説明

粒子線照射システム

【課題】
稼働率を向上できる粒子線照射システムを提供することにある。
【解決手段】
陽子線ライナック1から出射されたイオンビームは、スイッチング電磁石5によって
90度偏向され、ビーム輸送系9を経てRI製造装置10に導かれる。RI製造装置10内ではそのイオンビームによってRIが製造される。陽子線ライナック3からのイオンビームは、スイッチング電磁石5によって90度偏向され、ビーム輸送系6を経てシンクロトロン7に導かれる。シンクロトロン7から出射されたイオンビームは照射装置12から患者に照射される。陽子線ライナック3が異常状態になった場合には、その運転を停止して保守点検を行う。このとき、陽子線ライナック1から出射されたイオンビームは、スイッチング電磁石5によってRI製造装置10およびシンクロトロン7に交互に導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システムに係り、特に、Positron Emission Tomography(陽電子放射断層撮影。以下、PETという)装置による検査時に被検診者(被検体)に投与される放射性薬剤(PET薬剤という)に用いられるフッ素18等の放射性同位元素(RI)の製造、及びがん治療に用いるのに好適な粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんを治療する陽子線がん治療装置は、入射器である数MeV〜10MeVまでの加速能力を有する線形加速器(ライナック)及びシンクロトロンを含むイオンビーム加速系、またはサイクロトロンを含むイオンビーム加速系を用いることが知られている。PET用薬剤製造装置は、7MeV〜数10MeVまでの加速能力を持つサイクロトロン(または線形加速器)で陽子ビームを加速し、ターゲットに照射して陽電子を放出する放射性同位元素を生成する。
【0003】
従来は、がんの治療とその診断に利用分野が分かれていることもあり、陽子線がん治療装置を用いる施設及びPET用薬剤製造装置を用いる施設はそれぞれ単独で建設された。近年、PET装置及び陽子線がん治療装置のそれぞれの普及に伴い、治療効果を精度良く診断し、更に治療効果を上げるための治療計画が求められている。陽子線がん治療装置とPET装置を併設しようとする傾向が出てきた。PET装置の設置には、PET薬剤に用いるRI(例えば、フッ素18)の半減期が非常に短いため、PET用薬剤製造装置、すなわちRI製造装置を併設する必要がある。
【0004】
陽子線がん治療装置及びRI製造装置の併設の例が、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1及び2は、線形加速器及びシンクロトロンを有する治療システムに、線形加速器から出射されたイオンビームをRI製造装置に導いてRIを製造することを記載している。すなわち、特許文献1及び2に記載された治療システムは、線形加速器、RI製造装置及びシンクロトロンを備えている。この治療システムは、線形加速器の下流にビーム経路切替装置である切替電磁石を備え、この切替電磁石により線形加速器から出射されたイオンビームをシンクロトロンまたはRI製造装置に導く。患者にイオンビームを照射するときは、線形加速器から出射されたイオンビームは、切替電磁石によりシンクロトロンに導かれ、シンクロトロンで所定のエネルギーになるまで加速され、患者に照射される。RIを製造する場合には、線形加速器から出射されたイオンビームは、切替電磁石によりRI製造装置に導かれ、RI製造装置内でターゲットに照射される。
【0005】
特許文献1に記載された粒子線照射システムは、線形加速器から出射されたイオンビームを、切替電磁石の切替え操作によってシンクロトロンまたはRI製造装置に導く構成を有する。
【0006】
【特許文献1】特開2001−85200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのような従来の粒子線照射システムは、線形加速器にトラブルが発生した場合、線形加速器の点検,補修を行う必要がある。このため、イオンビームを用いた患者の治療ができなくなる。また、RI製造もできなくなり、PET薬剤を用いた診断もストップしてしまう。
【0008】
本発明の目的は、稼働率を向上できる粒子線照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビームを出射する一方の第1加速器と、荷電粒子ビームを出射する他方の第1加速器と、放射線同位元素製造装置と、第2加速器と、一方の第1加速器から出射された荷電粒子ビームを放射線同位元素製造装置および第2加速器のうちの一方に導き、他方の第1加速器から出射された荷電粒子ビームを放射線同位元素製造装置および第2加速器のうちの他方に導くビーム経路切替え装置と、第2加速器から出射された荷電粒子ビームが導かれる照射装置とを備えたことにある。
