粘性制震壁
【課題】超高層建物等の制震構造化に用いられる粘性制震壁の減衰性能の安定化および強力化を図り、装置のコストパフォ−マンスを高め、より高性能の制震構造建物の実現に寄与する。
【解決手段】建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)31の両端部に孔34を設け、その外側に粘性流体5が充填される水平連通管路35を設ける。併せて、垂下壁(内壁鋼板)と立ち上がり壁(外壁鋼板)を利用した摩擦ダンパー機能を付加することにより、粘性抵抗機構の安定化、抵抗力のアップ、温度による抵抗力変動比率の低減を図る。
【解決手段】建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)31の両端部に孔34を設け、その外側に粘性流体5が充填される水平連通管路35を設ける。併せて、垂下壁(内壁鋼板)と立ち上がり壁(外壁鋼板)を利用した摩擦ダンパー機能を付加することにより、粘性抵抗機構の安定化、抵抗力のアップ、温度による抵抗力変動比率の低減を図る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動エネルギー吸収能力を高めて減衰性能の高い構造物とすることによって、構造物の耐震安全性を向上させると共に、風や交通振動、その他の動的外力によって発生する構造物の振動を効果的に抑制できる制震・制振構造物および免震構造物を実現する減衰装置の内、特に「粘性制震壁」に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物や工作物・塔状構造物など各種の構造物の耐震安全性を高め、また風その他の動的外力による構造物の振動を抑制して居住性能を改善するために、構造物にエネルギー吸収装置(以下、「減衰装置」と表現する場合もある)を取付け、構造物の減衰性能を高める方法が開発・実用化されている。これまでに実用化されている建築構造物用の代表的な減衰装置としては、鋼材や鉛の塑性変形を利用する金属履歴ダンパー、高減衰ゴムや粘弾性材料を利用する粘弾性ダンパー、オイルダンパーや壁形状箱の内部に粘性流体を封入した粘性減衰壁「粘性制震壁」などの粘性ダンパーなどがある。
【0003】
構造物の応答抑制という観点からは、速度に比例した抵抗力を発揮する粘性ダンパーが最も優れている。粘性ダンパーの内、シリンダー形状のオイルダンパーは、温度依存性が小さいという利点を有するが、作動時には高い内部圧力を発生するため内部流体の漏れの危険性があり、長期間に渡るシーリング(漏れ防止)性能に不安がある。
【0004】
粘性ダンパーの内、壁形状の粘性制震壁は、極めて単純な機構で構成されており、オイルダンパーのような高い内部圧力が発生しないのでメンテナンスフリーで長期耐久性に優れ、作動信頼性が高く、構造物に高い粘性減衰性能を付与できるので、阪神大震災以降、高層建物を中心にして採用事例が増加している。また粘性制震壁は、免震構造の減衰装置としても利用されている。
【0005】
粘性制震壁は特許第1577568号(特許文献1参照)で発明され、開発実用化された後、以下に示す部分的な改良(特許文献2〜5参照)等がなされて今日に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−1947号公報
【特許文献2】特開平11−071935号公報
【特許文献3】特開2000−220318号公報
【特許文献4】特開2001−132265号公報
【特許文献5】特開2007−009452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既知の従来技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0008】
粘性制震壁の第一課題は、粘性減衰壁の力学特性の安定化に関するものである。粘性制震壁は、粘性流体のせん断抵抗を基本原理にしており、外壁鋼板で構成されている粘性流体の貯留槽内を内壁鋼板が水平移動する。この時、内壁鋼板の前面は粘性流体を押しのけるため粘性流体が貯留部上部に盛り上がり抵抗力が上昇する。一方、内壁鋼板の後面では内壁鋼板の移動により生じた隙間を粘性流体が埋めようとするが、粘度が高いために粘性流体の流動が追いつかず、大きな窪みが生じ、その後内壁鋼板が戻って来る時に粘性流体が不足して有効面積が減少しているために抵抗力が低下したり、時には空気泡を巻き込み、これを内壁鋼板が押しつぶして大きな破裂音が生じる場合がある等、特に大振幅の振動が繰り返される場合の抵抗力の安定に改善すべき問題がある。
【0009】
第二課題は、同じく力学特性の課題であるが、粘性抵抗力の大きさは粘性流体の粘度に依存する。如何なる粘性流体であれその粘度は温度によって異なるため、粘性制震壁の発生抵抗力は温度の影響を受けざるを得ない。これを温度依存性と言うが、粘性制震壁は粘性流体の温度が高いと流体の粘度が低下して抵抗力が下がり、逆に温度の低い冬季には粘度が高くなり抵抗力が大きくなるという性質を有している。即ち、粘性制震壁の抵抗力を環境条件に対して安定化させるには、「温度依存性の解消」もしくは「温度変化に伴う抵抗力変動の緩和」、特に「高温時における抵抗力の低下を防止する方法」の実現が望まれる。
【0010】
第三の課題は、「経済性」である。粘性制震壁の長所の一つは、抵抗力の大きさを鋼板間の隙間、粘性流体の粘度および抵抗板壁板の面積によってかなり自由に調整できることにある。しかし、隙間と粘性流体の粘度の調整はかなり精密且つ微妙なものとなるため、性能調整を最も行い易いのは壁板の面積である。即ち、大きな抵抗力を得るためには大面積が必要であり、そのためには大きな壁体を製作するか、壁板を2重3重と多重構成にすれば良いが、いずれにしても装置費が高くならざるを得ない。この優れた減衰装置を広く普及させるためには、大抵抗力の粘性減衰壁を低コストで供給できることが求められる。
【0011】
第四の課題は、第一課題と第三課題の複合によって生じる課題である。即ち、第三課題の経済性を解決する方策として、粘性制震壁の鋼板間の隙間を狭くすると抵抗力を上昇させることができるが、隙間を狭くするとその部分の粘性流体の量が僅かになるため、内壁鋼板の移動に伴ってその前後に押し出されたり、引き込まれたりする粘性流体の影響を受ける範囲(面積)が大きくなり、性能変動を受ける影響がより大きくなるという性能の安定化の問題が顕著になる。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、構造物用の優れた減衰装置である粘性制震壁の性能を更に改善し、且つ低コストの装置に改良して経済的観点からも採用を容易にし、減衰性能の高い、耐震安全性能の高い建築構造物の普及に貢献できる粘性制震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部の妻面近傍に孔をあけ、前記外壁面の外側に前記孔を連結する水平連通管路を設けて、その内部にも粘性流体を充填していることを特徴とする粘性制震壁。
【0014】
〈構成2〉
構成1に記載の粘性制震壁において、前記外壁面外側の水平連通管路が上下方向に2段以上に渡って設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
【0015】
〈構成3〉
構成1又は2に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の最上端の外側に水平連通管路の粘性流体液溜まり部を設け、その上部に内側垂下壁の直近まで覆う上面蓋を配置し、前記上面蓋と前記内側垂下壁との隙間をゴムパッキン等の弾性体を密着させてシールしていることを特徴とする粘性制震壁。
【0016】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記水平連通管路の上面に内部の粘性流体を確認できる点検孔を設けていることを特徴とする粘性制震壁。
【0017】
〈構成5〉
構成1乃至4のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記垂下壁の端部妻面の鉛直形状を、前記立ち上がり壁両端部の孔部分で最も内側にし、前記孔の中間高さ位置で最も外側になるように傾斜させていること、もしくは前記垂下壁の端部において前記外壁の孔位置の高さ付近を凹形状に切り込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【0018】
〈構成6〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁もしくは連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ)よりも大きな幅を有する粘性流体の鉛直形状の液溜まり部を有していることを特徴とする粘性制震壁。
【0019】
〈構成7〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記外壁面の両端部付近に鉛直方向に複数の孔を設け、その両外側にL型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0020】
〈構成8〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり箱状壁体の端部妻面鋼板に鉛直方向に複数の孔もしくはスリットを設け、前記端部妻面鋼板の外側にC型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0021】
〈構成9〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の両端部に角形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0022】
〈構成10〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の両端部に円形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0023】
〈構成11〉
構成6乃至10のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の外側両側面に水平方向の水平連通管路を取り付け、その両端部を前記立ち上がり外壁面の両端部に配置した前記鉛直形状の液だまり部と連結していることを特徴とする粘性制震壁。
【0024】
〈構成12〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記立ち上がり壁板の一部を前記垂下壁に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記壁板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【0025】
〈構成13〉
