説明

粗HClガスから一酸化炭素を除去する方法、およびそれによって得られる精製HClガスを用いたHCl酸化方法

【課題】
少なくとも一酸化炭素を含有する、窒素を含む又は含まない粗HClガスから、一酸化炭素含有ガスを除去する、効果的かつより単純な方法、およびこの方法を組み合わせたHCl酸化方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも以下の工程:
a)圧縮段階において粗HClガスを高圧に圧縮すること;
b)圧縮粗HClガスを冷却して、塩化水素を液化し、一酸化炭素含有ガスを残すこと;
c)この一酸化炭素含有ガスを、液化塩化水素から除去すること;
d)液体塩化水素を蒸発させ、場合により過熱し、HCl酸化プロセスのための精製HClガスとしてそれを提供すること
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
イソシアネートの製造または芳香族化合物の塩素化等の、塩素またはホスゲンを反応させる多数の化学プロセスは、避けることのできない塩化水素の発生をもたらす。この塩化水素は概して、電気分解によって塩素に転化する。この非常にエネルギー集約的な方法と比較して、不均一触媒によって純酸素または酸素性ガスで塩化水素を直接酸化すること(いわゆるディーコン(Deacon)法)は、エネルギー消費に関して著しい利点を提供し、それは下記の式に従う。
【数1】

【0002】
ホスゲン化等の、イソシアネートを製造する処理工程において、比較的多量の一酸化炭素(CO)が、HClオフガス中に不純物として存在し得る。通常、例えばホスゲン化反応に由来する塩化水素ガスは、一酸化炭素を含有する。例えば、欧州特許出願公開第0233773号は、そのようなガスが一酸化炭素を10体積%まで含有し得ることを開示している。広く知られた液相ホスゲン化において、0.1〜3体積%の範囲の含有量のCOが、ホスゲン抽出洗浄塔のHClオフガス中に存在する。将来に可能性を有する気相ホスゲン化(独国特許出願公開第4217019号A1、独国特許出願公開第10307141号A1)においては、好ましくはホスゲンの凝縮を行わず、関連する一酸化炭素の除去をホスゲン化の前に行うので、より多量のCO(3%〜5%より多い)もまた、予想される。
【0003】
酸素による常套的な触媒HCl酸化において、例えばルテニウム、クロム、銅系の、広範な種々の触媒が利用される。そのような触媒は、例えば、独国特許出願公開第1567788号A1、欧州特許出願公開第251731号A2、欧州特許出願公開第936184号A2、欧州特許出願公開第761593号A1、欧州特許出願公開第711599号A1、および独国特許出願公開第10250131号A1に記載されている。しかし、これらは、存在する二次成分(一酸化炭素または有機化合物等)に対する酸化触媒として、同時に機能することがある。しかし、一酸化炭素の二酸化炭素への触媒酸化は、著しく発熱的であり、不均一触媒表面において、失活が起こり得るような制御不可能な局所的温度上昇(ホットスポット)を引き起こす。実際に、250℃の入口温度(ディーコン法の操作温度:200〜450℃)において、酸素含有不活性ガス(例えばN)中の5%の一酸化炭素が酸化すると、断熱的転化において200Kよりも遙かに大きい温度上昇が引き起こされるであろう。触媒が失活する理由の一つは、ホットスポットが形成されることにより、例えば焼結過程によって触媒表面の微細構造が変化することである。
【0004】
更に、触媒表面における一酸化炭素の吸着を無視することができない。金属カルボニルの形成は、可逆的または不可逆的であり得、従って、HClの酸化と直接競合する。実際に、一酸化炭素は、高温においてでさえ、いくつかの元素と非常に安定に結合し得、従って、目的とする所望の反応の抑制を引き起こす。これらの金属カルボニルの揮発性によって更なる不都合が生じることがあり、その結果として、少なからぬ量の触媒が失われ、更に、用途によって複雑な精製工程が必要となる。
【0005】
ディーコン法の場合においても、触媒の損傷および安定性の制限の両方によって、触媒の失活が起こり得る。塩化水素と一酸化炭素との間の競合もまた、所望のHCl酸化反応の抑制をもたらし得る。
【0006】
酸素による塩化水素の酸化は発熱的であり、従って、冷却しないと反応の間に温度が上昇する。このことは、例えば触媒で支持された酸化反応の場合、熱応力の結果として触媒の損傷を引き起こすことがある。しかし、温度上昇は、使用する反応器材料にも損傷を与えることがある。これを防止するために、反応室を冷却することが可能であり、または供給する塩化水素の量を調節することによって温度上昇を制限することが可能である。
【0007】