【0010】
一方の第1加速器から出射された荷電粒子ビームを、ビーム経路切替え装置の切替えにより、放射線同位元素製造装置および第2加速器のうちの一方に導き、他方の第1加速器から出射された荷電粒子ビームを、ビーム経路切替え装置の切替えにより放射線同位元素製造装置および第2加速器のうちの他方に導くことができ、一方の第1加速器および他方の第1加速器の1つが異常状態になったとき、残りの正常な第1加速器から放射線同位元素製造装置および第2加速器に交互に荷電粒子ビームを導くことができる。異常状態の第1加速器に対する保守点検は、残りの第1加速器の運転時に実施することができ、粒子線照射システムの運転停止期間を短縮できる。すなわち、粒子線照射システムの稼働率を向上できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異常状態の第1加速器に対する保守点検を、残りの第1加速器の運転時に実施することができ、粒子線照射システムの稼働率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の好適な一実施例である粒子線照射システムの一種である陽子線照射システムを、図1〜図3を用いて以下に説明する。本実施例の陽子線照射システム20は、線形加速器である陽子線ライナック(線形加速器)1,3,スイッチング電磁石5,放射性同位体製造装置(以下、RI製造装置という)10,シンクロトロン7および照射装置12を備える。陽子線ライナック1,3は5〜10MeV程度の陽子ビームを生成する。前段加速器である陽子線ライナック1はビーム輸送系2に連絡される。陽子線ライナック3はビーム輸送系4に連絡される。ビーム輸送系9はRI製造装置10に連絡される。ビーム輸送系6はシンクロトロン7に連絡される。主加速器であるシンクロトロン7は、ビーム輸送系21によって照射装置12に連絡される。ステアリング電磁石8がビーム輸送系6に設置される。ステアリング電磁石11がビーム輸送系9に設置される。ビーム輸送系2は、図2に示すように、ビーム輸送系6,9に連絡される。ビーム輸送系4もビーム輸送系6,9に連絡される。
【0013】
スイッチング電磁石5は、円盤状の複数の積層された鉄心14A,14B、およびリターンヨーク15を備える。リターンヨーク15は、上下に向き合って配置された鉄心14Aと鉄心14Bとに挟まれている。鉄心14A,14Bには、図2に示すように、ビーム輸送系2とビーム輸送系9との間の領域に磁場13A(紙面に対し上向き)、ビーム輸送系2とビーム輸送系6との間の領域に磁場13B(紙面に対し下向き)、ビーム輸送系4とビーム輸送系9との間の領域に磁場13D(紙面に対し下向き)、ビーム輸送系4とビーム輸送系6との間の領域に磁場13C(紙面に対し上向き)の各磁場が形成されるように、コイル(図示せず)がそれぞれの領域において設けられている。
【0014】
ビーム輸送系2,4,6,9の各真空ダクト16は、磁極14Aと磁極14Bの間に配置される。ビーム輸送系2の真空ダクト16とビーム輸送系4の真空ダクト16は、直線状になるように、それぞれの端部が向き合って配置される。ビーム輸送系6の真空ダクト16とビーム輸送系9の真空ダクト16は、ビーム輸送系2の真空ダクト16と直交する方向で直線状になるように、それぞれの端部が向き合って配置される。
【0015】
リターンヨーク15には、ビーム輸送系2の真空ダクト16からビーム輸送系6,9の各真空ダクト16にイオンビームを導けるように、更に、ビーム輸送系4の真空ダクト
16からビーム輸送系6,9の各真空ダクト16にイオンビームを導けるように、切欠きが設けられている。この切欠きは、イオンビームの通過領域(通路)となる。
【0016】
鉄心14A,14Bに設けられた、各領域のコイルは、電源22に接続される。陽子線照射システム20は、電源22に制御信号を出力する制御装置23を有する。この制御信号は、各コイルに流れる電流の向きを切替える信号である。
【0017】
陽子線照射システム20の作用について説明する。スイッチング電磁石5の各コイルには、制御装置23の制御信号に基づいて、図2に示す磁場13A,13B,13C,13Dが形成されるように、電源22より電流が供給されている。このため、陽子線ライナック1から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を通り、スイッチング電磁石5の作用によりビーム輸送系9の方向に90度偏向され、ビーム輸送系9によってRI製造装置
