイミング信号生成器61が出力するタイミング信号に同期して運転パターンデータを各機器に出力する運転パターンデータ制御器63と、基本波信号から3倍高調波信号まで生成する高周波発振器64と、各高周波信号の位相を制御する位相調整器65と、各高周波信号の振幅を制御する振幅調整器66と、位相と振幅を制御した各高周波信号を加算する信号合成器67から構成される。ここで、基本波用、2倍高調波用、3倍高調波用の各機器をa,b,cで表記している。信号合成器67の出力信号は高周波電力増幅器25Aに伝送される。また、運転パターンデータ制御器63より出射用高周波電源26Aに出射ON/OFF指令信号が伝送される。
【0039】
制御装置600は、上記のように運転パターンデータ制御器63によりタイミング信号生成器61が出力するタイミング信号に同期して運転パターンデータを高周波発振器64と位相調整器65振幅調整器66に出力することにより、図3に示した運転パターンで高周波加速電圧を形成し荷電粒子ビームを出射するよう高周波電力増幅器25A及び出射用高周波電源26Aを制御する。すなわち、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。また、加速終了後に高周波加速電圧をON/OFFする制御と、基本波成分に高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加する制御のいずれか一方の制御を行うように変形した場合は、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段、或いはシンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。
【0040】
以上のように構成した本実施の形態によれば、シンクロトロン200で加速終了時点のビーム粒子数を増加したうえで、加速終了後の出射準備期間や出射期間中に発生するビーム不安定性を抑制できる。その結果、出射ビーム電流の増強と安定化により、高い線量率が安定に得られ、高いスループットの治療照射が実現できる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、機器コストを抑制したうえで出射ビーム電流の増強と安定化が実現できるので、高いスループットの治療照射が可能な粒子線治療システムを安価に提供できる。
<第2の実施形態>
以下、図8〜図10を用いて、本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による粒子線治療システムの全体構成は第1の実施形態の図1と同様であり、シンクロトロン200、ビーム輸送系300の説明は以下省略する。
【0042】
ここで、図8を用いて本実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置500の構成について説明する。照射装置500はスポット走査法を用いており、ビーム輸送系300で導かれた荷電粒子ビームを水平及び垂直方向に偏向し患部42の断面形状に合わせて2次元的に走査する走査電磁石51と、荷電粒子ビームの位置、サイズ(形状)、線量を監視する各種ビームモニタ52a,52bから構成される。
【0043】
図8(A)に示すように、患者41の患部42に対して、その3次元的な患部形状を深さ方向の複数の層に分割し、各層を更に2次元的に分割して複数の照射スポットを設定する。深さ方向にはシンクロトロンの出射ビームのエネルギー変更などで照射ビームのエネルギーを変更して各層を選択的に照射する。各層内では、図8(B)に示すように、走査電磁石51で照射ビームを2次元的に走査するが、各照射スポットSPでは停止した状態で所定線量を与える。1つの照射スポットSPの線量が満了すると照射ビームを高速で遮断したのち、照射ビームをOFFした状態で次の照射スポットに移動し、同様に照射を進めていく。
【0044】
本実施形態の照射装置500では細径の荷電粒子ビームをそのまま利用するため、2重散乱体法でコリメータを用いた前実施形態に比較してビーム利用効率が高い。したがって、線量率向上に必要なシンクロトロンの出射ビーム電流の増強度や安定化の程度は前実施形態に比較して厳しくない。しかし、一方で、細径の荷電粒子ビームを走査して利用するため、ビーム位置やサイズに対する安定性も重要であり、その観点で出射ビーム電流の安定性が要求されることには変わりない。
【0045】
図9はそれを実現するための、シンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す図である。加速空胴25に印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0046】
前実施形態の図3と同様に、図9では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、入射・加速初期の低エネルギー領域で高周波加速電圧の基本波成分に高調波成分を重畳している。加速期間の途中で高調波成分をOFFしているのは、加速とともに空間電荷効果が小さくなるためと、加速空胴25とそれを励振する高周波電力増幅器25Aの動作周波数帯域の制限による。本実施形態でも磁性体装荷型加速空胴と半導体式固体増幅器を用いることを前提に、周波数帯域の下限が1MHzで上限が10MHzの場合を想定している。
【0047】
前実施形態と同様に、シンクロトロン200の周長として60m、前段加速器11からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり5MeVの場合を想定すると、荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は入射時に0.5MHzで出射時に最大3MHzに達する。本実施形態でも高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数の2倍に設定しており、入射時の1MHzから出射時の最大6MHzまで増加する。それに対応して2倍高調波成分と3倍高調波成分の周波数を変化させるが、本実施形態でも周波数が10MHzに達した段階でそれぞれOFFしている。