両方の場合において、一酸化炭素の二酸化炭素への酸化等の、並行して起こる発熱反応は、必要とされる冷却能力を増加させるので、または酸化すべき塩化水素の量を減らさなければならないので、望ましくない。ルテニウム系触媒を用いる場合において、一酸化炭素がルテニウムと共に揮発性カルボニル化合物を形成し、従って触媒的に活性な成分が排出されることもまた、予測しなければならない。
【0008】
従って、ディーコン法の最適な操作のために、HClガス中の一酸化炭素含有量が最小であることが、用いる触媒の長寿命を確保するために必要とされる。
【0009】
塩化水素の酸化において並行して起こる一酸化炭素の酸化の問題は、欧州特許出願公開第0233773号A1および特開昭62−270404号Aにおいて既に論じられてきた。これらは、前記問題を解決するために、パラジウム含有触媒を用いて塩化水素ガス中に存在する一酸化炭素を酸素と反応させて、二酸化炭素を生成する予備反応を提案している。しかし、この解決方法は、比較的高価な酸化触媒を供給しなければならず、かつ特別な予備反応器を使用しなければならないという不都合な点を有する。
【0010】
特開2003−171103号A明細書は、塩化水素含有量が高いと、パラジウム触媒が、HClガス中の一酸化炭素を酸化するのに十分な高い活性を有しないことを記載している。前記明細書において記載された代替物は、ルテニウム系触媒である。しかし、この触媒は、パラジウム触媒とちょうど同じように、比較的高コストであるという不都合な点を有する。
【発明の概要】
【0011】
本発明の種々の態様は、粗塩化水素ガスストリームを精製する、効果的かつより簡単な方法を提供する。
【0012】
本発明は、熱的触媒条件の下で酸素によって塩化水素を酸化する方法、および反応ガスの、酸化触媒と接触する前の精製(前記精製は本発明の目的のために必要である)に基づく。
【0013】
本発明は、少なくとも一酸化炭素を含有し、また、窒素を有する又は有しない粗HClガスであって、HCl酸化プロセスに用いることのできる粗HClガスから、一酸化炭素含有ガス、特に、一酸化炭素含有窒素ガスを除去する方法を含み、前記方法には以下のものが含まれる:
a)圧縮段階において粗HClガスを高圧に圧縮すること;
b)圧縮した粗HClガスを冷却して、塩化水素を液化し、一酸化炭素含有ガスを残すこと;
c)この一酸化炭素含有ガスを、液化塩化水素から除去すること;
d)液体塩化水素を蒸発させ、場合により過熱し、HCl酸化プロセスのために精製HClガスとしてそれを提供すること。
【0014】
本発明の一の態様には、(a)塩化水素および一酸化炭素を含有する粗HClガスを供給すること;(b)前記粗HClガスを圧縮して圧縮粗HClガスを形成すること;(c)圧縮粗HClガスを冷却して、液化塩化水素、および一酸化炭素含有ガスを形成すること;(d)前記液化塩化水素と前記一酸化炭素含有ガスとを分離すること;ならびに(e)前記液化塩化水素を蒸発させて精製HClガスを形成することを含む方法が含まれる。
【0015】
本発明のもう一つの態様には、(a)塩化水素および一酸化炭素を含有する粗HClガスを供給すること;(b)前記粗HClガスを圧縮して圧縮粗HClガスを形成すること;(c)前記圧縮粗HClガスを冷却して、液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを形成すること;(d)前記液化塩化水素と前記一酸化炭素含有ガスとを分離すること;(e)前記液化塩化水素を蒸発させて精製HClガスを形成すること;ならびに(f)前記精製HClガスをHCl酸化プロセスに供給することを含む方法が含まれる。
【0016】
本発明の更にもう一つの態様には、(a)塩化水素および一酸化炭素を含有する粗HClガスを供給すること;(b)前記粗HClガスを圧縮して圧縮粗HClガスを形成すること;(c)前記圧縮粗HClガスを冷却して、液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを形成すること;(d)前記液化塩化水素と前記一酸化炭素含有ガスとを分離すること;(e)前記液化塩化水素を蒸発させて精製HClガスを形成すること;および(f)前記精製HClガスを酸素で触媒酸化して塩素を形成することを含む方法が含まれる。
【0017】
従来技術から公知の方法と対照的に、本発明の方法における一酸化炭素は、酸化反応によって塩化水素ガスから除去されない。その代わり、ディーコン法に送る前に、粗HClガスから一酸化炭素を除去する。このため、ガスをまず圧縮し、そして冷却する。これによってHClが液化されるが、一酸化炭素は気体のままである。気体状の一酸化炭素を除去すると、精製された液体HClが残る。その後、前記精製された液体HClを蒸発させ、ディーコン法に導入する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の方法の有利な操作を示す。