構成12に記載の粘性制震壁において、接触部における前記立ち上がり壁、もしくは垂下壁の一部に摩擦沓動部材を組み込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【0026】
〈構成14〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記垂下壁の上部付近に水平板を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が前記立ち上がり壁に固定された水平板を設け、接触している両水平板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記水平板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【0027】
〈構成15〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記立ち上がり壁の上端部の外側に、相対面し接触する2枚以上の摩擦板を配置し、その平面内部もしくは外側近傍に高力ボルトを配置して軸力を導入しており、前記摩擦板の一方を上階の梁もしくは梁に一体化された接合部材に固定し、他方の摩擦板を前記粘性制震壁の立ち上がり壁の上部付近に固定した摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【0028】
〈構成16〉
構成15に記載の粘性制震壁において、前記摩擦ダンパーの構成を、前記粘性制震壁の立ち上がり壁側に固定された回転中心軸とその中心軸回りに回転できる回転摩擦板を有し、前記回転摩擦板の一端を上階梁側に連結し、他方を前記粘性制震壁に固定された摩擦平板と接触させ、両者の摩擦面近傍に高力ボルトを配置して両摩擦板を締め付けており、前記回転中心軸と前記上階梁側の連結点までの距離L1と前記回転中心軸と前記摩擦面の中心までの距離L2を任意に設定可能としている摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【0029】
〈構成17〉
構成1乃至16のいずれかに記載の粘性制震壁において、上階から垂下する壁を2枚以上、下階からの立ち上がり壁を3枚以上としていることを特徴とする粘性制震壁。
【発明の効果】
【0030】
本発明において、粘性制震壁の内壁鋼板の移動に伴う粘性流体の流動が安定化され、特に大振幅の振動時においても安定した粘性減衰抵抗とエネルギー吸収性能を提供できるようになった。
【0031】
また本発明は、粘性制震壁の内壁鋼板の移動に伴い、粘性制震壁の端部において内壁の移動する前面側では粘性流体が盛り上がり、後ろ側では粘性流体の窪みが生じる現象を大きく緩和するものである。
【0032】
例えば、従来の粘性制震壁では、内壁鋼板と外壁鋼板の隙間が2mm、粘性流体内の内壁鋼板の厚さが16mm、高さが2mの粘性制震壁の場合、地震時に内壁鋼板が5cm移動すると、内壁鋼板が押しのけようとする粘性流体は、1.6cmx200cmx5cm=1600ccとなる。従来の粘性制震壁の端部液溜まり部の外壁鋼板間の内側距離は16+2x2=20mmであるから、粘性制震壁両端部の液溜まり部の長さが10cm(内壁鋼板移動後の残り長さ=5cm)とすると、内壁鋼板の前面において粘性流体は1600/(2x5)=160cm分も盛り上がったり、後面では液面低下が生じることになり、粘性流体の溢れ出し、有効面積の低下、空気の巻き込み等が発生する。
【0033】
これに対して本発明の構成6乃至構成11では、粘性制震壁の両端部に幅15cmx長さ15cmの鉛直方向液だまり部を設けると、粘性流体の液面高さの変動は1600/(13.4x5+15x10)=7.4cmと従来型の1/20以下に抑制されることにな。この程度の液面変動高さは、粘性制震壁上端部に設けている液だまり部で充分吸収可能であり、溢れ出しや液面低下による有効面積の減少を防止することができる。従って、空気の巻き込み現象も回避することができる。
【0034】
更に本発明の構成1乃至構成5の方法では、内壁によって押し出される粘性流体が水平連通管路により内壁の後ろ側に回り込むことにより、液面上部の変動は殆ど生じない程度に液面が安定化されることになる。
【0035】
また、第3の解決策としての摩擦抵抗力との複合化により、温度変化に伴う性能変動の割合が低減され、装置の抵抗力自体もパワーアップされ、パワフルな装置に進化したので、従来装置に較べてコストパフォーマンスが飛躍的に増進する。
【0036】
近年、M8クラスの海洋性巨大地震による長周期地震動に対する超高層ビルの安全性が指摘されているが、本発明による粘性制震壁は、巨大地震の特徴である長い継続時間における多数回の繰り返し振動に対して安定した減衰性能を提供できるので、減衰装置並びに高減衰の制震構造物に対する信頼性と安全性が大きく高まったと言える。
【0037】
また粘性制震壁は、近年免震構造用の減衰装置としても利用されているが、免震構造では大きな振動振幅が必要となる。本発明の粘性制震壁は、大振幅の振動に対して安定した粘性減衰性能を提供できるので、免震構造にもこれまでにない優れた減衰装置としての効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明が対象とする粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、 (1)粘性制震壁の立面図、 (2)粘性制震壁の側面図である。
【図2】本発明の実施例1および実施例2を示す全体構成図で、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の妻面立面図である。
【図3】従来制震壁と本発明の構成1とを比較して示した図で、 (1)従来制震壁の水平断面の水平断面図、 (2)本発明の構成1の立ち上がり壁(外壁鋼板)に設ける孔および水平連通管路の水平断面図である。
【図4】本発明の実施例3および実施例4を示す構成図で、 (1)本発明の実施例3および実施例4の立面図、 (2)本発明の実施例3および実施例4の縦断面図、 (3)上段図:本発明の実施例3の部分拡大図、 (3)下段図:本発明の実施例4の部分拡大図である。
【図5】本発明の実施例5(構成5および構成12)を示す縦断面図で、 (1)本発明の実施例5(構成5)を示す部分拡大縦断面図、 (2)本発明の実施例5(構成5に構成12を組み合わせた場合)を示す部分拡大縦断面図である。
【図6】本発明の実施例6乃至実施例11の全体構成図を示し、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の妻面立面図である。
【図7】従来制震壁と本発明の実施例7(構成7)および実施例8(構成8)を示す図で、 (1)従来制震壁の水平断面図、 (2)本発明の実施例7(構成7)の水平断面図、 (3)本発明の実施例8(構成8)の水平断面図の水平断面図である。
【図8】本発明の実施例9(構成9)乃至実施例11(構成10)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例9(構成9)の水平断面図、 (2)本発明の実施例10(構成9)の水平断面図、 (3)本発明の実施例11(構成10)の水平断面図の水平断面図である。
【図9】本発明の実施例12(構成11)を示し、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の水平断面図の拡大図である。
【図10】本発明の実施例13(構成12および構成13)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例13(構成12および構成13)の立面図、 (2)本発明の実施例13(構成12および構成13)の縦断面図、 (3)上段図:本発明の実施例13(構成12)の上部断面の部分拡大図、 (3)中段図:本発明の実施例13(構成13)の上部断面の部分拡大図、 (3)下段図:本発明の実施例13の上部端部の部分拡大断面図である。
【図11】本発明の実施例14(構成14)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例14の立面図、 (2)本発明の実施例14の縦断面図である。
【図12】本発明の実施例15(構成15)の全体構成を示す立面図である。
【図13】本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの構成を示す構成図で、 (1)本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの部分立面図、 (2)本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの部分断面図である。
【図14】本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成を示す図で、 (1)本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成図、 (2)本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成図(L1<L2とした場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は本発明が対象とする粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、(1)は粘性制震壁の立面図、(2)は粘性制震壁の側面図である。
【0040】
粘性制震壁は、建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、図1に示すように、柱1、梁21、22で構成される建物骨組みの上下階の床スラブ20または梁21、22に直接もしくは接合部材23を介して取り付けられている。下階の床スラブ20または梁22もしくは取り付け部材23の上に壁板(外壁鋼板)31を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱(箱状壁体)を構成している。その中に上階の床スラブ20または梁21に固定された内壁鋼板(垂下壁板)4が垂下しており、立ち上がり壁板31と垂下壁板4の隙間に粘性流体5が充填されている。
【0041】
本発明は、この粘性制震壁を対象としたものであり、以下、本発明の実施の形態を実施例を示す図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0042】
図2および図3(2)は、構成1および構成2を示すもので、図2(1)が本発明の粘性制震壁の全体立面形状、図2(2)が縦断面図、図2(3)が妻面立面図、図3(2)が本発明の構成1の立ち上がり壁(外壁鋼板)に設けた孔34および水平連通管路35を示す水平断面図である。
【0043】
図2(1)に示すとおり、外側立ち上がり壁31の両端部の妻面の近傍に孔34をあけ、その両端の孔34を連結する水平連通管路35を設けて、その内部にも粘性流体5を充填している。その孔34のある高さの水平断面を、図3(2)に示している。
