説明

粒状原料肉

【課題】 原料畜肉由来の繊維を含有しつつ、独特の肉粒感を発現するソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの食肉加工品を量産するための粒状原料肉を提供する。
【解決手段】 原料畜肉の肉塊をスライスして得た板状肉塊を裁断して、塊状肉片を取得する。 次いで、この塊状肉片を機械的に粉砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、粒状に加工された原料肉およびそれを用いた食肉加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の我が国の食品市場には、食肉を素材とした様々な食肉加工品が流通しており、その一方で、それらの食味と食感を改善するための数々の研究も続けられている。 これらの内でも、特に、「あらびき」タイプに属する非単一肉塊食肉製品(以下、単に「食肉加工品」と称する)、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどは、その独特の肉粒感と食味が消費者の嗜好とも好適に迎合して、今や家庭の食卓に欠かせない食品となっている。
【0003】
ところが、スーパーマーケットなどの大規模小売店や惣菜小売店などで販売されている食肉加工品の多くは、原料肉が本質的に保持している食肉繊維(以下、単に「繊維」と称する)を喪失しているのみならず、原料肉を裁断して得た肉片が奏する肉粒感をも欠いているのが実情である。 この現象は、食肉加工品の大量生産のために利用されている原料肉のミンチ処理に原因があることが知られている。 つまり、原料肉をミンチ処理して挽肉にする際に、原料肉に含まれている繊維の大半が物理的に破壊されてしまい、それにより、それら繊維が関与する肉粒感の発現も著しく損なわれてしまうのである。
【0004】
原料肉のミンチ処理に代えて、包丁を用いて原料肉を裁断することで、ミンチ処理に伴う前述した不都合を解消することは可能ではある。 しかしながら、このような手作業に依存する手法は、あくまでも料理店や家庭での少人数向けの料理の調理においてのみ利用できる手法であって、食肉加工品の量産システムに決して馴染むものではない。
【0005】
この点を改善すべく、これまでに、長短の繊維を豊富に含有した食肉加工品を取得すべく、収縮率が異なるように裁断された少なくとも二つ以上の形状の肉塊を、加熱処理前に、それら各肉塊の形状を保ったままでミキシング処理し、次いで、成形して得た食肉加工品が発明されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2001−238642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの食肉加工品の一般的な製造工程では、その量産効率の観点から、原料肉のミンチ処理が依然として必須的に利用されていることもあって、原料肉に含まれる繊維を食肉加工品に残存せしめるための現実的な手立てが存在していないのが実情である。 すなわち、原料肉由来の繊維を含有しつつ、独特の肉粒感を発現する食肉加工品の量産に適した製造方法の実現が待望されているのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上掲した従来技術で認識されていた技術課題に鑑みて、本願発明者らが、食肉加工品の製造工程について鋭意研究を行ったところ、従前のミンチ処理に代えて、原料肉を加工するための一組の処理工程を導入する技術思想に行き着いたのである。
【0008】
すなわち、本願発明の要旨とするところは、原料畜肉が本質的に保有する繊維を含む粒状原料肉、特に、原料畜肉の肉塊をスライスして板状肉塊を取得し、当該板状肉塊を裁断して塊状肉片を取得し、および、当該塊状肉片を粉砕する、との工程を含む製造方法によって得られた粒状原料肉にある。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によると、所期の目的であった、原料畜肉が本質的に保有する繊維を含む粒状原料肉と、この粒状原料肉を用いて製造され、かつ原料肉由来の繊維を含有しつつ、独特の肉粒感を発現するソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの食肉加工品が実現されるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本願発明を、その製造工程に沿って詳細に説明する。
【0011】
まず、本願明細書で使用する「原料肉」の語は、食用に供することができる肉類を指すものであり、例えば、豚肉、牛肉、鶏肉、馬肉、羊肉、山羊肉、家きん肉、家兎肉およびこれらの混合肉が利用できるが、保水性や結着性などの加工特性を呈する肉質面を考慮すれば豚肉、牛肉またはこれらの混合肉が好適に利用できる。 また、本願発明で用いる原料肉の取得部位としては、ウデ、バラ、ロース、カタ、モモなどがあるが、これらに限定されない。 特に、原料肉としては、骨、皮、脂肪、筋などを切り落として、除去したものが好ましい。 また、本願発明の一連の処理工程において原料肉を円滑に加工する観点から、原料肉の加工に先駆けて、原料肉塊を予め約−1℃〜約−3℃に冷凍しておくことが望ましい。 なお、凍結状態の原料肉を解凍する場合は、通常は、空気解凍するか、あるいは10℃未満の冷水(流水)を用いて解凍することが好ましい。