【図2】図2は、粗HClガス精製を有しない操作モードを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において用いる場合、単数を表す用語「a」および「the」は同義であり、記載および/または文脈がそうでないことを明示している場合を除いて、「1またはそれより多く」および「少なくとも一つ」と互いに置き換えて用いることができる。従って、例えば、本明細書または添付の特許請求の範囲における「粗HClガス」との記載は、単一のガス(またはガスストリーム)またはそれより多くのガス(またはガスストリーム)を意味し得る。従って、全ての数値は、他に特に明記している場合を除き、「約」の語で修飾されていると理解される。
【0020】
本発明の方法の種々の好ましい態様において、粗HClガスの液化は、精製された液体塩化水素を蒸発することによって行い、それは、復熱装置として操作される熱交換器の両側に、両方のストリームを送ることによって行う。精製された液体HClを減圧し、その後、復熱装置の一方の側において、復熱装置の反対側における粗HClガスの凝縮温度よりも低い温度で蒸発させる。
【0021】
工程b)における冷却を2またはそれより多くの段階で、好ましくは2、3または4段階で、より好ましくは3段階で行う、本発明の新規の方法の態様が好ましい。
【0022】
本発明の新規の方法の種々の好ましい態様は、液体HClを蒸発させ、その後過熱するために工程d)で必要とされる熱を、工程b)における圧縮粗HClガスの冷却および少なくとも部分的な液化において得られる熱によって供給することを特徴とする。
【0023】
より好ましくは、工程b)において得ることのできる熱エネルギーを、工程b)における冷却の第1および/または第2段階から取り出す。圧縮a)は、特に、30bar(30000hPa)までの、好ましくは20bar(20000hPa)までの、より好ましくは15bar(15000hPa)までの圧力で行う。
【0024】
工程b)における冷却は、特に、−80℃およびそれより高い温度、好ましくは−70℃およびそれより高い温度、より好ましくは−60℃およびそれより高い温度に低下させて行う。
【0025】
工程d)における蒸発は、特に、−10℃およびそれより高い温度、好ましくは−20℃およびそれより高い温度、より好ましくは−45℃およびそれより高い温度で行う。
【0026】
本発明の新規の方法の種々の好ましい態様において、工程a)における粗HClガスストリームは、窒素および/または他の不活性ガス(例えば、希ガスおよび/またはプロセス条件下で凝縮することのできない他のガス)を含み、工程c)において、一酸化炭素を含有するこのガスを除去することによって、液化された塩化水素からこれらのガスを除去する。
【0027】
本発明の新規の方法の種々の好ましい態様は、工程b)における冷却を2またはそれより多くの段階で行い、塩化水素を液化する前に、凝縮可能な有機二次成分(特に、オルト−ジクロロベンゼンまたはモノクロロベンゼン)を凝縮または凍結させて粗HClガスストリームから除去することを特徴とする。
【0028】
工程b)における熱移動は、復熱装置において行うことが好ましい。
【0029】
本発明の新規の方法の種々の特に好ましい態様は、工程b)における熱交換を第1復熱装置において行い、当該第1復熱装置において精製HClガスを同時に過熱し、前記第1復熱装置の下流に第2復熱装置を設け、当該第2復熱装置において精製HClガスを蒸発させると同時に粗HClガスを液化し、前記第2復熱装置の後に後凝縮器を設け、当該後凝縮器において、粗HClガスを液化した後に残る残存ガスから、凝縮によって更にHClを除くことを特徴とする。
【0030】
本発明には、塩化水素および一酸化炭素を含有する粗ガスから塩素を製造する方法であって、一酸化炭素含有ガス、特に一酸化炭素含有窒素ガスを、本発明のいずれかの分離工程によって、窒素を含む又は含まない、少なくとも一酸化炭素を含有する粗HClガスから除去すること、ならびに
塩化水素を含み、工程a)から生じるガス中の塩化水素を、酸素で触媒酸化して塩素を生成することを含む方法もまた、含まれる。
【0031】
工程B)における酸化を、純酸素、酸素に富む空気、または空気を用いて行うことが好ましい。
【0032】
塩化水素および一酸化炭素を含有し、除去A)の工程a)に入る粗HClガス中の塩化水素含有量は、好ましくは20〜99.5体積%の範囲である。
【0033】
塩化水素および一酸化炭素を含有し、除去A)の工程a)に入る粗HClガス中の一酸化炭素含有量は、好ましくは0.5〜15体積%、特に好ましくは0.1〜15体積%の範囲である。
【0034】
本発明の方法の種々の好ましい態様において、除去A)における一酸化炭素含有量は、1体積%またはそれ未満、好ましくは0.5体積%未満、更により好ましくは0.1体積%未満に減少する。
【0035】