【0044】
従来の粘性制震壁の平断面は、図3(1)に示すように単に外壁鋼板31の箱の中に内壁鋼板4を挿入しただけの構成であったため、内壁鋼板4が移動すると、前面側で押された粘性流体52の逃げ場がないため上部の液溜まり部分に盛り上がり、反対側の後方では内壁鋼板がいなくなった分だけの隙間ができるため、粘性流体に大きな窪みが発生し、内壁鋼板4が帰って来る場合に粘性流体の有効面積部51が減少したり、空気泡を巻き込む等の異常現象が発生する。
【0045】
本発明では、図3(2)に示すとおり、外壁鋼板31の両端部に孔34を設け、その外側に水平連通管路35を配置した。従って、内壁鋼板4の移動によって押された粘性流体52は孔34を通って水平連通管路35内に入り、その内部の粘性流体54が後方の孔34を経て内壁鋼板4の後ろ側に回り込むことができるので、粘性流体の盛り上がりや窪みを生じることがなく、内壁鋼板側面の粘性流体51のせん断層流による一定の抵抗力を安定的に発揮することが可能となった。
【実施例2】
【0046】
孔34およびそれを繋ぐ水平連通管路35は、図2(1)に示すように、上下方向3段に設けられている。粘性制震壁の高さに応じて、水平連通管路35を2段以上に設け、粘性制震壁全高さに渡って粘性体の移動がスムースに行われるようにしたのが本発明の構成2である。
【実施例3】
【0047】
図4は構成3および構成4の実施例を示す構成図で、図4(1)が立面図、図4(2)が縦断面図、図4(3)の上段図が図4(2)の上側の丸で囲った部分の拡大図、図4(3)の下段図が図4(2)の下側の丸で囲った部分の拡大図である。
【0048】
粘性制震壁の最上部は、従来は上方が解放された液溜まりであったが、図4(3)の上段図に示すように、液溜まり部外壁鋼板33の上端に水平板による上面蓋330を取り付け、その先端と内壁鋼板の間にゴムパッキン61を噛ませてシールしている。これにより、最上部における液の盛り上がりがあった場合にも液の溢れ出しを防止し、且つ工事中における雨水の浸入防止機能も兼備している。
【実施例4】
【0049】
図4(3)の下段図は、水平連通管路35に粘性流体54が確実に充填されていることを確認するための点検孔62の設置図である。水平連通管路35の上面にネジを設け、ボルトにより漏洩防止機能を有する点検孔62を構成している。
【実施例5】
【0050】
図5(1)は、構成5の実施例である。構成1および構成2で設けた水平連通管路35に粘性流体が確実且つ容易に流入するために、内壁鋼板4の端部妻面の鉛直形状を、立ち上がり壁両端部に設けた孔34部分で最も内側(立面中央寄り)に、上下の孔34の中間高さ位置で最も外側(立面妻側寄り)になるように傾斜させている。これにより、内壁鋼板4が移動し粘性流体52を推した時に、粘性流体が孔34の方向に自然に推し集められる形状としている。
【0051】
図5(2)は、立ち上がり壁両端部にも設けた孔34に粘性流体が流入しやすいように、内壁鋼板の孔34の高さ位置に凹形状の切り込み44を設け、内壁鋼板4が移動した場合にも孔34部を内壁鋼板4で塞がないようにした場合である。
尚、同図の36は、外壁鋼板の面外方向への開きを拘束するためのボルトとスペーサー用鞘管の組合せ部、41は内壁鋼板4がそのボルト36に接触しないための動き代としてのルーズホールである 。
【実施例6】
【0052】
図6は、本発明の第二の基本構成である構成6の全体形状を示すもので、図6(1)が本発明粘性制震壁の全体立面形状、図6(2)が縦断面図、図6(3)が妻面立面図である。
【0053】
図6(1)に示すとおり、外側立ち上がり壁の両端部の妻面の近傍において鉛直形状の粘性流体の液だまり部38を設けている。
【0054】
従来の粘性制震壁の平断面は、図7(1)に示すように単に外壁鋼板31の箱の中に内壁鋼板4を挿入しただけの構成であったため、内壁鋼板4が移動すると、前面側で押された粘性流体52の逃げ場がないため上部の液溜まり部分に盛り上がり、反対側の後方では内壁鋼板が移動した分だけの隙間ができるため、粘性流体に大きな窪みが発生し、内壁鋼板が復帰した場合に粘性流体の有効面積部51が減少したり、空気泡を巻き込む等の異常現象が発生する。
【0055】
本発明では、図6(1)に示すとおり、外壁鋼板31の両端部に粘性流体の液だまり部38が存在するため、内壁鋼板4の移動によって発生する粘性流体の盛り上がりおよび低下量が飛躍的に緩和され、内壁鋼板側面の粘性流体51のせん断層流による一定の抵抗力を安定的に発揮することを可能としたものである。
【0056】
図7および図8は、図6(1)における液だまり部38の構成方法を具体的に示したものである。
【実施例7】
【0057】
図7(2)は、構成7を実現する実施例7を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の外壁鋼板31の両端部付近に粘性流体の通過用孔39をあけ、その外側にL字型部材381を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【実施例8】
【0058】
図7(3)は、構成8を実現する実施例3を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の妻面鋼板32に粘性流体の通過用孔39をあけ、その外側にC字型部材382を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【実施例9】
【0059】
図8(1)は、構成9を実現する実施例9を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の両端部に角形鋼管383を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【0060】
実施例9は、両端部の液だまり部と粘性制震壁端部の妻面鋼板が角形鋼管383で一体化しており、組立時の溶接量も少なく、粘性流体の貯留部有効面積も確保しやすく、より合理的な構成となっている。
【実施例10】
【0061】
図8(2)は、構成9のバリエーションの実施例である。実施例9で設けた粘性制震壁の両端部の角形鋼管383を45°回転させて配置したものであり、こうすることにより、粘性制震壁底部において下側の梁部材もしくは連結部材と接合する高力ボルトの配置が容易になるという効果を有している。
【実施例11】
【0062】
図8(3)は、構成10を実現する実施例11を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の両端部に円形鋼管384を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【0063】
実施例11は、実施例9および10と同様に、両端部の液だまり部と粘性制震壁端部の妻面鋼板が円形鋼管384で一体化しており、組立時の溶接量も少なく、粘性流体の貯留部有効面積も確保しやすく、より合理的な構成となっている。
【0064】
また実施例11は、実施例10と同様に、粘性制震壁底部において下側の梁部材もしくは連結部材と接合する高力ボルトの配置が容易になるという効果も有している。
【実施例12】
【0065】
図9は、本発明の構成11を示す実施例で、図9(1)が粘性制震壁の全体立面形状、図9(2)がその縦断面図、図9(3)が水平断面の拡大図である。
【0066】
図9(1)および図9(3)に示すように、粘性制震壁の立ち上がり外壁面31の外側両側面に水平方向の水平管路351を取り付け、その両端を粘性制震壁の両端部の鉛直部材383の内部に構成した鉛直液だまり部38(粘性流体55)に連結したものである。
【0067】
内部鋼板4が水平に移動すると、内部鋼板4の前面側では粘性流体が鉛直液だまり部に押し出され、後面側では吸引されることになるが、その前後の鉛直液だまり部55が水平管路351(内部54)により連通されているので、内壁鋼板4の前面側で押し出された粘性体が粘性管路54を経由して後ろ側の鉛直液だまり部38(粘性流体55)に移動することにより、粘性流体が一定の液面高さで維持され、安定した粘性抵抗力を発揮できることになる。
【実施例13】
【0068】
構成12から構成16は、温度変化による抵抗力の変動率を低減し、合わせて装置全体の抵抗力を高めるために、粘性制震壁に摩擦抵抗力を付加する構成である。即ち、構成12〜構成16の粘性制震壁は、「粘性抵抗力Fv+摩擦抵抗力Fμ」の複合型減衰装置を実現したものであり、仮に粘性抵抗力Fvの温度による抵抗力が±50%あるとしても、例えば粘性抵抗力と同等の摩擦抵抗力Fμを付加すれば変動幅は±25%に半減することになり、装置全体の抵抗力を安定化することができる。
【0069】
図10は、構成12および構成13の実施例である。図10(1)および(2)に示すように、立ち上がり壁(=外壁鋼板)31の上端部付近を内壁鋼板(=垂下壁)4に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルト90を配置し、その高力ボルト90に軸力を導入することにより、上階と下階間の層間変位によって接触している立ち上がり壁31と垂下壁4との間にずれが発生すると両壁板間にすべり摩擦力を発生させるものである。
【0070】
図10(3)は、粘性制震壁上端部付近の拡大断面図であり、上段図は壁板を締め付ける軸力を導入している高力ボルト90の配置位置、中断図は構成13に示した垂下壁(内壁鋼板)4に摩擦沓動材7を組み込んでいる位置の断面図、下段図は図10(1)の上部付近の両端部に示す粘性流体が溢れた場合にそれを受け止める貯留部53の構成断面である。
【0071】
また図5(2)には、内壁鋼板4の上部付近以外に摩擦沓動材7を組み込んだ実施例を示しており、側面の外壁鋼板31の孕みだし防止に用いているボルト36を摩擦力用軸力導入に利用する構成を示している。
【実施例14】
【0072】
図11は、構成14の実施例である。粘性制震壁に摩擦抵抗力を付加する第二の方法として、垂下壁(内壁鋼板)4の上部付近に水平板43を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が立ち上がり壁(外壁鋼板)31に固定された水平板37を配置して水平板41を挟み、高力ボルト90を貫通させて軸力を導入することにより、上階と下階間の層間変位によって接触している水平板間にすべり摩擦力を発生させる。
【実施例15】
【0073】
図12は、摩擦力を発生させる摩擦ダンパー9の一方を上階の梁側に、他方を粘性制震壁の立ち上がり壁(=外壁鋼板)の上部付近に固定する構成15の方法を示している。図13はその摩擦ダンパー9の構成を示す拡大図であり、上階の梁側に固定された内部摩擦板81とそれを挟む外側摩擦板82、および軸力を導入する高力ボルト90を示している。また両摩擦板81と82の接触部には摩擦沓動材7を介在させている。
【実施例16】
【0074】