【0012】
原料畜肉の肉塊を、当該技術分野で周知の食肉用スライサー、例えば、冷凍用スライサーなどでスライスして板状肉塊を得る。 スライスして得られる板状肉塊は、約3mm〜約10mm、好ましくは、約5mm〜約7mmの厚みになるようにスライスする。 これはすなわち、約3mmにも満たない薄層の肉塊は、次工程での裁断処理に供しても理想的な大きさの塊状肉片を得ることができず、逆に、約10mmを超える肉厚の肉塊は、次工程での裁断処理に供すると、過大な塊状肉片が生成してしまうばかりか、得られる肉片の大きさも不均一になってしまうことによる。
【0013】
次に、スライスして得られた板状肉塊を、当該技術分野で周知の食肉用裁断機などで裁断して塊状肉片を得る。 塊状肉片は、その一辺の大きさが、最大で、約3mm〜約10mm、好ましくは、約5mm〜約7mmになるように裁断する。 これはすなわち、その一辺が、約3mmにも満たない大きさの肉片は、次工程での粉砕処理に供しても所望の大きさの粒状原料肉を得ることができず、逆に、その一辺が、約10mmを超える大きさの肉片は、次工程での粉砕処理に供すると、粒状原料肉の大きさが不均一になってしまうことによる。
【0014】
そして、裁断して得られた塊状肉片を、当該技術分野で周知の食肉用粉砕機などで粉砕して粒状原料肉を得る。 好ましくは、約1,300rpm〜約1,800rpmで回転している粉砕機の切刃に塊状肉片を送給して、そこで約20秒〜約30秒間かけて粉砕する。 これはすなわち、粉砕時間が約20秒にも満たないと、所望の食感が付与できなくなることによる。 逆に、粉砕時間が約30秒を超えてしまうと、粒状原料肉に残存する繊維量が極端に少なくなって、独特の肉粒感を発揮できないこととなる。 このように適切な粉砕を行うことで、粒状原料肉の平均粒径(直径)を、前述したように、最大で、約3mm〜約10mm、好ましくは、約5mm〜約7mmの範囲に収めることができ、これにより、ほぼ均一な粒度を有する原料肉を得ることができる。
【0015】
なお、本願明細書で使用する「粒状原料肉」とは、原料畜肉の肉塊を、前述したスライス、裁断および粉砕の工程を経て、粒度が細かに加工された原料肉を指すものであって、その形状を粒状にのみに限定することを意図するものではなく、例えば、鱗片状、平板状、破片状などのその他の加工形状をも包含する。 しかしながら、本願発明の製造工程に従えば、加工された原料肉の大半の形状は、通常は、自ずと粒状に集約される。
【0016】
ところで、本願発明の粒状原料肉に対して適用可能な調味剤としては、食肉加工品において一般的に用いられている調味剤であればいずれでも利用可能であり、例えば、食塩、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸系調味料、イノシン酸ナトリウムなどの核酸系調味料、糖類(砂糖、乳糖、ブドウ糖)、香辛料、甘味料、着色料、アスコルビン酸塩などの酸化防止剤、重合リン酸塩などの結着補強剤、ソルビン酸(塩)などの保存料、大豆たん白、卵たん白、乳たん白、血液たん白、カゼイン、澱粉などの結着材料、カゼインナトリウムなどの乳化安定剤、それに、乳酸菌(スターター)などを利用することができるが、これらに限定されない。
【0017】
本願発明の粒状原料肉は、最終製品の商品形態に応じて、ケーシングなどに充填してから加熱処理に供する。 あるいは、粒状原料肉を裸出したままで加熱処理に付すこともできる。 ケーシングに充填する場合のケーシング内部の形状は、粒状原料肉を収容でき、かつ粒状原料肉全体に加熱効果を及ぼしめる構造のものであればよく、例えば、円柱状、直方体状、立方体状、球状など、いずれの形状でも利用可能である。 なお、この加熱処理は、粒状原料肉を加熱調理するための工程にほかならず、具体的には、当該技術分野で周知の加熱調理装置、例えば、全自動式燻煙装置、ボイル槽などを用いて、粒状原料肉を、例えば、約30分間、約63℃またはこれと同等以上の条件下で加熱調理を行う。
【0018】
加熱調理を終えた粒状原料肉は、速やかに冷却される。 冷却方法としては、水冷や空冷を含めた各種冷却方法が利用できる。 また、冷却庫や冷却装置などを用いて、原料肉を強制的に冷却することもできる。 なお、この加熱条件は、原料肉の肉種、由来部位、商品形態などによって変化するものであるが、当業者であれば適宜任意に調整することができる。
【0019】
本明細書で使用する「食肉加工品」の語は、畜肉を原料肉として調製したソーセージ、ハンバーグ、ミートボールを含むものである。 この内、ソーセージとしては、ボロニアソーセージ、フランクフルトソーセージ、ウインナーソーセージ、リオナソーセージ、無塩せきソーセージ、セミドライソーセージ、ドライソーセージ、レバーソーセージ、レバーペースト、混合ソーセージ、生ソーセージなどがあるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0020】
本願発明を、その好適な実施例に基づいて、以下に具体的に説明するが、本願発明は、これら実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきでない。 なお、実施例において、特に断りの無い限り、1重量部は1kgとして計量を行った。