【0048】
本実施形態では、加速終了後に発生するビーム不安定性を抑制するため、図9の如く加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分のみの高周波加速電圧を印加する運転パターンを用いている。この制御は、第1の実施の形態と同様に制御装置600(図1参照)によって行われる。すなわち、制御装置600は、シンクロトロン200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を構成する。
【0049】
図10は本発明による出射ビーム電流の安定化の概念に関わる説明図である。図10の(a)〜(c)は、加速終了直後の基本波成分のみ場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示し、(d)〜(f)は、その後の出射準備過程において、高周波加速電圧を複数回ON/OFFした場合の高周波加速電圧波形、高周波バケットの形状と粒子分布、粒子密度分布をそれぞれ示している。加速終了直後の周回ビームは(b)の如く進行方向の安定領域(高周波バケット)内の狭い位相幅にバンチしており、(c)の如く粒子密度分布の最大値が大きく最大電流値が大きい。そこで、高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、(d)の如く基本波成分のみの高周波加速電圧を印加して振幅を増加すると、(e)の如く進行方向(高周波位相方向)の安定領域内でビーム粒子が一様に広がる。その結果、(f)の如く粒子密度分布がある程度平坦化して最大電流値が低減、即ち、ビーム不安定性の原因である真空ダクト内構造物に誘起する高周波電圧を低減できる。また、(e)に示すように高周波加速電圧ON/OFFの効果で周回ビームの運動量分散を適度に増加できるので、その分散効果で不安定振動現象の成長を抑制できる。高調波成分を重畳する前実施形態に比較して最大電流値の低減効果は小さいが、それでも照射装置にスポット走査法を用いる粒子線治療システムでは十分安定に線量率向上が実現できる。
<第3の実施形態>
以下、図11〜図13を用いて本発明の第3の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。本実施形態による粒子線治療システムの全体構成を図11に示す。第1の実施形態の図1と同様に、粒子線治療システム100の基本構成は、シンクロトロン200、ビーム輸送系300、照射装置500、制御装置600である。以下では相違する部分について説明する。
【0050】
本実施形態ではシンクロトロンの入射ビームは、前段加速器11と前段ブースタ加速器12で加速される。即ち、前段ブースタ加速器12は前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを追加速してシンクロトロン200へ入射する。また、シンクロトロン200を構成する加速空胴25は、基本波加速電圧を発生する基本波加速空胴25aと高調波電圧を発生する高調波加速空胴25bに分離して構成される。同様に、加速空胴に対応して高周波電力増幅器25Aも、基本波信号を増幅する基本波電力増幅器25Aaと高調波信号を増幅する高調波電力増幅器25Abに分離して構成される。
【0051】
図12にはシンクロトロンの高周波加速電圧に関わる本発明の運転パターンを示す。基本波加速空胴25aに印加する高周波加速電圧の基本波成分と高調波加速空胴25bに印加する高調波成分(2倍高調波、3倍高調波)の運転パターンを、シンクロトロンの入射・加速・出射準備・出射の各過程に対応して示している。
【0052】
本実施形態では空間電荷効果によるビーム不安定性を緩和するため、前段ブースタ加速器12で入射ビームのエネルギーを高めている。そのため、入射・加速初期の低エネルギー領域でも高周波加速電圧は基本波成分のみで、加速終了後のビーム粒子数を必要な値まで増強できる。また、入射ビームのエネルギーを高めることで、入射から出射に至る高周波加速電圧の周波数変化の幅が狭くなるため、加速空胴25と高周波電力増幅器25Aに必要な性能が緩和し、設計の自由度も大きくなる。
【0053】
シンクロトロン200の周長として60m、前段ブースタ加速器12からの入射ビームのエネルギーとして核子当たり20MeVの場合を想定すると、荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回する周波数は入射時に1MHzで出射時に最大3MHzに達する。本実施形態では高周波加速電圧の基本波成分の周波数を周回周波数に等しく設定しており、入射時の1MHzから出射時の最大3MHzまで増加する。加速終了後の周回ビーム電流によるビーム不安定性を抑制するため、本実施形態でも加速終了後に高周波加速電圧を複数回ON/OFFしたのち、基本波成分に2倍高調波成分と3倍高調波成分を重畳した高周波加速電圧を印加している。第1の実施の形態とは異なり、加速終了後に基本波成分の周波数を遷移させることなく、2倍高調波成分の周波数を最大6MHzに、3倍高調波成分の周波数を最大9MHzに収めることができる。なお、加速終了後のビーム不安定性を抑制して出射ビーム電流を安定化する概念は、第1の実施の形態の図6と同様である。
【0054】
本実施形態では高周波加速電圧の基本波成分の周波数範囲が1〜3MHz、高調波成分の周波数範囲が6〜9MHzで十分であり、前述の如く加速空胴25と高周波電力増幅器25Aをそれぞれ基本波用と高調波用に分離し構成している。これにより各機器が狭帯域動作で済むため、少ない消費電力で高い高周波加速電圧を発生させることができる。また、高周波加速電圧の振幅や位相の制御精度が向上し、より安定に高い出射ビーム電流値を達成できる。
【0055】