図14は同じく摩擦ダンパーを粘性制震壁の上部付近に取り付ける構成16の実施例である。図14の摩擦ダンパーは、摩擦板83がその取り付けピン92(回転中心ピン)を中心として回転できることに特徴がある。摩擦板83の上部には上階梁側に固定された連結部材81およびそのピン91(上部ピン)により上階の水平変位が摩擦板83に伝達され、摩擦板83は回転運動を起こしてその下方に取り付けられている摩擦沓動板7の部分ですべり摩擦抵抗力を発生する。
【0075】
回転中心ピン92と上部ピン91間の距離L1と回転中心ピン92と下方の摩擦沓動板7の中心までの距離L2の比率を変える(L1<L2)ことにより、摩擦沓動板7で発生する摩擦力Fを(L2/L1)倍に増幅することができ、ボルト90による導入軸力が小さくても大きな摩擦抵抗力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
2003年の十勝沖地震(Mw8.0)では石油タンクが炎上し、長周期地震動の脅威が明らかになった。その後日本建築学会と土木学会による共同研究により、長周期地震動に対する超高層ビルの耐震性能に問題があることが明らかになった。周期数秒の固有周期を持つ超高層ビルの耐震安全性を改善できる方法が建物の減衰性能を高める制震構造の採用である。
【0077】
超高層ビルを制震構造化するには、建物にエネルギー吸収性能を付与する減衰装置(ダンパー)を付加することであり、そのダンパーの中で最も単純で高性能、且つパワフルな減衰装置が粘性制震壁である。但し、コスト的には鋼材の履歴ダンパー等に較べて若干高く付くために、その採用は高付加価値の建物等に限定されているのが実状である。
【0078】
また15階建て以下の短周期の中低層構造物に対しては、免震構造が最も優れた安全性を提供でき、本発明の粘性制震壁は、免震構造物用の減衰装置としても優れた性能を提供できる。
【0079】
以上のとおり、本発明によりこの粘性制震壁の力学的課題が改善され、且つ更にパワフルな装置に進化したので、従来装置に較べて相対的にコストパフォーマンスがアップし、超高層ビルを中心とする長周期構造物および免震構造物の耐震性能改善に大きく貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 :柱
20:床スラブ
21:上階側の梁
22:下階側の梁
23:粘性制震壁の取り付け部材
31:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の側面鋼板
32:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の妻面鋼板
33:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の上部液溜まり部鋼板
330:粘性制震壁の上部液溜まり部の上面
34:立ち上がり壁(外壁鋼板)の側面鋼板31の端部に設けた孔
35:端部孔34を繋ぐ水平連通管路
351:水平連通管路
36:外壁鋼板を締め付けるボルトおよびスペーサー鞘管
37:立ち上がり壁(外壁鋼板)に固定された摩擦抵抗用水平板
38:制震壁両端部の鉛直液溜まり部
381:外壁鋼板31の外側に鉛直液溜まり部を構成するためのL型部材
382:立ち上がり壁妻面鋼板32の外側に鉛直液溜まり部を構成するC型部材
383:鉛直液溜まりを構成するための制震壁両端部の角形鋼管
384:鉛直液溜まりを構成するための制震壁両端部の円形鋼管
39:粘性流体の通過用の孔もしくはスリット
4 :粘性制震壁の垂下壁(内壁鋼板)
41:垂下壁(内壁鋼板)に設けたボルト36の可動用ルーズホール
42:垂下壁(内壁鋼板)前面および後面端部のテーパー形状
43:垂下壁(内壁鋼板)の上部付近に設けた摩擦抵抗用水平板
44:垂下壁(内壁鋼板)前面および後面端部の凹形状切り込み部
5 :粘性流体
51:抵抗壁板側面の粘性流体層流部
52:垂下壁板(内壁鋼板)前面および後面部の粘性流体
53:粘性制震壁上部の粘性流体貯留部
54:水平連通管路およびその内部の粘性流体
61:粘性流体貯留部上部のゴムパッキン
62:水平連通管路の粘性流体点検孔およびその栓ボルト
7 :摩擦ダンパー用摩擦沓動材
81:摩擦ダンパーの上部梁側取り付け部材
82:摩擦ダンパーの立ち上がり壁(外壁鋼板)側の取り付け部材
83:回転式摩擦ダンパーの回転板
9 :摩擦ダンパー
90:摩擦ダンパーの軸力導入用高力ボルト
91:回転式摩擦ダンパーの上部梁側ピン部材
92:回転式摩擦ダンパーの回転中心ピンボルト
93:取り付け用ボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動エネルギー吸収能力を高めて減衰性能の高い構造物とすることによって、構造物の耐震安全性を向上させると共に、風や交通振動、その他の動的外力によって発生する構造物の振動を効果的に抑制できる制震・制振構造物および免震構造物を実現する減衰装置の内、特に「粘性制震壁」に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物や工作物・塔状構造物など各種の構造物の耐震安全性を高め、また風その他の動的外力による構造物の振動を抑制して居住性能を改善するために、構造物にエネルギー吸収装置(以下、「減衰装置」と表現する場合もある)を取付け、構造物の減衰性能を高める方法が開発・実用化されている。これまでに実用化されている建築構造物用の代表的な減衰装置としては、鋼材や鉛の塑性変形を利用する金属履歴ダンパー、高減衰ゴムや粘弾性材料を利用する粘弾性ダンパー、オイルダンパーや壁形状箱の内部に粘性流体を封入した粘性減衰壁「粘性制震壁」などの粘性ダンパーなどがある。
【0003】
構造物の応答抑制という観点からは、速度に比例した抵抗力を発揮する粘性ダンパーが最も優れている。粘性ダンパーの内、シリンダー形状のオイルダンパーは、温度依存性が小さいという利点を有するが、作動時には高い内部圧力を発生するため内部流体の漏れの危険性があり、長期間に渡るシーリング(漏れ防止)性能に不安がある。
【0004】
粘性ダンパーの内、壁形状の粘性制震壁は、極めて単純な機構で構成されており、オイルダンパーのような高い内部圧力が発生しないのでメンテナンスフリーで長期耐久性に優れ、作動信頼性が高く、構造物に高い粘性減衰性能を付与できるので、阪神大震災以降、高層建物を中心にして採用事例が増加している。また粘性制震壁は、免震構造の減衰装置としても利用されている。
【0005】
粘性制震壁は特許第1577568号(特許文献1参照)で発明され、開発実用化された後、以下に示す部分的な改良(特許文献2〜5参照)等がなされて今日に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−1947号公報
【特許文献2】特開平11−071935号公報
【特許文献3】特開2000−220318号公報
【特許文献4】特開2001−132265号公報
【特許文献5】特開2007−009452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既知の従来技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0008】
粘性制震壁の第一課題は、粘性減衰壁の力学特性の安定化に関するものである。粘性制震壁は、粘性流体のせん断抵抗を基本原理にしており、外壁鋼板で構成されている粘性流体の貯留槽内を内壁鋼板が水平移動する。この時、内壁鋼板の前面は粘性流体を押しのけるため粘性流体が貯留部上部に盛り上がり抵抗力が上昇する。一方、内壁鋼板の後面では内壁鋼板の移動により生じた隙間を粘性流体が埋めようとするが、粘度が高いために粘性流体の流動が追いつかず、大きな窪みが生じ、その後内壁鋼板が戻って来る時に粘性流体が不足して有効面積が減少しているために抵抗力が低下したり、時には空気泡を巻き込み、これを内壁鋼板が押しつぶして大きな破裂音が生じる場合がある等、特に大振幅の振動が繰り返される場合の抵抗力の安定に改善すべき問題がある。
【0009】
第二課題は、同じく力学特性の課題であるが、粘性抵抗力の大きさは粘性流体の粘度に依存する。如何なる粘性流体であれその粘度は温度によって異なるため、粘性制震壁の発生抵抗力は温度の影響を受けざるを得ない。これを温度依存性と言うが、粘性制震壁は粘性流体の温度が高いと流体の粘度が低下して抵抗力が下がり、逆に温度の低い冬季には粘度が高くなり抵抗力が大きくなるという性質を有している。即ち、粘性制震壁の抵抗力を環境条件に対して安定化させるには、「温度依存性の解消」もしくは「温度変化に伴う抵抗力変動の緩和」、特に「高温時における抵抗力の低下を防止する方法」の実現が望まれる。
【0010】
第三の課題は、「経済性」である。粘性制震壁の長所の一つは、抵抗力の大きさを鋼板間の隙間、粘性流体の粘度および抵抗板壁板の面積によってかなり自由に調整できることにある。しかし、隙間と粘性流体の粘度の調整はかなり精密且つ微妙なものとなるため、性能調整を最も行い易いのは壁板の面積である。即ち、大きな抵抗力を得るためには大面積が必要であり、そのためには大きな壁体を製作するか、壁板を2重3重と多重構成にすれば良いが、いずれにしても装置費が高くならざるを得ない。この優れた減衰装置を広く普及させるためには、大抵抗力の粘性減衰壁を低コストで供給できることが求められる。
【0011】
第四の課題は、第一課題と第三課題の複合によって生じる課題である。即ち、第三課題の経済性を解決する方策として、粘性制震壁の鋼板間の隙間を狭くすると抵抗力を上昇させることができるが、隙間を狭くするとその部分の粘性流体の量が僅かになるため、内壁鋼板の移動に伴ってその前後に押し出されたり、引き込まれたりする粘性流体の影響を受ける範囲(面積)が大きくなり、性能変動を受ける影響がより大きくなるという性能の安定化の問題が顕著になる。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、構造物用の優れた減衰装置である粘性制震壁の性能を更に改善し、且つ低コストの装置に改良して経済的観点からも採用を容易にし、減衰性能の高い、耐震安全性能の高い建築構造物の普及に貢献できる粘性制震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部の妻面近傍に孔をあけ、前記外壁面の外側に前記孔を連結する水平連通管路を設けて、その内部にも粘性流体を充填していることを特徴とする粘性制震壁。
【0014】
〈構成2〉
構成1に記載の粘性制震壁において、前記外壁面外側の水平連通管路が上下方向に2段以上に渡って設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
【0015】
〈構成3〉
構成1又は2に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の最上端の外側に水平連通管路の粘性流体液溜まり部を設け、その上部に内側垂下壁の直近まで覆う上面蓋を配置し、前記上面蓋と前記内側垂下壁との隙間をゴムパッキン等の弾性体を密着させてシールしていることを特徴とする粘性制震壁。