【0021】
実施例
豚肉(3kg)の肉塊を、食肉用スライサーで、厚さ5mmの板状肉塊に切断した。
【0022】
得られた板状肉塊を、食肉用裁断機で、5mm×10mm角の塊状肉片に裁断した。
【0023】
次いで、1,800rpmで回転している切刃を装備した食肉用粉砕機に塊状肉片を送給して、そこで25秒間かけて塊状肉片を粉砕して、粒状原料豚肉を得た。
【0024】
一方で、牛肉(4kg)の肉塊を、食肉用スライサーで、厚さ5mmの板状肉塊に切断した。
【0025】
得られた板状肉塊を、食肉用裁断機で、5mm×10mm角の塊状肉片に裁断した。
【0026】
次いで、1,800rpmで回転している切刃を装備した食肉用粉砕機に塊状肉片を送給して、そこで25秒間かけて塊状肉片を粉砕して、粒状原料牛肉を得た。
【0027】
粒状原料豚肉と粒状原料牛肉とを混合して、粒状原料肉を得た。
【0028】
この粒状原料肉の組織を撮影した顕微鏡写真(図1)から明らかなように、本実施例の粒状原料肉には、繊維質構造が残存していることが確認された。
【0029】
この粒状原料肉に、水を加えた後に、各種添加物(食塩、香辛料、砂糖など)を添加してからホモミキサーで混合した。 こうして調味された原料肉を、ハンバーグに適した大きさに成型して、このものを、焼成用オーブンに通して加熱処理を行った。 そして、加熱処理を終えたハンバーグは、即座に冷却処理した。
【0030】
比較例
豚肉(3kg)と牛肉(4kg)とを合一して得た肉塊を、食肉用グラインダーに適用して、5mm目でミンチ処理を行って、比較例の原料肉を得た。
【0031】
ミンチ処理して得た原料肉の組織構造を撮影した顕微鏡写真(図2)は、ミンチ処理によって原料肉の繊維質構造が完全に崩壊していることを明確に示している。
【0032】
得られた原料肉に、水を加えた後に、各種添加物(食塩、香辛料、砂糖など)を添加してからホモミキサーで混合した。 こうして調味された原料肉を、ハンバーグに適した大きさに成型して、このものを、焼成用オーブンに通して加熱処理を行った。 そして、加熱処理を終えたハンバーグは、即座に冷却処理した。
【0033】
官能評価
こうして製造されたハンバーグを、熟練のパネラー(15名)に試食してもらい、ハンバーグの食感・食味に関する各評価項目ついて、5段階で評価してもらった。 そして、評点値の平均値を求めた(この評価方法では、優秀な評価ほど平均値が高くなる)。 その結果を、以下の表1に示した。
【0034】
【表1】

上記表1に示した結果から明らかなように、本願実施例のハンバーグは、いずれの評価項目においても、比較例のハンバーグよりも良好な数値を得ている。 このことは、本願実施例のハンバーグが美味であり、しかも、原料肉に含まれている繊維が良好な食感の発現に有機的に関与していることを指し示すものに他ならない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明によれば、原料肉由来の繊維を含有しつつ、独特の肉粒感を発現する食肉加工品が実現されるので、消費者の嗜好を満足しえる品質を兼ね備えたソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの食肉加工品を量産する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本願発明の粒状原料肉の組織構造を示す顕微鏡写真(倍率1,000倍)である。
【図2】比較例の原料肉の組織構造を示す顕微鏡写真(倍率1,000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料畜肉が本質的に保有する繊維を含む、ことを特徴とする粒状原料肉。
【請求項2】
その平均粒径が、3mm〜10mmである請求項1に記載の粒状原料肉。
【請求項3】
前記原料畜肉が、豚肉、牛肉またはこれらの混合肉である請求項1または2に記載の粒状原料肉。
【請求項4】
粒状原料肉の製造方法であって、以下の工程、すなわち;
(1) 原料畜肉の肉塊をスライスして板状肉塊を取得し、
(2) 当該板状肉塊を裁断して塊状肉片を取得し、および、
(3) 当該塊状肉片を粉砕する、
工程を含む、ことを特徴とする粒状原料肉の製造方法。
【請求項5】
前記粒状原料肉の平均粒径が、3mm〜10mmである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料畜肉が、豚肉、牛肉またはこれらの混合肉である請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の方法によって製造された粒状原料肉を含む食品。
【請求項8】
ソーセージ、ハンバーグまたはミートボールのいずれかである請求項7に記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−306868(P2007−306868A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140414(P2006−140414)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】