工程B)において、場合により担持された少なくとも1種類の触媒を用いる塩素の製造方法であって、前記触媒が(例えば、酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、または他のルテニウム化合物の形態の)ルテニウム、金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅、カリウム、レニウム、クロムから成る群から少なくとも一つの成分を含む、塩素の製造方法が更に好ましい。
【0036】
好ましい形態において、工程B)における触媒の担体は、二酸化スズ、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、アルミニウム−ケイ素混合酸化物、ゼオライト、酸化物および混合酸化物(例えばチタン、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、ケイ素等)、金属硫化物、クレイ(clay)等、好ましくは二酸化スズから成る群から選択される。
【0037】
本発明の新規の方法を、ディーコン法として知られている触媒気相酸化方法と組み合わせることが好ましい。この方法において、塩化水素は、発熱的平衡反応において酸素と反応して塩素を生成し、前記反応は水蒸気を与える。反応温度は通常150〜500℃であり、通常の反応圧力は1〜25barである。前記反応は平衡反応であるので、触媒が未だ十分な活性を有する最も低い温度で操作することが適切である。更に、酸素は、塩化水素に対して化学量論量を超える量で用いることが適切である。例えば、2〜4倍の酸素過剰が一般的である。選択率が減損する危険性がないので、常圧と比べて比較的高い圧力で、また、それに従ってより長い滞留時間で操作することが経済的に好都合であり得る。
【0038】
ディーコン法に適した好ましい触媒には、担体としての二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化スズ、または二酸化ジルコニウム上の、酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、塩化酸化ルテニウム、または他のルテニウム化合物が含まれる。適切な触媒は、例えば塩化ルテニウムを担体に適用し、その後乾燥させる又は乾燥および焼結することによって得ることができる。適切な触媒には、ルテニウム化合物に加えて又はルテニウム化合物の代わりに、他の貴金属(例えば金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅、またはレニウム)の化合物が含まれ得る。適切な触媒には、酸化クロム(III)も更に含まれ得る。
【0039】
触媒塩化水素酸化は、断熱的または等温的もしくは実質上等温的に、しかし好ましくは断熱的に、回分式で又は連続的に、しかし好ましくは連続的に、移動床または固定床として、好ましくは固定床プロセスとして、管束型反応器またはバルク材料床(bulk material bed)において、より好ましくはバルク材料床において、不均一触媒で180〜500℃、好ましくは200〜400℃、より好ましくは220〜350℃の反応器温度にて、そして1〜25bar(1000〜25000hPa)、好ましくは1.2〜20bar、より好ましくは1.5〜17bar、特に2.0〜15barの圧力で行うことが可能である。
【0040】
触媒塩化水素酸化を行う通常の反応装置は、固定床または流動床反応器である。触媒塩化水素酸化は、好ましくは複数の段階で行うことも可能である。
【0041】
シングルパスでの塩化水素の転化率は、15〜90%、好ましくは40〜90%、より好ましくは50〜90%に制限し得ることが好ましい。除去の後に、未転化の塩化水素は、部分的に又は全部を、触媒塩化水素酸化にリサイクルしてよい。反応器入口における、酸素に対する塩化水素の体積比は、1:2〜20:1、好ましくは1:2〜8:1、より好ましくは1:2〜5:1であることが好ましい。
【0042】
断熱状態または実質上断熱状態において、中間冷却を有する、複数の、特に2〜10個の、好ましくは4〜8個の、より好ましくは5〜7個の、直列に接続した反応器を用いることも可能である。等温状態または実質上等温状態において、追加の中間冷却を有する、複数の、即ち2〜10個の、好ましくは2〜6個の、より好ましくは2〜5個の、特に2〜3個の、直列に接続した反応器を用いることも可能である。塩化水素は、第1反応器の上流に、酸素と一緒に完全に加えることが可能であり、または異なる反応器に分配することが可能である。個々の反応器のこの直列接続を、一つの装置内に組み合わせることもできる。
【0043】