【0016】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記水平連通管路の上面に内部の粘性流体を確認できる点検孔を設けていることを特徴とする粘性制震壁。
【0017】
〈構成5〉
構成1乃至4のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記垂下壁の端部妻面の鉛直形状を、前記立ち上がり壁両端部の孔部分で最も内側にし、前記孔の中間高さ位置で最も外側になるように傾斜させていること、もしくは前記垂下壁の端部において前記外壁の孔位置の高さ付近を凹形状に切り込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【0018】
〈構成6〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁もしくは連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ)よりも大きな幅を有する粘性流体の鉛直形状の液溜まり部を有していることを特徴とする粘性制震壁。
【0019】
〈構成7〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記外壁面の両端部付近に鉛直方向に複数の孔を設け、その両外側にL型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0020】
〈構成8〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり箱状壁体の端部妻面鋼板に鉛直方向に複数の孔もしくはスリットを設け、前記端部妻面鋼板の外側にC型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0021】
〈構成9〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の両端部に角形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0022】
〈構成10〉
構成6に記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の両端部に円形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【0023】
〈構成11〉
構成6乃至10のいずれかに記載の粘性制震壁において、前記立ち上がり外壁面の外側両側面に水平方向の水平連通管路を取り付け、その両端部を前記立ち上がり外壁面の両端部に配置した前記鉛直形状の液だまり部と連結していることを特徴とする粘性制震壁。
【0024】
〈構成12〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記立ち上がり壁板の一部を前記垂下壁に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記壁板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【0025】
〈構成13〉
構成12に記載の粘性制震壁において、接触部における前記立ち上がり壁、もしくは垂下壁の一部に摩擦沓動部材を組み込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【0026】
〈構成14〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記垂下壁の上部付近に水平板を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が前記立ち上がり壁に固定された水平板を設け、接触している両水平板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記水平板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【0027】
〈構成15〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、前記立ち上がり壁の上端部の外側に、相対面し接触する2枚以上の摩擦板を配置し、その平面内部もしくは外側近傍に高力ボルトを配置して軸力を導入しており、前記摩擦板の一方を上階の梁もしくは梁に一体化された接合部材に固定し、他方の摩擦板を前記粘性制震壁の立ち上がり壁の上部付近に固定した摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【0028】
〈構成16〉
構成15に記載の粘性制震壁において、前記摩擦ダンパーの構成を、前記粘性制震壁の立ち上がり壁側に固定された回転中心軸とその中心軸回りに回転できる回転摩擦板を有し、前記回転摩擦板の一端を上階梁側に連結し、他方を前記粘性制震壁に固定された摩擦平板と接触させ、両者の摩擦面近傍に高力ボルトを配置して両摩擦板を締め付けており、前記回転中心軸と前記上階梁側の連結点までの距離L1と前記回転中心軸と前記摩擦面の中心までの距離L2を任意に設定可能としている摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【0029】
〈構成17〉
構成1乃至16のいずれかに記載の粘性制震壁において、上階から垂下する壁を2枚以上、下階からの立ち上がり壁を3枚以上としていることを特徴とする粘性制震壁。
【発明の効果】
【0030】
本発明において、粘性制震壁の内壁鋼板の移動に伴う粘性流体の流動が安定化され、特に大振幅の振動時においても安定した粘性減衰抵抗とエネルギー吸収性能を提供できるようになった。
【0031】
また本発明は、粘性制震壁の内壁鋼板の移動に伴い、粘性制震壁の端部において内壁の移動する前面側では粘性流体が盛り上がり、後ろ側では粘性流体の窪みが生じる現象を大きく緩和するものである。
【0032】
例えば、従来の粘性制震壁では、内壁鋼板と外壁鋼板の隙間が2mm、粘性流体内の内壁鋼板の厚さが16mm、高さが2mの粘性制震壁の場合、地震時に内壁鋼板が5cm移動すると、内壁鋼板が押しのけようとする粘性流体は、1.6cmx200cmx5cm=1600ccとなる。従来の粘性制震壁の端部液溜まり部の外壁鋼板間の内側距離は16+2x2=20mmであるから、粘性制震壁両端部の液溜まり部の長さが10cm(内壁鋼板移動後の残り長さ=5cm)とすると、内壁鋼板の前面において粘性流体は1600/(2x5)=160cm分も盛り上がったり、後面では液面低下が生じることになり、粘性流体の溢れ出し、有効面積の低下、空気の巻き込み等が発生する。
【0033】
これに対して本発明の構成6乃至構成11では、粘性制震壁の両端部に幅15cmx長さ15cmの鉛直方向液だまり部を設けると、粘性流体の液面高さの変動は1600/(13.4x5+15x10)=7.4cmと従来型の1/20以下に抑制されることにな。この程度の液面変動高さは、粘性制震壁上端部に設けている液だまり部で充分吸収可能であり、溢れ出しや液面低下による有効面積の減少を防止することができる。従って、空気の巻き込み現象も回避することができる。
【0034】
更に本発明の構成1乃至構成5の方法では、内壁によって押し出される粘性流体が水平連通管路により内壁の後ろ側に回り込むことにより、液面上部の変動は殆ど生じない程度に液面が安定化されることになる。
【0035】
また、第3の解決策としての摩擦抵抗力との複合化により、温度変化に伴う性能変動の割合が低減され、装置の抵抗力自体もパワーアップされ、パワフルな装置に進化したので、従来装置に較べてコストパフォーマンスが飛躍的に増進する。
【0036】
近年、M8クラスの海洋性巨大地震による長周期地震動に対する超高層ビルの安全性が指摘されているが、本発明による粘性制震壁は、巨大地震の特徴である長い継続時間における多数回の繰り返し振動に対して安定した減衰性能を提供できるので、減衰装置並びに高減衰の制震構造物に対する信頼性と安全性が大きく高まったと言える。
【0037】
また粘性制震壁は、近年免震構造用の減衰装置としても利用されているが、免震構造では大きな振動振幅が必要となる。本発明の粘性制震壁は、大振幅の振動に対して安定した粘性減衰性能を提供できるので、免震構造にもこれまでにない優れた減衰装置としての効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明が対象とする粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、 (1)粘性制震壁の立面図、 (2)粘性制震壁の側面図である。
【図2】本発明の実施例1および実施例2を示す全体構成図で、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の妻面立面図である。
【図3】従来制震壁と本発明の構成1とを比較して示した図で、 (1)従来制震壁の水平断面の水平断面図、 (2)本発明の構成1の立ち上がり壁(外壁鋼板)に設ける孔および水平連通管路の水平断面図である。
【図4】本発明の実施例3および実施例4を示す構成図で、 (1)本発明の実施例3および実施例4の立面図、 (2)本発明の実施例3および実施例4の縦断面図、 (3)上段図:本発明の実施例3の部分拡大図、 (3)下段図:本発明の実施例4の部分拡大図である。
【図5】本発明の実施例5(構成5および構成12)を示す縦断面図で、 (1)本発明の実施例5(構成5)を示す部分拡大縦断面図、 (2)本発明の実施例5(構成5に構成12を組み合わせた場合)を示す部分拡大縦断面図である。
【図6】本発明の実施例6乃至実施例11の全体構成図を示し、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の妻面立面図である。
【図7】従来制震壁と本発明の実施例7(構成7)および実施例8(構成8)を示す図で、 (1)従来制震壁の水平断面図、 (2)本発明の実施例7(構成7)の水平断面図、 (3)本発明の実施例8(構成8)の水平断面図の水平断面図である。
【図8】本発明の実施例9(構成9)乃至実施例11(構成10)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例9(構成9)の水平断面図、 (2)本発明の実施例10(構成9)の水平断面図、 (3)本発明の実施例11(構成10)の水平断面図の水平断面図である。
【図9】本発明の実施例12(構成11)を示し、 (1)本発明の粘性制震壁の立面図、 (2)本発明の粘性制震壁の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の水平断面図の拡大図である。