10に導かれる。RI製造装置10内において、イオンビームが標的物質に照射され、
RI(例えば、フッ素18)が製造される。陽子線ライナック3から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系4を通り、スイッチング電磁石5の作用によりビーム輸送系6の方向に90度偏向され、ビーム輸送系6によってシンクロトロン7に導かれる。このイオンビームは、シンクロトロン7によって設定されたエネルギーになるまで更に加速される。設定エネルギーに到達したイオンビームは、シンクロトロン7からビーム輸送系21に出射され、照射装置12に導かれる。照射装置12から患者(図示せず)の患部に照射される。
【0018】
陽子線ライナック3が異常状態になった場合(例えば、トラブルが発生した場合)には、陽子線ライナック3の運転を停止してそのライナックの保守点検を行う。これにより、陽子線ライナック3からシンクロトロン7へのイオンビームの入射が停止される。このため、陽子線ライナック3からのイオンビームを用いた患者の治療ができなくなる。制御装置23は、陽子線ライナック3の異常を示す信号を入力し、この信号に基づいて電源22を調節し、スイッチング電磁石5の、ビーム輸送系2とビーム輸送系9との間の領域に位置するコイル、及びスイッチング電磁石5の、ビーム輸送系2とビーム輸送系6との間の領域に位置するコイルのそれぞれに供給する電流の向きを、前述した向きとは反対方向に変える。これによって、ビーム輸送系2とビーム輸送系9との間の領域に紙面に対して下向きの磁場13A、及びビーム輸送系2とビーム輸送系6との間の領域に紙面に対して上向きの磁場13Bが形成される。陽子線ライナック1から出射されたイオンビームは、それらの磁場が形成されたスイッチング電磁石5により、ビーム輸送系2からビーム輸送系6に導かれ、シンクロトロン7に入射される。シンクロトロン7で加速されたイオンビームは、照射装置12より患者に照射される。
【0019】
制御装置23によって電源22を制御し、スイッチング電磁石5に形成される磁場13A,13Bの極性を切替えることにより、陽子線ライナック1から出射されたイオンビームを、RI製造装置10に導き、RI製造装置10内の標的物質に照射する。このとき、磁場13Aは紙面に対し上向きとなっており、磁場13Bは紙面に対して下向きとなっている。陽子線ライナック1からRI製造装置10へのイオンビームの供給は、患者への照射のために、陽子線ライナック1からシンクロトロン7にイオンビームを入射する期間を除いて行われる。陽子線ライナック1からシンクロトロン7にイオンビームを入射している期間には、スイッチング電磁石5の切替えによってそのイオンビームはRI製造装置10に導かれない。
【0020】
スイッチング電磁石5は、上記したように陽子線ライナック1,3からのイオンビームをシンクロトロン7またはRI製造装置10に導くビーム経路切替え装置である。
【0021】
陽子線ライナック1単独でシンクロトロン7およびRI製造装置10にイオンビームを上記のように供給している間に、異常になった陽子線ライナック3の保守点検を行い、陽子線ライナック3のトラブル要因を排除し陽子線ライナック3の運転を再開することができる。このように、本実施例は、異常状態になった陽子線ライナックの保守点検を他の陽子線ライナックを運転している間に行うことができ、陽子線照射システム20の運転停止期間を短縮できる。すなわち、陽子線照射システム20の稼働率を向上できる。特に、陽子線ライナック1と陽子線ライナック3を別々の遮へい室に設置することによって、一方の陽子線ライナックの保守点検を他方の陽子線ライナックの運転中でも安全に、すなわち運転中の陽子線ライナックからの作業員の放射線被曝を避けながら行うことができる。
【0022】
コンパクトなスイッチング電磁石5で上記したように陽子線ライナック1,3からのイオンビームをシンクロトロン7またはRI製造装置10に導くことができるため、陽子線照射システム20の構成をコンパクトにすることができる。
【0023】
陽子線ライナック1,3を同じ型式の陽子線ライナックとすることにより、駆動用電源,真空排気システム,制御装置などの部品を共通化することができる。このため、予備品および消耗品の共用化が可能となる。
【0024】
保守点検が完了して以上状態が解消された陽子線ライナック3の運転が再開された後は、前述したような陽子線ライナック1から出射されたイオンビームをスイッチング電磁石5によりRI製造装置10に導き、陽子線ライナック3から出射されたイオンビームをスイッチング電磁石5によりシンクロトロン7に導く陽子線照射システム20の運転が行われる。
【0025】