ディーコン法に適した装置の別の好ましい態様は、触媒活性が流れの方向に増加する構造化触媒床(structured catalyst bed)を用いることにある。触媒床のそのような構造化は、活性材料による触媒担体の異なる含浸によって、または不活性材料による触媒の異なる希釈によって行ってよい。用いられる不活性材料は、例えば、二酸化チタン、二酸化スズ、二酸化ジルコニウム、またはそれらの混合物、酸化アルミニウム、ステアタイト、セラミックス、ガラス、グラファイト、ステンレス鋼、またはニッケル系合金のリング、シリンダー、または球体であってよい。触媒成形体を好ましく用いる場合において、不活性材料は好ましくは類似の外側寸法を有するべきである。
【0044】
ディーコン法に適した好ましい触媒には、酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、または他のルテニウム化合物が含まれる。適切な担体材料は、例えば二酸化ケイ素、グラファイト、ルチルもしくはアナターゼ構造を有する二酸化チタン、二酸化スズ、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、またはそれらの混合物であり、好ましくは二酸化チタン、二酸化スズ、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、またはそれらの混合物であり、より好ましくは二酸化スズ、γ−もしくはδ−酸化アルミニウム、またはそれらの混合物である。
【0045】
適切な触媒は、例えば、塩化ルテニウム(III)を担体に適用し、その後、乾燥させる又は乾燥および焼結することによって得てよい。触媒は、担体材料の含浸の後または好ましくは前に成形してよい。適切な触媒には、ルテニウム化合物に加えて、他の貴金属(例えば金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅、クロム、またはレニウム)の化合物も含まれてよい。
【0046】
触媒をドープするための適切な促進剤は、以下に示す金属またはその金属の金属化合物である:アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウム等、好ましくはリチウム、ナトリウム、およびカリウム、より好ましくはカリウム)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウム等、好ましくはマグネシウムおよびカルシウム、より好ましくはマグネシウム)、希土類金属(スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、およびネオジム等、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン、およびセリウム、より好ましくはランタンおよびセリウム)、またはこれらの混合物。
【0047】
適切な触媒成形体は、任意の所望の形状を有する成形体であり、好ましくはタブレット、リング、シリンダー、星形、車輪型、または球体であり、形状として特に好ましくはリング、シリンダー、または星形の押出し成形品である。その後、例えば窒素、アルゴン、または空気雰囲気下で、100〜400℃、好ましくは100〜300℃の温度で、成形体を乾燥させ、場合により焼結することができる。成形体は、好ましくは、まず100〜150℃で乾燥させ、その後、200〜400℃で焼結する。
【0048】
触媒塩化水素酸化の反応熱を、高圧水蒸気を発生させるために好都合に利用することが可能である。前記反応熱を、ホスゲン化反応器および/または蒸留塔、特にイソシアネート蒸留塔の操作に用いることが可能である。
【0049】
ディーコン法の別の工程において、酸化の後に得られる生成物ガスを1またはそれより多くの段階で冷却し、未転化の塩化水素および反応水を生成物ガスから除去する。未転化の塩化水素および反応水は、塩化水素の酸化の生成物ガスストリームから出る塩酸水溶液を冷却により凝縮することによって、除去してよい。塩化水素は、希塩酸または水に吸収させてもよい。これは、1またはそれより多くの段階で行ってよい。塩化水素を生成物ガスから実質的に定量的に除去するために、最終段階に水を加えて水と生成物ガスとの向流を達成することが特に好都合である。場合により、未転化の塩化水素を、触媒塩化水素酸化にリサイクルしてよい。この後に、本質的に塩素および酸素を未だ含有する生成物ガスの乾燥、生成物ガスからの塩素の除去、ならびにその後に残る未転化の酸素の塩化水素酸化へのリサイクルが続く。
【0050】
以下の限定的でない実施例を参照して、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
この実施例において、本発明の方法の有利な操作を、図1を用いて説明する。
【0052】
100kg/hの粗HClガスストリーム1は1.5体積%のCOを含む。従って、そのHCl含有量はおよそ99重量%である。圧縮器30において、ストリーム1を9barの圧力に圧縮する。
【0053】