【図10】本発明の実施例13(構成12および構成13)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例13(構成12および構成13)の立面図、 (2)本発明の実施例13(構成12および構成13)の縦断面図、 (3)上段図:本発明の実施例13(構成12)の上部断面の部分拡大図、 (3)中段図:本発明の実施例13(構成13)の上部断面の部分拡大図、 (3)下段図:本発明の実施例13の上部端部の部分拡大断面図である。
【図11】本発明の実施例14(構成14)を示す構成図で、 (1)本発明の実施例14の立面図、 (2)本発明の実施例14の縦断面図である。
【図12】本発明の実施例15(構成15)の全体構成を示す立面図である。
【図13】本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの構成を示す構成図で、 (1)本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの部分立面図、 (2)本発明の実施例15(構成15)の摩擦ダンパーの部分断面図である。
【図14】本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成を示す図で、 (1)本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成図、 (2)本発明の実施例16(構成16)の回転式摩擦ダンパーの構成図(L1<L2とした場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は本発明が対象とする粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、(1)は粘性制震壁の立面図、(2)は粘性制震壁の側面図である。
【0040】
粘性制震壁は、建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、図1に示すように、柱1、梁21、22で構成される建物骨組みの上下階の床スラブ20または梁21、22に直接もしくは接合部材23を介して取り付けられている。下階の床スラブ20または梁22もしくは取り付け部材23の上に壁板(外壁鋼板)31を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱(箱状壁体)を構成している。その中に上階の床スラブ20または梁21に固定された内壁鋼板(垂下壁板)4が垂下しており、立ち上がり壁板31と垂下壁板4の隙間に粘性流体5が充填されている。
【0041】
本発明は、この粘性制震壁を対象としたものであり、以下、本発明の実施の形態を実施例を示す図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0042】
図2および図3(2)は、構成1および構成2を示すもので、図2(1)が本発明の粘性制震壁の全体立面形状、図2(2)が縦断面図、図2(3)が妻面立面図、図3(2)が本発明の構成1の立ち上がり壁(外壁鋼板)に設けた孔34および水平連通管路35を示す水平断面図である。
【0043】
図2(1)に示すとおり、外側立ち上がり壁31の両端部の妻面の近傍に孔34をあけ、その両端の孔34を連結する水平連通管路35を設けて、その内部にも粘性流体5を充填している。その孔34のある高さの水平断面を、図3(2)に示している。
【0044】
従来の粘性制震壁の平断面は、図3(1)に示すように単に外壁鋼板31の箱の中に内壁鋼板4を挿入しただけの構成であったため、内壁鋼板4が移動すると、前面側で押された粘性流体52の逃げ場がないため上部の液溜まり部分に盛り上がり、反対側の後方では内壁鋼板がいなくなった分だけの隙間ができるため、粘性流体に大きな窪みが発生し、内壁鋼板4が帰って来る場合に粘性流体の有効面積部51が減少したり、空気泡を巻き込む等の異常現象が発生する。
【0045】
本発明では、図3(2)に示すとおり、外壁鋼板31の両端部に孔34を設け、その外側に水平連通管路35を配置した。従って、内壁鋼板4の移動によって押された粘性流体52は孔34を通って水平連通管路35内に入り、その内部の粘性流体54が後方の孔34を経て内壁鋼板4の後ろ側に回り込むことができるので、粘性流体の盛り上がりや窪みを生じることがなく、内壁鋼板側面の粘性流体51のせん断層流による一定の抵抗力を安定的に発揮することが可能となった。
【実施例2】
【0046】
孔34およびそれを繋ぐ水平連通管路35は、図2(1)に示すように、上下方向3段に設けられている。粘性制震壁の高さに応じて、水平連通管路35を2段以上に設け、粘性制震壁全高さに渡って粘性体の移動がスムースに行われるようにしたのが本発明の構成2である。
【実施例3】
【0047】
図4は構成3および構成4の実施例を示す構成図で、図4(1)が立面図、図4(2)が縦断面図、図4(3)の上段図が図4(2)の上側の丸で囲った部分の拡大図、図4(3)の下段図が図4(2)の下側の丸で囲った部分の拡大図である。
【0048】
粘性制震壁の最上部は、従来は上方が解放された液溜まりであったが、図4(3)の上段図に示すように、液溜まり部外壁鋼板33の上端に水平板による上面蓋330を取り付け、その先端と内壁鋼板の間にゴムパッキン61を噛ませてシールしている。これにより、最上部における液の盛り上がりがあった場合にも液の溢れ出しを防止し、且つ工事中における雨水の浸入防止機能も兼備している。
【実施例4】
【0049】
図4(3)の下段図は、水平連通管路35に粘性流体54が確実に充填されていることを確認するための点検孔62の設置図である。水平連通管路35の上面にネジを設け、ボルトにより漏洩防止機能を有する点検孔62を構成している。
【実施例5】
【0050】
図5(1)は、構成5の実施例である。構成1および構成2で設けた水平連通管路35に粘性流体が確実且つ容易に流入するために、内壁鋼板4の端部妻面の鉛直形状を、立ち上がり壁両端部に設けた孔34部分で最も内側(立面中央寄り)に、上下の孔34の中間高さ位置で最も外側(立面妻側寄り)になるように傾斜させている。これにより、内壁鋼板4が移動し粘性流体52を推した時に、粘性流体が孔34の方向に自然に推し集められる形状としている。
【0051】
図5(2)は、立ち上がり壁両端部にも設けた孔34に粘性流体が流入しやすいように、内壁鋼板の孔34の高さ位置に凹形状の切り込み44を設け、内壁鋼板4が移動した場合にも孔34部を内壁鋼板4で塞がないようにした場合である。
尚、同図の36は、外壁鋼板の面外方向への開きを拘束するためのボルトとスペーサー用鞘管の組合せ部、41は内壁鋼板4がそのボルト36に接触しないための動き代としてのルーズホールである 。
【実施例6】
【0052】
図6は、本発明の第二の基本構成である構成6の全体形状を示すもので、図6(1)が本発明粘性制震壁の全体立面形状、図6(2)が縦断面図、図6(3)が妻面立面図である。
【0053】
図6(1)に示すとおり、外側立ち上がり壁の両端部の妻面の近傍において鉛直形状の粘性流体の液だまり部38を設けている。
【0054】
従来の粘性制震壁の平断面は、図7(1)に示すように単に外壁鋼板31の箱の中に内壁鋼板4を挿入しただけの構成であったため、内壁鋼板4が移動すると、前面側で押された粘性流体52の逃げ場がないため上部の液溜まり部分に盛り上がり、反対側の後方では内壁鋼板が移動した分だけの隙間ができるため、粘性流体に大きな窪みが発生し、内壁鋼板が復帰した場合に粘性流体の有効面積部51が減少したり、空気泡を巻き込む等の異常現象が発生する。
【0055】
本発明では、図6(1)に示すとおり、外壁鋼板31の両端部に粘性流体の液だまり部38が存在するため、内壁鋼板4の移動によって発生する粘性流体の盛り上がりおよび低下量が飛躍的に緩和され、内壁鋼板側面の粘性流体51のせん断層流による一定の抵抗力を安定的に発揮することを可能としたものである。
【0056】
図7および図8は、図6(1)における液だまり部38の構成方法を具体的に示したものである。
【実施例7】
【0057】
図7(2)は、構成7を実現する実施例7を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の外壁鋼板31の両端部付近に粘性流体の通過用孔39をあけ、その外側にL字型部材381を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【実施例8】
【0058】
図7(3)は、構成8を実現する実施例3を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の妻面鋼板32に粘性流体の通過用孔39をあけ、その外側にC字型部材382を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【実施例9】
【0059】
図8(1)は、構成9を実現する実施例9を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の両端部に角形鋼管383を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【0060】
実施例9は、両端部の液だまり部と粘性制震壁端部の妻面鋼板が角形鋼管383で一体化しており、組立時の溶接量も少なく、粘性流体の貯留部有効面積も確保しやすく、より合理的な構成となっている。
【実施例10】
【0061】
図8(2)は、構成9のバリエーションの実施例である。実施例9で設けた粘性制震壁の両端部の角形鋼管383を45°回転させて配置したものであり、こうすることにより、粘性制震壁底部において下側の梁部材もしくは連結部材と接合する高力ボルトの配置が容易になるという効果を有している。
【実施例11】
【0062】
図8(3)は、構成10を実現する実施例11を示す粘性制震壁の平断面図である。粘性制震壁の両端部に円形鋼管384を配置して、粘性流体の液だまり部38(液だまり部の粘性流体55)を構成している。
【0063】
実施例11は、実施例9および10と同様に、両端部の液だまり部と粘性制震壁端部の妻面鋼板が円形鋼管384で一体化しており、組立時の溶接量も少なく、粘性流体の貯留部有効面積も確保しやすく、より合理的な構成となっている。
【0064】
また実施例11は、実施例10と同様に、粘性制震壁底部において下側の梁部材もしくは連結部材と接合する高力ボルトの配置が容易になるという効果も有している。
【実施例12】
【0065】
図9は、本発明の構成11を示す実施例で、図9(1)が粘性制震壁の全体立面形状、図9(2)がその縦断面図、図9(3)が水平断面の拡大図である。
【0066】
図9(1)および図9(3)に示すように、粘性制震壁の立ち上がり外壁面31の外側両側面に水平方向の水平管路351を取り付け、その両端を粘性制震壁の両端部の鉛直部材383の内部に構成した鉛直液だまり部38(粘性流体55)に連結したものである。
【0067】