図13に本実施形態による粒子線治療システムに用いる制御装置600の構成、特に高周波加速電圧の制御部の構成に関するブロック図を示す。第1の実施の形態の図7との相違は信号合成器67にあり、基本波成分と高調波成分に分離し構成している点である。2倍高調波信号と3倍高調波信号は信号合成器67bで加算して高調波電力増幅器25Abに供給するが、基本波成分はそのまま基本波電力増幅器25Aaに送信される。本実施形態では周波数が変化する入射・加速期間では高調波成分を用いず、加速終了後の周波数が一定の期間でのみ高調波成分を用いるため、位相調整器65b,65cや振幅調整器66b,66cで高調波信号の位相や振幅を調整する煩雑さが減少し制御が容易となる。また、高周波発振器64に関しても、高調波信号生成用の64b,64cは一定周波数を発生できる単純な発振器で済む。
【符号の説明】
【0056】
11…前段加速器
12…前段ブースタ加速器
21…偏向電磁石(シンクロトロン)
22…収束/発散型四極電磁石(シンクロトロン)
23…六極電磁石
24…入射装置
25…加速空胴
25A…高周波電力増幅器
26…出射装置
26A…出射用高周波電源
27…出射偏向装置
31…偏向電磁石(ビーム輸送系)
32…収束/発散型四極電磁石(ビーム輸送系)
41…患者
42…患部
51…走査電磁石
52…ビームモニタ
53…散乱体
54…エネルギー幅形成器
55…コリメータ
56…ボーラス
61…タイミング信号生成器
62…運転パターンデータ生成器
63…運転パターンデータ制御器
64…高周波発振器
65…位相調整器
66…振幅調整器
67…信号合成器
100…粒子線治療システム
200…シンクロトロン
300…ビーム輸送系
400…治療室
500…照射装置
600…制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置とから構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致するように前記高周波加速電圧の周波数を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置とから構成される粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項7】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項8】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項9】
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致するように前記高周波加速電圧の周波数を設定することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のシンクロトロンの運転方法。
【請求項10】
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のシンクロトロンの運転方法。
【請求項1】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置とから構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射する制御手段を設けたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致するように前記高周波加速電圧の周波数を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置とから構成される粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成し荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項7】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項8】
加速空胴に印加した高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置から構成される粒子線治療システムおけるシンクロトロンの運転方法において、
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち、前記高周波加速電圧を少なくとも一度OFFしたのち再びONし、さらに前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成して荷電粒子ビームを出射することを特徴とするシンクロトロンの運転方法。
【請求項9】
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数の整数倍に実質的に一致し、一方、前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速した後に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧の基本波成分の周波数が、荷電粒子ビームが前記シンクロトロンを周回する周波数に実質的に一致するように前記高周波加速電圧の周波数を設定することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のシンクロトロンの運転方法。
【請求項10】
前記シンクロトロンで荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する際に前記加速空胴に印加する前記高周波加速電圧を基本波成分とその整数倍の周波数を有する高調波成分の合成波で形成することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のシンクロトロンの運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−238375(P2010−238375A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81816(P2009−81816)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]