その後、圧縮粗ガスストリーム2を、熱交換器31において−10℃に予冷するが、これはまだ液化を引き起こさない。冷却したストリーム3を、復熱装置32に送り、−38℃で部分的に液化する。液化されない画分4は、COの主画分および液化されないHClガスを含む。ストリーム4を後冷却器33に送り、そこで−60℃に冷却し、その結果、COは気体状態のままであり、HClガスの残余と共にストリーム6として粗ガスストリーム4から除去する。
【0054】
粗HClガスストリームが、前記条件下で凝縮しない別の成分を含む場合、それらをも除去する。そのような成分の典型的例の一つは窒素である。
【0055】
精製された液化HClストリーム(復熱装置32からのストリーム5および後冷却器33からのストリーム7)中には、今やCOの少量の残余のみが溶解している。ストリーム5および7を6barの圧力に減圧する。減圧の結果として、液体ストリームのごく一部が蒸発し、その間に、それらの温度が、冷却されたストリーム3の凝縮温度より低くなる。その後、減圧したストリームを復熱装置32の反対側に導入し、更に蒸発させる。この目的のために必要とされる熱流を、ストリーム3の部分的液化によって供給する。
【0056】
その後、精製され、更に蒸発させたHClストリーム8は、熱交換器31の反対側を通り抜け、前記熱交換器31が前記HClストリーム8を完全に蒸発させ、過熱する。同時に、前記熱交換器31は、圧縮粗ガスストリーム2を予冷する。過熱した精製HClガスストリーム9は、今や本質的にHClを含有し(98kg/h)、一方、前記精製HClガスストリーム9のCO含有量は、上述の精製操作によって、微量にまで減少している。前記精製HClガスストリーム9を、95kg/hの酸素含有戻りストリーム23と組み合わせて、反応物ストリーム10とする。その後、前記反応物ストリーム10を熱交換器34で290℃に加熱する。
【0057】
加熱した反応物ストリーム11を反応領域35に送り、そこで、中間冷却を有する、断熱的に操作される5個の反応器のカスケードにおいて、供給されるHClの85%を、不均一Ru触媒によってClおよびHOに転化する。同時に、少量の残余中に未だ存在するCOを、酸素と反応させてCOを生成する。反応平衡がCO生成物側であるので、COの転化は実質的に定量的である。中間冷却は、カスケードの各々の反応器に対して入口温度を290℃に保持する。触媒材料を適切に選択することによって、各々の反応器からの出口温度を最高で370℃に制限する。供給されるHClガスストリーム9を調節することによって、最高出口温度を調節する。370℃の最大出口温度を超えると、HClガスの流速9を減少し、温度が最大出口温度より低いと、前記流速を増加する。
【0058】
未転化のHClと得られる水の大部分とを、分離工程36において、塩酸13として生成物ガス12から除去する。その後、塩酸ストリーム13をストリーム6と接触させ、それによって、ストリーム6中に存在するHClガスの残余を塩酸ストリーム13に吸収させて、HCl損失を最小限にすることが可能であろう(図示せず)。別法として、水による分離吸収もまた、ストリーム6に対して考えられる(同様に図示せず)。
【0059】
次の段階37において、残存するガスストリーム14を硫酸と接触させ、それによって乾燥させる。
【0060】
塩素圧縮器38において、乾燥ガスストリーム15を12barに圧縮する。
【0061】
下流の蒸留塔39において、乾燥圧縮ガスストリーム16から、Oおよび反応領域において生成したCO等の成分を除く(ストリーム17)。この塔の底部において得られる塩素を、液体の形態でストリーム18として取り除く。除去した成分を、塔頂にて気体状態で取り出す。塩素において必要とされる純度に応じて、蒸留の代わりに単に凝縮を行うこともまた、有効であり得る(図示せず)。これは装置に関してより単純であるが、液体塩素においてOおよびCOのより高い含有量をもたらす。
【0062】
蒸留塔39の下流において、3kg/hのサブストリーム19をストリーム17から排出する。このサブストリームは、およそ13重量%の塩素を未だ含み、従って、オフガス処理40を行って塩素を除去しなければならない。
【0063】
排出の後に残存するガス20をプロセスにリサイクルするので、反応領域35において触媒を失活させ得る成分を、まず除くべきである。このために、ガス洗浄41を設け、そこから精製ガスストリーム21が出る。残存ガス20が、触媒を失活させるいずれの成分をも含まない場合、ガス洗浄41を通り越すことも可能である(破線で示す)。
【0064】
ガス洗浄41の下流において、精製ガスストリーム21に、プロセスにおいて消費された酸素の代わりとして21kg/hの新たな酸素22を混合する。その後、混合したストリームを、上述のように、戻りストリーム23としてHClガスストリーム9と組み合わせる。
【0065】
[実施例2(比較例)]
比較例において、図2を参照して、粗HClガス精製を有しない操作モードを記載し、この方法の経済的に不都合な点を実証する。