内部鋼板4が水平に移動すると、内部鋼板4の前面側では粘性流体が鉛直液だまり部に押し出され、後面側では吸引されることになるが、その前後の鉛直液だまり部55が水平管路351(内部54)により連通されているので、内壁鋼板4の前面側で押し出された粘性体が粘性管路54を経由して後ろ側の鉛直液だまり部38(粘性流体55)に移動することにより、粘性流体が一定の液面高さで維持され、安定した粘性抵抗力を発揮できることになる。
【実施例13】
【0068】
構成12から構成16は、温度変化による抵抗力の変動率を低減し、合わせて装置全体の抵抗力を高めるために、粘性制震壁に摩擦抵抗力を付加する構成である。即ち、構成12〜構成16の粘性制震壁は、「粘性抵抗力Fv+摩擦抵抗力Fμ」の複合型減衰装置を実現したものであり、仮に粘性抵抗力Fvの温度による抵抗力が±50%あるとしても、例えば粘性抵抗力と同等の摩擦抵抗力Fμを付加すれば変動幅は±25%に半減することになり、装置全体の抵抗力を安定化することができる。
【0069】
図10は、構成12および構成13の実施例である。図10(1)および(2)に示すように、立ち上がり壁(=外壁鋼板)31の上端部付近を内壁鋼板(=垂下壁)4に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルト90を配置し、その高力ボルト90に軸力を導入することにより、上階と下階間の層間変位によって接触している立ち上がり壁31と垂下壁4との間にずれが発生すると両壁板間にすべり摩擦力を発生させるものである。
【0070】
図10(3)は、粘性制震壁上端部付近の拡大断面図であり、上段図は壁板を締め付ける軸力を導入している高力ボルト90の配置位置、中断図は構成13に示した垂下壁(内壁鋼板)4に摩擦沓動材7を組み込んでいる位置の断面図、下段図は図10(1)の上部付近の両端部に示す粘性流体が溢れた場合にそれを受け止める貯留部53の構成断面である。
【0071】
また図5(2)には、内壁鋼板4の上部付近以外に摩擦沓動材7を組み込んだ実施例を示しており、側面の外壁鋼板31の孕みだし防止に用いているボルト36を摩擦力用軸力導入に利用する構成を示している。
【実施例14】
【0072】
図11は、構成14の実施例である。粘性制震壁に摩擦抵抗力を付加する第二の方法として、垂下壁(内壁鋼板)4の上部付近に水平板43を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が立ち上がり壁(外壁鋼板)31に固定された水平板37を配置して水平板41を挟み、高力ボルト90を貫通させて軸力を導入することにより、上階と下階間の層間変位によって接触している水平板間にすべり摩擦力を発生させる。
【実施例15】
【0073】
図12は、摩擦力を発生させる摩擦ダンパー9の一方を上階の梁側に、他方を粘性制震壁の立ち上がり壁(=外壁鋼板)の上部付近に固定する構成15の方法を示している。図13はその摩擦ダンパー9の構成を示す拡大図であり、上階の梁側に固定された内部摩擦板81とそれを挟む外側摩擦板82、および軸力を導入する高力ボルト90を示している。また両摩擦板81と82の接触部には摩擦沓動材7を介在させている。
【実施例16】
【0074】
図14は同じく摩擦ダンパーを粘性制震壁の上部付近に取り付ける構成16の実施例である。図14の摩擦ダンパーは、摩擦板83がその取り付けピン92(回転中心ピン)を中心として回転できることに特徴がある。摩擦板83の上部には上階梁側に固定された連結部材81およびそのピン91(上部ピン)により上階の水平変位が摩擦板83に伝達され、摩擦板83は回転運動を起こしてその下方に取り付けられている摩擦沓動板7の部分ですべり摩擦抵抗力を発生する。
【0075】
回転中心ピン92と上部ピン91間の距離L1と回転中心ピン92と下方の摩擦沓動板7の中心までの距離L2の比率を変える(L1<L2)ことにより、摩擦沓動板7で発生する摩擦力Fを(L2/L1)倍に増幅することができ、ボルト90による導入軸力が小さくても大きな摩擦抵抗力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
2003年の十勝沖地震(Mw8.0)では石油タンクが炎上し、長周期地震動の脅威が明らかになった。その後日本建築学会と土木学会による共同研究により、長周期地震動に対する超高層ビルの耐震性能に問題があることが明らかになった。周期数秒の固有周期を持つ超高層ビルの耐震安全性を改善できる方法が建物の減衰性能を高める制震構造の採用である。
【0077】
超高層ビルを制震構造化するには、建物にエネルギー吸収性能を付与する減衰装置(ダンパー)を付加することであり、そのダンパーの中で最も単純で高性能、且つパワフルな減衰装置が粘性制震壁である。但し、コスト的には鋼材の履歴ダンパー等に較べて若干高く付くために、その採用は高付加価値の建物等に限定されているのが実状である。
【0078】
また15階建て以下の短周期の中低層構造物に対しては、免震構造が最も優れた安全性を提供でき、本発明の粘性制震壁は、免震構造物用の減衰装置としても優れた性能を提供できる。
【0079】
以上のとおり、本発明によりこの粘性制震壁の力学的課題が改善され、且つ更にパワフルな装置に進化したので、従来装置に較べて相対的にコストパフォーマンスがアップし、超高層ビルを中心とする長周期構造物および免震構造物の耐震性能改善に大きく貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 :柱
20:床スラブ
21:上階側の梁
22:下階側の梁
23:粘性制震壁の取り付け部材
31:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の側面鋼板
32:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の妻面鋼板
33:粘性制震壁の立ち上がり壁(外壁鋼板)の上部液溜まり部鋼板
330:粘性制震壁の上部液溜まり部の上面
34:立ち上がり壁(外壁鋼板)の側面鋼板31の端部に設けた孔
35:端部孔34を繋ぐ水平連通管路
351:水平連通管路
36:外壁鋼板を締め付けるボルトおよびスペーサー鞘管
37:立ち上がり壁(外壁鋼板)に固定された摩擦抵抗用水平板
38:制震壁両端部の鉛直液溜まり部
381:外壁鋼板31の外側に鉛直液溜まり部を構成するためのL型部材
382:立ち上がり壁妻面鋼板32の外側に鉛直液溜まり部を構成するC型部材
383:鉛直液溜まりを構成するための制震壁両端部の角形鋼管
384:鉛直液溜まりを構成するための制震壁両端部の円形鋼管
39:粘性流体の通過用の孔もしくはスリット
4 :粘性制震壁の垂下壁(内壁鋼板)
41:垂下壁(内壁鋼板)に設けたボルト36の可動用ルーズホール
42:垂下壁(内壁鋼板)前面および後面端部のテーパー形状
43:垂下壁(内壁鋼板)の上部付近に設けた摩擦抵抗用水平板
44:垂下壁(内壁鋼板)前面および後面端部の凹形状切り込み部
5 :粘性流体
51:抵抗壁板側面の粘性流体層流部
52:垂下壁板(内壁鋼板)前面および後面部の粘性流体
53:粘性制震壁上部の粘性流体貯留部
54:水平連通管路およびその内部の粘性流体
61:粘性流体貯留部上部のゴムパッキン
62:水平連通管路の粘性流体点検孔およびその栓ボルト
7 :摩擦ダンパー用摩擦沓動材
81:摩擦ダンパーの上部梁側取り付け部材
82:摩擦ダンパーの立ち上がり壁(外壁鋼板)側の取り付け部材
83:回転式摩擦ダンパーの回転板
9 :摩擦ダンパー
90:摩擦ダンパーの軸力導入用高力ボルト
91:回転式摩擦ダンパーの上部梁側ピン部材
92:回転式摩擦ダンパーの回転中心ピンボルト
93:取り付け用ボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部の妻面近傍に孔をあけ、前記外壁面の外側に前記孔を連結する水平連通管路を設けて、その内部にも粘性流体を充填していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項2】
請求項1に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面外側の水平連通管路が上下方向に2段以上に渡って設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の最上端の外側に水平連通管路の粘性流体液溜まり部を設け、その上部に内側垂下壁の直近まで覆う上面蓋を配置し、前記上面蓋と前記内側垂下壁との隙間をゴムパッキン等の弾性体を密着させてシールしていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記水平連通管路の上面に内部の粘性流体を確認できる点検孔を設けていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記垂下壁の端部妻面の鉛直形状を、前記立ち上がり壁両端部の孔部分で最も内側にし、前記孔の中間高さ位置で最も外側になるように傾斜させていること、もしくは前記垂下壁の端部において前記外壁の孔位置の高さ付近を凹形状に切り込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項6】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁もしくは連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ)よりも大きな幅を有する粘性流体の鉛直形状の液溜まり部を有していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項7】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面の両端部付近に鉛直方向に複数の孔を設け、その両外側にL型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項8】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり箱状壁体の端部妻面鋼板に鉛直方向に複数の孔もしくはスリットを設け、
前記端部妻面鋼板の外側にC型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項9】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の両端部に角形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項10】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の両端部に円形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の外側両側面に水平方向の水平連通管路を取り付け、