本発明の他の実施例である陽子線照射システムを、図4を用いて説明する。本実施例の陽子線照射システム20Aは、前述のスイッチング電磁石5を図4に示す一対のスイッチング電磁石5A,5Bに替えたものである。本実施例の陽子線照射システム20Aの他の構成は、陽子線照射システム20と同じである。陽子線ライナック1から出射されたイオンビームは、スイッチング電磁石5Aによってビーム輸送系2からビーム輸送系9(またはビーム輸送系6)に導かれる。陽子線ライナック3から出射されたイオンビームは、スイッチング電磁石5Bによってビーム輸送系4からビーム輸送系6(またはビーム輸送系9)に導かれる。ビーム輸送系9に達したイオンビームはRI製造装置10に導かれ、ビーム輸送系6に達したイオンビームはシンクロトロン7に入射される。
【0026】
スイッチング電磁石5A,5Bは、それぞれ一対の偏向電磁石によって構成される。スイッチング電磁石5A,5Bの一対の偏向電磁石のうちの一方の偏向電磁石のコイルに流れる電流の向きを他方の偏向電磁石のコイルに流れる電流の向きと反対にし、両偏向電磁石によって発生する磁場の向きを逆にすることによって、1つの偏向電磁石の方にイオンビームを偏向させることができる(例えば、ビーム輸送系2からビーム輸送系9に、ビーム輸送系4からビーム輸送系6に)。スイッチング電磁石5A,5Bのそれぞれの一対の偏向電磁石には電源22から励磁用の電流が供給される。この電流の向きを逆方向に変更することによって、各スイッチング電磁石5A,5Bは、イオンビームを反対側のビーム輸送系に導くことができる(例えば、ビーム輸送系2からビーム輸送系6に、ビーム輸送系4からビーム輸送系9に)。制御装置23は、電源22を調節することによってスイッチング電磁石5A,5Bをそれぞれ切替えて、イオンビームを導くビーム輸送系を変更することができる。スイッチング電磁石5A,5Bは、スイッチング電磁石5と同様に、ビーム経路切替え装置を構成する。
【0027】
前述の各実施例は、陽子線を用いたが炭素イオン等の重粒子線を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好適な一実施例である陽子線照射システムの構成図である。
【図2】図1に示すスイッチング電磁石における磁場の発生状態、およびスイッチング電磁石によるイオンビームの偏向状態を示す説明図である。
【図3】スイッチング電磁石の縦断面図である。
【図4】本発明の他の実施例である陽子線照射システムのスイッチング電磁石付近の構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1,3…陽子線ライナック、2,4,6,9,21…ビーム輸送系、5,5A,5B…スイッチング電磁石、7…シンクロトロン、10…RI製造装置、12…照射装置、15…リターンヨーク、16…真空ダクト、20,20A…陽子線照射システム、22…電源、23…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する一方の第1加速器と、荷電粒子ビームを出射する他方の第1加速器と、放射線同位元素製造装置と、第2加速器と、前記一方の第1加速器から出射された前記荷電粒子ビームを前記放射線同位元素製造装置および前記第2加速器のうちの一方に導き、前記他方の第1加速器から出射された前記荷電粒子ビームを前記放射線同位元素製造装置および前記第2加速器のうちの他方に導くビーム経路切替え装置と、前記第2加速器から出射された前記荷電粒子ビームが導かれる照射装置とを備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
切替え電磁石である前記切替え電磁石の極性を切替えることによって前記荷電粒子ビームを前記放射線同位元素製造装置および前記第2加速器のうちの一方から他方に向かって偏向させる制御装置を備えた請求項1記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
前記一方の第1加速器および前記他方の第1加速器の一方が異常状態であるとき、残りの前記第1加速器から出射される前記荷電粒子ビームを、前記放射線同位元素製造装置および前記第2加速器に交互に切替えるように前記極性を切替える前記制御装置を備えた請求項3の粒子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−98056(P2006−98056A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280803(P2004−280803)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】