【0066】
圧縮器30において、1.5体積%のCOを含む粗HClガスストリーム1を6barの圧力に圧縮する。
【0067】
その後、圧縮した粗ガスストリーム2を、95kg/hの酸素含有戻りストリーム23と共に加熱して反応物ストリーム10とし、熱交換器34において290℃に加熱する。
【0068】
加熱した生成物ストリーム11を、実施例1において既に説明した反応領域と同じ反応領域35に送る:中間冷却を有する5個の断熱反応器のカスケードにおいて、HClの一部を、不均一Ru触媒によりClおよびHOに転化する。同時に、HClガス中に存在するCOが酸素と反応してCOを生成する反応が起こる。中間冷却は、カスケードの各々の反応器に対して、入口温度を290℃に保持する。HClガスストリーム2を調節することによって、最高出口温度を370℃に保持する。同時に起こるCO酸化の反応平衡がCO生成物側であるので、COの転化は実質上定量的である。CO酸化の反応エンタルピーが著しく大きいので、反応器において370℃の所望の最大出口温度を維持するために、HClガスストリーム2を減少させなければならない。結果として、前記HClガスストリーム2は80kg/hに減少し、これは実施例1で記載した値の80%に相当する。これが、本方法のHCl酸化能力を相応に著しく減少させ、そのことが重大な経済的不都合をもたらす。
【0069】
未転化のHClおよび得られた水の大部分を、分離工程36において、塩酸13として生成物ガス12から除去する。
【0070】
次の段階37において、残存するガスストリーム14を硫酸と接触させ、それによって乾燥させる。
【0071】
塩素圧縮器38において、乾燥ガスストリーム15を12barに圧縮する。
【0072】
下流の蒸留塔39において、乾燥圧縮ガスストリーム16から、Oおよび反応領域において生成したCO等の成分を除く(ストリーム17)。この塔の底部において得られた塩素18を、液体状態で取り除く。除去された成分を、塔頂にて気体状態で取り出す。塩素において必要とされる純度によって、ここで、蒸留の代わりに、単に凝縮を行うこともまた、有効であり得る(図示せず)。これは、装置に関してより単純であるが、液体塩素において高い含有量のOおよびCOをもたらす。
【0073】
蒸留塔39の下流において、3kg/hのサブストリーム19をストリーム17から排出する。このサブストリームは未だ塩素を含み、従って、オフガス処理40を行って塩素を除去しなければならない。
【0074】
排出の後に残存するガス20をプロセスにリサイクルするので、反応領域35において触媒を失活させ得る成分を、まず除くべきである。このために、ガス洗浄41を設け、そこから精製ガスストリーム21が出る。残存ガス20が、触媒を失活させるいずれの成分をも含まない場合、ガス洗浄41を通り越すことも可能である(破線で示す)。
【0075】
ガス洗浄41の下流において、精製ガスストリーム21に、プロセスにおいて消費された酸素の代わりとして17kg/hの新たな酸素22を混合する。その後、混合したストリームを、上述のように、戻りストリーム23としてHClガスストリーム2と組み合わせる。
【0076】
当業者は、本明細書の広範な発明概念から逸脱することなく、上述の態様を変更し得ることを理解するであろう。従って、本発明は開示された特定の態様に限定されるものでなく、添付の特許請求の範囲によって規定された本発明の精神および範囲内における変更に及ぶことを意図していることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化水素および一酸化炭素を含有する粗HClガスを準備すること;
(b)粗HClガスを圧縮して圧縮粗HClガスを形成すること;
(c)圧縮粗HClガスを冷却して、液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを形成すること;
(d)液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを分離すること;
(e)液化塩化水素を蒸発させて精製HClガスを形成すること;ならびに
(f)精製HClガスをHCl酸化プロセスに供給すること
を含む、方法。
【請求項2】
液化塩化水素の蒸発が、液化塩化水素の過熱を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧縮粗HClガスの冷却を2またはそれより多くの段階で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
液化塩化水素を蒸発させるのに必要なエネルギーの少なくとも一部が、圧縮粗HClガスの冷却からの熱を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