その両端部を前記立ち上がり外壁面の両端部に配置した前記鉛直形状の液だまり部と連結していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項12】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記立ち上がり壁板の一部を前記垂下壁に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記壁板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項13】
請求項12に記載の粘性制震壁において、
接触部における前記立ち上がり壁、もしくは垂下壁の一部に摩擦沓動部材を組み込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項14】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記垂下壁の上部付近に水平板を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が前記立ち上がり壁に固定された水平板を設け、接触している両水平板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記水平板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項15】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記立ち上がり壁の上端部の外側に、相対面し接触する2枚以上の摩擦板を配置し、その平面内部もしくは外側近傍に高力ボルトを配置して軸力を導入しており、前記摩擦板の一方を上階の梁もしくは梁に一体化された接合部材に固定し、他方の摩擦板を前記粘性制震壁の立ち上がり壁の上部付近に固定した摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項16】
請求項15に記載の粘性制震壁において、
前記摩擦ダンパーの構成を、前記粘性制震壁の立ち上がり壁側に固定された回転中心軸とその中心軸回りに回転できる回転摩擦板を有し、前記回転摩擦板の一端を上階梁側に連結し、他方を前記粘性制震壁に固定された摩擦平板と接触させ、両者の摩擦面近傍に高力ボルトを配置して両摩擦板を締め付けており、
前記回転中心軸と前記上階梁側の連結点までの距離L1と前記回転中心軸と前記摩擦面の中心までの距離L2を任意に設定可能としている摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれかに記載の粘性制震壁において、
上階から垂下する壁を2枚以上、下階からの立ち上がり壁を3枚以上としていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項1】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部の妻面近傍に孔をあけ、前記外壁面の外側に前記孔を連結する水平連通管路を設けて、その内部にも粘性流体を充填していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項2】
請求項1に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面外側の水平連通管路が上下方向に2段以上に渡って設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の最上端の外側に水平連通管路の粘性流体液溜まり部を設け、その上部に内側垂下壁の直近まで覆う上面蓋を配置し、前記上面蓋と前記内側垂下壁との隙間をゴムパッキン等の弾性体を密着させてシールしていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記水平連通管路の上面に内部の粘性流体を確認できる点検孔を設けていることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記垂下壁の端部妻面の鉛直形状を、前記立ち上がり壁両端部の孔部分で最も内側にし、前記孔の中間高さ位置で最も外側になるように傾斜させていること、もしくは前記垂下壁の端部において前記外壁の孔位置の高さ付近を凹形状に切り込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項6】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁もしくは連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する立ち上がり壁の両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ)よりも大きな幅を有する粘性流体の鉛直形状の液溜まり部を有していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項7】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面の両端部付近に鉛直方向に複数の孔を設け、その両外側にL型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項8】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり箱状壁体の端部妻面鋼板に鉛直方向に複数の孔もしくはスリットを設け、
前記端部妻面鋼板の外側にC型部材を配置して前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項9】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の両端部に角形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項10】
請求項6に記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の両端部に円形鋼管を鉛直方向に配置して、前記鉛直形状の液だまり部を構成していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり外壁面の外側両側面に水平方向の水平連通管路を取り付け、
その両端部を前記立ち上がり外壁面の両端部に配置した前記鉛直形状の液だまり部と連結していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項12】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記立ち上がり壁板の一部を前記垂下壁に隙間なく接触させ、且つ接触部の両壁板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記壁板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項13】
請求項12に記載の粘性制震壁において、
接触部における前記立ち上がり壁、もしくは垂下壁の一部に摩擦沓動部材を組み込んでいることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項14】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記垂下壁の上部付近に水平板を取り付け、その水平板に接触し且つ一旦が前記立ち上がり壁に固定された水平板を設け、接触している両水平板を貫通する高力ボルトを配置し、前記高力ボルトに軸力を導入しており、前記建築物の上階と下階間の相対変位によって接触している前記水平板間に摩擦力を発生せしめることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項15】
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
下階の床スラブまたは梁に固定された複数枚の壁板を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱状壁体を構成し、上階の床スラブまたは梁に固定された1枚以上の垂下壁板を前記箱状壁体の中に挿入し、立ち上がり壁板と垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
前記立ち上がり壁の上端部の外側に、相対面し接触する2枚以上の摩擦板を配置し、その平面内部もしくは外側近傍に高力ボルトを配置して軸力を導入しており、前記摩擦板の一方を上階の梁もしくは梁に一体化された接合部材に固定し、他方の摩擦板を前記粘性制震壁の立ち上がり壁の上部付近に固定した摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項16】
請求項15に記載の粘性制震壁において、
前記摩擦ダンパーの構成を、前記粘性制震壁の立ち上がり壁側に固定された回転中心軸とその中心軸回りに回転できる回転摩擦板を有し、前記回転摩擦板の一端を上階梁側に連結し、他方を前記粘性制震壁に固定された摩擦平板と接触させ、両者の摩擦面近傍に高力ボルトを配置して両摩擦板を締め付けており、
前記回転中心軸と前記上階梁側の連結点までの距離L1と前記回転中心軸と前記摩擦面の中心までの距離L2を任意に設定可能としている摩擦ダンパーを複合していることを特徴とする粘性制震壁。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれかに記載の粘性制震壁において、
上階から垂下する壁を2枚以上、下階からの立ち上がり壁を3枚以上としていることを特徴とする粘性制震壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−255302(P2010−255302A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106766(P2009−106766)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【特許番号】特許第4431187号(P4431187)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(596129352)株式会社ダイナミックデザイン (14)
【出願人】(596129363)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【特許番号】特許第4431187号(P4431187)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(596129352)株式会社ダイナミックデザイン (14)
【出願人】(596129363)
【Fターム(参考)】
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