粗HClガスの圧縮を、30barまでの圧力で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
圧縮粗HClガスの冷却を、−80℃に等しい又はそれより高い温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
圧縮粗HClガスの冷却を、−80℃に等しい又はそれより高い温度で行う、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
液化塩化水素の蒸発を、−10℃に等しい又はそれより高い温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
液化塩化水素の蒸発を、−10℃に等しい又はそれより高い温度で行う、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
粗HClガスが、窒素、希ガス、およびそれらの混合物から成る群から選択される不活性ガスを更に含み、圧縮粗HClガスの冷却の後で、不活性ガスが、一酸化炭素含有ガス中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
圧縮粗HClガスの冷却が、液化塩化水素が形成される前に、オルト−ジクロロベンゼン、モノクロロベンゼン、またはそれらの混合物を含む凝縮可能な有機化合物の除去を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記圧縮粗HClガスの冷却からの熱の、前記液化塩化水素の蒸発への移動が、復熱装置を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
液化塩化水素の蒸発が、液化塩化水素の過熱を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
圧縮粗HClガスの冷却からの熱を、第1復熱装置で少なくとも部分的に移動させ、第1復熱装置において精製HClガスを過熱し、また、下流において第2復熱装置で更に移動させ、第2復熱装置において精製HClガスの蒸発と共に粗HClガスを液化する、請求項13に記載の方法であって、後凝縮器を更に含み、後凝縮器において一酸化炭素含有ガスを処理して、凝縮によって残存HClを除去する、方法。
【請求項15】
(a)塩化水素および一酸化炭素を含有する粗HClガスを供給すること;
(b)粗HClガスを圧縮して圧縮粗HClガスを形成すること;
(c)圧縮粗HClガスを冷却して、液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを形成すること;
(d)液化塩化水素と一酸化炭素含有ガスとを分離すること;
(e)液化塩化水素を蒸発させて精製HClガスを形成すること;ならびに
(f)精製HClガスを酸素で触媒酸化して塩素を形成すること
を含む、方法。
【請求項16】
塩化水素が、粗HClガス中に20〜99.5体積%の量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
一酸化炭素が、粗HClガス中に0.1〜15体積%の量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
一酸化炭素が、精製HClガス中に1体積%に等しい又はそれより少ない量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
一酸化炭素が、精製HClガス中に0.1体積%より少ない量で存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
精製HClガスの触媒酸化を、場合により担持された触媒の存在下で行う方法であって、触媒が、ルテニウム、金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅、カリウム、レニウム、およびクロムから成る群から選択される1またはそれより多くを含有する触媒的に活性な材料を含み、オプションとしての担体材料が、二酸化スズ、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、アルミニウム−ケイ素混合酸化物、ゼオライト、混合酸化物、金属硫酸塩、およびクレイから成る群から選択される1またはそれより多くを含む、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−117123(P2010−117123A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−237245(P2009−237245)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】